雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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おまたせしました
キリよく二万文字を一話にぶっこむ三週間かけた狂気。遅れてめんご

チャン一とかバッハとか死神桃ちゃんとポテトとかが頑張ります

 


惨敗ってSS編時点でクインシー・レットシュティール使った時ブルート・アルテリエ無しのハry

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ッはぁぁぁ…」

 

 

 無数の呻き声が渦巻く闇の中に、場違いな若い女の声が溶け込む。

 

 妙に熱っぽいその声の主はあたしこと雛森桃(ひなもりもも)。思わず肺から零れ出たソレが恥ずかしくて、只でさえ赤いあたしの顔は首まで色付く。

 

 真央地下大監獄。

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)が誇る霊術の粋を尽くした封印を容易く破ってふんぞり返る怪物──藍染惣右介(あいぜんそうすけ)。久々の共犯者とのオサレ逢瀬を楽しんだあたしは後ろ髪を引かれつつ時間に急かされ渋々帰路についていた。

 

(はぁぁ…えがった…)

 

 少しお話しただけなのにまだ足がふわふわしてる。感動と羞恥がごっちゃになって悶えてしまう。叶う事なら今直ぐこの気持ちを大声で叫びたい。

 

 二年ぶりに逢ったヨン様は、あの原作最オサレ形態と名高い拘束具姿に今世の死天使要素まで合わさり、バンビちゃん戦のあたしが情けなく見えるくらいカッコよかった。

 

 あれがオサレマスター。養殖オサレキャラのあたしでは到底たどり着けない至高の頂。

 悔しいが格の違いを見せつけられたと言わざるを得ないだろう。

 

(うぅ…でも失敗したなぁ…)

 

 道中の水たまりに朧げに映る自分の姿を見て、唇を噛む。

 バンビ戦で遊び過ぎてボロボロになった死覇装。黒染の色で隠れる煤焦げはともかく、見えてはいけない下着や素肌の白がもう輝かんばかりに目立っていた。

 

 容貌OSR値を疎かにするなんて淑女うんぬん以前にあたしらしくない。戦時中に着替えるのは副隊長ムーヴ的に無理なんだし、もう少しバンビちゃんの攻撃を上手に避ければよかった。

 完璧コーディネート無間ヨン様との対比があまりに惨めで気づいた途中からずっと居た堪れなかったよ…

 

(ま、まあヨン様女性に興味ないしはしたないあたしの姿もノーカン的な……でもそれはそれでモニョるというか…むぅ…)

 

 桃ちゃんも多少はリョナ映え幼児体型からNTR曇らせキャラっぽく女性的な体に成長してるのに…(ゴニョゴニョ

 

 

 的な複雑な乙女心()はさておき。

 

 結論から言うと今回のヨン様との交渉は何とか軟着陸した。

 彼に求めたのはお馴染み【一護オサレ主人公化計画】への参加。あのオサレマスターの協力を仰ぐのだから可能な限り高OSR値を手にして交渉に挑んだが、意外とこちらの容貌OSR値が低くても何とかなった。

 

 もしかしたらこの世界のヨン様も多少は一護に興味を懐いてくれてるのかも。チャン一いいよね。

 

 

 ともあれ、これで計画の成功は半ば保証された事になる。

 あの人の大正義っぷりは二度の「雛森ィィィィ!」で証明済み。払う対価は──ちょっと寂しいけど──あたし的には対価とさえ呼べないもの。これまでの事も乗せて全力で恩返しさせていただこう。

 覚悟してくださいね藍染隊長っ!

 

 

 

「───ん…?」

 

 そんな決意を新たに監獄を地上へと上る途中。瀞霊廷中に広げたあたしの霊圧感知網が気配を捉えた。

 

 場所は瀞霊廷の上空。遠目に周囲を観察、あるいは誰かを探すのに適した場所だ。

 該当する人物は当然、あたしを警戒して虚圏(ウェコムンド)から移動してきた側近ユーグラム・ハッシュヴァルト。

 

 自らの魂魄が放つ霊圧を自ら取り込み気配を消す滅却師(クインシー)の高等霊術。他の死神なら気付かないだろうけど、この有能桃ちゃんの感知を誤魔化せると思わない事ね。

 

 …でもそうなると気になる点が。

 

(主のユーハバッハが戦ってるのに桃ちゃん探しを優先してる…?)

 

 ボスを放置するという事はつまりそれだけポテトが能動的にあたしの情報を探っているという事だ。ヨン様もバッハが"読書家"の正体にかなり近づいてる事を仄めかしていた。

 

(…まあ一番知りたいのはあたしの目的、と言うより「今の雛森桃と"読書家"の関係性」かな)

 

 ったく浦原さんといい、死神も滅却師も美少女()のプライベートを何だと思ってるんだ。「雛森様だし」で全部スルーしてくれるウチの破面(アランカル)たちを見習って、どうぞ。

 

 あたしの索敵法は周囲に広げた自分の霊圧に触れた存在を知覚するセンサータイプだ。お陰で瀞霊廷中にあたしの気配が漂うけど、代わりにあたしの正確な位置を霊圧感知で特定する事は不可能である。

 現時点ではこの死神桃ちゃんの「護廷のために戦う雛森副隊長」以外の顔は見えないだろう。

 

(…となると様子見は下策ね)

 

 恐らく向こうは隠密行動中のあたしが他の星十字騎士団(シュテルンリッター)を奇襲しない事を不気味に思っている筈。そろそろ動かないと何か暗躍しているかもと疑われそう。

 急ぎましょうか。

 

(みんな他の動きはどう?)

 

 行動の前には必ず状況確認を。桃玉たちから山爺が高オサレムーヴで一護をサポートしたとの報告を受ける。驚きながらも冷静に一護の様子を意識共有で確認し、計画は順調と太鼓判。

 

(ふふっ…らしくなってるじゃん、我らのオサレ主人公は)

 

 ならばこのまま進めよう。ホントはもっと見惚れていたいけど、これは最終的なカタルシスを成功させる為に必要な事なのだ。

 

 

「…よしっ! 真に残念ではありますが、これより一護の悔しい敗北イベントを始めます! まずはポテトが天鎖斬月(てんさざんげつ)を破壊できるくらいオサレになるまで、ここで死神桃ちゃんがヤラレ役を演じて進ぜよう!」

 

 そう、忘れることなかれ。主人公の華々しい勝利を盛り上げるには必ず"屈辱的な挫折"がなくてはならない。

 そのためには何が要る? イエス、"強大な敵"だ。

 

 しかし残念ながら今のバッハは山爺の『カウンターOSR』をもろに喰らった影響でポイントが足りない。それでも平然と無双する力があるのは流石ラスボスだが…BLEACHの常識では、オサレじゃない敵に敗北すると敗者のOSR値が著しく下がってしまうのです。

 

 よって一護に辛酸を嘗めさせる敵は低オサレ状態のバッハであってはならず、あたしが介入して直接OSR値を高められる副官のハッシュヴァルト氏が望ましい。

 

(理想は彼の【世界調和(ザ・バランス)】と【身代わりの盾(フロイントシルト)】をここで使わせる事ね。原作と違って早めのバンビ戦で敵の能力の基礎OSR値がクソ高い事をアピールしたけど、ポテトの能力でその印象を決定付けよう)

 

 具体的にはあたしが彼に瀕死相当のダメージを与え、ここぞの所でポテトの傷があの能力によってあたしに反転する形で負けたい。最終章の敵勢力No.2らしい、問答無用でどうしようもない理不尽さを強調させるのだ。

