雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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お待たせ。
長かった月島さん篇最終話、エンディング(エピローグ)的な話です

 


全部…雛森さんが居たからじゃないか…!

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それから先の事を語るのは無粋であろう。

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)の闇の深淵。中央四十六室の議事録にすら描かれなかった忌むべき真相の犠牲者、銀城空吾は、同じ闇を垣間見た次代の死神代行、黒崎一護によって討ち取られた。

 運命を捻じ曲げられた哀れな善人。戻れぬ復讐の道を只管に進んだ彼が最期に見せた無垢な微笑みは、あるいは待ち望んだ理解者の手で道を鎖される事に救いを見出していたからなのかもしれない。

 

 完現術(フルブリング)がこの世に齎すあらゆる影響は所有者の死と共に消滅する。銀城に貰った能力が体から抜け落ちる喪失感に気付いた瀕死のXCUTIONの同胞達は、辛うじて開けていた瞼から、最後の力を抜いた。一様に意識を手放し目を閉じる彼等の様は、弱者の自分達を引き上げてくれた偉大な指導者へ黙祷を捧げる、"真の仲間"の姿そのものであった。

 

 そしてただ一人残された相棒の青年──月島秀九郎(つきしましゅうくろう)も、救い無きこの世界に別れを告げようとしていた。

 

「……銀…城……」

 

 未練に満ちた虚しい声。覚悟などいざとなっては容易に崩れる。日番谷冬獅郎の氷に磔にされた月島は、分かりきっていた結末を見届け、友の死に涙を流した。

 

 彼に力の使い方を教わった。敵との戦い方を教わった。

 出会う前は互いに一人。だけどこれから俺達は"二人"だと、幼い僕の頭を撫でてくれた。

 

 だけど彼は良いリーダーじゃなかった。大勢の同胞達を誑かしておきながら、目指したのは半ば約束された破滅の未来。その途中で自分が死んだ後、僕がどうすればいいのかを教えてくれなかった。

 

 …また、昔のように頭を撫でてくれるって約束も、叶えてくれなかった。

 

 

「───お、戻って来れたみてえだな」

 

 

 ふと、月島は周囲に幾つもの大きな気配を感じる。

 

「ゲホッ、ちく…しょう…ッ! こっからだってのにもう終わりか…」

 

「くたばり損ない共は早う織姫ちゃんトコ行っとき。死んでへんかったら生き返らせて貰えるで」

 

「恋次、ルキアを連れて下がれ」

 

「ハァ……ハァ……ッ、は…い…」

 

 霊圧を漲らせる者。掻き消えそうな風前の灯の者。程度に差はあれその数は七つ。

 銀城の死と共に月島の進化した能力が消失し、【本】に閉じ込めた死神達がこの現実世界に解き放たれたのだ。

 

 

「……てめえ等の負けだ、月島」

 

 

 目の前で鋭利な鈍色が輝く。それを突き付けるのは、想い人の過去を冒涜され憤怒と決意の力で立ち上がった日番谷冬獅郎。

 

「てめえの能力は危険すぎる。尸魂界(ソウルソサエティ)に恨みを持つ者なら猶更な」

 

「…だから僕を殺すのかい?」

 

「そうだ」

 

 斬魄刀の刃が月島の首筋に触れる。

 結構。最早僕に残された望みは自らの死、価値無きこの世から去る事だけだ。

 

「いいや…君は尸魂界(ソウルソサエティ)ではなく…黒崎一護の為に僕を殺すんだ。そしてその大義も…君の憎悪を隠す…上面の言葉に過ぎない…」

 

「……」

 

「それに忘れて貰っちゃ…困るな。この僕が、君の可愛い幼馴染にとって…どれほど大切な存在なのかをね…」

 

「! てめえ…ッ」

 

 自然と口が回るのは敗者なりの意趣返しか。心身共に死の淵にありながら、月島は冷気に罅割れる唇を薄く曲げる。

 

 …実の所、彼が冬獅郎へ語った「雛森桃と過ごした過去」は只の推察。真相はぐちゃぐちゃに混濁した記憶の彼方へ消えている。

 

 そう。他の死神共とは異なり、月島は日番谷冬獅郎の過去に何一つとして手を加えていない。尤もその理由を教えてやるつもりはないが。

 

「答えろ月島…! どうすれば雛森は元に戻る!?」

 

 少し揶揄うと途端に牙を剥く少年。末恐ろしい天才児ながら直ぐカッとなる性は相も変わらない。

 

