雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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報告ィィィィ!

 

 

 

 

 

(…ポジティブ…そう、ポジティブに考えるんだ…)

 

 

 悪夢の原作イベ見物が終わった。

 あたしはウルキオラとヤミーを引き連れながら黒腔(ガルガンタ)を潜り、ヨン様への報告会に臨んでいた。

 

(幾つか切り札を切っちゃったけど、最悪は免れた…と思いたい…)

 

 気を抜けばしょんぼり丸まりそうな背中を後ろ二人に見せまいと凛と保つ。全く、口止めを忘れた自分のせいとはいえ、コイツらももう少し組織の情報は大事にしてほしい。思わず情報統制担当のDJに八つ当たりしたくなる。

 

 

 あの街はずれの林間公園であたしが取ったガバ挽回行動は二つ。

 一に「頑張って悪になろうとしている闇堕ち寸前善人」ロール。

 二に「主人公の好感度」を上げることによるこのBLEACH世界における雛森桃の印象操作だ。

 

 もっとも前者はあたしの悪性が表層的なものだと相手に錯覚させる、いわば遅効毒程度のリカバリー。後者もお守りやゲン担ぎのような気休め。根本的な解決にはならない。

 

 今更何をしようと、あたしが護廷隊の想定以上に昔からどっぷり悪に漬かっていたことが露呈するのは回避不可だ。

 

 

(…でもよく考えれば、別にバレても二度目の「雛森ィィィィ!」回収を果たすときに致命的なダメージになるワケじゃないのよね)

 

 ポジティブシンキングである。

 そもそもあたしの今のメイン目標であるおかわり「雛森ィィィィ!」に限って言えば、今回のガバは然程影響の出るものではない。何故ならシロちゃんさえあたしを愛してくれたらそれで十分だからだ。

 

 あたしはあの子の人生があたしを中心に回るよう、彼が尸魂界へ来る前から仕込んでいたし──この愉悦趣味さえ隠し通せれば──たとえあたしが過去現在未来にどれほど悪行を重ねようと日番谷冬獅郎は雛森桃を見捨てたり恨んだりすることは絶対に出来ない。

 

 重ねて先ほどあたしが行った「頑張って悪になろうとしている闇堕ち寸前善人」ロールは、雛森ちゃんが善人だと信じたい人間にとっては堪らなく甘い猛毒となる。たとえ浦原さんが真意に気付いて注意しても、完全に護廷隊の迷いを晴らすことは無理だろう。

 

 そして空座町決戦でヨン様に斬り捨てられる雛森ちゃんの姿を見てしまえば、もう誰もあたしの毒から逃れることは出来ない。護廷隊も破面軍も大なり小なり動揺し、全てがシロちゃんの「雛森ィィィィ!」を彩るための悦ッセンスとなるのだ。

 

 ふっふっふっ。あまりのガバで一瞬ヤバいかと思ったけど、百五十年に亘り張り巡らせ続けた愉悦の蜘蛛の巣はGよりしぶといのさ。

 BLEACHの物語的視点でも主人公一護くんに「自分にだけ本性っぽい善人の姿を見せてくれたワケあり美少女」ロールをして見せたし、きっとしばらくは"雛森良い人説"が蔓延る世界になってくれると信じよう!(読者目線)

 

 

 …問題なのはあたしの過去バレではなく、卍解バレの方だ。

 

 せっかく空座町決戦で一角リスペクトの唐突卍解で「何……だと…」カウンターOSRを決めるつもりだったのに、貴重な爆発的オサレチャンスが薄れてしまった。

 

 まあでも、元々ヨン様の熱い神童アピと【破道の九十・黒棺】でかなり実力は知られてしまったから、どのみち一角のエドラド戦卍解ほどのOSR値は稼げなかっただろう。双殛の丘での一件と、今回のプチ無双で既にかなりオサレになっているはずだし、あたしの「雛森副隊長があんなに強かったなんて…」COチャンスは瞬間的にではなく段階的にOSR値が溜まっていったのだと割り切るしかない。

 オサレバブルが起きなかったと残念がるべきか、危なげなくポイント回収出来たのだと安堵するべきか…

 

 

 不本意極まりない出来事だったが、こうして何とか楽観的になれたあたし。そして気付かれないよう静かに深呼吸一つで心を入れ替え、残された問題である後ろの"十刃(エスパーダ)"たちに話しかける。

 こちらがまだ未解決だ。

 

