雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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頂いた支援絵をヨン様戦の94話「俺自身が月牙になる事だ…」へ移動しました。

 


爆撃ってSS編時点でクインシー・レットシュティール使った時ブルート・アルテリエ無しのハry

 

 

 

 

 

 死神たちの牙城、尸魂界(ソウルソサエティ)との戦いが始まる。

 

 滅却師(クインシー)の祖、西方の世にて(Y)(H)(V)(H)を冠する神王ユーハバッハ陛下の、千年に亘る悲願らしい。"らしい"というのも、そんな事は新参の滅却師である少女──バンビエッタ・バスターバインにとってはどうでもいい話だったからだ。

 

 

『慄け、死神共。これより我が精鋭…』

 

 

──星十字騎士団(シュテルンリッター)が   

   お前達を粛正する

 

 

 陛下の号令に呼応し、滅却師の蒼き滅火が尸魂界の各地に聳え立つ。その巨大な火柱を座標に、バンビエッタは精鋭部隊の他の同僚たちと同時、予定時刻ぴったりに死神たちの街の中へ転移した。

 

「うわっ、うじゃうじゃ湧いてんじゃん。黒い着物がゴキブリみたい」

 

 数えるのも億劫な雑魚死神どもを蹴散らし、女滅却師は自身が担当する火柱付近で敵の増援を待つ。これだけ目立てば目的の"隊長格"が向こうから来てくれるだろう。

 

「!」

 

 誰かは訊いていないが作戦の立案者に一人感心していると、ふと腕を掴まれた。だが「邪魔」と睨んだ下手人の姿を見て、バンビエッタは目を丸くする。

 

「…こんな少女までもが賊軍の戦士なのか…!」

 

 犬だ。比喩抜きに犬の頭をした大男が憐れむような瞳でこちらを見下ろしている。しばし呆けた少女は、しかし即座に男の背で翻る白い羽織に気が付いた。

 

「…こんなワンちゃんまで隊長やってんの? ズイブン人手不足なんだね、尸魂界(ソウルソサエティ)って」

 

「七番隊隊長狛村左陣(こまむらさじん)。畜生に生まれ落ちようと元柳斎(げんりゅうさい)殿への忠義に偽り無し! …(とどろ)け!!

 

── (てん) (けん) ──

 

 犬死神の解号の後に現れたのは、巨人の片腕。それが連中が自慢する斬魄刀解放の第一段階か、振り下ろされる敵の大木の如き巨剣は恐るべき破壊力を宿していた。

 

 だが。

 

「ばっかじゃないの? その程度のパワーにやられるような雑魚はいないのよ、あたしたち星十字騎士団(シュテルンリッター)にはね」

 

 あの大質量が担い手と同じ速度で動くのは確かに脅威だが、こちらが反応できるレベルなら何の問題もない。バンビエッタはひらりと巨剣を躱し、飛び上がった上空から犬男へ複数の霊弾をばら撒く。

 

 着弾と同時、慣れ親しんだ破壊の暴風が彼女の頬を撫でた。

 

「!? 爆弾…それがお主の能力か…!」

 

「そ。でも普通の爆弾じゃないよ。どーぶつの脳みそで違いが見分けられるかな? そーれっ!」

 

 建物の屋根に陣取り、もう十発、二十発と立て続けに霊弾を敵の周囲に打ち込む女滅却師。無造作な攻撃で容易に大地を抉る大火力だ。

 

 だが砂埃が吹き消えた戦場の広場では、大勢の雑魚死神たちが五体満足で健在。

 そして。

 

「…卍解(ばんかい)

 

 

── 黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう) ──

 

 

 突如出現した、巨大な鎧武者が彼らを庇うように蹲っていた。

 

「…なにソレ。そんな下っ端共を助ける為に卍解を使ったの?」

 

 片膝を突いて尚も睨んでくる犬男に、バンビエッタは口をヘの字に曲げる。足手まといを抱えてこのあたしに勝てるとでも夢想しているのだろうか。弱いクセに調子に乗りやがって。

 

 とはいえ少女はその勝気な態度に反し慎重だった。臆病とも言える。圧倒的劣勢に立たされながらも戦意を失わない相手にはそうさせるに足る希望があると推理した。

 

 その希望とは即ち、目の前の武者巨人だ。

 

「ふーん」

 

 バンビエッタはニンマリ嗤う。特にこだわりはなかったが、そんなに強力な卍解ならさぞこの先の戦いに役立つだろう。

 

「決めた、()()()()あんたのヤツにする。光栄に思いなさい、ワンちゃん」

 

「…? 何の事──なにっ!?」

 

 不意に、遠くで暴れる複数の気配が揺らいだ。他の星十字騎士団(シュテルンリッター)と戦う死神たちの霊圧だ。どうやら同僚たちはうまくやったらしい。

 

「朽木隊長に日番谷隊長…砕蜂隊長の卍解の霊圧が…消えた…!? ッ答えろ! お主ら皆に何をした!」

 

「さぁ? でもスグにわかるよ、あんたも──ねっ!」

 