 …ならば、介錯は彼に頼むとしよう。

 

「"元に戻る"だって? 何を言うんだ、あの娘は最初から僕が拾って育てた──()()()()()()()()()

 

 

「ッ、ふざけるなァッ!!」

 

 

 激昂する冬獅郎。囲む隊長格達の中に彼を止める者はいない。

 

 さあ死神共、その大層な名の通りとっとと僕を殺してくれ。この世界にはもう、僕が生きる意味がないんだ。

 

 斯くて月島秀九郎は、少年の絶対零度の刃が齎す運命を空虚な微笑で受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …だが。敵の一人が抱える意識なき同胞、朽木(くちき)ルキアの胸元から、不意に光が零れる。

 

 そしてその直後。

 

 

 

「────がふっ…ぁ…」

 

 

 

 はらりと舞い散るマゼンタの髪。女死神の魄内から突然飛び出し、冬獅郎の剣から月島を守ったその人影は、彼の見知った少女だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「リル、カ…?」

 

 

 ポツリと呟いた月島は、目の前で起きた出来事が全く理解できなかった。

 

 ブラウスの肩を真っ赤に染めるその少女の名は毒ヶ峰(どくがみね)リルカ。未知の現象に騒めく死神達と異なり、月島はそれが彼女の収納系完現術(フルブリング)の切り札だと察する。

 だが彼の疑問はそんな事ではない。

 

「なんで…」

 

 何故、朽木ルキアを倒して雲隠れした君がここで出てくる。何故、他の連中のように僕の能力を恐れていた君が、その僕を守る。一護を騙して力を強奪する銀城の計画に反対していた君が今更何を。

 

 

「……"なんで"じゃないわよ…ッ」

 

 

 月島の問いに、血で湿った声が返される。

 

「いっつも…"銀城"、"銀城"ばっかりで……周りを見ようとさえしない…どうしようもないバカなんだから…っ」

 

「お前、何を…」

 

 困惑する青年をリルカが睨む。

 

「ええ、そうよ…今でも怖いし嫌いよ、あんたのコト…!」

 

 デカいし辛気臭いし服ダサいし何考えてるかわかんないし。嘔くように捲し立てる深手の少女。

 

「でもそんな事……顔とか性格とか、好きとか嫌いとか…そんなのどうだっていいのよ…!」

 

 そして震える両手で、乱暴に、リルカが月島の胸倉を掴み上げた。

 

「…"なんで"じゃないのよ…ッ!」

 

 

 

──"仲間"が"仲間"を守るのに  

  何の理由が要るってのよ!?

 

 

 

 それは咆哮と変わらない悲鳴だった。暴力と変わらない悲憤だった。

 

「お前…」

 

 呆ける月島はぼんやりと想起する。

 

 この女、毒ヶ峰リルカは自分にとって無価値な存在だった。銀城が拾ってきた完現術師(フルブリンガー)。我儘で、怒りっぽくて、いつも何かに文句を垂れている喧しい少女。個性的な人物ながらその個性をただの記号としか捉えていなかった、有象無象と同じ人形だった。

 

 それは銀城が放つ鮮やかな道標の光とは比較にもならない、淡い色。しかし爆発した少女の積年の不満に真正面からぶん殴られた月島は、モノクロの景色に新たな彩を見る。

 

 怒りと悲しみに歪んだ毒ヶ峰リルカの瞳。そこには確かな温もりが、生命の鼓動が脈打っていた。

 

「……そうか」

 

 青年は意識を胸の内に向ける。搔き混ぜられ、切り刻まれ、ボロボロになった【月島秀九郎】の自我と記憶。その中で無事に残されていたXCUTIONのメンバーとの思い出。

 

 やっぱ月島さんは最強なんすよ、と。崇拝の眼差しで付き纏ってくる少年がいた。

 

 どうしたら月島さんみたいに背が高くなるのかな、と。大人を羨む子供がいた。

 

 酸味の効いた自作カクテルです、と。疲れを見抜き気を利かせてくれる初老の男がいた。

 

 あんたの話を聞かせてくれよ、と。怯えながらも歩み寄ろうとする異国人の女がいた。

 

 そして、目の前の少女の声が頭を過る。

 

 

『あたしが"仲間を信じろ"って言ったのは、何も月島に対してだけじゃないの!』

 

 

 …ああ、そうか。そうだったのか。

 

