雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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いつもコメント評価お気に入り誤字脱字報告ありがとうございます

アニ鰤ほんと最高です
ちょくちょく新規シーン入れてくれるのマジ期待できる
おかげでチャン一をカッコよく書きたい欲が止まらねえ…

毎度ながら非公式設定たくさんぶっこんでるのでご注意を

 


石田ってSS編時点でクインシー・レットシュティール使った時ブルート・アルテリエ無しのハry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青白い細光が、濛々と立ち昇る砂煙の中で煌めいている。

 

 瀞霊廷(せいれいてい)を塗り潰して現れた滅却師(クインシー)の都市、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)。西洋中世風の街並みを露天採掘場の如き巨大な縦穴へと変えた黒崎一護の大技は、しかし標的の敵を完全に沈黙させるには至らなかった。

 

 

『……流石にタフだな。今ので決めるつもりだったんだけどよ』

 

 一護は煙の奥の気配へそう白状する。内心驚きながらも、彼に残心を解く気は一切ない。

 

『さっさと出て来いよ。前にあんたの仲間を倒したと思って油断して、黒腔(ガルガンタ)で痛ェ目を見たからな。悪いが手負いの相手だろうと容赦はできねえ』

 

 滅却師(クインシー)とは腕が千切れようが足が動かなくなろうが戦い続ける誇り高い種族である。昔仲間に彼等の美学を教わった一護は、実際に虚圏(ウェコムンド)で戦った男が乱装天傀(らんそうてんがい)なる霊術で無理やり身体を動かし立ち上がる姿を目にしていた。

 

 そして、急かした甲斐あってか。

 ゾクリと背筋を震わせる殺気と共に、大穴の底から血塗れの青年──ユーグラム・ハッシュヴァルトが飛翔してきた。

 

『ッ、上等だ!』

 

 宙で剣を衝突させ、鍔で競り合う死神と滅却師(クインシー)。両者共これまでに負った傷は多いが、より深く、消耗も激しいのは間違いなく後者のハッシュヴァルト。だというのに彼の戦意は未だ少しも折れていなかった。

 

 奴はまだ何か手札を隠している。一護は多くの修羅場を潜り抜け培ったその直感に従い、自身が優位な内に勝負を決しようと一気に霊圧を高めた。

 

「!」

 

『遅え!!』

 

 危機を察知し阻止しようと剣戟を激しくする敵へ一護は月牙の弾幕を放つ。斬魄刀の力の主導権が内なる(ホロウ)に移行している今、斬月(ざんげつ)の技には全て彼の霊圧が混ざっている。相手もこれ以上の負傷は避けたいだろう。

 

 そして一護の作戦通り、ハッシュヴァルトが月牙を避けながら距離を取った。

 

『────!!』

 

 掛け声を上げる間も惜しい。一護は退避する敵を囲むように全力で滅却師(クインシー)の霊術を展開する。

 

 

大聖弓(ザンクト・ボーゲン)─    

()  ()

 

 

 視認すら困難な圧倒的な速度と数の弾幕がハッシュヴァルトに殺到する。月牙の火力で大気が吹き飛び、気圧が大きく下がった縦穴内へ大量の霊子が流れ込んでいる今しか使えない大規模戦列陣(ブライトサイテ)

 

 だがハッシュヴァルトは神速の歩法を駆使し、最小限の被弾で弾幕の薄い上空へと逃れる。そしてそれは、一護が渾身の必殺技を叩きつけるために必要な、最後の条件だった。

 

『……礼を言うぜ。こんなモン、地面に撃ったらルキア達まで巻き込んじまう』

 

 斬月の刀身から、同じ色の闇が噴出する。その恐ろしい漆黒の霊圧は空間を歪ませる程の破壊力を蓄え、巨大な二振りの斬撃となって頭上のハッシュヴァルトに襲い掛かった。

 

『終わりだ──』

 

 

 

 

黒 虚 閃(セロ・オスキュラス) ─    

(げつ) () (じゅう) () (しょう)

 

 

 

 

 グワン、と。まるで水面に映る景色のように世界が弛む。(ホロウ)の頂点に君臨する最上級大虚(ヴァストローデ)のみが放てる最強の虚閃(セロ)を融合させた、絶死の刃。それは射線の全てを切り裂き、上空の遮魂膜(しゃこんまく)を四片に斬断し、天の果てへと消えていった。

 

 

『ハァ……ハァ……、くそっ……』

 

 一護は息を荒げ、大穴の淵に膝を突く。

 (ホロウ)化が解けていないのがせめてもの慰めか。思わず零れた舌打ちは、先程の大技を放った代償の重さに自分の未熟さを突き付けられた所為。

 

『まだ思うように力を混ぜ合わせられねえ……霊圧の反発が激し過ぎて体中の血管が焼き切れそうだ……』

 

 斬月は(ホロウ)滅却師(クインシー)双方の霊圧が内部で完全に融合している状態が正常である。しかしどちらか片方しか一度に引き出せない今の一護は、霊圧操作で二つを無理やり交互に練り合わせる事でしか力を融合させられない。今回は相手が受け身であったため十分な時間があったが、必要となる手間や危険を考えれば歯痒さが残る。

 

 こんな事でユーハバッハに勝てるのか。不安に駆られる一護だったが、事態は彼が想定していたものより遥かに悪かった。

 

 

 

『────……な……』

 

 焼けた霊子の白煙が晴れ、月牙で歪んだ空間が元に戻る。視界が徹ったその先に、一人の青年、ユーグラム・ハッシュヴァルトが立っていた。

 

