雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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細かい布石を打っていく桃ちゃん
 


誕生ビィィィ!

 

 

 

 師走も半ばの雪積る冬日和。護廷隊・鬼道衆・ヨン様陣営とトリプルフェイスな雛森ちゃんはこの日、珍しく休日だ。

 正式に死神となってそろそろ一年。あたしは入隊後初となるお休みに軽く感動していた。何といったって、この日に休みが取れたのは実に七年ぶりである。七年分のお祝いをしないといけない。

 

「…といっても予定はみっちりなんだけどね」

 

 早く流魂街のおばあちゃん家へ行きたいのだが、朝は四番隊で回道の公開授業、昼は女性死神協会の近しい平隊士たちとお茶会がある。どちらも外せないのであまり時間がないのが残念だ。

 

 

 さて、護廷十三隊に所属し一年も経てば、それなりに他の隊の色々な人々と面識を持てる。特に巨大虚撃退の実績を持ち、上級鬼道を操り鬼道衆【一之組】の末席を兼任し、あの高名な五番隊隊長・藍染惣右介が特に目をかける新入隊士となればかなりの箔付きだ。ヨン様の口添えや持ち前の美少女オーラもあって、わりとどこへ行っても歓迎してくれる。

 

「──ひ、雛森先ぱ、さんってホントに凄いんですね。覚えも早いし、僕はいつも怒られてばっかりで…」

 

「あはは…あたしなんて全然だよ、山田くん。鬼道衆の皆さんと比べたらあたしなんて…」

 

「あの伝説の先輩がそんな風におっしゃるほどの世界…想像も付かないです…」

 

 回道の専門家集団、四番隊。順調にオサレスキルを鬼道衆で磨きつつあるあたしは今一度初心へ返り、シロちゃん観察に必須な自己治癒能力を磨くためここ四番隊隊舎へと足を運んでいた。

 一般公開されているこの回道授業の講師はニヒルな山田清之介副隊長。そしてたまたま隣に座ったのが未だ院生のあの花太郎だったので、これは関わらねばと話しかけたら普通に仲良くなれたのだ。正体を明かすとキラキラお目々であたしを見てくる少年、流石作中最チョロ善人山田七席(予定)。

 

「山田くんは卒業したらやっぱり四番隊へ行くの?」

 

「は、はい。兄が貴族医院に転職したがってて、抜ける穴を埋めろとうるさくって…」

 

 花太郎は作中有数の回道使いで、最終的には三席にまで上り詰めている。まああれは深刻な人材不足のおかげもあるが、少なくとも未だ院生ながらあたしより実力は上だ。チャン一やルキアと関わる重要人物でもあるので技術交流も兼ねて親睦を深めておきたい。

 

「ええっ!? ぼ、僕みたいなドジが先輩に教えることなんて…!」

 

「ず、図々しいのはわかってるけど、あたしも鬼道とか代わりに教えられるかもだし…! 縛道とかなら四番隊の人にも役に立つと思うから…」

 

 不安そうに「ダメ、かな…?」とおねがいしたら真っ赤な顔でガクガク頭を上下に振ってくれた。満面の笑みで礼を言うと耳まで赤くなる山田花太郎氏。美少女って凄い。

 

 棚ぼたでいい出会いがあったあたしはルンルン気分で次の目的地へと向かう。行先は朽木家別邸──女性死神協会だ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「──はぁい、雛森。元気そうね」

 

 四番隊を後にしたあたしは途中で知り合った救護班の隊士たちと一緒に女性死神協会へ足を運び、そこで彼女──松本乱菊と鉢合わせした。

 

「乱菊さん! お久しぶりですっ」

 

「あんた見かけによらず体力あるわね。鬼道衆との掛け持ちなんてあたしだったら忙しすぎて死んじゃうわ…」

 

「はいっ、大変ですけど何とかやっていけてます!」

 

 相変わらず顔を埋めたい谷間を晒しながら呑気そうな顔をしているBLEACH世界のお色気担当。席官なのにこんな平隊士のお茶会にまで軽食を貪りにくる彼女の自由さは方々で色々問題になっているみたいだけど、ちゃんと原作通り副隊長まで出世してくれますよね…?

