雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
ようやく女性キャラが増えます。
かつて
「──大きいですね…」
「藍染様に相応しい城にせねばなるまい。護廷隊隊長たちとの戦闘に耐えうるものにな」
無数の
バラガンを仲間にしてから一年。未来の
嫌そうな態度をとった虚をちょっとわからせてあげるなど幾つかトラブルはあったが、元が力に従う獣みたいな連中。わりとすんなりイエスマムになったので「見つけたら教えて」とお願いしたら、次々発見報告が送られてくるようになった。
バラガンの手下はかなりの数で、ヨン様が拠点に占拠したここ虚夜宮の増改築も彼らの手で行われている。あたしの大虚捜索の雑務まで一気に行うことが出来、我らヨン様陣営はこの数の力に満足していた。
まあでも原作通りならこの虚たちも、後に進化させる破面たちも全部捨て駒で、聳える虚夜宮も剣八や卯ノ花さんらヤバい隊長たちを一時的に幽閉するためだけのものだ。そう考えると何とも空虚で物悲しい光景である。
余計な仕事が飛んできたら大変なので、あたしは熱心にスカウトを頑張って今の任務への意欲をアピールします。
「精度の高い情報は何かありますか? あたし最近こっちの仕事ほとんどしてない気が…」
「先日入った。ついて来い」
尖塔から瞬歩で下へ降り、相変わらず几帳面に片付いている東仙の研究室へ戻るあたしたち。壁一面に広がる巨大な扁桃型の映像画面を起動した彼がその一点を指差した。
「バラガンの報告にあった
「雌?」
あたしは思わず振り向く。雌の最上級大虚なんて一人しか原作に登場しない。
「情報では流水系の能力持ち。性格は理性的。余計な争いは控え交渉で迎え入れろ」
「あ、はい」
ふむ、てっきりヤミーやアーロニーロあたりかと思ったが、ここでハリベルとは少々意外だ。まあ大事なのは破面化した順番なので、ただここに連れてくるだけなら問題ないかな。
今のところ男と雄しかいない我が陣営に新たな女性キャラの参加。これは頑張らなくてはならない。
ティア・ハリベル。
原作ヨン様陣営唯一の現役女幹部と言える立場にある人物だ。大きなおっぱいの付いた金髪褐色無口武人イケメン…と羅列すると凄いキャラが濃いが、性格は東仙の情報通り冷静沈着でTPOを守れる数少ない十刃の常識人枠。おまけに序列第三位、強い!
強い…はずだ…
というのもこのハリベルさん、多くの十刃の例に漏れず序列上位のクセに戦績が若干残念。鰤ファンの間ではシロちゃん一人に負けかけた第3十刃(笑)とか言われている。
ちなみに【オサレポイントバトル(OPB)制度】が初めて提唱されたのもこの頃で、設定上は護廷隊隊長より強いとされる
そんなOPB制度の被害者とも言えるハリベルだが、よく見ると実際はシロちゃんの必殺技を無傷で抜け出しており、その後の
何より、処分時になんとあのヨン様の攻撃を耐え、しかも彼に鏡花水月を使わせるレベルの反撃までして見せた点は大いに評価すべきである。不利なOPB制度下においても間違いなく並の護廷隊隊長たちよりは上の実力だ。
ハリベルは
だがしかし、彼女はあのヨン様に斬り捨てて貰える数少ない幸運なキャラでもあるのだ。二撃も貰えて、しかもシロちゃんの目の前で! おいそこ代われ妬ましい。
ん? あれ、でも確かアニ鰤でハリベルが仲間になった経緯って…
「…あの、東仙隊長。藍染隊長から今回の大虚について何か伺ってませんか?」
「主力大虚の勧誘はお前に一任されているだろう。何故そんなことを聞く?」
「あ、いえ。バラガンさんのときを思い出しまして」