 あり得ない。今の一撃を耐えたというのか。一護は唖然と相手の姿を凝視し、そして信じ難い異変に気付く。

 

『なんだよ……それ……!』

 

 ハッシュヴァルトは妙な物を左腕に構えていた。白に金の装飾が施された、傷だらけな片手盾。恐らくは騎士盾(カイトシールド)と呼ばれる類の装備だ。

 だが一護の最たる驚愕の理由は別にある。

 

 その盾を下ろしたハッシュヴァルトの全身から、これまで一護が与えた()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「───流石の慧眼です、陛下。黒崎一護が滅却師(クインシー)(ホロウ)の霊圧を融合させた力に目覚めている事実は勿論、私ですら気付かなかったこの能力の本質まで見抜いておられたとは」

 

 畏敬の念を声に滲ませ、ボロボロの大盾を撫でるハッシュヴァルト。しばしその感触を噛み締めた彼は、愕然とする一護へゆっくりと視線を戻した。

 

「惜しかったな、黒崎一護」

 

『ッ、てめえ……何をしやがった……!?』

 

 しかし一護の問いには答えず、ハッシュヴァルトは彼を称える言葉を重ねる。

 

「我々の聖文字(シュリフト)の力を無効化する手段は限られている。お前が取った手段は、その中でも理論上最も正解に近い答えだった」

 

『舐めてんのか、てめえ…!』

 

 解りきっている事を言うなと一護は吠える。

 第一次侵攻の時、黒腔(ガルガンタ)の中で敵の能力【牢獄(ザ・ジェイル)】に囚われた自分が何故脱出できたのか。そこから導き出された事実を深堀りすれば自ずと聖文字(シュリフト)の弱点に辿り着ける。

 

『俺があの光の檻から抜け出せたのは俺の滅却師(クインシー)の力が覚醒したからだ! 滅却師(クインシー)の力が聖文字(シュリフト)の能力を無効化するんだったら、そこにお前らの苦手な(ホロウ)の霊圧を混ぜ込めば、『無効化』止まりの攻撃から『傷をつける』レベルにまで俺の技の『効力』を上げる事ができる! そんな事はもうわかってんだ!』

 

 そうだ。だからこそ解せない。

 

 

『なんで──何で滅却師(クインシー)(ホロウ)の力が融合した技で付けた傷に、効かねえ筈の滅却師(てめえ)の能力が効いてんだよ!

 

 

 左様。それは種族の特性を無視した、あってはならない事だったのだ。

 

「可笑しな事を訊く男だ。()()()の扱いは私より、お前の方が一日の長があるだろう?」

 

『何だと……?』

 

 困惑する一護へ、ハッシュヴァルトが心底意外そうな顔で問う。しかし本心からの疑問だと察した彼はそれ以上の情報開示を控えた。

 

「……(いや)。気付いていようがいまいが、お前の未来の結末には意味を成さない事だ」

 

 黒虚閃(セロ・オスキュラス)に二重の月牙天衝。現段階で想像し得る黒崎一護の秘めし力はこれで全て。最早奴と戦い続ける必要はない。

 

 任務完了だ。

 

「お前は良く戦った。私の予想を何度も上回り、果てには陛下より授かりし我が聖文字(シュリフト)の力を凌駕するにまで至ったのだ」

 

『ッ、くそっ──』

 

「恐らく陛下を除き、我が軍の中でお前の霊圧の質に抵抗できる者は私だけだろう。正に特記戦力筆頭の名に相応しい、比類なき我等の"脅威"であった」

 

 そして滅却師(クインシー)の王が誇る第一子は、徐に左手の騎士盾を突き出した。

 

「その"脅威"の程を、その身で知り、誇るがいい」

 

 

 

聖文字(シュリフト) "B"─    

世 界 調 和(ザ・バランス)

 

 

 

 瞬間。世界が、事象が、理が反転する。

 

『────グ……ア"ァッ!?』

 

 一護は激痛で千切れ飛びそうになる意識を死に物狂いでかき集め、辛うじて戦意を保つ。しかし足は震え、立つので精一杯。このまま無傷な相手と戦う事など不可能だった。

 

 苦しみ地べたに跪く一護を見て、ハッシュヴァルトが同じように、されど明確に洗練された動作で首を垂れた。

 何の真似だと憤慨する瀕死の一護は、そこで自分の頭の中と何かが繋がる奇妙な感覚を覚える。

 

 

「時間だ、黒崎一護。陛下のお言葉を拝聴せよ」

 

 

 その時、聞き覚えのある低い男声が一護の頭の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── * ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────……一護よ。私の声が届いているだろう」

 

 

 はたと青年は顔を上げる。声の方角は直ぐにわかった。

 ハッシュヴァルトが跪く先に聳える高い塔から、六芒の眩い光の柱が延び上がったのだ。

 

『ッ、ユーハバッハ…!』

 

 途端、体中に伸し掛かる重厚な霊圧。種族の戦法上気配を感じにくい筈の滅却師(クインシー)の親玉は、されどそこにいるだけで万物を平伏させる畏ろしい王威を纏っていた。

 

 その王が、我が子に告げる。

 

 

「感謝しよう、黒崎一護。我等を光の許へと導きし者よ」

 

 どういう意味だ。斬魄刀で身体を支えて睨み上げる一護へ、王は語る。

 

王鍵(おうけん)

 

『……!』

 

