雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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飛梅ィィィィ!

 

 

「──知らない天井だ」

 

 

 射し込んだ光に導かれぱちくりと目を開けると、一度は言ってみたいセリフ上位に来る、あの状況だった。

 

 視線を横に移せば、そこはまるで平安時代の公家屋敷みたいな建物と廻廊が延々と続いていて、それらに囲まれる仙郷みたいなバカでかい日本庭園が正面に広がっていた。

 

「四番隊隊舎じゃ…ないよね?」

 

 何故なら完璧の無人。第一こんな果てしない規模の敷地は志波家でも見たことがない。

 

 

 …薄々状況は察している。これが有名なアレなんだろう。あたしが半年間待ち望んだ瞬間だ。

 

 だが──

 

 

「……出来ればもうちょっと後がよかったなぁ」

 

 

 そう、今のあたしは人生最大の黒歴史を刻んでしまったクソ中のクソ。むしろあの流れのままで来てしまって、本当に今じゃなきゃダメだったのかと穴があったら入りたい気分だ。

 

 なので変に騒ぐのは控え、謙虚に誠実に、その場の板敷の間に正座する。そして眼前の日本庭園を改めて拝見した。

 

 

 白砂の庭に植えられた、枯れた桜と、古い松の木。

 

 そしてその間に佇む、天女っぽい姿をした女の子。

 

 

 ──アニ鰤やブレソルでめっちゃ見覚えのある少女だった。

 

 

 嬉しくてダッシュで近付き話しかけたいが、今のあたしは以下略。すっと下座をして、まずはこんな愚物にお逢い下さったことを感謝しご挨拶をさせていただく。

 

「──御初に御目文字致しまする。わたくし、雛森桃と申す死神見習いに候。御聖体のお目通りが叶いましたこと、心より御礼申し上げまする」

 

『ふぇっ…!? あ、え、ウソっ、えぇっ!?』

 

 声かわいい。エセ武家言葉で自己紹介をしたが、なんか御聖体さまが驚いてしまわれたのでちらりと上目で様子を窺う。でもこの流れだと本日二つ目の黒歴史が育まれようとしている予感しかしない。

 

 しかし何故か少女は老松の幹の後ろに隠れており、信じられないものを見る目でじっとこちらを窺うだけ。

 

 …この子って某恋愛頭脳戦の人みたいなプライド高い清楚クール系毒舌ぽんこつむっつりお嬢様キャラじゃなかったっけ? めっちゃ腰引けてるんですけど。

 

「あの…御聖体さま?」

 

『ッ、い、いえ…』

 

 原作知識で名前はもう知ってるが、こういうのは信頼が大事だから、相手から名乗ってくれるまで待つつもりだ。声は届いているので既に同調も対話も成功しており、向こうもかなり最初から歩み寄っている。ちょっと霊術院の記録にも原作知識にもないパターンだ。いや、つかちょろすぎない?

 

『その…』

 

「あ、はいっ。何なりと」

 

 言い淀む。彼女はこうしてあたしの相槌のたびに凄く困惑した顔をする。

 

『…やはり私の声が届いているのね』

 

「え? あ、はい。お声を拝聴いただけましたこと誠に感謝申し上げまする」

 

 何かを確認するかのような仕草を繰り返す彼女にあたしは少し戸惑う。原作だと本体との対話は解放の条件の一つだったので、てっきり順調だとばかり。

 

『…いえ、ご免なさい。現実に戸惑っていただけです。これまでの非礼をお許しください』

 

 すると天女さまがしばしの逡巡のあと、しずしずとこちらへ歩み寄り一礼した。

 あたしは驚き彼女の頭を上げさせようと声をあげる。習ってもいない鬼道をその場のライブ感と全霊力のゴリ押しで発動しようとするあの斜め上過ぎる自殺行為を見て「コレが私の主かよ…」と現実に戸惑うのは当然だと思います、はい。

 だが直後の御聖体さまの言葉にあたしははっと息を呑んだ。

 

 

『──初対面で私の仮の名(・・・)を、対話もせずに聞き出した才ある主を敬うのは当然のことです』

 

 

 じっとこちらを見つめる女の子。その瞳はどこかキラキラしている。

 なんだろう、名前を知ってるのはその通りなんだけど、その過程に凄い誤解がある気がしてならない。

 

「…えっと、何故そうお思いに?」

 

『ええ。ここにいらっしゃった直後に私の姿どころか声まで知覚されたということは、斬魄刀との同調より先の──私の仮の名をご存知だということ以外にありえませんわ…!』

 

「はあ…」

 

 ハイテンションで「流石は私の主様」とかなんとかはしゃいでいる。アニ鰤では普通にタメ口で主人をゴミカスにdisってたあの毒舌ちゃんがあたしを様付けとかどう反応すればいいかわからない。あの、ただの原作知識だからそんなに讃えないで…

 

 ていうかこの子もしかしてさっきのあたしの恥態を見ていない…?