 

 あんな基礎OSR値を誇るチート能力があれば【天鎖斬月(てんさざんげつ)】が折られても仕方ない。そんな客観的印象を植え付ける事で『チェーンオサレ効果』を起こし、一護のポイント下落を最小限に抑えるのが今回の作戦である。

 連鎖的に他の隊長たちの不甲斐ないイメージも払拭できる。彼らが弱いんじゃなくて敵がチートなのよ…

 

 

 後はポテトの数字が上がる代わりに負ける死神桃ちゃんのOSR値が減るけど、そもそもこの体の役割はあくまでシロちゃんの精神回復剤&加湿器、一護のOSR値調整が主な仕事だ。鰤界ではオサレ=強さなので、シロちゃんを輝かせるか弱い美少女であるべき死神桃ちゃんはオサレすぎても困るのです。

 

 ぶっちゃけ"読書家"のポイントさえ残ってれば他はどうとでもなるからね。

 

 

 

 

 

 …別にヨン様との悪企みキャッキャに夢中で放置しちゃったあの子への詫び湿にリョナ女王へ原点回帰してあげたいとか考えてないよ?

 

 ホントだよシロちゃん?

 ももうそつかない(ニヤァ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──みすみす尸魂界(ソウル・ソサエティ)へ  

   行かせはしませんよ

 

 

 全てが一瞬の出来事だった。

 

『どうした黒崎!? おい、応答し──ぐあっ!?』

 

「!? 何があった阿近(あこん)さん!? ッ、くそっ!」

 

 わからない。何でこんな事になった。青年は苛立ちに身を任せて剣を振るう。

 

 

 "贈り物"の腕輪から聞こえた破面(アランカル)の友人、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクの声。懐かしの恩人の危機を知り、仲間たちと共に虚圏(ウェコムンド)へ乗り込んだ死神代行──黒崎一護(くろさきいちご)は、そこで滅んだ筈の種族、滅却師(クインシー)の一団と遭遇した。

 

 指揮官のキルゲ・オピーを倒し、落ち着いて事情を聞こうとネリエルたちの側へ駆け寄る一護。しかしそこに協力者の浦原喜助(うらはらきすけ)の火急を告げる声が届く。

 

 

──尸魂界(ソウル・ソサエティ)が襲撃された 

 

 

 事態を察した一護は浦原が開いた解空(デスコレール)を通り、霊界の狭間黒腔(ガルガンタ)を駆けた。現地の死神から齎された報告は甚大な被害を伝えるものばかりで、更に反撃の有力手段だった隊長たちの卍解が奪われる最悪の戦況。本来護るべき人間である一護に援軍要請が飛んだのも、浦原とパイプを持つ瀞霊廷(せいれいてい)技術開発局のやむを得ない独断だったらしい。

 尸魂界では一刻も早く、当代死神代行である自分の助けが必要とされていた。

 

 しかし。

 

 

「くそっ…! 何だよこれ…!? こんな…こんなもん…!」

 

 一護の足は黒腔(ガルガンタ)の虚空から一歩も動けなくなっていた。倒した筈の滅却師(クインシー)が"陛下"とやらのために最後の力を振り絞り、作り出した強力な霊圧の檻で一護を捕らえたのだ。 

 

『畜生…! てめえ如きが千本桜(せんぼんざくら)を使ってんじゃねえッ!!』

 

恋次(れんじ)!? 何で恋次の声が…!」

 

『兄様! 兄様ああああッ!!』

 

「ルキア!? どうしたお前ら! 白哉(びゃくや)に何があった! おいルキア! ルキアあああ!!」

 

 周囲の霊子を吸収し自己修復する檻牢術から自分の声は送れない。浦原喜助の高い技術力で霊波の受信、すなわち尸魂界からの報告だけが届く今の一護の状況は、まるで誰かの悪意によって作られたかのような地獄だった。

 

 

『ぅああああッ!!!』 『畜生ッ、この野郎ッ!!!

  『どうした技術開発局!?』   

『急に応答が途絶えた…!?』 『ダメです隊長!!!

『耐えるのだ!!

『痛え…痛えよォォ』 『大丈夫だ…奴が来てくれる!!

『必ず…────』

 

 

『必ず一護が 

 来てくれる!!!

 

 

 

 

「………ッ!!」

 

 知っている。この感覚を。

 どれだけ手を伸ばしても届かなくて、苦しくて、痛くて、悲しくて、悔しくて。大切なものが自分の中から零れて落ちていく、背筋が震えて、胸が閊えて、歯茎が軋む、この世で最も大嫌いな感覚。

 

「くそっ…! くそぉっ…!!」

 

 俺は一体何をやってるんだ。何のために死神の力を取り戻したんだ。自問する度、一護の感情が壊れぬ檻に衝突する。

 

「死なせねえ…! みんな死なせねえぞ…!!」

 

 呼んでる。みんなが俺を。俺を待ってるんだ。

 

「もう嫌なんだ…! 二度と…()()誰かを失うのは…ッ!」

 

 脳裏を幾つもの光景が過る。一番見たくなくて、開けたくない、俺のせいで二度と会えなくなった人との思い出を押し込めた、心の最奥に置かれた箱。ついこの前まで亡き母親しかいなかったソコに、新しく閉じ込めなくてはならなくなった……一人の少女の姿。

 

 お袋を失って、二度と失わねえって誓った事を、俺はあの日、また破ってしまったばかりなのに。

 

「"一人前"になったって、言ってくれたんだ…!」

 

 繰り返して堪るか。失って堪るものか。

 

「だから…! だから…ッ!!」

 

 みんな、全部、全部。

 俺が。

 

 俺が───

 

 

「俺が護るんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 …そこに何者かの意図があったのか。今となってはわからない。黒崎一護の人生の全てを操った藍染惣右介(あいぜんそうすけ)は既に囚われ、その陰に隠れながら密かに助けてくれたあの本好きな少女との縁も、"仮面の相棒"の消滅と共に途切れた。一人前になった今の青年の人生を導く者は誰もいない。

 

 しかし。その時起きた事は、誰かに手を差し伸べられたかのような、そうなるように仕組まれたかのような。

 

 ほんの一瞬だけ、そんな不思議な感覚を一護の胸に宿らせる…

 

 

 

 

 

───持って征け、一護。
 

 

 

 

 

 奇跡そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、なんと眩しい光だろうか。

 

 見渡す限りが瓦礫の海と化した瀞霊廷(せいれいてい)。我ら護廷十三隊の不甲斐なさが招いた悲劇。その中心に降り立った漆黒の彗星を見て、六番隊隊長朽木白哉(くちきびゃくや)は万感の思いで目を細めた。

 

「…ルキアと…恋次は……生きていたか…?」

 

 朽ち征くこの体は、最早己の誇りたる義妹と副官の霊圧を感じる事すらできない。二人の身を案じる問いの答えは、感情を押し殺した青年の頷きになって返ってきた。

 

 ──大丈夫だ、と。

 

「…そうか……よかった…」

 

 ならば、思い残すことはもう、一つのみ。

 

「私は、もう長くは持たぬ」

 

 白哉は擦れる声で続ける。

 瀞霊廷を踏み躙る卑劣の輩を倒す事もできず、多くの隊士達を死に至らしめ、その部下や家族を悲しませ、挙句無様に敗北し死する事を、私は心より恥じる。

 

「……」

 

 引き換え、目の前で黙し、斯様な恥知らずの言葉に耳を傾けてくれる男は、人間だ。

 本来ならこの戦いに巻き込まれる事はおろか、ここに居る事すら無かった筈の者だ。我等死神が庇護しなければならない者だ。

 

「その(けい)に、最後に……頼みを残し逝く私の、悍ましき無様を許して欲しい…」

 

 

 

 

 

尸魂界(ソウル・ソサエティ)  

 

  護ってくれ

 

 

 

 

 

 …応えは無かった。しかし遠のく青年の後ろ姿を眺める白哉の胸に満ちていたのは、安堵だった。

 

 それでいい。奴はそういう男だ。応えなくとも解っている。

 

『一護だ…!!』    

『あいつ…』  『隊長、一護です!!!

