雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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襲撃ィィィィ!

 

 

 

 

「──今一度こうして麗しき軍団長閣下の指揮を仰げますこと、心より光栄に思います」

 

 

 チャン一報告会と雛森桃(悦)☆6実装から一夜明けた九月五日。

 グリムジョーの暴走を見据えて、あたしは先日の凱旋式より"第8十刃"(オクターバ・エスパーダ)となったマッド科学者ザエルアポロに協力を要請した。半世紀近く重用しまくってる彼の報告はあたしの執務机ではなく、VIP席の窓際のソファーで受け取る事が多い。

 

「またあなたを"十刃"に迎えることが出来て嬉しいです。審査の際に見せて頂いた帰刃(レスレクシオン)の新たな奥義も、その、えと…し、神秘的でした…」

 

「ああ、これは失礼。女性には些か刺激が強過ぎるもので、僕としたことが配慮が足らず申し訳ございません」

 

「い、いえっ…悲願の成就おめでとうございます!」

 

 言うんじゃなかった、というか思い出すんじゃなかった。

 思わず太ももを固く閉じたあたしを見て、優越感といやらしさを滲ませた顔で謝罪をしてくる胎内回帰趣味(ヘンタイ)

 いつもの甘いマスクの口角を吊り上げる鬼畜をこほんっと咳で注意し、本題に移る。

 

 受胎告知(ガブリエール)はさておき。本人自身は極めて有能な科学者であるザエルアポロには、昨夜から自前の監視網でグリムジョーたちの動向に注意してもらっていた。

 全ては大事な原作イベントをガバなく乗り越えるための準備である。

 

「…やはり"第6十刃(セスタ・エスパーダ)"一派に不穏な動きが見られます」

 

「予想通りね。監視報告ありがとうございます」

 

 感謝の気持ちにあの高級紅茶を彼に振舞いながら、今後について詳しく決めていく。

 

「いかがいたしましょう。随分と黒崎一護が…いえ、ウルキオラの選択が気に入らない様子でしたが、あれでは暴発も時間の問題かと」

 

「はい。黒崎一護の虚化問題を深化させたいので少ししたら現世へ行ってもらうつもりです」

 

「…ほう、それはそれは」

 

 ドロリと営業スマイルを崩して邪悪な本性を覗かせるザエルアポロ。まあ長い付き合いだからね、ワザとグリムジョーを暴発させたいこちらの意図は察してくれたでしょう。

 

「あの獣をこうも容易く使い熟すとは、流石は藍染様の随一の臣。感服いたしました」

 

「もう、人聞きが悪いですよ。グリムジョーさんは自分の好きに行動出来る。あたしはそれを応援しつつ藍染隊長のお望みを叶える。みんなが幸せになれる唯一の方法だと思いませんか?」

 

「これは失敬。全く以ておっしゃる通りです」

 

 含み笑いで同僚を嘲るこの男も大概な愉悦部だ。グリムジョーのような感情的な戦闘狂を心底見下してる彼ならば、きっと楽しんで任務に当たってくれるだろう。

 

 

 そんなグリムジョーの誘導計画立案も一段落。続いてザエルアポロの直近の研究に関する報告を聞いていると、とある原作アイテムについての話題が出た。

 

「…ではそちらはもう試験の最終段階に?」

 

「はい、上位"十刃(エスパーダ)"クラスの霊圧を持つ魂魄でも半日ほどなら拘束することが可能です。それ以下は無論、半永久的に」

 

「わぁ、流石ですねっ」

 

 ザエルアポロが語る新たな道具とは例の閉次元幽閉アイテム【反膜の匪(カハ・ネガシオン)】のことである。これは本来もっと早く完成していたのだが、飛梅ちゃんのハッスルのせいですっかりお行儀がよくなった破面たちを処罰する理由がなくなり後回しにしていたのだ。

 もっともただ凍結していたワケじゃなく、幾つか原作にはない機能を付けさせている。

 

「遠隔発動装置と次元門の研究はどうです? 軍団長権限で幽閉と解放を管理できたら治安維持の東仙統括官との連携が取りやすくて便利かなと」

 

「どちらも既に完成しております。ただ残念ながら未だ実戦での使用機会に恵まれず…」

 

 表情声色は残念そうだけど彼の目に不安はない。まあ作中最高峰の天才だし、相応のプライドを持つ彼がパトロン組のあたしに見せるほどのモノなら当然完成度は高いだろう。

 

