雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
小難しいオリ設定&説明回にて申し訳なく候
出会ィィィィ!
古今東西、ファンタジー世界には何かしらの超自然的能力が存在し、その源となる不思議エネルギーがある。魔力しかり、妖力しかり、ときに神力や法力なんてものもある。
BLEACHの場合は霊力だ。霊力は高ければ高いほど強者となり、魂魄あるいは高密度な霊力が発する霊的圧力は
鰤界ではこの霊圧で勝負の駆け引きのほぼ全てが決まる。なので何をするにもまずは霊圧を直接高める霊力を増やすことにしよう。
そう考えた俺…じゃない、あたしは手始めに自分の霊力を感知しようと、連載初期に出てきた
「───お腹すいた」
迂闊。そう言えばそんな設定あったな、と今更ながら気付いて頭を抱えた。
このデメリットは根なし草な
「…まずは生きることからかな」
背に腹は代えられない。同世代の
なに、焦らずとも結構。原作通りにシロちゃんとおばあちゃんを助けるにも先立つものは必要だからね。
──というわけで心機一転から早一年、地区一番の看板娘にジョブチェンジしたあたしの日常は賑やかだ。
「桃ちゃん、これはどうだい?」
「わぁ、スケさんお似合いです!」
「桃ちゃん今日も可愛いねぇ! そろそろ嫁に来てくれねぇかい?」
「ふぇっ…!? あっ、えと…こ、困りますっ」
「雛森桃、貴方は私の母になってくれるかもしれない女性だ…」
「あ、はい、赤染めの羽織ですね。承りました!」
こんな具合に原作通りの明るく無垢で恥ずかしがりやな女の子を演じていたら、住み込みバイトの仕立屋が初日から大盛況。自分でこの体の可愛い姿が見れないのは残念だけど、あの雛森ちゃんが売り子をしながら採寸で色々ボディタッチしてくれるなんてファンには天国だろう。羨ましい。
「ふう、ようやく捌けたな。桃ちゃん今日はもう休んでいいよ」
「あ、はーい! お疲れ様です、お先に失礼します」
おじちゃんに挨拶してから店の奥に引っ込むあたし。
ここはお給料もいいし、夜はゆっくり時間が取れる素晴らしい環境だ。とても世紀末な流魂街とは思えない。流石は神地区
…さて、あたしは霊力の求道者という裏の顔を持つ女。
今日は少しあたしの秘密の鍛錬法について話をしたいと思う。
まず、死神が強くなるには
裏ワザとして
お手上げ状態になった時。あたしはふと霊力に関するもう一つの原作知識を思い出した。
(…
そう。魂魄の霊力を司る、架空の内臓だ。血液器系でいう心臓に相当する【
もちろん司るのは血液ではなく、霊力器系。すなわち霊力だ。
(原作の修行法がどれもダメなら、この内蔵を"直接"鍛える方法を編み出せばいいのでは…?)
そんなぶっ飛んだ思考で色々とチャレンジしてみた一年間。あたしが辿り着いた鍛錬法は──体の安全を全く考えない大変デンジャラスなものだった。
「すぅー……くっ!」
気合いをいれて集中。筋肉を鍛える要領とは違い、心臓ならぬ
具体的には体内の霊圧の密度が通常の何倍も濃くなるように霊力を操るのだ。サラサラよりドロドロのものを動かすほうが大変だからね。
「くっ──うぐ…っ!」
しかし単純ながら極めて危険で難しく、何よりくっそキツい。霊圧の密度を上げる加減を控えめにしたりと工夫はしているけど、ミスると激痛で意識が飛ぶ。気が付けば翌日昼まで目を覚まさずお店が大騒ぎ、なんて事もあった。
とはいえ苦しむだけのことはあり、漫画界名物の超回復なのかその後はぐーんと霊圧を動かしやすくなる。効果自体はとても高い修行法なのだ。
「ハァ…ハァ…よし、次っ」
そしてもう一つの【
ここの鍛え方の参考にしたのは、昨今のラノベテンプレ「魔力を使い切る」方法。ようは体内の霊力枯渇状態を意図的に作り、生存本能を刺激して霊力の生成能力を高めようという発想だ。
しかし問題が一つ、前程の霊力を使い切るための"修行場所"がないのだ。
(そりゃ霊圧を隠してるんだし、人目がある所で霊力を使ったら本末転倒よ)
赤ちゃん転生モノでは何だかんだで親の慈愛と理解があってクリアできる問題だけど、結局主人公の特異性がバレるのは変わらない。こちとら相手しているのは
見つかればマッドのオモチャ一直線だ。
…そんな悲観的な状況を打開するヒントは、意外な所に隠れていた。
話は少し変わって、あたしが霊圧を隠す方法について模索していた最中の事。
この"霊圧隠蔽法"も霊力鍛錬と同様あたしの最重要案件だったが、原作で詳しい描写がないため自分で編み出さないといけなかった。
しかし試してみても完璧に遮断する事は不可能だったので、あたしは「霊圧を四六時中操って体表に張り付かせてれば良くね?」と雛森桃の鬼道の才能に頼った力技で問題を解決しようとした。
…実際この方法は「放出された霊圧は周囲の霊子を取り込み自身へ還元される」という霊力の循環システムにおいて自殺行為に等しい狂気だったのだが──
(これが副次的にさっきの
そう。ここで【魄睡】の話に戻る訳だけど、この霊圧隠蔽法の「霊圧を常に操り体表に張り付かせる」という手段がミソだった。