 

「あ、そうそう! 来年飛び級卒業のあんたのチビっ子幼馴染、ウチの隊長代理が壮絶な争奪戦を制して確保したって」

 

「! わあっ、やっぱりそうだったんですね! シロちゃんの手紙に書いてあったので、もしかしたら乱菊さんもご存じかもと気になってたんです」

 

 他愛もない雑談に紛れ重要情報が彼女の口より語られる。既に知ってはいたものの、乱菊さんが未だシロちゃんとあたしの関係に関心を持ってくれているという事実を確認したかったのだ。

 

 この松本乱菊という女性は本来シロちゃんを死神の道へ導く人物だったのだが、この世界ではあたしの介入で少々経緯が変わってしまっている。

 というのもあたしがおばあちゃんの身を案じて例の話を教えたせいで、彼女が意地を張らずに手紙でシロちゃんの変化をこちらに伝えてくれたのだ。慌てて教師に事情を話し家まで飛んで行き、その途中の市場の曲がり角でぶつかったのが乱菊さん──のおっぱい。後は流れで彼女を引き摺りシロちゃんと対面させ、一死神の意見として「霊術院へ行け」とのお言葉を頂き、原作通り彼を死神の道へと誘導することが出来たのだ。

 まあ実際はもっと涙とか懇願とかドラマチックに演出したけどネ。

 

「うふふ、来年の卒業が待ち遠しいわねぇ。みっちり扱いてやるわ──あの子があんたを守れるようにね♡」

 

「ふぇっ!? あ、あああれはそのっ! と、とにかく違いますっ! あたしじゃなくてシロちゃんが守られる側なんでしゅっ!」

 

「さぁ、どうかしら? まあでも雛森も優秀だから天才同士お互い苦労しそー」

 

 ニヤニヤ「ご馳走様です」とからかってくる彼女に、あたしは羞恥でムキになった雛森ムーヴで対応する。

 うむうむ、これで乱菊さんの脳中であたしとシロちゃんは双方でマウント取り合ってるお笑いカップルになってることだろう。願わくば十番隊でちょくちょく彼にあたしとの関係を茶化してもっと意識させて欲しいものだ。

 

 しかしこうして女性死神協会には何度か訪れているが、まだ平隊士だからかあまり原作キャラに会えない。超古参隊長の卯ノ花さんはもちろん無理だし、砕蜂も上級席官。読書仲間の七緒ちゃんや虎徹姉妹は恐らく中下級席官で、他はまだ護廷隊に所属してなかったり生まれてもいなかったりと散々だ。

 

「乱菊さんってルキ──朽木さんってご存知ですか? 十三番隊の」

 

「あぁ、あの暗い顔してるお嬢様? 先月一度ココ来たけど…あんた知り合いだったの?」

 

「あ、はい。同期の人の幼馴染であたしも友達だったんですけど、ちょっと悲しい別れ方しちゃいまして…」

 

 ふむ、まあ白哉の厚意で朽木家で主催されてるし一応顔を出してはいるのかルキアちゃん。実は最近東仙が死神と融合する特殊な虚を作りたいとかでヨン様とキャッキャ盛り上がってたから、そろそろ例のイベントが起きる前に様子を見ておきたかったんだけど…

 まあまだメタスタシアも実験段階みたいだし、原作イベはもうちょっと先だ。海燕殿を助けるワケにはいかないが曇るルキアちゃんには友達として優しくしてあげないとね!(暗黒微笑

 

 そうして和やかなお茶会は過ぎていき、あたしは乱菊さんと別れ──ついにこの休日最大の楽しみを堪能するため瀞霊門へと向かった。

 

 さぁて、今日はいっぱい遊ぶぞ!

