雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
22時に間に合わない…すまぬ
誤字脱字許して…クレメ…ンス…
長かった布石回のラストです
──任務完了。
その巨大な霊圧が少年、黒崎一護の周囲にのしかかった直後。戦意を高めるボロボロのグリムジョーが、突如光の柱に包まれた。
諸刃の剣の虚化で追い込むも倒しきれず、相棒の朽木ルキアと師の平子真子の助力でようやく勝利を掴む、と確信した矢先のことだった。
「
「この霊圧…まさか」
「何や…この馬鹿デカい霊圧は…! あのお嬢ちゃんのモンか…?」
「雛森…副隊長…っ!」
急変した事態に皆が動揺する。特に霊圧にあてられたルキアの憔悴が激しく、そしてそれは、虚化の使い過ぎで酷く消耗した一護自身も同様。
一か月前に内なる虚を抑えてくれたとき以来の再会となる彼女──雛森桃は、まるで別人のような途轍もない存在感を放っていた。
「…チッ、あっちで誰かしくじりやがったな」
不意にグリムジョーの悪態が耳に届く。不満を吐き捨てながらもどこか諦めが見える彼の表情は、少女の登場が意図されたものだと語っていた。
「──次で決着だ、黒崎一護」
「…!」
そして戦場を去りゆく"十刃"の強い瞳が、一護のそれと交差する。
「直に尸魂界に決戦を仕掛ける。あの女相手に生き残れたら、真っ先に俺の所に来い。それまでてめえとの戦いは棚上げだ!」
顎で上司の女死神を指し示すグリムジョー。それはまるでこれから彼女が巻き起こす嵐を暗示するようで…
「もっとも…」
──
同時に一護の知らないところで、またしても何か大きな思惑が彼を巻き込んでいることを示していた。
***
そして不穏は現実となる。
「──浦原さんッ!!」
一護の視線の先で、頼りの師が枯れ枝のように無様に地へと落ちていく。総勢九名で取り囲み、あの雛森桃に挑んで五分も経たぬ間の出来事だった。
「一角…! 恋次…!」
見下ろす先には、瞬殺されゴミのように転がる、かつて死闘を繰り広げた護廷十三隊の強者共。綾瀬川弓親、松本乱菊も地面に落下したまま動かない。
「嘘だろ…平子…! 夜一さん…!」
そして阿吽の呼吸で三人がかりの奇襲を仕掛けた浦原ら一護の師匠たちも、一人また一人と戦場から脱落していく。分身と姿・気配を消し去る術に翻弄され、その巧みな搦手すら児戯とする桁外れな霊圧が理不尽なまでに聳え立つ。
雛森桃の狡猾さに支えられた規格外な暴力の前に、かくして誰もが為すすべなく膝を突かされた。
「クソ…はああああァァァァ!」
「止せッ、早まるな一護!」
残されたのは彼とルキアと、絶望に震える日番谷冬獅郎。心身等しく戦意を折られた二人を守るため、そして、六年前から続く謎を解き明かすため、一護は最後の力を振り絞る。
『──!!』
だが振り下ろした【天鎖斬月】は、まるで羽を抓むように雛森桃の細い指に捕らわれた。
あの藍染惣右介を想起させる、圧倒的な力の差がそこにはあった。
「ッ、あんた…一体何者なんだ…!」
それでも一護は臆しない。
「卍解も、虚化の…あの白い俺のことも…! 他にもあいつや斬月のおっさんみたいに俺の精神世界に現れて…」
「……」
「答えてくれ、雛森さん! あんた一体俺の力の…俺の何を知ってんだ!」
頼みの平子ら
だが、かつて『本が好きなお姉ちゃん』を名乗った謎多き少女は今、ただ無言で彼を見つめるばかり。
「チッ、だんまりかよ…ッ! だったら──」
憤懣に心を支配された一護は、意を決す。
「なっ!? 一護、それは…!」
「下がってろルキア!」
一度割れたら日に二度と使えないはずの虚の仮面が顔を覆い、一護の体に膨大な力が満ちていく。
一か八かの賭けは叶った。ならばやるべきことはただ一つ。
「俺の全力で…無理やり吐かせるッ!
