雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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アニ鰤PV2見てバンカラ地方から帰ってきました
今年の新作神ゲー多すぎでは…?(更新遅れてすみません

 


動転ってSS編時点でクインシー・レットシュティール使った時ブルート・アルテリエ無しのハry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──黒崎一護を見定めろ 

 

 第二次侵攻作戦開始の発令前。それがユーグラム・ハッシュヴァルトが神王より賜った君命だった。

 無能な臣であれば課された消極的な目標に己の信の低さを嘆くか憤っていただろう。しかし青年が覚えたのは、この「特記戦力」へ注がれる主ユーハバッハの異常な執着に対する、疑問だった。

 

 黒崎一護と剣を交わす度、その不遜な思いは強まっていく。

 

 

「……成程、どうやらお前が霊王宮で得たのは高慢さだけではないらしい。その二つの剣が自信の源か?」

 

「そう急かすなよ。今見せてやる」

 

 一護の宣言に呼び起こされ、斬魄刀が青白い光を帯びる。大技の予兆を見切ったハッシュヴァルトは瞬時に後退。

 だがその時、彼の脳に危機信号が走る。

 

「構えた方がいいぜ」

 

「…!!」

 

 咄嗟に即応できたのは磨き上げられた戦闘本能の賜物。巨大な霊圧がハッシュヴァルトの構えた剣に激突し、轟音を上げて爆ぜる。

 

 双方が一撃に込める霊圧は容易く天変地異を巻き起こす。荘厳な街並みが見る影もなくなった見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の一角で、滅却師(クインシー)の青年の輝く金髪が一房、舞い落ちた。

 

「……それがお前の新たな月牙天衝(げつがてんしょう)か」

 

 ハッシュヴァルトの固い、独り言のような問いを受け、一護が残心を解く。

 

 武器の数とは手数の数。そこに加わる威力が桁違いに跳ね上がった切り札、月牙天衝。

 元の一本の【天鎖斬月(てんさざんげつ)】が二つに分かれたのではない。正しくもう一つの、それも霊圧、強度、全てにおいて別次元の領域へ鍛え直された、漆黒の見事な双剣が黒崎一護の手に握られていた。

 

「───だが、それだけだ」

 

 ハッシュヴァルトは敵の新たな力を認めつつ、同時に落胆していた。

 

「……何だと?」

 

「黒崎一護。どうやらお前は、陛下が望まれた正しき"未来"へ至る道を、誤ったと見える」

 

 両者の霊圧で罅割れる大地を蹴り、一気に接敵するハッシュヴァルト。一護の反撃の剣が懐へ迫るが青年は流れるようにそれを避け、相手の肩へ鋭い突きを放つ。

 

 貫く寸前、二人の刃が衝突した。

 

「霊能の成長には、必ずその傾向と指向性がある」

 

「……何の話だ」

 

 瓦礫の津波の中、彼等は平然と言葉を交わす。

 

「斬魄刀の能力は元来の"系統"の枠組みを凌駕できない。そしてそれは(ホロウ)も、我等滅却師(クインシー)も同じだ。故に操る力の傾向からその者の成長の終着点は自ずと予測できる」

 

「……」

 

「鬼道系。近接系。複合系。更には炎熱系や氷雪系、幻惑系といった、起こせる現象やエネルギーの属性、またはその力への対策法等によってそれらは区別される。お前の天鎖斬月(てんさざんげつ)を例に挙げるのなら、近接戦闘に重点を置いた複合系となるだろう」

 

 あるいは彼の内なる(ホロウ)の、もしくは新たに目覚めた滅却師(クインシー)の戦闘技術。この世全ての霊能の才を有すると謂われる黒崎一護だが、それぞれ単独の能力の系統は決して対処に難いものではない。

 

 しかしハッシュヴァルトの顔に、容易な敵を前にした安堵は皆無。

 何故なら。

 

「陛下がお前に望まれたのは、その系統の枠組みを超える不可能を、可能とする事だった」

 

 残念だ。

 その一言を場に残し、ハッシュヴァルトは纏う霊圧を爆発させる。

 

「今のお前の力は、陛下が予知された真の脅威には遠く及ばない」

 

「…!」

 

 続けて、吹き飛ばした無防備な一護へそのまま肉迫。

 

