雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
衣装ィィィィ!
「──うふ…うふふ…うへへへへ~」
BLEACH世界最高峰の美少女である、あたしこと雛森桃ちゃんの愉し…楽しそうな声だ。
「も、桃ちゃーん? 女の子がしたらダメな顔しとるでー?」
「うふふ、えへへ……はぁ…はぁ…」
「あかん話聞いとらんわこの
息が切れたので少し休憩。
しかし、これほどの幸福感はいつ以来だろう。文字通り天にも昇るような最高の愉悦味を体験したあたしは、どんな些細なことでも忘れまいと脳裏で先ほどの出来事の全てを何百何千回とリフレインする。
──雛森ィィィィィ!!
「うひひひひひハハハハハハ!!」
「あ、ついに壊れはった」
「…出血多量で頭がイカレたのだろう。
「出血関係なく最初からコレが本性なんとちゃうん…?」
横で何か聞こえるが、あたしは今最低限の女の矜持を守るため垂れる涎をこの大きな白いシーツで拭うのに忙しい。自分の死覇装で拭わないだけまだ良識を維持していることを褒めてくれ。
しかし…
──雛森ィィィィィィ!!
んはあああああああ最高ゥゥゥゥゥ! ほんッッッと最高の「雛森ィィィィ!」だった! オール満点! 文句なし! ありがとシロちゃんマイダーリン好き好き大好き愛してるううううひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!
…ふぅ。
色々とぶっ壊れてると頭の片隅で自覚しているが、あたしは先ほど雛森桃としての転生人生の悲願をようやく達成出来たのだから少しはしゃぐくらいは許して欲しい。
シロちゃんも肺活量をちゃんと鍛えてくれたお陰で、
このまま、このいい匂いのする白い布に包まれたまま第二の人生を終えてもいいと本気で思えるほど、あたしは幸福の絶頂にあった。
「──さて。そろそろ歩けるかい、桃?」
そんな具合にラリっていると、突然あたしの涎拭きがカリスマ溢れるアゾット声で話し出した。
…涎拭きが喋った…だと…?
「でゅふへへへ…へへ…へ──ッあ、ああ藍染隊長!?」
「ああ、おかえり」
顔を上にあげるとそこには尸魂界一のイケメン藍染惣右介のドアップがニッコリニヤニヤ微笑んでいた。
ぱちくり視線を交差させることしばらく。あたしは自分の手元の涎ベタベタな白いシーツとヨン様の顔を交互に見て、それまでの幸福感がサーッ…と消えていくのを朧げに感じ取る。
「えっ、あ、あぁあ藍染隊長の隊首羽織がああああ!」
「いいんだ、桃。それは最早私には不要なものだからね」
「そ、そういう問題じゃ──って、あ…す、すいません藍染隊長! 直ぐ降りますッ!」
慌てて
しばらく三人男たちを背にもぞもぞと、はしたなくはだけていた衿を何とか整えビシッと姿勢を正す。
すると鷹揚に頷いたヨン様があたしたちに指示をくれた。
「では要、桃。翌日に玉座の間へ
お、早速浦原印の崩玉で破面化ですな。なら先に試験用に何体か虚たちをヨン様ラボまでデリバリーしておこう。気が利く有能アピで涎ニチャ森ちゃんのイメージを払拭しなければ…!(手遅れ)
その後新たに【虚圏統括官】に任命されたDJと細かな調整をすることを確認し、虚夜宮で我等四人は一旦解散となった。
「──藍染隊長!」
だけどその前に。
「何かな、桃」
あたしの呼びかけに途中で振り向いてくれたヨン様。戦慄を覚えるほどの恐ろしい霊圧も冷笑も、今や何よりも頼もしく感じてしまう。
あたしは二回深呼吸を重ね、自分に出来る最高の笑顔とお辞儀で──正真正銘の恩人となった彼に精一杯の感謝の意を表した。
「本当に──ありがとうございましたっ!」
九十度の礼を決めるあたしの耳にクスリと微笑みが聞こえ、ヨン様は「構わないよ」の一言を残して宮殿の奥へと去って行った。
ああ全く、とんだ借りが出来てしまった。これに空座町決戦でのお願いも叶えて貰ったら、あたしは一体何をして彼に恩を返せばいいのやら…
***
さて、一晩明けての翌日朝。
と言っても虚夜宮のドームに映写された鬼道の太陽だが、人生最高と言える目覚めを体験した爽やか桃ちゃんは「んーっ」と自室で伸びをし体の調子を確かめる。