 いつもの事だと諦めて、僕が気付こうとしなかっただけで。彼等は僕の能力に怯えながらも、最初から僕を仲間だと受け入れようとしてくれていたんだ。

 

 

 

 

 

「───殺しなよ、死神諸君」

 

 

 ゆっくりと、満足げに。冷気に蝕まれる月島は自らの首を冬獅郎達へ差し出す。

 リルカの悲鳴は青年の耳に届かない。

 

「僕が死ねば…君達に挟んだ過去は消滅する」

 

「…!」

 

「本物の絆を持ってる君達が、自分の手で…偽物の絆を断ち切る。それができるのは…今しかない」

 

 月島秀九郎は狂人である。善悪も良心の軛もなく、何事にも動じず、ただ俯瞰的に人の心を己の目的に沿うよう操る精神の化物。

 

 しかし。

 彼は知ってしまった。他の有象無象が自分を恐れたのと同じ、未知の恐怖を。真実を知る狂気を。

 彼は見てしまった。自業自得の如く自己さえもわからなくなった自分の前で、自力で立ち上がってみせた、あの茶渡泰虎(さどやすとら)を。あの時の月島と同じように過去の因果を狂わされたはずの死神達が起こした、奇跡の勝利を。

 

 果たしてそれを羨望と呼ぶべきかは定かに非ず。だが見下していた彼等により見せつけられた「本当の絆」は、それまでの月島の価値観に罅を入れるのに十分な衝撃だった。

 

 そして…

 

 

「僕が大人しく殺されてやる代わりに、リルカ達を見逃してやって欲しい」

 

 

 場の一同が目を瞠る。らしくないとでも思っているのだろう。当然だ、他ならぬ自分自身が驚いているのだから。

 己の心境の変化をおかしく思いながら、月島は敵の慈悲を乞う。

 

 

 …もしかしたら銀城は、僕に教えようとしてくれたのかな。

 

 二人だけだと思ってた僕達の世界には、本当は──

 

 

 

 

 

 沈黙が場を支配する中、微かな衣擦れ音が耳に響く。

 

 音の主は日番谷冬獅郎。周囲の視線を集める彼は、その小さな拳を握り締めたまま無防備な月島を睨んでいた。

 

 そこに如何程の葛藤があったのだろうか。しかししばしの間の後、少年は月島に背を向ける。

 

 そして渦巻く感情を胸に押し込めたまま、冬獅郎は背後に開いた二重障子の穿界門(せんかいもん)の奥へ消えていった。

 

 

「…なんのつもりだい?」

 

 残る六人の死神達へ、月島は尋ねる。

 

「僕は君達の敵だよ…? このまま自然に朽ちたら…こんどは霊界(そっち)で悪さをするかもしれないのに…」

 

 彼等も気付いている筈だ。

 僕は直に死ぬ。だがそれはあくまで人間としての死だ。魂魄としての生を奪わなければ、それはこちらの死に逃げに等しい結末となる。彼等尸魂界(ソウルソサエティ)の勝利を意味しない。

 

 

「……我等は死神だ」

 

 そんな彼の疑問に一人が答える。異界で月島との激闘を経てなお顔色一つ変えない強者、朽木白哉。

 

「我等は人間と魂魄の秩序を守り、あらゆる霊なるものを司る。その執行を妨げるのなら未だしも、戦意無き人間である(けい)を斬る義務は我等にない」

 

 そして遠くの、銀城が倒れた戦場跡へ目を向けた貴族の青年は「それに」と続け…

 

 

「それが───黒崎一護(くろさきいちご)の仲間である我等の持つべき流儀だ」

 

 

 変わらぬ鋭利な無表情に微かな親愛の色を覗かせ、断言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちぇっ」

 

 

 

 

 

──やっぱりお前らは   

   僕には眩しすぎるや

 

 

 

 

 

 

 

 

 …その言葉を最後に、月島秀九郎は仲間の少女と死神達に看取られ、亡き恩人の後を追った。目を閉じたその穏やかな顔は、恐ろしい力を持つ故に誰からも恐れられ、誰も信じられずに育った悲劇の少年に確かな安らぎが与えられた証だったのだろう。

 

 後に黒崎一護の願いで現世に埋葬された銀城空吾の墓には、彼の完現術(フルブリング)のペンダントと共に、一枚の古ぼけた栞が供えられた。

 

 

 そしていつしかその墓では、元の簡素な墓石の前を、五つの花が絶えず賑やかすようになったという──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 透き通る青空に蝉時雨が響く六月の末。