 

 あの渾身の「【破道の九十・黒棺】ッッ! (ドャアァァァ」とかやらかしたクソアホイキり芋虫を見ていない…? 

 

 

 …え、マジで? セーフ? 

 

 

『それにしても貴方様は本当に素晴らしい霊圧をお持ちです。これほどの力があれば近い内に私の真の名をお伝え出来るでしょう! ああ、主様に屈伏させていただける日が待ち遠しいですわ…!』

 

「!」

 

 あ、これ絶対に見てないですね。あたしなら死んでもこんなバカを主と認めたくないッスもん。

 いやそれより初対面で早くも卍解の予約ですか。あたしの霊圧もうそんなに上がってたの? この後更に始解で伸びたら文句無しの隊長レベルになりますけど、そしたらヨン様さっきの黒棺は笑って許してくれませんかね。

 え、なら卍解見せろ? 無茶言うなよ…

 

 

 ──って、そうだヨン様! いやまず大虚に蹴っ飛ばされたあたしの体ァ! 

 

 

「えっと、あのっ! じ、実はあたし、お外でちょっとピンチになってまして、出来ればそろそろお暇させていただきたく…!」

 

 両手で自らの現状を精一杯訴えると、くねくね不思議な踊りをしていた御聖体さまがはたと我に返ってくれた。

 

『! ええ、存じております。私が目覚めたのも貴方様の身に危険を感じたから。こちらにいる内は外世の時は進みませんが、お気持ちもごもっとも。直ちにあの大虚の軍勢の前までお見送りします』

 

 なるほど、つまり彼女はあたしが大虚に蹴られた直後に誕生したので黒歴史は見られてないと。ほっ。

 いやそうじゃなくて、これってやっぱりチャン一と斬月(ユーハ)たちがオサレ会話してた精神と時の部屋状態か。現実に戻れば端からは一瞬でパワーアップしたみたいに見えるアレ。

 

 ふむ、実にオサレな展開になるのではないか? 多少は面接評価稼げるかも…

 

『さあ、お往きなさい…! 私は貴方様の敵を打ち砕き、愛するものを護り抜く、一振りの力! 交わした勇名の誓いは、その言霊と共に死神を次なる舞殿へと誘いましょう!』

 

 こちらのやる気を見たのかあたしの魂の半身たる御聖体さまもノリノリになっておられる。おい恥ずかしいからやめろ。

 

 視界が白み、右手に握った斬魄刀がかつてないほど膨大な霊力を帯びていく中、あたしは「後で羞恥に身悶えしてそう」とか謎の親近感を彼女に覚えるのだった。

 

 

『──我が主よ! 惜しまれよ我が花香を、綴られよ我が紅彩を! 東風(こち)吹かば、我は幾度と応え給う!

 

(うた)いなさいッ! 我が名は──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【飛梅(とびうめ)】」

 

 

 

 その名を紡いだ瞬間、ブワッと全身からとんでもない規模の霊圧が溢れだした。

 白んだ視界が覚醒し、開かれた眼前には辺り一面の焼け焦げた大地。真っ黒な世界の空にヒラヒラと飛び交う紅色の火の粉が、まるで梅の花弁のようだなんて詩的な感想が浮かぶ。

 

 始解・飛梅。

 

 土壇場の解放、という字面から連想されるイメージほどオサレでもかっこよくもない。けれど、今までの百年間で何度も臓器が壊れそうになるほど力を鍛えた努力の結実として、これ以上なく相応しい姿の斬魄刀が、あたしの両手に握られていた。

 

 

『──オオォォォォ…』

 

 

 萎縮し後退る、壊滅的な損害を負った大虚の軍勢。彼らの目には霊力が枯渇し失神するほどの一撃を受けたはずの死神見習いが、砂煙の中で謎の爆発と共に復活したように見えているのだろう。それも更なる上の霊格へと進化を遂げて。

 

 五尺未満の小さな身からすれば、敵は天を貫くような巨体の群れ。だけど今は、その巨人たちに本当に何の感情も抱けない。ただそこで怯えている、無力で空虚なハリボテのよう。

 