咄嗟に誤魔化したが、これは少々困ったことになった。
ハリベルの過去はアニメで詳しく描写されており、彼女はかつて難癖を付けられたバラガンの手下の一体に殺されかけ、そこをヨン様に救われた恩義で彼に仕えていた。
もっともこのバラガンの手下はヨン様が送り込んだ破面なのでいつものマッチポンプなのだが、問題はあたしがこの手段を取れないということ。
そして更に問題なのは、おそらくヨン様がこの任務を高確率でどこからか監視していることだ。
あの鬼畜眼鏡なら本来の十刃勧誘の仕事から自由になった時間で絶対良からぬ趣味に走る。そして今のヤツの趣味は
なので余計なネタを提供しないよう、ここはオサレに決めておきたい。
ふむ、やはりバラガン戦の繰り返しはオサレじゃないな。今回は交渉で行くか。
この頃のハリベルは腑抜けてて凄く弱いし、そこを突いて仲間のアパッチたちを守るための力を与える対価に部下になってと頼みましょう。ダメなら仕方ないので霊圧で凄んで虚らしく獣の上下関係を築くか。バラガンの現在の話をすれば首を横には振らないはず。
「では行って来ます、東仙隊長」
「成果を期待する、雛森」
展望が見えたあたしは東仙に挨拶して虚夜宮を後にした。
それにしてもハリベルってあのキャラの濃さに加えて千年血戦篇でリョナ属性まで獲得してるんだよね。なんか所々微妙にあたしとキャラ被ってる気がしてならない…
***
「──こんにちは、大虚さん。雛森桃と言います」
虚圏の砂漠の一角に広がる丘陵地帯。最上級大虚の勧誘の任務に従事するあたしは情報にあった地へと赴き、早速将来の第3十刃と対面していた。
装甲付きのダイビングスーツみたいな容姿がすごくえっちだ。脱がしておっぱいにダイビングしたい。
「…ティア・ハリベルだ。死神が虚圏に何の用だ」
「まだ新米の平隊士ですけど。あたしの上司があなたの力を欲しておられます。少しお話ししませんか、ハリベルさん?」
「お前が新米…だと…?」
霊圧を隠さず垂れ流しているあたしに、全身で身構えるハリベル。こうして対面しただけでかなり憔悴しているようだ。
…なるほど、これはあのアニ鰤の不完全な破面でもイキれるだろう。同じ最上級大虚でもバラガンとはかなり差がある。やっぱりこの頃のハリベルはぬるま湯に浸かっちゃってるみたいですね…
なお後ろの三人娘らしき鹿と獅子と蛇の大虚たちは霊圧にあてられてガクガクしている。おうおう、原作ではよくもいたぶってくれたなぁ? 三人集まっても勝てない彼女たちはホモビでも見習って、どうぞ。
…さて、あの鬼畜眼鏡の覗き見の件だ。
どうもヨン様の中であたしはなんか凄い興味深い人になっているらしいので、まずはそのイメージを何とか「勘が良い」程度のどこにでもいるギャップOSRキャラに路線変更したい。既に戦闘力は東仙一〇とも張り合えるくらいに上がっているのだ。空座町決戦までに捨てられる危険が消えた以上、致命的な失望をされる前にちょっとおバカなところを見せておこう。
まずはぽわぽわ桃ちゃんだ。
「そうですよ。新米が実は強い!ってなんか格好いいでしょ? 能ある鷹は爪を隠すんです」
「…死神の組織図は知らん。だがお前がただ者ではないことはわかる」
「ホントですか? ありがとうございます、ハリベルさん。流石あの人が認めた大虚ですねっ」
「…その"あの人"とやらが私の力を望んでいるようだが──悪いが断らせて貰おう」
と、まあ当然このままでは膠もなく断られる。ヨン様もこのままではキレるだろうし、ぽわぽわ桃ちゃんは止めて交渉モードの出番だ。まずは無知を装いつつ少し揺さぶってみよう。
「でもあなたたちも困ってますよね?」
「…何?」