  『黒崎一護…!!

『来てくれた…!!!    

   『よかった…』 『一護!!

『黒崎一護が来てくれた!!!

 

 

 感じる。あの男の気配が、賊軍の首魁にぶつかっていく。

 

 無二の恩人の温かく、力強い霊圧が瀞霊廷中に荒れ狂う様を感じながら、四大貴族の若き当主はその手に握る魂の半身…斬魄刀を、ゆっくりと手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「───如何にも早い到着だな」

 

黒崎一護(くろさきいちご)

 

 

 男の低い声が、青年の鼓膜を震わせる。

 

「…あんたが敵のリーダーか?」

 

 不思議な感覚だった。目の前に立つ黒髭の滅却師(クインシー)を見て、一護は思わず戸惑う。

 気配も雰囲気もまるで違うのに、どこかで会ったような、それでいて何かが心の中から「知るべきではない」と強く呼びかけているような。そんなちぐはぐな感覚。

 

 

「……"敵"か…」

 

 男の声は平坦だった。だが一護はそこに微かな失望、あるいはもっと違う言葉で綴られるべき複雑な感情を覚える。

 

 しかし渦巻く憤怒に支配された青年の心が、その感情の正体に気付く事はなかった。

 

「"そう"だとも、"そうでない"とも言える」

 

「……ふざけてんじゃねえぞ」

 

 敵か否か。単純な問答すら煙に巻こうとする男の態度にぐつぐつと怒りが煮え滾る。

 

尸魂界(ソウル・ソサエティ)をめちゃくちゃにしたのは…

 

てめえかって   

   訊いてんだよ!!!」

 

 周囲から感じる今にも消えそうな仲間達の霊圧。破壊し尽くされた尸魂界の街並み。その全てを目の当たりにし限界まで張り詰めた一護の理性の緒が、元凶たる滅却師(クインシー)の薄い笑みに弾け飛んだ。

 

 

「───その通りだ」

 

 

 それが鬨の声だった。全力の瞬歩で敵を強襲し卍解を振るう黒崎一護。凄まじい衝撃波が辺りの瓦礫を吹き飛ばす。

 

「ここまで来ては仕方あるまい。望み通り、無慈悲に潰してやろう」

 

「ぐっ…よくもあいつ等を!!」

 

 男が応じた得物の一合で相手の格はわかった。白哉たちを倒した連中の親玉に恥じぬ、力の底が見えない恐ろしい強敵だ。

 だがかつて戦った藍染にすら比類する実力者を前にしても、一護の剣に震えはない。

 

「…よ…せ…! お主の敵う相手では、無い…!」

 

「ッ、下がっててくれ爺さん! 俺がこいつを…倒すんだよ!!」

 

 後ろから聞こえた瀕死の総隊長山本重国(やまもとしげくに)の制止を無視し、何度も霊圧を敵へ叩きつける。長い戦いで満身創痍の老将を巻き込むまいと、一護は黒髭の男を遠くへ追い立てようとする。

 

 されど此度の戦いは、他者に気を配る事が許される生温いものではなかった。

 

「…どうした? キルゲの"監獄(ジェイル)"を破ったお前の力はその程度か?」

 

「なっ!? ──がはっ!」

 

 爆発の煙幕に敵の姿が陰った一瞬。気付けば一護は首を掴まれ地面へ叩きつけられていた。

 隙だらけな急所へ敵の刃が迫る。

 

「ぐっ……離…せッ!」

 

「! いかん、逸るな小童…!」

 

 

破道(はどう)の九十一─     

千手皎天汰炮(せんじゅこうてんたいほう)

 

 

 間一髪で一護を救ったのは総隊長の死力の最上位鬼道。炭のように焼け焦げた四肢に鞭打ち放った黄光の戦列砲火は、牽制には贅沢過ぎる火力で滅却師(クインシー)の体を吹き飛ばした。

 

「凄え…」

 

 だが感心のあまり一護が呆けた一瞬の間、強大な敵軍の首魁は瞬時に態勢を立て直していた。

 

「…邪魔立てをするな、山本重国。貴様との戦いは既に終わっている」

 

「! 爺さん!!」

 

 勝負に水を差された男が強力な霊矢の一撃で総隊長を黙らせる。疾うに限界を超えていた老死神は無念に地へ倒れ伏した。

 

「くそっ! ハアアアアアッ!!」

 

「さあ、見せてみろ! お前に植え付けられた()()()()()()()()!」

 

 味方をやられた一護の視界が激情の赤に染まる。奇策も誘いも何もない真正面からの突撃で敵の懐に潜り込み、青年は渾身の大技を振り被った。

 

 だがその直後。

 

 

 

 

卍解(ばんかい)─     

羽 衣 紅 梅 鈴 鈴(はごろもこうばいりんりん)

 

 

 

 

 振り下ろされた膨大な霊圧がぶつかる寸前。

 

「!? この霊圧、って…!」

 

「…始めたか、ハッシュヴァルト」

 

 両雄が戦う頂上決戦の遥か上空にて、もう一組の強者たちが、遂にその力の粋を激突させた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星十字騎士団最高位(シュテルンリッター・グランドマスター)ユーグラム・ハッシュヴァルトは冷静沈着な青年である。見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)皇帝補佐という全ての滅却師(クインシー)が憧れる地位に就く彼は、無論神王ユーハバッハの完全無欠なる英知によって選ばれた。

 だが今、かの英知の象徴たるハッシュヴァルトの顔には焦りがあった。

 

「まさかこんな使い方をしてくるとはな…」

 

 ハッシュヴァルトは上空に作った霊子の足場に立っていた。しかし安全圏に居る筈の彼の周囲は"敵"の霊圧で溢れかえっていた。並外れた感知能力を持つ滅却師(クインシー)の中でも群を抜いた強者たる彼だからこそ知覚できたその希薄な気配は、まるで不可視の霧のように瀞霊廷中を覆い尽くしていた。

 情報(ダーテン)では霊的接触による索敵術の一種と分析されていたが、本質はこうしてばら撒いた霊圧で術者の位置を欺瞞させる"攪乱術"なのだろう。驚異的な霊圧操作能力を必要とする、極めて合理的で万能な超高等情報系鬼道だ。

 

 青年の焦燥の原因は、この術を操り姿を晦ませた人物──雛森桃。ユーハバッハ直々に抹殺命令が下った唯一の敵個人である。

 

 "全知全能(ジ・オールマイティ)"の真価は、()()()()()()()()()()()()。ハッシュヴァルトはこの第一次尸魂界(ソウル・ソサエティ)侵攻において奴と接敵し、追い詰め、その背後の"巨悪"との関係を暴く事を期待されていた。

 

 だが彼が手を拱いている間に状況は悪化する。

 

 

「! あれはまさか…!」

 

 世界を別つ黒腔(ガルガンタ)を突破し、ユーハバッハと山本重国の戦場に新たな乱入者が現れた。ハッシュヴァルトを急かす更なる理由──黒崎一護だ。

 

 どうやってキルゲの"監獄(ザ・ジェイル)"を破ったのか。星十字騎士団(シュテルンリッター)最高の捕縛能力を有する懐刀の失態に青年は驚愕する。

 しかし彼は王へ迫る刃、それも【特記戦力】に列する強敵を止める事ができない。皇帝補佐たる者の矜持において許されぬ怠慢であろうと、それが命令であれば是非はないのだ。

 

 

 早急に任を果たし陛下の御許へ馳せ参じねば。ハッシュヴァルトは雑念を追い払い、努めて冷静に自身の標的、雛森桃の思惑を推理する。

 

 奴は姿を隠した。

 目的は奇襲か? ならば何故動かない。

 あるいは諜報か? それとも暗躍か?

