雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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感想評価マイリス支援絵誤字脱字報告ありがとうございます。
前回遅れたのでちょっと早めの投稿。
あとコメントの「頭ギリアン」に大草原。

アーロニーロ敗北の余波です。

 


通知ィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ふぅん、滅却師(クインシー)ねぇ…」

 

 

 虚夜宮(ラスノーチェス)内宮の一つ、ザエルアポロ宮。監視室の画面に映るチルッチ・サンダーウィッチの対戦相手を眺めながら、宮の主──ザエルアポロ・グランツは愉しそうに笑みを深めていた。

 

 彼は霊性兵器開発を専門とする科学者だ。ありとあらゆる種族、能力を技術と言う名の理性で凌駕し、完璧な生命へと至ることを夢見ている。

 そんな彼の前に転がってきた希少種族【滅却師】は、男に新たな進化の可能性を示していた。

 

「周辺霊子の操作、いや隷属かな? 封じるには霊子真空を作って霊子そのものを枯渇させればいいだけだけど…それじゃあつまらないな」

 

 チルッチの魂魄に寄生させている録霊蟲から相手の滅却師の霊性情報を受信し、解析していく。特にあのゼーレシュナイダーなる道具は興味深い。斬りつけた霊力の霊子結合を滅却師が吸収しやすい状態へ高速振動で強引に崩すという発想は、実に彼ららしい原始的な知恵だった。

 

 無論、石田雨竜はあの雛森桃軍団長が執着する黒崎一護の仲間だ。ホワイト実験の延長として時に支え、時に強敵をぶつけては成長を楽しんでいる。他の四人、いや井上織姫含む五人を彼女が殺さないのは、黒崎一護への悪影響を懸念してか。

 

 ならば殺さず実戦で幾つかの新技術を実験するに留めるのが最善。ザエルアポロは人間時代の処世術で上司の不快をさらりと避ける。

 

 

 雛森桃という女死神は、ザエルアポロにとって非常に都合の良い人物だ。前世でよく邪魔をしてきた錬金学会のサル共のように愚かではないが、しかし藍染惣右介のような悪魔的叡智を持つ魔王でもない。強大な武力を持ち、研究を快く支援してくれる稀有なパトロン。雛森の庇護下の五十年で進んだ研究は数知れず。

 

 もちろん、藍染惣右介が彼女を溺愛している理由も理解している。だがたとえあの可憐な少女が万人の人生を弄ぶ邪神であろうと、それはザエルアポロの知性の前では些細なことだ。

 

 監視室の画面で、運命を全うした瀕死のチルッチを称賛する女上司の姿を見つめ、彼は密かにほくそ笑む。

 

 藍染惣右介は全ての破面に一切の価値を見出さず、故にザエルアポロが彼の下で繁栄を得ることは不可能。そして雛森桃は全ての数字持ち(ヌメロス)を愛している。彼女の知る未来の通りに生き、そして死ぬのならば。

 

 

 ──ザエルアポロは涅マユリ一派に敗北する。

 

 

 それが雛森桃の言動から彼が導いた、己の運命。そのくだらない未来をいなすため、ザエルアポロはあの邪神に例の研究の話を持ち掛けたのだ。

 

(運命が必然なら、また新たな命に生まれ変わればいい)

 

 霊性因子の再構築による魂魄復活。受胎告知(ガブリエール)の力で完璧な生命となり、生死を可逆なものとした彼だからこそ思い付く発想だった。

 

 

「…さて。そろそろ僕も仕事をしないと麗しき軍団長閣下に叱られてしまうね」

 

 黒崎一護はドルドーニ、朽木ルキアはアーロニーロ、茶渡泰虎はガンテンバイン、石田雨竜はチルッチ。ならば自分の担当は最後の阿散井恋次だろう。おそらくあのカス(イールフォルト)が彼と戦ったのもこの時のための運命。そして奇しくもザエルアポロ自身、直接攻撃系の斬魄刀とその卍解の研究素体には未だ縁がなかった。

 

 湧き上がる上司への畏怖を振り払い、ザエルアポロは例の死神の霊性データを霊子分解装置へ入力した。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 風が頬に当たる。

 草の匂い、日差しの煌き、鳥の声…

 

 ここは西流魂街三地区北端、鯉伏山。かつて死神──朽木ルキアが師にして上司志波海燕に稽古を付けて貰った、思い出深い場所だ。

 

 

