雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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いつもコメント評価マイリス&誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は現世侵攻と言う名のウル織準備回。
説明多めなのは許してくれ…

 


滅火ィィィィ!

 

 

 

 

 

 時は二十年前に遡る。

 

 かつて純血滅却師(エヒト・クインシー)の黒崎真咲こと一護マッマに虚を寄生させる【ホワイト計画】において、あたしは幾つか原作進行の布石を打った。その一つが、尸魂界離反後の最大の敵となる山本総隊長の【流刃若火(りゅうじんじゃっか)】対策に用いるデータ収集だ。

 

 布石より実験と言った方がいいかもしれないが、この時に集めたデータは志波一心こと一護パッパが持つ炎熱系斬魄刀【剡月(えんげつ)】の卍解に関するものだけではなく、彼と戦った改造最上級大虚(ヴァストローデ)ホワイト自身の戦闘情報も含まれている。

 あたしがあのとき危険を冒してまで浦原さんに姿を見せたのはパッパの義骸に霊子接続装置を埋め込む以外にも、寄生したホワイトからこの戦闘情報を記録した霊子媒体を回収するためでもあった。

 

 そして一護パッパの卍解情報とホワイトの戦闘および研究データを集めた理由は、当然、あの原作キャラを作る(・・)ためだ。

 

 

 

「──"改造破面"…ですか?」

 

 そして時は戻り原作時間軸。ヨン様とDJ、そしてザエルアポロという虚圏(ウェコムンド)全頭脳がラボに集結していた。

 ちなみにあたしも強制参加である。

 

「そうだ。浦原喜助の崩玉と大虚(メノス)破面(アランカル)化に関するデータが揃った今、ようやく流刃若火を封じる改造破面の作成に取り掛かれる」

 

 

 ──君たちはその素体となる最上級大虚(ヴァストローデ)を用意してくれたまえ。

 

 

 そんなヨン様の命令が下り、早速準備に取り掛かる天才たち…とおまけのあたし。

 

 最上級大虚(ヴァストローデ)作成はホワイトくんの成功例があり、斬魄刀の能力封じは【ホワイト実験】の前段階【テンタクルス実験】で成功している。この二つの応用で炎熱系斬魄刀の能力を封じる強大な潜在能力を秘めた個体を作り出し、その潜在能力に崩玉の力で"炎の封蓄"という指向性を持たせて破面化すれば、あの対流刃若火破面──ワンダーワイス・マルジェラが完成するはずだ。

 

「ベースはホワイト同様に死神の魂魄だ。ただし今回は例の数名を除き、総隊長と同じ炎熱系斬魄刀の保有者のみを素体にする」

 

「極めて都合の良いことに"炎の封蓄"に必須の空間系の斬魄刀保有者が牢に幾人かいますからね?」

 

「ああ。全くとんだ偶然もあったものだな、雛森?」

 

「…イヤーホントデスネー」

 

 DJとザエルアポロの意味深な視線から逃げながら、あたしはアーロニーロの【喰虚(グロトネリア)】の霊性データをロカえもんの【反膜の糸】で再現する。これは融合した魂魄の能力全てを十全に発揮させることを期待したもので、炎熱系や空間系の斬魄刀保有者の護廷隊席官たちに加え、テンタクルスくんのクローンも加えている。

 

 

 こうして完成した改造最上級大虚(ヴァストローデ)を連れて、崩玉の調整を終えたヨン様の元へ行く。周囲の霊子からヘンな影響を受けないよう殺気石膏でぐるぐる巻きにし、ついでにオサレな逆三角錐のガラスカプセルに入れたら準備は終わり。

 

「実に良い出来だ。流石だね」

 

『はっ』

 

 ヨン様にお褒めの言葉を頂き、見学者が揃ったら破面化の開始だ。

 ちなみに原作再現のため"十刃(エスパーダ)"たちに集結を命じたら普通に十名全員来てしまった。あれだね、本誌でゾマリとかは映ってなかったけどみんなコマ外にいただけなんだね!(目逸らし)

 

 

 集まった破面たちの前でヨン様がお得意のオサレ解説をしてくれる。

 みんなもありがたく拝聴しなさいよ。OPBに必須な能力解説や挑発に使える言葉選びの貴重なお手本なんだから。

 

「…崩玉の覚醒状態は五割。予定通りだよ──尸魂界にとってはね」

 

