雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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隔日なら定期更新行けそう…!
死神代行篇のダイジェストです



代行ィィィィ!

 

 

 

 

 百五十年前。

 

 この数字を見て西暦2020年を生きる日本人なら明治維新、欧米ならフランス第三共和政宣言を思い浮かべるだろう。そしてそれはあたし、雛森桃が日番谷冬獅郎を曇らせ「雛森ィィィィ!」を聞くために生きることを誓った時でもある。

 

 前世の母国ジャパンが貧困に喘ぎながらも涙ぐましい努力で封建主義から帝国主義の道に進み、戊辰・西南・日清・日露・第一次・第二次世界大戦を経て民主主義の道へと改め、戦後復興・高度成長・バブル崩壊・郵政民営化・リーマンショック・TPP・アベノミクス・コロナショックなどの経済的前進逆走迷走を体験し、幾度の震災害に苦しみながら歴史を築き上げている中、あたしはその同じ時間で一人せこせこシロちゃんに愉悦の種を仕込んでいた。

 我ながら一体何をやっているんだと何度か正気に戻る度に首を捻り続けてきたが、正気などいざその時になれば百五十年越しの感動で簡単に押し流されてしまうものだ。

 

 

 BLEACHだ。原作が始まったのだ。

 

 

「──十三番隊隊士・朽木ルキアを現世空座町駐在隊士に任命する」

 

 浦原さんが崩玉の破壊に失敗し、代案に死神用の完全人間化義骸に埋めて現世に隠滅したがっている事実に早くから気付いていたヨン様は、海燕殿の死から未だ救われないルキアの心理を利用し原作通り彼女を一護の下へ送り付けた。

 

 そしてあたしは暇な一〇と一緒に、あの原作最初のシーンを見届けるため空座町を訪れていた。

 

 

「…へえ、桃ちゃんこのために志波前副隊長さんをルキアちゃんに殺させたん? 相変わらずぜーんぶ掌の上なんやね、怖いわァ」

 

「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでくださいっ。藍染隊長がサボるから色々あたしがやる羽目になっただけなんですって…」

 

 あたしたちの視線の先には、高校生になった一護くんと、彼に死神の力の全てを奪われ唖然とするルキアちゃん。あぁ、やっとここまで来れたのか…

 

 ちなみに隣の一〇は感動に震えるあたしをニヤニヤしながら見つめている。なんすか。

 

「でも藍染隊長はどちらかと言うと偶然の出来事を必然に結びつけたがるお人やで? 桃ちゃんは何もかんも必然にせんと気が済まへんみたいやけど」

 

「あたしは藍染隊長ほど頭もよくないし自信家でもないんです。臨機応変になんて出来ませんし、あの人みたいに"偶然すら計画に利用してやる"だなんて強気にもなれません」

 

「凡人のボクからしたらどっちもどっちやけどなァ」

 

 全く。あたしはただ唯一神オサレ師匠の原作を再現しようとしただけなのに、諸悪の根源呼ばわりされるとは度し難し。むしろお前の本懐を遂げてくれるヒーローを用意しているのだから感謝されるべきではないだろうか。理不尽である。

 

「…藍染隊長のほうが詳しいと思いますけど、崩玉って本当は持ち主の望みを叶える願い星みたいな物なんですよ」

 

「ありゃ、そうなん? 死神と虚の境界を操る能力やって藍染隊長から聞いてたんやけど」

 

「それは浦原喜助がそういう用途で使おうとしたからそうなっただけみたいです。朽木さんをただの人間に退化させて現世で崩玉と一緒に隠れて欲しい、というのが今回のあの人の望みなので、おそらくそっちを叶えたんでしょう」

 

「…なんや思てたんと違うなァ」

 

 一〇があたしを虐めるので嘘の解説で話題を変える。

 

 ファンタジー作品定番の"願いを叶えるアイテム"というのは色々な要因で持ち主の望んだ結果を歪んで叶えることが多いが、この崩玉は比較的素直な存在である。しかし崩玉の能力の正しい解釈は「持ち主の願いを叶える」のではなく「周囲の者へ望みが叶う道を示す(・・・・)」というもの。この"周囲の者"と、"道を示す"というのがミソである。

 

 今回の原作イベは所有者の浦原さん、近くにいたルキアと一護。当事者全員の望みを最高の形で叶えている一例だ。

 

 本誌のヨン様曰くルキアの心は海燕殿を殺した罪からの解放を望み、一護の心は単純に家族や友人仲間を守るための力を欲していたらしい。ルキアがああして力の全てを奪われたのは、浦原さんの企てを含む複数の願いがあったからだとか。それが崩玉の意志によって勝手に具現化した"周囲の強い心"なのだろう。

 

