雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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霊術ィィィン!

 月日が流れるのは早いもので、BLEACHの世界に転生してから百年が経った。

 

 この間に起きた主な原作イベントはライザ○プ女子・曳舟桐生(ひきふねきりお)さんの王属特務入りと、有名な『魂魄消失事件』。ヨン様が隊長格たちで(ホロウ)化実験したり、浦原(うらはら)さんたちが現世へ逃亡したりと過去篇のヤバい案件が目白押しだった。ここ流魂街(るこんがい)まで噂がビンビン聞こえてきたよ。

 介入出来たのは強さと行動範囲的にゼロだったけどね。勿体ない…

 

 

「──知ってるシロちゃん? スイカの種ってチョコの味するんだよ」

 

「チョコってなんだ?」

 

口付け(キス)の味」

 

「ぶっ…!?」

 

 シロちゃんで遊びながらあたしはこの自己研鑽の日々を振り返る。

 

 自己強化に関しては順調そのもの。ファンタジー臓器をいぢめ鍛え霊力を増やしまくり、この百年でみんなの兕丹坊(じだんぼう)兄貴がミジンコのように見えるレベルまで成長することが出来た。これはどれほど低く見積もっても尸魂界篇初期の一護以上──つまりその辺の三席は確実に超えてる隊長格級の霊圧である。

 ちなみにヨン様陣営で言うと一◯こと市丸(いちまる)ギンが霊術院を一年で卒業した直後に五番隊の三席を瞬殺してたりする。あたしもそれくらいの実力がある…とは大声で言い辛いが、尸魂界(ソウルソサエティ)史上最高の天才と言われた当時の彼と同等以上なら非常に嬉しい。

 

 なお護廷隊にバレたら、あたしのオサレな「雛森(ひなもり)副隊長があんなに強かったなんて…」裏切りCO大作戦が、ギャップもなにもないただの事後確認な「普通に最初から強かった人」になってクソダサ破綻するため霊圧隠蔽には命をかけている。

 あれから色々と他の方法を試したり、一応これで周りの一般人と同じくらいの霊圧にまで力を隠せてるはずだ。平時は万に一つも悟られることはないだろう。

 

 

 死神になるための準備も万全だ。ここ西流魂街1地区【潤林安】は瀞霊廷に最も近い地区の一つであり、瀞霊門の一つ白道門(はくとうもん)を守る門番兄貴のおかげで色々と斬拳走鬼について教わることが出来た。主にそのツテの方に。

 

「──ほんどに強くなっだなぁ、桃。そん年でそごまで鬼道が出来る院生は見だごとねぇべ。お()えは絶対に霊術院に受がるッ!」

 

「ったく、やっと受験する気になったか。まあ教えたおれも悪ィが、斬拳走はともかく統学院で学べる鬼道なんてもう何もねェぞ…」

 

「今までありがとうございましたっ、兕丹坊さん! 空鶴さん!」

 

 そう。あの隻腕の花火師、志波空鶴(しばくうかく)姉貴である。彼女は少し前に腕を失う大怪我を負い護廷隊を引退したので、折角の死神スキルを腐らせるくらいならと、なんと兕丹坊兄貴があたしの鬼道の師匠になってくれないかと彼女にお願いしてくれたのだ!

 そこからはもう天国。いや扱きは地獄だしあたしの本当の霊圧がバレないよう常に気を張ってて疲れたけど、それらを吹き飛ばすレベルの楽しい楽しい鬼道授業の日々だった。なんせせっかくBLEACHの世界に転生して、あの天才雛森ちゃんのソウルを得たのに何十年も鬼道をお預け状態だったのだ。霊術院受験までの短い期間だったが、中級鬼道の詠唱破棄まで出来るようになれてホクホクです。夜中に志波家の鬼道書とかを盗み見して大好きな【天挺空羅(てんていくうら)】など不相応な番号の術も少しだけ覚えちゃった。てへぺろ。

 

 しかし志波家の本邸に寝泊まりさせてもらえたのは、色々ヨン様対策に活用出来るかもしれない。なんせ志波家と言えば五大貴族。五大貴族と言えば、霊王(れいおう)の…

 