 白昼夢か、走馬灯か。ルキアの体を無数の記憶が流れては消えてゆく。

 流魂街の出ながら突然朽木家に養女として迎えられ、霊術院入学から僅か一年で護廷隊へ配属。院生時代は斬術はからっきし。評価の高かった鬼道も、隊士の中では並以下。周囲にはコネ入隊の貴族の道楽と失笑され、嫉妬され、腫物を扱うように避けられる孤独な日々。

 

 何のためにここにいるのか。己の存在に一体何の意味があるのか。

 死神になったルキアは毎日、自らの価値を見出せぬ苦しみに悩まされていた。

 

 

 ──お前の護るべき心がここにあるなら、それがお前がここに居るべき理由だ。

 

 

 そんな彼女を救ったのは、当時隊の副隊長を務めていた志波海燕の言葉だった。漠然とした答えに首を捻るルキアに彼は「心はどこにあると思う?」と問い返す。

 

 心の在りか。それは人の体の中にあるのではなく、何かを考える時、誰かを想う時、人と人とが触れ合う時に、二人の間に心が生まれる。それが海燕の自論だった。

 

 

 …ああ、そうだ。

 

 

 ルキアは思い出す。この風景を。木立の一本一本を。不安と興奮と、温かさが綯い交ぜになった、弾むようなこの気持ちを。

 この地で彼に教わった、戦いに生きる死神が持つべきもう一つの覚悟を。

 

 

 ──最期は仲間に心を預けて逝け。

 

 

 魂魄である死神は、死すればやがて霊子となって尸魂界に散っていく。ならばこそ、仲間と共に育んだ心を託すのだ。さすれば己の心は、彼らの中で生き続ける。

 

 …それが、朽木ルキアの恩師、志波海燕が彼女に残した言葉だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「──海燕殿の心は、私が預けて戴いた…ッ!」

 

 

 闇の宮殿に響き渡る軽い破砕音が、両者の戦いのあっけない幕引きとなった。頭部を貫いた敵の巨体が水風船のように破裂し、ルキアは体液の津波に押し流される。

 

 水音に交じり、アーロニーロの甲高い悲鳴が聞こえた。

 

「ギャアアアァァァァァァアア!! 痛いィ! 苦しい! 苦しいィィ! 助けて雛森様! ひなもりさまァ!!」

 

「…!」

 

 遠のく耳がその名を捉える。ルキアを取り巻く、頭の片隅に封じていたもう一つの悲劇の名だ。

 

「こんなの雑兵未満の扱いじゃないか! 嘘つき! 嘘つきィ! なんで僕たちをあんな悪魔と引き合わせたんだよォ!」

 

『ク…ソ…』

 

「信用しちゃダメだったんだ! あんたもいずれ捨てられる! 逃げよう! 逃げよう雛森様! 逃がして…! またあの時みたいに、たすけ、て…よ…ぉ……」

 

『コンナ敗北…俺ハ絶対、納得…シナイ…ゾ…ォ……』

 

 

 髪を下ろし、白い死覇装を纏った、ルキアの旧友。今では敵となり、彼ら破面たちの上司となった心優しき死神の少女。

 

 それがあの傲慢不遜な"第9十刃"アーロニーロ・アルルエリが、死の縁で最期に縋った救いだった。

 

 

 

「…ぐ…ッ」

 

 満身創痍の体で床を這う。胴を貫く捩花が霊子となって消え、ルキアは腹の穴から濁流のような熱が流れ出ていくのをぼんやりと感じていた。

 

「…案ずるな、井上……今、往く」

 

 孤独を知っている。囚われし者の、孤独を。

 喜びを知っている。仲間が助けに来た時の、喜びを。

 そして、その仲間が傷付き倒れる恐ろしさを、知っている。

 

 ──一人で死ぬな、朽木。

 

 海燕の声が聞こえる。昔教わった、心を護るために戦う死神が持つべき心構え。

 

 …ああ、でも。いざその時になると、なんと困難なことだろうか。

 

 血が止まらない。霊力も残っていない。死力を尽くし、その言葉一つが、ルキアの命を冷たくなっていく体に繋ぎ止める全てだった。

 

 そこに。

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

 遠のく意識の中。微かに感じた温かい桃色の霊力が、瀕死の死神をこの世に縛るもう一つの力となる…

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 ──アーロニーロ、死す。

 

 

 死に際の認識同期と、雛森桃軍団長の通知。その凶報は瞬く間に虚夜宮(ラスノーチェス)を駆け巡った。

 

