雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
BtW連載おめ。面白過ぎひん?
あ、本編はドン・パニーニ戦です
実は密かに好きなキャラ。渋い声もベネ
「──経過は順調ですか?」
清々しい現世の朝日に照らされる鳴木市。その地下に設けられた毎度おなじみアジトはこの日、死傷した破面たちの再生治療にフル稼働していた。
あたしは最終確認のため有能姉貴ロカえもんが管理する施設を訪れ、チャン一たちにボコられた破面たちの様子を確認する。
「…はい。新たにアイスリンガー・ウェルナール様、デモウラ・ゾッド様が治療室で戦線復帰準備中です」
ロカの報告ではあの閑職門番コンビは運よく地底路崩落から生き残れたようだ。特に有能アイスリンガーくんはあたしの密かなお気に入りなので無事で桃ちゃん安堵。
二人とも、オサレ師匠神の定めし宿命の全う、本当にご苦労様です。
「現在ドルドーニさんとガンテンバインさん、チルッチさんの
「…畏まりました」
まあ既に破面軍の半数は収容できる治療室がこのアジトに作られてるんだけどね。大体五十室くらい。
問題は魂魄再生室。こっちは死亡した破面を魂魄の霊性因子から再生し、云わば半クローンみたいな形で復活させる方法だ。これを行うには崩玉の力が必要不可欠なんだけど…
(あたしの崩玉、桃玉なのよね…)
あのガバの温床が本当にヨン様崩玉のような素敵な願望器なのか、ひっじょぉぉぉうに疑わしい。とにかく何としても
そして今。ようやく準備が終わったと報告を受けたあたしは、一人実験のため極秘施設に入室する。そこには一月前の戦闘で回収した破面魂魄の霊性因子と、一体の改造
「…行くわよ、桃玉」
『──いざ名誉挽回の時!──無能の烙印を捨て去るのよ!──うおおお厩肥地獄からの脱出ぅぅぅ!──もう臭い汚い生活は嫌ぁ…──』
中々のモチベに期待し、あたしは自分の魄内に意識を向ける。この方法がダメだとザエルアポロが主導する小説のシエン・グランツのような完全クローンとして復活させるしかなくなるのだ。絶対に成功しろ(威圧)
膨大な霊圧を注ぎ込みながら、欲しい現象を心に想起し…今っ!
『!!』
ぺかーと結界内に光が満ち、ワンダーワイスの時と似た感じに爆発が起きる。そして漂う煙の中に一つの霊圧を確認したあたしは思わず微笑んだ。
何せ桃玉を手にして四日目(その内三日は寝坊)でようやく原作初期の崩玉らしい使い方が出来たのだ。流石腐っても崩玉、ウチのガバ玉もたまには役に立つらしい。後で火ばさみで肥溜めから出して洗ってあげよう。
「…軍…団長?」
そして、しばらく呆けたように辺りをキョロキョロしていた実験体の破面がこちらを認めた瞬間、あたしは実験の成功を確信した。
「お帰りなさい。二度目の生はいかがですか?」
──ディ・ロイさん。
***
さて、懸念事項が一つ片付いたとは言え、まだまだ午前中にやるべきことは山ほどある。具体的には本誌連載期間一年五ヶ月分のイベントだ。
現世のアジトを離れ
「【天挺空羅】」
あたしは
「──どうですか、ネリエルさんは」
「ええ、先ほど黒崎一護と接触しました。今はルヌガンガと戦闘中です」
「あ、もうその段階なんですね! よかったぁ…」
よしよし、これで原作通りにイベントが進みそうだ。そう安堵していると隣でザエルアポロがオサレなベルを鳴らした。
「ルヌガンガが倒されたか。僕の
「お願いします。あの人の能力は便利ですから」
砂巨虚に彼女らを一護たちの所へ追い込むよう嗾けたけど、何とか原作に似た展開で主人公組&途中参加の恋次ルキアと合流出来たようだ。あとはネルのヒロインムーヴに期待ですね。
おっと、そうこうしてるうちに早くも一護たちが
「侵入は壁を突っ切って進むようですね。サル、いやイノシシ以下の知性とはなんとも…」
「誰が修復すると思ってるのよ…」
