雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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おまたせしました。
一体いつから…今年の投稿はもう無いと錯覚していた…?(2021年残り90分

アニ鰤発表動画を無限ループしながら年末休みに鰤二次小説を執筆する幸せ
oh can you be the number one!(チャン一のテーマ

 

 


叫谷ってSS編時点でクインシー・レットシュティール使った時ブルート・アルテリエ無しのハry

 

 

 

 

 

 

 

 欠けた月が照らす悪霊達の世界、虚圏(ウェコムンド)

 

 

 滅却師(クインシー)の指揮官を倒し、尸魂界(ソウルソサエティ)へ向かった黒崎一護が敵の首魁らしき人物と激突してしばらく。

 想い人の無事を知らせる報告に胸を撫で下ろした井上織姫は、虚圏(ウェコムンド)に残った現世の仲間達、そして破面(アランカル)の負傷者八体と共に虚夜宮(ラスノーチェス)跡地に身を隠していた。

 

 

「――つまりアナタ方は"雛森(ひなもり)"サンの命令で虚圏(ウェコムンド)へやってきたものの、途中で彼女と連絡が取れなくなった、と」

 

「その通りだ。ネリエル様があの金髪ロン毛にやられた直後に援軍を要請したのだが…」

 

「うぅ、雛森様ぁ……オラ達どうすればいいでヤンスか~…」

 

 情報共有を行っているのは浦原喜助とペッシェ・ガティーシェ。織姫にとっては二人とも大切な仲間ではあるが、当の彼らは死神と(ホロウ)。窮地を救われようと簡単に胸襟を開ける間柄ではない。

 

 特に両者の共通の知人、黒崎一護と縁が薄い他の破面(アランカル)達の警戒心が強かった。

 

「おい雑魚(ペッシェ)、しゃべり過ぎだよ!」

 

「コイツはあの藍染(あいぜん)を封印したヤベぇ死神だぞ…! 関わったらロクな事になんねえ」

 

「…珍しくおサルさん達と意見が合いますわね。そこの崩姫(プリンセッサ)はともかく、我々に浦原喜助と協力する謂われも許可もないわ」

 

 そう口々にペッシェを責め立てるのは三体の女性破面(アランカル)。これまで面識はなかったが、織姫も彼女達が十刃(エスパーダ)の一人、それも相当高位の人物に仕える従属官(フラシオン)である事は知っていた。安易に昔の敵と手を組む愚を犯さぬ慎重さは【破面軍】幹部の側近として当然か。

 

 無論、だからこそ彼女達も他に状況打開の手段がない事は理解している筈。その隙を理と利で突くのは浦原の十八番だった。

 

「まァまァ、そう邪険にしないでくださいよ。アタシはただ今回の戦争でアナタ方の力をお借りしたいだけッス」

 

「……死神の争いなんかに興味ないね」

 

「アナタ方も先程の滅却師(クインシー)達との戦いは不本意な結果に終わったはずです。舐められっぱなしは性に合わないでしょう?」

 

 重傷のネリエルの治癒に付きっ切りの織姫は、ハラハラしながら隣の剣呑な空気を見守る。破面(アランカル)達の閉口を続きを促す合図と受け取ったか、浦原が緩い態度を改め話を再開させた。

 

「"雛森"サンとの連絡が途絶えた理由として真っ先に考えられるのは滅却師(クインシー)の霊子技術による通信妨害ッス。アナタ方【破面軍】は彼らの不倶戴天の敵。尸魂界との戦争の前に目障りな不穏勢力を無力化しようと事を企んだ可能性は高いでしょう」

 

「…ッ、ばっかじゃないの? あの化け物じみた雛森サマがあんな連中に後れを取る訳ないでしょ!」

 

「そ、そうよ! さっきのロン毛の滅却師(クインシー)も確かに強かったけど、雛森様は文字通り次元が違うんだから」

 

 新たに口を開いたのは──確か、ロリとメノリといったか──織姫も知る二人組。侍女として側にいたからだろう、自分達のトップの強さを畏怖する気持ちが強く見える。

 