「我々の最終侵攻が間近に迫った現段階において、一つとしてその片鱗を見せる事ができないのなら──」

 

 そしてハッシュヴァルトは、体勢を崩した一護の眼前に自らの剣を突き付けた。

 

「お前は最早、陛下が目を掛けるに値しない……只の有象無象だ」

 

 剣の切先が一護の蟀谷に触れる。その鈍色の刀身に映るのは鮮やかなオレンジ色。前髪に隠れる彼の表情を窺う事は叶わない。

 

 だが。

 

 

「───そんなに嬉しいか? 俺の月牙(げつが)の一発を防げた事が」

 

 

 数秒か、数分か。定かではない間の沈黙を破った黒崎一護の台詞は、屈辱に項垂れる弱者のそれでは断じてなかった。

 

「……"嬉しい"だと?」

 

「随分ベラベラ喋るからよ。無駄な会話を嫌うヤツだと思ってたんだけど、違ったか?」

 

 ハッシュヴァルトの眉間に皺が寄る。

 

「だとしたら悪ィな。生憎今の攻撃は、あんたが喜ぶような"特別な技"じゃねえんだ」

 

「……何?」

 

 突き付けられた剣を意に介さず、黒崎一護は自身の黒刀へ視線を落とす。

 

斬月(ざんげつ)()が教えてくれた。月牙天衝(げつがてんしょう)は斬魄刀の力を強く引き出すような、大袈裟な技じゃなかった。俺は今までこの技の使い方を、根本的に間違えてたんだ」

 

 意味が分からず訝しむハッシュヴァルトへ、一護が問い返す。

 

「俺の進化の未来がどうとか言ってんなら、あんたも知ってんだろ? あんたが前回へし折ったあの斬月(ざんげつ)が本当は何だったのかをよ」

 

 滅却師(クインシー)の青年はその言葉に息を呑んだ。

 

 黒崎一護の先代の斬魄刀。そこに隠された秘密にハッシュヴァルトが初めて触れたのは、前回の尸魂界(ソウルソサエティ)第一次侵攻。目の前の死神と実際に剣を交わした時であった。

 

 

 神王ユーハバッハは言った。

 魔に囚われし、()()()()──と。

 

 二枚屋王悦(にまいやおうえつ)は言った。

 君の中に、()()()()()()()()()()が居る──と。

 

 

「あんたが折ったあの"斬月"は、本物の死神の斬魄刀じゃなかった。俺が自分の強すぎる霊力で自滅しねえように、"斬月のおっさん"が代わりにくれた──あの人の滅却師(クインシー)の力だったんだ」

 

 閉じた瞼の奥で何かを想起しながら、黒崎一護はその真実を明かした。

 それは見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)が予想していた可能性の一つで、しかし今に至るまで巧妙に隠されてきた黒崎一護の"血"の記憶。我等の神王陛下がこの死神に目を掛けておられる最たる理由。

 

「……まさか」

 

 故にハッシュヴァルトは気付いた。黒崎一護の言葉の意味は、奴が持つ斬魄刀の技の正体は…

 

「感謝するぜ。滅却師(あんたら)と戦えたお陰で、俺はこの技の本当の名前を知る事ができた」

 

 青年がゆっくりと、片手の斬魄刀を横に薙ぐ。その軌跡を描くように、霊圧の紫電が尾を引いた。

 その霊圧の光は彼ら滅却師(クインシー)がよく知る、青白い──聖なる光。

 

「見せてやるよ、ハッシュヴァルト。こいつが俺の、()()()()()()()だ」

 

 そして黒崎一護が、代名詞たる彼の奥義の、真なる力を解き放った。

 

 

 

神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)─    

(げつ) () (てん) (しょう)

 

 

 

 巨大な霊圧の塊が射線上の全てを焼き尽くす。

 早くに事を予期していたハッシュヴァルトだったが、その一撃は回避するにはあまりに速過ぎた。

 

 目を瞠るのと同時、凄まじい爆発が全身に襲い掛かる。堪らず霊子の炎を掻き分け渦中から脱出した滅却師(クインシー)は、しかし新たに自分へ目掛け殺到する無数の霊圧を感知し、更なる驚愕に思わず硬直した。

 

「な……!」

 

「何驚いてんだよ。俺は神聖滅矢(こいつ)の使い方を、あんた等から学んだんだぜ?」

 