 スカートのポケットに左手を突っ込み、彼女はムカつく敵の度肝を抜いてやろうと大袈裟に例の道具を披露する。

 展開する漆黒の五芒星。そこから射出される光の檻。試験と寸分違わぬ現象が犬頭の隊長へ殺到し…

 

 

「…ろれ(おた)

 

 

── (でな) (かさ) ──

 

 

 はた、と気付いた時。バンビエッタの術式は無人の空き地に突き刺さっていた。

 

「……は? 何? 何が起きたの?」

 

 混乱する女滅却師は慌てて周囲を探す。しかし獲物の犬男はどこにもいない。それどころかその他の平隊士たちも、誰一人。

 

「ちょっと、逃げたのワンちゃん? 隠れてんの? さっさと出てきなさいよ!」

 

 叫べど答えはなし。霊圧感知にも反応なし。万策尽きたか、単に面倒になったか、バンビエッタは怒りのままに周囲を更地に変える事にした。

 

「ぐ~~~…」

 

 

出てこ   い!!

 

 

 巨大な爆発が和風の街並みを消滅させる。煤けて真っ黒に染まった広場の中心で彼女は改めて辺りを見渡した。

 

 そして開けた更地の端に、不自然に無傷な石畳の一角を見つけた。

 

 

「…なんやねんあの嬢ちゃん。見つからへんから周りごと吹っ飛ばすとか発想が(オマエ)と同じやないかい」

 

「一緒にしないでください! あたしは感知がダメなら霊糸網で、それもダメならばら撒いた霊子の反射でちゃんと敵を探しますっ」

 

 

 何もない石畳の一角から呑気な男女の言い合う声が聞こえる。聞き覚えの無い声だ。新手かと凝視するとまるで蜃気楼のように景色が歪み、先程の犬隊長と平隊士たちを庇う二つの人影が現れた。

 

 その片割れの人物の顔を見たバンビエッタは、思わず息を呑む。

 

 

「! あんたは…ッ」

 

 

 小柄な身体、肩長の黒髪、可憐な容姿、そして左腕に巻かれた『五』の漢数字を冠する腕章。

 

 最大限の警戒を促す「特記」扱いでは生温い。すべからくこの世から消し去るべき「抹殺対象」として見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)内に周知されている、唯一の敵戦力。

 

 

 "読書家"の抜け殻──雛森桃(ひなもりもも)が、緊張に強張る顔でこちらを見上げていた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「平子隊長は相性が悪すぎます。ここはあたしが」

 

「チッ…あんま無茶するんちゃうで、桃…!」

 

 たらり、と背中を冷や汗が伝う。バンビエッタは傷だらけの犬隊長たちが新手のおかっぱ男に連れられ撤退していく姿を視界に認めつつ、彼等を追う一歩を踏み出すことができなかった。

 

 理由は彼女の眼前に立ち塞がった、一人の女死神。

 

 

「……へー。あたしのトコに来るんだ。情報(ダーテン)だと氷使いのお子様隊長クンの方に現れる想定だったんだけど、ね…」

 

 最悪だと頭を抱えたくなる感情を押し込め、不遜な笑みを作るバンビエッタ。こちらが持つ情報量に驚いているのか女死神──雛森桃が僅かに目を見開く。

 

 現五番隊副隊長にして、かつて藍染惣右介に従った虚圏(ウェコムンド)の戦力を実質的に指揮していた破面(アランカル)軍軍団長。

 

 この妙な経歴の小娘に関し、神王ユーハバッハは極めて異例な対応をしていた。ヤツ一人のために対策研究会が組織され、更にバンビエッタら一次侵攻のメンバー全員に"専用の星章(メダリオン)"が与えられている。

 上層部の尋常ではない警戒度を見て、何かと頭の回る古参のロバートは「遭遇者は戦力分析の捨て駒だ」と酷く怯えていたが、成程あの空座町(からくらちょう)決戦の映像を見れば然も在りなん。

 

 バンビエッタは曲者揃いの星十字騎士団(シュテルンリッター)の中で最も優れた正面火力を持つ滅却師(クインシー)である。あらゆる搦め手を純粋な破壊力で叩き潰せると自負する彼女にとって、故に同種の雛森桃の力は何よりも解り易い恐怖だった。

 

「ッ、知ってるわよ。あんた、藍染惣右介についてって尸魂界(ソウルソサエティ)を裏切ったんでしょ?」

 

「……」

 

「それなのにちょーキモい化物にされちゃって、あげくにソイツの魂を抜き取られて用済み。ご主人様にポイされちゃったのよね、かーわいそー」

 

 事前準備はこちらが上。バンビエッタは仲間の言葉を思い出し、逃走を視野に入れながら様子見の一撃を撃ち放った。

 

 肌を焼く爆炎が大地を真っ赤に染める。殺す気とはいえ所詮小手先の小規模爆撃。

 さてどうなったか、と窺った敵の姿は、さりとて女滅却師自身の予想に反したものだった。

 

 

「……当たった?」

 

 

 苦痛に顔を歪める雛森桃の顔を見て、驚いたのは先攻のバンビエッタの方。負傷した? あの程度の威力で? 