 しかし彼女らの震える台詞に周囲から同意の声が上がらない。同胞の従属官(フラシオン)三人娘は何故か顔を強張らせている。まるで何か悪い想像に乱れる感情を抑え込んでいるかのように。

 

 そして、そんな彼女達の胸騒ぎは、当然の如く浦原の観察眼に捉えられていた。

 

「…気付いてるんでしょう?」

 

「──ッ」

 

「霊子技術で妨害できるのは霊波通信だけッス。黒腔(ガルガンタ)を完全に解析した藍染惣右介。その勢力を引き継いだ"雛森"サンが、これほど待ち続けても援軍一人寄越さない理由なんてそう多くありません」

 

 彼の言葉に逃げ道を塞がれ、破面たちが一様に唇を噛む。

 

 ここに来て織姫もようやく事の深刻さを理解した。虚夜宮(ラスノーチェス)であんなに美味しいごはんや綺麗な衣服、豊かな暮らしを用意してくれた優しい雛森さんが、連絡が途絶えた部下を放置するはずがない。

 

 

 

──彼女達の【虚霊坤(ヴァルアリャ)】に  

  良からぬ事が起きたのだ

 

 

 

「ま、"雛森"サンは中々やり手のお姫様ッス。アナタ方が反対するのを予期して、アタシや黒崎サンと協力関係を構築する既成事実を作ろうとしているのかもしれません」

 

「……だからあたし達を放置してるってのか?」

 

「その線は否定できないッスね」

 

 ただ一つ言えるのは此度の敵が、あの"雛森"サン──【読書家】が率いる新生破面軍でさえ独力での戦いを避けたがる程の大勢力だという事。

 浦原喜助はそう断言し、他ならぬ織姫の許へ近付く。

 

「え…?」

 

 そして彼女の膝元で目を閉じ続ける、破面部隊のリーダーへ、右手を差し出した。

 

「手を組みましょう、ネリエルさん。今の我々はお互いに……これ以上仲違いしている暇はないんスよ」

 

 

 …その一言が決め手となった。徐に瞼を開けた緑髪の女性破面が重い溜息を吐き、長い葛藤の末、口を開く。

 

 

「───宜しく…お願いするわ…」

 

 

 破面達を説得した浦原がいつもの剽軽な顔に戻った。だがその眼は冷やかで、どこかここではない別の場所を睨んでいるようにも見える。拙い織姫にさえ彼の真意は当人の言う「破面達との共闘」とは別にあると推し量れた。

 

 何がどうなっているのか。

 虚霊坤(ヴァルアリャ)は無事なのか。

 朽木さん達の傷は? 浦原さんの本音は?

 死神と(ホロウ)、皆が仲良くなる事は難しいのか。

 

 現世の仲間でただ一人、あの桃色の大星雲が煌めく破面(アランカル)達の楽園を知る織姫は、不安に震える体をぎゅっと掻き抱く。

 

 

(…ウルキオラ君……)

 

 

 何も知る事が許されない非力な少女は、あのニヒルな友人の無事を祈る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空座町(からくらちょう)の住民にとって、摩訶不思議とは日常である。

 空を仰げば曇天が一瞬で快晴になり、ビルの窓を覗けば急に壁一面のガラスが砕け、町を歩けば突然目の前の道路が陥没し、公園や広場などの開けた区画では原因不明の集団死。

 近隣の市町村では何年も語り継がれるような大事件も、この地の人間で三日と覚えている者は当事者くらいのものだろう。

 

 多発する超常現象に常識が麻痺している訳ではない。むしろその逆。

 そんな事より彼らには他に、己の限りある脳細胞を割かねばならない事があるのだから。

 

 

 

「いらっしゃ──いませー…」

 

 

 その日の、とあるファッション店に勤める若い女性店員も、一空座町町民たる自らの運命を実感していた。

 