「霊王宮と下界を別つ天空の結界。王鍵とは、七十二層に亙るその障壁を通過する為に霊王が与える証だ」

 

 かつて藍染惣右介が求め、斯様な大戦争を引き起こした不可侵なる神器。その正体は霊王自らが選別した眷属──零番隊士の血肉臓骨そのものであった。

 

星十字騎士団(シュテルンリッター)を鎧袖一触で倒し、最高位(グランドマスター)であるハッシュヴァルトと互角に戦うお前は、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の輝く希望だ。その希望を苦戦する護廷十三隊の許へ送り届ける為、零番隊はお前に、自らの骨と髪で編んだ衣を与えた」

 

『! それって……ッ』

 

 零番隊の骨と髪。一護は霊王宮で渡された自分の新たな死覇装を確認し、瞠目する。

 

「そうだ、一護。霊王宮と瀞霊廷の間に存在する七十二層の障壁を強制的に突破させる為に拵えられたその衣は、それこそが、私の求める王鍵(おうけん)そのものなのだ」

 

 するとユーハバッハの腕の動きに合わせ、一護の足元から闇のように深い影が噴出した。

 

『なッ……死覇装が……!』

 

 その影は一護の上衣に編み込まれた白い飾甲を浸食し、ボロボロに崩れた破片をユーハバッハの許へと運んでいく。そして塔の屋上に展開された昇降術の光陣に吸収された。

 

 斯くして世界を滅ぼす滅却師(クインシー)の王の手に、神域の鍵が渡った。

 

「感謝しよう、黒崎一護。私の許へ王鍵を齎してくれた事を。お前こそ我が血戦における勲一等である」

 

 唖然とする一護を塔の頂上より眺め、王が右手を開く。するとその合図に応え、後ろから一人の滅却師(クインシー)が進み出た。

 

「我が子の忠義を称え、褒美を取らす」

 

道を別つ戦友との、   

   最後の語らいの場だ

 

 純白の軍服を着た眼鏡の青年。一護は、目にしたその人物の名を、よく知っていた。

 

 

『……石……田……?』

 

 

 いつものいけ好かない澄ました顔でこちらを見下ろす彼は、大切な仲間──石田雨竜。

 

 一護の中で微動だにせず立ち続けていた何かが、ぐらりと揺らいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── * ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『な……なんで……』

 

 何でお前がそこに居る。一護はそう問おうとするもあまりの衝撃に言葉が出ない。

 そんな彼をしばらく見つめていた石田がふと、口を開いた。

 

 

「───凄まじい霊圧だ」

 

 平坦な、されど確かな畏怖を含んだ声が、一護の鼓膜を震わせる。

 

「最後に見たのは……君が現世であの妙な破面(アランカル)を追い駆けていった時、だったか」

 

『石田……お前……』

 

「凄いな、あの時の君とは雲泥の差だ。その仮面の名残を見るに(ホロウ)化も使い熟せているようだ」

 

 ──本当に強くなったな、黒崎

 

 クールを気取ったひねくれ者の彼らしくない素直な賞賛。たった数日で随分と大人びた雰囲気を纏うようになった友人の変容が、一護の困惑を深化させる。

 

 石田は瞼を閉じ、全身の感覚器官で推し量るように一護の霊圧を感じていた。

 

「だけど……」

 

 短い静寂の後。再び開いた彼の目は、鋭利な戦意に染まっていた。

 

「悪いな、黒崎」

 

『!!』

 

 空気が張り詰める。

 

「生憎、この戦争に備えて新たな力を手に入れたのは……お前だけじゃない」

 

 別人のような冷たい声色で紡がれた言葉に続き、石田の右手に霊子の弓が現れる。

 

 

 ─ 神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル) ─    

光 の 雨(リヒト・レーゲン)

 

 

 それは一護も良く知る滅却師(クインシー)の術。冠した名の通り、番えた霊圧を無数の光の矢に変えて射出する、石田雨竜の得意技。

 しかし一護が見上げる光景は、彼の記憶とは全く異なるものだった。

 

 

 ──その"石田"とは、"石田雨竜"の事ですか?

 

 数日前の虚圏(ウェコムンド)。一護はキルゲ・オピーと名乗る神経質そうな眼鏡の滅却師(クインシー)と戦った。その正体は新たな敵『見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)』の先遣隊を率いる指揮官であったが、彼が零した幾つかの情報の一つにこんな発言があった。

 

 ──石田雨竜の神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)が私より弱い?

 

 ──妙ですねぇ、()()()()()()()

 

 戦闘中の出来事だったため真意を知る事は叶わなかった彼の台詞。しかし目先の危機の対処を優先し続けた短慮の代償を、一護は全てが手遅れになった今、最悪の形で支払わされる事となる。

 

 

「お前には陛下を止める事はできない。命を無駄にする前に帰れ」

 

『!?』

 

 降り注ぐ石田の青白い霊子の矢。その数、威力は、明らかにキルゲや他の星十字騎士団(シュテルンリッター)のそれを大きく凌駕し、一護にすら届く程の爆発的な進化を遂げていた。

 仲間から並の隊長格を一瞬で穴だらけにする超級の大技を向けられた凄愴を嘆く事すら許されず、一護は光の瀑布に呑み込まれた。

 

 

『───なんだよ、それ』

 

 恐るべき技だった。

 しかしハッシュヴァルトとの戦いで満身創痍とはいえ、一護の底無しの霊圧は猶も健在。剣の一振りで視界を晴らした彼の身体に新たな傷は僅かに数えられる程。

 