 その正体が敵の放った追撃の月牙の弾幕だと気付く須臾の間に、彼は立て続けに破壊の嵐に呑み込まれる。

 

 何という連射速度。何という火力。情報(ダーテン)に記録されていたものとは全く異なる性質と規模に進化した一護の技にハッシュヴァルトは翻弄される。

 

 全身を揺さぶる震動が、外套を引き千切る衝撃波が、身体を焼く煉獄が終わるまで、青年は霊子の炎柱に焼かれ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── * ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣撃の音と共に移りゆく一護たちの戦場。しかし力ある彼らが神王ユーハバッハの玉眼に留まる華々しい決闘を繰り広げる一方、恥辱と失望の泥濘に沈む哀れな落伍者達も戦争の災禍の確かな断片であり続ける。

 

 そんな敗者の一人であるジゼル・ジュエルは、神王が下すその評価に相応しく地べたに蹲りながら、自分を足蹴にした勝者に根源的な恐怖を刻み込まれていた。

 

「……なにアレなにアレなんだよアレ…ッ」

 

 彼女──生物学上の是非は不文律──の脳裏を抉る漆黒の悪夢、黒崎一護。千年の時を経て集められた選りすぐりの精鋭八人と足並み揃えて例の【特記戦力】に挑んだジゼルは、まるでいつものか弱い乙女の擬態が真実になったかのように鎧袖一触で腰砕けにされた。

 

 無論ジゼルの強者としての自負は本物だ。その証拠に少女が直前まで戦っていた遠方の戦場には、霊界の歴史に名を遺すであろう卍解に至った死神・斑目一角(まだらめいっかく)と彼の相棒綾瀬川弓親(あやせがわゆみちか)が肌をどす黒く変質させた姿で倒れている。三界の百万年の秩序を維持し続けてきた護廷十三隊の実力者を傷一つなく下す彼女は、常に神王の栄光の一部であった。

 

「くそくそくそ、くそ…ッ」

 

 だが今の自分はなんだ。幾度自問しようとジゼルの頭は既に答えを出していた。それでも彼女は粉々なプライドを強引に継ぎ接ぎし、これまで蔑み嘲笑ってきた弱者に己が落ちぶれた認められぬ事実から必死に目を逸らす。

 そうした極限の心理状態において恐怖が焦燥、怒りに反転するのは人間の正常な感情推移である。そして情緒の狂ったジゼルに芽生えたその激情は、彼女が縋り付く二人の女へ向かった。

 

「だからァ……──いつまで寝てんだよあんた等ッ!」

 

 震える両足で立ちあがり、ジゼルは意識を飛ばしたままの二人──キャンディス・キャットニップとミニーニャ・マカロンへヒステリックに怒鳴り散らす。

 

「このッ! 役立たず! 共がッ! バンビちゃんの奪還に失敗した時も真っ先に逃げてさァ! 弱いクセに頭も回らないならボクに迷惑かける前に死んどけよ!」

 

 そうだ、自分は悪くない。悪いのはみんなが集まる前に勝手に抜け駆けして黒崎一護にワンパンされたこいつ等だ。

 調子に乗って同じく瞬殺された当時の自分を棚に上げ、仮にも友人と呼べる数少ない仲間達へ八つ当たりする姿は無様極まりない。

 

「……あー、もういいや」

 

 しかし彼女が有する能力はその無様とは程遠い、凶悪なものだった。

 

「わざわざ安全なトコまで運んでやるのバカらしいし、面倒だけど二人共ここでボクのゾンビにしてあげる。不死身で従順。あんたたち程度ならこれ以上弱くなる事もないから、欠点無しの最高の兵隊になれるよ」

 

 ジゼルは【死者(ザ・ゾンビ)】の触媒である自身の血液を、友達だった二人の女へポタポタと垂らしていく。それは彼女達へ告げたような冷徹な計算とは決して呼べない、咄嗟の、短慮で感情的な行動。

 

 そしてだからこそ、ジゼルは自分に近付く複数の人の気配に気付けなかった。

 

 

「──成程成程。『ゾンビ化』とはこれはまた、実に興味深い能力じゃないか」

 

 