 カラン、コロン、と。ここ数年の親の声より聞いたドアベルに顔を上げた彼女は、現れた二人組の容姿を確認して即座に直視を控える。マニュアル通りの挨拶を言い切った自分が拍手喝采に包まれる幻聴すら覚えた。

 

 

「──あ"あぁぁ…クソ! いつ来ても空気が不味いぜ、現世ってのはよォ」

 

「余計な騒ぎを起こすな、ヤミー。帰りたいならさっさと選べ」

 

 

 見上げる程の躯体の色黒な巨漢と、病的なまでに色白の美青年。明らかに普通の、どころか人間とすら思えない異様な来店客が、無遠慮に革ジャンの陳列棚を漁り出した。

 

「あ? 何だこの脆い服、抓んだだけで破れやがった」

 

「ならそれも買え。言っておくが出費を増やせば、次に行く店の"A5和牛サーロイン"とやらが食えなくなるぞ」

 

「おいふざけんな! そんなルール訊いてねえぞ!?」

 

 ドガーン、と。聞き慣れた破壊音を起こし、怒れる巨漢の拳が店の壁を粉砕する。コンクリの粉塵が舞う店内から朧げに見えたのは、察しの良い通行人たちがそそくさと店先の歩道から離れていく光景。

 命を守る行動を最優先に。実に模範的な空座町民である。

 

 しかし怪人二体と共に一人店に残された女性店員の"日常"は当然終わりではない。二年前の活発期に耐えかね異動した外様の元店長ほど軟弱な神経はしていないが、それでも流石にここまで物事の中心に巻き込まれたら弱音の一つや二つ吐きたくなる。

 

「おい、女。この四着を寄越せ」

 

「…ッ! は、はい!」

 

 来た。女性定員は鼓膜を突き破らんばかりの己の心音に頬を引き攣らせながら、カウンターへ近付く小さい方の怪人へ笑顔を向ける。隣の大きい方を視界に入れる勇気はなかった。

 

「れ、レザージャンパー白が二点、ライダーパンツ黒が一点、デザインベルト白が一点。以上で87230円になります」

 

「──あァ!? おいウルキオラ、3000も残んねえじゃねえか! ステーキ買えねえぞクソッタレ!!」

 

 ズドン、と。巨漢の台パンにへし折れたカウンターが天井に突き刺さる。先程の壁も同様店の損害賠償については不問とすべきだろう。この世に人を裁く法はあっても災害を裁く法はないのだ。

 

 その災害が、女の手首程もある太い指で、可愛らしいピンクのがま口財布から紙幣を取り出す様は何かのシュールギャグにしか見えなかった。

 

「行くぞ、ヤミー」

 

「な、待ちやがれクソが! てめえだけ金使わなくていいの狡ィぞ!」

 

「俺の服は雛森(ひなもり)様より『似合っているから衣替え不要』と承認を戴いている。態々お前の買い物に付き添ってやっただけでも感謝しろ」

 

「俺のは似合ってなかったって言いてえのかよ!?」

 

 

 かくして嵐は去った。見るも無残な有様になった店内で立ち尽くす女性店員は、しばらくの放心の末、ぽつりと呟く。

 

 

 

「……これ、"雛森様"って人を訴訟すればいいのかしら…」

 

 

 

 どこかで誰かがビクリと背筋を震わせる光景を幻視しながら、彼女は今日も一日愛する故郷で生き残れた安堵に、フラフラと床に座り込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星々の海に浮かぶ永夜の宮殿。

 その一角を通る列柱の回廊に大小二つの人影があった。

 

 

「"豆腐バーグと夏の温野菜"だァ? チッ、やっぱさっきステーキ買えなかったの響いてんじゃねえか!」

 

 

 不愉快そうに舌打ちし、巨漢は握り潰した献立表を道中の中庭へ放り捨てる。

 

 現世の某所でとあるファッション店が閉店したのと時を同じく。纏う新しい衣類に目もくれず、破面(アランカル)の大男──ヤミー・リヤルゴは、隣を歩く小柄な同胞の叱咤に益々ヘソを曲げた。