「…うん、傷も残ってない。流石【反膜の糸】ね」
昨夜は痛みと愉悦でアヒャってたので正直よく覚えていないけれど、確かハリベルがあたしの怪我を見て大慌てでロカを呼んできてくれたのは記憶に残っている。さすハリさすロカ。
「──雛森様。ハリベルです」
お、噂をすればご本人の登場。入室を許可すると装甲ダイバースーツな金髪巨乳女性が静々とベッドの脇に跪いた。
ハリベル、ウルキオラ、スタークの
まあDJもあたしも日中は尸魂界で隊長格業務やってたし、こっちにいるときは研究所か執務室にしかいないので今まであまり絡みはなかったのだが。
「おはようございます。お怪我の具合はいかがですか?」
「おはようございますハリベルさん、おかげさまでバッチリです。あとでロカさんにもお礼を言っておかないと」
「伝えておきましょう」
スッと頭を下げる彼女はどこか憔悴している。何かあったのだろうか、後で聞くとしよう。
とにかくいつまでも人様に寝間着姿を晒す趣味はないのでベッドを降り着替えを探す。
…ん、あれ? あたしの死覇装がない。
「雛森様、こちらへ。お召し物をご用意しております」
「?」
よくわからないので後ろをついていくと、そこには二人の女破面がいた。
『お…おはようございます、軍団長…ッ』
「あっ、ロリさんにメノリさん! おはようございます」
ビクビク震えながら跪いているのはNo.33破面ロリ・アイヴァーンとNo.34破面メノリ・マリア。昨日の今日であたしがヨン様に送った侍女大虚たちが早速原作の完全人型に破面化していた。
訊けば、やはり昨夜にヨン様がウッキウキで彼女らで浦原印の崩玉を試したらしい。ロリたちはしばらくこっちであたしの世話をして、人の姿に慣れたらあちらへ再派遣される予定だとか。
見る限りだと二人ともちゃんと本誌通りの外見になってるので是非そうしてくれ。ロリもヨン様の傍のほうが喜ぶだろう。
「あと、その…」
「あ、はい。何でしょう?」
「…よろしければ以前のように霊圧を抑えていただきたく…」
遠慮がちなハリベルの頼みで気付くあたし。そういえば双殛の丘から霊圧垂れ流しにしたまんまだったな、と慌てて抑える。さっきから顔色悪いのはそのせいか、めんごハリベル。
「ところであたしの着替えはどこですか?」
「…ふ、服飾務の者が用意しました。こちらです…ッ」
そう言ってロリたちが開けた隣の着衣室には、凄い数の衣類がマネキンに着せられていた。チャン一や浦原さんに見せたホワイトくん版死覇装から、ただの白い紐みたいな奇抜ビキニまで様々だ。なんだこの無駄に幅広いラインアップ。
「と、東仙統括官殿より死神の死覇装は今後控えるようにとの通達がございました。どうぞこの中からお好きなものをお選びください…」
「…!」
ほう、ほうほうほう!
なるほど、つまりこれがあの有名な破面軍ver.死覇装の衣装チェンジですね。護廷隊時代はあまり縁がなかったお洒落チャンスにあたしの百五十年連れ添った女の子ソウルが飛梅ちゃんと一緒に大はしゃぎしている。
…だが待ってほしい。これは男女問わず極めて重要な問題なのだ。
滅却師勢最オサレキャラ、アスキン兄貴の名言「女の価値はオシャレかどうか」…これは鰤界の真理だと思う。
オサレポイントバトル(以後OPB)が、自身の外見も勝敗式に加点されるのは以前述べた通りだ。
実際崩玉ヨン様が無月一護に負けたのも、マユリ様が何度も衣装を変えながら強敵を倒しているのも、ルキアが実力以上の戦績を上げているのも、原作雛森ちゃんが何度ぶっ刺されても生き残ったのも、このビジュアル評価点によるところが大きいのだ。
そして今回のコレは我々ヨン様陣営組の新衣装を決める一大イベント。固定化された死神の死覇装より多くのOSR値を稼ぐことが出来るが、逆にここで手を抜いてしまうと一気に初期ポイントが一桁台にまで下落してしまう可能性があるのだ。特に外見要素が極端に評価される女性キャラとしてここは慎重に選びたい。
と言うワケで。
「──ンンンンベリベリプリティキュートマーベラ~~~ス! 非の打ちどころのない完璧なコーディネートですわよォ~~~軍団長閣下ァ~~~~♡」
