雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

13 / 145

沢山のコメント評価マイリスありがとうございます、モチベ励みになります!
止まるんじゃねぇぞ…

それでは隊士暗躍篇、始まり始まり。



隊士ィィィィ!篇
新隊ィィィン!


 

 

 

 

 

 

【 愉 悦 】

 

 それは不運に直面した者が魅せる苦悩の輝き。悩める葦である人間が耐え難き精神的痛痒に足掻き、嘆き、泣き叫ぶ悲劇の美しさ。

 

 

「──よしっ」

 

 

 そんな倒錯的な美に魅入られてしまった哀れなあたしこと雛森桃は、自室の姿見の前に立っていた。いつもの院生装ではなく、あの有名な黒い袴──死覇装(しはくしょう)に袖を通して。

 …よし。副官章が足りないけど、これで原作雛森ちゃんが大体完成した。

 

 

 真央霊術院に無事六年間フルで在籍したあたしは、侘助と僅差の首席で六回生の教育課程を修了。幾つか偉業を残しつつも数値的に見れば常識的な範囲に収まる優等生として普通に卒業した。この完璧な実力詐称で、あたしの華麗な「雛森がこんなに強かったなんて…」なオサレ離反ムーヴへの布石が一つ撒かれたことになる。

 

 そして、ヨン様に与えられた信奉者集めと卍解会得の二つの任務も、まあ紆余曲折の末なんか普通に完遂したと判断されたらしい。ご褒美に鬼道衆エリート部隊に席を用意して貰えた。これで念願の黒棺及び黒歴史払拭への一歩を踏み出せたと言ってもいいだろう。てか六年も経ったし時効にしてよ…

 

 そんなあたしが護廷隊の隊士としてヨン様に半ば強引に配属されたのは、もちろんこの隊。

 

 

「──ひ、雛森桃と申しますっ! 藍染隊長に憧れて五番隊に入隊しました! 特命を頂き鬼道衆との兼属となりますが、精一杯頑張りますのでどうぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしますっ」

 

 快活な拍手に迎えられ、心にもないことを口に挨拶を終えたあたしは、晴れて邪悪なペ・ヨンジ○ン率いる五番隊へ入隊した。

 

 同期にはまた恋次と侘介の副官トリオ。恋次は幼馴染みのルキアをかっ拐っていった"すまぬ"の人・朽木白哉を超えるという目標が出来たが、どうやら侘介は昔ヨン様に洗脳された「恐怖を知らない者を支える」とかいう美談にまだ囚われてしまっているらしい。二人はそれぞれの目的のため、ヨン様の計らいでしばらくここで過ごしたあとに戦闘力の十一番隊と治癒の四番隊へそれぞれ技を磨きに異動する予定とのこと。職歴だけ見たら原作通りだ。

 

 まあ恋次は後にルキアに崩玉が仕込まれたあと朽木家が牛耳る六番隊へ無自覚スパイとして送られたり、侘介は一○の補佐として三番隊へ飛ばされたりするのだろう。まだ影も形もない話だけど。

 

「ようこそ、雛森君。我々五番隊は君を歓迎するよ」

 

「あっ、ありがとうございますっ!」

 

 ニコニコ微笑む人格者(笑)と、ペコペコ憧れのハンサム恩人(笑)隊長へお辞儀をする無垢(笑)な乙女。それを微笑ましげに見守る隊士たち。

 

 五番隊は福利厚生の一環に毎日社長と副社長候補による完成度の高い演劇を観賞出来るホワイト企業です。

 

 

 さて、新人として体育会系な部活に武士道的なオサレさを加えたそれなりにハードな雑務と扱きを終えたあたしはその日の深夜、密かに【天挺空羅】による呼び出しを受け、ヨン様謹製ダミー義骸と霊圧遮断外套を使いながらコソコソと隊舎内にある秘密の東屋へ向かった。

 外道の外道による外道のための密会である。

 

 

「──よく来たね、桃」

 

 背筋が冷えるような第一声。相変わらず、言葉遣いは変わらないのに全く雰囲気の違うオーラを放つ本性ヨン様が、二人の男を侍らせそこに居た。

 

「…お待たせしました、藍染隊長、東仙隊長。市丸隊長もお久しぶりです」

 

「久しぶりやねー、桃ちゃん。隊士就任おめでとうさん」

 

「お目出度う、雛森隊士。規律を守り藍染様のためによく働くがいい」

 

 忍び込んだ東屋にはなんとあの魑魅魍魎三人衆が勢揃いしていた。初めての状況だが何とかビビらず礼を返す。

 おい今すぐ誰かこの建物爆破しろ。

 

「…珍しいですね、お三方がお揃いなの」

 

「ああ、要が虚の研究で大きな成果を上げてくれてね。君の歓迎も兼ねて発表の場を設けたんだ」

 

 化物共が集ってサバトでも始めるのかと身構えていたらわりと社会的な理由だった。わざわざ皆さんありがとうございます。

 しかしヨン様陣営に加わって六年だが、卍解修行したり霊術院で適当に過ごしたりくらいしかしていないあたしに取っては初めての組織的集会である。行くところまで行ってしまった感が凄いが、同時にちょっと嬉しく感じてしまうのだから雛森ちゃんも悪女になっちゃったものだ。

 

 そして肝心のDJの研究成果発表だが、原作を知る身には少々意外な内容だった。

 

 

「──虚の死神化に成功しました」

 

 

 シン、と場が静まり返る。事前に知ってたであろうヨン様、初耳で少し驚いている一○、そして普通に驚いてるあたし。

 

 …え、この時期が初成功だったの? 死神の虚化に比べて遅くない? 崩玉ルキアが来るまであと四十四年しかないけど原作大丈夫?