 

「昼食の献立如きで一々騒ぐな。嫌なら自宮で寝てろ」

 

「ンな事したら東仙(とうせん)の野郎が五月蠅えだろ! ったくオシャレがどうとか言うけどよォ、なんで俺達破面(アランカル)が人間や死神共のくだらねえ趣味に付き合わなきゃなんねえんだ。メシの金が勿体ねえ」

 

「知らん。それが雛森様の定められたルールだ」

 

 どこまでも相方の我儘に無関心な黒髪の青年──ウルキオラ・シファー。

 まるで緊張感のない幼稚な雑談。しかしその二体の破面(アランカル)の周囲半里が、霊威五等以下の魂魄を消し飛ばす極限の霊圧地獄である事に気付かぬ莫迦はどこにも居ない。

 

 彼らの正体は万人を平伏させる悪霊達の頂点、十刃(エスパーダ)。かつて尸魂界を恐怖のどん底に突き落とした恐るべき怪物達は、この英霊の楽園【虚霊坤(ロスヴァリエス)】で変わらぬ王者の日常を謳歌していた。

 

 

「────ヤミー、ウルキオラ」

 

 

 ふと、回廊の分路の奥から低い女の声が聞こえた。馴染みのあるソレに気付いたヤミーが相手を一瞥し、片眉を顰める。

 

「何だぁ、ハリベル? いつもぞろぞろ連れてる雑魚共はどうした?」

 

「…アパッチ達ならネリエル麾下の臨時部隊で虚圏(ウェコムンド)での任務に就いている。久々の故郷だとはしゃいでいた」

 

虚圏(ウェコムンド)ぉ? …あァ、そういや朝飯前に雛森さんが滅却師(クインシー)共が来たとか言ってたっけか」

 

 美味なホットドッグの思い出に埋もれていた今朝の記憶がヤミーの頭頂に浮上する。"最強"たるその格に相応しい彼の傲慢に、しかし下界を走る激震を冷静な目で見下ろす女破面──ティア・ハリベルは溜息を吐いた。

 

 

「…ウルキオラ。雛森様が何方におられるか知らないか?」

 

 

 三人が連れ立って食堂へ向かう途中。先程の現世任務について延々とボヤく相方を無視し歩いていた青年は、ハリベルからそんな質問を囁かれた。

 

「アパッチ達について少しな。この二年間で昔の下位十刃(エスパーダ)相当に成長した三人だ。そうそう負けんだろうが…」

 

「…確かお前の従属官(フラシオン)はあの御方の寵愛を強く受けていたな」

 

「ああ……だが敵もかつてなく強大だという。その後の様子が気掛かりだ」

 

 部下の心配でもしているのだろうか。趣旨を履き違えている愚かな同胞を、ウルキオラは鼻で嗤う。

 

「くだらん。雛森様はどんな低位の数字持ち(ヌメロス)だろうと勝手に死ぬ事をお許しにならない。奴等の生死など論じるだけ無駄だ」

 

「相変わらず変なお人だぜ、ウチの女王サマは。死ぬ奴は役立たずのゴミだから捨てろつってんのによ」

 

「その(ゴミ)を"役に立つ塵"に昇華させるのが雛森様のお力の偉大さだ」

 

 利用価値があるから死なせない。自分の所有物だから死なせない。

 僅かに胸を擽るナニカを隠し、ウルキオラはいつも通り機械的にそう呟く。

 

「…そうか…そうだな。失礼した」

 

「余計な情で戦意を乱すな。俺達はあの方の望みによって蘇った死霊。力も、命も、魂さえも」

 

 

──我ら破面の遍く全ては   

  雛森様の為に存在する

 

 

 立ち止まり謝罪する女十刃へ、そんな彼らしい不動の宣言を残し、ウルキオラ・シファーは同僚の巨漢と共に先へと去って行った。

 

 

「……"遍く全て"、か…」

 