『こんな……こんなモンの為に、そいつ(ユーハバッハ)に付いたのかよ……!』

 

 震える声の所以は悲痛。

 以前の一護なら仲間の凶行を咎めるために反撃を躊躇わなかっただろう。だがもし石田が力を求めて悪しき超越者との取引に応じたのなら、それを責める資格は自分にない。取り残される悔しさから、有事に何もできない惨めさから、銀城空吾(ぎんじょうくうご)の手を取ってしまった黒崎一護には。

 

 それでも。

 

『ッ、何とか言えよ! 石田ァッ!』

 

 迷い、痛切、激情。混濁する思いに足を縺れさせながらも、一護は友の目を覚まさせようと必死に殴り掛かった。

 

 

 ……だが二人の友情が力を求めた相方に裏切られたのなら。それを取り戻させる者もまた、一護と共に戦うために力を磨いた、彼の友。

 

 その絆の形は、青年の拳を真正面から受け止めた二つの人影として現れた。

 

 

『───チャド!? 井上!?』

 

 

 闇色の腕とオレンジの光壁をそれぞれ操る二人は茶渡泰虎(さどやすとら)井上織姫(いのうえおりひめ)

 

 虚圏(ウェコムンド)で浦原喜助の手ほどきを受けていた、一護の頼れる友人達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── * ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈍い震動が腕を走る。

 渾身とは言えない。しかし今の一護の攻撃を正面から防ぎ耐えられる者が一体何人いるのか。

 

 見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)の精鋭達を一掃できる彼を止めたその二人組は、一護の目を真っ直ぐに見つめていた。

 

 

『お前ら、なんで……!』

 

 茶渡と井上。彼らの視線に射貫かれ、一護の心臓は凍り付く。

 

 似たような事が前にもあった。あの月島秀九郎(つきしましゅうくろう)に仲間達の過去をめちゃくちゃにされ、護るべき者達と望まぬ戦いを強いられた最悪の体験。繰り返されようとしている悪夢に怯える一護は、咄嗟に後退る。

 

 しかし彼の危懼は、少女の笑顔で霧散した。

 

 

「────……よかったぁ……」

 

『!』

 

 安堵の涙に潤む織姫の双眸。一護はそこに映る自分の姿を見て、彼女の情動の理由にハッと気付く。

 

 角の付いた白い仮面。一護の頭部を覆うそれは、少女にとっての恐怖そのものだったのだ。

 

「…よかった……いつもの、優しい黒崎君だ……っ」

 

『井上……』

 

 かつて魔王の崩姫(プリンセッサ)として異界に連れ去られた織姫は、自らの弱さのせいで大切な想い人を恐ろしい(ホロウ)に変えさせてしまった。己が招いた悲劇に未だ怯え続ける彼女もまた一護と同じ、心に消えない傷を持つ仲間。その事に気付いた青年は慌てて拳を下ろし、「大丈夫だ」と織姫へ笑みを向けた。

 あの時とは違うと、俺はもう自分の力に狂う事はないと、お前を怖がらせたりなどしないと。この鉄火場において少しでも彼女に伝わるように。

 

 

「一護」

 

 一方の茶渡は、蟠りを解きほぐす青年少女を守るように立ち、塔の上の石田を見据えていた。名を呼ばれた一護は彼の背中から感じる只ならぬ存在感に、思わず言葉を失う。

 

「石田の事なら問題ない。ここは俺達に任せろ」

 

『! チャド……』

 

 突き放すような言動に困惑する一護。石田が別次元の強さを手にした今、茶渡の主張はあまりに危険すぎた。

 何言ってんだ。皆が揃ったなら三人であの馬鹿を問い詰めるべきだ。何より仲間が互いと戦い合う姿なんて、俺はもう二度と見たくないんだ。

 しかし無言でそう訴える一護へ肩越しに振り返った茶渡泰虎は、簡潔に、その一言を告げた。

 

「一護。お前にはやる事がある筈だ」

 

 彼の琥珀色の瞳の奥には決意の炎が燃えていた。それを見た一護は、この口下手な相棒と交わした中学時代の約束の言葉を思い出す。

 

 彼はその約束を、ここで果たそうとしているのだ。

 

『……ッ』

 

 覚悟を決めるのに要した時間は、長くなかった。一度決めれば不思議と不安はなかった。そうだ、それがチャドの意思なのであれば、応えてやるのが俺達が望んだ友情のあり方だった筈だ。

 

 

『───わかった』

 

 熱い思いを胸に、一護は相棒に背中を預け、ゆっくりと斬魄刀を正面に構える。

 

 その切先の向く相手は、ユーグラム・ハッシュヴァルト。敵の親玉に戦意が見えない今、腹心の彼こそが自分達の最たる脅威。

 一護のやるべき事は、一護にしかできない事は、この場で彼と雌雄を決する事なのだ。

 

 

 

 そんな青臭い若者達を、昇降機の霊術光の中に佇むユーハバッハは静かに眺めていた。

 

「……成程、友に心を託すか」

 

 それもまた、お前に与えられた道の一つだ。薄い笑みと共に王が謳う。

 そして眼下のハッシュヴァルトを意味ありげに一瞥し、ユーハバッハは踵を返した。

 

「雨竜」

 

「……はい」

 

「永劫の(わか)れとなる。彼等と最後の言葉を交わす事を許そう」

 

 それは新たな後継者への慈悲か、はたまた忠誠の神判か。

 