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 トコトコと足取り軽く流魂街は潤林安を歩くあたし。霊圧感知を行い位置を探ると…いたいた。

 卒業以来だが、どうやら一年でかなり力が上がっているようだ。既に恋次たちに匹敵する霊圧かもしれない。

 

 

「──ただいまーっ! シロちゃんお誕生日おめでとーっ!!」

 

「えっ、ひ、雛森っ!?」

 

 元気いっぱいにお家にIN! そして予期せぬ幼馴染の帰省に驚くシロちゃんの頭をなでなで。無論すぐに逃げられてしまうのだが。

 

「お、お前なんでここに…っ! 五番隊も鬼道衆もどうしたんだよ…?」

 

「えっへん。シロちゃんが飛び級決まって卒業まで暇だって聞いたから頑張って両方お休みとったんだ! お祝いするの七年ぶりだねっ」

 

「…ッ、ふん」

 

 去年の現世実習以来の全力全開の雛森スマイルをお見舞いすると「べ、別に祝ってくれなんて…」とかモゴモゴ照れ隠しに悪態吐くシロちゃん。いやぁ何度見てもいいですねぇ、育成が順調な姿というものは。

 ふふふ、あのときの「俺が守る」発言も思わず顔面崩壊ニチャァ…しちゃいそうになるほどの快感だったなぁ。うっかりその場で収穫(・・)しなかった自分を褒めて欲しいくらい。

 

 …でもぉ、今のチミのそれは頑張って休みをとってくれた幼馴染にしていい態度じゃないよなぁ?(豹変

 

「ふん、いいもんっ。あたしが勝手にお祝いするから。──おばーちゃーん、ご馳走作るの手伝うけど何か残ってるー?」

 

「ふふっ、あるよー。おいで桃ちゃん」

 

「あ、おい…っ」

 

 あざとい"拗ねてますよ"アピールも幼いシロちゃんの目には本気に見える。慌てる彼を一人放置し台所までドスドス向かえば、ポツリと残されるバースデーボーイ。けけけ、しばらくそこで可愛い年上幼馴染の久々の割烹着姿でも目に焼き付けてるがいい。

 

 突然だが、シロちゃんの好物は原作通り大根おろしをかけた玉子焼きだ。ただし"雛森桃(あたし)の"が前に付く。別に愛情云々ではなく、これにはちょっとしたワケがある。

 シロちゃんはお子様舌で辛い物があまり好きではない。そして大根おろしは──大根を少し茹でる・皮を厚めに切る・大根の葉っぱ付近を使うなど──おろし方を工夫しないと基本辛いのだ。ふと前世のテレビ番組で覚えていたことを試して出してみたらシロちゃん大喜び。以後あたしが台所に立つと目を輝かせてくれる。

 

「──じゃーん! お姉ちゃん特製おろしかけ出汁巻き玉子ーっ」

 

「…ッ!」

 

 勝手知ったる厨房で腕によりをかけて作ったいつもより数段豪華なお料理の数々。毎度のお姉ちゃん発言も気にならないくらい必死にがっついてくれる姿は、なんていうか、うん。料理した者として普通に嬉しいよ。

 自然と緩むあたしの表情を見られたのか、シロちゃんがぷいとそっぽを向いてしまう。でもお箸は止まらない。おうふ、これは完全に胃袋握られてますねぇ。あたしがいなくなったら彼は一体どうなってしまうんでしょうねぇ…!?(ハァハァ

 

 なんか別ベクトルの笑顔が浮かんでしまいそうになったので、おばあちゃんに死神生活の近況報告をして心を落ち着かせる。すると途中でシロちゃんも霊術院の話などで加わったので、あたしはここぞとばかりに一つ──愉悦の種を撒くことにした。

 

「…その藍染って、前に雛森を助けてくれた隊長だよな? お前が所属してる五番隊の…」

 

「そうっ、藍染隊長! ハンサムでかっこよくて優しくて! 鬼道衆のことも死神としての心得も全部全部あの人に教わったのっ! あぁ、藍染隊長…憧れだよねぇ…」

 

 つい失笑が零れる歯の浮くようなセリフだが、事前に五回ほど練習したおかげで何とか鼻で嗤わず最後まで言い終えた。

 もちろん目的は日番谷冬獅郎と藍染惣右介との間に因縁を作ること。ちらりと様子を窺うと、そこにはやはり気に食わない顔をしているシロちゃんが。

 

「それでね──って、どうしたの?」

 

「…別に」

 

「? あ、そうそう! 鬼道衆にも凄い人がいてねっ、あたしの班長なんだけど──」

 

 流石に原作雛森ちゃんほどの狂信性を演じるのは早いので、ケロリと話題を変えて元の和気藹々とした空気に戻す。

 何と言ってもあの謎めいたエリート部隊、鬼道衆・一之組。シロちゃんも一旦ヨン様のことは忘れて興味深々だ。

 

 その後は例の任務での超上級縛道【卍禁】が凄かったなどの話で夜が更けるまで盛り上がり、久々に揃った潤林安一家は幸せいっぱいに床に就いた。

 

 

 

 

 

 ──と、思っていたのか?