あたしは破面軍一の乙女にしてファッションリーダー、No.20破面シャルロッテ・クールホーン姉貴兄貴に相談することにしました。
「あっ、あのシャルロッテさん…? その、とってもステキなんですけど、これ…せ、背中が開きすぎでは…」
「いいえっ軍団長閣下、そ・れ・が、いいのです! 女性の素肌以上の宝石はこの世にございませんものッ! 毎日の回道でしっかりお手入れなされてる閣下でしたら下品にならない範囲で露出面積を最大限お取りになられるのがもォ~っともよろしいですわァッ!」
「そ、そうですか…?」
彼女(?)が選んでくれたのは、肩から背中が剥き出しベアトップのフィッシュテールドレスと袴スカートのコーデという、あのブレソルのバレンタイン槍森ちゃんと破面織姫ちゃんを合わせたような死覇装だった。
腕には上品なオペラグローブと、天女らしい直領(肩の帯っぽいやつ)で神秘性アップ。草鞋の緒のデザインの黒ブーツも女性的で実にオサレ。
姿見の中に、清楚でちょっぴりセクシーな破面軍ver.雛森ちゃんが降臨していた。
こ、これで人前に出るのか…
「死神の斬魄刀解放はあたしたちの帰刃と違い衣装と一体化出来るワケではございませんので、軍団長閣下の卍解もコーデに組み込むことが出来るように致しましたわ! ぜ・ひ・尸魂界との決戦時にもお召しになってくださいねェ~~~~♡」
「あ、ありがとうございます…」
ノリについていけないが、卍解用コーデに関してはかなりありがたいのも事実。
と言うのも、全身真っ白の中に黒のアクセントが入る破面死覇装はそれ単体でデザインとして完成されており、あたしの服飾系の卍解とは合わせ辛いのだ。一護が天鎖斬月の黒コートを白袴の上に着た姿をイメージすると、そのコーデの難しさが分かるだろう。
シャル姉貴兄貴はいい仕事をしてくれた。
(…うん。ちょっと恥ずかしいけど、この扇情的な上半身がそれとなくNTRっぽさを出しててシロちゃん曇りポイントになりそう)
そう思うと絶妙なデザインにも見えてくる。流石ブレソルの限定キャラコスチューム。確か「幼馴染の反対を押し切って入団したカカオ城騎士の装束」だとか、そんな感じの設定があった公式えっちな衣装だ。
そしてお洒落が終わったら、女の子として一つやらなくてはいけないことがある。
「──ど、どうですか? 藍染隊長…」
かなり二の足を踏んだが、あたしは羞恥を我慢して作中一のオサレマスター藍染惣右介に感想を求めることにした。雛森ムーヴ以上に、この男にOKを貰えればそれだけでOSR値+100は固いのだ。外すことは出来ない。
果たして結果は。
「ああ、よく似合っているよ」
「雑ぅ…」
いつもの冷たい微笑を微動だにせずテンプレ台詞で済ませるこのエセペ・ヨンジュ〇。せめてもうちょっと詩的な意見を付け加えてくださいよ、オサレボーナス期待したあたしがバカみたいじゃないか…
「うぅ、五番隊じゃ虫唾が走るほどの色男だったのに…何で肝心のときに無反応なんですか…」
「ええやん、ボクは好きやで。桃ちゃんスタイル華奢やし良う似合っとるよ」
「…ありがとうございます。市丸隊長のも白蛇っぽくて素敵です」
「え、それ褒めてるん?」
「え、褒めてますよ? イメージぴったりじゃないですか」
崩玉弄りに忙しいヨン様に代わって一〇がいいね!してくれた。でも君は他の女性の服装褒める前にまず乱菊さんのあの格好を何とかさせろ、シロちゃんの教育に悪いんだよ。
ちなみにシャルロッテ姉貴兄貴のセンスはウチの破面軍女性陣の間でも評価が高く、チルッチやハリベル従属官三人娘にも好評だった。
ただ彼の帰刃は誰も評価しないらしい。まあ、うん…
そんなこんなで、我らヨン様陣営はおニューな衣装で新生活を始めます。
尸魂界離反から二日。
これから玉座の間で行う凱旋式を終えたら、ヨン様の破面化実験に提供したグランドフィッシャーと合体破面を空座町に送るとしよう。
さあ、破面篇の開始だ…!
いつも評価感想マイリス応援ありがとうございます!
お待たせしました、破面篇スタートです。
SS篇よりかなり長くなる予定ですが、なんとかテンポ悪くならないように頑張ります
今後もよろしくゥ!
次回:"十刃"入れ替え戦