雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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お待たせしました。キリがいい所まで書いてたら三週間近くかかってもうた…
シロちゃんとか蟹沢さんとか平子隊長とかが頑張る回です

 


無力ってSS編時点でクインシー・レットシュティール使った時ブルート・アルテリエ無しのハry

 

 

 

 

 

 

 

──では後は頼みます 

 

 

 桃色の光衣を纏った美しい天女が、空へと消える。残された五番隊隊士たちは我も忘れ、神秘的なその光景に呆然と見惚れ続けていた。

 

「…凄い、流石雛森(ひなもり)副隊長…」

 

「あれがあの人の卍解…」

 

「…噂は本当だったんだ…」

 

 羨望の声が止まない五班の隊列。

 それも然ること。席官ですらない末端の彼らに護廷を揺るがす大戦に関わる機会などある筈もなく、伝え聞くあの女上司──雛森桃の伝説の一端を目の当たりにしたのは此度が初めてだった。

 

 曰く、隊長でさえ殆ど使えない九十番台の鬼道を詠唱破棄で使用する達人。二十名近い護廷の隊長格部隊を一人で壊滅させた卍解の持ち主。虚圏(ウェコムンド)中の悪霊たちを従えた恐るべき指揮官。等々。

 記録が残るものから眉唾な噂まで様々な副隊長の戦力評価。しかしその大半が事実だと知って尚、隊士達の間に恐怖はない。たとえ尸魂界(ソウルソサエティ)を裏切ろうと微塵も揺るがない信頼は、あるいは盲目的、狂信的とも言えるものだった。

 

 それこそ畏怖すべき上官へ、ある種の邪な想いを懐けてしまう程に。

 

「…見えた?」

 

「……少し」

 

「くっ、羨ましい…」

 

 …具体的には憧れの美少女のボロボロの死覇装から覗く少なくない肌色や、一瞬のピンク、など。

 

「いつまでぼーっとしてるの、さっさと行動を開始しなさい!」

 

 勿論そんな不埒者らへ飛ぶのは冷やかな上司の叱咤の声で、ビクリと振り返った先には五番隊のもう一人の人気隊士、蟹沢(かにさわ)ほたる三席が彼らを睨み佇んでいた。

 誰よりも雛森副隊長の雄姿に恍惚としていた痴態を棚に上げる彼女に苦笑一つ、隊士達は慌てて指示に従い捕虜の護送陣形を取る。

 

 瓦礫の山を越えること五分弱。目的地の十二番隊技術開発局が見えてきた途中で、彼らは同隊の一団に呼び止められた。

 

「お待ちしておりました蟹沢三席! 後は我々にお任せ下さい」

 

「お願いするわ。…皆、ご苦労様! これにて任務完了です!」

 

『ハッ!』

 

 捕虜の受け取りを命じられたという十二番隊の者たちと合流し、五番隊一同の顔に笑みが戻る。

 平隊士には些か荷が重い任務。如何に優秀な元藍染隊の死神とはいえ、達成感に気が緩むのも無理はなかった。

 

 それは油断と呼ぶには酷な、僅かな隙。そんな部下たちを注意すべく後ろへ振り返った蟹沢三席は、神速で迫りくるその一撃を避けきる事ができなかった。

 

 

ガルヴァノブラスト

 

 

「な──あぐっ!」

 

「蟹沢三席!?」

 

「! 敵襲だ! 周囲警戒!」

 

 稲妻に肩を射貫かれる女上司。事態を察した第五班一同は即座に臨戦態勢を取る。

 

 

「───へぇ、やるじゃん。脳天ぶち抜くつもりだったのに」

 

 

 張り詰めた空気に木霊したのは女の声。だが隊士たちが襲撃者の姿を目にする前に、奇襲から立て直した蟹沢の攻撃が敵へ飛翔する。

 

「ッ、舐めるな!」

 

破道(はどう)の六十三        

(らい) (こう) (ほう)

 

「わぶっ…!?」

 

 瓦礫ごと敵を呑み込む雷電系高位鬼道。間髪を容れずの即応攻撃に一同は固唾を呑んで戦果を待つ。

 

 

「ぷぷぷーっ、カッコつけて出てったクセに反撃喰らうとかダッサ―」

 

「相変わらずですねぇ、キャンディちゃんはぁ」

 

「さっさとバンビを回収してトンズラすんぞ。あの化物に見つかるのはご免だ」

 

 

 しかし襲撃者は一人ではなかった。三方から失笑が聞こえ、死神たちは弾かれるように剣を構える。

 

「三人……だと……!?」

 

「そ、そんな…こんな所で…!」

 

 そこに居たのは女の一団だった。黒、紅、金と異なる髪の彼女たちが纏う衣類の色は、一様に白。賊軍の所属を表すその服装を目にし、第五班の面々は青褪める。

 

「…おいテメエ、このあたしに雷をぶつけるとか舐めてんのか?」

 