 梅雨の終わりが近付くある日。任務終了後の休暇を使い鳴木市の墓地を訪れた日番谷冬獅郎は、墓石の前で目当ての人物と再会した。

 

「…! 冬獅郎。お前も来たのか」

 

 目を丸くし苦笑する彼は黒崎一護。口ぶりから察するに律儀な阿散井や班目あたりが日を改め彼の下へ謝罪に訪れたようだ。忙しい隊長業務に煩わされ遅れた事を口惜しく思いながら、冬獅郎は去った先客達に続き青年へ深く頭を下げる。

 

「…中央四十六室は相変わらずだ。阿万門(あまかど)ナユラが懇意にしている霞大路(かすみおおじ)家と管ノ木(かんのぎ)家の両当主も代替わりのゴタゴタでとても改革に協力できる状態じゃねえ。しばらくは雌伏の時が続くだろう」

 

 ここ数日で探った貴族社会の様子を伝えると、黒崎一護は「…そっか」と浅い溜息を吐いた。落胆より心配に近いそれはお人好しな彼らしい。

 

「あのナユラって子に、無理だけはすんなって伝えといてくれ」

 

「…向こうもそっくりそのままてめえにそう返すだろうぜ」

 

 釣られるように肩を竦め、冬獅郎は事情を語る。

 

「調べたが、銀城空吾の裏切りには碌でもねえ連中が関わってやがった。あの中央四十六室すら顔色を窺う貴族社会の頂点……"四大貴族"だ」

 

「白哉や夜一さんの…?」

 

 驚く彼を見て、冬獅郎は一瞬答えに迷う。しかしここに来た理由を思い出した少年は黒崎一護への誠意を優先した。

 

 元々"四大貴族"は尸魂界(ソウルソサエティ)の礎を築いた複数の死神一族の末裔を称した言葉だ。霊界の安定、神器の保護、地獄の監視…それぞれの一族は各々の大義のために手を結び、今の三界の秩序を作り上げたと伝わっている。

 

「だが奴らが掲げたその大義が、後の貴族社会における家々の影響力の差につながった。朽木(くちき)家が護廷十三隊、四楓院(しほういん)家が隠密機動など瀞霊廷の"軍府"を担ったのと同様に、瀞霊廷の"枢府"を根城にした一族が居た」

 

「…」

 

「それが四大貴族家筆頭と謳われる一門──綱彌代(つなやしろ)家だ」

 

 枢府。不穏な単語の登場に眉を顰める黒崎一護。

 

「…どんな一族なんだ?」

 

尸魂界(ソウルソサエティ)百万年の歴史と英知を管理する連中だ。かつての銀城空吾の裏切りとその証拠を四十六室へ提示したのもこいつ等が牛耳る情報集積機関だったらしい。当時を知る浮竹(うきたけ)が独自に突き止め、先日俺たち護廷隊に公表された」

 

 今回の完現術師(フルブリンガー)との争いは多くの謎を残し幕を閉じた。その秘められた真実を握る、あるいは全ての黒幕やも知れぬ深淵の魑魅魍魎。

 

「気を付けろ、黒崎。今の尸魂界(ソウルソサエティ)は無数の思惑が蠢く魔境だ」

 

 緊張に喉を鳴らす青年へ冬獅郎は忠告する。

 

「連中の最たる関心は藍染の残党、【叫谷勢力(きょうごくせいりょく)】だ。そして奴の探求の被害者であるてめえにも注目が集まっている。特にてめえの……わかるな?」

 

「…ああ」

 

 その先の言葉を冬獅郎は呑み込む。奇しくも妙な縁で繋がっているこの青年ならば言わずとも理解しているだろうと確信して。

 

「だが安心しろ」

 

「…冬獅郎?」

 

 そう。代わりに差し出すのは、信頼を意味する右手の掌だ。

 

 

「たとえ何があろうと、俺達はもう二度と……てめえを一人にはしねえ」

 

 

 少年はその一言を言うためにここへ来た。護廷十三隊の不甲斐なさ、尸魂界(ソウルソサエティ)の悪辣さを知ってなお仲間でありたいと笑ってくれたこの黒崎一護と、共に歩む道を踏み締めるように。

 

 頬を緩める彼へ頷き一つ、話を終えた少年は恩人へ一時の別れを告げる。

 

 

 

 

 

「────黒崎」

 

 

 

 

 …だが冬獅郎の足は数歩で止まった。

 

