雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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やっと原作にたどり着いたぞ…!
これも愉悦部諸君の愉悦への思いと応援のお陰です
特に感想と評価コメントはホントモチベになってます。白詰草は半日くらい笑ったわ
あとお気に入り一万超えたの初めて、みんな大好き(直球)

では短めですが、序章のチャン一のお話です



SSィィィィ!篇
再誕ィィィィ!


 

 

 

 

 ──おねえちゃん、だぁれ…?

 

 

 

 忘却の彼方へと消えていた、顔も声も覚えていない誰かと交わしたはずの、大切な約束。

 

 激痛が体中を走る。意識が混濁し消失していく恐怖感に呑まれる中、ふと、少年の脳裏に朧気な遠い昔の記憶が過った。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 とある胡散臭い商店の地下に広がる巨大な空間、通称・勉強部屋。

 絶望の縦穴(シャッタード・シャフト)を名する大穴の底で、一つの魂魄が虚と化そうとしていた。因果の鎖が断ち切られ七十時間。ついに六度目の鎖の侵食が始まり、おぞましい白の虚髄が形作る仮面の奥で少年は恐怖に絶叫する。

 

 嫌だ、死にたくない、消えたくない。

 

 己の望みも、救うべき大切な恩人の、友人の、家族のことも。何もかも悉く絶望に塗りつぶされていく。

 

 堕ち行く意識は耐え切れず、遂に事切れた──かに思えた直後。

 

 少年は一面が青と白の二色で出来た、不思議な世界で目覚めていた。

 

 

「──聞こえるか、一護」

 

 

 遠くの誰かの声が鼓膜を震わせる。見渡す限りの青い段差と、空と雲が直角に反転した異様な空間に連れ込まれた少年は、そこで一人の黒ずくめの男と出会った。

 

「…誰だ、あんた?」

 

 名乗る男は声に哀愁を漂わせる。いくら叫べど名前だけが届かない。お前は誰よりも私を知っているはずだと言うのに。

 

 そう落胆する男に少年はまず、話の内容より彼の佇まいに驚愕した。

 

 何故、あのおっさんは地面と直角に立っているのか。その事実に気付いた直後、少年の身体が強烈な浮遊感に包まれた。

 

「なっ、うわあああああ!?」

 

 彼が座っていたのは地面の段差に非ず。無数の巨大な摩天楼の壁面の一つだったのだ。

 復活した重力に幻想が敗北し、無人の大都市の地面へと落下を始める少年。その隣を黒ずくめの男が並んで飛翔する。

 

「安心しろ。死神とは死を司るもの。多くの霊なる者を支配する」

 

「ッ、俺はもう死神じゃねえ! 落ちたら死ぬんだ! 俺の力はもう、ルキアを連れ去ったヤツに全部…ッ!」

 

 我が身を鑑みながらも、渦巻く屈辱は抑えられない。

 

 少年は先日、(ホロウ)という悪霊の化物に襲われ、そこで死神を名乗る少女──朽木ルキアの身体を張った戦いに救われた。傷付いたルキアよりその力を受け継いだ少年は、されどやむを得ず法に背いた彼女を処罰すべく連れ戻しに来た貴族の兄──朽木白哉の手により死神の力を消し去られてしまった。

 

「それは違うぞ、一護」

 

「何…?」

 

 無力感に苛まれる彼に男が語る。

 朽木白哉は妹が少年へ与えた力のみを処分した。だが彼は油断し見落としたのだ。一護自身が最初から死神の力を有していたという可能性を。

 

 朽木ルキアに与えられた力によって目覚め始めたそれは、朽木白哉の刃が届く前に少年の魂の奥底へと姿を晦ませた。

 

「──さあ、探せ…! 隠れ去った死神の力を探し出せるときがあるとすれば、それはこの世界が崩壊を始めた今をおいて他にない!」

 

 そして少年の視界の中に、無数の小さな箱が降り始めた。

 

 己の生まれ持つ死神の力が眠るのは、その那由多の中のたった一つ。世界が崩れ水底へと沈む中で突き付けられた無理難題に、一護は諦めにも似た達観の心境で漠然と希望を探していた。

 

 そして彼は、あの嫌味な眼鏡の同級生の言葉を思い出す。

 

「──ッ、それだ!」

 

 思い付いた手段は【霊絡】の感知。鮮やかな赤い霊力を有する死神の霊絡は、平凡な白の帯に囲まれる彼の目に一目瞭然だった。

 

「見つけ──」

 

 だが掴んだその赤色の霊絡を手繰り寄せる途中。

 ふと少年は、まるで白色の帯の塊に隠れるように潜む──遠くの黒ずんだ別の赤い霊絡を目にする。

 

 特別な意味などなかった。

 ただ、無意識に引き寄せられるように、そのワインにも血にも見える不気味な色の霊絡に触れた瞬間…

 

 

 ──おねえちゃん、だぁれ?