あの時彼女と交わした約束を、ここで果たして見せる。
内なる虚を従えた黒崎一護は、己の成長を、あの雨の日の不思議な恩人に見せ付けた。
「──そう」
だがその月牙は、消えた。
「何……だと……!?」
比喩でも錯覚でもない。少女がその細い両腕を開き、一護の霊圧の斬撃を無防備に懐へ受け入れた瞬間、まるで彼女の体の中に吸い込まれるように忽然と消失したのだ。
妙な術や霊力の動きの予兆は何もなかった。何が起きたのか理解出来ず、一護は茫然と立ち尽くす。
「やっぱりあなたはまだ…」
──半人前なのね。
気付いた時、少年はかつてのように自分の胸の中へ、彼女の左手を受け入れていた。
「く…そ…」
「いっ──一護おおおおおおお!!」
体中の霊力が凍っていく。
相棒の悲鳴が霞んでいく。
薄れ遠のく意識の中、最後に一護に出来たのは、失望に陰る白い死覇装の少女へ虚しく腕を伸ばすことだけだった。
「あ…ぁ…」
そして朽木ルキアは、四十年ぶりに、雛森桃と相対する。
日番谷冬獅郎や松本乱菊、阿散井恋次、吉良イヅル、更には現世に住まう一護すら。多くの者と心を交わし、また秘密を隠す雛森桃は、ルキアにとっても大事な存在だった。
『──初めまして! 阿散井くんと同じクラスの雛森桃ですっ』
『──げ、元気出してください、朽木さん…』
『──ここの"黒犬"の言霊は出来るだけ狂暴な猛犬を描いて…そうそう、その調子です!』
不貞腐れていた霊術院時代で幾度と世話になった頼れる鬼道の師にして友。そんな彼女に別れも言えず護廷隊へ飛び級配属され、以後ぷつりと切れてしまった縁の糸屑を心の隅で惜しむ日々。その後女性死神協会で十年ぶりに姿を見かけたとき、既に互いの間には会話も憚られるほどの地位の差があった。
そして今、互いの差は最早…目を合わせることすら許されないほどに広がっていた。
「雛森…殿──」
赤く、妖しい花弁が周囲に舞うのをぼんやりと見つめながら、ルキアは涙ながらに胸の内で少女へ尋ねる。
ああ、貴女はまだ覚えてくれているだろうか。その鬼道が初めて成功した日、二人で姦しく茶屋でお祝いした、あの青臭い院生時代の思い出を…
「…さようなら、ルキアさん」
優しく触れる少女の手。敵となり、二度と交わすことの叶わぬ彼女の心は、されど最後に、その微かな断片を晒してくれたような気がした。
***
「雛…森…」
何だこれは、どうしてこんなことになった。
五人の選りすぐりの護廷隊隊士が、そして元隊長の浦原に四楓院含む黒崎ら現世の最高戦力もが何も出来ずに瞬殺された。
それは弁論の余地なく、たとえ如何なる理由があろうと絶対に許されない、尸魂界に対する明確な反逆行為だった。
「なん…で…」
無様に戦慄く日番谷冬獅郎は、まるで悪夢でも見ているかのような苦痛に吐き気がこみ上げる。
いずれこうなることはわかっていた。俺が、止めなくてはならなかった。
だが覚悟の定まらないまま再会した大切な幼馴染のあまりの変わり様に、転がるように悪化する現実の前に、冬獅郎はまたしても情けなく立ち尽くすことしか出来なかった。
「嫌だ…」
そして機を逸してしまった少年は、全てが手遅れとなってようやく気付く。
それが自分に残された、唯一にして最後の──雛森桃を尸魂界に連れ戻す最後のチャンスだったのだと…
「嫌だ…! 嫌だ! お前を藍染なんかに渡してたまるか…ッ!」
冷静さなど、ぐちゃぐちゃに乱れた思考では望むべくもない。立場、霊圧、感情。果てしなく遠く離れてしまった彼女に少しでも近付こうと、冬獅郎は卍解の氷翼で必死に空を翔る。
だが。
「────来ないでッ!!」
少年が救えなかった最愛の幼馴染は、二人を阻む些細な彼我の距離すらも、縮めさせてはくれなかった。
「来たら、あなたも倒します…日番谷隊長…!」
「ッ!」
牽制するように剣を構え、あれほど嫌がっていた他人行儀の呼称で、少女が彼の名を叫ぶ。
だがその切先は、声は、体はカタカタと震え、片手で握り締める衣類の胸元は皺だらけ。
二人きりになった戦場で彼女が見せてくれたのは、保ち続けた悪人の仮面が剥がれ落ちるほどの、少年への大きな大きな想いだった。
「──ッッ!」
それは咄嗟の、無我夢中の行動。
「やっ…! だ、ダメ…っ」
悲痛に呻く雛森が千鳥足で後退る。
「嫌っ…来ないで…!」
少女の涙が冬獅郎の翼の力となる。
「こない…で…」
歓喜と悔恨、そして強い慕情に突き動かされ、少年は脇目も振らずに彼女の下へ飛翔する。
そして。
「────雛森」
冬獅郎は遂に、遂に惚れた女をその腕に掻き抱いた。