 この自然な大物感を感じさせる言い回しとバリトンイケボはいつ聞いても耳が幸せになれる。あたしの可愛い雛森ボイスでは難しいけど、台詞以外でも声の抑揚とかいつも参考にしてます。

 

「崩玉を直接手にした者でなければわかるはずもない。そしておそらく、崩玉を開発してすぐに封印し、そのまま一度として封を解かなかった浦原喜助すらも知るまい。封印から解かれて睡眠状態にある崩玉は、隊長格に倍する霊圧を持つ者と一時的に融合することで…ほんの一瞬、完全覚醒と同等の能力を発揮するということをね」

 

 多くの鰤ファンのヨン様パワーの指標となっているあの有名な「隊長格に倍する霊圧」台詞だ。なおこの世界ではあたしのガバのせいで倍から更に上がっているのはご愛敬。

 崩玉が霊圧を高め始めたので、あたしはしっかりヨン様の隣にくっつき改造破面の様子を見守る。おう崩玉、あたしの望みも叶えるんだよあくしろよ。

 

 崩玉がうねうね触手を伸ばしてヨン様と融合し、DJの虚化と同じような強い光が瞬いた直後。改造大虚から霊圧の爆発が起き、一人の金髪の男破面が姿を現した。

 

 

「…名を聞かせてくれるかい? 新たなる同胞よ」

 

 

 おお、凄い。周囲の心を反映する崩玉の意志にお願いしたからか、ちゃんとあたしが望んだ原作通りの姿になっている。

 

 そして静かに顔を上げたアホっぽい出っ歯の青年が、たどたどしく、彼の持つべきその名を口にした。

 

 

 

 

 

 ──ワンダーワイス・マルジェラ。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 さて。ワンダーワイスが破面化したら早速次の原作イベント、もとい第三次現世侵攻の準備に取り掛かろう。

 

 メンバーは新"第6十刃"のルピと、最古参の一人のヤミー、片腕で"十刃落ち"になったグリムジョー、最後にワンダーワイスの計四人。

 この侵攻作戦は毎度のことながら複数の意図があり、その一つがワンダーワイスのスペック確認だ。

 

 桃ちゃんプロデュースの【ホワイト計画】で培った技術を中心に作った改造破面だが、実際にあれが原作と同じ方法だったのかは最早誰にもわからない。その差異を知るためにも今回の侵攻作戦はかなり大事だ。

 最も大事な"炎を体内に溜め込む"能力は崩玉が叶えたので、残るは個体としての最低限の戦闘力。流石に山爺を直接倒せる力はないし、霊圧も破面化前はホワイトくんほどじゃなかったから、まあ誤差の範疇だろう。

 

 …前座の真白ちゃんと元祖69が死んだら困るので山爺以外には本気を出さないようヨン様に【鏡花水月】をかけて貰おうかな。

 

 

「──ウルキオラ、入ります」

 

「どうぞ」

 

 そしてもう一つの作戦目的が、これからウル君が携わるヒロイン井上織姫の勧誘だ。

 勿論原作通り、彼女は更木剣八や卯ノ花烈などの化物隊長をここ虚圏(ウェコムンド)に誘い込んで幽閉するための囮である。

 

 もっともこの世界のヨン様は剣八も卯ノ花さんも本誌の彼ほど脅威に思っていないようなので、作戦の主導権はある程度あたしが握っている。ザエルアポロのラボを移転させたりと、原作展開を進行させつつ千年血戦篇を見据えた戦力保持計画に絶賛利用中です。

 

 そういうワケで、これから我々はBLEACH名シーン再現の要石となる織姫ちゃんを拉致らなければならないのだが、これはウル織ファンなら絶対に外せない。ただでさえウル織は供給不足気味なのだから頑張らないと。

 

「ウルキオラ、あなたに井上織姫の勧誘任務を命じます。黒崎一護ら現世勢力に"攻撃に対する防衛"を除き、一切の手を出さないことを条件に味方に引き入れるのです」

 

「畏まりました、軍団長」

 