「後から主を追うが良い。私に全てを捧ぐ、お前の覚悟の是非は……」

 

 

 

───霊王宮(れいおうきゅう)の瓦礫の上で   

 

          問うとしよう

 

 

 

 

 斯くしてユーハバッハは六稜の光に導かれ、天の果てへと消えていった。

 

 一護はその姿を追わない。見上げもしない。奴と決着を付ける地はここではない。

 茶渡と織姫に石田を任せたように、霊王宮にも世界の命運を託せる大勢の強者達がいる。後ろを振り返るのは彼等の力を疑う事を意味するのだから。

 

 

 遠ざかる自らの"血"の因縁。だがそれを司る神王がこの世の何処へ行こうとも、来たる黒崎一護の血戦は、運命は、既に最後の関門のみを残すまでに近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── * ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこに居るんだろ? 浦原(うらはら)さん』

 

 ユーハバッハが去った後、一護はハッシュヴァルトと向き合いながら戦場の最後の登場者へ問い掛けた。参戦の機を窺い近くに潜んでいたその男は、茶渡たちがやってきた黒腔(ガルガンタ)の陰からひょっこりと現れた。

 

「ちょっとォ、困りますよ黒崎サ~ン! 折角隠れてたのに台無しじゃないっスかぁ」

 

 男子三日会わざれば刮目して見よ。霊圧は勿論、苦手だった霊圧感知力までピカピカに磨かれて、師匠一号として嬉しいやら寂しいやら。

 そんな緩い誉め言葉を挨拶に、一護の側に降り立つ布帽子の死神。

 

 しかし剽軽な態度も一瞬。わざとらしく咳をし、浦原喜助(うらはらきすけ)は薄い笑みを張り付けた顔で問い返す。

 

「……サテ、アタシに御用との事ですが?」

 

『チャドと井上が、石田(バカ)と話せるようにあの塔の上まで連れてってやってくれ。ここは俺一人で十分だ』

 

 一護の注意は変わらずハッシュヴァルトへ向いたまま。微動だにしない彼の姿に気圧されるような何かを感じながらも、浦原は青年の頼みに愁眉した。

 

「いやァ、そうしたいのは山々なんですけどねェ……」

 

 男は一息置いて言葉を整理すると、真剣な声色で一護へ語った。これまでの戦いを観察し推測した事は勿論、虚圏(ウェコムンド)に残った滅却師(クインシー)の残党を尋問して得た、信憑性の高い情報だ。

 

「ユーグラム・ハッシュヴァルト……千年前、山本総隊長率いる初代護廷十三隊との戦いで生き残った数少ない古参の星十字騎士団(シュテルンリッター)で、ユーハバッハと同じ『力を分け与える』能力を生まれ持った、非常に稀有で高貴とされている滅却師(クインシー)です」

 

 その能力が聖文字(シュリフト)を授かる儀式を経て覚醒したのが、「自身が被った不都合な事象を相手に分け与える能力」──世界調和(ザ・バランス)であると浦原は分析する。

 

 だが彼が真に警戒しているのはもう一つの、青年の不死性を司る力【身代わりの盾(フロイント・シルト)】。発現の瞬間を観測していた浦原は起きた現象や効果、霊圧の性質等の多角的視点から能力の正体に当たりを付けていた。

 

「……アナタも気付いているんでしょう? 彼と直接戦った黒崎サンなら尚の事」

 

 否、この戦いだけでは判断する事は難しい。だがそれは、一護が相対した過去の敵を想起すれば、気付けぬ筈の無い恐るべき真実。

 

 能力の発動時に瞬いた淡い光の粒。

 能力が"盾"という「物体に具現化する」力。

 滅却師(クインシー)(ホロウ)の融合した霊圧で無効化できない、世界調和(ザ・バランス)とは異なる概念を強制する能力。

 

 それらの特徴が全て該当する霊能は、一つしか存在しない。

 

 

身代わりの盾(シールド・オブ・カマラデリ)

 

 

 滅却師(クインシー)ユーグラム・ハッシュヴァルトとは───『完現術師(フルブリンガー)』の才を持つ二重能力者(デュアルブリッド)である。

 

 

 

「……銀城空吾や月島秀九郎。あの『XCUTION』の方々を知るなら……いいえ、何よりも井上サンの力を知る黒崎サンなら理解している筈です。完現術(フルブリング)という霊能の異質さに」

 

 能力の簒奪。過去の改変。事象の拒絶。

 性質を考えれば一目瞭然。あれらは全ての力を超越する(ことわり)の領域のものであると浦原は言う。

 

(ホロウ)の霊圧に弱い滅却師(クインシー)の能力とは違い、完現術(フルブリング)には他の霊能との相克関係はありません。今の黒崎サンではどう足掻いても、あの"盾"の力を攻略できないんス」

 

 それはその名を三界全土に轟かせる、最高の霊性科学者である彼の導き出した結論。

 

 銀城空吾曰く、完現術(フルブリング)とは(ホロウ)に由来する能力である。彼の仮説を裏付けるのは、一護や茶渡泰虎のような(ホロウ)の気配を色濃く反映する能力や、一部破面(アランカル)の概念規模の能力を持つ者達の存在だ。

 しかし科学的根拠を重視する浦原喜助は、銀城の実例的根拠に偏った仮説には最初から懐疑的だった。

 

 彼の頭に過るのは自身の最高傑作である、崩玉(ほうぎょく)の存在。その研究過程で触れた多くの、知るべきではなかった真実が、脳裏で囁くのだ。

 