「シロ…ちゃ…」
「…ああ、俺だ。俺だよ、雛森…」
解いた卍解の氷鱗が崩れ落ち、キラキラと輝く
明るい笑顔の陰でずっと耐え続け、最後に藁にも縋る気持ちで自分に助けを求めてくれた、孤独な想い人。
その縋った儚い期待を裏切られ、それでも尚、愛しい幼馴染は日番谷冬獅郎という無力な男を大切に想ってくれていた。
そんな女を。誰も頼れずたった一人で苦しみ続けていた彼女を。
今、やっと、やっと…
突然。
冬獅郎の頬に、両手に生温かい水滴が跳ねた。
一滴二滴ではない。べっとりと粘着く、慣れ親しんだ鉄臭い、嫌な色の液体だった。
「ひな…もり…?」
もう二度と失わないよう腕の中に閉じ込めた少女が、突如苦しげに喘ぎ、痙攣し始める。
「…か、あ、がッ」
「雛森!? おいどうした雛森!?」
そして、冬獅郎の目の前で。
「あ"ア"ア"ァア"ア"ァァァ!!」
守り抜いたはずの想い人の体から、おぞましい真紅の大爆発が巻き起こった。
「ぎっ──あ"ぁぁァッ!?」
弾け飛ぶ赤黒い血潮。竜巻のように暴れる少女の途轍もない霊圧。
懐で核兵器が爆ぜたかのような爆風に四肢ごと吹き飛ばされ、手足を
「あ、ぁ、が、うぁ…」
一体何が起きた。
激痛と混乱にグワングワンと搔き乱される頭を必死に制御し、冬獅郎は片腕片足に片目を失った満身創痍の我が身を顧みず、真っ先に雛森の姿を辺りに探す。
「…ッひな…も…ッ!」
いた。
体中から血と霊圧の花を咲かせ、ゆらゆらと宙に浮いている少女。滝のような出血が冬獅郎の倒れ伏す地面に降り注ぎ、止まらない。
それを見た冬獅郎は、ワケがわからない大混乱の中で、最も切実な現実だけは理解出来た。
──このままでは、雛森が死ぬ。
「う、あ、ぁ、うわア"ア"ア"ぁァァッッ!!」
何故だ、どうしてこうなるんだ。痛みと悲嘆の絶叫が町中に反響する。
雛森が一体何をした。皆に好かれ、皆に惜しまれたあいつが、何でこんな惨い目に遭わなくてはならないんだ。だが嘆く冬獅郎には彼女の悲運を打ち砕く力が無い。
「だれ、か…!」
惨めで、悔しくて、情けなくて。
「だれか、あいつ……を…ッ」
されど何も出来ない無力な少年には、もう…己の何もかもを捨ててでも、見知らぬ強者に慈悲を乞うことしか彼女を救う道は見つからなかった。
「──助け…」
そして、その悲愴な懇願は…
この世で最も届いてはならない男の耳に入ってしまった。
「──あ"い…ぜん…!?」
「やぁ、久しぶりだね。少しは腕を上げたかな?」
四肢を欠き、無様に地べたに這い蹲る少年が見上げる天に、大逆人──藍染惣右介が佇んでいた。
その両腕に、冬獅郎が死に物狂いで辿り着いたはずの、雛森桃を抱えながら。
「で、めえ…なにしに…! 雛森に、なにを…何をしやがった…ッ」
「"何をした"? おかしなことを訊く」
問い詰める血だらけの少年へ、藍染があの憎たらしい薄ら笑みを顔に張り付け口を開く。
「全ての非は、桃を興奮させた君にこそある。私が与えた力を馴染ませる大事な時に、彼女の心が乱された」
「な…に…」
それはまるで物分かりの悪い阿呆に言い聞かせるような、無駄に優しげな声だった。
「わからないか? これは日番谷隊長、"君が起こした問題だ"、と言っているんだ」
徹頭徹尾が挑発の塊。憎悪すら生温い激情に駆られた冬獅郎は残された片足で奮い立とうとし…
「ふッ…ふざけ──」
だが突如男が放った桁外れの霊圧に押し潰され、ガクリと土に崩れ落ちた。
「あ…が……」
「すまないね、日番谷隊長。
──君は邪魔なんだ。
二度目の無念を胸に闇へと消えていく、冬獅郎の意識の片隅。
最愛の幼馴染を抱きかかえ、連れ去った巨悪が残したその言葉は、まるでただの物を扱うようにも、愛しい妻娘を慈しむようにも聞こえ…
三日後。
護廷四番隊隊舎で四肢再生手術を終え、先遣隊の面々の最後に目覚めた日番谷冬獅郎は、
狂乱し暴れる彼は総隊長・山本元柳斎重國率いる決戦部隊に無理やり組み込まれることと相成った。
玉「…てへぺろ♡」
ヨ「正直かなり焦ったよ、私の予想を超えて来るとは流石は神の集合体だ」
桃「」(チーン
尚むせび泣くシロちゃんには支援絵が届いてます。毎度ありがとうございます!
farさまのシロちゃん。
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哀しみに暮れる彼はどうしてこうも我々をウズッ…とさせるのでしょうか。やはりシロちゃんは愉悦部の期待の星…
桃玉もなんか増えてて草。
farさま、素敵な支援絵をありがとうございました!