雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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ガバ

 


織姫ィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

 美しい紅梅の木が花を咲かせる見事な平安貴族屋敷。その大きな寝殿の母屋に、三つの座布団が敷かれていた。

 

 上座の一敷にはドレス風の白死覇装を纏う、挙動不審な女死神。その横には振袖袴に羽衣を羽織った、不機嫌そうな長髪の少女が座っている。

 そして正面の座布団には、ぽつんと置かれた小さい桃色の珠が弱々しく光っていた。

 

 

『──ではこれより第一回・雛森軍法会議を行います』

 

 

 そう、ここはあたしの精神世界。桃ちゃんホームの新しい住人がやらかしたガバを裁いている最中の一場面だ。

 

『判士並びに法務官は私、飛梅が兼任致します。双方異存ありませんね?』

 

「雛森桃に異存なし」

 

『──ッあ、ありま──』

 

『あ・り・ま・せ・ん・ね?』

 

『──ひっ!──な、無いですないです!──』

 

 ご聖体さまが笑顔に青筋を浮かべてらっしゃる。あたしも被害者として怒り心頭なんだけど、隣にキレ散らかす寸前の人がいると逆に萎縮しちゃうよね。怖いので飛び火しないよう小さく縮こまってましょう。

 

『…結構。では第三次空座町襲撃作戦時の霊圧の大暴走による作戦妨害、並びに主様・雛森桃殺害未遂について、桃玉(ももたま)被告の審理を行います』

 

『──い、異議ありっ!──我々の弁護人依頼権が阻害されている!──完全黙秘権を行使します!──被告人防御権への配慮が皆無だわ!──これは明らかな治罪法違反である!──判士チェンジで!──』

 

『被告人の陳述を排斥します。貴方に弁護人ですって? 厚顔無恥にもほどがあるわ、この石ころ風情が…』

 

『──!?──』

 

 マジギレ飛梅ちゃんが飛梅ちゃん(刀)の鯉口をチャキチャキ鳴らしながら被告人に近付く。逃げたいのか桃玉が座布団の上で見苦しくぷるぷる震えて、ってあの珠動けたんだ…

 

『笑止。無機物なら無機物らしく大人しくしてなさい』

 

『──や、やめろぉ──くっ、殺せ!──』

 

 もっともスマホのようにその場で振動するだけなので普通に摘まみ上げられ即終了。

 そして桃玉を掌で弄びながら、軍法会議ごっこに飽きた飛梅ちゃんが毒舌モードで説教を始めた。

 

『…ねえ、崩玉さん。あなたは主様の力となるべく造られた存在なの。そして融合した今は、私と同じ、主様の魂の一部なのよ?』

 

『──はい…おっしゃる通りです──』

 

 え、そうなの?

 …二人曰く、そうらしい。

 

『なのに新人のクセにその場の気分で仕事をサボり、あまつさえ興奮し過ぎて主様の魂魄を霊圧超成長で爆発させるなんて、無能どころの騒ぎじゃないわ。あなた、生きていて恥ずかしくないの?』

 

『──はい…ごめんなさい──』

 

『気紛れに主人を破滅させる道具とかゴミ以下ね。藍染惣右介が寄こした刺客や罠と言われたほうがまだ信じられるわ。そう思わない?』

 

『──はい…面目次第もございません──』

 

『頭を下げる相手が違います。私に謝罪している時点であなたがただこの尋問から逃れたいだけなのが丸見えよ。恥を知りなさい石屑が』

 

『──ふえぇお姉さまぁ──飛梅が虐めるよぉ──』

 

 桃玉の中に土下座する無数の雛森桃(あたし)の姿が見えるのは幻覚だと思いたい。オリジナル故に気持ちがわかるからか、何だか少しコイツらが可哀想に思えてしまう。

 …いや、やっぱ曇りシロちゃん堪能チャンスの妨害はギルティ。閉廷。

 

 

『──全く、主様からも何か言ってやってくださいッ!』

 

「ふぇっ!? あ、あたし!?」

 

 そうしていると突然飛梅ちゃんに話を振られた。もう、鍔をチャキチャキさせないでよ。怖すぎてキョドってしまったじゃないか。

 