 そして蟹沢の鬼道を受けた最初の敵、緑髪の女が無傷で現れた瞬間、五番隊隊士達は己の命の終焉を悟った。

 

 

「───狼狽えるなッ!」

 

 

 だが一同の指揮官、蟹沢ほたるが彼らの揺らいだ士気を叩き直す。

 

「賊共の目的は捕虜の奪還! ここで奪われたら雛森副隊長の奮闘を無にすると知りなさい!」

 

『……ッ!』

 

「二年間の屈辱を思い出せ! 裏切り者、反乱分子だのと蔑む連中に今こそ我等の誇りを見せつけろッ!」

 

 その言葉で奮い立たぬ五番隊隊士はいない。恐怖を勇気でねじ伏せ、絶望を切り開こうとする彼等は等しく死兵となる。かつて藍染惣右介(あいぜんそうすけ)が最も尊び掲げた理念は、今なお確かに馬酔木の花に集う勇士たちの胸に宿っていた。

 

「陣形第二番! かかれッ!!」

 

『オオオオォォォッッ!!』

 

 蟹沢の号令と共に吠える第五班の隊士たち。目指すは目と鼻の先の十二番隊隊舎。命に代えても雛森副隊長の戦果を技術開発局へ護送するため、一同は進路を塞ぐ緑髪の女滅却師(クインシー)へ突撃する。

 

「何この雑魚共。威勢だけで死ぬ運命が変わる訳ないっての、バーカ」

 

 呆れた顔で女が無造作に雷撃を放つ。隊士たちの突撃陣形を一網打尽にするかと思われた彼女の攻撃は、しかし直撃の寸前、不自然に射線から逸れた。

 

「怯むな! 戦型(せんけい)四ノ型・(とり)ッ!」

 

『四ノ型・酉ッ!!』

 

縛道(ばくどう)の六十二        

百 歩 欄 干(ひゃっぽらんかん)

 

破道(はどう)の十一         

(つづり) (らい) (でん)

 

 無傷で直進する死神たちの頭上には、帯電した鬼道の杭が避雷針のようにズラリと並んでいた。そこに流れる自分の霊圧を見た女滅却師は目を見開く。

 

「ッ、こいつらあたしの雷撃を誘導して…!」

 

 そして敵が驚いている間に第五班は更なる一手を繰り出す。

 

「次よ! 戦型二ノ型──(ねずみ)ッ!」

 

『二ノ型・子ッ!!』

 

破道(はどう)の五十八        

(てん)  (らん)

 

縛道(ばくどう)の二十一        

赤 煙 遁(せきえんとん)

 

 蟹沢が生み出したのは鬼道の竜巻。そこへ部下たちが召喚した赤色の煙幕が吸い込まれ、標的の女滅却師の視界を確実に奪う。

 

「今よ! 私に続け!」

 

『応ッ!』

 

 突破が叶うなら今しかない。敵の攻撃の狙いが定まらぬ内に全速力で突破を図る第五班。

 

「チッ、雑魚が調子に乗ってんじゃねえッ!」

 

『!!』

 

 だが所詮は弱者の小細工。霊圧にものを言わせた無差別な範囲攻撃が隊士たちの陣形を掠め、一人また一人と勇敢な死神が骨も残さず消えていく。

 

 それでも彼らの疾走は止まらない。

 

「蟹沢三席! ここは貴女だけでも!」

 

「我らは散開して敵の的を増やします!」

 

「…ッ、忠義見事! ここは任せたわよ!」

 

『はっ!』

 

 捕虜を封じた棺を鬼道の縄でひったくり、蟹沢は後ろ髪を引かれる思いで足元の霊圧を爆発させる。

 

 強烈な初速。全力の瞬歩。部下たちの犠牲。全てを投じ、皆の命を背負い、蟹沢は死に物狂いで戦場を駆け抜けた。

 

 

「──いい夢見れたか、部隊長?」

 

「がはっ!?」

 

 

 しかし奮闘虚しく。突如腹部を襲った凄まじい衝撃に耐えられず、女死神は地べたに叩きつけられた。

 

「おいリルてめえ! 勝手にあたしの獲物を奪うな!」

 

「てめーがチンタラしてっからだろ、ばか。あんな子供だましに振り回されやがって」

 

 小柄な人影が蟹沢の背中で胡坐をかいている。四方を取り囲んでいた別の滅却師(クインシー)だ。

 

「くっ……芽吹け──ぐあっ!」

 

「させねーよ」

 

 起死回生の始解も妨害され、二度目の激痛が神経を抉る。解放しようとした斬魄刀は握る腕ごと遠くへ斬り飛ばされていた。

 

「てめーが器用なヤツなのはさっきのでわかってんだ。余計なコトされる前にさっさと死んでもらうぜ、死神」

 

「くぅ…っ!」

 

 桁違いの霊圧が小柄な女滅却師の指先に集まっていく。狙いの先は蟹沢の頭部、放たれれば万に一つも助からない。最早任務達成への望みは完全に断たれた。

 