 青年の翻る長い燕尾を見つめ、ハリベルは彼の台詞を口内で転がす。それはあらゆる自由が許されぬ事を意味する言葉。意思無き虚ろな兵隊である事を望む言葉だ。

 

 ならば。ハリベルは一抹の切なさを胸に思案する。

 

 何故、あの方は…

 

 

 

「自我の源たる"心"を──"虚無"のお前に与えようとしておられるのだろうな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────はい、カットぉ!」

 

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)から遠く離れた桃ちゃんず叫谷(きょうごく)。死んだフリをしている死神ボディを放置して英霊宮殿(ヴァルアリャ)に意識を戻したあたしは、お願いしていたオサレムーヴを終えた桃玉欠魂(ブランク)たちを労っていた。

 

 先刻のユーハバッハの雛森桃バレ発言に合わせた、あの"読書家"の笑い声セリフである。

 

「うん、みんなご苦労様! 凄く不気味で無邪気な悪者っぽかったんじゃない?」

 

『──ふふんっ──このくらい当然ですわよ──それっぽく演じられたぜ──演技なんかしてないんだよなぁ──』

 

 一〇や月島さん、仮面桃ちゃんに化物扱いされた事でムキになった結果すっかり邪神RPが板についてしまったあたし達。不本意だった気持ちは最早過去の彼方、今ではノリノリで愉しんでる事実を指摘されると少し恥ずかしい…

 

 

 まあでも今回はこの前やった月島さんへの意趣返しみたいな感情的な行動じゃない。

 

 そう、せっかく死神桃ちゃんが意識不明に追い込まれる悲劇的な状況を演出できたのだ。あれをポテトのOSR値調整だけで終わらせるのは勿体ない。最大限活用するべく、あたしは何か手はないかと色んな所へ目を飛ばしていた。

 ちなみにポテト戦の開始前に影の領域(シャッテン・ベライヒ)へあたしの霊圧を流し込んだのもその一環、監視網を敵の拠点へ広げるためだったりする。

 

 そんな最中、ふと見たらバッハとポテトが意味深なオサレトークをしているではないか。こんな餌を見つけたら即シュババババ!と喰い付いてしまうのがあたし達OPB信者の悲しき性なのです。

 以前からどこかで"読書家"と雛森桃の繋がりを匂わせたいと機を窺ってたけど、過去にもあれ以上に良いタイミングはなかったと思う。死神桃ちゃんの敗北も存分に活かせたから満足だ。

 

 …シロちゃんについては最早言うまでもないよね?

 

 

 

『────戻ったぞ、雛森』

 

 

 と、そんな感じに桃玉とハァハァ今後の展開に期待を寄せていると、英霊宮殿(ヴァルアリャ)の転移門から通信が入った。現世アジトでイーバーンを保護していた我ら破面軍のお母さんことDJ-KANAMEである。

 

 シロニウムパラダイスまでまだ時間があるので、あたしから門前広間へ向かう。好き勝手できるマイ叫谷(きょうごく)内ならワープもお茶の子さいさいだ。

 

「お帰りなさい、東仙(とうせん)隊長。収穫はありましたか?」

 

「ああ、ただいま……ん?」

 

 合流した彼が挨拶を返し、懐の報告書を取り出す。そしてそのまま固まりあたしを凝視した。

 え、何すか突然?

 

「雛森、お前……藍染(あいぜん)様にお会いしたのか?」

 

「ふぇっ!?」

 

 予想だにしていなかった質問に思わずヘンな声が出た。え、なんでわかるの? 逢ったのは死神桃ちゃんだから今の欠片(ブランク)本体にヨン様の霊圧の痕跡が残るのは物理的にありえないのに。

 

「決まってるだろう。お前の顔がそんな愉快な事になっている時はあの御方と何か悪巧みをしている最中くらいだ」

 

「ちょっと待ってあたし今どんな顔してるんですか!?」

 