「他でもないあなたの発明です。近々どこかで最終試験を行った後、採用させてください」

 

「よろこんで」

 

 うん、こんなところか。あとは目ぼしい原作イベントの中からいい具合にコレを使ってもよさそうなものをピックアップすれば本採用だ。

 

(…何かなかったかな、近々起こる戦闘イベ)

 

 少し思案したあたしはすぐに一つ思い出す。それは奇しくもザエルアポロが最初から介入を目論んでいたことのようだった。

 

 

「ところで閣下、最終試験について僕から一つご提案があるのですが」

 

「あら奇遇ですね。あたしもです──」

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 "第6十刃(セスタ・エスパーダ)"グリムジョー・ジャガージャックとその従属官は、かつて共に六体で最上級大虚(ヴァストローデ)を目指した中級大虚(アジューカス)の一党だった。

 されど長い旅の果てにその道は途絶え、成長限界にぶつかった彼らは唯一進化の可能性が残っていた"王"たる青豹大虚・グリムジョーに思いを託し、糧としてその魂魄を差し出した。

 

 従属官の一人、ディ・ロイ・リンカーは一党の中で最初に進化の道が閉ざされた大虚である。

 

 理由は蛮勇、短慮、自業自得。

 その昔、一党がグリムジョーを"王"とする群れを結成する前。愚かにも彼に挑み体の一部を喰われてから、ディ・ロイは敗者の烙印を刻まれ大虚としての未来を失った。

 

 以後進歩を続ける同胞たちとの差が開く度、彼の居丈高な振舞いは度を増していく。

 風の噂を頼りに辿り着いた虚夜宮(ラスノーチェス)で、藍染惣右介から進化の道を与えられてからも。気に食わない女上司に挑み、一党六人揃って治療室の培養液の中で目覚めたときも。

 己の弱さを隠すような不遜な態度は、まるで剥き出しの本能を隠す(ホロウ)の仮面そのもので、そんな皮肉な自分がディ・ロイは心底憎たらしかった。

 

 だがある日突然、燻っていた彼に転機が訪れる。

 

 

 ──あなたに特命があります。

 

 

 ニコリとそう口にした者の名は雛森桃。以前グリムジョーと共に挑んで地獄を見た、彼らの直属の上司、軍団長(ヘネラーリャ)だった。

 

『あの弱そうな小娘が藍染様に代わる俺たちの指揮官だと?』

 

『情婦がご主人様の力を笠に着てんだろ、ふざけやがって』

 

 強いクセに相手の力に関係なく敬語でヘラヘラ接する女。舐められたら終わりの弱肉強食の世界で一切の爪を隠すその在り方は、されどその正体が明らかになるにつれ、眠れる獅子の如き畏怖となっていく。その変化の過程はディ・ロイにとって未知に等しい驚天動地だった。

 

 

 そんな彼女から与えられた任務は、現世のとある町──空座町の監視。

 それも同じように謎抜擢された門番のアイスリンガーと共に、数匹の人間や虚の行動を逐一報告すると言う面倒なもの。

 

 ──何故そう生き急ぐのだ、ディ・ロイ…!

 

 近しい実力の同胞とぶつかり合う、初めての経験。

 

 ──わぁっ、遂に見つけたんですかディ・ロイさん!

 

 圧倒的強者に己の努力を認めて貰える、初めての体験。

 

 その初めてばかりの面倒な仕事が、常に虚勢を張り続けていた彼の劣等感を解きほぐす一助となる。そんなこと当時の彼は想像もしなかっただろう。

 報酬の再破面化でようやく人型となりグリムジョーの従属官に戻ったあとも、ディ・ロイはあのぬるま湯のような日々のことが忘れられなかった。

 

 

 だからだろうか。

 

 心機一転した己の新たな価値をグリムジョーたちに認めさせたくて、あの軍団長でさえ殺し損ねた敵のいる死地へ赴く彼らに「連れてけ」とせがんでしまったのは…

 

 

 

 

「──こんばんは、ディ・ロイさん」

 

 

 ビクリと肩が跳ねる。

 グリムジョーの極秘作戦に参加すべく人目を忍んで虚夜宮(ラスノーチェス)を単独移動していたディ・ロイは、恐る恐る後ろを振り向いた。

 

 不味い。選りにも選って最も見つかってはならない相手に見つかった。ザエルアポロがくれた解空(デスコレール)の反応を消す道具を使う直前に遭遇するなど不運が過ぎる。

 