「…ッ、申し訳ありません…雛森副隊長…」

 

 瞼を閉じる。涙が頬を伝う。食い縛る歯茎に血が滲む。追い込まれた蟹沢は、憧れの人へ己の無力を脳裏で詫びる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

破道(はどう)の八十八        

飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)

 

 

 

 

『なっ!?』

 

 だがその時。途轍もない爆風が辺りに吹き荒れた。

 蟹沢は慌てて瞼を開き、そこで目が眩む程の光の奔流を見る。

 

 彼女はその光に見覚えがあった。

 

 

「──かーっ、美人な女のコが輪ァ作ってやる事がリンチかいな? 男の夢を壊さんといてやー」

 

 

 剽軽な男の声が辺りに響く。普段の幼稚で情けないそれとは真逆の、力強さを感じさせる強者の声だ。

 

 そしてその数は一つではない。

 

 

「───ヤレヤレ、待てども待てども届かないと思って来てみれば……私の"研究材料"を囲んで何をギャアギャア遊んでいるのかネ、君達?」

 

 

 背筋を震わせる強大な霊圧が二つ、新たに戦場に現れた。独特な嗄れ声、神経を逆なでする皮肉げな口調、奇抜な化粧。女性の副官を連れたその男を見間違える人物は瀞霊廷に一人もいない。

 

「おい(くろつち)ィ、なに登場するタイミング被せてんねん! 折角ウチの生意気娘にドヤ顔するチャンスや思てカッコよく鬼道ぶっぱなしたのに」

 

「"バンビエッタ・バスターバイン"……いいネ、実に良い状態の個体だヨ。あの造反女らしからぬ協力的姿勢に思わず裏を疑いたくなる」

 

「話聞けやコラ!」

 

 呑気に味方へ一言噛みつき、金髪おかっぱの青年が蟹沢の側へ舞い降りる。それだけで隊士としてあるまじき、縋りたくなるような頼もしさが彼女の心に満ちていく。

 

「…胸張ってええ、ほたる。ようやった」

 

 鼓膜を震わせる優しい、穏やかな声。「後は任しとき」の一言と共に彼の霊圧が高まった。

 

 …全く。この人は肝心な時だけこうだからズルいのよ。

 

 

「遅い…ですよ──平子(ひらこ)隊長」

 

 

 そんな照れ隠しの文句を残し、五番隊三席蟹沢ほたるはゆっくりと安堵の微睡へ落ちていった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「…何だ、あの青い光は…!」

 

 

 かつて尸魂界(ソウルソサエティ)にこれ程無意味な警鐘が響いたことがあっただろうか。二十に迫る巨大な青い火柱が各地に立ち上る一目瞭然の異常事態において、十番隊を預かる最年少隊長日番谷冬獅郎(ひつがやとうしろう)の動きは素早かった。

 

「松本! 隊士たちに半径二町の距離を置きあの火柱を取り囲めと指示しろ!」

 

「はっ、不用意に近寄るなと厳命します!」

 

 少年は副官を伴い二人のみで異変の渦中へ急行する。護廷の使命に燃える死神たちを戦場から遠ざける消極的防衛策は各所から顰蹙を買いかねない。それでも冬獅郎は断行し、そして僅か数分後、事態は彼の先見性を最悪の形で証明した。

 

『三番隊吉良(きら)副隊長の霊圧消失!』

 

『同隊席官三名も消失!』

 

『西六〇一地区で隊士二十五名、死亡!』

 

『同二二四で六十一名、死亡!』

 

 三番隊管轄区にて戦端が開かれたとの報告が届いてから、冬獅郎の下へ送られてくるのは同胞達の敗北報告ばかり。その中には少なくない縁のある上級隊士たちの名もあった。

 

「吉良…ッ」

 

「莫迦な、あいつが…!」

 

 臨戦態勢の隊長格、それもあの藍染の乱を戦い抜いた歴代屈指の腕利きすら瞬殺される地獄と化した瀞霊廷。同じ側臣室仲間の運命を憂い松本乱菊(まつもとらんぎく)が瞑目する。

 しかし感傷に浸る事も許されない尋常ならざる護廷の危機は、既に冬獅郎の足元にまで迫っていた。

 

 

「───白髪の少年。君が雛森桃(ひなもりもも)の幼馴染、日番谷冬獅郎で相違ないか?」

 

 

 不意に名を呼ばれ二人は瞬時に剣を抜く。声の方角、背後の建物の屋根に佇んでいたのは、白い外套を着た人影。

 報告にあった総隊長室襲撃犯と同様の服装──滅却師(クインシー)だ。

 

「…調査に手抜かりがねえな、旅禍(りょか)。名を名乗れ」

 

蒼都(ツァン・トゥ)。僕が陛下より賜った称号は星十字騎士団(シュテルンリッター)"Ⅰ"-『鋼鉄(ジ・アイアン)』。此度の困難な任務を任された事を光栄に思っているよ」