「だってあなたは強いのに、何かから逃げ回ってるようですし」
ビクリと後ろの三人娘が硬化する。ハリベルはこらえたのか動じていないが、これでは答えを口にしたようなものだ。
「…何のことだ」
「少し観察させて貰いましたが、あなたたちは常に遠くの周囲に気を配っていました。追うより追われることを常に意識しているように見えたので」
「──っアァ!? 黙って聞いてりゃテメェッッ!!」
「ッ、よせアパッチ…!」
血の気の多い鹿さんが彼我の霊圧差も考えず飛びかかってきたので、バラガンの従者たちにやったようにスッと【白伏】で意識を奪う。自然体で視線も寄越さず、片手を持ち上げるだけで沈めればかなりオサレな強者ムーヴだ。
ドヤァ…
ドサッとあたしの手前で気絶した仲間に目を向け、ハリベルが小さく問い掛けてくる。
「…殺さないのか?」
「流血は戦場の印。ここは交渉の場です」
暗に部下は眼中にないと宣言。原作で雛森ちゃんと大泥試合したあの三人娘を塵芥扱い出来る現状に「ここまで来れたか」と軽い高揚を覚えてしまうのは許してほしい。まあ今の彼女たちはただの中級大虚だけどね。
うむ、もう種明かししてもいいかな。
「あたしの上司は強い虚をお探しです。ハリベルさんを追ってる敵──バラガン・ルイゼンバーンなら既にあたしが力づくで部下にしました」
「なっ…!?」
「あなたはバラガンさんとは違って会話が成立します。こちらはあなたに種族の壁を超えた想像を絶する力と、バラガン一派からの安全、そして組織における高い地位を提供します。その対価に、あなたはあたしの上司へご自身の武力を提供していただきたいのです」
少し霊圧を上げて話の信憑性を高める。霊力操作の応用でぶつける相手をハリベル一人へ。
「……一つ聞きたい」
「なんでしょう」
「疑っている訳ではない。だが私にはヤツの無敵の力を超克する手段が想像も付かない。お前は一体どうやってあの化物を下した?」
おっと、ここはオサレチャンスですね。あたしは心底大したことなさそうな声色でハリベルに伝える。
「? ああ、簡単ですよ」
無言で始解、無言で大技、そして久しぶりの解放に大歓喜する飛梅ちゃんのテンションにお任せした特大梅焔を何気ない手首のヒョイで後ろに放──って、飛梅ちゃん霊力ごっそり持ってきすぎぃ!
『──!!?』
さ、流石一年分のストレス。ドッガアアアアン!と凄まじい大爆発があたしの背後で起き、ハリベルら四体の大虚が西部劇の回転草のようにすっ飛んでいく。あたしも必死に木の根的な霊力糸で踏ん張る。ウギギギ…!
爆風が去ったあと、グツグツと溶けて煮える真っ赤な煉獄の砂漠を背に、あたしはなんとか素敵な笑顔を張り付け、優雅に彼女たちの側へと歩み寄る。
そして、眼球が零れそうになるほど瞠目するハリベルの問いに、優しく答えた。
「小手先が通じない暴力で、だよ?」
…ふっ、決まった。
見開いていたハリベルの瞼がゆっくりと閉じていく。恐怖が消え、虚ろな達観が取って代わる。そして、虚無から沸々と湧き上がって来たそのもう一つの感情を見たとき、あたしはこの交渉と言う名のオサレポイントバトルの勝利を確信した。
「…ハリベルさん。仲間を守れる力が欲しくありませんか?」
自信満々に追い打ちするあたしをじっと見詰めるハリベル。長い葛藤。続く無言に焦れることなく、あたしはわかりきってる答えを待ち続ける。
そして後ろの三人娘が沈黙に耐えられなくなったとき。
「────わか…りました。雛森様」
その瞳に浮かんだ最後の感情の名は、畏怖。
かくして未来の
ヨン様! やっと、やっとあのむさ苦しい虚夜宮に新たな彩りが来ましたよ…!
次回:海燕…どの…?