この頃の一護ってまだ初期のイキり高校生みたいなふてぶてしさが残ってた最後の時代だと思う。ちっ、貴重なシーンに免じて許してやるか。
まあどの道また二年したら
その後一護たちは順調に進み、五つに分かれる通路の広間へと入る。ちゃんと原作通りにあたしが設計に口出しして再現しておいた部屋だ。
「どうやら五手に分かれる様子。こちらの先鋒は
「ネリエルさんとの昇降戦からもう十年ですからね。ザエルアポロさんは親しかったんですか?」
「ははは」
何わろてんねん。確かに性格合わないだろうけど。
「…さて、僕はまだラボの後始末が残っておりますのでここで失礼させて頂きます」
「あ、そうですね。あたしも現場に向かいます。…ラボ侵入者用の報復はほどほどにしてくださいね?」
「ええ、ご心配なく。浦原喜助の研究を持ち帰らせて満足させる程度に止めますよ、ククク」
どうやらヨン様が百年前に奪った浦原さんの研究資料をあたかもここで研究されていたダミーとして、ラボを漁りにくるマユリ様に下げ渡す作戦らしい。こちらの懐は全く痛まず、マユリ様は憎きライバルの大昔の研究をそうとは知らずホクホク顔で持ち帰り、あとで浦原さんに指摘され大恥をかく。見事に悪質な嫌がらせ、流石っすね。
ゲス笑いを浮かべるザエルアポロと別れ、あたしは
そして遠くに一護vs.ドルドーニ、石田vs.チルッチ、チャドvs.ガンテンバインのカードが揃ったことを霊圧感知で確認したあたしは、安堵に一息つく。
さあ、まずは初戦のドルドーニ戦の負傷者を回収するついでにこっそり観戦だ。もうガバはしないからな! 絶対だゾ!
BLEACH有数の迷シーン【俺は卍解しねえ!】を
***
「…やれやれ、ママンに教わらなかったのかね?」
──人を見かけで判断するな、とな。
大廊下の天井。列柱から足を踏み外し落下してきたその口髭の三枚目は、そんな台詞と共に青年・黒崎一護の前に立ち塞がった。
かつて十刃の地位にあった者──
そう自らの階級を名乗った破面ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオは、当初のおちゃらけた態度を改め別人のように洗練された足技を繰り出し一護を追い詰める。
「反応は鈍い、防御は脆い、足元の変化にすら対応できない」
「──ぐあァッ!」
「まるで赤子の戦いじゃないかね、えェ?」
通路から巨大な広間の壁へ蹴り込まれた青年。苦痛に呻く彼へ溜息を零し、ドルドーニが静かな挑発を投げた。
「卍解、したまえよ」
「ッ」
ピクリと一護の肩が跳ねる。だが青年には矜持があった。
「…嫌だね。
「…そうだが?」
「だったら尚更だ! 十刃でもねえ連中に、一々卍解なんか使ってられねえんだよ!」
矜持だけではない。これから一護が相手取るのは、最悪十刃の全十名。強敵との連戦を前に余計な霊力の消耗は避けねばならなかった。
「…なるほど、ならば私からも一言言わせて貰おう。
だが、不遜なプライドに引き摺られたその戦略は、悪手だった。
「旋れ!」
破面の斬魄刀解放、
「構えろ、
「なっ──がはァァツ!?」
突如現れた虚髄の嘴。霊圧の暴風を推進力としたその変幻自在な攻撃に襲われ青年は為すすべなく蹂躙される。
それでも意地で卍解を封じる彼に、落胆の溜息を吐くドルドーニが止めの
その時。
「
「な、ネル!?」
突如乱入してきたのは、不本意ながら連れてきてしまった破面の童女。しかし身を挺した蛮勇かと思われた彼女は、なんと敵の攻撃を呑み込み、吐き返したのだ。
「
『!!?』
誰もが全くの無警戒で、当然の油断を突かれたドルドーニが大きく負傷する。だが故に、彼の胸中より慈悲の二文字は消え去った。
「──"人を見かけで判断するな"か…忌々しくもその通りだったよ、
直後、真紅の光弾と共に童女の体が弾き飛ばされた。
「あぐっ…!」
「ネル!!」
「少々
迫る破面の男の追撃がネルを襲う。
白い嘴。動けない童女。間に合わない始解時の瞬歩。
