雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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久々の定時()更新
コメ欄で【OSR値譲渡】のシステムを理解してるコアな鰤読者がいっぱいでワイにっこり
あとアーロニーロの過去回想オサレボーナス不発を惜しむ諸君…(無言の親指

チャド戦はガンテンバインが後出し解放なのに負けたり、その直後のノイトラ襲撃があったり何かと残念なんだよね…
許せ親友()、OSR値が足りないのだ

 



惨敗ィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

 見事な調度品が目を引く虚夜宮(ラスノーチェス)本宮の一室。窓より差し込む月光を見上げ、井上織姫は自分を奪い返しに来た仲間の無事を必死に祈っていた。

 

 

「──入るぞ」

 

 

 ノックの後、無感情な男の声が部屋に響く。少女の世話係のようなことをしてくれている十刃(エスパーダ)の一人ウルキオラだ。

 

「どうやら気付いたらしいな」

 

「…ッ」

 

 相変わらずの無表情で「ノイトラの莫迦が逸ったらしい」と事情を話す破面(アランカル)の青年。その名は確か別の十刃の一人だった。織姫は先ほど霊圧が消失したあの無口な巨漢の同級生を想い、唇を噛む。

 

「茶渡君は死んでないよ」

 

 無言のウルキオラに焦れ「死んでない」と繰り返す少女。彼より、自分自身に言い聞かせるように。

 

「…まあいい、昼食だ。食え」

 

 いつものように配膳をし、豪華な美食を用意してくれる破面の青年。だが魚介で華やかに彩られたトマトのパスタも、鮮やかな露の滴る新鮮なサラダも、今の織姫の目には色褪せた置物にしか見えない。

 

「藍染様のお声がかかるまで命を保つのもお前の務めだ。さっさと食え」

 

「…要りません」

 

 色褪せて見えるのは食事だけではない。目の前の青年も、それまで一方的に感じていた親しさが氷のように冷たく感じ、織姫は彼があの巨悪の一味なのだと否が応にも理解させられる。口は悪くても、あんなに献身的に自分の世話をしてくれた、このウルキオラさえ。

 

「何を物欲しそうな目をしている、女。俺に『お前を助けに来た連中は無事だ』とでも言って欲しいのか?」

 

「っ…」

 

「くだらん、俺はお前をあやすためにここにいる訳じゃない」

 

 両断。無感情な翡翠の双眸が織姫の甘えを拒絶する。

 

「俺は軍団長よりお前の身の回りの世話を命じられている。食事の配膳のマナーも、料理の説明も、全てお前を最上の待遇で迎え入れるにおいて必要なことだと手ずからあの方に教わった。それは偏にお前が我らの同胞として不便不利益を被ることのないよう、あの方が心を砕いてくださったからだ」

 

「それは…」

 

「今のお前は藍染様の軍門に下った我らの仲間。そして虚圏(ウェコムンド)へ侵入したヤツらは我らの敵。お前にあの連中の命を惜しむ理由も権利もない」

 

 淡々と語られるウルキオラの言葉が織姫の胸を締め付ける。どんな形であろうと仲間を裏切ったのは事実。そして連れて来られた虚夜宮(ラスノーチェス)では文明的で裕福な生活環境を与えられ、織姫は仲間たちの敵であるグリムジョー、そして雛森軍団長の傷を己の意思で癒した。

 そんな自分には、仲間の無事を祈ることすら許されないのだろうか…

 

「わからんな。お前らは何度も俺たちの力を目の当たりにしている。最初からこうなることは予想できたはずだ」

 

「…止めて」

 

「そして我々はお前にそれを回避するための、仲間との別れの時間を与えた。ヤツらがここに来たのはお前の優柔不断さと──ヤツら自身の愚かさにある」

 

 どこまでも正しく、そして残酷な言葉が織姫の心を蝕む。だが最後の一言だけは、彼女にとって決して看過できない侮辱だった。

 助けに来てくれた大切な仲間たちを、この人は…!

 

「お前は仲間の命を対価にヤツらを裏切り、四日前に最後のけじめを済ませた。連中はそれでもやってきた」

 

「…止めてッ!」

 

「俺なら、自分の力量差も測れずこの虚圏(ウェコムンド)へ乗り込んだ…」

 

 

 ──ヤツらの愚昧さを怒るがな。

 

 

 

 それは咄嗟の行動だった。

 刺すような痛みが右掌全体を走り、荒い息を繰り返す織姫はハッと直前の自らの行動を自覚する。

 

「…ぁ」

 

 目の前には微かに首を横へ捻り、石膏のような頬をこちらへ晒すウルキオラ。

 なんてことを。織姫は罪悪感から喘ぐように息を吐く。

 彼の言葉は全て正論で、それに感情的になった自分は思わず彼へ暴力を…

 

 

「…一時間後にもう一度来る。その時までに食っていなければ、お前の口の中に無理やりねじ込んでやろう」

 

 

 不愉快に思ったのか、それともこれ以上は無意味と判断しただけなのか。その無機質な目も声も表情も、彼の真意を何も伝えてはくれなくて。

 

 裏切りの負い目、傷付きながら手を差し伸べてくれる仲間たち、消えた茶渡君の霊圧、仲良くなりたかった親切な破面を叩いた自分。無数の葛藤に胸が引き裂かれる思いの織姫は、去り行くウルキオラの背中をただ泣きながら見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 …と、そんな高度ないちゃいちゃを披露するウルキオラと織姫の様子を映像端末でニヤニヤ視聴しながら、あたしこと雛森桃は密かにアーロニーロ宮から次の舞台へ移動していた。

 

(──うーん、若干余計な台詞はあるけど…織姫ちゃんがビンタに罪悪感感じてたり全体的にはウル織度高めだったから、ヨシ!)