 突然背後から差し込んだ強烈な光に、ジゼルは目を細める。どこかで聞いた事のある声だったが、瞬時に思い出せない程度の雑魚ならどうでもいい。

 苛立ちをそのままに振り向き目にしたソイツの姿は、記憶の有無以前の問題だった。

 

「……まぶしくてあんま見えないんだけど、誰?」

 

「これはまたものを知らん奴だネ」

 

偉大な相手と言うのは   

   輝いて見えるものだヨ

 

「まぶしい理由の方は訊いてないんですけど?」

 

 全身が発光している何者かが瓦礫の上からこちらを見下ろしている。奴の素っ頓狂な返答に思わずツッコミを入れてしまった自分を恥じつつも、ジゼルは最初からこの変人の相手をする気がなかった。

 しかし彼女が「気が散るから消えてくんない?」と言い置いて再度ミニーニャ達へ血液を注ぎ始めると、例の発光体が聞き捨てならない事を口にした。

 

「何。前回の遭遇時に逃げ足だけは一流だった君達を、現世の死神代行がまとめて倒してくれたのでネ。手間が省けた故こうして回収に来たのだヨ」

 

「"前回"? どういう──」

 

 意味か。そう問い返そうとしたジゼルは、そこではたと気付く。

 威光を絞るなどとほざいて明度を下げた発光体の正体に? 違う。その死神の見覚えのある道化師風の姿や、奴の後ろに侍る副官の女は二の次だ。

 ジゼルの目には、一人の人物しか映っていなかった。

 

「しかし、良いネ。奴の美学か知らんが、あの黒崎一護の攻撃を受けてピンピンしている個体が居るとは、研究材料としてこれ以上望むべくもない素質だヨ」

 

「……それ……嘘、あんたまさか…!」

 

「頑丈、幸運、大いに結構。君が無事で居てくれたお陰で、こうして私の──()()()()()()()()()()()をテストできるのだからネ」

 

 ジゼルの視線の先。死神達の真上に浮かんでいたのは、長い黒髪を風に靡かせる小柄な人影。その人影が着る貫頭衣に辛うじて隠された白い肌には夥しい手術痕が這い回り、虚ろな両目の片方は完全に充血し赤黒い。

 それはジゼルの良く知る可憐で、傲慢で、バカみたいに強かった性悪少女。

 

 

「……ジジ……たすけて……たすけてよ…ぉ……」

 

 

──星十字騎士団(シュテルンリッター) "E(イー)"──  

爆 撃(ジ・エクスプロード)

BAMBIETTA BASTERBINE

 

 

 そんなかつての勝気な姿が見る影もない、くしゃくしゃに歪んだ顔を涙で濡らす、変わり果てた姿のバンビエッタ・バスターバインだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── * ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くで始まった滅却師(クインシー)同士の戦闘。バンビエッタとジゼル、死神の隊長格すら凌駕する二つの巨大な霊圧の衝突は、即座に遠地の同胞達の知る事となる。

 

 

「───ちっ、あたま痛ぇ…」

 

 友人達の状況をいち早く察知したリルトット・ランパードは、軋む身体に鞭打ち地面から起き上がる。まずは自分の状況確認だと辺りを見渡し、背後に佇むソレを目にした彼女は渋面した。

 

銀架城(ジルバーン)……随分ヤな所にぶん投げてくれるじゃねーか、あの野郎」

 

 リルトットは聳える白壁を伝いながら努めて冷静に善後策を思案しようとする。しかし直前の戦闘での出来事が彼女の正常な思考力を大きく阻害していた。

 

 黒崎一護の慈悲で戦場から一人投げ飛ばされたリルトット。屈辱に狂う彼女は一刻も早くあの舐め腐った死神モドキを殺したくて堪らなかったが、しかし同時に彼の強さを理解できない馬鹿ではなかった。

 油断は無く、完聖体(フォルシュテンディッヒ)の『共鳴』とやらで強化された先程の自分は、間違いなく今までで最も強大な力を発揮できていた。あの状態でも軽く遊ばれてしまうのなら独力で奴と戦う意味など欠片もない。

 

「かといってジジを助けに行く事も戦力的に厳しいし…」

 

 意外と仲間思いなリルトットにとってより優先順位が高いのはこちらの方。まだ黒崎一護を倒す事よりは可能性がある。だが星十字騎士団(シュテルンリッター)三指に入るバンビエッタも当然容易な相手ではない。

