雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
毎度コメントマイリス評価誤字脱字報告支援絵ありがとうございます
日曜なので早めの投降
原作で大好きなシーンなので一話丸々。
冗長だと感じたらごめんね♡
大広間に
ガバのダウナー気分から大きくテンションを持ち直せたので、あたしはあの有名な会議扉絵そっくりの光景を穢さないように目立たず隅っこに引っ込む。今更な転生者ジレンマだけどここに加わると異物感が半端ないのだ。あたしは紅茶に一工夫するくらいで十分自己満足に浸っている。
だがしれっと市丸の横に控える従者モードのあたしを放置してくれないヤツがいた。原作会議の十一人が座り、一呼吸ついた時だった。
「──おや、席が一つ足りないな」
ヨン様がワザとらしくテーブルの周囲を見渡し不満を口にする。そしてオサレな指スナップの直後、テーブル奥のヤミーとアーロニーロの間にスッと床から十二席目の椅子がせり上がった。
…ちょっと待て何だその特別感。
「さあ、桃。君の席だ──
まさかと思ったら案の定、ヨン様がお得意の何かを含むような感じにあたしをテーブルに呼び寄せる。くっ、自分で用意させた会議卓のクセに、こんな演出まで仕込んで場の一同にあたしの会議参加を印象付けさせるなんて。これも日々の彩りの抜き打ちOPBなのだろうか。
…フン、だがそう言うことならあたしにも考えがある。図らずとも彼のオサレマウントへの反撃のようになってしまったが、あなたの台詞通り…先ずはあたしが淹れた紅茶を飲んでほしい。
ここで桃ちゃん雑学タイム。
中東はヨーロッパほど紅茶文化がセレブチックに洗練されているワケではないが、宗教的に嗜好飲料の多くを禁じていたり、地理的に中国インドからヨーロッパへの紅茶輸送航路の中継地点だったりと、実は歴史的にも世界一紅茶が愛されてきた地域である。
原作ヨン様が十刃会議で破面たちに紅茶を振舞ったのは、"欧州セレブ的な余裕の演出"などという安直でダサい理由ではない。あれは
ヨン様が
あの「先ずは紅茶でも淹れようか」の一言にこれほどの奥深さを感じさせる男、まさに作中で他の追随を許さない究極のオサレマスターなり。
…さて。ここでヨン様の台詞をただ安易に「はいはい紅茶だからセレブなイギリス銘柄ね」と脳死解釈して、F&Mあたりの現世の有名英国ブランドをドヤ顔で淹れてしまえばどうなるか。言うまでもなくあたしのOSR値は大幅に低下するだろう。
なので、ここは原作で出たティーカップと同じトルコ風にリゼ産の紅茶を選んだ。淹れ方はもちろん
リゼ紅茶の落ち着いた香りに重厚な渋み、そして何より美しい真紅のマホガニーの
フッ、勝ったな(何に)
「──では要、映像を」
さあ、あたしの一勝一敗となったところで会議開始。DJの操作でテーブルの中央にホログラムが映り、その三人の侵入者の姿を見たグリムジョーが息を呑んだ。
「黒崎…一護ッ!」
「へえ、まだ生きてたのかコイツ」
グリムジョー含む何人かがあたしの方へ目を向ける。これはあれかな、あたしが二度も見逃したお気に入りだとでも考えてるのかな。
「軍団長。このガキはお主が消したんじゃなかったかの?」
やはりバラガン爺に厭味ったらしく突っ込まれた。これに慌てて答えると言い訳みたいでダサいが、一回だけ意味深にヨン様へ視線を向けてワンクッション入れた後なら途端に訳アリ感が出て、オサレポイントが跳ね上がる。有効なOPBスキルだ。
「…黒崎一護の始末はウルキオラに任せると前の報告会で藍染様がお決めになられました。あたしがあの人を倒すのは越権行為です」
「フン、ならば致し方あるまい」
あたしの高OSR値がバラガンを引き下がらせレスバ勝利。またこの言い訳はウルキオラ嫌いのグリムジョーを原作通り反発させて一護へ向かわせる布石でもある。ぐぬぬジョーには悪いが頑張ってウル君の前座となってくれ。
「…ケッ、所詮藍染サマに生かされてるだけの雑魚じゃねえか。ウルキオラ一人で十分だろ」
「そそられないねぇ、全然」
「ヒャハハ、面白ェ! 人間のガキ三匹で一体何が出来るってんだァ?」
見事なフラグ建設に勤しむ一部の十刃たち。これも敵キャラの定めなのだろう。
なおそのフラグ職人たちの一人ザエルアポロはあたしに妙なアイコンタクトを送ってちゃっかり反転OSRフラグを立てている。大丈夫、鬼門はマユリ様だからまだあと半日ほどラボ移転の痕跡を消す時間がある。
「侮りは禁物だよ」
そんな部下のOSR値マイナスを自分のOSR値プラスに利用していくヨン様。一護たち四人の戦いの軌跡を称賛することで慢心はないとアピール。何というオサレの無限機関か、ズルい。
「四人? 一人足りませんね。残る一人は?」
ゾマリさんの数少ない原作台詞。その問いにヨン様が笑みを深め、ウルキオラが…あれ、何も言ってくれない。
仕方ないのであたしが「井上織姫です」と答える。
「へぇ、仲間を助けに来たってワケかよ。いいんじゃねえの、弱そうだけどなァ」
「…聞こえなかったのか、藍染様は侮るなとおっしゃったはずだ」
相変わらずの一級死亡フラグ建築士なノイトラを窘めるハリベル。これだけなら油断無き忠臣感があってオサレなんだけど…
「あァ? 別にそういう意味で言ったんじゃねえよ。ビビッてんのか?」
「…何だと?」
ああもう…そこでそうダサい返しをしちゃうから原作で戦績悪いんだぞハリベル! せっかくヨン様が近くにいるのに君は一体何を見て来たんだ。彼ならクスッと笑って「すまないね、私の答えでは君の本音を隠す森にはなれない」みたいなカウンター挑発で高ポイントを稼いだだろう。
あたしがこの世界でもハリベル戦のシロちゃんの善戦を確信していると、バン!とテーブルを叩いたグリムジョーが会議終了を待たずに席を立った。熱血せっかちライバルかな?