 現段階ではまだわかり難いが、原作だと崩玉にはなんか意思みたいなものがある。と言っても別に中の人がいるワケではなく、単純に誰の願いを優先的に叶える、あるいは叶えないかを選ぶ程度のものだ。これはまだヨン様も知らないことなハズだ。

 尚、あたしはこうして原作再現のために方々を駆けずり回っていることを「お前の行動そのものが崩玉の意志だ」とか後で誰かにドヤ顔されたら癪なので、逆に開き直りこの場で「原作展開お願いします」と願掛けしておく。

 

「何しとるん?」

 

「いえ、あの願い星にお祈りしたらご利益ありそうじゃないですか」

 

「…桃ちゃん、たまにえらいアホになるんは素なん?」

 

 これで原作通りに進まなかったらあの強化石、空座町凧揚げ大会参加賞【崩玉×1】として町内会に寄付してやる。

 

 

 

 ***

 

 

 

 さて。原作最初の名場面が終わったが、死神代行篇でヨン様陣営が関わったイベントはまだまだある。

 

 順序の次はアニ鰤でOVAにもなったあのグランドフィッシャー戦。ルキアがとてもヒロインしているあたしのお気に入りエピソードで、こちらも多少の違いはあれど大筋は再現できた。

 

 グランドフィッシャーに限らず現世の虚をヨン様陣営に引き入れるのは情報漏洩が怖かったので、当面は破面(アランカル)軍の数字持ち(ヌメロス)にフィッシャーを監視させるに留め、一護とルキアが出会った時点で彼らにも行動を指示。

 

「──アイスリンガーさん、ディ・ロイさん。例の虚と接触して、出来るだけ自然に黒崎一護の周囲で捕食行動を行うよう誘導してください」

 

『ははっ!』

 

「新たに指示を出すまでお二人の素性は…そうですね、虚の秘密教団とでも誤魔化して我々破面軍の存在は伏せるように。舞台が整ったら教えてください。あたしも見に行きます」

 

「ぐ、軍団長閣下御自ら…!」

 

 愛嬌のある蚊みたいな外見のアイスリンガー・ウェルナールと、厳つい貝を被った芋虫みたいなディ・ロイ・リンカーがあたしの指示に興奮している。

 

 この二人、実は初登場が原作漫画三巻とBLEACH本編で一番最初に出てきた破面なのだ。傷付いたグランドフィッシャーを癒し破面化させるなど描写的に彼とそれなりに面識がある感じだったので、シーン再現ついでに空座町の情報収集の指揮を任せていたら割と頑張ってくれた。一護マッマがフィッシャーに喰われたと一早く報告してきたのもアイスリンガーで、おかげで完璧なタイミングで一人ふらふらしている一護に接触でき、誰にもバレずに封印を完成させられた。とても重要な働きだったのでご褒美に二度目の破面化を約束している。

 まあアイスリンガーはともかくディ・ロイは原作通りの人の姿にしないとダメだからね。一時的にグリムジョーのところからお借りしたぞ。

 

 と言うワケで日付が飛んで六月十七日。待ちに待ったBLEACH最高峰のイチルキ名シーンを三人仲良く胸キュン(死語)しながら霊圧遮断外套で隠れて見ています。

 

「軍団長閣下。映像記録装置をお持ちしました」

 

「わぁ、ありがとうございますっ。お二人も座って一緒に見ませんか?」

 

「そ、そんな恐れ多い…!」

 

 いや君らデカいし真横で跪かれたらあたしの気が散るから言ってるんですけど。とりあえず二人を視界に入らないところに移動させ、ニマニマしながらいい雰囲気な一護とルキアを出刃亀する。

 やっぱこの頃のルキアって準主人公じゃなくて普通にヒロインだよね。アニ鰤からBLEACH世界に入ったあたしは普通にこの二人がくっつくと思っていたので織姫ちゃんの追い上げはかなり意外だった。天真爛漫で天然な織姫ちゃんはクールでオサレなウルキオラとの関係が凄いエモくて好きだったのに、なんでウルキオラ殺した師匠ォ…

 

 と、無事にルキアの膝枕シーンを映像に納めたところでアイスリンガーたちにグランドフィッシャーの確保と破面化を任せて本日は終了。残るヨン様陣営が関与した死神代行篇の原作イベントは大虚(メノスグランデ)のヤツと六番隊のルキア連行なのでそれらが無事起きるよう根回し──

 

 

 

 さぁ、ようやくだ。長い長い、時代が二つくらい終わるほどの時を経て、あたしの人生の文字通り全てを懸けた一大計画がついに始動する。

 

 尸魂界篇が始まるぞ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうすぐ収穫しに行くからねぇ。シロちゃん…

 

 

 

 

 

 

 

 





次回:旅渦襲撃

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