雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
グリムジョーの独断現世侵攻から早一月が経った十月。あたしは尸魂界に残してある隠密
ヒロインの織姫ちゃんが心置きなく現世を離れたということは、チャン一も無事
これでこちらも第二次「雛森ィィィィ!」計画の準備に集中できる。
あたしが目指す最高のものは、原作雛森ちゃんのように鏡花水月下のシロちゃんに後ろからぶっ刺されて、これまでの裏切りを謝罪しながら「大好きだよ…っ」と言い残して彼の腕の中で死ぬ(or仮死状態)パターンだ。もちろん肝心のシロちゃんの曇り顔を見逃さないように、魄脈停止状態で十五分くらい意識を維持する回道技術は習得済み。
だが折角のクライマックスを最大限堪能するにはそれだけでは足りない。回道に注意を割かれては本末転倒である。
そこであたしは自室の寝室に閉じ籠り、協力者と密会することにした。相手は最近倦怠期のマイヒロインにして魂の相棒──飛梅ちゃんだ。
「というワケで、有事の際にはあたしの代わりにあなたに鬼道を使ってもらいたいの。斬魄刀は死神の半身だし、ダメかな…?」
『…鬼道系斬魄刀とは別に斬魄刀が鬼道に堪能だと言う意味ではないのですが』
久しぶりの具象化だからかご聖体さまが不機嫌でおられる。先日のDJ一〇あたしの乱戦では卍解大盤振る舞いで大喜びしてたので、多分拗ねてるフリだけだろう。カワイイやつめ。
と言っても別に卍解会得以後ずっと具象化していなかったのではない。生涯のパートナーなのでしっかりとあたしの趣味嗜好を理解してもらおうと色々洗脳…げふんげふん、布教を行うときにこうして呼び出しているのだ。未だ道半ばだが、あたしの半身なだけあって筋はいいと思う。既にその兆候は見えてるしね…
「あたしの斬魄刀なんだから飛梅も鬼道の才能があるはずだわ。目指せ二人で二重黒棺! もしくはあたしが戦いながらあなたが回道で癒すツーマンセル!」
『そんなことが可能なら既に鬼道衆が研究されているはずでは? 斬魄刀の本体を用いた並列思考なんて、如何にもあの者たちが考え付きそうなことではありませんか』
「鬼道衆は始解が使える人少なかったわよ? 多分鬼道ばっかり使うから斬魄刀が拗ねちゃってるのね」
『…その気持ちをご理解してくださるのならもう少し私を使ってくれませんか? 双殛の丘であの生意気な氷蜥蜴を下すときもお気に入りの【黒棺】で済ませるなんて、全く…!』
飛梅ちゃんがぷいと拗ねながら「ヤツに目にモノ見せてやりたかったわ」とボヤいている。その話は来たるべき護廷十三隊とのOPB決戦のために温存するとご納得いただけたはずなのだが…多分シロちゃんの慟哭姿を見てウズッと来ちゃったんだろう。気持ちはわかる。
あたしは飛梅ちゃんに愉悦部に加入してもらうため、暇なときに彼女に秘蔵の「シロちゃん成長記」をよく見せていた。もちろん最初はあたしがシロちゃんをからかったり茶化したりしているライトないじりシーンからスタート。そこから少しずつ、人が誰でも持つ"いたずら心"を洗練させ、最終的にはあたしと同じ"愉悦心"へと堕としていく計画だった。
ところが飛梅ちゃんが目覚めたのは確かに愉悦心ではあったものの、その矛先がシロちゃんではなく彼の斬魄刀【氷輪丸】に向いてしまった。氷雪系最強と豪語する彼(?)の話はシロちゃんから聞いており、そんなイキり斬魄刀を鼻で嗤いながら「いつか"わからせて"あげます」とステキなドS笑顔を浮かべるような子になっちゃったのだ。
やったぜ。
『うふふ、前回の隊長格公式模擬戦での勝利があの少年の顔を立てる私たちの慈悲だったと知った時…ヤツは一体どんな顔を見せてくれるのかしら』
「わー悪い顔」
衣類の袖で口元を隠すニチャ梅ちゃんは順調に育っているようだ。アニ鰤でも毒舌で中々エグい性格してたし、何よりこのあたしの魂の半身なのだからいずれ主人すら超える愉悦部員になってくれるでしょう。
「でもあたしはあなたと一緒にシロちゃんの曇り顔を観賞して盛り上がりたかったなぁ。竜の表情とかよくわからないし…」
『確かに宣戦布告の時に貴方の幼馴染が己の非力、即ち己の斬魄刀の非力を恨む姿はとても滑稽で愉しめました。今度はこの私が直々にそれを引き出してあげます、いいですね?』
「わ、わかってるってば」