 

 どちらであろうとこちらが先手を取れば奴をあぶり出せる。それも丁度、雛森桃と"読書家"の繋がりを証明できる人物が目障りな動きをしているではないか。

 

 ハッシュヴァルトは構築した霊子弓に神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)を番える。

 狙う先はあの女と強い絆で結ばれた、無力に項垂れる白髪の少年……ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()蒼都(ツァン・トゥ)との戦いで前者の価値を下降修正した結果の選択であった。

 

「…お許しください、陛下。これは牽制です───」

 

 黒崎一護をこの段階で害する。それは神王に選ばれた青年の将才が導き出した、"読書家"を刺激するための最適解であった。

 

 

 

『報告! 報告!』

 

 

 

 …唯一つ誤算があったとしたら、彼の行動は全て、彼自身の周囲に蠢く敵の霊圧によって把握されていた事。

 

影の領域(シャッテン・ベライヒ)第三転界門にて異常発生!』

 

『第一・第四門に敵性霊圧が浸透! 規定に従い強制遮断します!』

 

『敵性霊圧分析完了…で、出ました、奴です! "抹殺標的"──』

 

 

雛森桃です!!

 

 

 斯くてハッシュヴァルトの取った"先手"は、最速で敵の"後の先"に見舞われた。

 

 

「何だと…?」

 

 通信機器に届いた後方観測室の動揺がハッシュヴァルトの霊矢を霧散させる。

 瀞霊廷を見渡せば、転移門を守る聖炎列柱(ザンクト・コロナーデ)が次々と縮小していた。滅却師(クインシー)の優勢の象徴であった蒼い火柱の消滅は、護廷十三隊の希望を粉砕するという目的に無視できない影響を与えてしまう。

 

「自らの武勲より味方の士気回復を優先したか。"夢見がちな善人"という評判通りの行動ではあるが…」

 

 姿を隠していたのはこの為か。奴の鬼道の腕なら容易な事だと認めたハッシュヴァルトは、勢いの減衰が最も遅い一つの火柱へ急行せんと力む。その下に火柱を霧散させる術を行使している最中の雛森桃が居ると判断して。

 

「……!」

 

 しかし寸前、彼は思い出す。確かあの女が得意としていた鬼道の一つに霊子を伝導して自らの霊圧を送る遠隔操作術があった。

 

 ならば火柱に注意が向いた今の自分が、最も警戒すべき奴の次の行動は…

 

「奇襲────」

 

 その須臾の反応が、青年の生死を分けた、まさに間一髪の差であった。

 

 

 

 

羽衣紅梅鈴鈴(はごろもこうばいりんりん)─   

大鈴飛梅(たいりんとびうめ)会釈舞刃(あしらいまいぎり)

 

 

 

 

 爆轟。

 

 曇天を真っ赤に染める常軌を逸した大爆発がハッシュヴァルトの意識全てを塗り潰す。数瞬遅れて体を襲った激痛を噛み殺した彼は、咄嗟の霊子歩法で取れる最長距離で襲撃者との間合いを確保した。

 

「ぐ…ッ! 不意打ちとは戦士らしからぬ事をする…!」

 

 そして荒い息で敵の卑怯を蔑むハッシュヴァルトの耳に、あの女の声が届く。

 

 

「───【大鈴飛梅(たいりんとびうめ)会釈舞刃(あしらいまいぎり)】。卍解解放時に溢れ出る霊圧を全部、抜刀の一振りに乗せる奇襲用の奥義です」

 

 立ち込める白煙の中に襲撃者の朧げな姿が見える。小柄な人影の周囲に輝く桃色の羽衣は、奴が誇る強大な卍解の象徴。

 

「…"戦士らしくない"…ですか? そう思われるのは筋が違うからです」

 

 その反論はどこまでも自虐的で。挑発的で。

 

「ここに"戦士"なんて誇り高い人はいません。いるのは仲間を裏切った『罪人』と……相手の力を奪うことで自分が強くなったと勘違いしている──」

 

 

とっても手癖が悪い  

    『泥棒』だけですよ

 

 

 そして爆炎が晴れた眼上の宙に、ハッシュヴァルトは、一人の天女を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 瀞霊廷の上空で巨大な霊圧が渦を巻く。絶えず破裂し続けるそれは無数の剣撃が起こす衝撃波の嵐。その中心で漸く【抹殺標的】──雛森桃(ひなもりもも)と剣を交える事が叶ったハッシュヴァルトは、しかし意気込みに反し決して優勢ではなかった。

 

「ッ…」

 

 左腕の感覚がない。先程の一撃はかなり深く入ったらしい。自身のダメージを乱装天傀(らんそうてんがい)で誤魔化しながら、青年は女死神の攻撃に食い下がる。

 

聖炎列柱(ザンクト・コロナーデ)を消し去ると同時に、その異変を私の隙を誘う為に利用する。やはり只の無垢な小娘と見るのは早計でしたね…!」

 

「…"無垢な小娘"? 変な人。あなた方は護廷十三隊をそんな人物が副官を務めるような組織だと思って攻めてきたんですか?」

 

 女の太刀筋そのものは然程脅威ではない。そちらの才は無かったのか基礎に忠実な剣術。どこか昔の自分を思い出す。

 

 だが。

 

「死神に斬術で挑むだなんて、意外と蛮勇な方なんですね」

 

「──!!」

 

──梅焔(ばいえん)翳火(かざしび)──

 

 その愚直な剣技から繰り出される凄まじい爆発は、小手先の技術の一切を無意味にする。辛うじて静血装(ブルート・ヴェーネ)で全身を保護し、ハッシュヴァルトは爆風に身を任せ後退する。

 

 一閃一閃が正しく敵を爆殺するための破壊の一撃。しかし距離を取るだけでは、奴の卍解から逃れるには不十分。

 

「…そこも、射程圏内です」

 

──梅焔(ばいえん)飛燐(ひともし)──

 

 七支の宝剣が紅色に色付き、無造作な一振りで恐るべき霊圧密度の火球が放たれる。先程の刀身爆発攻撃で血装(ブルート)を消耗した今あれを喰らえばただでは済まない。

 

 だがハッシュヴァルトの顔に焦りはなかった。

 

滅却師(クインシー)に矢弾で挑むなど、それこそが"蛮勇"だと返答しましょう!」

 

神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)─    

簒奪聖雨(ザンクト・シュヴァール)

 

 その様は宛ら光の豪雨。頭上に生み出した大弓から霊矢の弾幕が放たれる。迫る雛森の火球を削ると同時、削いだ桃色の霊圧が青く変じハッシュヴァルトの身体に吸い込まれた。

 

