雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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…無双描写が難しくて筆が進まない(涙
とりあえず終わった分だけ更新します。

シロちゃんの絶望は次回に持ち越し…済まぬ


 


無双ィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはァッ…!?」

 

 

 霞む視界の中、日番谷先遣隊ならびに現世の霊力者たちは必死に意識を保つ。

 相手が巨悪の悪意に絡めとられたかつての戦友、雛森桃だからか。町中の大気が焼き尽くされそうな霊圧を目の当たりにして尚も心折られない彼ら先遣隊の面々は、正しく護廷の強者也。

 

 しかし、実力心情共に腰が引けてしまっているのもまた事実。覚悟の定まらないまま始まってしまった友との戦いは勝機の見えない地獄そのものだった。

 

 そんな動揺する周囲の中で真っ先に動いたのは、二十年前から幾度と苦渋を舐めさせられた天才科学者・浦原喜助。放心する周囲を余所に、元隊長の男が斬魄刀で敵を捕らえんと布石を仕掛ける。

 

 

「──【(しば)紅姫(べにひめ)】ッ!」

 

 

 黒い帯状の霊圧が瞬時に雛森の体に纏わり付く。だが彼女の変わらぬ表情を見た浦原は即座に援護を要請。

 

「夜一サン! 阿散井サン!」

 

「な、ま、待て…!」

 

「任せろ喜助ッ!

──【双禁踊鎖(そうきんとうさ)】ッ!」

 

「ぐ…クソッ、卍解ッ!」

 

──【狒狒王蛇尾丸(ひひおうざびまる)】──

 

 冬獅郎の叫びも最早無意味。夜一の繰り出す鬼道の鎖に続き、恋次の骨の大蛇が雛森の小柄な体を締め付ける。斬魄刀と霊性武器、そして卍解による三重の拘束。逃れることは難しいと誰もが考えた。

 

 

「──そこに誰もいませんよ」

 

 

 だが突然、辛うじて霊圧の圧力に耐えていた斑目一角の後ろから、女の声が聞こえた。

 

「なっ…がはぁッ!」

 

「一角!?」

 

 振り向くことも許されず、尸魂界屈指の腕利きが血花を咲かせて地へと落ちる。

 

「ッ、バカな…! 確かに捕らえたはず…!?」

 

 慌てて蛇骨のとぐろを解いた恋次。だがその目に映ったのは、無数の花弁が散るように消えていく少女の姿だった。

 

「分身……だと……?」

 

 ありえない。あれは確かに雛森の霊圧を発していた。そう驚愕する周囲の前で、元副隊長の少女が静かに手品の種を明かす。

 

「霊圧を凝縮して人形(ひとがた)を作る鬼道衆の術です。元は捕獲任務で虚に喰い付かせる囮に使うものですが、少し工夫すれば身代わりとしても使えまして」

 

 そして雛森が不意に不自然な一拍を空け…

 

「──このように、簡単に相手の背後を取れます」

 

『!!?』

 

 直後、またしても突然味方の血潮が宙に舞った。

 斬られたのは一角との連携を意識し最も距離を取っていた、綾瀬川弓親。声一つ発せずに崩れ落ちる彼の様子は誰もが復帰不可能と悟るほど。

 

 唖然とする一同。それを見下ろす雛森が、拳を握り、虚栄に胸を張る。

 

「…これくらいの欺瞞は出来ないと、藍染様の(しもべ)失格です」

 

 勝気な言葉は少女の自己暗示か。しかし仲間をやられ怒り心頭な者の目にそうは映らない。

 

「ちくしょう、雛森てめえェッ!」

 

「な、止めろ恋次!」

 

 次々に同胞を斬り捨てる雛森に憤怒を覚えた青年が、遂に彼女と戦うことを決意した。未だ戸惑うルキアの制止も振り切り、操る巨大な蛇骨が元同期を成敗せんと鎌首を擡げる。

 

「…いいよ、阿散井くん。あたしにぶつけて」

 

「ッ、舐めてんじゃねえぞ!

──【狒骨大砲(ひこつたいほう)】!!」

 

 避けるでも迎え撃つでもなく、ただ憂鬱そうに目を伏せたまま佇む雛森に恋次の【狒狒王蛇尾丸】が誇る最高火力が放たれた。

 

『……!』

 

 霊圧の砲弾は相手に直撃。真紅の爆発に視界が暗み、周囲に燃えた大気が白煙をなす。

 そして晴れた煙の奥に──

 

 

「嘘…だろ…」

 

 

 ──彼女は変わらぬ姿で立っていた。

 

 力量差はわかっていたが故の全力だった。先月イールフォルトを倒した時と同等…否、消耗が少ない分より高い威力を叩き込めたはずが、現れた相手は全くの無傷。

 だが動揺する恋次が迫る危機に気付いた時、事は既に終わっていた。

 