 

 ジゼルを攻撃するバンビエッタの狂行は、恐らくあの十二番隊の奇人・(くろつち)マユリの手により無理やり操られているせいだろう。四日前の第一次侵攻にて彼女を奪還しようとした時はヤツと五番隊のおかっぱ隊長に妨害され、結果的に退却する事でリルトットら四人は二次被害を免れた。その結果ああしてバンビエッタが敵になった事を思うと歯痒いが、そもそもアイツがあの"抹殺対象"雛森桃(ひなもりもも)と遭遇した不運が全ての原因であり、更に言うならキャンディス達に簡単に見捨てられるような普段の悪行の因果応報でもある。自分達の責任だと言われるのは極めて不本意だ。

 

 とはいえ黒崎一護に報復するにも、ジジたちを助けるにも、自分一人では力不足。そう判断したリルトットが新たな共闘仲間を求めたのは自然な流れであった。

 

銀架城(ジルバーン)か。都合が良いのか悪いのか……余計な借りを増やすのはヤなんだけどな」

 

 もっとも少女が選定した肝心の仲間は、主ユーハバッハの意に背くのと同義の災厄だったのだが、彼女自身、その些細な忠誠の綻びが後に自分を救う事になるとは微塵も予期していなかった。

 

 

 ──銀架城(ジルバーン)はね、檻なんだよ

 

 コツコツと、リルトットは王城の階段を下りていく。以前訪れた時の記憶を辿りながら、彼女はその少年の言葉を思い出していた。

 

 ──笑えるだろ? 神に等しいあの御方が、自分の創造物を自分で閉じ込めるなんてさ…

 

 白亜の城の最下層に設けられた武骨な牢獄。ユーハバッハの結界で断絶されていたそこには今や、鋼鉄の大扉だけが頼りなく中の"ばけもの"を封じている。

 

 組織随一の嫌われ者は、されど故に自らを囚える神たる祖王の本質が見えていたのだろうか。リルトットの頭にふと過った彼のその台詞は、反芻するにはあまりに無礼な疑念だった。

 

 

 ──陛下には一体どれほど、自分の未来が……暗く見えてるんだろうね?

 

 

 

 

「……やっぱりな。てめーなら結界が解かれても知ったこっちゃねーってゴロゴロしてると思ってたぜ」

 

 リルトットは聖文字"G"(ザ・グラタン)の力で喰い破った大扉の奥へ、気楽そうな再会の言葉を投げる。そして薄暗い部屋の端に置かれたソファーに寝そべる中背の少年へ、簡潔に用件を伝えた。

 

「仕事の時間だ、クズ野郎。暇してんなら手ぇ貸せや」

 

 

──星十字騎士団(シュテルンリッター) "V(ヴィー)"──  

夢 想 家(ザ・ヴィジョナリィ)

GREMMY THOUMEAUX

 

 

 彼の名はグレミィ・トゥミュー。

 

 誰もが近付く事を避け、あのユーハバッハすら持て余すこの異分子に己のへし折れたプライドを託したリルトットは、物好きではあったが、決して狂人ではなかった。何故なら広い交友関係を持つ彼女が知る中で、目の前の気だるげな空気を纏う金髪の少年こそが、最も万能にして、最も不遜な聖文字(シュリフト)を覚醒させた…

 

 

 ──最強の星十字騎士(なかま)なのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── * ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宙に立ち込める焼けた霊子の白煙が、風と共に消えていく。ハッシュヴァルトはその様を眺めながら、静かに呟いた。

 

 

「……凄まじい才だ。此れ程の技を、我等滅却師(クインシー)が使う数撃ちの霊矢と同等の小手先として操るなど……」

 

 衣類は焼け焦げ、隙間から覗く白い肌は火傷に覆われ痛々しい。

 

 彼は思う。自分の神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)がこの規模の技に至るには、一体どれ程の年月を要するのだろうか。少年期に無能の誹りを受けていたハッシュヴァルトにとって、卓越した技を持つ者は敵味方の是非なく常に敬意を払うべき存在であった。その謙虚な姿勢は自らの秘められた才を神王陛下に見出して頂いた今も変わらない。

 やはり自分は滅却師(クインシー)としては、未だ半人前だ。

 

「……さて。今一度お前に訊こう、黒崎一護」

 