「…見せて、飛梅。あなたが出来ることを」

 

 強く握った柄から彼女の音無き声が聞こえてくる。

 

 知ってる力と、知らない力。魂の半身と言うだけあってか、やはり原作の雛森ちゃんのものと全てが同じではない。嬉しいような、戸惑うような。でも調子に乗るのはダメ。

 BLEACHにおける勝者とは霊圧が高い者でも斬魄刀の能力が優れた者でもない。

 

 

 OSR値をより多く稼いだ者だ。

 

 

「──(はじ)け、【飛梅(とびうめ)】ッ!」

 

 まずは原作で描写された技。轟々と刀身に濃い紅色の炎が燃え広がり、振るう遠心力で飛んでいく。接敵した大きな火炎球は盛大に破裂し軍勢左翼側の大虚たちを灰のように消し飛ばした。【赤火砲】相当の威力とは一体。

 霊圧の違いでなんか殆ど違うものになってるけど、飛梅ちゃんはこの榴弾火炎兵器が基本の技だとふんすふんすしているのでそういうことにしておこう。かわいい。

 

 怖じ気付く巨人たちの間を縫うように、幾体か小柄な虚が叫びながらこちらに向かってくる。霊圧が他より大きい。ヨン様の特別製か中級大虚(アジューカス)か。

 いずれにせよ、こちらも全く恐く感じない。斬魄刀を解放した死神ってこんなに変わるのか。始解でこれならそりゃ卍解したら神扱いもされるよね…

 

 早く次の技を試せと急かす相棒に従い、今度は振るった一閃に添って刀身の炎をそのままパァン!と扇形に炸裂させた。

 

「Oh…」

 

 飛び掛かってきた数体の小柄な虚たち全てが、隊列組んだ機関砲の一斉射を喰らったみたいな肉片となって燃えている。飛梅ちゃん曰くこうして放射状の火花を放ち弾幕で制圧するためのものらしい。これがあれですね、ミンチよりひでぇやってやつですね。

 

 五十年後くらいの現世の軍事条約で禁止されそうな能力が続々と出てくるが、もっとこう、周りに無駄な被害を撒き散らさない技はないかと聞けば「…」と無言の答えをくれた。

 ねぇ、君もっとお淑やかな子じゃなかったっけ? 護廷隊でこんな戦い方して外見詐欺とか言われたくないんですけど。

 

 そして最後の大技。霊子の足場を駆け上がり、死なば諸ともと虚閃を放とうとする残りの大虚たちへ、一際大きな霊力炎をお見舞いする。

 

 その様、まさに炎のクラスター爆弾による絨毯爆撃。空を駆ける自身を天高く吹き飛ばすほどの暴熱風が晴れた後、眼下に広がっていたのは溶け焦げ硝子化した黒い死の砂漠だった。

 

 …霊圧の差って、残酷なのね。

 

 

「…」

 

 感知に引っ掛かる霊体はもういない。これで一安心して黒棺失敗のマイナスから稼ぎ直したOSR値をリセットしたいが、ぐっと堪えよう。

 まだ本命が来てくれると期待するのだ。

 

 

 さて。色々ありすぎて当初の感動を忘れそうだが、未だあたしはヨン様の面接中である。

 

 全てを見せろとあのオサレマスター藍染惣右介に命じられていそうな現状で、今出来る全てを見せたはずだ。例のアレで一時はもうダメかと思ったけど、飛梅ちゃん覚醒のおかげで霊圧がついに隊長レベルの大台に乗り、何とかプラマイ0くらいまで持ち直したと思う。

 

 しかしこれではスタート地点に戻っただけだ。残るアピールポイントはもう原作知識しかない…

 

 的の大虚たちも全滅し風化を始めてるし、そろそろ向こうから動きがあるだろう。不味い、時間がない。とりあえず鏡花水月のために目をガン開きにして無警戒を主張しポイント稼ぎする。さあ、お好きなタイミングで一思いにお願いします!

 

 すると。

 

 

 

「────素晴らしい」

 

 

 

 ふわりとあたしの耳に届く、カリスマがある方のアゾット声。

 

「こうして会うのは初めてだね、雛森桃霊術院一回生」

 

 大虚の骸の塵が晴れる。巨壁のような霊圧を発しながら堂々とこちらへ向かってくる未来の上司は、糸目の副官を伴い、秘すべき本性の姿であたしの前に現れた。

 

 

 

「──()は藍染惣右介という」

 

 

 

 キャーヨン様キター!!

 

 

 

 

 





次回:最終面接
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