 

「アーロニーロか…どうするよ、ハリベル様!」

 

「……」

 

 敬愛する上司の破面の指示を乞う、血気盛んな従属官(フラシオン)

 

 

「ガキが、つまらん死に方しおって」

 

「陛下…」

 

 未だ未熟だった同胞の不覚を悔やむ最古の虚。

 

 

「アーロニーロ…やられたよ。いいの?」

 

「…どうしろっつーんだよ、俺に」

 

 枕の積み重なった寝台に横たわり、悲哀に俯く男と童女。

 

 

「あァ…おめえの仲間、死んだらしいぜ?」

 

「ッ!?」

 

 無様な死に損ないの人間へ嗤う、ツリ眼の大男。

 

 その他僅かな反応を示し、指示の普段通りの生活を続ける者。同期の同僚の死を惜しむ者。

 そして、上司の通知に愉しげな笑みを浮かべる者。

 

 

「──相打ちだってさ、死神くん」

 

 

 従属官からアーロニーロ戦死の報告を受けたザエルアポロが、目の前で荒い息を上げる死神──阿散井恋次を挑発する。

 

「ああ、楽観論なら止した方がいい。死んだ君の仲間の名も届いているよ……"朽木"って言うんだってね?」

 

「ッッ!!」

 

 効果は覿面、予想通りの反応だ。死神の斬魄刀【蛇尾丸】の直情的な攻撃が破面を襲うも、生来の鋼皮(イエロ)に容易く阻まれる。

 

「何度も言ってるだろう? 始解如きじゃ十刃に傷を負わせることなんか、出来──」

 

 だが激情に呼応し跳ね上がった恋次の霊圧は、二度目の攻撃で相手の防御を上回った。

 

「ごちゃごちゃ、うるせえぞ……そこを退けェッ!!」

 

「へぇ…」

 

 額を流れる己の血。それをザエルアポロがニヤリと笑う。

 まだまだ研究し甲斐のある、興味深い素体を前にして。

 

 

 

 

 そして"三桁の巣(トレス・シフラス)"の出口、本宮の天蓋へと続く大階段。

 

 

「──てめえは…ウルキオラ!」

 

 

 (ゴミ)を抱える黒崎一護が、名乗った覚えのない彼の名を綴る。

 

「朽木ルキアが死んだ」

 

「何……だと……」

 

「正確には"第9十刃"と相打った。腹を槍で貫かれてな」

 

 相手の動揺、"心"の変化を見るべく残酷な事実を突き付ける。アーロニーロの【認識同期】は軍団長の通知だ。間違いはない。

 

 だが「仲間を信じる」と抜かした黒崎一護は、己という十刃を前にしても戦いを挑んでこない。

 

「てめえは敵だが、てめえ自身はまだ誰も俺の仲間を傷付けてねえからだ」

 

「…そうか」

 

 訳を問えば、何ともくだらない答えを返してくる。理由が必要ならばくれてやろう。

 

 

「──虚圏(ウェコムンド)に井上織姫を連行したのが俺だと言ってもか」

 

 

 その瞬間、掻き消える黒崎一護の姿。そして迫る刃と右腕の鋼皮(イエロ)が劈く金属音を奏で合う。

 

「やっぱり井上は自分の意思で虚圏(ウェコムンド)に行ったんじゃなかったんだなッ!」

 

「俺と戦う理由は出来たか?」

 

 そして憤怒を抑え、仲間を救う活路を切り開かんとする死神モドキが、持てる力の全てを解放した。

 

 

「…わりィな、こっちも急いでるんだ……全力で行くぜッ!」

 

 

 

 

──卍解(ばんかい)天鎖斬月(てんさざんげつ)──

 

 

 

 

 かくして人間・井上織姫を取り巻く虚夜宮(ラスノーチェス)に、更なる嵐が吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

ザ「か、神なんか別に畏ろしくないんだからねっ!」(ジユウノツバサー

ア「助けて雛森さまァ!」(当然の懇願

桃「助けたからもう一度『藍染様』でリテイクプリーズ…」(白目

ヨ「酷いな、私が桃を捨てる訳ないじゃないか」(ニッコリ

ヨン様とザエルアポロ、手段は真逆だけど共に原作の宿命から解放されたい似た者同士。
そして一度死んだらokと納得する現場猫桃ちゃん。


次回:4……だと……



 
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