 破れた白衣を風にたなびかせ、傷だらけの青年は黒崎一護へ目を向ける。

 

 そして。

 

 

 

「──その"嬉しさ"とやらを、私は今の技の何処に見出せば良いのだ?」

 

 

 

 無感情に、あるいは皮肉げに、ハッシュヴァルトはそう言った。

 

「……何だと?」

 

 黒崎一護が眉を吊り上げる。妙な事だ、「月牙(げつが)を防げた事がそんなに嬉しいか」と訊いてきたのは彼であったはずなのに。

 

「私の喜びは陛下の期待に御応えする事のみ。お前との戦いで私が喜悦を覚える事があるとすれば、それはお前が陛下の望まれる『未知の進化』の片鱗を私の前で見せた時だけだ」

 

 ご自慢の「本当の月牙天衝」とやらも、彼の斬魄刀が滅却師(クインシー)の力に由来する事を知ればその本質は然程意外ではない。無論これまで死神や破面(アランカル)完現術師(フルブリンガー)の強者達と戦いながら事実を隠し通せた事は驚きに値するが、それだけだ。

 

 このままでは陛下に吉報を言上できない。それは臣として恥ずべき失態だ。

 苛立つ一護を意に介さず、ハッシュヴァルトは「仕方がない」と息を吐く。

 

 

 直後、彼の身体から膨大な霊圧が噴出した。

 

 

「此れより聖奠戒規(ザクラメント)を実施する」

 

 凄まじい霊子竜巻の中心に煌めく青い双眸。凍てつく眼光に射貫かれ、死神の青年が顔を強張らせる。

 

「そろそろ()()()()()()、黒崎一護」

 

「ッ……!」

 

「お前が藍染惣右介(あいぜんそうすけ)の掌中から逃れられたのは偶然ではない。だがそれはお前自身の実力でもなければ、未だ秘めし奇跡の才に依るものでも、況してやあの悍ましい魔女の企みなどでも断じてない」

 

 そうだ、黒崎一護。お前の力も、命も、魂すらも。

 

「全ては、我等が主───」

 

 

ユーハバッハ陛下の  

  御為に存在するのだ

 

 

 そしてハッシュヴァルトがそう述べた、次の瞬間。

 

「ガッ……!?」

 

 一護の体中から、鮮血が噴出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── * ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『主人公(プロタゴニスト)』。

 

 あらゆる実話・創作物語における普遍的な登場人物。その概念の誕生は神々の伝説が神話や古典として記された上代よりも遥か昔、文字無き口伝の世たる先史時代にまで遡る。

 

 勧善懲悪。立身出世。「ある者が大を成す」という特定の人物の行動・心境に焦点を当てる物語は極めて単純かつ明快故、古今東西、老若男女問わず読み手の融即的心理に直結する最も原初的な文学構造であり、人間の自意識が確立する幼年齢の段階から"物語"として認知できるため「最も完成された創作類型」だと述べる文学者も多い。

 

 一方で上記の主張に対し、主人公を軸とした物語を「全ての創作物の始発点」と例える意見もある。これはこの創作類型が、完成されているが故に独創性と発展性に欠くという創作的な限界を抱えている事に由来する。

 

 そこで解決策として加えられるのが物語を広げる魅力的な"脇役"達。彼らの登場と共に物語は『伝記』から『紀伝』、『群像劇』へと変化し、現代で親しまれる複雑な人間関係や舞台移動の描写がこの段階で初めて可能となる。

 

 一見、単調な物語に広がりを与える妙手に思える技法だが、その性質故に扱いを誤れば物語の軸である主人公の存在価値が希薄化しかねない危険を孕む劇薬でもある。この負の現象は漫画や小説などの長期連載作品に顕著であり、我等が『BLEACH』の最終章【千年血戦篇】はその最たる例として悪名高い。

 読者諸君にそれら詳細を長々と語る必要はないだろう。

 

 しかし───

 

 

 

 

「ふんっ、そんな悪評もあたし達がぶっ壊してやったもんね!」

 

『──見たか者共!──何が絨毯よ!──何が主人公(笑)よ!──これがあたし達の黒崎一護だバーカ!──』

 

 前世から続く鬱憤が晴れ、あたしは桃玉と一緒にうおおと吠える。よかった、本当によかったよぉ…!

