雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

41 / 145
少女ィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

 それは突然、虚空に現れた。

 

 白いドレスのような死覇装を纏った女死神が、風にスカートの裾を遊ばせ宙に浮いている。その少女は膨大な霊圧を静かに漲らせながら、黒崎一護ら一同を、苦々しい顔で睥睨していた。

 

「お主は……雛森桃!」

 

 夜一の声で一護ははたと気付く。

 それは以前流魂街(るこんがい)で耳にした、ルキア救出の味方になりうると期待された人気者の副隊長。そして尸魂界(ソウルソサエティ)で起こった巨大な陰謀劇の終幕に、敵の脅迫まがいな誘いで連れ去られた訳アリの女死神、その人だった。

 

「ひ、雛森さん…? 何であんたがここに…」

 

 敵の虚モドキの巨漢が宙の少女──雛森桃へ恐る恐る訊ねる。それまでの傍若無人さが嘘のように萎れた男の背中が互いの力関係を表していた。

 

 そして問われた雛森桃が渋面のまま、男の名を呼んだ。

 

 

 

「ヤミーさん」

 

 

 

 ゆっくりと辺りの惨状を見渡し、沈痛そうに唇を噛む女死神。

 

「…何をしたんですか。あたしは"不必要な暴力は慎んで下さい"とお願いしたはずです」

 

「だ、だけどよォ! どいつもこいつもムカつく連中で──」

 

「言い訳は聞きませんッ」

 

 男の訴えを両断し、少女がふわりと地面へ降りる。

 

「前も言いましたが、あなたは破面(アランカル)に進化して虚から人になったのです。もう戦うだけの獣じゃないのよ?」

 

「す、すまねえ…」

 

 神妙に謝罪する虚モドキを悲しい声色で叱咤する雛森桃。その姿は、一護にはまるで手のかかる子を諭す母親のように見えた。

 

「ウルキオラは大丈夫ですか?」

 

「ご心配なく。この程度の雑魚相手に傷付けられることはありません」

 

 もう一体の敵の無事を確認した少女がほっと胸を撫で下ろす。そして二体を背に、一歩前に進み出た彼女はキッと一護たちを睨み付けた。

 周囲の空気が張り詰める。だが一触即発の緊張感を破ったのは、傷ついた一護を庇う男女の片割れ…浦原喜助の確信めいた問いだった。

 

 

「──アナタ、"読書家"ッスね」

 

 

 それは何かの暗喩、あるいは称号か。一護には聞き慣れない単語だったが、隣の夜一にとっては俄かに信じられないことだったらしい。

 

「まさか、じゃがこやつは…」

 

「…ええ、アタシも少々意外です。あのときの彼女と雰囲気が違いすぎる」

 

 コソコソと情報交換をする二人に、蚊帳の外の一護は思わず「知り合いなのか」と尋ねる。だが彼の返答は曖昧で、そして不穏なものだった。

 

「…謎の虚研究家ッス。昔一度だけお会いしましたが、当時は死覇装と仮面に声まで偽装した、まさに正体不明の女性でした」

 

「死覇装と、仮面…?」

 

「ええ、ただ彼女の死覇装は真っ白。そして被っていた仮面は…」

 

 

 ──虚のものでした。

 

 

 その言葉に一護は驚愕する。先日の"仮面の軍勢(ヴァイザード)"。あの卍解修行の途中で見た奇妙な夢。謎の虚研究家といい正体不明の女性といい、思いっきり身に覚えのある人物だった。

 

「藍染惣右介と繋がりがあるのは予想済みでしたが…まさかこういう形で明かしてくれるとは思いもよりませんでした」

 

「藍染…!? ってことはあの雛森って人は敵なのか?」

 

「普通に考えたらそうなんスけどね」

 

 煮え切らない言葉が一護を更に困惑させる。何かと縁のある謎の少女の正体が敵の一人だったと知らされただけでも衝撃だと言うのに、事はより複雑なのだと浦原は言う。

 

 死神の彼女が他者の隔たり無く(ホロウ)の部下に心を砕くのは、確かに"読書家"らしい性質だ。だが初対面時の不気味な神秘性は大きく薄れ、代わりに虚ろな退廃感と人間味を彼女の中から感じる。

 

 別人のように変貌した"読書家"。果たしてその変わり様は演技と本性の二面性か、それとも…

 

 

「この二十年で…いえ──この一週間(・・・・・)で何があったんスか? 雛森サン」

 

 

 だが浦原が問い掛けた直後。一瞬の瞠目の後、少女が顔を歪め爆発的な霊圧を解き放った。

 

『!!?』

 

「こやつ…ッ!」

 

「話には聞いてましたがこれほどとは…!」

 

 ズドンと心の臓に響く途轍もない圧力に世界が悲鳴を上げる。地べたで憔悴している井上はもちろん、満身創痍の一護も霊圧にあてられ身動きが取れない。

 

(完全にバケモンじゃねえか…冬獅郎(あのチビ)を瞬殺したときはまだ手加減してたのかよ…!)