 あまりに歯応えがない。先程のワンちゃん死神の方がまだ覇気を感じた。ホントにこれがあの映像にあった化物と同じ人物だというのか。

 

 混乱するバンビエッタの緊張感にぽっかりと穴が開く。そしてその感情の空白に陣取ったのは、彼女の悪癖──傲慢だった。

 

「……なんだ。やっぱ弱体化したって話、本当だったんじゃん…!」

 

 ニヤァ、と口角を吊り上げる少女。零れた吐息は安堵故か。バンビエッタはこの瞬間、自分が弱者ではなく捕食者の立場にあると判断した。

 

「ッ、霊圧を瞬間的に超高温へ変えて爆発を起こす能力……ではなさそうですね」

 

「へー、わかっちゃう? でも"鬼道系"だっけ? 自分の霊圧を爆発させるしか能がないあんたのくだらない斬魄刀とは天と地ほども差があるのよ! あたしの【爆撃(ジ・エクスプロード)】はねっ!」

 

 恐怖の反動で普段以上に気が大きくなっている自覚は彼女にない。感情に呼応した爆撃の嵐が眼下の女死神へ襲い掛かる。

 

「可哀そうに、魂魄の片方を失ったらそんなに弱くなるんだ! ま、ジェラルドもあんたが生きてる事に驚いてたし? 藍染に浦原喜助の『特記戦力』が二人も関わって何とか保てた命ってワケね!」

 

「ツッ…! 何を…知ってるんですか…?」

 

「なに困惑してんの、自分だけがトクベツだって思ってた? ウチにも何人かいるのよ、あんたみたいによくわかんない別のヤバい魂魄と一緒になって生まれたってウワサの奴等がね!」

 

 もっともハッシュヴァルトは雛森桃のアレは厳密には全く異なる存在だと考えているらしいが、自分からしてみれば映像で見たこの小娘の"集合体"も、同僚のあの"動く左腕"の異形も、等しく近付きたくない化物だ。

 

「でもよかったね、あんたは元の人の姿に戻れて。そーいうのって見た目も人間辞めちゃうヤツが多いらしいし、折角そんなカワイイ顔で生まれたのにあんな現代アートな姿で余生を過ごす羽目になったら死んだ方がマシでしょ? ペルニダとかよくアレで生きようと思えるよね」

 

 彼(?)と戦うのは生理的にも無理だが、この可愛らしい女死神なら気持ちよく甚振れる。己と同じく大勢の異性を虜にしてきたであろうその美貌を苦痛に歪ませるのは、部下のイケメンたちを()()()()いつもの趣味とは違う愉しみが確かにあった。

 

 …とはいえ、脳に焼き付いた恐怖は容易く薄れない。しばしの一方的な展開で鬱憤を晴らしたバンビエッタは、ふと冷静になり相手の様子を確認する。

 

「ハァ…、ハァ…ッ」

 

 雛森桃は荒い息でこちらを見上げていた。黒い着物は焼け焦げ、顔にはいくつもの火傷痕が見えるが、致命傷はない。霊力に由らない純粋な戦闘技術に救われたからだろうか。

 

 一瞬何かの罠、あるいは奥の手があるのかと訝しむバンビエッタは、しかし即座に頭を振る。たとえそうだったとしてもそれはこちらも同じ事だ。

 

「何よ、もしかして本気出せば勝てるとか思ってる? 例えばあたしのメダリオンをどうにかして、"卍解"を奪われずに使える様になったら…とか」

 

「…ッ」

 

 雛森桃の眉がピクリと動く。その素直な様に嗜虐心をそそられたバンビエッタは懐から掌大の霊具を取り出した。

 二重に重なった特殊な星章(メダリオン)。それは目の前の女死神を確実に無力化させる、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)が導き出した最新の霊術だ。

 

 

「あんた、陛下を舐めすぎ」

 

 

 その攻撃宣言の直後、星章(メダリオン)から巨大な光の五芒星が現れた。

 

「! させませんッ!」

 

縛道(ばくどう)の八十一"重唱"・断空閘塞(だんくうこうさい)

 

 咄嗟に鬼道で防御を試みる雛森桃。先程の犬顔隊長との戦いを見ていたのだろう。現れた光の星の効果を理解している。

 だが甘い。

 

「言ったでしょ、"舐めすぎ"ってね」

 

 展開された正方体の鬼道結界の中で雛森桃の霊圧が噴出した。しかしそれは彼女自身の意思ではない。立ち上る霊圧は結界を透過して主人の身体から離れ、そのままバンビエッタの星章(メダリオン)へと吸い込まれた。

 

 

 その霊具に灯った桃色の光が一体何を意味するのか。自身の斬魄刀を凝視する雛森桃は、正しく理解していた。

 

 

「そんな…!」

 