 もし。完現術(フルブリング)という霊能の本質が(ホロウ)等ではなく、己の危惧している通りの、更に上位の霊格に因るものであったのなら。そしてその力が滅却師(クインシー)の霊子隷属の力と融合しているのだとしたら。

 それは空間そのものを自らの(ことわり)の支配下に置く、無敵の結界となる。

 

 さすれば黒崎一護の勝機は──

 

 

 

『……ありがとな、浦原さん。色々教えてくれて』

 

 一護の言葉が、長い沈黙を掃う。そこに籠められた真意を測れず、浦原は今一度彼を諭すために口を開いた。

 

「黒崎サ──」

 

『けど、大丈夫』

 

 しかし返ってきたのは、その先を言わせない青年の静かな断言。

 

 そして直後。

 浦原はまるで己の立つ世界そのものが爆ぜたかのような、途轍もない衝撃に襲われた。

 

 

「────……!!?」

 

 

 反射的に飛び退こうとした意思は確かにあった。だができなかった。

 それは何の予兆も無く、唐突に。男は全身の細胞一つ一つに至るまで、周囲の霊子を、大気を圧し潰す強大なナニカに呑み込まれていた。

 

 気が狂ったのでも、何らかの幻覚に囚われたのでもない。浦原喜助はただ、自身が目の前の青年の圧倒的な霊圧に当てられただけなのだと即座に理解できなかった。

 

 何故なら彼の優れた感知力は、およそ霊圧と呼べる類の青年の気配を、その名残すら捉えていなかったからだ。

 

「黒崎サン、アナタは一体……ッ」

 

 霊圧の消失。魂魄の霊威が形而の地平を越える事で起きる現象。かつて自らの全霊力を使い尽くす事でこの人間の青年が至った神々の領域を、ともすれば凌駕すらしているかもしれない絶大な力の片鱗。

 

 戦慄する浦原へ、双剣の勇者は言葉の真意を述べる。

 

『チャドと約束したんだ。俺はここで……』

 

 

"あいつに勝つんだ"

      ──ってよ

 

 

 その台詞に込められた決意の大きさは、彼が発する膨大な霊圧が語ってくれた。説得の言葉など必要ない。青年の、黒崎一護という存在が、その不可能を可能とする手段の答えそのものだったのだ。

 

「……大変、良う御座んス」

 

 気付けば浦原は笑っていた。足は今にも竦んでしまいそうで、蟀谷からは滝の様な汗が流れ落ちる。しかし男の身体を震わせる本能的な畏怖心は、それを遥かに超える期待の高揚感に塗り潰された。

 

 これ程のものを見せられては、如何な手出しも野暮になろう。

 

 

 ──ご武運を、黒崎サン

 

 決戦へ挑む「霊界の英雄」の力になるべく数多の手段を用意していた浦原喜助。その彼が実際に用いた唯一の手札は、自慢の弟子へ、そんな短い激励を送る事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── * ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祖たる滅却師(クインシー)の王は昇る。

 六芒の星が照らす光に導かれ、帰るべき父の御許へ。座すべき至高の頂へ。

 

 神に仇なす悪魔の諸侯(レメゲトン)を阻むための、神の七十二の名(シェムハムフォラエ)を冠す障壁も。天地を隔てる千里もの果てしない距離も。最早かの者の障害とはなり得ない。それが他ならぬ神によって遣わされた「王鍵」によって開かれた道であるのは皮肉か、天命か。

 

 

 

 

「───おっとっとォ! ここが何処だか知らねェのかい?」

 

 祖たる滅却師(クインシー)の王が降り立ったのは、白木の列柱が建ち並ぶ天空の宮廟。厳かな霊圧で満ちるその表参道に白濁の熱湯を操る男が居た。

 

「ここは天下の霊王宮、一見サンはお断りだぜ!」

 

 

──零番隊(ぜろばんたい)東方神将(とうほうしんしょう)── 

泉湯鬼(せんとうき)

() (りん) () (てん) () (ろう)

 

 

 豪快に着崩した死覇装。湯櫂を模した斬魄刀。祖王の古の記憶に残る死神、神の近衛の第一官。

 またそれは男の後ろに聳える大階段よりこちらを見下ろす、別の人影も同様。

 

「───久しいのう、ユーハバッハ。しもべ共が見当たらぬが……矢張りそちは僑軍孤進が似合いの男よのう」

 

 

──零番隊(ぜろばんたい)北方神将(ほっぽうしんしょう)── 

大織守(おおおりがみ)

(しゅ) () () (せん) (じゅ) (まる)

 

 

 六本の傀儡義手を背に生やした細身の女。光の帝国(リヒトライヒ)を率いた先の大戦にて配下の軍服を死の衣へ一変させた神業の織部司。

 先の湯男といい、かつて下界を守護する護廷十三隊の隊長として剣を交えた者達とこんな所で戦う日が来ようとは感慨深い。

 

 二人の顔ぶれから過去へ思いを馳せていると、突如周囲の四方八方から巨大な樹木の根が伸び、参道ごと祖王を檻のように包み込んだ。

 

「ハイハイハイハイ、そこでお止まり! これだけの規模の"産褥"を設えたのは久しぶりさ、そう簡単に逃がしはしないよォ」

 

 

──零番隊(ぜろばんたい)西方神将(さいほうしんしょう)── 

穀王(こくおう)

(ひき) (ふね)  (きり) ()

 

 

 術者は根の一本に腰掛ける肥満の巨女。百年ほど前に近衛の一席に列せられた新米隊士とは此奴の事か。

 