「…ッな!?」

 

数字持ち(ヌメロス)を倒すのがやっとの技でやられるほど、軍団長の地位は軽くないわ」

 

 一閃。

 

 カッと胴に激痛が走った直後。己の無力に悔しさを覚える間すら許されず、恋次は体中の熱が消える感覚を最後に視界の光を失った。

 

 眼下の地面に次々と墜落していく仲間たち。全てが、瞬く間もない出来事だった。

 

 

「──唸れ、灰猫(はいねこ)…ッ!」

 

 

 それはせめてもの意地か、はたまた少女がこれ以上罪を重ねることに耐えられなかったか。霊圧にあてられ立つのもやっとな松本乱菊が、想いを託した斬魄刀の灰塵を雛森の周囲に旋回させる。

 

 無論、それが腕の一振りで散らされることなど端から承知。相手の注意を引いた乱菊は親友に必死に懇願する。

 

「雛森…もう、やめて…」

 

 一瞬、少女の能面が歪んだのは虚しい錯覚だろうか。

 

「…ごめんなさい、乱菊さん」

 

 その答えを知ることなく、乱菊は彼女の見知らぬ鬼道の前に意識を手放した。

 

 

 ──あたしはもう、こうするしかないんです…

 

 

 

 

***

 

 

 

 一人、また一人と仲間が消え、残る戦力は半数の五人となっていた。

 だがその五人の半数以上も既にボロボロ。グリムジョーとの戦いで満身創痍な黒崎一護。敵の霊圧で青息吐息な朽木ルキア。尸魂界の援軍も今や戦闘可能なのは隊長の冬獅郎のみで、その彼も家族同然だった少女の明確な裏切り行為に絶望するばかり。あんな痛ましい顔では最早足手まといにしかならないだろう。

 

 そんな壊滅状態の味方を惜しむことなく切り捨て、浦原喜助と四楓院夜一は機を窺い続ける。

 

「…喜助、ヤツの融合状態は」

 

「わかりません…先程から時々彼女の霊圧を感じなくなることがあります。【白伏】で隠してるだけならいいんスけどね…」

 

「魂魄の高次昇華、か……この短時間でここまで同調が進むとは、恐ろしいほどの適性じゃのう」

 

 小声で分析を進める二人。

 実は今回の戦闘、浦原にとっては全くの想定外であり、同時にこの上ないチャンスでもあった。

 

 彼らの目的はこの霊圧の怪物、雛森桃の魄内に埋め込まれた"力の源"を奪い返すこと。だが彼女の魂魄を消滅させるだけの火力が手元になく、また心情的にも憚られる以上、他に取れる手段は搦手に限られる。

 

 故に好機を待つ二人。そしてその長い我慢は、唐突に報われた。

 

 

 

「──お嬢ちゃん、ちょいと暴れすぎや」

 

 

 

 突然上空から投げ掛けられた声と共に凄まじい霊圧の塊が降り注いだ。赤黒い光閃、大虚(メノス)の切り札【虚閃(セロ)】だ。

 意識の外から放たれた一撃は宙に佇む雛森に直撃し、大爆発を巻き起こす。

 

「遅いッスよ平子サン!」

 

「喧しいわボケェ! あと一ミリ傷深かったら俺死んでたんやで!?」

 

 血だらけの腹部を押さえ現れたのは平子真子。彼ならばあるいは、と待ち望んでいた戦力の復活に後押しされ、浦原は一気に自身の斬魄刀へ霊圧を送り込む。

 だが虚閃(セロ)の爆炎の中に、肝心の雛森の霊圧がない。

 

「…ッ、まさか!」

 

「身代わりじゃ喜助!」

 

 僅かな動揺。しかし平子の奇襲より瞬き一つも敵から目を離さなかった夜一は、即座に動いた。

 ヤツの【白伏】と【曲光】の凶悪な複合鬼道を無力化する策はまだ成っていない。だが夜一の鍛え抜かれた観察眼は相手の微細な筋肉や重心の動きで直後の行動を予知し捕捉する。

 

「ッ、逃がさん!」

 

「…!」

 

 かくして一瞬の違和感を頼りに突撃した女傑は、その"瞬神"の異名を敵に見せ付けた。

 

 

「──捕らえたり、雛森桃ッ!」

 

 

 ハッと浦原らが声の方角を追った先には、無機質な表情の雛森を羽交い絞めにする夜一の姿。霊圧で作った分身ではない、確実に少女の本体だ。

 尸魂界史上有数の女強者が呼び寄せた千載一遇の好機に、古強者共がすかさず畳みかける。

 

「儂ごとやれ、お主らッ!」

 

「今度は貰うでお嬢ちゃん…!