 全くウルキオラめ。せっかくあたしが前回のグリムジョー回収の際に織姫ちゃんの近くへ行けるよう取り計らったのに、声も交わさずに帰ってくるなんて。

 まあ、それでも彼の【共眼界(ソリタ・ヴィスタ)】にはシロちゃんの近くにいた彼女と一瞬チラッと目が合うシーンが映っていたので、原作よりは二人に縁がある感じに仕上がっている。ウル坊の本心はわからないけど、少なくともあたしが「織姫ちゃん面白いよ!」と何度か伝えたおかげで興味は持ってくれてるようだ。

 

「彼女の勧誘の際、この腕輪を渡して一晩の猶予を与えてください」

 

「これは…」

 

「ザエルアポロさんが開発した最新の隠密装備です。これで井上織姫に"知人の一人へ秘密裏に別れを告げる"ことを許し、その後彼女を回収して藍染隊長への謁見を行います」

 

 ウルキオラが暫しの思考の末、あたしの意図を理解したのか静かに頭を下げる。何だか愉悦趣味的だけど原作ヨン様も彼に教えてたからセーフ…だと思う。まだ織姫ちゃんの純粋な心を受け入れることは出来るはずだ。

 

 あたしは一ルキ派だけど、別に最後はオサレ師匠が決めた一織ENDで構わない。ただあの一ルキやウル織の尊みを本誌より多めに摂取したいだけなのです。

 だから頑張って織姫ちゃんとイチャイチャしてくれ。

 

「いいですねウルキオラ。井上さんはあたしたち魂魄と違ってか弱い人間の女の子なんですっ」

 

「…はい」

 

「彼女の力は我々にとってとても重要です。ですが人間と言うだけで破面たちに様々なやっかみを受けるかもしれません。なので"十刃"で最も理性的な一人であるあなたに井上さんの身辺警護と身の回りのお世話をお願いしたいのです」

 

「畏まりました」

 

「特に心身面のケアは大事ですからね? 辛く当たったり…は少しだけにして、時々体調や気持ちを気遣う言葉を送って優しくするのがいいでしょう」

 

「お任せください」

 

 わお、この見事な"俺やらされてます"感。

 即答だけど、普段の君を見てあたしは一体何をどう安心すればいいのかさっぱりだ。

 

 …と言うかよく考えたらウル織はそんな和気藹々とした空気じゃなくて、もっと殺伐とした看守と捕虜的な関係から織姫ちゃんの健気さと気丈さにウルキオラが興味と苛立ちを覚えて始まった複雑なカップリングだったはずだ。互いの信念の違いで衝突しながらも、そこに仄かに惹かれ会う男女の姿を幻視した読者がトゥンク…するのであり、普通の恋人未満な距離感の二人を見て楽しむのはなんか違う気がする。

 

 うーむ、やっぱり何も言わずに二人の時間を増やすのがベストかな。ひとまずウルキオラにさっきのアドバイスはあたしの勘違いだから忘れろと命じ、代わりに重要ワードを口にする。

 

「ウルキオラ。以前あたしが井上さんについてお話したときのことを覚えていますか?」

 

「…はい。軍団長が、ヤツは俺の"心の水先案内人"…だと」

 

 ああ、それは覚えてたのか。無表情なりに意外と織姫ちゃんと接することを楽しみにしてるのかな?

 

 ならば余計な言葉は不要だろう。最後に一言だけウル坊の背中を押して、後は部下の自主性にお任せします。

 

「余計な知恵は必要ありません。あなたの好きになさい、ウルキオラ」

 

 

 ──彼女ならきっと、あなたの()に新たな世界を映してくれるでしょう。

 

 

 ニッコリと微笑むあたしに、ウルキオラは少し悩むような無表情で一礼した。

 

 そうだウルくん、女の子は男の子が真剣に苦悩する姿に「力になりたい」ってキュンとくる生き物なのだ。だからあなたの葛藤もウル織世界には必要不可欠なのよ。頑張ってね。

 

 

 

「──ああ、そうそう」

 

「…?」

 

「井上さんに与える一晩の猶予の時には、彼女の能力の起点、六花のヘアピンは取り上げてください」

 

 

 

 …許せ一護。本誌通りに織姫誘拐から彼女の【双天帰盾】で僅か一日で復活して虚夜宮(ラスノーチェス)へ突入されてはウル織の熟成期間が少なすぎるのだ。

 

 二人の時間を作るために、あなたには原作より長めに寝ててもらおう!(ぐう畜)

 

 

 

 

 

 




 

次回も続けて準備回。桃ちゃん崩玉についての伏線です

 

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