「…ヤミー、藍染隊長への報告会には出席できますか?」

 

「お、おう。問題ないっすよ」

 

 少し歩くペースを落として、並んだ彼に尋ねる。原作展開とはいえ斬り落とされた腕が痛ましい。ちゃんと回収してくれたウルキオラを褒めると「ありがとうございます」とシンプルに礼が返ってきた。

 そのまま任務中に突然あたしが乱入した理由についても言い訳しておく。

 

「あとヤミー、あなたが空座町の人たちの魂魄を吸い取りすぎたせいで龍脈の霊子濃度に微細ですが変化が起きてしまいました。あたしが浦原喜助と四楓院夜一と戦い多少霊力をばら撒いたのでとりあえずは大丈夫だと思いますが、今後現世の霊魂を無暗に食べるのは控えてください」

 

「はぁ…あっ、す、すんません…」

 

「…いえ、事前に伝えそびれていたあたしのせいです。詳しくはまだ話せませんが、あの町に住む魂魄は藍染隊長の計画に必要なので、食べるのは人としても控えるようお願いします」

 

 王鍵創造計画は情報統制担当のDJが破面たちに伝えていないためあたしも黙っているが、こう言っておくと何か大事な理由があるのだとウルキオラたちも勝手に解釈してくれるだろう。

 二人とも素直に頷いているので納得してくれたようだ。

 

 実際本誌でヨン様が現世の空座町を決戦の地に選んだのも、そこで大規模な戦闘を起こし王鍵創造に必要な霊子濃度を高めるためだったとかどこかの考察にあった。護廷隊に町の偽物を用意されても一切動じなかったのは、本物が移された尸魂界ならいくらでも霊子を回収できると踏んだからかもしれない。

 あたしがあの場で取った行動は、計画を知る軍団長として決して間違った行動ではないのだ。

 

 あ、忘れないうちに…

 

「藍染隊長への黒崎一護に関する報告は予定通りウルキオラにお願いしてもいいですか? 急ぎだったのでこちらで取れた記録は少ないんです」

 

「畏まりました」

 

 うむ、これであたしの意味深な悲劇のヒロインムーヴが破面たちにバレることはないだろう。

 

 実はウルキオラの【共眼界(ソリタ・ヴィスタ)】は彼の大虚時代の境遇を反映したもので、"自分の目に見えたもの"しか表現できない。つまり音声や霊圧情報は伝えられず、よってあたしの浦原さんや一護との会話や戦闘時の手抜きを悟られることはないのだ。

 ちなみにあたしがウルキオラたちの前に出て一護ら現世組と対峙したのも、部下の身を案じる上司ロールというより、あたしの意味深な表情や仕草を破面二人の視界から隠す意図が大きかったりする。

 

「ではあたしは藍染隊長のお側に控えます。報告はよろしくおねがいしますね。ウルキオラ、ヤミー」

 

『はっ』

 

 虚夜宮(ラスノーチェス)に帰還し、あたしは追加で幾つか注意事項とアドバイスを教えてから一度ウルキオラたちと別れる。

 報告会では恐らくあたしにも一護を殺さなかった批判が飛んでくると思うけど、【共眼界】で得られる視界情報だけではあたしの口八丁に異を唱えるのは難しいはず。公式バカなヤミーと心の機微に疎いウルキオラもあたしを疑っている素振りはない。破面軍におけるあたしのガバの余波は最小限に留められるだろう。

 

 …でもどうせヨン様は全部見抜いて、またあたしをからかってくるんだ。自業自得だし、嘲笑の一つや二つは泣きっ面に蜂でも甘んじて受けますよ…

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「──おかえり。ウルキオラ、ヤミー」

 

 

 虚夜宮(ラスノーチェス)に置かれた三つの玉座。その内の一つで一護の戦力偵察報告会が行われていた。原作通りの岩場をくり貫いたような悪の組織味が凄いアゴラ風の大広間だ。

 

 あたしは偉そうなヨン様シートの左側に侍り、右側の一〇と対になるよう立っている。

 DJは例の虚化会得の準備に忙しいようで不在だ。個人的にちょっと気になるので後で見学に行こう。

 

 さて、立て続けの原作シーン。何かとガバに縁があるあたしはいつもの舐め腐った態度を改め、慎重に様子を見守る。

 あ、もちろん映像記録に残してますよ。

 

 

「さあ、成果を見せておくれ──我ら二十の同胞の前で」

 

 

 いえすいえす! いいですよヨン様、その台詞を言ってくれるとは流石オサレマスターだ。本誌でも凄い衝撃だったからね(なお)

 

「はい。どうぞご覧ください」

 

 そしてクールに目ん玉抉って握り潰すグロキオラさん。パキンと発動した【共眼界(ソリタ・ヴィスタ)】のキラキラパウダーが広間一帯に漂い出す。

 さて、桃ちゃん演技の出来はどうかな?