 

 両親の出会いを動物実験扱いされたり、ルキアとの出会いも、必死に開花させた才能も、くぐり抜けた困難も全部ヨン様の踏み台になるために仕組まれた事だと言われて、存在を否定され続けて、今までいっぱい苦しんで心折れて。

 それでもその度に立ち上がって、多くの試練を乗り越え続け…

 そして遂にはあのNTB厨軍団(シュテルンリッター)を瞬殺できるほどの、あたし達が渇望する真のオサレ主人公らしい雄姿を見せてくれたのだ。

 

 無自覚にバズビーやリルトットのプライドを粉砕したりなんか良からぬ素質が開花しかかってるけど、こんなに立派になってお姉ちゃん嬉しいっ。嬉しくて泣いちゃう…!

 

「……何やら良い話にしようとしてますけど諸悪の根源は主様では?」

 

『──おいそこ水を差すな飛梅ェ!──乗り越える力も希望も与えてるもん!──ホント空気読めない娘ねぇ──ネチネチネチネチ…──』

 

 ふ、ふん。そんな善悪論なんてオサレ漫画に相応しいオサレ主人公をオサレに活躍させる大義の前には些細な事よ。原作キャラが苦しまないよう助ける! 原作キャラがオサレになれるよう助ける! そこになんの違いもありゃしねえだろうが!

 

「はぁ……まあそれはさておき──その"主人公"とやらに果たしてあの滅却師(クインシー)が本当に倒せるのですか?」

 

「! 遂に来たみたいね!」

 

 さてさて。

 チャン一無双で高ぶる気持ちをそのままに、やってまいりました本日第二のビッグイベント【黒崎一護VSハッシュヴァルト】。原作ではすれ違いばかりで終ぞマトモに戦う事が無かった、両陣営屈指の強者達の激突だ。

 鰤ファン悲願の一大決戦を前にあたし達のテンションが更に上昇していく。

 

『──おおっ、二年前の朽木白哉(くちきびゃくや)戦そっくりの熱すぎる展開!──今の一護くんがどう戦うのかワクワクするわね…!──』

 

「飛梅はハッシュヴァルトが有利だと見てるの?」

 

「私の"鶯殲火(おうせんか)"を耐えて反撃してきた敵ですもの。あの滅却師(クインシー)の能力は発動される前に意識を刈り取るくらいしか攻略法がなさそうですし、おまけに本人も慎重で思慮深いとくれば不意を突くのも一苦労かと」

 

 見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の見事な都市景観をめちゃくちゃにしながら戦う一護とポテトと、それをわいわい観戦するあたし達。客席を飛び交う意見は様々だけど、飛梅ちゃんの考えはいかにもOPB素人っぽくて微笑ましい。

 

 視界に映るのは【強者の平常心】や【沈黙は金】などのOSRムーヴを駆使して戦うチャン一の姿。原作読者なら一目瞭然だが、ああいう言葉数少なく冷静な顔をしている時の一護はマジで強い。飛梅ちゃんが懸念するチート能力を使われようと圧倒的OSR値の前には全てが無力。それがこの世の真理【Osare(O) Point(P) Battle(B)】なのだ。

 

 …しかし同時に、直接戦ったあたしはポテトの【Nouryoku(N) TUEEE(T) Battle(B)】的な強さもよく知ってる。雛森ボディの異常な頑丈さは原作のお墨付きとはいえ、それでもポテトのダメージ反転能力とチート盾の倍ドンは本当にヤバかった。桃玉と融合していない純死神のままだったらあたしはあそこで死んでいただろう。

 

(苦戦は必至だけど、やっぱり一番の不安はポテトが雛森桃(あたし)に勝利して得たOSR値がどれ程残ってるか、ね…)

 

(──前の一護の卍解を折った時に使い切ってくれてたらいいけど──ちょっと敵にオサレ塩を送り過ぎたかな──)

 

 一応あの戦いでポテトに聖文字(シュリフト)身代わりの盾(フロイントシルト)を使わせて【能力初披露】ボーナスを浪費させる事は成功している。でも本当はあそこで【能力解説】ボーナスも切らせるつもりだったのに、結局意味深な台詞を引き出すのみで煙に巻かれてしまった。

 NTB強者でありながらOPBでも戦えるハッシュヴァルトさんは間違いなく章のラスボスを張れるレベルの強者である。

 