「め、珍しいっすね。軍団長サマがワザワザ見廻りなんてするもんじゃねえぞ?」

 

「ふふ、そうでもないですよ? こうしてこっそり忘れ物を届けるには丁度いい言い訳だもの」

 

 軍団長・雛森桃がいつもの小娘らしい呑気な笑顔で縦長の箱を差し出してくる。訝しげに受け取り中を検めたディ・ロイは、そこで思わず固まった。

 

「試作の【反膜の匪】です。本当は(・・・)ダメ(・・)なんですけど、大筋の流れに影響が出ない範囲という括りなら、と自分を納得させられたので、あなたたちに渡しておきます」

 

 女死神の言葉は耳に入らない。彼はただ箱の中に入っていた黒い物体の、その数に目を奪われていた。

 

 六つ。

 

 それは彼と、グリムジョー、ナキーム、イールフォルト、エドラド、シャウロンの──これから現世に襲撃にいく破面の総数と同じだった。

 

「出来れば手遅れになる前に配ってください。受け取って貰えなければ、あたしも潔く諦めます」

 

「あ、あんた…全部知って…」

 

「止めてもあなたたちの不満が溜まるだけですもの。今回はディ・ロイさんのこれまでの働きに免じて目をつぶります」

 

 ニッコリと微笑む雛森桃。相手の心が読めると噂されるほど聡い彼女の前では、"第6十刃"のグリムジョーすらも踊らされるだけの弱者なのかもしれない。

 自らの上司の底知れなさに畏怖しながら、男は観念の溜息を吐く。

 

「…わァったよ。あんたの肝煎りだっつって渡しとく…っす」

 

「はいっ、よろしくお願いしますね」

 

 

 ──帰ったら東仙隊長の怖ーいおしおきが待ってますから。

 

 

 その忠告であの過激な秩序厨野郎の忌々しい顔を想起したディ・ロイは、思わず現世襲撃をバックレようかと一瞬真剣に悩んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 ディ・ロイに【反膜の匪・改】を仲間の人数分渡した後。あたしは早速実戦試験の様子の観察…もといシロちゃん観察のために、ザエルアポロの研究室へお邪魔していた。

 

「…様子はどうです?」

 

「理想的な状況ですね。ディ・ロイが軍団長閣下と東仙統括官殿のお名前を出して説得したからでしょうか。新たにエドラド、ナキーム、シャウロンの計四体の破面で実験出来ます」

 

 無数の監視画面に六人の破面が映っている。どうやらグリムジョーとイールフォルトは【反膜の匪・改】を受け取ってくれなかったようだが、まあ問題ないだろう。グリムジョーは別に持たなくても大丈夫だし、イールフォルトは弟のザエルアポロが生殺与奪を好きなように出来るからね。

 

 さて。試験は問題なさそうなので、あたしは逸る気持ちを隠しながら、お目当ての護廷十三隊の援軍・日番谷先遣隊の面々が映る画面へ目を向ける。

 

(…あ、シロちゃんだ!)

 

 一瞬で澄まし顔が崩れてしまったが、あれから二週間も経っているのだから許して欲しい。貴重なシロニウム回収チャンスなので彼の雄姿をガン見する。

 もちろん配った【反膜の匪】には特別に盗聴機能を付属しているので声もばっちりだ。シロちゃんと戦うシャウロンのものを聞き取る。

 

 

『隊長とは素晴らしい。ならば私はアタリと言う訳だ』

 

『いいや。多分てめえが…一番ハズレだぜ!』

 

 

 はあああああああんカッコいい! カッコいいよシロちゃん!

 でもこんなオサレ台詞使っておいて限定霊印時はただの従属官にボコボコにされちゃうんだから可愛さまで完備してる! もう無敵じゃん! 可愛いは正義! 

 

 あぁ、あたしも行きたかったよおおおぉぉぉ──

 

 

 だが葛藤している間も肝心のシャウロン戦は進んでいく。数値化された霊圧量が過去のデータと比較出来てとてもわかりやすい。

 

「これは…!」

 

 そこであたしは驚きに頬が緩む。なんとシロちゃんの霊圧が上がっているのだ。

 

 

『ッ、流石は隊長格…子供とはいえその名を背負うだけのことはある…!』

 

『まだだぜ…! 行け【竜霰架(りゅうせんか)】!』

 

 

 おおっ! 限定霊印下でもシャウロン相手に戦いになってるよ! 原作だと完全に遊ばれてたのに!

