雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
時間が定まらずに申し訳ない…何とか22時に上げます
コメント評価誤字報告いつもありがとうございます、好き
今回は少し裏設定を。本番は次回
──食事が不味い。
それは四十年前、我らヨン様陣営がここ
彼らの種族は
つまり需要がないため、食事が不味いと言うより美食という文化そのものが存在しなかったのだ。
「…霊蟲を食用に品種改良するべきか」
「アレ食べるんですか…?」
食用霊蟲。原作で破面たちが食べていたという設定がある、虚圏に生息するよくわからない霊性生物だ。現物は昆虫食ではなくミドリムシ的な流動食だったけれど、あれで満足できるほどあたしたちの舌は貧相ではなかった。
「軍隊に美味しいご飯は必要不可欠ともいいますし、破面たちも人になったんですから食事の楽しみを知って損はないと思うんですよ。どうせなら彼らのためにも大規模な農園とか作ってみませんか?」
「…興味深いな。だが場所はどうする」
年甲斐もなくワクワクしている料理マニアなDJと共に、こうしてあたしたちの『食事改善計画』は始動した。
だがここ
ということで早速現世や尸魂界から必要なものを持ち込み試行錯誤の数十年。遂に満足に足る水田・麦畑・野菜果樹園を運営するに至ったのである。
「…良いものが出来たな、雛森」
「はいっ、東仙隊長」
完成した『藍染農園(公式名)』は野菜やフルーツ等現世のスーパーで買えるメジャーな青果を完備。残念ながら肉や魚などの生鮮食品、一部調味料などの第二次産業は加工がほぼ不可能なので、少し味気ないが一度現世で入手したものを小説チートキャラなロカえもんの【反膜の糸】で再現する。
農園とロカ姉貴のおかげで
ふふふ、護廷隊のみんなもまさか裏切り者のあたしたちが尸魂界以上に豊かな食生活を送っているとは夢にも思うまい。
…そんなあたしたちの努力に、先程「最初から全部ロカに作らせた方が早い」とかほざいたのが空気を読まない一〇。バカ野郎お前ロカが普段どんだけ仕事請け負ってると思ってるんだ、お前と違ってあの子は引っ張りだこで忙しいんだよ!
「ウルキオラに行かせるつもりだったがお前でも構わん。これがロカに再現させたい現世の買い物リストだ。暇なら行ってこい、市丸」
「ボク藍染隊長の副官なんやけど…ウルキオラでええやないですか」
「ちょっとお二人とも! あの人はこれから黒崎一護の
全くコイツら、栄えある"十刃"をなんだと思ってるんだ。いくら破面軍最オサレなウルキオラでも、流石に段ボール満載の台車を押しながら一護たちの前で
結局一〇がゴネたのでジャンケンになり、負けたあたしが買い出しに行くことになりました。ちなみに東仙は勝負不参加、ガッデムDJ。
まあ久しぶりの現代の現世だし別にいいけどね! 後で浦原さんのいない鳴木市のアジトへ行くか…
***
「──と言うワケでウルキオラさん…ウルキオラにはこの人間の男の子、黒崎一護の実力を調べてきて欲しいんです」
場所は飛んで桃ちゃん's執務室。
あたしは人間らしい敬称を嫌がるウルキオラを呼び捨てに、珍しくヨン様がくれた命令に従いあの原作での戦力分析任務を指示していた。
一応説明すると──今度の原作イベントは藍染惣右介が一護くんの成長速度を調べるためにこのウルキオラとヤミーを現世空座町に送り込み、主人公陣営と戦闘になる…という展開だ。敵主力である成体破面の恐るべき実力が判明するオサレ場面で、同時に一護の内なる虚の厄介さが強調されたシーンでもある。
前世のアニ鰤で観たときにかなりハラハラドキドキした記憶は未だ鮮明だ。
この世界ではあたしの特大ガバでヨン様陣営がかなり強化されてしまっているため、千年血戦篇を見越した帳尻合わせの強化を主人公陣営にも行っている。それが主人公の才能の源である、二十年前の寄生型虚【ホワイト】の強化だ。
ホワイトくんには前にも述べたが色々と細工がしてあり、その一つがメンタル低反発枕な一護くんに比較的安全に虚の力を引き出して貰うためのお助けキャラ──通称"仮面のあたし"である。
このお助けキャラは一護の中にいるユーハおじさんから着想を得たもので、崩玉の力と浦原さんの義魂技術で人造人格を作り出し、霊王の欠片に宿らせている。これは霊王の欠片を使った封印の力を自在に操るために自然とこの形になった。ちなみに人格のモデルはもちろん原作雛森ちゃんだ。