 

 

 …

 

 …うん、よかった。流石に気を付けただけあって、問題の場面でもウルキオラが見ているのは浦原さんたちと戦うあたしの背中だけだ。途中かなりキョロキョロしているのは彼の探査神経(ペスキス)でもあたしの【白伏】の霊圧隠蔽を見抜けなかったということか。天才雛森ソウルは流石いい仕事をす──

 

(って、ちょ…!?)

 

 鬼道【牙気裂光】行使のため空に飛んだ雛森ちゃんのスカートがふわりと翻り、素晴らしい純白の三角形の一部がウルキオラの目に映っていた。

 待って待ってあたしのパンツめっちゃちらちら見えてる! やめて晒さないでお願いだから! シロちゃんにもまだ見せたことないのに! あと一〇はあたしの顔見て笑うな!

 ちくしょう大恥だ。今後スカートは封印してキュロットにしなきゃ…

 

 

「なるほど、それで彼をこの程度では殺す価値無しと判断したと言う訳か」

 

 そして優しくスルーしてくれるヨン様は隣の蛇野郎と違ってとても紳士。あたしの衣装替えの時もスルーしやがったけどオサレ空気を作るスキルはやはりピカ一だ。

 

 …もっとも性欲も服飾文化も無い破面たちにとってもあたしの痴態は些細なことのようで、原作イベントは順調に進行しつつあった。ついでに記憶も抹消していただけたらありがたい。

 

 

「──温いなァ! こんなヤツら、俺なら最初の一撃で殺してるぜ…!」

 

 

 この男の不遜さをこれほどありがたく感じた日は初めてだ。

 みんなの視線が発言者、"第6十刃"(セスタ・エスパーダ)グリムジョー・ジャガージャックの方へ向く。

 

「理屈がどうだろうが"殺せ"って言葉が命令に入ってんなら殺した方がいいに決まってんだろうが!」

 

「…同感だな。何れにしろ敵だ。殺す価値はなくとも、生かす価値など更にない」

 

「つーかヤミー! てめえはボコボコにやられてんじゃねえか! それで"殺す価値なし"とか言っても"殺せませんでした"にしか聞こえねえよ!」

 

 グリムジョーの従属官(フラシオン)たちも口々にウルキオラとヤミーを批難する。あとディ・ロイくん、あなたそれなりにあたしと一緒にいたのにまたチンピラ臭漂う雑魚キャラに逆戻りしてるのはもう逃れられぬカマセの呪いなんですかね。

 

 まあそんな低OSR値キャラにdisられたらそりゃヤミーも怒るワケで。

 

「てめえ、ディ・ロイ…【共眼界】を見てなかったのかよ。俺がやられたのは下駄の男と黒い女だ」

 

「わかんねえヤツだな。俺ならその二人も一撃で殺すっつってんだよ!」

 

「あァん? てめえ如きが雛森さんの鬼道喰らって生きてる連中相手に勝てるワケねえだろ! 雑魚はすっこんでろカスが!」

 

「何だと! やんのかゴラァ!?」

 

 ディ・ロイくんがよわよわ霊圧で威嚇しようと頑張っている。それを鼻で嗤ってはじき返そうとヤミーが立ち上り、そこでウルキオラが二人を止めた。

 

「グリムジョー。藍染様が警戒されているのは今のコイツではなく、コイツの成長率だ」

 

「…あァ?」

 

 よわよわディ・ロイくんを越えてボスのグリムジョーしか眼中にないウルキオラ。ディ・ロイくん凄く傷付いてそう。

 

「確かにコイツの潜在能力は相当なものだった。だがそれは、その大きさに不釣り合いなほど不安定で…」

 

 そこでチラリとあたしへ目を向けるウルキオラ。え、そこでこっちに振るの?

