雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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ダイジェストとか人生で一度も書いたことないのにやろうとして失敗…
結局原作と違うシーンだけ描写したけど許してクレメンタイン二世。

双極の丘の場面はチャン一の虚化修行のときに回想として挟みたいので今回はお預け。
後程お楽しみに…

あと七夕なので織姫ちゃんとウルキオラのカプ絵でも描こうかと思ったけど時間なかった(´・ω・`)

 


幕間:いちごくんの不思議な体験

 

 

 

 

 

「──行ったか、やれやれ」

 

 

 無数の摩天楼が高く聳える四半に転じた世界。その中心に、折れた斬魄刀を握る青年がいた。

 

 白。一言で表す彼の印象はその色一つ。どこかつまらなそうにも、嬉しそうにも見える顔で息を吐き、青年は後ろへ振り向き口を開く。

 

「これでいいんだろう」

 

『…ああ、わざわざすまなかったな』

 

 低い男の声に「気にすんな」と青年は返す。

 

 それは真逆の漆黒。まるで闇を纏うかのようなコート姿の男が摩天楼の壁に佇んでいた。

 

「あんなやつでもこの世界の王だからな、勝ってもらわなきゃ困る」

 

 青年は手元の折れた刀を見つめ、それをやったヤツの顔を思い浮かべる。まだまだ頼りないが、先ほどの試練で僅かに光るものを見せてくれた己の相棒──黒崎一護。

 先刻去った彼の決意に満ちた目は、確かに何かを期待させる大きな力を秘めていた。

 

 さて。久々に個として目覚めた白い青年だったが、今の彼はこの場に長居は出来ない。様子見をしていた"封印"が少しずつ拘束を強めていくのを感じながら、青年は黒ずくめの男の()へと戻っていく。

 

「…あいつ強いぜ、"斬月"さん。大事に育ててやんな」

 

 

 ──いずれ俺のモンになるんだからよ。

 

 

 風化し吸い込まれるように、白い青年は黒い男の纏う闇の中へと消える。

 

 そんな彼の言葉を受け止め、一人残された男は天を仰ぎ見た。

 

『…一護、お前は気付いているのだろうか』

 

 己が受け継いだ力のことを。背負わされた使命を。そして──己が生まれた理由を。

 

 自ら斬月を名乗り、彼を破滅から守る力となる道を選んだ男。その憂いを帯びた目を閉じ、彼は外の世界で強敵と戦う若い青年のことを思う。

 

『お前は私の宝だ、一護』

 

 愛しい子よ、お前が戦う世界は暗く冷たい雨が降る。それを晴らす術はなく、故に私はお前の溢れる力を閉じ込め戦いから遠ざけて来た。

 

 だが、彼は力を求めてしまった。

 

 守るべき仲間のために。救うべき恩人のために。彼は男に「勝ちたい」と願ったのだ。

 

『…これからお前は否が応にも時代のうねりに呑まれていくだろう。そして一度動き出した歯車を止めることは、最早誰にも叶わない』

 

 だから、せめてその時まで…

 

 

 

 ──争い無き世界にお前を留めるのは、私の我儘なのだろうか。

 

 

 

 応えの返らぬ男の問いは、孤独な世界に虚しく木霊するのであった。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 瀞霊廷の中心に位置する丘陵、通称"双殛の丘"。走る無数の大裂け目の一つに、岩肌をくり貫いて作られた秘密の洞窟がある。かつて浦原喜助が作ったその練習場に、黒崎一護は潜んでいた。

 目的はただ一つ。彼の恩人を処刑せんとする護廷十三隊の隊長・朽木白哉を倒すための、卍解の解放修行である。

 

「…くそっ」

 

 特殊霊具【転神体】を用いた試練の猶予は僅か三日。ただでさえ短い時間だというのに、苦戦する一護の耳に、恩人の朽木ルキアの処刑が明日の正午に前倒しになったという凶報が届く。

 

 ──今日中に終わらせりゃいいだけの話だ。

 

 そう豪語した青年も、時間が近付くにつれ息は荒くなる一方。威勢のいい決意だけではどうにもならない大きな壁が立ち塞がる。

 

 残された最後の休息の夜を眠れず悶々と過ごしていた一護は、焼け付くような焦りを掃わんと一人練習部屋で斬魄刀を振るっていた。

 

「急がねえと…いけねえのに…ッ」

 

 元より才ある者が会得に十年の時を必要とする斬魄刀の最終奥義だ。容易く手に出来る力でないことはわかっている。それでも、一護は…

 

「クソ……動けよ…ォッ!」

 

 ガシャン、と腕から刀が零れ落ちる。震える指先は肉刺が潰れ、引き裂かれ、巻いた包帯は先から先まで真っ赤に染まっている。視界はぼやけ、遂には足まで崩れ膝を突く有様。

 

「救うんだ…あいつを…! 俺が、助けるんだよ…ッ!」

 