 

 かの藍染が手塩にかけて育てた神童。その名に恥じない圧倒的な霊力に戦慄する一護たち。

 

 そこへ、怒れる少女が低い声を投げかけた。

 

「…何か勘違いされているようですね、浦原喜助さん」

 

「!」

 

「あたしは、藍染様の忠実なる(しもべ)。破面軍軍団長の雛森桃です」

 

 仰々しい言葉と表情で胸を張る女死神。

 

 だが、一護はそこに微かな違和感を覚えた。

 一度気が付けば次から次に見つかる少女の不自然さ。勇ましい表情に見え隠れする焦燥、痛痒、達観が、彼女の変化の原因足りうる一つの可能性を浮かばせる。

 そしてそれは当然、聡い夜一と浦原も思い至った推測。

 

「ちっ…洗脳されおったか」

 

「──ッ!」

 

 

 一閃。

 

 突然、夜一の足元の地面が裂ける。いつの間にか腰の斬魄刀を右手で振るった少女が、瞳孔の開ききった淀んだ瞳で一護たちを射殺さんばかりに睨み付けていた。

 

「…洗脳なんてされてません。あたしは自分の意思で尸魂界を捨てたんです。そちらの都合のいいように考えないでください」

 

 肩を震わせ「不愉快です」と吐き捨てる雛森桃。

 その怒りの奥に封じている憤りの正体は何であろうか。精一杯の虚勢にも見えるそれにただならぬ闇を感じながらも、一度抜かれた刃は血を舐めるまで鞘に戻すことは叶わない。

 

「…どうやら戦うしかないみたいッスね」

 

「くそっ…」

 

 浦原は後ろのチャド達を、夜一は負傷した己の足を。それぞれ危惧しつつ不本意な思いで戦意を高めていく。そんな二人に守られながら、一護は少女の霊圧に耐えるばかりの無力な自分が情けなくて堪らなかった。

 

 

「! 来る──」

 

 

 斬魄刀を構える浦原の声が一護の耳に届いた直後、戦場が動いた。夜一の体の周囲に虚空からいきなり六枚の光の板が現れたのだ。

 

『なっ!?』

 

 間一髪で逃れた彼女。だが敵の術の理屈を知る死神二人は驚愕を隠せない。

 

「ぐっ! 完全無詠唱の六十番台じゃと!?」

 

「この霊力残滓…【曲光】による隠蔽ッスか…!」

 

 無学な一護にはただ少女の技が途轍もなく高度なのだと察せる程度。しかし敵の力を知って尚、頼もしい大人達の戦意に揺れはない。

 

「アタシが行きますッ!」

 

──剃刀紅姫(かみそりべにひめ)紅極波(こうきょくは)──

 

 浦原の斬魄刀が真紅の霊圧の刃で相手を斬り伏せんと襲い掛かる。その破壊力を知る一護は思わず息を呑み…

 

「…二人共。下がってて下さい」

 

──縛道の八十一・断空(だんくう)──

 

「な…!?」

 

 彼の心配は、突然両者の間に聳え立った霊圧の壁に受け止められた。

 【紅極波】の衝撃で爆風が吹き荒れる。しかし砂塵が晴れた後、渦中に居たのは無傷の虚モドキ二体のみ。

 

「消えた…!? どこへ──」

 

 先程の霊力壁の術の硬度に驚く暇もあらず。慌てて一護も辺りを探るが、少女の気配はどこにもない。あれほど巨大な霊圧がまるで霧のように霧散しているのだ。

 

「上じゃ喜助ッ! あやつ【白伏】で霊圧を消しておる!」

 

「なっ!」

 

 警戒に徹していた夜一の喚呼でハッと頭上を見上げる一同。

 そして、澄んだ青空にひらひらと舞う白いドレス状の死覇装が、まるで天女のようだなどと場違いな感想を皆が抱き…

 

 

──破道の八十六・牙気烈光(がきれっこう)──

 

 

 天を埋め尽くすほどの翠の流星群が降り注いだ。

 

『!!?』

 

 恐ろしい数の光矢がドガガガガ!と地面を抉る。舞い上がる土煙に視界の全てが潰される中、一護は必死に井上とチャドを守ろうと奮い立つ。

 だが。

 

(…おかしい。俺たちに全く攻撃が当たらない)

 

 威力も余波も凄まじい。しかし直撃は一つも無く、一護は肩透かしを喰らった困惑に戸惑う。

 

 その時。

 

 

 

 

「───一護くん」  

 

 

 

 

 不意に誰かの声が聞こえた。切なげな吐息が微かに耳を撫でる。

 そんな目と鼻の先の距離に、霊圧を一切感じない彼女──雛森桃がいた。

 

「え…?」

 

「ごめんね、今はこれしか…っ」

 

 思い詰めるような暗い顔の小柄な少女。その小さな左手が、いつぞやのように優しく一護の胸に触れ……そこに彼女の淡い桃色の霊力が溶け込んだ。

 