 そして祖王の視線の先は、最後に姿を晒した喧しい男。全死神の魂の半身である斬魄刀(ざんぱくとう)を生み出した、刀鍛冶の神へと向かう。

 

「───十、九、八、七、六、五枚! 終い(四枚)()My()♪ 二枚屋Oh()-Etsu()! 一番イケてる零番隊士の登場Da()!」

 

 

──零番隊(ぜろばんたい)南方神将(なんぽうしんしょう)── 

刀神(とうしん)

() (まい) () (おう) (えつ)

 

 

 その死神は洋服の上着を羽織った奇抜な装いをしていた。当時とは大きく変わった風体が新鮮だが、感じる気配はやはり一同でも別格の強者のそれ。

 

 

 零番隊(ぜろばんたい)"王属特務"。

 尸魂界(ソウル・ソサエティ)の歴史の輝く一頁を己が手で書き刻み、神の眷属として神域に迎えられた、得難き偉人達の天軍だ。

 

 

「……出でよ、神兵衆。この不届き者を誅せ」

 

 一柱の命に従い多数の人型が、暖簾のように裂けた空間の隙間から飛び出る。新米の女眷属が発明した「義魂」なる人造魂魄の兵隊。死神らしい実に冒涜的で哀れな玩具だ。

 

 祖王は殺到してくる神兵衆へ聖兵(ゾルダート)隊を差し向ける。帝国と空間を繋げる影の領域(シャッテン・ベライヒ)より突入した彼等は、神域の濃密な霊子濃度に耐えかね多くが倒れたものの、王の御前より敵兵を退ける仕事は成し遂げた。

 

「存外慎重ではないか、霊王の下僕よ。まさかお前達が雑兵を捨て駒に私の力を推し量ろうとするとはな」

 

「その甲斐はあろう? 現にたった今、そちが態々其奴等を呼び寄せてまで隠したい力を有していると知れたのだから」

 

 挑発。小手先。まるで盤上の遊戯の如き敵の応酬を、滅却師(クインシー)は鼻で嗤う。奴等は本気でこの祖王を相手に勝利を掴めると夢想しているのだ。

 

「成程……私が眠りに就いている間に、随分と驕傲の甘さを覚えたようだな。死神共」

 

「ほう?」

 

 なんと虚しい事か。どうやら我が言葉も、願いも、千年の時の狭間に忘れ去られてしまったらしい。

 

「私は争いを好まん。塵芥の相手など我が兵卒で事足りる」

 

 そうだ。ハッシュヴァルトを黒崎一護の許へ残したのも。雨竜に仲間との絆を清算する暇を与えたのも。この地を墜とすのに彼等の力は不要である故。

 

「そしてお前達は……」

 

 

 

 

我が親衛隊が、相手をしよう

 

 

 その言葉と共に、祖王の足元を這う影の中から、四つの白い輪郭が浮き上がった。

 

 

「───おっとォ」

 

 

──星十字騎士団(シュテルンリッター) "D(ディー)"── 

致 死 量(ザ・デスディーリング)

ASKIN NAKK LE VAAR

 

 

 撫で付けの髪型の整髪料を気にしてか、真っ先に外套のフードを取ったのは若い二枚目半の男。どこか弱気に辺りを見渡す彼の様子には敵味方共々眉を顰める。

 

「よく見たら下の連中の中で連れてきて頂いたのは俺だけかよ。こいつは活躍しねェとなァ……」

 

「そうだな! 貴様が役に立たん様なら(われ)が斬り捨ててやるとも、ナックルヴァール!」

 

 

──星十字騎士団(シュテルンリッター) "M(エム)"── 

奇  跡(ザ・ミラクル)

GERARD VALKYRIE

 

 

 続いて先頭の巨漢が外套を脱ぎ棄てる。黄金の円盾に神銀の片手剣。見事な肉体美を晒したその立姿は、宛ら西洋神話の大英雄。

 

 しかし、そんな派手な大男より目を引く者が彼の後ろに居た。

 

「………、…………」

 

 

──星十字騎士団(シュテルンリッター) "C(シー)"── 

強 制 執 行(ザ・コンパルソリィ)

PERNIDA PARNKGJAS

 

 

 ズルズルと這うように、あるいは飛び跳ねるように歩行するソレは、全身を覆う白衣で隠せない異形の姿をしていた。平凡な背丈と、裾の間から見える左手から、辛うじてその身が人であると窺い知れる。

 

 そして残る四人目。背中に身の丈大の銃器を背負った男が、一同の中で最初に動く。

 

「───同じ個所を連撃しても直ぐに再生する。堅牢な術だね、どうしようか」

 

 

──星十字騎士団(シュテルンリッター) "X(エックス)"── 

万 物 貫 通(ジ・イクサクシス)

LILLE BARRO

 

 

 手始めにと、周囲を覆う大木の檻へ発砲する色黒片目の青年。肩を竦め謙遜している彼の弾丸は、しかし零番隊の誇る超霊術の樹根を確かにぶち抜いていた。

 

 

 彼等は見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)が誇る最強部隊、親衛隊(シュッツシュタッフェル)。人命が最も軽い「戦争」の地獄を体現する力を有しながら、その類稀なる「不死性」によって選ばれた、祖王の盾である。

 

 

「うへェ、どいつもこいつも強そうだ。下の奴等でも厄介だったのにヤンなっちゃうぜ……」

 