 

 と、そんな感じにあたしの下積みは順調に進み…

 

 

 

「──じゃあ受験行ってくるね、シロちゃん!」

 

「ほら、手拭い。落ちたとき涙拭くんだろ?」

 

「不吉なもの渡さないでよぉ!」

 

 

 そしてついに、原作雛森ちゃんが、そしてBLEACH主要キャラのルキアと恋次(れんじ)真央霊術院(しんおうれいじゅついん)へ入学する年になった。

 

 原作であの二人は確か第2066期と呼ばれていたが、確証を得たのは白道門を通る院生たちに69こと檜佐木修兵(ひさぎしゅうへい)の名前を聞いたとき。彼が最高学年の六回生になった年代で恋次たちが一回生になるので、後はそこから逆算して入学年を調整すれば恋次たちと同期になれるはず。

 

 ルキアたちがどうやって瀞霊廷に入ったのかはわからないが、恐らく原作雛森ちゃんは兕丹坊を頼り霊術院の門を叩いたのだと思われる。なのでまた彼(の人脈)にお世話になるとしよう。

 

 

「──ごめんくださーいっ!」

 

 

 ようやく最初の一歩だ、待ってろよシロちゃん。最高の「雛森ィィィィ!」のために、あたし頑張る!

 

 

「……ッ、なんか寒気が…?」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 真央霊術院(しんおうれいじゅついん)

 

 二千年以上前に山爺が考案して設立され、元は死神統学院と呼ばれてたとか昔はもっと死者とか出まくってたエグい死神養成所だったとか、色々闇の深い歴史がある学校だ。

 

 六年制のカリキュラムだが、一◯やシロちゃんのようなたまに現れる化け物たちをさっさと護廷隊に入れてコキ使うための飛び級制度がある。ウキウキ学生生活で気が緩んでこの制度に目を付けられないよう慎重にならないとね。

 おそらく恋次たちと自由に接することが出来るのは霊術院生の今だけ。ここで六年間あたしの偽の実力を彼らの認識に刷り込ませておきたいので、入学即卒業とかはマジで勘弁してほしい。

 

 

 …誤解なきよう明記しておくと、あくまで霊術院・護廷隊・シロちゃんの三者にあたしの霊圧がバレることが問題なのであって、原作の敵勢力であるヨン様陣営に気付かれるのは全く構わない。むしろさっさと興味を持ってもらって仲間に入れて欲しい。

 

 その最初のチャンスが今年にあるのだが…出来れば取り零さないようにしたいところだ。

 

 

 

「──ではこれより【浅打(あさうち)】の仮授与式、ならびに第2066期一組生の発表に移る。名を呼ばれた者は壇上へ移動せよ」

 

 お、始まった。練習場に集まった新入生たちが一人ずつ教師から簡素な刀を受け取っていく。なるほど、霊力を馴染ませるため一日でも早く帯刀させるのか。霊圧で巨大化したらどうしよ…

 

 ん? あっ、あのシャンパンゴールドなヘアーは侘介(わびすけ)じゃないか! 面を上げよ! よかった、ちゃんと同期だったんだね侘介くん! 

 

 これならあの二人も…っておおっ、あの赤パインは恋次ではないか! 言った傍からリアル恋次だヒャッホィ! よろしくね、阿散井(あばらい)くん! 

 

 ルキアは…くっ、お互い背が小さくて見えない。でも恋次と話してる女子がいるのはわかる。顔見たいのにもどかしい…!