 咄嗟にムニムニと頬を触ってみても全くわからない。そこまで一目瞭然なんだろうかと狼狽していたらDJに笑われた。

 

「私は盲目だが、だからこそ見えるものもある。余人の気付かぬ人の心の機微がな。それだけだよ」

 

「…あ、そういえば東仙隊長って目が見えないんでしたね」

 

「………何故五十年以上共に過ごしてそれを忘れる?」

 

 そしてあたしは時間を気にしつつしばらくヨン様の話をしてあげた。DJはどこか嬉しいような切ないような顔をして遠き主に思いを馳せていたが、直ぐに頭を振って本題の報告書へ視線を戻した。

 

 書かれている内容は見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)に潜入していたイーバーンについてだ。

 

「敵の機密に触れる情報は少ないが、概ねお前の想定していた通りだったぞ」

 

「ではやはり滅却師(クインシー)の拠点は…」

 

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)が位置する影の領域(シャッテン・ベライヒ)なる空間の在処は──尸魂界(ソウルソサエティ)の真裏。その正体はかつて我々も過ごした瀞霊廷と次元を反転した地にある異界だ」

 

 DJが難しい顔で「拠点を虚圏(ウェコムンド)に移して良かった」と過去のヨン様陣営の立ち回りを称賛する。確かにこちらの手の内が赤裸々になっていた可能性を考えると間一髪だったのかも。

 当時のヨン様が滅却師(クインシー)の居場所を掴んでいたとは考え辛いけど、どうなんだろうね。バッハの存在も知ってたっぽいし。

 

 …ちなみにあたしはシロちゃんに夢中で全然考慮してませんでした、はい(素直

 

 

 しかしDJもだけど、原作の護廷十三隊も影の領域(シャッテン・ベライヒ)の存在を知った時は相当衝撃を受けていた。自分達が瀞霊廷で過ごした千年間が全て敵の監視下にあったのだ。軍機は勿論あらゆる情報が筒抜けと思って当然だろう。

 

『──その割にはバッハ達にガバが多いような…──未来視に未来改変もできるのに──シッ、言わないの────』

 

「……」

 

 脳内でヒソヒソ読者目線の正論を呟いている桃玉達はさておき。実際あの滅却師(クインシー)達のガバり具合は死神達を勝たせるための漫画的都合だったのか、それとも何か敵側に理由があって情報の絶対的優位を生かせなかったのか、真実は今でもわからない。

 

 思うに彼らの情報ガバは二つ。

 そも、得られる情報が影の領域(シャッテン・ベライヒ)が重なる瀞霊廷(せいれいてい)内のものに限り、隊長の戦闘データなど廷内で入手が難しい情報は手元に乏しい事。

 そしてヨン様に浦原(うらはら)さん、マユリ様、痣城(あざしろ)剣八の頭チート勢に見つかるのを警戒し、四人が活躍した直近二百年間は限定的にしか情報収集できていない事。

 

("影"自体は仮面の軍勢(ヴァイザード)でさえ知覚できてたしね。正体までは解ってなかったみたいけど。アレを堂々と使ってたら浦原さん達がすぐに気付く…)

 

 そう考えると本編であんなに暴れていた滅却師(クインシー)達も、ユーハバッハの【全知全能(ジ・オールマイティ)】が覚醒するまで隙だらけだったのかもしれない。情報収集も人の記憶を吸収する聖別(アウスヴェーレン)に頼る所が大きかったなら彼らのガバも頷ける。

 

『──お姉さまが自室とかでニチャニチャ素を出してたのもバレてなさそうだし──あれワンチャン"影"に見られてた可能性もあったよね…──』

 

(そ、そんなにニチャってないし…!)

 

 …バッハ達がガバってると思ってたらあたしの方がガバってた。

 

 た、多分それはあたしの凡人ムーヴのおかげで当時はノーマークだったんだよ…! 密会の場もヨン様なら防諜完璧だったろうしね!