 

「"光栄"か…随分な自信家だな」

 

 外套の裾から覗く両手の鉤爪から相手の戦法を予測し、冬獅郎は副官を下がらせ空へ跳ねる。

 

「俺を倒せと命じられたお前が抱くべき感情は"誇り"でも、任の重さへの"不安"でもねえ…

 

──俺に殺される"恐怖"だけだ!」 

 

 蒼天に座す凍雨の暗雲。天候すら従える氷の竜がその咢を開き、敵へ喰らい付く。

 直撃の後には五丈に迫る氷の塊だけが残っていた。

 

「…恐怖? 一体どこに、この僕へそんなものを感じさせる脅威があるんだ?」

 

「なっ…!」

 

 だが直後、目の前の氷山が砕け散った。氷片が散る戦場の中、冬獅郎は悠然と近付いてくる無傷な滅却師(クインシー)の様子に瞠目する。

 

「今この近辺に居る敵は君と君の副官だけだ。【特記戦力】ですらない敵に臆する腑抜けに、陛下の剣たる星十字騎士団(シュテルンリッター)は務まらない」

 

 瞬間、男の姿が消える。

 

「! 後ろです隊長ッ!」

 

「しまっ──くっ!」

 

 その攻撃を受け流せたのは条件反射に等しかった。この二年間の鍛錬で幼馴染に鍛えられた戦訓の一つ、"背後からの一撃"への警戒。何度も繰り返した奇襲対策が功を奏したに過ぎない。

 何とか態勢を立て直して反撃の刃を振るう冬獅郎。

 

 しかし彼の一閃が敵の皮膚を切り裂く事はなかった。

 

「何!?」

 

「…血装(ブルート)と【鋼鉄(ジ・アイアン)】を重ねてようやくか。破面(アランカル)鋼皮(イエロ)に苦戦していた二年前から随分と腕を上げたな」

 

「ぐあっ!」

 

 男滅却師の腕に浮かんだ青い模様が赤に染まる。その直後に冬獅郎が受けた彼の一撃には、まるで巨人の如き膂力が宿っていた。

 

 背後の建物に激突した少年の下へ松本乱菊が駆けつける。

 

「隊長! ご無事ですか!」

 

「ぐっ、クソッ…! なんだ今のは…」

 

「敵はこの短時間で吉良を倒した連中です! やはり始解のままでは…っ」

 

 そんな事は分かっている。二年前に地獄を見たあの十刃(エスパーダ)との激戦。あれら以上の強敵を覚悟していた冬獅郎も、されど先日通達された敵の「卍解封じ」の情報のせいで容易な解放に踏み切れない。

 

 だがこのままではジリ貧だとの意見も尤もだった。

 

「……仕方ねえ」

 

 故に、しばし逡巡した少年は火中の栗へ手を伸ばす覚悟を決める。

 

「松本、一瞬の違和感も見逃すな。奴らがどうやって卍解を封じるのかを見て、その封印を破る術を探せ」

 

「!」

 

「卍解を封じられた直後に俺の身に何が起こるかはわからねえ。だからこいつはお前が側に居る時にしか使えねえ手だ」

 

 信を置く副官へ「頼んだぞ」と背を預け、冬獅郎は己の斬魄刀へ苦渋の思いで呼び掛けた。

 

「悪ィ、氷輪丸。苦労を掛ける…」

 

 

── 卍解(ばんかい) ──       

(だい) () (れん) (ひょう) (りん) (まる)

 

 

 膨れ上がる自身の霊圧。暴れる冷気が辺りを凍てつかせ、少年の背で一対の氷の翼が羽ばたく。

 

 …さあ、どう来る?

 

 身構え敵の出方を待つ冬獅郎。しかし連中の秘儀の正体に彼が気付いた時、全ては手遅れだった。

 

 

── 星章化(メダライズ) ──

 

 

「何!?」

 

 異変は一瞬。男が掲げた掌大の金属盤から漆黒の光が迸った直後、冬獅郎は自身の碧い双眸を限界まで見開いていた。

 

「な、何が起きたの…?」

 

 後ろの部下の声も聞こえない。握る剣を愕然と見つめながら、少年は喘ぐように魂の相棒へ問いかける。

 

「嘘…だろ……何とか言えよ…! 何とか言ってくれよ…ッ」

 

 そんな。嘘だ。こんなことが。己の身に起きた現象を必死に否定しようとするも、冬獅郎の両手から伝わる虚無が残酷な現実を彼に突き付ける。

 

 祖母を凍えさせ、俺から死神として生きる以外の道を奪った存在。しかし同時に大切なものを護る力を与えてくれた、愛憎入り混じった無二の相棒。

 隊長への昇進。藍染惣右介の乱。銀城空吾の陰謀。多くの困難へ共に挑み、苦汁を舐め、そして乗り越えてきた。

 次の戦いでは共に、先輩風を吹かせる年上幼馴染と彼女の斬魄刀に我等の力を認めさせる。そう誓い合った、己の半身。

 