「陛下は相当あんたのコト危険視されててね。あたしたち星十字騎士団(シュテルンリッター)全員にコレを持たせてくれたの。あんたは他の隊長連中と違って卍解発動後の僅かな隙さえ見せてくれないだろう、ってね」

 

 唖然とする小娘を「褒めてんのよ?」と嘲笑うバンビエッタ。

 

 彼女が使用した星章(メダリオン)はこの時のために用意された特別製。雛森桃の卍解に限り、未解放の状態でも強引に奪う事ができる回避不可能な超霊術だ。

 

「…ッ、だったら…!」

 

【破道の八十九・翠鳳旭來炎(すいおうきょくらいえん)

 

 不利を悟り霊術中心の戦いを試みる雛森桃。魂の相棒を失っても即座に立て直せる戦術の多様さは驚きの一言。

 しかし名高い上級鬼道を仕掛けられようとバンビエッタに危機感は微塵もない。迫る緑炎の鳳凰へ向け自身の霊圧を小指でピンッと弾く。

 

 直後、雛森桃の鬼道が爆発した。

 

「相殺…? 違う、今のはまさか」

 

 流石は優れた鬼道使い。自分の術に何をされたのか即座に見抜いたらしい。バンビエッタは素直に感心する。

 

「そ。あたしの聖文字(シュリフト)の能力は自分の霊圧を爆弾に変える事じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()能力よ!」

 

「なん……ですって…!?」

 

 聖文字(シュリフト)。それは神王ユーハバッハより賜る神の力である。

 二十六の文字を頭文字に持つ千差万別の能力の内、バンビエッタが授かったのは聖文字"E"─爆撃(ジ・エクスプロード)。霊圧をぶつけ合う斬魄刀のような下等な武器で戦う死神共とは別次元の霊能、(ことわり)の領域に至る力だ。

 

尸魂界(ソウルソサエティ)にある物質は全て霊子でできてる! 物質だけじゃない、あんたの鬼道も斬魄刀も身体さえも! 全部、全部、あたしの霊圧に触れた瞬間にあたしの爆弾になる!」

 

「ッ、しまっ──」

 

「その黒い着物、武器、瓦礫、砂埃、吸い込んだ空気! さあ、今まであたしの霊圧が触れてきたモノがあんたの周囲にどれだけ溢れてるか、その身で味わってみなさい!!」

 

 その皮肉を合図に戦場が大爆発に包まれる。建物も大気も塵一つ残さず消失し、途轍もない熱風が上空で渦を巻く。

 そして黒煙が掻き消えた後。バンビエッタの前に残っていたのは、見渡す限りの景色を抉り取った巨大なクレーターと、その中心で肩を上下させるボロボロの雛森桃だった。

 

 見かけによらず大した頑丈さだが、これでコイツも打つ手がないとわかっただろう。バンビエッタは少女の絶望に歪んだ顔を堪能しようと目を細めた。

 

 しかし。

 

 

「…何よ、その目」

 

 

 バンビエッタは唇を尖らせる。

 気に食わない。卍解を奪い、これだけ痛めつけて尚、雛森桃の瞳にいつもの男たちのような絶望の闇は見当たらない。一体何が彼女を支えているのか、感じる霊圧も最早風前の灯火同然なのにその心は未だ折れていなかった。

 

「ふん、バッカみたい」

 

 いいだろう。そこまで護廷とやらの為にしぶとく意地を張るのなら、あたし自らが与えてやる。

 死神共の尊厳を踏みにじる、最悪の屈辱とやらを。

 

「忘れたの? あんたのご自慢の卍解はもうあたしの物。いつまでもそんな舐め腐った顔してるんだったら、その余裕……あんた自身の卍解でぶっ飛ばしてあげるっ!!」

 

 バンビエッタは片手の霊具を空へ掲げる。そして遂にその真価、星章化(メダライズ)の力を行使した。

 

 

 

── (ばん) (かい) ──

 

 

 

 天へ聳える膨大な霊圧。周囲に桃色の光が満ち、力の奔流が集束するにつれ幻想的な炎の布へと形を変えていく。

 

 聖文字(シュリフト)を与えられた時に勝るとも劣らない、全身に霊力が漲る感覚。なんて美しい。なんて力強い。抗い難い全能感に恍惚と頬を緩めるバンビエッタは、あの映像と同じ可憐な衣装を着た自分の姿を想起し、纏う霊圧の羽衣へ徐に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

───斬魄刀と死神の絆を穢すなんて

 

           滅却師(クインシー)とは随分無礼な連中ですのね

 

 

 

 

 

 

 

「えっ────がはッ!?」

 

 だがその時。突如脳内に冷やかな少女の声が響き、バンビエッタの身体が凄まじい力で締め付けられた。

 激痛と驚愕に混乱する女滅却師。しかし何が起きているのか彼女が理解する間もなく、新たな異変が頭上で起きる。

 

「が…ぎぃ…ッ、な…何…!?」

 

 散らばる桃色の霊圧が集まり、小柄な人影を象る。

 

 