──歯ァ食いしばれやァッ!!」

 

「お任せを!

──【()()紅姫(べにひめ)】ッ!」

 

 二度とないチャンスを逃さず、浦原が真紅の膜盾から射出した無数の霊力の刃が一斉に雛森へ殺到する。頭上からは平子の再度の虚閃(セロ)。双方共に今までの攻撃とは格の違う破壊力だ。

 

 そして動けない少女に弾幕が命中するまでの、僅かな間合い。

 

 

 

「──その仕込み(・・・)も見えてますよ」

 

 

 

 突如、彼女の周囲に真っ赤な花弁が舞った。雛森桃が以前の襲撃で見せた凶悪な幻覚鬼道だ。

 

「なッ、ぁ…」

 

「夜一サン!」

 

 如何に警戒しようと本人を拘束中の零距離で回避が間に合うはずもなく、夜一は己の五感が万華鏡に吸い込まれたかのような恐ろしい感覚に襲われ、意識が掻き消えた。

 

 そして彼女の腕から自由になった雛森が、その剣に空間を歪ませるほどの霊圧を纏わせ…天地を薙ぐ。

 

 

「──【梅焔(ばいえん)翳火(かざしび)】」

 

 

 瞬間。その刀身から想像を絶する火力の散弾が爆射された。

 

『!!?』

 

 扇状に弾け飛んだ無数の即死の火花が正面の浦原の【切り裂き紅姫】を、頭上の平子の虚閃(セロ)共々蒸発させ、勢いそのまま二人に襲い掛かる。

 

「ッ、不味い!

──起きろ【紅姫(べにひめ)】ッ!!」

 

「くッ…嘘やろ…!?」

 

 辛うじて雛森の攻撃から逃れた平子は、その場で思わず息を呑む。あんな霊圧強度の散弾を喰らえば一瞬で肉片ミンチとなっていただろう。

 だがそれを真正面から受けた浦原の無事を探る彼の一瞬の警戒放棄は、雛森桃にとっては垂涎ものの隙だった。

 

 

「──残った一ミリの命、大切にしてくださいね」

 

「!? しまっ」

 

 とん…と雛森の右手が胸元に触れた直後、平子の視界が虹色に染まる。恐らくは夜一を倒したのと同じ、【白伏】に類する強力な霊力攪乱術。濁流のような膨大な霊圧の暴力の前に流石の"仮面の軍勢(ヴァイザード)"も抗えず、平子真子は失意を胸に崩れ落ちる。

 

 

「くっ…流石は藍染のお気に入りってことッスか…!」

 

 片や浦原喜介、敵の散弾火花に【血霞の盾】を砕かれる直前。間一髪で携帯用義骸を身代わりに危機を逃れた彼は、僅かな隙に平子までもがやられ、そして同時に姿と霊圧が消えた雛森を必死に探す。

 またしてもあの凶悪な複合鬼道。これの対策に先ほど【切り裂き紅姫】に大量の追跡用鬼道を乗せて射出したのだが、結果は相手に気付かれ失敗。焦る浦原は対・藍染用の切り札をここで切るべきか真剣に逡巡する。

 しかし、距離を稼ぐべく瞬歩で義骸と入れ替わった、その先で。

 

 

「──ヤミーさんにお礼を言わなくてはいけませんね」

 

 

 浦原は球状の結界に囚われた。

 

「なっ!?」

 

 気付かれていた。先ほど"十刃"に使ったのを見られていたのか。新作義骸のテストに興が乗り、あのヤミーとやらにペラペラ説明してしまった過去の自分を呪いたい。

 ダメ元で昔の"読書家"にやられた反膜(ネガシオン)兵装の対策を試すも効果なし。結界の解析もこの短時間で間に合うはずもない。

 万事が休し苦々しげに見上げた先には、ここに来て初の戦意らしきものを双眸に浮かべた、雛森桃。

 

「…ごめんなさい、あなたにだけは容赦は出来ません」

 

 そして結界内に透過した彼女の斬魄刀は、人生で初めて見る馬鹿げた密度の霊圧を帯びていた。

 

 

 

 

「──【煌熬琳原(こうごうりんげん)詠萃(うたやつれ)】」

 

 

 

 

 

 

 桃色に瞬く流星群。その破壊の絶景が、浦原喜助が最後に目にした世界の全てだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

桃玉、シロちゃんの絶望顔に大歓喜で霊圧爆上げ中。そろそろ魂魄限界がヤバいので桃ちゃん死にそう。
あと白伏って霊圧隠したり相手の霊圧乱して意識奪ったりできるけど…解釈広げて応用しまくってたらこんなチート技に。

次回こそシロちゃん視点


 

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