 そんな彼の声が、聞こえない。霊圧を、魂を感じない。

 それが意味する事は、この世に一つだけだ。

 

 

「────何してる、松本」

 

 しかし冬獅郎は冷静だった。今まであの悲運の少女を取り巻く絶望に触れ続けた経験は、彼の心を深く蝕みながらも確とした血肉となって、日番谷冬獅郎の精神を強靭に作り変えていたのだ。

 

天挺空羅(てんていくうら)だ、早くしろ! 全隊長にこの事を伝えるんだ!」

 

「…!!」

 

「"奴等に──卍解を奪われた"!」

 

 唖然としていた副官がはたと我に返り、慌てて通信鬼道を行使する。彼女の隙を守ろうと身構える冬獅郎だったが、対し蒼都(ツァン・トゥ)と名乗った男滅却師(クインシー)は平然と敵の情報共有を見過ごした。

 

「…何のつもりだ、てめえ…!」

 

「別にどうという事はない。君達が何をしようと僕達の勝利に変わりはないのだから」

 

「何だと? どういう──!?」

 

 だが訝しむ冬獅郎は直後にハッとする。振り向いた先は七番隊の守護担当区域。

 

 そこから彼の下まで届いたのは、馴染みのある一人の少女、雛森桃の霊圧だった。

 

 

「…なんだ、あの女はバンビエッタの所へ行ったのか」

 

 不意に蒼都(ツァン・トゥ)が渋面を作る。

 

「研究会の想定では彼女は頼りない幼馴染(きみ)を守りにこちらへ来るはずだった。彼らでも行動を予測できない奴を評価するべきか、あの無能共を責めるべきか…」

 

 努めて冷静さを保っているがその声には隠しきれない憤懣が滲んでいる。しかしそんな男の態度が、冬獅郎の地雷を踏み抜いた。

 

「来るわけねえだろ」

 

「…何だと?」

 

 苛立つ滅却師へ少年死神は凄惨な笑みを見せる。卍解を奪われ下がった戦意は、今や天井知らずに漲っていた。

 

「情報が古いな。抜け目のねえ連中だと思ってたが、そうでもなさそうだ」

 

 

破道(はどう)の八十六        

() () (れっ) (こう)

 

 

「…!!」

 

 突如上空が煌めき、眩い緑の光矢が降り注ぐ。間一髪で回避した蒼都が驚きの目でこちらを見た。

 

「あいつが俺に要らんお節介を焼いて来ねえなら──俺はもう、お前の言う"頼りない幼馴染"じゃねえって事だ」

 

 そうだ。こいつ程度の敵を一人で倒せなくてあいつを守れるワケがない。微かな面映ゆさを胸に、冬獅郎は期待に応えんと敵へ斬りかかる。

 

「使ったな、お前の得物」

 

「…貴様…!」

 

 動揺故か生身の腕ではなく両手の鉤爪で身を守る蒼都。今ならあの硬い皮膚を突破できると確信し、冬獅郎は鍔迫り合いの状態を活かして刀身を使った特殊鬼道を放つ。

 

「なっ!」

 

「白兵戦を選んだのは失策だぜ」

 

破道(はどう)の七十八        

(ざん) () (りん)

 

 黄光の斬撃が零距離で敵に直撃する。爆発を利用し距離を取ろうとする男滅却師の肩には、小さいながらも確かな傷。

 

「どうした、雛森を誘い出せなくて焦ってんのか? 自慢の硬度が形無しだぜ…!」

 

「ッ、調子に乗るなよ…死神!」

 

── 蛇 勁 爪(シェジンツァオ) ──

 

 冬獅郎の挑発に乗せられ蒼都が大技を行使する。蛇の両顎を模した霊圧の塊が神速の速さで迫り…

 

 そして少年の体を食い千切った。

 

「!? 隊長!!」

 

 上司の無残な姿に後方の松本が悲鳴を上げる。だが次の瞬間、敵の背後で轟音と共に大気が爆ぜた。

 蒼都がそれに反応できたのは鍛えられた武人の直感と、入念な情報収集の結果だった。

 

「よく防いだな、滅却師(クインシー)…!」

 

斬氷人形(ざんひょうにんぎょう)。雛森桃と切磋琢磨していたのなら必ず使ってくると思ってたよ…!」

 

 交差させた蒼都の鉤爪の間には、死んだ筈の冬獅郎の刃。しかし身代わりの術を見抜かれようと依然として少年の勢いは変わらない。

 

「言った筈だぜ、俺を相手に接近戦は悪手だってな!」

 

「フン、同じ技を二度も受ける程僕は愚かじゃない…!」

 