 それは美しい黒髪の天女。雛森桃が誇る一心同体の稀有な卍解、【羽衣紅梅鈴鈴】の具象体だった。

 

 

「…う、嘘でしょ…!? 卍解が…勝手に動いて…!?」

 

『"勝手に"? 何故この私が自分の言動についてお前如きに伺いを立てないといけないの?』

 

 少女の『不愉快ですわ』の言霊が体を成し、バンビエッタを圧殺する羽衣に灼熱の梅焔(ばいえん)が燃え広がる。

 

「あ、ぎッ、ああぁあ"あ"ッ!?」

 

『それで、何だったかしら。貴方の火遊びがプスプス五月蠅くてよく聞こえなかったのですが、確か"くだらない斬魄刀"がどうとか…? もう一度言ってくださる?』

 

「あああ"ァア"ア"ァアア"ッ!!」

 

 骨が砕け、臓が潰れ、肉が焼かれ、血潮が沸騰する煉獄の拷問。

 一瞬で戦局を引っ繰り返された理不尽。生まれて初めて感じる己の命が散っていく感覚。怒涛の衝撃にバンビエッタは発狂する。

 

 嫌だ。熱い。痛い。なんで。助けて。許して。

 

 無意識に慈悲を求めるも喉から吐き出るのは湿った絶叫のみ。一体どうしてこんな事になった。星章(メダリオン)が失敗作だったのか。ロバートの言葉通りあたしは陛下の捨て駒にされたのか。それともやはり【飛梅】は黒崎一護の【斬月】同様に、陛下すら正体のわからない特殊な斬魄刀なのか。

 いずれにせよ、このままでは負ける。錯乱するバンビエッタに理解できたのはそれだけだった。

 

「ッあ───」

 

 こんなところで終わりたくない。死神なんかに負けたくない。そんな崇高な心理は鉄火場に置かれた彼女の中に欠片も無い。

 体は炭と化し、原初的な恐怖に蝕まれ、バンビエッタはただただこの地獄から逃れようと無我夢中で活路を模索した。

 

 

「…ッ! 離れて飛梅!」

 

『!!』

 

 

 それは自らの意思より、動物的な行動原理に近いものだった。

 本能的な生存欲求に操られ、気付けばバンビエッタは星章化(メダライズ)を解除し、その相反する霊圧に封じられていた最奥の力を解き放っていた。

 

 

 

 

滅 却 師(クインシー)完 聖 体(フォルシュテンディッヒ)

 

 

 

 

 聖炎が天高く立ち上る。目を瞠る超常現象と同時、その中から巨壁の如き霊圧の弾幕が正面へ殺到した。

 【爆撃(ジ・エクスプロード)】の名に恥じぬ制圧火力が雛森桃へ襲い掛かる。

 

「くっ、飛梅! あたしの下へ!」

 

『…全く、こんな…ッ! 後でたっぷりお説教ですからね、主様!』

 

 卍解の霊圧が離れ、バンビエッタの体に自由が戻る。激痛が去り、全身を焼く劫火が掻き消える。

 瞼を開けた己の目に映っていたのは、頭頂部の光輪と二対の翼。

 

 最強形態の自分自身の姿だった。

 

 

「…使えなかったのよね、これ。卍解持ってる間は卍解が邪魔してさ」

 

 

 擦れる息を整え、傷を癒したバンビエッタは、大恥をかかせてくれた眼前の天女装束の死神、卍解姿の雛森桃を睥睨する。

 

「卍解が戻って形勢逆転……これであたしを倒せる……そんなコト思ってる?」

 

 七支の宝剣。七又の羽衣。情報(ダーテン)と異なりそれぞれの先端に飾られた大鈴の数が増えているが、そんな事はどうでもいい。

 

「…もう…もう、許さない…! どこまでも馬鹿にしやがって…ッ!」

 

 先程の痛痒と屈辱の怨嗟が声に籠る。自分で奪った卍解に反逆されて自滅しかけるなんて…と、その真剣ぶってる顔の裏であたしを嘲笑っているのだろう。

 

 

…だったら今度は、   

   あたしが嗤う番だ

 

 

 直後、雛森桃が羽織る霊圧の衣が瞬く。そして次の瞬間。

 

 

 

爆ぜろ!!

 

 

 

「────!!」

 

 女死神の羽衣が途轍もない大爆発を起こした。

 

「あはははははっ! 副隊長ともあろう死神がガッコーで習わなかったワケ? 『一度手放した武器は敵の物と思え』ってね!」

 

 太陽の如き巨大な赫炎に呑み込まれる雛森桃。バンビエッタは狂ったように笑う。奴には何が起きているのかすら分からないだろう。

 

「散々コケにされてタダで返すワケないじゃない! あたしの霊圧を使って発動したんだから、そのキレイな羽衣の中にはあたしが仕込んだ霊子爆弾がたっぷり詰まってる! 全部焼き切れるまで何度も何度も爆発してご自慢の卍解ごと塵になっちゃえ!! あははははは!!」

 

