雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
毎度誤字脱字報告ホントありがとうございます
自分で三回くらい見返して気付かないの草も生えない…
本編お待たせしました。少しずつ、桃ちゃんが鰤界で暮らした百五十年の歴史の重さが現れてきます
「──お、おのれ…逆賊…藍染…」
中央四十六室本部、中央地下議事堂。
噎せ返るような死臭漂うこの地中の八角堂に、あたしたちヨン様陣営の四人は秘密裏に集結した。先ほどまで元気に踊る会議をしていたお偉いさんたちを一人残らず殺し、瀞霊廷の最高意思決定機関を完全に掌握。これであとは一護たち旅禍が暴れるのを待ち、それを理由にこの施設を封鎖隔離すれば尸魂界の政治は全てあたしたちの意のままとなる。
「──さて、宣戦布告だ」
八月一日、あたしたちはヨン様より簡単な行動方針を伝えられた。ついに長年の祖国と決別するとあって、流石のDJも一〇も顔を固くしている。
「我々は朽木ルキア処刑当日の正午、崩玉を手に
変わらない威風堂々とした佇まいで穏やかに宣言するヨン様。それは彼にとって全てが予定調和となった証なのだろう。
「だが、凱旋の前に幾つかやっておくことがある。そこでだ──ギン、桃」
『…!』
来た。折角の宣戦布告という一大イベントをこの男が何の舞台装置も用意せず無駄にするワケがない。あたしは期待感にニヤつきそうになるのを必死に堪える。
「君たちには処刑の前日、瀞霊廷で大きな騒動を起こしてもらう。私が陰で動きやすいように」
そうしてヨン様が片手に召喚したのは、自分の容姿を模した血塗れの精巧な義骸だった。なるほど、それを起点に鏡花水月を発動するのか。原作より用意周到だな、ワクワクする。
「…あァ、そう言うことですか。せやったらボクがソレを
「市丸が適任だな。私と雛森では日頃の行動との矛盾が多すぎる」
「あ、ならあたしはソレの第一発見者になりますので発狂して大騒ぎしますね。犯人役の市丸隊長が近くにいたら"お前かー!"とか言って斬りかかったり更に引っ掻き回しますけど、やります?」
「あはは、相変わらずオモロイこと考えるん上手やね桃ちゃん。それやったらウチのイヅルも仲間にいれてやってな」
幸運にも一〇からあの「藍染隊長暗殺(笑)作戦」を提案してきたので便乗する。雛森ちゃんと言えばやっぱりあの狂乱シーンだもんね。
まあこうして色々決めても、この場にいる皆は自分が何をやってもボスの掌の上だと理解しているので実働は各自でアドリブだ。あたしが多少はっちゃけても大丈夫だろう。
「──要」
演出の流れが決まったタイミングで、ヨン様がDJを名指しで呼んだ。おそらくは原作通りの特命。
「君はしばらく更木剣八の遊び相手をしてくれ。黒崎一護も彼を楽しませてくれるが、それだけでは不十分だ」
「はい。私の卍解で
やはりその流れか。流石のヨン様も公式チートな剣八が宣戦布告時に現れては困──って、ん?
…何か含みのある言い方だな、ヨン様。
「それと、更木剣八との戦いでは余力を残して敗北したまえ。試作の霊圧遮断腕輪のテストも兼ねて、最終段階で臨機応変に動けるよう立場を身軽にしておくんだ」
「お任せを」
あ、この世界のDJの剣八戦は手を抜いてやる感じになるのか。身を以てあの卍解のヤバさを知るあたしとしては現段階の舐めプ剣八にこの男がああも簡単に負けるとは思えないので、本誌でもこういう経緯だったのなら桃ちゃん納得。
…うん、さっきの違和感は気のせいか。
「桃」
「あ、はい」
ふいにヨン様に呼ばれたので振り向くあたし。何の用かと目で問えば、視線の先にいた我らの王は、実に愉しそうな顔をしていた。
「──この作戦で、君の頼みを一つ叶えてあげよう」
…おっとぉ?
予想外の展開にあたしはつい口元が緩む。この場で叶えて貰えるお願いと言えば、おそらくアレだろう。
「…いいんですか?」
「構わないよ。
そう言うヨン様の笑顔は実に邪悪だ。これはあのときの即興劇で味を占めたなコヤツめ…!
「…ありがとうございます」
一応礼を言っておく。
よし、これであたしの今後の愉悦方針が大体決まった。当初の案より少し難しいムーヴになるが、このお方が味方になってくれるなら迷わずこっちを選べる。やっぱヨン様の…安心感を…最高やな!
二人でニッコリ微笑み合っているのを見てか、隣の一〇が顔に苦笑いを浮かべている。おい何「ボクはまともです」アピールしてんだ、お前もルキアちゃんいぢめて愉しんでただろ。この中の非愉悦部部員はこの微妙な空気に首を捻っている純粋無垢なDJだけです。あ、でもDJもホワイトくん造るとき死神殺せて満足気だったな。ヨン様陣営のマトモ組全滅やんけ。
そうして和気藹々としていると…
──カンカンカンカン!