まず体外に放たれた霊圧は、周囲の霊子を吸収する事で還元される。霊圧を体表に張り付かせるとこの循環が阻害され、体内の霊力が少なくなる。すると目的だった「霊力枯渇状態」が疑似的に生まれ、あたしの魄睡が霊力を補充しようとその機能を強化する。
という流れだ。
(霊圧を隠せて、魄睡も鍛えられて、おまけに霊圧操作の技術も上がる。危険だけど一石三鳥の鍛錬法。鰤らしくオサレで良き)
まあ内心ドヤってるけど下手したら命を落とす超荒業だし、霊圧を外に洩らせない故の苦肉の策なのだ。
死なない程度に頑張ろう…
(ただ順調なのは幸運なんだけど、成長チートなのかこの強化ペースはちょっと予想外…)
最近出会ったご近所さんの白道門門番
霊圧隠蔽をもっと万全にせねば死神たちに感知されて拙いことになるし、何よりおじちゃんの店や市場に迷惑がかかる。霊術院に勧誘されるにしてもヨン様フラグが立つ第2066期まで待ってほしい。まだ肝心のシロちゃんにも出会えてないから切実な問題だ。
(
お人好しでオツムがよろしくない、けど人脈豊富な門番死神。もしかしたら彼を通してその友人知人にこっそり斬拳走鬼の教えを乞えるかもしれない。お近付きになって損はないだろう。
(死神と言えば、
真央霊術院入学まで後百年ほど。推しの子に逢えるまで後五十年ほど。試行錯誤しつつ原作の過去篇が始まるまでの長い時間をしっかり活用できたらいいな。
こうして光陰矢のごとし。
昼間は地元のアイドル、夜は霊力の求道者と二重生活に勤しむ傍ら。あたしはようやく、待ちに待った銀髪碧眼の少年の噂を耳にする──
***
何故かはわからない。だが少なくとも潤林安に住む近隣の心無い人々は皆、そう口にした。故に幼い少年にとっての全てとは、己と己を悪漢や悪ガキどもから守ってくれる優しい祖母だけだった。
二人だけの日常。隙間風の吹き抜ける何もない民家が冬獅郎にとっての完結した世界で、何よりの平和の象徴であり続けた。
だがその日、彼の楽園に一人の侵入者が現れる。
「──大丈夫、おばあちゃん? もう…こんなに大荷物持っちゃダメだよ」
「ごめんねぇ桃ちゃん。お陰で大助かりさね、ありがたやありがたや」
玄関先で祖母と話す聞き覚えのない親しげな声に、冬獅郎は思わず顔をしかめる。声質から察するに相手は若い女。たまに近所の井戸端で氷の童子のことを噂する連中がついに家にまで来たのかと苛立ち、少年は女を追い払わんと棒切れ片手に土間へと向かう。
そこで冬獅郎は彼女、
「──かっ、かわいい…っ!」
初対面でそんな失礼なことを抜かした侵入者は、一人の女の子だった。
祖母とは違う艶やかな黒髪を肩長で揃えた少女。幼い冬獅郎に異性の美醜などわからないが、初めて見るそのキラキラした瞳とシミ一つない白い肌、そして何より目立つ満面の喜色は、狭い世界を生きる彼にとって心を震わす極めて衝撃的なものだった。
「初めまして、雛森桃ですっ! あなたのお名前は何て言うのかな?」
今思えば、この時不覚にも彼女に見惚れてしまったせいで、互いの力関係は決まってしまったのだろう。
「…知り合いなのか、ばあちゃん」
どうやら大荷物に困っていた老婆を助けただけだったらしい少女が「またね!」と笑顔で去っていった後。冬獅郎は思わず祖母へ彼女のことを尋ねていた。
「おや、知らなかったのかい? 雛森桃ちゃん、市場の仕立屋の看板娘さ。お前の小袖もあの子の店のものだよ」
「マジかよ…」
聞けば相当な有名人らしく、道端で一息ついていたときに手を差しのべてくれた心優しい人気者だとか。珍しく外のことを楽しそうに話す祖母の笑顔は、あの雛森とかいう女が善人である証なのだろう。
「桃ちゃんも霊力持ちだって話さ。冬獅郎も仲良くしてもらえるといいねぇ」
「…そうなのか?」
「売り子さんの仕事も死神になるためだって仕立屋の旦那が言ってたよ。力を持って生まれた自分がみんなを守るんだって」
女の子なのに立派なことさね、と感心する祖母を横目に、冬獅郎は少女へ思いを馳せる。
自分と同じ霊力持ち。腹が減るだけの煩わしいそれを彼女は力だと形容し、他人を守るために使いたいと願っているらしい。周囲に忌み子と蔑まれる冬獅郎にとっては理解に乏しい価値観だ。
「またね、か…」
だが、何故だろう。
脳裏に焼き付いたあの笑顔は、自分とそう年の変わらないはずの彼女が持つ大志は、ひねくれた彼の目にとても眩しく、そして美しく見えた。
再会の言葉を胸中で反芻し、思わず頬を緩める冬獅郎。
突然少年の楽園を侵した無粋者は、その日から世界の三人目の住人となった。
「──ほらシロちゃん! 好き嫌いしないのっ」
「ッだあああっ、うっせーよバカ! テメェが来る度に干し柿ばっか食わせるせいで嫌いになっちまったじゃねえか!」
「ふふっ、ごめんごめん。あ、仕立屋のお得意様から卵貰ったから作ってあげよっか、玉子焼き!」
「ッ、ちっ…大根おろし忘れんなよ」
以前とは違う騒がしい日々。一人の少女を中心とした新しい日常は、いつしか冬獅郎の最も尊い宝物となっていた。
次回は霊術院まで時間めっちゃ飛びます
サクサクプレイ