 一度ではない。彼女が掛け声を上げる度、雛森桃の羽衣から、大鈴から、斬魄刀から、次から次へと新たな爆発が巻き起こる。

 それは宛ら破壊の処刑服。鋼鉄の乙女(アイアンメイデン)より余程凶悪な絶死のマトリョーシカ。有無を言わさぬ猛攻。焼ける大気の臭い。どれもが自分を酔わせる甘美な美酒だ。

 

 決して切り離せない自分の魂の半身に焼かれる敵を見下ろし、バンビエッタは微塵の容赦なく、仕込んだ霊圧の全てが燃焼するまで勝利の法悦に浸り続けた。

 

 

 …だが。

 

 

 

「来た」

 

 

 

 小さな声が、風に乗って耳に届く。濛々と立ち上る黒煙が晴れていく。その中心に薄っすらと浮かぶ人影の周囲に、あの忌々しい桃色の羽衣は見当たらない。少なくとも敵の卍解を解除する事には成功したらしい。

 

 しかしバンビエッタは少しも喜べない。

 

「な、んで……生きて……」

 

 あり得ない事だった。彼女が自身の霊圧を植え付けた卍解は死神の魂の半身。それを直接爆発させられる事は、単純にゼロ距離の【爆撃(ジ・エクスプロード)】を受けるのとは比較にならないダメージになる。況してやこのバンビエッタ・バスターバインが誇る最終形態滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)の力で強化された爆撃を急所に受けて…

 

 

「──気付かないと思いましたか? 死神が、自分の卍解に起きた異常に」

 

 

 未だ、平然と両足で立っている目の前の小娘は、何かの錯覚に違いなかった。

 

「おっしゃる通り、先程の卍解はあなたの霊圧で解放されたもの。滅却師(クインシー)の霊圧を元に強引に使用された卍解は、全てにおいて、あたしが解放した場合のものとは勝手が変わっていました」

 

 纏う黒い着物は焼け焦げ。満身創痍である筈の身体で、雛森桃が息の乱れ一つなく淡々と言葉を紡ぐ。

 

 星章化(メダライズ)。たとえそれが解かれて卍解が手元へ戻って来たとしても、一度使用された卍解は元の死神の霊圧で再解放されるまで滅却師(クインシー)の所有物でありつづける。雛森桃は卍解を奪還した時点でそう分析したと言う。

 

「あなたの能力が霊圧を消費して発動するものでよかった。あなたの性格が直情的でよかった。あなたが怒りのままにご自身の霊圧を爆弾化させて使いきってくれたおかげで、飛梅にこれ以上不快な思いをさせずに済みました」

 

「…ッ」

 

「それに…あなた方が道理を知らない(OPBを無視している)訳じゃない、って事も知れてよかった…」

 

 自嘲するように「思い込みはダメね」と呟く雛森桃。何の話だと問うも女死神の口から答えは返ってこない。

 

「くっ、運よく生き残ったからって調子乗っちゃって…! あんたの力の底はさっき奪った卍解でもう見えてんのよ!」

 

 動揺を怒りで封じ、バンビエッタは上空へ舞い上がる。

 そして、眼下の小娘へ渾身の大空襲を敢行した。

 

「もう一度教えてあげるわ、雛森桃! "()()()()()"()()()()()今のあんたじゃ、あたしには絶対に敵わないってね!!」

 

 

爆撃(ジ・エクスプロード)失 墜 天(スカイフォール)

 

 

 背中の翼が瞬き、視界を埋め尽くす程の霊弾が光の雨となって降り注ぐ。一つ一つが直径数十メートルもの大地を抉り取る規格外の霊子爆弾。バンビエッタは能力の過剰使用で心臓が弾け飛びそうになるのを必死に耐え、千を超す破壊兵器が敵を消滅させる瞬間を待った。

 

「───面白い事を言いますね」

 

 対し雛森桃は自然体。対抗するつもりか徐に片手を上げ、その先に白と黒の光球を作り回転させる。

 膨大な霊圧を帯びたそれは女滅却師が初めて目にする、最上位階の鬼道となって術者の頭上に現れた。

 

縛道(ばくどう)の九十三・両義闓(りょうぎかい)

 

 黄金に輝く荘厳な観音開きの大扉。その奥に見える果てなしの闇へ霊子爆弾が吸い込まれていく。

 扉が閉じた後、バンビエッタの全力の大技はどこにも残っていなかった。

 

断界(だんがい)拘流(こうりゅう)が最も激しい特異点、極壊洞(きょっかいとう)。そこへ通じる門を無理やり開く鬼道衆指定の禁術です」

 

「そ…んな…」

 

「霊圧の弾を射出させて攻撃するのなら、その弾が自分に届く前に対処すればいい。より効果的な近接戦闘で使わずに遠距離に拘るなんて……意外と臆病な人なんですね」

 

 無表情で図星を突かれバンビエッタは動揺する。普段通りの虚勢を張る気力もない。

 

「あなた方がどんな分析をしているかは知りませんが、確かに体の中から()()()が居なくなった事で、あたしの霊力の大半は失われています」

 