 苛立ち。不安。己への不甲斐なさ。負の連鎖に振るう剣先は鈍り、連日の無茶で満身創痍な身体は鉛のように重くなっていく。

 

 休むことも出来ず、前へ進むことも出来ず。無駄に体を酷使し消耗するばかりの時間が過ぎ、一護は地べたに這いつくばりながら、狂うほどの疲労と焦燥で頭が真っ白になっていった。

 

 

 

『──力が欲しいの?』

 

 

 

 その女が現れたのは突然だった。

 

 現実か幻かもわからない極限の状態。不意に頭の中に木霊した幼さの残る女の声に、青年の呆ける意識が僅かに覚醒する。

 

「…あん…たは──」

 

 ぼんやりとした小柄で真っ白な輪郭。その頭部と思しき部位へ目を向けた一護は、そこで思わず硬化した。

 

「な…」

 

 仮面だ。それも最近何度と見た、白い仮面。

 

 唐突に一護の前に現れたその少女は、恋次の、そして剣八の一撃から身を守ってくれたあの奇妙な仮面を被っていた。寸分違わぬ形意匠をした、模様だけがない真っ白な仮面を。

 

 

『彼女を助ける、力が欲しいの?』

 

 

 静かな、再度の問い掛け。

 どこかで聞いたような声が、逢ったような少女が青年に選択を差し出す。

 

 その微かな既視感を頼りに、一護は警戒も戸惑いも忘れ、ただ無意識に彼女へ手を伸ばした。

 

「…力が…欲しい…」

 

 それは己の執念が唱えたうわ言か。あるいは心のどこかで気付いていたからか。名も正体も定かではない謎の少女の言葉に、一護は本能的に縋っていた。

 

「…頼む…俺は…」

 

 誰も死なせたくねえんだ。俺を信じてついてきてくれた仲間も、出会った人たちも、そして、俺のせいで死ぬことを強いられてるルキアも。

 

 俺はあいつらを…

 

 

「──守る力が欲しいんだッッ!!」

 

 

 それは青年の根源。彼の生き様。

 大切な母親を死なせてしまった無力な自分を憎み、同じ悲劇を繰り返すことを極度に恐れる、哀しみを知った者の切実な思い。勇気でも狂気でもなく、幼少期に魂に染み付いたトラウマが呼び起こす力への渇望。

 

 失望か。同情か。はたしてそんな青年の臆病な心に、少女は何を見たのか。

 その答えは、彼女の警告が物語っていた。

 

 

『…半人前を承知の選択なのね?』

 

 

 白ずくめの仮面の少女に一護は強い目で返答する。

 

 自分は強くなっている。班目一角を倒し、阿散井恋次を倒し、更木剣八を倒してここまで来た。卍解の修行が始まってからもどんどん自分の霊圧が上がっているのがわかる。斬術も、歩法も、白打も、それらを効果的に使う戦闘の駆け引きも。全てが以前とは雲泥の差だ。

 

 だが至らない。足りないのだ。

 

 敵は強大で揺るぎなく、彼らに追い付く時間も刻一刻と消えていく。自分の身を削りながらでも食らい付けない巨大な差を埋めるには──遠い昔の思い出に頼る他に、道はない。

 

 

『…いいでしょう』

 

 

 決意が伝わったのだろうか。少女がゆっくりと青年の体に右手を添える。

 するとその細い指が、何の抵抗も無く彼の胸を貫いた。

 

「ぁぇ…?」

 

 カチ…

 

 いつぞやと同じ小さな音が全身に響き、続けて体内のどこかから込み上げてきたおぞましいナニカが心を、魂を蝕み始めた。

 

「あ…あ…ァッ!!?」

 

 一護はこの感覚を覚えている。尸魂界へ挑む前、現世の胡散臭い店主に無理やり死神の力に目覚めさせられたときのこと。自分の自我が消えて行くような、あの恐怖と絶望の白い歪だった。

 だがその速度は前回とは比べ物にならない。青年は声にならない悲鳴を虚しく喉から吐き出しながら、自身の破滅を認識する間もなく、十五年連れ添った己の意識の全てを手放し…

 

 

『──めっ』

 

 

 ピタリ。

 

 そんな擬音が聞こえるほど一瞬で、唐突に一護の視界が復活した。まるで夢から覚めたかのような奇妙な覚醒。目まぐるしく変わる状況に感情が付いていけず、青年はただ混乱に目を回すばかり。

 

 

『その子が大人しいのは少しの間だけ。あなたは直に、最初の試練に直面するでしょう』

 

 

 ふと、一護の耳に少女の声が届く。見上げた顔は仮面に隠され、されど微かに見えた彼女の目は優しい笑みの弧を描いていた。

 少女の右手が青年の頭を撫でる。あの時と同じ、重い瞼の幼子を寝付かせるように。

 

 

 ──大丈夫、あなたなら出来るわ。

 

 

 そしてその言葉を最後に、一護は穏やかな心が呼んだ眠気に身を包まれた。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