「ッ、まさか……霊圧の霊子結合を破壊し吸収した…?」

 

「一目で見抜くとは。…いえ、貴女は藍染惣右介の許で石田雨竜(いしだうりゅう)の戦いを監視する機に恵まれていましたね」

 

「…アレがあたしの卍解の霊圧まで奪える力だなんて初耳でした、けどっ!」

 

 一合で遠戦は不利と悟ったか雛森が瞬歩で接敵を試みる。無論それを許すハッシュヴァルトではない。

 

「流石の慧眼です。霊圧パターンを把握された現状で私に危害を加える方法は、霊圧が分解されるまでの僅かな時間に攻勢衝撃を叩きつけられる白兵戦のみ」

 

「鬼ごっこは苦手ですけど、搦め手なら沢山持ってます…っ!」

 

 突然、女の姿が消失する。

 

「! その姿を晦ます鬼道は情報(ダーテン)で周知済みです。そして対策も然り」

 

── 聖隷(スクラヴェライ) ──

 

 即座に"霊子の絶対隷属"で周囲の霊圧を吸収するハッシュヴァルト。霊術により即席で構築されたエネルギーや物質は、霊界の普遍的なものより霊子結合が貧弱だ。瞬く間に鬼道の光学迷彩が剥がれ、驚きに目を見開く雛森桃の姿が露わになる。

 

 だがハッシュヴァルトが無防備な彼女を袈裟切りにした、その直後。

 

「…言った筈です。『搦め手なら沢山ある』と──」

 

 

羽衣紅梅鈴鈴(はごろもこうばいりんりん)─   

大鈴飛梅(たいりんとびうめ)二拍火於謡(おくりびおうた)

 

 

 斬り捨てた筈の女の声が聞こえ、青年は背後からあの歪な宝剣に腹部を穿たれた。

 

「な──ぐっ! 分身だと…!?」

 

「"霊圧が分解されるまでの僅かな時間"。あなたが仰ったその僅かな隙を、霊圧の量を増やして強引に大きくしました」

 

 咄嗟、串刺しのハッシュヴァルトは唯一残された離脱手段の"影"を用いて磔から逃れる。

 

「! 今のは…」

 

 そして離れ、目にしたのは、彼の移動法に驚く()()の雛森桃。

 信じ難い霊圧密度だ。ハッシュヴァルトが斬ったその分身は、霊子の絶対隷属の効果を受けて尚、僅かな風化のみで平然と宙に立っていた。

 

 失敗した。青年は腹部の孔を霊子膜で応急手当し眉を寄せる。

 聖隷(スクラヴェライ)の強度を誤ったのは勿論、今の一瞬で"影"の存在を知られた。既に聖炎列柱(ザンクト・コロナーデ)の転移門に細工を施せるまでにその秘密に近付いている奴ならば、来たる第二次尸魂界侵攻における我らの進軍経路に気付くかもしれない。

 

 だが…

 

 

「それに価する成果は得た」

 

 

 ハッシュヴァルトは眼前の天女を見る。

 

 背後に翻る羽衣の数は、五つ。当初の六つから一枚を減らしていながら、しかし彼女自身の霊圧に目立った変化は見当たらない。

 

「…情報(ダーテン)で確認できた貴女の卍解の情報に、その羽衣の数と観測霊圧量との比例関係がありました」

 

 大紅蓮氷輪丸(だいぐれんひょうりんまる)雀蜂雷公鞭(じゃくほうらいこうべん)など一部の卍解は持ち主の力量を遥かに凌ぐ強大な力を有する。それらは持ち主自らが解放時間や使用回数など何らかの制約を課す事で、その力を掴み損ねぬよう調整している。それがハッシュヴァルトの持つ知識だ。

 

「…『全力で当たれなくてごめんなさい』。我々が最初にその卍解を確認した二年前、貴女が斬魄刀へ向け呟いたと思われる一言です」

 

「…!」

 

「その時の貴女が纏っていた羽衣の数は四つ。バンビエッタを倒した時より二つ少なく、計測された霊圧量も桁が違いました」

 

 当時は埋め込まれた崩玉(ほうぎょく)の力、そして彼女の魂魄の大部分だと想定される"読書家(どくしょか)"の影響などの未確認要素が加わり、卍解の本来の霊圧総量は分析できなかった。

 

 だが。青年はそこで「しかし」と前置き、未だ形を殆ど維持する彼女の分身へ目を向ける。

 

「戦闘などの複雑な動作を行う事を前提に作られた霊圧人形は、その構造の精密さから霊子レベルの変化に極めて貧弱です。爆風などの単純な衝撃力を維持するだけなら未だしも、私の聖隷(スクラヴェライ)の影響下でその高度な分身が尚も機能を保っているのは尋常な事ではない」

 

「…何を仰りたいのですか?」

 

 声に微かな焦燥を滲ませる雛森桃が、分身と二人揃って剣を構える。臨戦態勢でも彼女の霊圧に大きな変化はない。やはりあの消えた二枚目の羽衣の霊圧は既に使用されている。

 

 ハッシュヴァルトは風穴の開いた自身の腹部に触れながら、静かに閉目した。

 

「申したい事はありません。私はただ計算をしているだけです」

 

「計算…?」

 

 訝しむ二人の天女の姿が、青年の閉じる瞼に遮られる。

 

「ええ────」

 

 そして。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()"()()"()()()()()()()()()()()

 

 

 

 再び瞼を開けたハッシュヴァルトの眼に映る天女の数は、一人だけになっていた。

 

 

「───なっ…!?」

 

 一拍遅れ、残った片方の雛森が動転し隣の虚空を凝視する。

 無理もない。そこに居た筈の頼れる分身が、瞬く間に消滅していたのだから。

 

 情報は得られた。酷く狼狽する彼女を眺めるハッシュヴァルトは、ゆっくりと聖隷(スクラヴェライ)血装(ブルート)を解く。この戦いではもう、どちらも必要ないだろう。

 

「…くっ、まさかこんな事…ッ! お願い飛梅(とびうめ)っ!!」

 

 

破道(はどう)の九十・"重唱(じゅうしょう)"─  

(こく) (りょう) (かく)

 

 

 得体の知れぬ力を前に積極策を取れる彼女の度胸は流石の一言。ハッシュヴァルトを中点に二つの漆黒の巨箱が交差する。まるで十字架の如きソレは一瞬で青年を呑み込み、凄まじい重力の奔流で圧し潰した。

 

「ッ、あなたは危険です! 危険すぎます!」

 

──煌熬琳原(こうごうりんげん)詠萃(うたやつれ)──

 

 天地もわからない圧倒的な破壊の轟嵐の中で、無防備なハッシュヴァルトの身体はボロ雑巾のように千切れ飛んでいく。

 

「それは鬼道でも! 斬魄刀でも! (ホロウ)の力でも! 況してや霊子操作でも滅却師(クインシー)の力でもない!」

 

 僅かに残った肌の感覚が雛森の霊圧の爆発的な高まりを感じる。沸騰する眼球で朧気に見た奴の背から、羽衣の数が一つ減り…

 

「それは…その力は、まるで…!! まるで"()()()"()──」

 

 そして全身全霊から死力を絞り出すような叫声で、四羽の天女が最大最強の奥義を解き放った。

 

「この世にあったら   

   いけない力です!!」

 

 

 

 

 