 うふふ、ルキアちゃんも曇り顔が似合う子なんだよなぁ…(暗黒微笑

 

 

「──受験番号【う二七】、入試席次主席。雛森 桃」

 

「あ、はいっ!」

 

 そんな感じに原作キャラを芸能人感覚で見つめてミーハーしてたら名前を呼ばれた。空鶴姉貴から入試の過去問を貰えただけのことはあり、高めに晒した霊圧と人間性とを総合的に判断され見事主席獲得! 原作では何となく侘介が持ってったっぽいイメージがあったけど、こっちのパラレルではあたしがゲットだ。

 

 早速壇上に上がり先生のありがたい御説教に耳を傾ける。禅問答を十分ほど聞かされた後、ようやく【浅打】とご対面。この刀があの毒舌天女様に具象化するんだから、KBTIT師匠も罪深いよね…

 

 

「──見ろよあの子」

 

「ああ、めっちゃ可愛い…」

 

「首席で美人とか高嶺の花だなぁ」

 

「お近づきになりてぇ…」

 

 巨大化させないよう慎重に浅打を受け取る姿は、傍目には壇上で緊張に呑まれる可憐な乙女に見えることだろう。雛森ちゃんの公式美少女フェイスで思春期男子の目の保養になってやったあと、特に問題も起こらず胸を撫で下ろしたあたしはパタパタと急いで教室に移動する。

 特進クラスの一組はやはり我ら副官トリオが揃った。これでひとまず原作通りだ。ぼっちなルキアちゃん、今度どっか一緒に遊び行こうね…

 

「えっと、阿散井くんに吉良くんだよね…? 雛森桃です、よろしくね」

 

「あん? あんたは…あの主席サマか。よろしくな」

 

「! よ、よろしく雛森君ッ。その…き、君とお近づきになれて嬉しく思うよ…!」

 

 うむうむ。順調に未来の副隊長たちとの仲を深めて、明るいコミュ力お化けな雛森ムーヴを極めよう。まあ原作雛森ちゃんはこの侘介のあからさまな反応にさえ気付かない鈍感女子だから、うっかり言葉を拾っちゃわないよう注意しないとね。

 

 …ヨン様と一緒に裏切ったときの爽快感が楽しみだぜ、ぐへへ。

 

 

 

 それからは特に何事もなく時が進み、あたしはいつものトリオを中心に陽キャ街道を爆進しながら、死神の基礎たる斬拳走鬼の鬼──鬼道の授業で舐めプしつつも大いに楽しんでいた。

 

 

「──君臨者よ、血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ……真理と節制、罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ!!」

 

──破道(はどう)の三十三──    

(そう) () (つい)

 

 

 燃え盛る青メラが掌から放たれ、的の中心に当たり炸裂する。くーっ、やっぱ鬼道はかっこいいな。漫画やアニメに出てきた術を自分で実際に使える快感は、もうこれだけで二度目の人生に満足してしまいそうになるくらいの幸せだ。

 

 とはいえ、空鶴姉貴に弟子入りしてたあたしは既にこの程度の鬼道は詠唱破棄も習熟済み。こうして周りのレベル相応に威力調整することのほうが大変だ。

 

「あの志波家の姫に師事したと言うだけのことはある。素晴らしい完成度だ」

 

「きょ、恐縮です…先生」

 

「相変わらず鬼道だけは完璧だな、あいつ」

 

「凄い、さすが雛森君…!」

 

 一回生が習う鬼道は三十番台までなので成績は抜群。しかし目立ち過ぎては必死に霊圧を隠してる意味がなくなるため、斬術と白打は平均付近をふらふら、瞬歩は侘介に次ぐ二番目と言った具合にあえて成績を偏らせている。走鬼以外に不安があると言い訳すれば飛び級を薦められても遠慮出来るからね。

 

 何だかんだ言っても、やっぱり鰤界は強さ=霊圧である。いくら鬼道が優れていても霊圧が常識的なら一◯みたいな強制飛び級の話は出てこないようだ。

 

 原作通りの鬼道の達人という称号はそのままに、他はちょっと人より優秀程度の評価に収まりたいです。

 

 

 

 …さて。そんなこんなで、明日はようやくあのヨン様との初対面のイベントが起きる日だ。

 

 色々と考えて準備して来たが、何とか興味を持ってもらえるようオサレムーヴの予習を万全にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 だが、このオサレムーヴで調子に乗ってしまったせいで、この先あたしは色々と大変な目にあってしまうのだった…(フラグ

 

 

 

 

 

 


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