 そう自信げに言い放った蒼都の肌が金属質な物質へ変じていく。最強の防御力を誇る奴の能力【鋼鉄(ジ・アイアン)】だ。

 だがそれを使う時こそが、冬獅郎が待ち望んだ瞬間だった。

 

「…"三度目"は無え」

 

縛道(ばくどう)の六十一        

六 杖 光 牢(りくじょうこうろう)

 

「何!?」

 

 鬼道の攻撃を想定していた奴にそれを回避する余裕はない。短い詠唱の後、霊圧の帯が蒼都の身体に絡みつく。

 

「お前の身体が金属化する瞬間、その部位の動きだけが明らかに鈍った」

 

「!? しまっ」

 

「訊くぜ。今、俺の斬華輪から身を守るためにお前が硬化させた部位は、果たして全身の何割だ?」

 

縛道(ばくどう)の六十三        

鎖 条 鎖 縛(さじょうさばく)

 

縛道(ばくどう)の八十二        

黒 囹 楓 監(こくりょうほうかん)

 

 光の帯、鎖、そして大樹の根の檻。高位の術が折り重なり確実に相手を拘束する。

 そして千載一遇の好機を使い、冬獅郎は自身が有する【氷輪丸】最強の奥義で無防備な敵を磔にした。

 

「馬鹿な…始解で此程の力を…!」

 

「雛森を傷付ける奴は誰だろうと許さねえ! 氷の磔架と共に散れ!」

 

 

 

── 白 刄 竜 霰 架(しらきりりゅうせんか) ──

 

 

 

 宙に聳える巨大な氷の十字架。強敵の成れの果てを見つめ、冬獅郎は長い残心の後、右手の斬魄刀へ再度呼び掛けた。

 

「くそっ、卍解が戻って来ねえ」

 

「…技術開発局まで運びますか? (くろつち)隊長なら何とかしちゃいそうな気がしますけど」

 

「あいつの世話になるのかよ…」

 

 松本の進言からあのマッドの化粧塗れの顔を思い出しげんなりする冬獅郎。とはいえ他に方法がない彼に取るべき手段はそれ一つ。

 二の足を踏みながらも、十番隊の両隊長格は悪名高き涅マユリの牙城へと踵を返そうとした。

 

「仕方ねえな。二人でこいつを十二番隊に───」

 

 しかし彼らの重い足は直後、地面から強制的に離れる事になる。

 

 

 

── 卍解(ばんかい) ──       

(だい) () (れん) (ひょう) (りん) (まる)

 

 

 

『なっ!!?』

 

 冷気の爆風に吹き飛ばされ混乱する冬獅郎と松本。そして目にした光景に、二人の顔は驚愕で塗りつぶされた。

 

「……何を驚いている? 君が自分で言った事だろう」

 

──"卍解を奪われた"、と 

 

 砕けた氷の破片が舞い散る極寒の戦場。その中央に、美しい蒼色の双翼を生やした蒼都が浮かんでいた。

 冬獅郎の為のみに存在する筈の、卍解【大紅蓮氷輪丸】を操る、間違う事無き滅却師(てき)が。

 

「これが陛下のお力だ」

 

「嘘……だろ……」

 

「分かったかい? 僕たちにとって君ら死神は"敵"ではない。全てを奪い尽くしてようやくその罪過の断罪が叶う、哀れな"処刑対象"だよ」

 

 その意味を冬獅郎は理解できなかった。死神と滅却師の相容れぬ対立についても彼が持つのは霊術院で学んだ薄い知識のみ。然るに少年の耳に蒼都の主張は、かつての大戦の敗者が復讐を大義に掲げ、死神の誇りたる斬魄刀さえも穢そうとしている悪逆非道にしか聞こえなかった。

 逆上し、冬獅郎は敵へ斬りかかろうと大地を蹴る。

 

「ッ、てめえ! 俺の卍解を──」

 

 

 …だが、少年がその台詞を言い終える事はなかった。

 

 理由は彼らの下から遥か遠く、七番隊の管轄である瀞霊廷の一角。

 そこから突如として途轍もない桃色の霊圧が噴出し──

 

 

 そして、消えた。

 

 

「…なっ…!?」

 

「隊長、今のって…!」

 

 冬獅郎と松本は唖然と先程の異常が起きた方角を凝視する。残る霊圧の余韻を脳が認めるまでの数瞬は果てしなく長く、しかしそれは錯覚だと現実逃避するにはあまりに身に覚えのある現象だった。

 

 

「…ひな……もり…?」

 

 

 あり得ない。今のは雛森の卍解の霊圧だった。それが意味するのはつまり、あいつの卍解さえも自分のように奪われてしまったという事。

 

「そんな…あの娘にも連絡を送ったはずなのに…!」

 

「どういう事だ…ッ! あいつ程の死神が危険と知りながら何の策もなく敵の前で卍解するはずがねえ! てめえら雛森に何をした!?」

 

 眼前の滅却師に事情を問い質そうと吠える冬獅郎。

 そして幸か不幸か少年が欲した答えは、こちらを見下ろす敵の精鋭メンバーが余さず有していた。

 