羽衣紅梅鈴鈴(はごろもこうばいりんりん)   

大鈴飛梅(たいりんとびうめ)鶯殲火(おうせんか)

 

 

 

 

 

 瀞霊廷の空を埋め尽くす紅桃色の鳥の群れがハッシュヴァルトへ殺到し、遮魂膜(しゃこんまく)を粉砕しながら反転した竜巻のように天高く立ち上った。

 二年前に護廷十三隊の名だたる強者たちを屈服させた、第三の羽衣を取り込み行使する破軍攻撃。尸魂界(ソウルソサエティ)を生きる霊魂皆がその光景を見上げ、ある者は天変地異の幕開けを幻視し、またある者は過去の悪夢に震える体を抱き締める。

 

 そして彼らの恐怖は、瀞霊廷中の建物の窓という窓、障子という障子を吹き飛ばす途轍もない大爆発になってこの世に具現化した。

 

 以前のように同胞の隊長格らの無力化を目指した手緩い攻撃ではない。脅威を排除すべく明確な殺意が籠った、恐らく今の彼女が放てるであろう全力。

 その全てを叩きつけられた哀れな滅却師(クインシー)は、肉片一つ残らずこの世から消し飛ぶ運命にあった。

 そうなる筈だった。

 

 

 

 

 

 

偽りの神(ヤルダバオト)と」

 

神なる王(ユーハヴェーハ)を」  「(たが)えるな」

 

 

── 小娘(こむすめ) ──

 

 

 

 

 

 しかしその時。上空に広がる火の海の奥に、怒れる青年の声が木霊する。

 

 そして。

 

 

 

 

「がふっ…ぁ───」

 

 

 

 

 音の消えた周囲に、粘質な破裂音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 大気がうねるほどの霊圧を漲らせる死神の青年。逆巻く霊圧を平然と受け流す黒髭の男。尸魂界(ソウル・ソサエティ)見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の戦争の天王山、黒崎一護とユーハバッハの決闘は苛烈を極めていた。

 

 

天鎖斬月(てんさざんげつ)─      

(げつ) () (てん) (しょう)

 

 

大聖弓(ザンクト・ボーゲン) ─     

神 聖 滅 剣(ハイリッヒ・シュヴェーター)

 

 

 激突する二つの巨大な霊圧が地形を粉砕する。だが渾身の一撃を放ち疲弊する一護に対し、ユーハバッハはその凄まじい爆発を物ともしない。

 

「がッ…!? く、くそっ!」

 

「彼我の力の差を知って挑んだのだろう? その程度ではあの"抜け殻"に加勢する事はおろか、私に傷一つ付ける事すら叶わんぞ!」

 

「ぐああぁぁッ!!」

 

 足を斬られ崩れ落ち、一護の顔が激痛と屈辱に大きく歪む。

 

 …何だこいつ。まるで最初に剣八(けんぱち)と戦った時のように全く奴の体を斬れない。

 確かにキルゲ・オピーとの戦いから浦原喜助が分析した滅却師(クインシー)の特殊な肉体硬化術について聞かされはした。だが術者の力量によってここまで極端に刃が通らなくなるものなのか。

 

 互角に見えていた戦いは全くの幻。自分は手を抜いていた相手の攻撃に辛うじて喰らい付いていただけに過ぎなかった。

 

「…弱いな、一護。仲間が苦しみ、息絶え、誇りを託されて尚、貴様は無力だ」

 

「ッ…!」

 

「以前の貴様であればこうはならなかった。溢れんばかりの才を引き出し、未だ復活が不完全な今の私に喰らい付く気概を見せていただろう。何が貴様をそこまで堕落させた?」

 

 必死に追撃を受け流し、一護は動かぬ足で地べたを這う。

 

 奴の言う通りだった。一人前に認められた、尸魂界を救うなどと大見栄を切っておいてこのザマだ。遠くで苦戦する恩人である少女の半身を助けに行く事すらできない。

 

「くっ…」

 

 そんな思いが仕草に出てしまったのか。思わず上空で膨大な霊圧を暴れさせる彼女へ向けた視線を、ユーハバッハに読み取られた。

 

「……成程、あの"抜け殻"か」

 

「!! ──がっ!?」

 

 突如右手の斬魄刀が岩のように重くなった。視線を向け、一護はようやく【天鎖斬月】が敵に踏みつけられたのだと気付く。残像を捉える事さえできない瞬間移動も同然の速度だった。

 

 そして突然の王手に驚愕する一護の首筋に、今度こそユーハバッハの剣が襲い掛かる。

 

「一護よ、哀れな赤子よ。今すぐ私が…」

 

 

──お前を蝕む悪魔の手を  

     この手で斬り掃おう

 

 

 それは首を貫く殺意に似合わぬ、静かな声。どこかで聞いたような、低い男の声。

 

 遠のく意識の淵で、かくして一護はようやく気付く。

 出会った当初に男が自分に向けてきたあの奇妙な感情の正体は、まるで我が子の身を案じるかのような…

 

 

 ──憐憫だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間を目にした者は、誰一人として何が起きたのか理解できなかっただろう。

 

 場所は瀞霊廷(せいていてい)の上空。

 自ら生み出した火の海を見つめる天女の体が、力なく空から堕ちる。直前まで無双の火力を放っていた破壊の権化が、何の予兆もなく、唐突に。

 

 

 そんな異様な光景の一点。立ち上る炎の中に、人影が姿を現した。

 

 金色の長髪。純白の外套。傷一つ、汚れ一つない衣類に身を包んだその美しい青年は、堕ちた天女の許へ悠然と歩み寄った。

 

 

「…未だ命がありますか。見かけに似ず異常なまでに頑丈な女性ですね」

 

 

 先刻のバンビエッタの最大火力を真正面から受けてピンピンしていたカラクリが、よもや単純な魂魄強度だったとは。此度の事といい、やはりあの"怪物"を長年魄内に宿していただけの事はある。

 

 無傷の青年──ハッシュヴァルトは地面に横たわる天女を見下ろし、そう彼女を賞賛した。

 

「なに…が………お…き…」

 

 対し、先程まで健常であった天女──雛森桃は、全身から血潮をぶちまける瀕死の肉塊へと一変していた。

 

 彼女の震える視線が彷徨う先は、三つ。

 自身が負わせた筈の傷が全て消え去ったハッシュヴァルトの体。その消えた傷が反転したかのように突如満身創痍になった自分の体。

 

 そしていつの間に手にしたのか、青年の左腕に備わる、傷だらけな"大盾"。

 

「『罪人』の貴女が知る必要はありません。死神(そちら)の言葉で称するのなら、『泥棒』とやらの使う卑怯な道具の一つです」

 

「…ぅ、ぁ…」

 

「ですが滅却師(われら)の言葉においては真実、この力こそが、陛下が我々へ与え給うた祝福。間違う事なき神の奇跡なのです」

 

 青年は掻き消えそうな雛森の霊圧を見つめる。

 

 戦いは決した。

 これ以上苦しませるのは本意ではない。陛下の御心を苛む邪悪の抜け殻であろうと、せめて死に際は一思いに断罪してやるべきだろう。

 

 それに()()()()()()()()()()()

 

 

「……失礼。そういえば名乗りがまだでしたね」

 

 さて、このまま終わっては滅却師(クインシー)の名折れ。彼女にその矜持がなかろうと、生憎こちらには偉大な王に選ばれた者としての誉がある。

 

 青年は最初に受けた侮辱の意趣を返さんと、穏やかに、されど誇らしげに宣言した。

 