何度もあたしに念押ししてくる飛梅ちゃん。あの離反時に卍解どころか本気の始解披露も出来なかったことを余程根に持っている様子。安心したまえ、全ては空座町決戦で初卍解ボーナスを獲得するためのオサレ伏線なのだよ。
「とにかく決戦までまだ少しだけ時間があるし、簡単な鬼道にチャレンジしてみましょう。もしかしたらあなたの更なる力になるかもしれないし…多分【氷輪丸】は出来ないと思うからあの斬魄刀の度肝を抜けるわよ」
『! そ、そう言うことなら早く言ってくださいっ。早速始解して精神世界へお越しください、直ちに修行を始めましょう!』
「…相変わらずチョロくて心配だわ」
本体を現実に呼び出すのと同じ意味を持つらしい卍解とは異なり、始解時の精神世界は斬魄刀の世界であるため時間は無限だ。あたしの魂はそのままだけど、飛梅ちゃんを鍛えるにはこれ以上の環境はない。
やる気も出してくれたようだし、見込みがあればすぐにでも本腰を入れて特訓しよう。
まあ飛梅ちゃんの愉悦対象である【大紅蓮氷輪丸】は完成したらちゃんと全斬魄刀中最強クラスになるから、彼女の愉悦の火種を守るためにもあたしはもっと強くなる必要がある。
二人で末永くシロちゃん氷輪丸コンビ相手に愉しめるように、飛梅ちゃんの修行の後は、死神としての限界に達してしまったあたしの魂魄を☆6に覚醒させましょう。
そろそろヨン様に進捗を聞きに行こうかな…
***
「──あ、そっか。寝室で飛梅と今後の愉悦イベントについて相談してたんだっけ」
気が遠くなるような精神世界での飛梅ちゃんの鬼道修行を終えたあたしは、最早懐かしさすら感じる自室のベッドから体を起こし「うーん」と伸びをする。やはりあたし自身の魂魄に変化はない。残念ながらこの方法で精神と時の部屋修行をするのは不可能なのだろう。
「でも飛梅ちゃんが成長したからいいもん」
『成長というか裏技というか…理想とは異なりますが、一応実戦使用に耐えるものではありますね』
互いに声が嬉しそうなのは、つまりそう言うことである。
結局単独では鬼道を使えなかった飛梅ちゃんは、色々と実験を重ねた結果、何と強引にあたしの分の魂と合体することであたしの鬼道を好きに使えるようになった。ただ厳密にはあたしの魂を使っているだけなので、以前飛梅ちゃんが言ってた"並列思考"と似たようなものだと考えたほうが良さそうだ。
魂の合体と聞くとちょっぴり「あたし自身が梅焔になることだ…」が出来たのではと期待したが、普通に違ったらしい。あれは志波家の斬魄刀のみの技である可能性が有力だし、そもそも飛梅ちゃんを失うのは嫌なので覚えても使わないけど。
さて、無事あたしがシロちゃんの号泣顔を眺めながら飛梅ちゃんに魂魄の生命維持をお任せする…という完璧な愉悦堪能環境を作るための手段を確保したので、残る最後のピースを手に入れに行こう。
行先はもちろん、ヨン様の下だ。
「──待っていたよ、桃」
副官の一〇が側を離れる深夜。あたしは事前にこっそりヨン様に【天挺空羅】で用件を伝え、彼のラボへお邪魔していた。夜に紅茶はあれかなと一応ハーブティーも持って来たけど、不要な心配だったらしい。どんだけこのダージリン気に入ったんだよ…
「ギンが崩玉研究について嗅ぎまわっていてね。この先に入るには少し工夫が必要なんだ」
ラボの最奥の隠し扉を開き、二人で中へと進む途中。ヨン様の雑談に気になる話題が出た。
「あの人って卯ノ花隊長みたいに鏡花水月の違和感を感じ取れるんですか?」
「それくらい出来ずにこの私を倒せると考えるほど、彼は愚かではないよ」
「…そう考えると無策で挑むつもりの護廷十三隊ってある意味凄いですね」
原作で一〇が一人でヨン様暗殺を目論んだのも護廷隊の無能が原因説、あると思います。
しかし、やはりヨン様はもう完全にあたしが一〇の裏切りも全部知っている前提で話してくる。ならばこちらもDJのこととか聞いてみたいけど…彼があの
悶々としている間に、あたしはヨン様に連れられラボの秘密区画へ辿り着いた。怪しい赤紫の照明が"如何にも"な悪の組織の研究所感をアピールしている。
そして。お目当てのソレは、部屋の最奥の無機質な台座に鎮座していた。
「これが…」
「ああ、そうだ」
──君の崩玉だよ。
どこか楽しそうにそう口にするヨン様。自信作なのだろうか、彼の冷たい瞳には珍しく嫌味のない素直な優越心が滲んでいるような気がした。