 

『──まあそれはそうだろうけど──お姉さま色々と危なっかしい…──』

 

(む、昔の話だから…)

 

 言い訳がしんどくて草も枯れる。てか今更だけどあたしってヨン様が居ないとガバガバすぎない…?

 順調だった【一護オサレ化計画】が急に先行き怪しく思えてきたんだけど大丈夫かな…

 

 

「そ、それで東仙隊長。イーバーンさんの報告書はどんな感じですか?」

 

 不安になったのでDJに縋ってみる。なお桃玉のあたしdisからここまでざっと一秒。

 

「奴に埋め込まれたユーハバッハの力の断片だが……面白い事が解ったぞ」

 

「!」

 

 どうやら吉報のようで桃ちゃんホッと一息。口角を擡げたDJが書類を眺め、委細を語り出す。

 

 

 現世の要塞アジトにイーバーンを匿って程なくし、鳴木(なるき)市全域に不気味な光が降り注いだ。事前にあたしが用意させた各種装置による解析の結果、その光はイーバーンのもつ滅却師(クインシー)の霊圧と反応する事で、()()()()()()()()()()を生成する事がわかった。

 

 

 DJの話を聞いたあたしは、ソレが"何"かを即座に理解する。そしてゆっくりと、デカすぎる成果にほくそ笑んだ。

 

 …これがあれば、ラスボスを含む全ての滅却師(クインシー)をNTBの土俵から引き摺り下ろせる。チャン一が絨毯にならずに済み、ミラクル戦も、ゆるん鳥戦も、ポテト戦も綺麗に決する事ができる。理不尽能力の横暴を許さず、古式ゆかしい霊圧と膂力とスピードと、そしてBLEACHの真髄たるオサレが勝敗を分かつ時代に戻る。

 

 

 

 黒崎一護が活躍できる世界を、取り戻せるのだ。

 

 

 

「…その金属はどれくらいの量になりましたか?」

 

「例の光が降り注いだのはごく僅かな時間だ。イーバーンを犠牲にすれば数(グラム)程は手に入っただろうが、アジトの準備で生成できたのは粒子レベルに過ぎん」

 

 それでもDJの顔に影はない。ならば、とあたしはマイ叫谷(きょうごく)の空間を弄り、死神ボディで集めた霊圧を閉じ込めた二個の水晶匣を呼び寄せた。

 

「! それは…」

 

尸魂界(ソウルソサエティ)で採取した星十字騎士団(シュテルンリッター)達の、そしてユーハバッハの影武者の霊圧です。ユーハバッハ本人の霊圧は流石にココに持ち込むのは怖かったので諦めましたが、ロイド・ロイドの変身能力が霊圧レベルの高度なものであればサンプルとして役立つでしょう」

 

 DJが初めて口を噤んだ。

 言わんとしている無茶振りに気付いたのだろうか。でもあたしは十分できると思う。

 

 忘れがちだけど、この東仙要はヨン様陣営の頭脳を担った人物。浦原さんやマユリ様には及ばないかもしれないが、代わりにこちらにはあたしの原作知識と桃玉の(ことわり)ブレイク能力、そしてその力を使って収集した豊富な研究素材がある。ザエロアポロやロカ姉貴の力をそこに合わせれば他陣営に対する優位は計り知れない。

 

 

 これであらゆるガバはリガバリーできる。DJも忙しくさせておいた方が自分の正義について色々と悩まなくて済むはずだ。

 あぁっ、あたしはなんて仲間思いな人なんでしょう。

 

 リーダーは有能な怠け者であるべきだ、って…ステキな言葉だね!(最低

 

 

「東仙隊長、あたし達なら可能です。これらの霊圧の共通性質を解析して…」

 

 

 

 

 

──"静止(せいし)(ぎん)"の能力を    

   再現してみませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

芳ばしいガバのにほいを最後に2021を締めくくる桃ちゃん

今年も一年応援ありがとうございました
アニ鰤発表に読み切りに鰤展とファン的に盛りだくさんな年でしたね
寒い日々ですのでご自愛ください

良いお年を!

 
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