 

「私の名はユーグラム・ハッシュヴァルト。見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)皇帝第一の臣にして、星十字騎士団最高位(シュテルンリッター・グランドマスター)の称号を戴く…

 

──神の『戦士』である」

 

 

 そして構えた大盾から傷が消えると同時。青年の背後に、巨大なナニカが現れた。

 

「…罪深き貴女の眼にも、()えている事を祈ります」

 

 

 

 

()()()()()……    

 

 

      ()()()()()────

  

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「───かはっ…!!」

 

 

 

意識が覚醒する。

 

「……何?」

 

瞳に光が映る。

肺に酸素が満ちる。

心臓が脈動を再開する。

 

「莫迦な、これは……!」

 

「……ッ、月牙(げつが)───」

 

 一瞬の闇の世界から現実へと舞い戻った死神の青年──黒崎一護は、咄嗟に己の首に刺さった大剣ごと敵の男を吹き飛ばした。

 

 

「───天衝(てんしょう)ッッ!!」

 

 

 漆黒の大爆発が巻き起こる。体の自由を取り戻した一護は、混乱した頭のまま立ち上がった。

 

 何だ今のは。俺は確かに切先で貫かれて…

 触れた首筋に滲む血が唯一残る死の証拠。(ホロウ)の超速再生かと胸の奥へ意識を向けれど内なる虚(ホワイト)の声は聞こえず、あの禍々しい霊圧も感じない。

 

 しかし、そんな戸惑う一護の疑問の答えを持つ者がいた。

 

 

「……失敗(しくじ)ったな」

 

「!」

 

 悪態を吐いたのは一護に剣を突き立てた張本人、ユーハバッハだった。それまで一太刀すら入れられなかった彼の身には初の傷痕、腕から左半身にかけて広がる大きな火傷が刻まれている。

 

 どういう事だ、なんで攻撃が通った。

 

 …いや、理由なんてどうでもいい。一先ず自分の身については余所に置き、一護は反撃のチャンスを逃すまいと我武者羅に飛び掛かる。

 

「ッ、くそっ!」

 

「…成程、やはり見間違いではなかったか」

 

 しかし二度目の偶然は起きない。渾身の攻撃は難なく打ち払われ、一護は後退を余儀なくされた。

 

「お前の実力を考慮してキルゲに足止めを命じたが……どうやら私の分け与えた力に長期間触れ続ける"監獄(ジェイル)"内の環境が鍵となったらしい」

 

 ユーハバッハが語る。

 脱出を目指し、一護はキルゲの牢獄の中で極限まで自身の霊圧を放ち続けた。そうして削られた"牢獄(ジェイル)"の残滓は一護の霊圧に呑み込まれ、そのままゆっくりとその魂の深部へと辿り着き…

 

「…お前の霊圧の記憶を根源から呼び覚ましたのだ」

 

「霊圧の……記憶…?」

 

 そして一護の困惑を余所に、男は感情の籠らない平坦な声色で、淡々とその真実を口にした。

 

 

「目出度い事だな。いつ、如何なる形であろうと……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 戦場に静寂が戻る。

 それもその筈。真っ直ぐこちらを見つめて宣告された男の言葉は、戦いに身を置く一護の思考を疑問符で埋め尽くす、あまりに聞き捨てならない内容だった。

 

「…"新たな同胞"……だと…?」

 

 問い返す青年の顔を見て、ユーハバッハが「哀れな事だ」と目を細める。

 

「……そうか。やはりお前は何も知らされていないのだな」

 

 

 

──お前の魂に受け継がれた 

   ()()()()()()()()()()()

 

 

 

 瞬間、一護の時が止まった。

 少なくとも青年の脳はそう感じた。一瞬で飽和した感情の制御に手間取って。

 

「…何、を…」

 

 過去の記憶が頭を過る。暗い梅雨の曇り空。河原に降り注ぐ冷たい雨。両手に張り付いた生温かい赤い液体。

 過去に聞かされた言葉が耳に木霊する。あらゆる種族の超越を目論んだ魔王により、あらゆる種族の才を恵まれた事。その探求の素体、相反する種族の交配実験の産物である事。そして一人の少女の手によって、魔王を倒すための力を与えられた事。

 

「…何の…話だ…」

 

「あの魔女の糸の確認など、幾つか手順を踏む心算だったが……そう悠長に構えてはいられなくなった」

 

 力ずくで連れ帰るとしよう。意味深な言葉ばかりで一方的にそう宣言するユーハバッハへ、一護は焦燥のあまり腹の底から咆えていた。

 

 

「何の話だって訊いてんだよ!!」

 

 

 その問いに男は一言、こう述べた。

 

 "見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)で聞かせてやる"、と──

 

 

 

 

 

 そこからは半ば蹂躙に近い戦いだった。

 

 ユーハバッハが奇妙な文字を象った霊圧を体に取り込んだ直後、その剣を受け流そうとした一護は宙を舞っていた。まるでそれまでの戦いが遊びだったかのような圧倒的な膂力に押し切られたのだ。

 

聖唱(キルヒェンリート)。不完全な私の力を一時的に取り戻す!」

 

「ぐっ…!!」

 

「これまでと同じだと思うな…! 次は貫く。二度目は無い!」

 

 だが爆発的に高まった敵の戦意に気付いた時、全ては遅すぎた。またしてもあの恐るべき瞬間移動で接近され、大剣の重い逆袈裟に【天鎖斬月】が弾かれる。

 

「! しまっ……がっ!?」

 

 曝け出された一護の頭部が、襲い掛かる男の手に鷲掴みにされる。

 そして。

 

「目覚めたばかりの静血装(ブルート・ヴェーネ)ごと我が力に平伏せ!! 黒崎一護───」

 

 ユーハバッハの大剣が一護の心臓に迫った、まさにその時。

 

 

 

「!!」

 

 

 

 男の全身から不気味な影が、剥がれ落ちた。

 

「ッ、これは…!」

 

 途端、ユーハバッハの動きが著しく鈍る。まるで彼一人だけが水中に居るかの如く。

 男が不愉快そうに見下ろすその影に一護は見覚えがあった。現世で戦った奇妙な破面(アランカル)アズギアロ・イーバーン。奴が逃亡する時に使用した正体不明の移動術だ。

 

 …そして跳ね上がった戦意が鎮火したユーハバッハの後ろに、新たな人影が舞い降りた。

 

 

 

「───影の領域(シャッテンベライヒ)圏外での活動限界です、陛下」

 

 

 

 現れたのは長い金髪の青年。自分を陛下と呼ぶその滅却師(クインシー)へ振り向いたユーハバッハが一転、薄い笑みを浮かべて彼へ問う。

 

「……随分と直前まで粘ったな、ハッシュヴァルト。その成果は期待に足るものと見做してよいか?」

 

「少なくともバンビエッタの無意味な犠牲を補う程度には」

 

「成程、やはり一筋縄ではいかんらしい」

 

 悠長に何かを話す敵の主従。だが金髪の青年の姿を見た一護は短い硬直の後、慌てて遠くの空を見上げた。

 

 

 …無い。

 

 

 いつの間にか、目の前の男と戦っていた人物の、あれ程激しく存在を主張していた彼女の──雛森桃の霊圧が、完全に消えていたのだ。

 

「…嘘……だろ…」 

 

 馬鹿な。なんで。いつ。信じられない。あんなに強かった雛森さんが。

 激しい動揺に心臓が早鐘を打つ。冷たい血が体を流れていく。

 