一応ガバには気を使っているつもりだ。人造人格が勝手に封印を完全解放しないよう、この"仮面のあたし"には都合のいい情報のみをインプットしており、物知りで一護LOVEなユーハおじさんと自然と協力するよう仕向けた。封印の完全解除なんておじさんが絶対に許さないし、何よりあたしの考えた原作雛森ちゃんモデルの人格なのだから当然一護を虚になどさせないはずだ。ホワイトの管理者として六年前の"本好きのおねえちゃん"ムーヴを完璧にこなしてくれるだろう。
今回のウルキオラの任務はこれが正常に作動しているかのチェックも含まれる。
「この映像が黒崎一護に関する資料です。参考にしてください」
「拝見します」
執務室の映像モニターにあたしの秘蔵ファイル『一護くん成長記録』を再生する。もちろん全てではなく、ルキアちゃんとの出会いから尸魂界での白哉戦までだ。
「特にこの虚の仮面を被っている状態の情報が欲しいです。戦闘力はもちろんですが、人格や表情感情などの精神的な変化にも注目してください」
「…畏まりました」
む、今少し返事に詰まったな。やはり相手の精神、心を分析する任務に不安があるのだろうか。
「大丈夫。あなたはただ見たままのことを報告してくれればいいのです。黒崎一護と…この井上織姫はとても強い心を持った人間ですから、二人の様子をよく見ていれば必ずあなたの"目に映る世界"は広がるでしょう」
「…!」
微かに目を見開くウルキオラ。彼の境遇的にその言葉はクリティカルだからね。しれっと織姫ちゃんにも興味を持つよう印象操作したけど原作的には些細なことだ。
最後に、ヤミーを連れていくと色々と引っ掻き回してくれて一護の観察がしやすいとアドバイスし、ウルキオラを激励する。
すると彼は少し目を伏せた後、顔を上げジッとあたしを見つめてきた。
「…軍団長」
「何ですか?」
「ヤツが藍染様の脅威足りうる場合、殺しますか?」
うーん、この忠犬。折角の心を知る機会を僅かな逡巡で放棄するとは流石だ。
もっとも、ウルキオラに一護は絶対に殺せない。
まず、ヤバくなったらあっちのあたしがホワイトくんの力を少し解放して彼を助ける。もしそれでも足りなかった場合も、ユーハおじさんや浦原さんや夜一さんがいるから、ウルキオラが一護をオサレにいたぶってる途中で助けが入るはずだ。それに最悪死んでも織姫ちゃんがいるから復活するし、保険は山ほどある。流石主人公。
なので答えは一つだ。
「軍団長としてあなたに全てを一任します。その時点で斬る必要があるほどの相手でしたら、そうしてください。伸びしろを警戒して芽を摘むのも、伸びきってから捩じ伏せるのも、どちらも正しい忠義のあり方です」
「…わかりました、軍団長」
「ただし、井上織姫は絶対に殺さないように。藍染隊長があの人の能力に興味をお持ちです。よろしくお願いします」
「はい」
一礼し、今度こそ桃ちゃん執務室を去っていくウルキオラ。うーん、タキシードみたいなコートの燕尾がこの上なくオサレだ。かっこいい。
何を隠そう、あたしにとってウルキオラは破面勢で一番好きなキャラなのだ。前世であたしを中二病に目覚めさせた罪は重いぞムルシエラゴ!
おまけにこの世界では四十年以上も探した大虚だからね、思い入れも強いんだ。
ああ、本誌で織姫ちゃんと一護から心を知ったウルキオラがどんな人生を送るのか見てみたかったな。でもあのクソデカ「心か」の最期のシーンは彼の最大にして最高の見せ場でもあるんだよなぁ…
うぅ、救いはないんですか師匠ぉ!
オサレ最高神の破面勢に対する無慈悲さにしばらく涙することしばし。あたしは深呼吸を重ね、ぺちぺちと意識を切り替える。
そう、原作イベントだ。
このイベントは、見るだけならウルキオラの
特にあたしが作成と継承に関わったホワイトくんが、主人公の一護とどんな絆を作っていくのかは非常に気になる。可能な限り原作通りが理想だが、これほど手間をかけて準備したのだから少し変化を見たいと贅沢にも願ってしまうあたしは悪い子桃ちゃんだ。
──ッッヒャッハー我慢できねえ! シロちゃんに動きがない今、やっぱりチャン一見に行くしかねえ!
ワクワクを胸に、あたしは霊圧遮断義骸に入り久々の現世へと赴いた。
おっと台車と段ボール。お買い物も忘れずにね。
次回:JK雛森ちゃん