「どこへ行く、グリムジョー。藍染様のご命令がまだだ」
「その藍染サマのためにヤツを殺しに行くんだろうがッ!」
DJと言い争うGJ。原作通りのいい流れなのであたしはこっそり大広間の監視装置をヨン様の顔のアップにさせる。むふふ、そろそろあの名威圧シーンかな。あれはそのあとの台詞もくっそオサレなんだよなぁ。
さあ、いつでもOKです藍染隊長!
「桃」
…ん? なんすか隊長、もう録画始まってるんですけど。突然名を呼ばれあたしは顔を上げる。
だがヨン様は呑気に紅茶を飲むだけで、奥のグリムジョーはすたこらさっさと出口へ向かって行く。え、ちょ、よ、ヨン様? 「桃」ってあたしが引き留めろってこと!?
あっ、あっ、まっ、待って、グ──
「グリムジョー」
日頃の演技力のおかげか何とか平時と変わらない雛森ボイスが出てくれた。よ、よかった噛まなくて…じゃなくて!
「…はい」
GJJJが舌打ちしながらあたしへ振り向く。え、ど、どうしよう…ホントにあたしがやらなきゃダメなの? 軍団長だから? 部下の手綱くらい握れってこと!?
不味い。グリムジョーが黙るあたしにイライラしてる。
え、えと、この後の台詞は確か…
「…藍染様を思うあなたの忠義は見事です。ですが今はまだ会議の途中。座ってください」
足りない! OSR値が! ヨン様の台詞をかっこよく言えるだけのOSR値が足りない!
だがグリムジョーはここが正念場だと言わんばかりにあたしを睨み付けてくる。ダメだ、完全に場が整ってしまった。
ああ、もう!
「……どうしたの?」
こうなったら【口調変化】と【霊圧威服:全体】のOSRボーナスで底上げするしかない。ごめんみんな、今肥溜めに埋まってる桃玉から霊圧引き出すから、ちょっとだけ耐えてて!
おら! すごいれいりょく だせ!(ゲシゲシ
『──やめたげてよぉ!──』
よし、さあ往くぞ!
「返事が聞こえないわ──」
『ガッ──!!?』
ゴゴゴゴゴとえぐいくらいの地響きが大広間に木霊する。思えば桃玉安定後に霊圧を放つのは初めて。それでも崩玉の本能的な感覚で超越者の領域を見極め、皆に感じられるよう一歩留めた状態で辺りに撒き散らした。
一瞬でグリムジョーが膝を突く…どころか床に這い蹲り、席の十刃たちもテーブルにつっぷしガクガク痙攣している。ティーカップが粉々に砕け散り赤い紅茶が大惨事になったところであたしは慌てて霊圧を引っ込めた。
も、もう勘弁してくださいヨン様! 最後の台詞、最後の台詞だけはあなたのOSR値でしか言えません! バトンタッチぷりーず!
そんな縋るような目を、一人だけ無傷なカップでチャイを楽しんでるヨン様に向けると…
「──そうだ。わかってくれたようだね」
やれやれとでも言いそうな眼つきで、ヨン様が背後に
はぁぁあんヨン様かっこいい! オサレ! やっぱ格が違うわ流石。ホントありがとうございます、助かりました…
わかるよね、この台詞のオサレポイント。座って話を聞けと命じたら誰だって"席に"座ることをイメージするのに、ヨン様は"座る"という行為そのものでOKを出して話を再開させたのだ。それも相手に土下座というくっそ情けない姿を晒させたままで。
この手の言葉遊びは大いに参考になるからみんなもちゃんと学ぶんだゾ。ヨン様ありがとう!
…あれ、でもそもそも彼が自分でグリムジョーを叱咤していればあたしが抜き打ちOPBに苦しむこともなかったんじゃ?
……おのれディケイドォォォ!!
「──十刃諸君」
そう内心頬を膨らませるあたしを放置し、ヨン様が会議の〆に入る。
「見ての通り敵は三名だ」
『……』
「侮りは不要だが、騒ぎ立てる必要もない。各刃自宮に戻り、平時と同じく行動してくれ」
脂汗が滲むも構わず、破面たち皆が彼の顔を見上げていた。何が起ころうと言葉一つで周囲の注目を集め魅了する。
「驕らず、焦らず、ただ座して敵を待てばいい」
それは読者チートの養殖オサレキャラなあたしには決して持ち得ない、まさしく覇者のみが有する王のカリスマ。
彼の席に置かれた白磁が、割れたカップと紅茶で散らかるテーブル中でただ一つ、神秘的に輝いている。その光景はまるで崩玉を埋め込んだ雛森桃の狂気的危険性と、それを唯一御する主という、意味深なメタファーにも見えた。
…もしかしてヨン様はこのシーンを作りたくてあたしにグリムジョーを叱らせたのだろうか。
OPB脳なあたしは思わずそんなバカなことを考えながら、先ほどの憤慨も忘れ、一人藍染惣右介のカリスマに感動していた。
「恐れるな。たとえ何が起ころうとも、私と共に歩む限り」
──我らの前に、敵は無い。
紅茶の話、ヨン様はこれくらい考えてそうと妄想
次回はもっとテンポよく行きたいです。
お楽しみに!