「あ、来はったみたいやね」
突然瀞霊廷の警戒鐘が鳴り始めた。原作のタイミング的に間違いない、ようやく一護たちが来たんだ!
BLEACH屈指の名ストーリー【尸魂界篇】の開幕である。
「行ってくるかい、桃?」
「…!」
何とか平静を装えているはずなのに、目敏いヨン様があたしの興奮を見抜いたのか原作での一〇の役をやらないかと薦めてくる。
くっ、魅力的だ。魅力的過ぎる提案だが──残念ながら辞退しよう…
この場面はかなり重要だとあたしは思う。後に市丸ギンが黒崎一護に望みを託して逝く感動シーンが起きるのは、ここで二人が何の邪魔も無く一太刀交えていることが大前提だ。だが幼いときに一護と出会っているあたしがそこに居ては──仮にただ市丸についていくだけであっても──最悪あたしの存在ばかりが一護の記憶に残ってしまい市丸の印象を喰いかねない。半分くらいあたしの自業自得とは言えそれは困る。
「…いえ、黒崎一護とお話するのは別の機会で結構です。あたしより市丸隊長が悪役演技のために行かれるのがいいと思います」
「ボク? …あァ、あの子を生かして逃がすんをボクの陰謀に見せる言うことやね。──ほな行って来ます」
苦渋の決断で適任者へバトンを渡すと、即座に理解した一〇がさっさと議事堂の出口へ向かっていった。その後ろ姿を恨めし気に見つめるあたしを更に見つめてニヤニヤしているヨン様が大変ウザい。
「…それより早く瀞霊壁を霊王宮から降ろしましょう。黒崎一護はたまに驚くほど短慮になるときがあるので一目散に瀞霊廷へ突入してくる可能性があります」
「そうだね、急ごうか」
想像出来たのだろう。ヨン様が鷹揚に席を立ち、瀞霊壁の操作制御室へと向かう。
「中央四十六室の命令偽装は君たち三人に任せる。交代で当たるといい」
「はいっ、頑張ります」
「藍染様はその間どちらに行かれるのですか?」
「大霊書回廊で調べものがしたくてね。だからそれが終わるまで──」
かくしてヨン様が起動した瀞霊壁の地響きを合図に、あたしたちの尸魂界離反作戦は第一段階へ移行した。
──親愛なる旅禍諸君には精一杯働いて貰おう。
***
「──あァ、こらあかん」
西流魂街1地区【潤林安】から臨む白道門。
夜一を名乗る黒猫の先導で、三人の仲間たちと共にこの地へ降り立った人間の少年──黒崎一護は、怒りに身を任せその男に斬りかかっていた。
怒りの理由は数分前、一騎打ちの末に快く門の通過を認めてくれた門番・
下手人は小さな脇差を握る白い羽織の死神。後に相手が尸魂界最強の十三人の一角──三番隊隊長・市丸ギンだと知らされる一護は、このときはまだ右も左もわからない無知な子供だった。
「へぇ…少し見いひん内にえらい強うなったんやね、黒崎一護クン」
「ッ! 俺のこと知ってんのか?」
僅かな鍔迫り合いの後、男がふと、そんなことを呟いた。面識のまるでない他人に一方的に自分のことを把握されている事実は普段の勝気な一護の背筋に嫌な汗を滲ませる。
「さァ? 先日に六番隊長さんから初めて聞いたんかもしれへんし──君が生まれる、ずぅーっと前から知ってたんかもしれへんなァ…?」
糸目の死神の意味深な発言に息を呑む少年。その不吉な笑みが異様な恐怖を駆り立て、一護は動揺を悟られまいと斬魄刀を強く握り直す。
浦原さんとも阿散井恋次とも兕丹坊とも違う、剣に何の思いも感情も映さない不気味な男。相手のペースに呑まれつつあることに気付いた少年は、胸に溜まる憤りをそのまま袈裟切りで叩き付けた。
「ハッ…だったらてめえの知らねえ俺を見せてやろうじゃねえか!」
「いやァ、怖い怖い。こら末怖ろしい子やわ」
「調子ぶっこいてんじゃねえぞ狐野郎──おらァッ!」
渾身の一撃だった。しかし振り下ろした斬魄刀は虚しく石敷の地面を破砕するのみ。消えた敵を探し慌てて辺りを見渡すと、糸目の死神は二十メートル近く開いた間合いを取って立っていた。
「ッ、何のつもりだ…!」
「…君、オモロイから特別に見せたる。僕の斬魄刀」
「なっ!?」
そして男が得物の脇差を引き絞り、構えた瞬間。
──射殺せ、【神鎗】。
「ぐっ──アアアァァァッッ!?」
「一護!?」
突如瞬いた閃光に射抜かれる寸前、辛うじて斬魄刀で身を守った一護は背後の兕丹坊と共に、凄まじい力で門の遥か外へ弾き飛ばされた。
その閃光の正体は怖ろしく長く伸長する刀身。まるで抵抗できず流魂街の門前広場を無様に転がる一護は、仲間たちに介抱されながらやっとのことで立ち上がる。
だが兕丹坊という支えを失った門は、あっという間に閉じていき…
「あァ、そうそう」