仲間の絶体絶命の危機を前に、一護は咄嗟に体が動いていた。
「…そんなに見たけりゃ、見せてやるよ」
思えば何とくだらない意地を張っていたものか。その小さい体を投げ打ってまで守ろうとしてくれた子供が側にいるのに、手を抜き護るべき者を危険に晒すなど。
敵のお望み通り力を解放し、一護は憤怒と共にドルドーニと対峙する。
「──まだ、上があるだろう?」
しかし、それでも男は未だ満足しなかった。
事前にこれまでの戦闘記録の閲覧を許されていた
「恥は…ねえのかよッ!!」
「有るとも!! 吾輩の恥は、本気の
繰り出される無数の竜巻。それらが狙うは、青年の護るべき仲間、ネル。
一護とドルドーニ、互いの恥は同じく一つ。それ以外の恥など無きに等しいと叫ぶ破面の想いを、青年はじっと見つめていた。
そして。
「…そうかよ」
黒崎一護は、その剥き出しの本能を仮面で隠し、ドルドーニと同じく己のたった一つの誇りで以て敵の想いを打ち砕いた。
***
一閃。
身体には力が満ち、心には勝利の意志が満ちていた。されど男たちの意地と誇りの戦いは、その一撃であっけなく幕を下ろした。
完敗だ。侮れない強者とは言え些か邪道に命を狙った童女に傷を癒され、敵の青年に見守られ、ドルドーニは清々しいほどに彼らに屈服させられたのだ。
「強いな、
「…そんなことねえよ」
青年の謙遜が胸を打つ。ああ、やはり、これが"彼ら"の戦場なのか。
「…吾輩は、十刃に返り咲きたかった」
敗者の泣き言、精神まで屈したか。長年の悲願が口から零れ出る。
藍染殿の野望を叶える破面軍の主力、十刃。されど彼らは、否我らは、果たしてあの覇王にとって一体どれほどの価値があると言うのだろう。
天より見下ろす神は絶対だ。藍染惣右介への忠誠は揺るぎない。
だが。
「
ドルドーニは問う。優しく、そしてチョコラテのように甘い人間の青年に。
「不気味であったろう。その姿は怖ろしく、霊圧は禍々しく、そして心は空虚に凍えている」
「……」
「失った何かを永遠に求める堕ちた悪霊。人間の、死神の宿敵。負の思いを抱くも当然の存在だ」
青年は眉を顰め黙秘する。それが彼の答えなのだろう、是非もない。
だからこそ…
「──あの方は、違ったのだ」
理性を手にし、慈愛の甘さを知ったドルドーニは、やはり心のどこかで真の忠誠を捧ぐ主を別としてしまっていたのだろう。
「今でも思い出す。虚だった吾輩が謁見を許された時の…あの輝くような琥珀色の双眸を」
「…!」
「死神でありながら、虚の吾輩に『初めまして』と…『よろしくお願いしますね』と…まるで同じヒトを前にするかのような親しさで快く部下に迎えてくれた、あの感動を」
ドルドーニの語りに青年が目を見開く。慈悲深い彼にとっても、その有様はやはり信じ難い"特別な"ことらしい。
「見ただろう、この
「…っ」
「毎年、暮れになると一杯の琥珀色の美酒が皆に振舞われる。あの方の瞳と同じ色の…甘い、甘い、極上の
それだけではない。死神の祖国より持ち込んだ豊かな土壌に種を植え、草木を芽吹かせ農園を開墾し、外界の美食を美酒を、見事な衣服を霊子で再現させ、我ら破面たちに与えたのだ。
そんな"特別な"お方の最も側にいられる場所が、十刃。
「あの場所は堪らなく心地よかった…」
溜息と共に零れる本音。それは自分でも驚くほどに切なげで。
「吾輩は全力の
──そしてその虚しい思いは、未だ変わらないのだ。
「ッ、てめえ…!」
「ハハハハハァッ! 敵の傷を癒すならば反撃を受ける覚悟もしたまえよ!」
死力を尽くし、男が立つ。
「止めろ! まだ動けるほどには回復してねえだろッ!」
「傷とは気構えに負うものだよ、
優しき青年が、必死に止める。
「それがチョコラテのようだと言うのだ
かくして男の足掻きは、その忠義の刃の切先を、慈悲深い侵入者の胸に突き当てた。
「──見事な戦い、ご苦労様でした。ドルドーニさん」
ああ、我らの愛しき…