 …彼女は"あの人"じゃない。別人と断言できるほど無関係ではないが、俺を見守っていると言ってくれた彼女とも、俺を何度も助けて力になってくれた今亡き相棒とも違う。そんな事はわかっている。

 

 だけどあの割れた仮面の奥に見えた泣き顔が、脳髄に刻み込まれた喪失感が、黒崎一護の足を竦ませる。自分の無力が招いた悲劇の恐怖が、まるで呪いのように。

 

 

「…まあ良い。山本重国と【特記戦力】を消せなかったのは惜しいが、最低限の目的は果たした。帰還するぞ」

 

「御意」

 

 動けない一護の目の前で、敵が去ろうとしている。散々好き勝手暴れ、仲間達を殺し、傷つけ、尸魂界(ソウル・ソサエティ)をめちゃくちゃにした奴らが。

 

「────待てッ!!」

 

 一護は制止の咆哮を上げる。このまま帰したら自分がここへやってきた意味がない。

 

「どこに行くつもりだ…!? こんな事をしたてめえらを逃がす訳ねえだろ!!」

 

 だがユーハバッハはこちらを一瞥するだけで、あの妙な"影"の穴へ消えていく。

 

「ッ、待てって言ってんだろ!!」

 

 一護は去り行く二人の背中へ突撃する。

 

 屈辱、絶望、憤怒、憎悪。荒れ狂う無数の感情の向かう先へ振り下ろされた一撃は、これまでにない凄まじい殺意と威力が籠っていた。

 

 しかし、ユーハバッハへ彼の剣が振り下ろされる寸前。隣の金髪の青年が振り向き───

 

 

「…いずれまた迎えに来る。傷を癒して待つといい、黒崎一護」

 

 

 

()()()()()()…  

 

 ──()()()()()

 

 

 

 

 そう言い残し闇の奥へ消えた敵を見つめる一護の耳が、硬質な音を聞く。そして一人になった彼が自らの足元に見つけたのは…

 

 

 己の自慢の卍解【天鎖斬月(てんさざんげつ)】の、へし折られた漆黒の刀身だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しとしとと、灰色の雨が降り注ぐ瀞霊廷(せいれいてい)。白木の板で塞がれた壁や天井がみすぼらしい、かつて栄華を誇った神聖な一番隊隊舎・隊首会室では、定人の半数以下の男女が悲嘆に暮れていた。

 

 力なく項垂れる者。苛立ちを同胞へぶつける者。仲裁しようと火に油を注いでしまう者。護廷を任されし隊長の地位に就く、死神の鑑たるべき彼らがまるで童のようだ。

 

 

 先刻、敵の撤退を以て滅却師(クインシー)との戦は終結した。

 本拠地を襲撃された大混乱から、ようやく最低限の秩序を回復した護廷十三隊。彼らを率いる、戦後の緊急会議に臨んでいた隊長たちは、伝令員より眩暈がする被害報告を受けていた。

 

山本重国(やまもとしげくに)総隊長、朽木白哉(くちきびゃくや)六番隊隊長、更木剣八(ざらきけんぱち)十一番隊隊長。以上負傷者の手術は成功し、一命を取り留めました」

 

「しかし執刀された卯ノ花烈(うのはなれつ)四番隊隊長によると三名とも魂魄の損傷が酷く、再び隊長としての責務を果たす事は難しい、との事です」

 

「次官の被害も甚大です。吉良(きら)イヅル三番隊副隊長は霊圧消失後の消息不明。阿散井恋次(あばらいれんじ)六番隊副隊長、檜佐木修兵(ひさぎしゅうへい)九番隊副隊長、朽木(くちき)ルキア十三番隊副隊長の戦線復帰は未だ困難であり…」

 

 次々と隊首室へ届く報告。名が挙がった部下の隊長は瞑目し、恩師や友の不幸を知った者は悲痛に歯を食い縛る。

 

 あまりに大きすぎる敗北感に皆が現実を受け止めきれない。会議で話題に上がるのは誰が生きているか、死んでいるか。戦えるか、戦えないか。その程度の単純な戦力把握すら共有できていない、微塵の異論も許されぬ完全なる敗北だった。

 

 そんな混沌とした状況において尚、その安否が他者より特別に注目され、一目置かれる死神がいる。それは護廷十三隊の各隊長達であり、次期隊長と持て囃されるような優秀な副官、席官も含まれる。

 

 その中に、一際異彩を放つ人物が一人。そして隊首室に木霊した彼女の名に、当人の容態を聞いた場の全員が息を呑んだのは、決して避けられぬ必然だった。

 

 

「最後に……敵首魁ユーハバッハの側近と思われる滅却師(クインシー)との戦闘で負傷し、四番隊総合救護詰所へ緊急搬送された雛森桃(ひなもりもも)五番隊副隊長は……」

 

 

 

二度と目覚める見込みはない

      ──との事です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

桃「ぐえ~死んだンゴ~()」
玉「死ぬのはシロちゃんの心なんだよなぁ」(ニチャァ…


というわけで第一次侵攻は終了です。もう感覚半年近く書いてるつもりなのにまだ原作三巻半しか進んでないってマ?
ま、まあこのペースだとワイのモチベが上がる千年血戦篇アニメ放送と被るから…被るよね?
放送来年内だよね??
「二十周年とは何だったのか」とかにならないよね?(威圧


次回から音沙汰なかった桃ちゃん配下の破面(アランカル)陣営のお話になります。死んでる死神陣営と世界一つ隔てた先には悪霊たちのギャグ時空。鰤界は今日も元気に悦森してます(元凶

年内には次話を投稿したいけどあまり期待しないで…

















「────何?」


 闇が支配する影の世界の静寂を、若い青年の声が破った。

 声の主は、黒の中で一際目立つ白衣に金色の長髪を垂らした青年。思わず零れた訝しむようなソレに、彼の前を歩く黒髭の男が理由を訊ねる。

「如何した?」

「…雛森桃の魄脈が消失しません。微かながら生き永らえている様です」

 その言葉に黒髭の男が「ほう」と振り向く。

「手抜かりか、ハッシュヴァルト?」

「お戯れを。奴に与えた傷は私を四度殺せる程の深さです。あの魂魄損傷度で死なない者はこの世の存在ではありません」

「ならば積年の疑問に答えは出たな」

 小娘自身の自覚の有無は不明だが、それも今や然したる事柄に非ず。そう述べた男は徐に闇の中へ手を伸ばす。

 途端影の世界が割れ、巨大な広間が現れた。

 二人が見下ろすのは見事に整列した白い軍服姿の大軍勢。数えるのも億劫な将兵たちが一糸乱れず敬礼を向けてくる光景に眉一つ動かさず、黒髭の男は青年を侍らせ段上の玉座へ腰かける。

「諸君。穢れなき新世界を望む我が子等よ。由々しき事態だ」


 果たして滅却師(クインシー)の神なる王は、その偽りの真実を、吐き捨てるように断言した。



「あの哀れな"抜け殻"は未だ」




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──クスクス──
 










──あははっ──        ──知っちゃった──       ──クスクス──
──ふふっ──        ──しっちゃった──
──気付いちゃったね──        
──クスクス──          ──どうしよっか?──    ──あーあ──
──ふふ…──      ──わかってるクセに──
      ──かわいそうに──    ──クスクス──
 


                  ──そろそろ──

──じゃあ──           




















あたしたちとあそぼ?













 
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