 

 …しかし、さてどうしよう。

 

 個人的には霊圧成長に気を取られてせっかくのシロちゃんタイムを楽しめなかったことは無念で腹立たしい。自爆も過去のリョナムーヴの中で一番痛かったし、ワリとマジで死ぬかと思った。

 しかし、それらに目を瞑れば今回の桃玉被告の爆発ガバは寧ろ結果オーライの大成功なのである。

 

 一つは──あの盛大な自爆で生存本能が荒ぶったのか、あたしの魂魄強度が大きく上がったこと。なんとなく霊体としての格が変わった感じもするし、これでもう余程のことがない限りさっきみたいな自滅は起きないはずだ。

 

 二つは──雛森桃の崩玉融合の伏線を張る作戦が想定以上に上手く行ったこと。やはり切羽詰まって本気で苦しんだほうが当然リアルだ。如何に演技に自信ネキなあたしとはいえ、あれ以上のシーンを演出するのは難しかっただろう。

 

 開始前に「感情抑えろ」と忠告したのにガバった桃玉は今飛梅ちゃんに叱られてるが、あたしとしては何となくこうなる予感はあったので、これ以上あの珠を責める気はない。

 

 今後あたしたちは長い付き合いになるのだ。ここは一つ、彼女たちの主人として器の広いトコを見せておこう。

 

 

「ありがとう飛梅。お説教はもう十分よ」

 

『な、主様っ!?』

 

『──お、お姉さまぁ!──流石あたしたちのオリジナル!──聖女!──天使!──』

 

 あたしは優しく飛梅ちゃんの手から桃玉を受け取り、彼女の頭を撫でる。

 初めてのアニブリ版飛梅ちゃんらしいお局様キャラが見れてよかったけど、やっぱりあたしの飛梅ちゃんは笑顔のほうが似合うし可愛いよ。

 そう微笑むと彼女は口をパクパクさせて赤い顔で俯いた。

 

「少し…かなり肝を冷やしたけど、おかげで霊体として進化出来たんだからその成果も考慮しないと。あたしたちは一心同体の仲間なんだし、その辺で許してあげて、ね?」

 

『あ、貴方様がそうおっしゃるのでしたら…』

 

『──…ちょろ──古典的ちょろイン──お姉さまが美少女を誑かしてる──これは悪女ですわ──さっきの聖女・天使は錯覚だった?──』

 

 …桃玉被告、ちょっと自分に都合のいい流れになるとすぐ調子に乗り始める。全く、誰に似たんだ。もう少しあたしのクローンとしての自覚を持ってほしい。

 反省の色が見えないので顔を近づけ桃玉を睨み付ける。

 

「…次は最後の本番シロちゃんだけど、大丈夫? 興奮して霊圧増えすぎない?」

 

『──だ、大丈夫大丈夫!──お姉さまの魂魄もさっき☆6になったし──霊圧増えても器は壊れないよ!──た、多分──』

 

「ホントかなぁ…?」

 

 ガバ温床の桃玉被告に言われると思わずゴ□リが出てしまう。

 

 

 …でも確かにヤツらの言う通り、あたしの魂魄があんな風に爆ぜることはもうないだろう。現世で無双した時点で既に霊圧が感じられないレベルにまで増えていたらしいので、それに馴染んだ今なら…と言うのが正直な思いだ。

 

 大体これ以上成長すると原作の崩玉ヨン様を超えてしまう。それは何て言うか、一鰤ファンとして凄く嫌だ。

 BLEACHの最強は無月一護or陛下でいいけど、やっぱり最オサレはヨン様で最可哀想はシロちゃんであるべきなのです。

 

「と言うワケでみんな自重してよね。あなたたち、一応腐っても崩玉の分類なんだから、望んでもない力をあたしが得ることはないんでしょ?」

 

 だが桃玉の住人たちの反応は煮えきらない。

 

『──ごめん…正直わかんない──爆発した時も別に強くなりたいとか誰も願ってなかったし──あ、でもシロちゃんを曇らせたい願いが崩玉融合の演出と合わさってああなったのかも──あ、それありそう──』

 

『…ちょっと、"ありそう"って何よ。貴方たち崩玉の意志なんでしょう?』

 