『──でも危なくなったらあたし達が介入するし勝敗はどうでもいいのよね──』

 

「夢を壊すような事言わないで」

 

「ウチの亡者(アランカル)共ならいつでも逝けますわ。人の梅園をめちゃくちゃにするくらい元気が余っているんですもの、存分に働いてくれるでしょうね? うふふ」

 

 桃玉と飛梅が笑顔で唆してくるが、如何にポテト戦とはいえ現段階で虚霊坤(あたし達)が舞台に上がるのはダメだ。あのクソ試合製造機親衛隊(シュッツシュタッフェル)四人衆(二人は冤罪)を「綺麗に倒す」という原作改変を目指す以上、あたしも譲れない。

 

「ですが、その、"オシャレ値"? その巫山戯た話に通じる事ですが、斬月(ざんげつ)の青年がここで全力を出して手札を使い切ったら、後に控える敵の親玉と戦う時に不利になりませんか?」

 

「オシャレじゃなくて"オサレ"だ、二度と間違えるな」

 

 BLEACHキャラのクセにOSR値を「ふざけた話」と言う飛梅の不適切な発言はさておき、彼女は本命のユーハバッハ戦を見越して一護に余力を残させるべきだと主張する。

 まあそれはその通りなんだけど、あのラスボスさんの能力は完璧なOPBメタなので、原作のようにせっかくの新技お披露目をアレ相手に浪費するのは勿体ないってのがあたしの意見。どうせ一護が何をしても【全知全能(ジ・オールマイティ)】で先読みされた挙句に無効化されるんだし、それならまだ有情なハッシュヴァルトさんと気持ちよく全力で戦わせた方が主人公の格が傷付かない。

 

 原作の和尚しかり、一護の新卍解しかり、OPBにおける最悪OSR値デバフは、盛大に期待させてカッコつけて放った奥義が【不発】する事なのよ。

 

「確かにそれは無様ですが……その『情けなさ』や『格好良さ』で勝敗が分かれるなら、どうして主様はこれまで藍染惣右介とハッシュヴァルトにしか敗れてないんですか?」

 

「ちょっと飛梅どういう意味よっ」

 

『──ぐうの音も出ない反論──あたし達の桃玉パワーがないお姉さまはガバでポンだから──あっても変わらないんだよなぁ──』

 

「融合してからのガバの九割以上はあなた達のせいでしょ!」

 

 失礼な相棒と責任転嫁が酷い桃玉衆に憮然とするあたし。何てこと、最近は月島さんに焚きつけられた邪神ムーヴで強キャラ臭を醸し出してたつもりだったのに、このあたしの客観的評価が「情けない」……だと……?

 

「ふ、ふん! そんなにバカにするんだったらあたしの最新ガバ防止兵器を見せてやるわっ。首洗って待ってなさい!」

 

『──えー、なになにー?──"首長くして"の間違いでは?──はい1ガバ──』

 

「どうせまた人の不幸の蜜を啜るための演出なのでしょう? はぁ…」

 

 あたしはバカにしてくる二人を「がるる」と威嚇しながら、席を立った。

 

 別にまたいつもの嫌な予感を覚えたワケじゃないから。実際さっき飛梅ちゃんが後のユーハバッハ戦の対策を不安視していた時、あたしも少し思う所があったのだ。これからチャン一の最高の雄姿を安心して見れるよう、例のアレの進捗を確認しておきたいだけだから。

 

 全く、散々言いたい放題言いやがって。今に見てろ、あたしのユーハバッハ対策にガバなどない事を証明してやるからな全く!

 まったくっ!

 

 

 

 ……ふぇーん、助けて東仙(とうせん)隊長ぉ~。二人があたしを虐めるよぉ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

生温かい蕎麦さまから素敵な支援絵をいただきました!
六月にいただきました!
三か月前です!
ホントすみません…

https://img.syosetu.org/img/user/325028/97404.png

めっちゃかわいい魑魅魍魎四人衆ですホンマかわいい…
こんな可愛い人達が幼気なショタや未成年の高校生虐めてニチャってるとかマ?
あとその諸悪の根源さんがなんか一人だけ冷や汗掻いてて部外者面してるの解像度高くてすこです

素晴らしいイラスト大変ありがとうございました!

 
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