 佇む女死神が放っている霊圧は変わらずひ弱なもの。なのに感じる存在感はまるで雲泥の差。

 そしてこちらを見つめる彼女の琥珀の瞳に、異様な霊圧の光が灯る。

 

 バンビエッタは一度たりとも、その桃色の瞳をした雛森桃の姿を…彼女がどんな存在かを、忘れた事はなかった。

 

「ですが、あたしが失ったのは"死神の力"以外の霊力だけです」

 

「や、やめっ……」

 

「そしてあたしは、その"死神の力"だけで──藍染隊長の副隊長として認められたのよ」

 

 逃げなきゃ。強烈な悪寒に思わず後退るバンビエッタだったが、その足は彼女の身を守るには遅すぎた。

 

 

「さて、飛梅も喧しい事ですし……特別に()()()()、この子の刀身を使ってさしあげます」

 

 

 雛森桃の背後に七枚の天衣が舞う。その鈴付きの羽衣が一枚、握る七支の宝剣の切先の一つへ吸い込まれ…

 

 

 

 

 ── 卍解(ばんかい) ──

 

羽 衣 紅 梅 鈴 鈴(はごろもこうばいりんりん)

 

 

 

 

 直後。少女の纏う霊圧が、天を突いた。

 

「ひっ、あ、ぁ…」

 

 その桃色の瀑布は、立ち上る味方の青炎の列柱を吹き飛ばさんばかりの迫力でバンビエッタの周囲を覆い尽くした。

 

 これが本物の【羽衣紅梅鈴鈴】。たった一人で護廷十三隊を半壊させた鬼道系最高峰の斬魄刀。

 

 バンビエッタは悟る。あの衝撃的な戦闘映像の中で、瓦礫の上をゴミのように転がっていたズタボロな隊長達。馬鹿な奴等と画面の前で嘲笑っていた呑気な自分。

 

 

今度はこのあたしが、   

   ああなってしまうのだ

 

 

「い、嫌…やめて! 死にたくない…! 死にたくない  ッ!!」

 

 この期に及んで恥も外聞もありはしない。迫りくる絶望に抗おうと滅却師の少女は半狂乱で霊圧の弾幕を敵へ放つ。これまで自分を強者の地位に就かせてくれた頼もしい聖文字(シュリフト)"E"が、此度も自分を救ってくれると信じて。

 

 だが。

 

 

「あ、ぁ、ご、ごめ、なさ…」

 

 

 放った幾百もの爆撃は、雛森桃に触れる事無く彼女の剣圧の一振りで吹き飛ばされる。無表情、顔色一つ変えずに悠然と近付く女死神が、ふと、微笑んだ。

 

「や、だ…やだやだやだぁあッ!」

 

「安心してください、これでも乱暴な破面(アランカル)を束ねていた者です」

 

 そして最悪な攻撃予告を突き付けられた記憶を最後に、バンビエッタ・バスターバインの心は粉々に砕け散った。

 

「あなたみたいなお転婆さんを死なないように躾ける方法くらい…」

 

 

 

──ちゃんと熟知してますから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「───第三班は負傷者の護送。第五班は賊軍の捕虜、バンビエッタ・バスターバインを十二番隊技術開発局へ運んでください。涅隊長の対滅却師(クインシー)戦術の研究に役立てる筈です」

 

「はっ!」

 

白伏(はくふく)で捕虜の霊圧は感知されないとはいえ、道中は気を抜かないで。あたしは他の隊長格の救援に向かいます」

 

『ご武運をお祈りします、雛森副隊長!』

 

 

 キラキラしたお目目の五番隊隊士達を見送り、バンビちゃんを散々いたぶったあたしこと雛森桃(in死神ボディ)は卍解状態を維持したままふわりと浮き上がる。破れた死覇装の代わりにと飛梅ちゃんが騒ぐのでやむなし。

 

 捕虜護送担当のみんなにはああいったけど、多分バンビーズの誰かがバンビちゃんを奪還しに行くだろう。まあ白伏が効きすぎてマジで彼女達に見つからなくてもそれはそれでいい。原作のようなジジちゃんくん製じゃなくてマユリ様謹製ゾンビエッタvsバンビーズという素敵な展開もあり得る。

 鰤ファン大人気ヒロインバンビちゃんはまだまだ輝く余地が残っているのだ(後方腕組みリョナ女王

 

「それにしても…」

 

 得意の幻惑鬼道で身体を隠してふわふわと宙を移動するあたし。頭を埋め尽くすのは、やはりさっきのバンビちゃんとの共同作業。この千年血戦篇では決して叶わないと思っていた、あの素晴らしいOPBの事だ。

 

 