 

「…このまま放っておけば現世の連中の足を引っ張らせて共倒れを狙える可能性も、こちらの手駒に出来る可能性もあると俺は踏んだ」

 

 彼の視線をなぞり、広間の破面たちが揃ってあたしに注目する。

 

 あ、これはあれですか。一護の【牙錠封印】の桃色の霊圧であたしが彼に何かしていると気付いちゃったパターンですか。

 別に白哉の霊圧も似た桜色だしそんなみんなしてあたしを疑うのはどうかと思います。

 

 まあ犯人はあたしとDJで合ってるけど。

 

 

 

「──黒崎一護は"死神の虚化"の実例です」

 

 

 

 原作シーンの途中だが、ここで何も言わないワケにはいかないので、澄ました顔で情報を開示する。ちゃんと「実験体」ではなく「実例」と言う所が卑しさMAX。

 

「あの人は大虚(メノス)をあなたたち成体破面に進化させるのに参考にした研究対象の一人です。"死神の虚化"は失敗すれば非常に強力な虚となるので、ウルキオラの言う通り、自滅して現世の戦力を勝手に減らしてくれる可能性もあります」

 

『…!』

 

 おお、と感心する声が上がる。だがすまん、そうはならない。

 

「…ですが仮に虚化の制御に成功すれば、強い力を手にして我々に挑んでくるでしょう。藍染様がウルキオラに"脅威たりうるなら殺せ"とおっしゃられたのは、黒崎一護がどちらに転ぶかをウルキオラなら必ず判断出来ると信頼しておられるからです」

 

「ありがとうございます、藍染様」

 

 素直に礼を言うウル君いい子。戸惑いがないのは、たとえ一護がどれほど強くなっても自分なら殺せる。そう己の力に自信があるからだろう。

 そして苛立ち混じりのグリムジョーの懸念を、ウルキオラがオサレに両断する。

 

 

「──その時は、俺が始末するさ」

 

 

 あぁ^~これこれ。これぞBLEACHですよ皆さん。もう織姫ちゃんにペラペラあたしの情報漏らしたこと許せるゾ、ウル坊。

 

 またこのオサレさにはヨン様もご満足いただけたようで、いつもの薄ら笑みでお言葉をくださった。

 

 

「…そうだな。それで構わないよ」

 

 

 ──君の好きにするといい、ウルキオラ。

 

 

 丁寧な一礼を返し感謝の意を示す"第4十刃"(クアトロ・エスパーダ)。やはりウルキオラはヨン様の従者ムーヴをしてこそだ。これからも変わらずオサレな君でいてね!

 

 

「…チッ」

 

 そしてしっかり「ぐぬぬ」なグリムジョーもいい感じだ。

 ウルキオラをライバル視している彼は、とにかくウルキオラの為すこと全てが気に入らない男。同時にあたしもヨン様も嫌っているので、我ら三人が賛成した流れなら確実に反発し、原作通りシロちゃん先遣隊が空座町に来た夜に襲撃事件を起こしてくれるだろう。

 

 もちろんガバは起こさせない。

 ちゃんと決まった日に襲撃出来るように、当日はグリムジョーたちの周囲を自然な感じに人払いしておくつもりだ。ついでに彼らの回収を忙しいDJではなくウルキオラにさせ、あたしが奪ってしまった一護との因縁チャンスを用意すれば多少流れを原作ルートに引き戻せるかもしれない。

 リカバリーも狙える素晴らしい作戦だ。

 

 

 …ホントはあたしが行きたいけど、今シロちゃんに会うとなんかまたガバしそうなので、涙を呑んで我慢しましょう。ぐすん…

 

 

 

 

 

 こうしてヨン様のニヤニヤ笑顔に見守られながら、着々と破面篇は進んでいく──

 

 

 

 

 

 

 

 




 

ヨ「桃、次の演目には参加しないのかな?」(ニヤニヤ

桃「ぐぬぬ…///」


本編ではガバ森ですが挿絵は素敵な演技森さん。
という訳でまた支援絵を頂いてしまいました!

HIyOgIさまの雛森ちゃんです!
https://img.syosetu.org/img/user/95307/67907.jpg

ふんわり不安定な笑顔が狂気と葛藤を一護たち&本誌読者に伝える力作!これは悦森さんの名演技、浦原さんも混乱していることでしょうねえ!?(ガバ)
原作雛森ちゃんより色が濃くて悪女っぽい桃色の霊力もイメージピッタリです。指の表情もえっち味を感じてベネ!

HIyOgIさま、支援絵大変ありがとうございました!


そして次回はDJの虚化の話&ディ・ロイ死す!


 
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