じっと見つめた崩玉は、ヨン様の瑠璃色のそれとは異なり、桜貝のような白桃色をしていた。あまりの美しさと謎の親近感にいつまでも魅入ってしまいそう。
「桃。君は崩玉とはどのような物質だと思う?」
唖然と玉の瞬く輝きを見つめていると、横からヨン様がそんな問いを投げかけてきた。このまま胸中に渦巻く複雑な感情を吐き出したいけど、何だか動揺を悟られるのも悔しいので深呼吸して心を落ち着かせる。
「…藍染隊長は以前は"魂魄間の境界を操る"ものだとおっしゃってましたよね?」
「その通りだ。以前の私は、ね」
あたしの答えに満足そうな笑みを浮かべるヨン様。どうやら既に崩玉の本質に気付いていたらしい。
そして語られたヨン様の推理は概ね、というかほぼ原作の彼が一護パッパに語ったものそのままだった。ヨン様崩玉も浦原崩玉も共に不完全で、二つを一つに合体させることで初めて完成したということ。崩玉の力が本当は"自らの周囲に在るものの心を取り込み具現化する能力"であること。崩玉の中にはその取り込んだ心の持ち主を導く意思らしき思念が存在すること…
「浦原喜助が崩玉の破壊に失敗したのも、平子真子らが
「…まあ見方を変えれば、浦原喜助は朽木さんを無理やり人間にして崩玉を隠そうとしたり、何も伝えずに十五歳の人間の子供たちを尸魂界へ送り込んで自分の尻拭いをさせようとしたりする人ですからね。あたしたちとの違いなんて、自分の悪事を綺麗に見せようとする意思があるかないかくらいじゃないですか…?」
完全に開き直っている我らクズ共の熱い同族嫌悪はともかく、こういう「よく考えたらコイツヤバくね?」的な底知れなさこそが浦原喜助の最大の魅力である。彼は霊圧は普通だが、その頭脳と発明品でOPBはもちろん千年血戦篇のNTBまでも制している作中屈指のオサレ強者なのだ。
もっとも、ヨン様は彼のような優等生ぶってて周囲の弱者に配慮し自分に制限をかけてるタイプの強者が大嫌いだ。
「ああ、そしてだからこそ彼の崩玉は完成しなかった。周囲の不評を買い、個として孤立することを恐れた浦原喜助は、崩玉の完成に必要だった"大量の死神の魂"を採取出来なかったのだ」
「…そう言えば何で死神の魂が必要なんですか?」
ふと気になって聞いたあたしの疑問に、ヨン様がニヤリと笑う。
「崩玉は周囲の心を取り込み、それを具現化する。その有様は、我々死神ととてもよく似ていると思わないかい?」
「…え、まさか」
思わず台座の崩玉を凝視する。
「気付いたようだね。崩玉の完成に必要なのはただの霊力や
ヨン様の説明が脳に浸透するにつれ、あたしの顎は限界なく垂れ下がっていく。
そんな。だって、もし、もしそうなら。
この異常な親近感も、崩玉の中に渦巻く淡い桃色の光の正体も、全て…
「この崩玉は私の崩玉とロカの【反膜の糸】で器を作り、そして浦原喜助とザエルアポロの義魂技術で生み出した無数の
──君のためにのみ存在する、最高傑作だよ。
まるで藍染農園の収穫を終えたDJのように爽やかな笑顔で、とんでもないあたしの尊厳破壊行為をしれっと暴露するヨン様。
【速報】雛森桃の魂魄、勝手にコピられ増やされ崩玉のエサにされていた模様…
密かに増殖されていた悦森クローンを某Lレベル6シフト計画感覚で複製崩玉に食べさせて作った悦森専用機。
身体のどこに埋め込めば一番シロちゃんにダメージが入るか悦森さん検討中。
そしてまたまた支援絵を頂きました!うーん、はーん、好き
ぬめこ様の清楚森さん軍団長ver.
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清楚森さんの内心差分
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女軍人感ただよう整立がオサレでカリスマを感じる!悦森なのに…!
十刃たちの目に映る普段の雛森さんはこんな姿なのでしょう。騙されますねえクォレハ
シロちゃん的にはやはりNTR味を感じて脳破壊なのだろうか。えち森さんの衣装チョイスはある意味大成功。
そしてめっちゃ早口で脳内リピートしている差分のシロちゃん賛歌は狂気森。
あやしい雰囲気もDJの心眼にはモロバレル…かもしれない!
でも味方陣営に実害はない上ヨン様のマブダチ()なので見逃され中。
ぬめこ様、ふつくしい雛森軍団長閣下をありがとうございました!
次回はようやく第三次現世侵攻です。
お楽しみに!