雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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鬼道衆回
なんの捻りもないけどひたすら王道を目指したオリ設定。



任務ィィィィ!

 

 

 鬼道衆。

 

 瀞霊廷隠密機動と双璧を成す特殊組織であり、その秘匿性もまた似通っている謎多き集団。名の通り鬼道に優れた死神が所属し、鬼道衆総帥を頂点に最高戦力たる大鬼道長が率いる戦闘部隊【一之組】、穿界門や双殛など瀞霊廷各種霊具の使用・封印を担当する内務部隊【二之組】の委細二つの部隊に分かれている。

 

 あたしがヨン様に席を用意して貰ったのは強力な鬼道使いが集う【一之組】。隠密機動以上に秘密裏に護廷の敵と戦う集団鬼道戦のスペシャリストたちだ。

 

「──雛森桃、貴様には【緋燕】の名を与える。以後その装束を纏う間、真名の使用は控えよ」

 

「…畏まりました」

 

 当代副鬼道長よりオサレなコードネームを頂いたあたしは内心大はしゃぎ。フッ、これから皆も私のことは緋燕と呼んでもらおう。

 原作やアニ鰤でたまに見かけるあのクソ長い白の覆面みたいな装束に袖を通し、早速教官に紹介され流魂街の端の練習場にて実力試験だ。

 

「──【縛道の二十一・赤煙遁】【破道の十一・綴雷電】」

 

 虚の的を十体ほど煙幕で覆い、煙幕自体に電撃を伝わせる雷雲攻撃。いつぞやの大虚軍の殲滅戦で保険として準備しながら結局使わなかったコンボで敵集団の一斉ダウンを狙うと、教官の感心する声が聞こえた。

 

「──【破道の十二・伏火】【縛道の二十六・曲光】」

 

 調子に乗るあたしは原作雛森ちゃんが使ってたコンボで試験を幕引きとする。ただし、使うのは当然飛梅ではなく霊術院でのあたしの代名詞的破道。おそらく教官もこれを見たがってるはずだ。

 

「──【破道の七十三・双蓮蒼火墜】」

 

「ほう…」

 

 【曲光】で隠した【伏火】を伝い蒼炎が十体の的へ同時に命中。霊圧を隠しているので威力はお察しだが院卒一年目のペーペーに求められているのは将来性だ。この六年でマスターした三重詠唱と詠唱破棄の上級破道はかなり教官の興味を引けただろう。

 

「技術、工夫共に申し分ない。かつて【蒼火墜】で巨大虚を倒したと言うのも頷ける」

 

「あ、ありがとうございます…!」

 

「三重詠唱が可能な者なら八十番台の鬼道にも手が届くだろう。大書庫の閲覧を許可する。詠唱文の言霊構成を暗記したら修行に移るぞ」

 

「はいっ!」

 

 既に組内では先ほどの【双蓮蒼火墜】が知れ渡っているらしく、七十番台くらいなら普通に使える超大型新人として一目置かれつつも、みんな特にあたしを化物扱いはしてこない。院生時代で新しく学んだのは東仙師匠の【断空】だけだったので、それさえ隠せば大っぴらに有用鬼道を練習しても大丈夫なのだ。

 超エリートとされる戦闘部隊【一之組】への今年度の新規配属はあたしだけ。夜間は鬼道衆教官にみっちり扱かれ、日中は五番隊で雑用、休日は東仙と共に虚圏での仕事をする忙しない日々が過ぎ──

 

 

「──君臨者よ。血肉の仮面・万象・羽搏(はばた)き・ヒトの名を冠す者よ。炮濫洪洪(ほうらんごうごう)燃ゆる揺光。赤赤琰閃(しゃくしゃくえんせん)穿つ剣先。天座の矛にて贄を別て──

 

 【破道の八十・金剛爆】」

 

 巨大な炎球体が掌より放たれ一之組専用の練習場に大爆発を起こす。扱いの難しい八十番台の破道をようやく手に入れたあたしは早速習熟のため反復練習に勤しんでいた。

 

「──半年でよくぞここまで練り上げたものだな、緋燕」

 

「! ふ、副鬼道長っ」

 