 飛梅ちゃんナイスツッコミ。ホントこいつらが不安になっててどうすんだよ。

 

『──ほ、ほらあたしたち普通の崩玉じゃないし──そ、そうそう!──その、聞かれても困るっていうか──ねー?──』

 

『「じゃあ誰に聞けばいいのよ!」』

 

『──ひぃっ!──だ、誰かなぁ?──』

 

 ふえぇ、もうガバガバすぎて何が起きてもおかしくないよぉ…

 

 

 結局あれから何度しばいても情けなく『──わかりましぇぇん──』と泣くだけだったので、桃玉被告の判決&処罰は普通の厳重注意で終わった。というかそれしか出来なかった。

 

 ま、まあまだ空座町決戦まであと三日あるし、あたしの魄内に溜まりすぎた霊力を閉次元へ転送できないかザエルアポロに相談しよう。現世アジトへのお引越し中で忙しいかもしれないが、天才の彼なら三日もあれば何とかしてくれるはずだ。

 

 ふぅ、時間的猶予を取っておいてよかったよかった。

 

 

 そうして新たに三人(?)体制で今後も最高の「雛森ィィィィ!」のために尽力する旨を皆に確認し、あたしはようやく飛梅ちゃんの精神世界を後にした。

 

 …さあ、待ちに待った転生人生二度目の"生きがい"だ。

 

 少ない時間だが、やるべきことはたくさん残っている。

 ガバ対策の用意と、シロちゃんの隠れお見舞と、計画のブラッシュアップと、一護ホワイトの様子確認と、原作イベント再現のお膳立てと、破面たちの指揮と、ウル織の熟成と、ヨン様篇終了後の潜伏準備と、猫の手も借りたいくらいだ。

 何とか残りの三日で最終調整を終わらせられるように、桃ちゃん今日・明日・明後日も頑張るぞい!

 

 

 そしてあたしの意識は現実へと覚醒する──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──わっ! お、起きたっ!」

 

 

 

 

 

 ……え?(困惑)

 

 

 

 

 

「よ、よかったぁ。あやめたちにずっと頑張って貰ったのに、もう三日も(・・・・・)()()()()()だったから心配で…」

 

 

 

 

 

 ……は?(威圧)

 

 

 

 

 

「あっ! あ、あの、えっと、初めまして…? じゃなくてお久しぶり…? です──

 

──井上織姫(いのうえ おりひめ)…です…」

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのクソ玉アアアァァァ今度こそ空座町内会に寄付してやるウウウゥゥゥああああんもおおおおおおおッ!!!(高速旗回収)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

浦「傷も癒えたし黒腔開けるンゴ」
一「うおおお井上ええええ」

桃「」(チーン
玉「…てへぺろ」


そんなガバってばっかの桃ちゃんへ支援絵!支援絵!支援絵!またまた二作も!

farさまの侘助「雛森ィィィィ君!」
https://img.syosetu.org/img/user/15981/68939.jpg

アナログ侘助!最後に鉛筆持ったのいつだろう…描ける人に最大の敬意を…
絶叫する侘助さん、キラ繋がりでアニメ二期OPのゲシュタルト月を思い出して大草原でした。
嘆いているようにも笑っているようにも見える倒錯的な表情がイイですねえ…(恍惚
侘助ェは空座町決戦で活躍させたいけどテンポが…彼には強く生きて貰いたい。


hakutyouさまの前話シーン爆森さん
https://img.syosetu.org/img/user/24425/68947.png

桃玉貴様ァ!可愛く鼻血とか出しても「やべ」って言ってる時点でガバCOだぞ!
年齢制限へのご配慮と桃ちゃんへの愛を感じます。なお実際の映像は破裂した水風船(小声
あとどことなく瞳がギョロアエっぽくて最高。好き(素直
そして唖然とするシロちゃん…理想的な悲劇ヒロインとヒーローですねクォレハ

farさま、hakutyouさま、素敵な支援絵を大変ありがとうございました!


本編はあと1、2話で破面篇終幕。虚圏侵攻篇に続きます。
次篇も隔日更新を目指しますので、どうぞこれからもお楽しみに!



 

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