 訊くつもりはなかった。それでも問い掛けてしまったのは、黒崎の顔を覆う暗い影を見てしまったからか。

 そして彼が経験した悲しい別れを……"彼女"へ抱く強い想いを、直感的に感じていたからなのかもしれない。

 

 憐憫と嫉妬の入り混じった、複雑な逡巡の後。冬獅郎は口を開く。

 

 

「…銀城を斬った時、お前に託された()()()は、最期に……どんな顔をしてた?」

 

 

 黒崎の身動ぎが聞こえる。背中を向ける冬獅郎に、彼の顔は見えない。

 

「────」

 

 だが永遠にも思える沈黙に耐えた冬獅郎は、黒崎の返事を聞く。

 そして彼の穏やかな言葉を受け止めた少年は、最後にそう一言だけ、呟く事ができた。

 

 ただ一言、万感の思いを籠め……「そうか」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒崎一護の答えは、残される者の悲しみに濡れながらも、一人の青年を前に進ませる尊い"強さ"に満ちた言葉だった。

 

『あの人は、笑ってた…』

 

 

 

 

 

────「ありがとう」って、笑ってたんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

という感じで予定していた文字数を大幅に超過した月島さん篇はこれにて閉幕です!
一話ごとの投稿間隔がかなり空いてしまったので似たような展開やシーンを繰り返したりと無駄に文量が増えてしまいました。
キャラの心理描写を書きすぎないよう注意してコレとかやっぱ鰤は登場人物も全員キャラ立ちしてる神漫画なんやなって。
今後は三人称視点を自嘲します、ハイ…

さて、次は最終章の千年血戦篇ですが…ぶっちゃけ何も決まってません(汗
しばらくは日常回&戦争準備回的な話で投稿頻度を維持しつつアニ鰤と一緒に本編を盛り上げて行きたいです

長々とお付き合い頂きありがとうございました!
最終章もお楽しみに!










────────────────



















 果てなき桃色の大星雲が輝く永夜の世界。
 降り注ぐ星明りに照らされ、荘厳な建築が聳えている。この日、神殿の最下層にて、任務を遂げた新たな英霊が帰還した。

 散り散りに漂う光が一点に集まり、小柄な人影が現れる。砕けた仮面の破片を艷やかな黒髪に絡ませ、白い死覇装を着た少女だ。
 弱々しい動作で床から起き上がった彼女は、戸惑いながら辺りを見渡す。

『っ……?』

 薄暗い広間。芋虫のように蠢く機械の配線。それらが繋がる不気味な等身大の水晶の中に、自分は閉じ込められていた。

 これは一体何?
 ここは一体どこ?
 どうしてあたしはまだ意識があるの?
 自分は役目を終え、()()()の成長を見届け消滅したはずなのに。

 …だがそう困惑する彼女は故に気付かなかった。自分を遠目に囲む数名の、只ならぬ霊圧を有する強者達の存在を。


「───懐かしいな、およそ二十年ぶりといった所か」


 突然声が聞こえ少女は弾かれるように振り向く。

 果たしてそこに居たのは色黒の死神。編み込んだ髪房を後頭部で一つに束ねたサングラスの男性。奇抜な出で立ちに反し理性と秩序を重んじるその人物の正体を、少女は知っていた。

「ほう、コレが以前お二人が研究されておられた『霊王の因子を素体にした人造魂魄』ですか……大変興味を惹かれますね」

「口を慎めザエルアポロ。こんな爪一欠片に拘らずとも、霊王の因子など直に腐る程手に入る」

 一体何の話をしているのだろう。男性が別の者と言葉を交わしている。こちらの種族は破面(アランカル)だが彼の顔に見覚えはない。
 だが、あの死神の方は…

「!」

 その時、少女はこの状況の真相に思い至る。
 自分を創造した二人の死神。その片割れこそが、目の前に居る色黒の男性だ。

 ならば。彼がこの場に居るのであれば。
 それはつまり──

「っあ…」

 薄暗い広間に座り込む自分を見下ろす、死神と破面。
 そして佇む二人の間の、その奥。

 吸い込まれる視線が辿り着いた暗闇の果てで、震える少女はソレを見た。





 二対の見事な翅が、紅桃色に輝いている。
 その主は、満天の星空を閉じ込めたかのような美しい羽衣を纏う、可憐な異形。


 自分と瓜二つの貌を持つもう一人の創造者が、満面の笑顔で少女を迎えていた。














── おかえりなさい ──













 

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