貴星章(ヘクセンメダリオン)。特定対象のものに限り、未開放状態であっても卍解を奪える特殊な専用霊具だ。僕達星十字騎士団(シュテルンリッター)は全員このメダリオンのお陰で、雛森桃を相手に絶対的な優位に立てる」

 

「…ッ!?」

 

「バンビエッタの奴が成功したんだろう。当然か、しくじったら陛下の玉顔に泥を塗ってしまう」

 

 忌々しげに「本来は僕が奪うはずだった」と吐き捨てる蒼都。

 

 ここで遂に、冬獅郎は敵の目的に確信を持つ。こいつ等は最初からあのバカを、雛森桃を殺すために瀞霊廷(せいれいてい)の各地を浸透的に襲撃し、護廷十三隊の指揮系統の麻痺を狙ったのだ。

 誰も彼女を助けられないように。

 

「くそっ! 雛森ッ!!」

 

「なっ!? ダメです隊長!」

 

 脇目も振らずに最愛の少女の下へ駆け出す冬獅郎。しかし安易に敵から目を離した報いは秒と経たずに彼の身へ降りかかる。

 

「隙だらけだよ」

 

「ぐぁっ!?」

 

 激しい動揺の上に卍解まで加わった両者の力量差は今や圧倒的。すかさず助太刀に始解を振るって飛び込んだ松本乱菊も軽くあしらわれ、冬獅郎は気が狂うほどの焦燥に苛まれる。

 

「ちく…しょう…! 退け…! 退けよてめえッ!」

 

「崩れるのは一瞬か。あっけないものだな、日番谷冬獅郎」

 

 こんな事があって良いのか。何のための研鑽だ。新技だ。真の卍解だ。俺はこんな所で一体何をやってるんだ。

 

「ぐ、そぉ……何でだ…! どいつもこいつも…なんでそこまであいつを、雛森を狙いやがる…ッ!」

 

 二年前の悲劇が脳裏を走馬灯のように過ぎていく。

 藍染惣右介が彼女を害したのは、彼女の中に眠っていた正体不明の異なる魂魄──"読書家"を抽出するためだった。月島秀九郎が彼女の過去を冒涜したのは、銀城空吾の計画の妨げになり得る"読書家"に対抗するためだった。浦原喜助の言葉を信じるのなら、雛森桃の悪夢は全部その一つに起因する。

 

 なら滅却師(こいつ)等も同じなのか。ようやくただの死神になれた一人の少女の過去に執着し続け、彼女が取り戻した細やかな日常の幸せを悪意の汚泥で穢そうと企んでいるのか。

 

 そんな冬獅郎の呵責に目の前の滅却師は一言、答えた。

 

 

──其が奴の償うべき罪過だ 

 

 

「そう陛下は仰られた」

 

「……ッ!」

 

 蒼都が告げる。それがまるで神の決めた彼女の定めであるかのように。護廷十三隊最強の隊士たちから卍解を奪う常軌を逸した霊術、神業を仲間へ授けるような超越者が、またしても雛森桃の未来を奪おうとしているのだ。

 

 それに対し、冬獅郎はまたしても、何もできずにいた。

 

「…雛……森…ィ…」

 

 まただ。また俺はあいつを護れず、あいつが傷付く様を指を咥えて見続ける事しか出来ない。

 二年に及ぶ修行も、噛み締めたあいつと過ごす幸せも、悲劇を乗り越えた自負も。どれ一つとして雛森を救う力になってはくれない。

 

「くそ…! くそ…ォ…ッ!」

 

 地獄を潜り抜けたと思った輝かしい未来が幻だったと知った絶望が。血の滲むような努力の一切が徒労に終わった落胆が。何も変われていない無力感が、耐え難い屈辱が、少年の胸に重く沈殿する。

 

「くッ──そオオオォォォッ!!」

 

 冬獅郎は地面に這い蹲りながら、己を、最愛の幼馴染の運命を、彼女を取り巻くこの世の全てを、心の底から呪った。

 

 

 

 

 

── (ばん) (かい) ──      

羽 衣 紅 梅 鈴 鈴(はごろもこうばいりんりん)

 

 

 

 

 その時だった。遠くの地から途轍もない霊圧が噴出し、戦煙に覆われる瀞霊廷の曇天を貫いた。

 

「!! 何だ…!?」

 

「ぐ…うぁ…」

 

「この霊圧はまさか…!!」

 

 凄まじい圧迫感に胸を押さえる戦場の三人。

 忘れる事など不可能。かつて空座町(からくらちょう)上空決戦にて現隊長格の大半が身を以て知った紅桃色の煉獄。二年の時を越え、あの恐るべき力を彷彿とさせる膨大な霊圧が冬獅郎の魂にのしかかったのだ。

 

「莫迦な、これは…! 陛下のお力を以てしても…あの女の卍解は奪えなかったと言うのか…!?」

 