 

 

 遠い遠い記憶の最果て。

 どこかで聞いたような…否、訊いた(・・・)ような幼い自分の問いが頭を巡った。

 

 

『──おねえちゃんは、ご本が好きな人ですよ』

 

 

 懐かしい、穏やかな若い女の声が耳に木霊する。

 大好きな母を亡くした幼い男の子が、最後の思い出となった川辺で帰りを待ち続けていた暗い思い出。変わらない空虚な日々の中で起きた、小さな非日常。

 

 …ああ、思い出した。

 

 あのときと同じ冷たい雨がしとしとと降る梅雨の午後。少年は、不思議な年上の女の子と出会っていた。白い着物のような服を着た、本が好きだと微笑む中学生くらいのおねえちゃんに。

 

『大丈夫。怖くないよ』

 

 ぼんやりとした頭で少女を眺める幼い彼。ゆっくりと近付く彼女は、テレビでも見たことがないようなキラキラ輝く綺麗なカギを握っていて…

 

 ──あぇ?

 

 見つめるその手が、スッと自分の胸元の、()へと食い込んだ。

 

 カチリ。

 

 身体の奥に響く、奇妙な音。

 痛みも、怖さも、ヘンな感じは何もない。ただ、その音が体中に木霊した後、母が居なくなってからずっと胸の中でざわついていたナニカが、不思議と静かになっていた。

 

 ──あれ…? ぼく、なにを…

 

 気付けば、体の中に埋まっていたはずの女の子の左手はそこには無く、代わりに優しく彼の頭を撫でていた。

 

『それはお守り。あなたが一人前になるまで、自分で自分を傷つけないよう大切に守ってくれる、おねえちゃんのお守り』

 

 ──おま…もり…?

 

 少年は呆ける頭で聞き返す。すると女の子はニッコリと微笑み、口元に指をあて秘密の印を作った。

 

『うん。だからそれまで、みんなにはナイショよ?』

 

 小指を差し出し、指切りげんまんの合図をするおねえちゃん。誰も知らない謎めいた年上の女の子と交わす、秘密の約束。そんな不思議な体験に小さな喜びと勇気をもらった気がした少年は…

 

 ──ない…しょに…する…

 

 思えば幼い自分が母の死の喪失感から抜け出せたのは、あの日の出会いがきっかけの一つだったのかもしれない。

 まるで幻のように消え失せた彼女へ向けて、少しのワクワクを胸に、少年はそう呟いていた。

 

 

 

「──それ(・・)に触れるな、一護」

 

 

 

 はたと我に返った少年は辺りを見渡す。景色は元の水底に沈み行く大都市へと戻り、あの思い出の雨の川辺は既にない。

 手元を見ると触れた赤黒い霊絡は途中で千切れており、続く先はもう数多の白い帯の奥へと消え去っていた。

 

「思い出せ、一護。お前は何のために戦う」

 

 振り向いた背には、悲しげな目でこちらを見つめている黒ずくめの男。何故そんな当たり前のことを聞くのか。少年は言葉に力を籠め、今一度宣言する。

 

「…そんなの決まってんだろ。ルキアを助けるためだ!」

 

 恩人を、仲間を助けたい。自分はその一心でここに居るのだ。

 

「そうだ。お前は仲間を助け、守るために戦うのだ。お前が手にする力はそのためにのみ存在する」

 

 その言葉に少年は困惑する。まるで禁忌に触れるかのような扱いで彼からあの赤黒い気配を遠ざける黒ずくめの男。

 そして彼が指差す最初の赤い霊絡の箱には、一本の斬魄刀の柄が埋まっていた。

 

「これって…」

 

「それならばお前にも操れるだろう。身を滅ぼすことなく、取り零すことなく、朽木ルキアを救い出せるだろう。思う存分、振るうがいい」

 

「身を、滅ぼすことなく…」

 

 

 ──あなたが一人前になったらね。

 

 

 ふと、あの声が蘇る。まだ何か大事なことを忘れているような、そんな記憶を探ろうとした瞬間。

 世界が一際巨大な地響きを上げ始めた。

 

「──何をしている、崩れるぞ…!」

 

「!」

 

「さっさと私を引き抜け、一護!」

 

 押し流される水流に抗い必死に赤い気配の斬魄刀へ手を伸ばす。強い波動を感じるその柄を掴み、少年は黒ずくめの男に感謝しつつ己の新たな死神の力を手繰り寄せた。

 

 

 

 左手で握ったもう一つの霊絡の残滓を手放さないまま…

 

 

 

 

 

 





次回:作戦決行準備

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