 いやぁ、すっごいよかったよバンビちゃん! メダリオンの使い方、卍解の放棄、そしてここぞの場面での完聖体(フォルシュテンディッヒ)! あたしが誘導したからかもしれないけど、まさか撒いたオサレ展開の種をバンビちゃんがここまで丁寧に拾って戦闘に活用してくれるとは思わなかった。原作でイキリNTBしかしてくれなかったあのメスガキバンビちゃんがだよ!? ユーハバッハが用意したらしい例の桃ちゃん用特殊メダリオンや、あたしの"読書家"が【霊王の大脳】だと誤解されてるらしい事なんてバンビちゃんがOPBで戦えた事実と比べたら印象薄すぎて正直「あったねそんなの」レベルである。

 やっぱり能力も霊具も所詮は持ち主のオサレさを引き立てるための飾りに過ぎないのだ。

 

 

『あ~る~じ~さ~ま~?』

 

「ッひゃ…! い、いきなり話しかけるのやめてよ飛梅…」

 

 

 唐突に脳内でご聖体様が荒ぶり出した。うん、理由はわかってます…

 

『酷いですッ! まさかこの私が主様の下から引き剥がされるのを良しとするなんて…! 直前にお願いしてきたアレってこの事だったんですね!?』

 

「い、いやあの、はい…」

 

 でも仕方ないもん。あの有名すぎる護廷十三隊クソ無能卍解奪われシーンによるOSR値大暴落を防ぐためにはあたしが代わりに身体を張らないと。たとえ例の特殊メダリオンがなくても卍解して奪われる予定だったとは言えない…

 

『全く、ここまで用意周到に準備してくださるくらいなら奪われないように作戦を練ってくださいませ! 私がどれほど怖い思いをしたか…』

 

「う…で、でもちゃんと対策してきたし」

 

『そういう問題じゃありません!』

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 めそめそ泣いてる飛梅ちゃんに頭を下げつつ、精神世界で彼女から二つの"宝珠"を返して貰う。その正体は何を隠そう、この千年血戦篇の為に備えた対メダリオン装備【霊王の爪】と【(ホロウ)の因子】だ。

 

 先ずは爪の方。飛梅がバンビちゃんに奪われても勝手に動けていた理由である。

 試行錯誤の末に仮面桃ちゃんから安全に抜き取ったコレにはもう一つ、ユーハバッハの能力が「霊王パーツ保持者には効かない」という考察を実証する役割があった。こちらはもう少し検証が必要だろう。

 

 そして【虚の因子】。こっちは濃厚バンビちゃん汁(霊圧)をごっくんさせられて「くやしい、でも…!」状態になった飛梅ちゃんの身体にあたしのコトを思い出させるために使いました(最低な表現)

 勿論参考にしたのは浦原さんの侵影薬(しんえいやく)。霊王の爪だけだと卍解を完全に取り戻せるか不安だったので保険に用意したけど、あってよかった滅却師特攻因子。

 

 ちなみにこれらの事はいつもの噓八百で誤魔化してバンビちゃんにはバレてない。解放に使った霊圧を消費したくらいで陛下の能力で奪われた卍解の所有権が戻ってくるワケないじゃんプークスクス。自分のボスの実力も信じられないからすーぐメンタルブレイクするんだよなぁ。

 でも鰤読者はみんなバンビちゃんのその"弱さ"が大好きなの。

 

『とにかく! もうこういう事は二度としないでください! わかりましたね!?』

 

「御意…」

 

 なんとか謝って飛梅さまのお許しを貰う。まあ死神桃ちゃんが善人ムーヴを気を付けなきゃいけない分、あのバンビ梅焔燻り焼きのように敵を真正面からいぢめる事は飛梅にしかできなかったし、そういう意味でも彼女には頭が上がらない。

 あたしが頼んだワケじゃないのに勝手にあの娘をリョナり始めた時は「染まったなぁ」ってちょっと引いたけど(ブーメラン

 

 

「さて、肝心のハッシュヴァルトは…」

 

 蒼都(ツァン・トゥ)大人に卍解を奪われて輝いてる曇りシロちゃんを見に行きたいけど、どうしよう。虚圏(ウェコムンド)を見張ってた欠魂(ブランク)桃ちゃんから『ポテト動く』の連絡が来たのはついさっきの事だ。

 

「…あ、いたいた」

 

 軽く霊圧感知を広げると記憶した彼の霊圧が確かにある。よかった、これで我等の主人公一護くんがラスボスの懐刀に惨敗する未来は防げた。

 

 ポテトは当然だけどあたしを探しているらしい。その隣にいるのはユーハバッハだろうか。そんなに強そうに感じないのはロイド・ロイドが化けているからかな。となるとまだ山爺戦まで時間がありますね。

 

 そう、時間が。

 

 

 …

 

 

 ……

 

 

 ──ッヒャッハァァァ我慢できねえ! 久々のシロニウム摂取だ!

 

 あたしは意識を英霊宮殿(ヴァルアリャ)の本体へ向ける。霊圧を感じるかぎり卍解を奪われた直後のシーンは逃しちゃったけど、蒼都との戦闘自体はまだ続いているようだ。バンビちゃんと遊び過ぎた分はまだ取り返せる。

 

 

 

 待っててシロちゃん!

 あなたの楽しい愉しい授業参観、直ぐに見に行くからっ♡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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