 死神。滅却師(クインシー)。両陣の精鋭達が向かい合う。

 

「お、なんだ? 霊圧を出してもいねェのに見抜くたァ、ズイブン勘のいい奴が居るじゃねえか」

 

「それは重畳。(わらわ)の離殿には我等を雑魚と見誤る愚物に着せる服の用意が無いのでな」

 

 双方共、種族の歴史より選び抜かれた時代の頭目。

 

「……只の皮肉だよ、ナックルヴァールなりのね」

 

「え"っ!? い、いやいやリジェさん、俺はあんたらと違ってただの成り上がりの元劣等生だからよ…!」

 

「何を言ってるんだ。今まで居たかい? 僕らの前で……"劣等"じゃなかった奴なんて」

 

 其々の得物を握る選ばれし八名。放つ霊圧が空を震わせ雲を薙ぐ。

 

「Hahaha! なんてSo(ソゥ)スモールYour(ユア)世界!」

 

「……ならば知るがよい、不届きな亡霊共」

 

 此れより始まるのは三界の新たな秩序を決す、終末大戦。

 

「ここは俺達零番隊(スカッド・ゼロ)のテリトリー♪ 雑魚に通らす道は()ェ」

 

「黙って」    「まとめて」

 

 

 

──かかってきなYo()──

 

 

 

 

 霊王。祖王。互いの神の御前にて、勝利の二文字を捧ぐべく、戦士達は激突する。

 

 かくして神話に語られる戦いの幕は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── * ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───友に心を託す、か…

 

 

 祖王の言葉が、頭の中を渦巻く。

 

 握り緊める剣の柄。そこに埋め込まれたバッジを指の腹で撫でるユーグラム・ハッシュヴァルトは、去り際にユーハバッハが己に送った一瞥の意味を正しく理解していた。

 

 陛下の玉眼に見抜けぬ秘密は、知れぬ事はない。故にハッシュヴァルトの抱える心の影も、最初からあの方の既知となっているのだろう。

 青年は気付いている。ユーハバッハが石田雨竜へ向けた忠誠の是非を問う言葉は、同時に自分に向けたものでもあるのだと。

 

 心の乱れはない。疑うまでも無く、このユーグラム・ハッシュヴァルトは神王第一の臣を自負している。

 しかし事実、ハッシュヴァルトは黒崎一護と浦原喜助が接触する様子を視界に認めておりながら何もせず、唯々ぼんやりと放心してしまっていた。

 

 

「─────ッ!?」

 

 そんな彼の身体に、突如として凄まじい霊圧がのし掛かる。驚愕し前を向くと、そこにはかつてない存在感を放つ黒崎一護。

 

「ッ、何故だ……その傷で、どこにそんな霊圧を隠して……!」

 

 (ホロウ)の力を受けた時のような嫌悪的な拒絶反応ではない。魂にまで届く、より根源的な恐怖が、青年の揺らぐ心を更に乱していく。

 

 引き出しの底は暴いた筈だ。死神の力も、滅却師(クインシー)の力も、(ホロウ)の力も。残る完現術(フルブリング)とやらも既に銀城空吾に奪われた後。

 なのに何故、この男は斯様に不利な戦況で微塵も動揺を見せないのか。こんな莫迦げた力を漲らせているのか。

 

 何故こんな。

 こんな望むがままに"天秤"を振り切る不遜で傲慢な餓鬼に、これほどの力が───

 

 

『……斬月(ざんげつ)の刀身が黒い所為で勘違いしたか? それとも今までの俺の霊圧を見て、そう思ったか?』

 

「何ッ……?」

 

 焦燥と憎悪の混じったその疑問を受け、黒崎一護が問い返す。淡泊に「数も二本に増えたしな」と補足して。

 

 そして忌むべき死神はハッシュヴァルトへ、その真実を告げた。

 

 

『誰か言ったか? この二振りの斬月たちが──()()"()()"()()()()

 

「……!!?」

 

 

 瞬間、青年は剣を捨て両腕の全力で身代わりの盾(フロイント・シルト)を構える。理解と行動は同時だった。

 

 これまで全ての強敵と常に卍解状態で戦ってきた黒崎一護。多くの者に忠告される自身の"甘さ"を補い、意地を通す為の全力戦法。彼の天鎖斬月(てんさざんげつ)もまた、そんな主の思いに応えた長時間の戦闘を可能とする卍解だった。

 ハッシュヴァルトは気付かぬ内に無意識で思い込んでしまっていたのだ。この戦いの黒崎一護もそうなのだと。

 

 ──駄目だ、これは防げない

 

 

「往くぜ、ハッシュヴァルト」

 

 相手の覚悟を確認し、一護はゆっくりと二振りの斬月を正面で交差させる。高まる霊圧が、始解状態の斬魄刀の、最後の壁を超えていく。

 

 離反した友は、同じ友に。敵の親玉は仲間達に。皆に他一切の事を託し、「迷い」という重石の消えた彼の心が、底の見えない黒崎一護の潜在能力を惜しみなく組み上げた。

 

 そして。

 

「……悪い、みんなが待ってんだ」

 

 

 

もう……             

            させてくれ───

 

       終りに         

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卍解(ばんかい)

 

(てん)  ()  (ざん)  (げつ)

 

 

 

 

 

 

 

 一閃。霊圧の竜巻を斬り裂く巨大な光が瞬いたその直後。

 

 咄嗟に盾を消してしまったハッシュヴァルトは、灼熱の感覚と激痛を最後に、意識を暗闇に叩き落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

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