 これは「雛森ィィィィ!」のおかげですね、間違いない。一度巨大な挫折を経験したり、失ったものを取り返す希望を手にした者が凄く強くなるのはファンタジーの定番なのだ!

 

 やはりあたしの見立て通り、シロちゃんは曇らせてこそ真の輝きを発揮する男の子だったんだね…(感無量)

 

「──軍団長閣下」

 

「待って今いいとこ…!」

 

「ディ・ロイが死にますが」

 

「え、もう?」

 

 後ろ髪引かれる思いでそちらの画面を見ると、ルキアが一護といちゃいちゃしながら【袖白雪】でディ・ロイを凍らせようとしていた。今気づいたけどちゃんと来てたんだルキアちゃん。恋次と更木隊の二人に乱菊さんもいる…って、いやそれより急がないとディ・ロイが死ぬゥ!

 

「あっあっ──て、【天挺空羅】!」

 

 急いで伝達鬼道を詠唱しブゥォン…と【反膜の匪】の遠隔操作装置を無事捕捉する。

 あとはタイミングだ。早すぎたらルキアの名場面が中断され、遅すぎたら死んだディ・ロイの魂魄が完全に霊子に戻ってしまう。

 慎重に…

 

 

『──残念だったなァ! 地面を凍らせるその剣は俺の空中戦には対応出来ねえ! ヒャハハハ!』

 

 

 うわダサ。あまりのチンピラ臭に二人で溜息を吐いてしまう。

 

「チッ、破面の恥さらしが…」

 

「げ、現世の監視任務は頑張ってくれましたよ…?」

 

 一応ディ・ロイをフォローするあたし。しかし色々と彼らを支援していたザエルアポロ的には怒りさえ覚える迂闊さと醜さなのだろう。まあ気持ちはわかる。

 そして…来ました、ルキアちゃんの名台詞!

 

 

『残念だったな。【袖白雪】は地面を凍らせる剣ではない』

 

『な、何だと…ぐあああァァァッ!』

 

『この円にかかる天地の全てが──

 

 

袖白雪(そでのしらゆき)】の氷結領域だ!』

 

 

 うおおっ! 準主人公さんの貴重な無双シーンが実現! そして去らばだ我が部下ディ・ロイィィッ!

 あたしは原作通りチンピラがルキアに瞬殺される瞬間をこの目に刻み込み…

 

 さあ、今だ!

 

 

 

 

<──起動>

 

 

 

 

 その瞬間。画面の中で砕け散ったディ・ロイの死体の周囲に、あの黒い帯のような霊圧が展開した。

 

 

『何だ…あれは…?』

 

 

 ルキアと一護の困惑の声をBGMに、ザエルアポロが別の画面を確認している。気になるあたしも一緒に覗き込むと、そこには無数の数字が目まぐるしく変化していた。規則性皆無でさっぱりわからない。

 

「ど、どうですか…?」

 

「イレギュラーはありませんね。この僕の発明なので当然ですが」

 

 澄ました顔で結果を教えてくれるザエルアポロ。その言葉を反芻して息を呑んだあたしへ、念押しのような事実を勝気な微笑の天才破面が口にした。

 

 

 

 

 

 ──ディ・ロイ・リンカーの霊体因子を回収しました。

 

 

 

 

 

 

 

 




 

桃「次のディ・ロイ(IR)はうまくやってくれるでしょう」

ヨ「ところで私の今のクリアランスはどれかな、UV様?」(ニヤニヤ)

桃「ほ、崩玉融合前なので名前の通りIndigoでお願いします…」(低姿勢)


支援絵を頂きました!絶叫桃ちゃんのお方です!

farさまのはんぺん王子
https://img.syosetu.org/img/user/15981/68029.png

迫り来るヨン様の迫真フェイス!再現度MAXの眼つきがあの原作シーンを想起させて大草原。ホントこのビジュアルとあの鎖で手足引っ張られてフィギュアスケートしてるみたいなポーズのせいで一気にOSR値が最底辺に下落したヨン様、おちゃめ
そしてこれの桃ちゃんバージョンを想像すると…あれ、意外とかわいいかもしれない(洗脳済み)
あと謎の手のかわいい牛さん手袋について…元ネタがわからなくて申し訳ないです…!

far様、支援絵大変ありがとうございました!



そして次回は久々のシロちゃん視点でシャウロン戦です
お楽しみに!

 
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