 久しぶりに練習場に現れた偉いおじさんにあたしは礼をする。

 そう。入団してから半年が経ち、やっと新たな上級破道が一つ満足に使えるようになった。

 

 鬼道の発動には精密な霊力操作で言霊を構築する技術が重要であり、霊力量はあくまで威力をブーストするためのエネルギーだ。だが込める霊力を増やすと当然入れ物の言霊も強固に構築しなくてはならない。なので習熟する際に霊圧はあまり重要ではなく、あたしのアドバンテージはこの原作雛森ちゃんソウルの才能一つである。そして達人と謳われた彼女の潜在力を以てしても、八十番台は一つマスターするのに年単位の時間が必要だった。

 東仙に教わったのが【断空】のみなのも六年間で詠唱破棄が出来るほどに習熟させるにはそれ一つに絞るしかなかったから。わりと雑に霊力構築を行っても形になる中級鬼道とは全く違う、それが上級・最上級鬼道なのだ。

 

 …ただ暗記した詠唱文を叫ぶだけで【黒棺】が使えるとか思っちゃったアホなんて知りません。

 

「やっぱり九十番台って凄いんですね…」

 

「無論、練達した者には班長以上の席が与えられるほどだ」

 

 あたしが学びたい九十番台は多くの禁術が属する位階であり、何より詠唱が長く扱いが極めて難しい。最も低位な【黒棺】でさえ十五秒前後もベラベラ唱える必要がある。複雑な霊力操作で構築した言霊をその全てに宿らせるなんて到底戦場で出来ることじゃない。そりゃ詠唱破棄なんて出来た日には天にも立ちたくなるだろう。

 あの現世の胡散臭い商店の髭グラサンはエプロンなんか着てないでもうちょっと大物感出してください…

 

「緋燕よ、貴様に初任務を与える。第三班に加わり南流魂街78地区の虚捕縛作戦に従事せよ」

 

「! はいっ、かしこまりました!」

 

 未だ遠き黒棺へ想いを馳せていたら、なんと入団以来初仕事を命じられてしまった。特にヨン様が流魂街でお遊びするなどの予定は聞いていないので、普通の虚関係の任務だろう。捕縛なんて研究でもするのかな。

 

 早速拠点で三班のメンバー二人と合流し、正式な指令を受けて出発。仲間と顔合わせと言っても頭巾に覆面なので声と体形で性別くらいしかわからない。第三班の班長は嗄れ声の女性でした。

 

「──新人は鴻蓮と共に拘束準備。私は霊絡で標的を誘引。敵は特殊個体、油断禁物…」

 

『承知』

 

 流魂街は戌吊の森の中、鬼道の専門家とは思えないスピーディーな瞬歩で散開する一同。遅れずあたしも鴻蓮とかいうおっさんと反対側の配置に移動し、じっと様子を窺う。

 

「……標的確認」

 

 班長の機械的な台詞が聞こえ、直後宙に黒腔が開き一体の不気味な虚が現れた。ヨン様が関わってない虚にしてはソコソコ霊圧がある。確かに接近戦主体の護廷隊でコイツを捕まえるのは大変だろう。

 姿を確認したあたしたちは戦闘行動に移る。手始めにと平班員のおっさんが片手から鬼道を放った。

 

「──【縛道の七十九・九曜縛】」

 

 うおっ! このおっさん、護廷隊副隊長でさえ出来ない七十番台後半の詠唱破棄をしれっと使いやがったぞ!

 仲間の上級技術に周りのレベルの高さを自覚しつつ、あたしは自身が詠唱破棄で使える最高の単独捕縛系の鬼道で敵を更に拘束する。

 ちょっとランクが下がるが鰤ファンにはたまらない、あたしの大好きな術だ。

 

「──【縛道の六十一・六杖光牢】」

 

 白哉を参考に指先からオサレに六つの黄色い霊力帯を作り、六方より虚の両腕と胴体を固定。くーっ、やっぱ縛道と言えばこれっすよ。

 

「──【縛道の三十七・吊星】」

 

 この虚は地面と一体化し土石系の能力を使う特殊個体らしいので、念のため【吊星】で宙に固定する。番号は共に低いが二重詠唱でオサレさを出そう。

 

 が、そのとき。

 自分の仕事に満足げなあたしの横で、さっきから聞き取れない超高速小声でブツブツ詠唱を唱えていた班長の手により、とんでもない鬼道が使われた。

 

 

「──【縛道の九十九第二番・卍禁】」

 

「えっ!?」

 

 

 思わず任務中に素っ頓狂な声をあげてしまったがこれは流石に許されよう。は、え、聞き違いじゃないよね? この人今何番の縛道を唱えた?