 思わず焦ってしまったのを見抜かれたのか、ヨン様がいつもの冷笑を少し深めてあたしの無言の疑問に答えてくれた。

 

「死神の虚化はここ尸魂界で幾らでも実験体や研究資料を調達出来、進展は早かったがその逆は先達の研究も少なく手探りでね。だが、これでようやく…」

 

 

 ──我々の兵隊を用意出来る。

 

 

 ゾクッとするほど不気味な笑みについ背筋が伸びるあたし。そうか、遂に本格的に陣営構築が始まるのか。あの破面たちの面々を想起し思わずニヤけてしまいそう。

 

「ああ、なるほど。大虚(メノス)集めやりはるんですか」

 

「その通りだ、ギン」

 

 二人の話を聞くにどうやらこれから十刃(エスパーダ)たちを揃え始める予定らしい。ということは前身組織(エスパーダ)の全盛期ザエルアポロとか大帝時代バラガンとかダイバースーツハリベルとか見れるのか、原作展開も問題無さそうだし鰤ファンワイ歓喜。

 

「そこでだが、桃」

 

「はい」

 

「この仕事は君に任せたい」

 

「はい?」

 

 唐突に虚圏(ウェコムンド)でドラ○エやれとか言われあたしは困惑する。いや別に戦闘経験積めるしいいんだけど、こういうのは親玉のヨン様が霊圧で「仲間になれ(ドンッ!)」とかやった方が後々拗れないのでは?

 

「君の始解と卍解は純粋な暴力を体現する。獣的本能に生きる虚に取っては最もわかりやすい上下関係だ」

 

「…ウチの飛梅は可愛くていい子です」

 

「この六年間で卍解へと至り並の護廷隊隊長の霊圧を大きく上回った今、虚圏に君の敵はない。好きにやりたまえ」

 

 平然とあたしの相棒をdisりつつ大虚集めはお前のほうが適任だとか、貶してるのか褒めてるのかよくわからないことを言ってくるヨン様。

 何て言うか、指示の適当さからどうでもよさそうな感情をひしひしと感じる。これあれですね、最初から使い捨ての駒としか破面(アランカル)たちのこと見てませんね。あたしの「雛森ィィィィ!」ポジの理想像ハリベルさんは隊長格三人同時にほぼ無傷で相手しながらあなたの斬撃に二回も耐えて反撃までする中上位隊長クラスになるんですけど…

 

「ふむ、折角だ。こうして初めて我ら四人が揃ったことを記念して──先達の皆で新たな同胞の働きを視察するとしよう」

 

「えっ?」

 

 あの褐色おっぱいについて思考を飛ばしていたら、突然横からとんでもない無茶振りが飛んできた。

 咄嗟に振り向くも前後から一○とDJの賛同する相槌が聞こえ退路が塞がれる。おいお前ら横暴だぞ、明らかな新人いじめじゃないか。そういうのは黒棺ネタで間に合ってますって!

 

「任務の初視察やし、あの大虚のお偉いさんがええんとちゃいます?」

 

「ああ、アイツか。確かに能力と霊圧差で相性もいい。如何でしょう、藍染様」

 

「そうだね、彼なら桃が失敗することもないだろう」

 

 当事者抜きでどんどん決まっていくあたしの殺伐たる"はじめてのおつかい"。おい待て一○さっきなんか凄い不穏な単語が聞こえたぞ。アイツか? あのチートをあたしが屈服させろってか? いくら破面化前の弱い最上級大虚(ヴァストローデ)時代とはいえ能力の本質は同じなんですけど!?

 

 反対しようにも大人陣は既にその気満々。古参の東仙なんかヨン様の愉悦を目敏く見抜きダッシュで子飼いの虚に黒腔(ガルガンタ)を開けるよう指示しに出て行きやがった。コイツらまさか最初からあたしで遊ぶために集まったんじゃないだろうな…

 

 仕方がない。新人弄りは組織の通過儀礼だ。ならこちらは別の利益を確保するとしよう。

 

 思えばこの三人以外の強者との初めての、それも明確な敵との対決だ。ヨン様たちには決して使えない、鰤ファン転生者最大の強みである──【オサレポイントバトル】の知識をフル活用して戦ってみよう。

 ふふふ、ただの新人と舐めないでくださいね。あたしはあなたの知らないこの世界の真理について実験をさせてもらいます。

 

 そう意を決したあたしの前に、いつもの黒い異界の門が現れた。

 

 

「では行こうか、要、ギン、桃。神を名乗る虚の玉座…」

 

 

 ──虚夜宮(ラスノーチェス)へ。

 

 

 

 

 

 

 




 
次回:オサレ・ポイント・バトル

 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。