 そして少年の脳裏に浮かんだ答えの真偽は、唖然とその桃色の霊圧の柱を見つめる蒼都(ツァン・トゥ)の顔が何よりも明確に物語っていた。

 

 

『報告! 報告!』

 

 

 直後、少年の頭に若い女の声が響く。

 【天挺空羅】。その高位な通信鬼道を使える強者の報告に耳を傾けない者は皆無。しかし味方の損害報告ばかりが届くこの日の瀞霊廷において、その声だけは喜色に弾んでいた。

 

 

『こちら五番隊三席・蟹沢ほたる! 我が五番隊副隊長・雛森桃(ひなもりもも)、敵軍の主力バンビエッタ・バスターバインを撃破! 身柄は拘束し現在十二番隊へ護送中!』

 

 

 彼女の嬉しげな『報告以上っ!』の声を最後に、通信鬼道が役目を終える。

 

 そして声の余韻が受信者たちの頭から去った後──

 

 

「……マダ息ガアルノカ」

 

「ヒューッ! 中々タフな野郎じゃアねえか!」

 

「…へ…同期が金星上げてんだ…! あの世で吉良の馬鹿に自慢すんなら…朽木(くちき)隊長の仇を…てめえをぶっ殺すくらいはしねえとな…ッ!」

 

 細身の長髪男と巨漢の前で、最後の力を振り絞って立ち上がる赤毛の青年が──

 

 

「…一度は道を違えた()が護廷の為に頑張ってるんだ。先達の僕らが不甲斐ない戦いをしてたら、今度こそ見限られても文句は言えないねえ」

 

「ッ、やはり陛下は我等を…!」

 

 敵の老紳士と戦う伊達男が──

 

 

「…倒した…?」

 

「流石だな雛森副隊長!」  

 

  「あいつなら当然だ!」

 

「やるじゃねえか"ももちん"!」

 

「勝てる…勝てるぞ…!」

 

「……」

 

 

 強大な敵に苦戦する尸魂界(ソウルソサエティ)中の死神たちが、元裏切り者の少女の奮闘に、割れんばかりの大歓声を上げた。

 

 

 その希望の波は、瀞霊廷の中心で護廷十三隊の勇を信じ、己の怒れる心を律していた一人の伝説の下へと届く…

 

 

 

 

「──小童が意地を見せおったか」

 

 

 一番隊隊舎、総隊長室。

 巌の顔を僅かに緩め、その男は後ろに侍る新たな副官へ静かに告げた。

 

「出る。お主は残り此処を守護せよ」

 

「御意」

 

 そう返答し、ここに居るべき忠臣の代わりに跪いたのは、一番隊第三席沖牙源志郎(おききばげんしろう)。聞こえてこないあの数奇者の声を惜しみながら、部屋の長たる男は空をゆっくりと仰ぎ見た。

 

 それは祈り。任に殉じた勇敢な戦士たちへ、そして二度と会えぬ無二の友へ捧げる、護廷十三隊そのものと謳われた一人の死神の決意。

 

「…案ずるな、長次郎(ちょうじろう)…護廷の英霊達よ…」

 

 その男の名は山本元柳斎重國(やまもとげんりゅうさいしげくに)

 最古にして最強の死神が、仇敵を焼き尽くす劫火と共に今。

 

 動く───

 

「必ずやお主等を……賊軍共の(かばね)を薪に」

 

 

 

 

弔うてやろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 世界が炎に包まれる。

 それは憤怒。あるいは戦意。

 

 しかし熱気渦巻く尸魂界において、氷の御子と呼ばれたその少年だけが、切り離された冷たい世界に心を沈めていた。

 

「……何だよ、クソッ…」

 

 自分が呪った幼馴染の悲劇的な運命を、あの可憐な少女は自らの力で切り拓いた。あいつの戦果一つで、崩壊寸前だった味方の士気は爆発的に高まった。

 

 喜ぶべきなのに。護廷の隊長として、家族として、想いを寄せる者として。皆に希望を与えて前へと引っ張っていく彼女の強さを誇るべきなのに。

 

「…何なんだよ…」

 

 総隊長と戦う"陛下"とやらの救援へ飛び去る蒼都(ツァン・トゥ)を地べたから見送る事しか出来なかった少年──日番谷冬獅郎。

 

 

俺は一体…何してんだよ…

 

 

 守ると誓った少女の頼もしい霊圧に肌を焦がされ、無力な子供は永遠に届かない理想の遠さに、ただただ茫然と打ちひしがれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
ンン二ッッッチャァァァ…(三日月笑顔


ニチャ森はさておき、先月頂いた「えっちな桃ちゃんを描いて!」とのご依頼の挿絵。ちょうどいいシーンがあったので強引にねじ込み申す。
少年誌原作なのでこれくらいが青少年のアレのアレ的にアレな?(なお過去絵


【挿絵表示】

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