 

「──【初曲・止繃(しりゅう)】」

 

 顎を開けたままのあたしの目の前で、その常識外れな光景は続いていく。おぞましい量の霊力布が班長の周囲から生成され一瞬で巨大虚へ巻き付いた。叫び声を上げる間もなく敵は喉も口も閉ざされる。あたしの顎も閉じて欲しい。

 

「──【弐曲・百連閂(ひゃくれんさん)】」

 

 続けて同じように何十本ものエグイ大きさの串が射出され、ドガガガと布の上から巨大虚へ突き刺さる。振動で周囲に土埃が舞い上がり、晴れた後にはまるで滅多刺しにされたミイラのようなオブジェが転がっていた。

 

 沈黙。あたしは安全確認もせず吸い寄せられるように完成した鬼道へ近付き術を注視する。

 ヤバイ、霊力量自体は大したことないのに構成がアホみたいに高度で複雑だ。こんなの抜け出すのに内包霊力の一体何百倍の霊圧が必要になるのか見当も付かない。霊圧オバケなあたしの始解の全力大技でも破壊出来るかどうか…

 

 これが九十番台、鬼道の頂点。

 

「…双方ご苦労。集え、帰還する」

 

 最早溜息も出ないあたしの横に抑揚のない嗄れ声の女班長が近付き、懐から長い白帯を取り出す。

 え、それってまさか…!

 

「──千反白蛇」

 

 うわっ、鬼道衆もそれ使うのか! 初めて見るあのヨン様陣営や小説のボスキャラたちが使ったテレポート鬼道を前に、あたしの心は感動しすぎでもうパンク寸前。

 空間転移のクセにどうやら特に禁術扱いされてはいないらしく、立て続けの有名な術に呆けていると、気付けばあたしは班の他の二人と虚と一緒に一之組の拠点へ飛ばされていた。

 

 

「──任務ご苦労、班長。緋燕は使えたろう?」

 

「…是。反応も術の練りも素早く機転も利く。今後も十分我が班の戦力となるかと…」

 

「それは何より。五番隊隊長殿のお気に入りだ、目をかけてやれ」

 

「御意…」

 

 変わらず無感情な声であたしを称賛してくれる班長だが、あの超技を見せられた後だと何だか恥ずかしくなってしまう。霊圧差は万に一つもないくらいあたしの圧勝。だが肝心のオサレさは覆面のマイナスを考慮しても彼女の圧勝。

 くっ、やはり最上級鬼道のOSR値は規格外だ。これはあたしのOPBの知識を総動員しても負けるかもしれない…!

 

 去っていく班長の後ろ姿をぐぬぬと眺めていると、微かに目を細めた副鬼道長が励ましてくれた。

 

「アレは一之組第三班班長、護廷隊で言う三席に相当する人物だ。総帥を除く我ら鬼道衆第三位の使い手。多くを学んで来い」

 

「…は、はいっ!」

 

 そうだ。あたしは何をしにここに来た? 落ち込むためじゃない。黒棺を学びにここに来たんだ。

 滅私奉公で仲間への情は護廷隊ほど強くはなさそうだが、優秀な部下は大切にしてくれる組織。おまけに名前は【鬼道衆】。かっこよくて素敵じゃないか。

 

 ──ここでなら、あたしはもっとオサレになれる。

 

 

「…あたし頑張るよ、シロちゃん」

 

 

 最近飛び級卒業が決まったとイキりまくった顔が見え見えの手紙を寄越した可愛い幼馴染。

 そんな彼へ向けて決意を新たにし、あたしは己の夢にまた一歩、前に進むのだった。

 

 

 

 





次回は護廷隊で愉悦ジェンガを積み上げる桃ちゃんのお話


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