 

 

 寝静まる民家の中。ぱちくりと目を開けたあたしは、鬼道衆で習った隠密技術で密かに居間を抜け出し、庭の縁側でスタンバる。作り出す光景は"冬の夜に月見をする美少女"だ。

 シロちゃんは夜中に必ず一度起きて(トイレ)へ行く習慣があるので、こうしていると…

 

 

「──ひな、もり?」

 

 

 ほら。特別な日に久々に再会した、気になる幼馴染と二人きりの幻想的な冬月夜。

 最高にエモい状況の完成だ。

 

「…シロちゃん? 起こしちゃったかな」

 

「いや…」

 

 さも偶然のようにすっとぼけるあたしの百年の演技が気付かれるはずもなく、無垢な少年はとてとてと近付き隣に座ってくれる。

 

 さぁて、どう料理してやろうかなぁ?

 

 

「…寒くねェのか?」

 

「ちょっとね。でもシロちゃんが隣にいるからあったかいよ」

 

「──ッ」

 

 まずは軽いジャブに見せかけたデンプシーロール。祖母を凍死させそうになった闇を背負う少年に「あったかいよ」はクリティカルだ。

 無論一歩間違えると捻くれた彼の地雷となりうるが、今のシロちゃんは霊術院主席飛び級卒業に家族揃っての誕生日を楽しめた、精神的にとても満たされた状態。そして口にした人物はこの雛森桃。あたしの"藍染隊長への憧れ"アピも彼なら逆に奮起してるはずだし、万に一つも機嫌を損ねることはあり得ない。

 

「……アホ桃のクセに」

 

「む、なによいきなり」

 

 真っ赤なお顔のとーしろーくん。どうやら素直に受け止められたらしい。

 うふふ、あたしは君のことなら誰よりも詳しいんだゾ。

 

「……来年」

 

 ポツリとシロちゃんが呟く。

 

「来年、俺は死神になる」

 

「…うん」

 

 あたしは寂しそうな声で不満を主張。いつまでも守ろうとしてくる年上幼馴染と、そんな彼女を守りたい健気な男の子。最高の愉悦のためにこの関係は壊せない。

 

「ッ、だから俺がお前より強くなったら…っ」

 

 少年の、男の真剣な言葉が二人きりの夜空に刻まれていく。

 

 再宣言か、或いは新宣言か。

 そう期待するあたしだったが…

 

 

「──ッ、何でもねェ! 強くなってから言うっ」

 

「えっ、ちょ…シロちゃんっ!?」

 

 かなりいいムードだったのにヘタレて逃げ出す未来の十番隊隊長さん。おいマジかよここまでお膳立てしてやったのに生殺しとか酷すぎぃ!

 

 

「…ま、まあでもそれだけ大事なことだったの…かな?」

 

 去り行く背中を眺めつつ、仕方がないのでそう自分を納得させる。不完全燃焼な終わりだったが、別に無駄になったワケではなさそうだ。あたしが張った愉悦の蜘蛛の巣は全く揺るぎない。

 

 

 これからお互いどんどん忙しくなり、二人きりになれる時間は殆どなくなっていくだろう。

 

 ──だが、それはそれで結構だ。

 

 後に「あのときに言っておけば…」と後悔する彼の顔もまた、あたしを魅了する甘美な蜜。全てが手遅れになったと気付いたとき、シロちゃんが見せてくれる曇り顔はまさに天にも昇る素晴らしい光景になるだろう。

 

 

 あたしが用意しているのは、日番谷冬獅郎という人物の輝きを、魅力を引き立てる最高の悦ッセンス。

 

 そう、まだ舞台は整っていない。

 じっくり、ねっとり、我慢を愉しもうではないか。

 

 

 うふふ、全てはその時がくるまで…

 

 

 

 

 




 
次回:虚圏の任務
 
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