そして殺気石の門が閉まる直前、糸目の死神が妙なことを口にした。
──あの
にこやかに「ばいばーい」と笑う男の姿が門の奥へと消える。一護は意味のわからない彼の言葉の数々に翻弄されながらも、何故かその一言が──ルキアとは違う別の誰かを指してるのではないかと、そんな形容しがたい奇妙な予感を覚えるのだった。
***
傷付いた兕丹坊を癒す少女──井上織姫の不思議な力に方々から歓声が上がる。やって来た当初とは大きく様変わりした賑やかな市場の喧噪に、一護たち四人は目を丸くしていた。
──兕丹坊の恩人として貴方方を歓迎したい。
長老を名乗る老人の言葉につられ、次々と一護の勇気を称賛する流魂街の住人たち。聞けばあの豪快な門番はこの地区出身の死神で、他のいけ好かない連中と違い同郷の彼らをよく助けてくれる地元の星らしい。
「そんな兕丹坊さんの恩人のあんたらが何だって旅禍なんかやってんだ?」
「…そのいけ好かねえ死神連中に処刑されそうになってる仲間を連れ返しに来たんだよ。"ルキア"ってんだ、知らねえか?」
すると首を捻る大半の住民たちの中で、幾人かが「ルキア?」や「どっかで聞いたような…」と心当たりを臭わせる。
そして不意に、一人の恰幅のいい女性がポンと手を叩いた。
「──あぁ! 桃ちゃんの同期のお友達の!」
『!!』
その瞬間、門前広場に集まっていた住人たちの目つきが一変した。
「何だって!? 桃ちゃんの友達が処刑される!?」
「そんなことしたら雛森さんが悲しむじゃないか!」
「こうしちゃおれん! 兕丹坊さんが目を覚ましたらみんなで瀞霊廷に直訴しに行くぞ!」
「そうだ、死神なんか屁でもねえ! 潤林安雛森親衛隊、立ち上がれ!」
「魂魄の霊力の違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる!」
『うおおおおお──ッッ!!』
突然群衆が一つの意志で団結する。口々に上がる威勢のいい声は現世のライブ会場さながらの咆哮となった。
「な、なんだコイツらいきなり…!」
「…どうやらかなりの有名人の知り合いみたいだね、朽木さん」
「"桃ちゃん"なんてかわいい名前…地元のアイドルみたいな人なのかな?」
あまりの変わりようにドン引きしながら距離を取る一護たち。その片隅で冷静に市場の熱気を観察していた黒猫の夜一が、ある情報を開示した。
「──雛森桃。同姓同名の別人でなければ…おそらく五番隊副隊長の女死神じゃろう」
「!? 副隊長って…!」
予想外の大物に驚嘆する一同。先ほどの市丸ギンのすぐ下の序列に位置する強者、そして一護にとっては現世で一戦を交えたあの強敵、阿散井恋次と同格の存在だ。
「事前に隊長格二十六名の下調べはして来たがその中に名前があっての。護廷十三隊とは異なる特殊部隊【鬼道衆・一之組】の席を兼任している前例無き鬼道の天才だそうじゃ」
「ッ! じゃ、じゃあそんな凄い人と協力出来れば朽木さんを…!」
『!!』
織姫の希望的観測に思わず前のめりになる若い人間の高校生たち。市場の熱気の通りの人気者なら、やはり兕丹坊のような心優しい善人なのだろう。義理を説けば協力してくれる可能性は非常に高いと思われた。
「じゃが、五番隊…あの藍染が側に置く天才か…」
「夜一さん?」
しかし織姫の案に夜一は難色を示す。どうしたのかと問うても唸るばかりの黒猫は、暫しの葛藤の末、その策を却下した。
「…いや、止めておけ。仮に可能性があるのなら、恐らく別のヤツが彼女にルキア奪還への協力を求めるじゃろう。儂らがその雛森桃と関わるとしたら最後の最後、ルキアを救う直前じゃ」
『"別のヤツ"?』
一様にはてなを浮かべる一護たちへ、夜一が微笑んだ。
「ルキアを助けようとしておる者は、決して儂らだけではないと言うことじゃ」
『!!』
それは市丸ギンの、隊長格の恐ろしさを知った四人にとって大きな希望となる一言。
元よりルキアの罪は客観的に見ても十分情状酌量の余地があった。そして人間の自分たちより縁も絆も深いであろう同僚の死神たちが、誰一人として彼女の処刑に反対しないなどありえない。
何故なら四人と一匹は知っているのだ。朽木ルキアは男勝りだが慈悲深く繊細な、とても人間的魅力に溢れた素晴らしい人物であることを。
「…ぜってえ救い出してみせる」
──待ってろ、ルキア…!
処刑まであと八日。大きな勇気と希望を胸に、四人の少年少女は閉じられた瀞霊廷を睨み付ける。
次に彼らが目指すのは、空からの侵入経路──志波空鶴の花鶴大砲だ。
次回:悦森さんの表の顔
あとウチの桃ちゃんのコメ欄での通称が最終的に悦森で決まった感あって草