「──ちご! 一護ッ!」

 

 

 はたと目が覚めた時、青年黒崎一護は秘密の練習部屋の小さな個室で横になっていた。辺りを見渡し、慌てて体を起こして調子を確かめる。

 

 軽い。疲労も消耗も、己を苛むもの全てが幻のように消えていた。

 

「あれ? 俺、何を…」

 

「…お主、昨夜に何があったのか覚えておらぬのか?」

 

 隣を見れば夜一が難しそうな顔で「まさか…いや…」と奇妙な白い破片を指先で弄んでいる。

 何の話かと問えば、どうやら彼はその白い石膏のような物体に体中を包まれていたらしい。慌てて夜一が駆け寄ったときには既に殻は風化を始めており、手の中の物はその残りだと無造作に放り投げられた。

 

 白い石膏のような物体。それ自体には覚えはないが、昨夜のこの身に大きな変化が起きたことだけは、一護にも朧気な心当たりがあった。

 

「…まあ今はよい。もう処刑まで時間がないのじゃ、さっさと飯を掻き込んで卍解修行を再開するぞ!」

 

 急かす夜一を余所に、一護は目覚めてから体に沸々と湧き上がるナニカを感じ取る。昨日とは比べ物にならない、持て余しそうなほどの力を。

 

 

 ──力が欲しいの?

 

 

 そうだ、思い出した。一護は得心に目を見開く。

 

 それは先日より彼の脳裏の片隅に引っ掛かっていたこと。

 更木剣八に一度敗北したとき、一護は斬月のおっさんに以前の精神世界へと連れて行かれた。そこで彼は一人の青年と出会った。

 

 色彩を反転させたような真っ白い姿をした、黒崎一護自分自身。

 

 その姿を見たときから。否、死神のルキアと初めて出会ったときからずっと心の奥底に詰まっていたものが、ようやく氷解する。

 

 

「白い…着物の…」

 

 

 そう。

 あの六年前の朧げな記憶の中の不思議な少女が着ていたのは、死覇装だったのだ。それも色が反転した、あのもう一人の自分と同じ白を基調とした異質なものを。

 

 

「何で…」

 

 だが謎は謎を呼ぶ。

 

 狂暴で攻撃的な白い自分と、頭を撫でてくれる真逆の優しい少女。

 

 何故あの女の子はあいつと同じ服装だったのか。二人の関係は一体何なのか。どうして彼女は、例の仮面を付けてまた自分の前に現れたのか。

 

 

 そして、あの子は俺の体に何をし──俺自身の知らない黒崎一護の何を知っていると言うのか…

 

 

 茫然と布団の中で呆ける一護は、少女に貫かれた己の胸元に恐る恐る手を触れる。六年前と同じく、そこに異常は何もない。

 だが意識を向けると確かに感じる心のざわめきが、今までとは違う何かが自分に起きたのだと青年に知らせていた。

 

「──おい一護! 何をしておる、時間がないんじゃぞ!?」

 

「ッ、お、おうっ!」

 

 ざわめく不安を振り払い、一護は立ち上がる。体の調子はすこぶる良く、力もかつてないほど漲っているのだ。迷いさえ捨てれば期日の正午までに必ず卍解に至れるだろう。

 決意の拳を握り締め、黒崎一護は夜一の待つ練習場へと走り出した。

 

 

 彼の気付かぬその手の中には、散り散りに霧散したあの赤黒い霊絡の残滓が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 




 

SS篇、終わった…
流石に一番の見せ場と言うだけあり書いてて凄い楽しかったです。やっぱ愉悦って素晴らしいね♡

感想にもありましたが、この悦森はシロちゃんが破滅する瞬間を愉しみたい麻婆神父タイプではなく、アフターケアをしっかり準備し何度も収穫して半永久的に愉しみたいトッポタイプです。
悦森さんはシロちゃんの一番の魅力は曇り顔だからそれを引き出したいという歪んだ愛情を抱いている変態で、本人的には一切の悪意がない(!?)つもりのため彼の復活は全てプラン通りです。むしろそのために面倒見のいい乱菊さんを彼と引き合わせました。
そんな優しい()悦森さんをどうぞ応援よろしくお願いします(ゲス

そして早速また支援絵を頂きました!
前回に引き続きの白岩@さまのヨン様です!
文はオサレ構文「草に詳しいマユリ様」の感想アレンジコラボ! あれは草すぎてホント草。

https://img.syosetu.org/img/user/202142/67450.jpg

渾身のドヤ顔と「チェケラ!!」とか言いそうな人差し指の角度が私的オサレポイントです。
って言うかよく見たらグラデーションにトーンまで使ってるやんけ、本格派でベネ…
白岩@さまと草に詳しいマユリ様、大変ありがとうございました!

それでは次回から破面篇を始めます。桃ちゃん大暴れさせたいですねえ…
続きもどうぞお楽しみに!

 

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