「待っ…あ、あんたは一体──」

 

 だが咄嗟に問うも少女の姿はそこに無く、気付けばその気配は頭上の空にあった。

 

 

 

「──二人とも! 現世の威力偵察任務は終了ですッ」

 

『はっ!』

 

 

 

 例の虚モドキ二体を左右に従え、雛森桃が上空からこちらを冷たい目で見下ろしている。

 襲撃者一同が目的を終え、立ち去ろうとしていた。

 

「藍染様には報告しておきます…! 浦原商店および死神代行一派、共に恐るるに足らぬ勢力であると!」

 

 小さな体で精一杯声を張り上げる少女。威勢のいい勝気な宣言だというのに、そこに適した感情はどこにもなく。

 

「全ては、藍染様のために…ッ!」

 

 盲目的な、それでいて微かな悲壮感を帯びた自答を残した雛森桃は、ぷいと踵を返し現世を背にする。歩む先には大虚(メノス)が使う空間の裂け目、黒腔(ガルガンタ)

 そして空間が閉まる寸前。

 

 

 

──がんばって 

 

 

 

 

 微かに感じた彼女の悔悟の視線に、一護はそんな言葉が込められているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「あれは一体…」

 

 

 襲撃者たちが去った公園跡。残された一護は恐る恐る、自分の胸元に手を当てる。

 普段となんの変わりもない己の胸板。あの遠い昔の記憶のように、あの卍解修行のときのように、そして──あの桃色の霊圧の帯が体から現れたときのように。

 

 

 一護の中で、それらが一つに繋がった。

 

 

「味方、なのか…?」

 

 

 だが繋がった紐は、複雑に絡まった綾取りのように果てが見えず、新たな疑問を彼の前に曝け出す。

 

 あれほど恐ろしかった内なる虚を一瞬で宥めた彼女は何者なのか。浦原さんが言っていた"読書家"とは。斬月のおっさんや白い自分と同じ世界を見守る、仮面の少女との関係は何なのか。

 あの雨の日に不思議なお守りをくれて、胸の騒めきを止めてくれた彼女は。一体何故、自分の前に現れたのか。

 

 謎が謎を呼ぶ、雛森桃との初邂逅。

 

 自分よりも自分のことを知っている彼女に近付くにはどうすればいいのか。

 

 

 

 

──あなたがいつか    

     一人前になったらね

 

 

 

 

 そうだ。一護は思い出す。

 自分には一つだけ、彼女のことを知る手がかりがあった。

 

 ──"仮面の軍勢(ヴァイザード)"。

 

 同じ内なる虚を持つあの胡散臭い連中なら何か知っているはずだ。雛森桃のことを、謎の虚研究家"読書家"のことを、そして…

 

 

「一人前に、こいつを制御する方法を…!」

 

 

 かくして黒崎一護のモラトリアムは終わりを迎え、新たな決意と勇気が胸に刻まれる。

 

 

 

 

 だがその歩みを待ってくれるほど、立ち塞がる巨悪は有情ではなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






悦森「ははは、ガバめ! 悲劇のヒロインムーヴを喰らえ!」

ウル「?」(純粋な目


内心FX沼顔な悦森さん。ガバの余波はどうなる…!?
待て次回!


そして、なんと先日同じ日に支援絵を三枚も頂いてしまいました!嬉しい!幸せ!メッセージ二つも来た時びっくりしたゾ!


白岩@さまの狂森とシロツメクサ後編
https://img.syosetu.org/img/user/202142/67771.jpg
https://img.syosetu.org/img/user/202142/67769.jpg

引き続きの原作扉絵風イラストの方です!力作の夢に出てきそうなゲス森が怖すぎて震えます!見てこの目力!これは【見えざる帝国】勢にOPB信者として引導を渡そうとしているシーンですかね?それとも言うこと聞かない破面たちにかな?ロリ視点だとこう見えてそう…恋路の敵は皆邪悪に見えるのだよ、ヒエッ
細かい感想だと炎のエフェクトが臨場感あって大変勉強になります。メラメラいいっすねえ…
扉絵風イラストも不穏な花言葉を添えて完成のようです!


ゆっくり†らんらんさまの藍染農園
https://img.syosetu.org/img/user/185204/67720.png

ごらんください、このお淑やかそうな雛森ちゃん!これはシロちゃん目線というより一護くん目線ですね。苺もってますし。多分優しい本好きなおねえちゃんはショタ一護にこんな顔で頭を撫でてあげたんでしょうね、わーすてきだなー(尚中身)。
そして農園の牧歌的なアイコンとえっちな服装のギャップに思わずニヤリ。
後ろのウル坊デフォルメもキーホルダーとかにしたい可愛さ…!この初々しい子を一人お買い物に行かせようとしたDJ一〇はやはり鬼畜…そしてそれを盛大なガバさらしても阻止した悦森さんは実は天使だった…?

以上です!
白岩@さま、ゆっくり†らんらんさま、素敵な支援絵をありがとうございました!



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。