 

 やはりここでも軽いガバが発生しているけど、今日だけで既に何度も経験しているあたしの達観は相当なものだ。先ほどの特大ガバに比べればあの程度どうと言うことはない。

 そう、先ほどのアーロニーロ戦と比べたら…

 

 

 アーロニーロ戦が原作通りルキア存命の相討ちで終了し、霊圧もチャドを失うノルマを達成した。だがあたしは鰤界有数の名イベント二つを生で観れた余韻を噛み締める間もなく、最後の最後で喜びの頂から突き落とされた。

 重要な〆のアーロニーロ懇願シーンが、なんか思ってたのと違ったのだ。

 

(…破面たちの好感度がおかしい。あたしはただ最初に彼らを飛梅で脅し過ぎたから、プラマイ0になるよう親しみやすく接しただけなのに…)

 

 元々あたしの破面たちへの…というか原作キャラへの好感度は最大である。故に嫌われるよりは好かれたいという思いがゼロだったとは言えない。

 

 しかし、あたしが破面たちへ優しくしようと決めた最大の理由は、あのノイトラとザエルアポロがあたしへの恐怖でネリエル闇討ちを自重したからだ。

 

(あの時は「まさかそんな理由で」って驚いて、その後から彼らが動きやすくなるようぽわぽわ桃ちゃんを演じ始めたんだっけ)

 

 もっとも演技などせずとも、シロちゃんとOSR値を意識しないあたしは元がぽわガバなアホの子である。

 尸魂界(ソウルソサエティ)では出来ない農園収穫や洋食料理の実験台に破面たちを巻き込んだり、彼らの原作衣装をデザイン&裁縫したり。そんな自然体でいられる虚圏(ウェコムンド)の生活環境に、あたしはついつい甘えてしまったのだ。

 

 だが今思えば、最初に暴力で脅し、その後何度も美酒や手料理を素の笑顔で振舞うなど…

 

『──どう見てもただの飴と鞭ですわね。この天然ジゴロ』

 

「飛梅…!?」

 

 突然脳裏に現れた呆れ顔のご聖体さま。勝手に人の考えを代弁しないでいただきたい。

 

「あたしのジゴロは天然じゃなくて養殖です。今回のは長年の短慮が招いたガバなのよ…」

 

『どっちでもいいわ……大体破面なんて虚上がりの情操知らずばかりなのだから、強者のプライドさえ砕けばあとは生まれたての子犬も同然ですわ。捻くれてるだけで』

 

「そう言われると思い当たる節がありすぎるんだけど…」

 

 一部例外もいるが、確かにチンピラ舎弟なヤミーやディ・ロイ、信奉者の域にいたネリエルやハリベルなど、虚圏(ウェコムンド)にはちょろい人たちがかなり多い。尸魂界の死神たちは完全に性欲や羨望であたしに惹かれてたけど、破面たちは何となく獣の群れの母親とか、そんな感じの懐かれ方だ。

 

 なるほど、今回のガバはあたしのあふれ出る母性に破面たちがバブ味を感じたが故のものだったのか。

 罪深いな…(ゆるん

 

 

(ふんだ、別にいいもんガバっても。どうせ原作通りになってくれないなら、あたしの「雛森ィィィィ!」に利用させて貰うだけだもん…)

 

 

 そもそも破面たちに関する全てのガバの原因は、ヨン様がこの"十刃軍団長"とかいう原作ブレイク職を作ったからだ。もっと言えばあの鬼畜が本来の原作ムーヴを殆どサボったからだ。よって、あたしは悪くない。

 

 最早この段階に至ってはどうしようもないことなので、桃ちゃん開き直ります。

 

 幸いドルドーニもアーロニーロも倒れた際、雛森桃についてポジティブに言及してくれた。これは【OSR値譲渡】という高度な特殊オサレ行動で、自身のOSR値を文字通り味方に譲渡する効果を持つ。

 おまけに彼らの最期の台詞は雛森軍団長を慕う言葉である。あたしが崩玉と鏡花水月による悪墜ちムーヴをするときのギャップOSRはさぞ際立つだろう。

 

 そしてそんな(スーパー)オサレ人になったあたしを、ヨン様が瞬殺する。

 OSR値絶頂のあたしがカマセと化すことによって宿敵藍染惣右介の強さが強調され、ラスボスに相応しい最高オサレマスターの地位が確立される。

 同時に、彼に斬られるあたしもシロちゃんの「雛森ィィィィ!」を誘発させる悲劇マスターの地位を得るのだ。

 

 誰も損をしない最高の一手である。

 

 

 

 さて、そうなると残りはラスボス藍染惣右介の聳え立つOSR値を突き崩し、乗り越える主人公が必要になってくる。

 黒崎一護だ。

 

(そろそろ彼とウルキオラの最初の戦いね。あの名シーンは鰤ファンとして絶対に見逃せない…!)

 

 あたしはどんどん壊れていく原作イベントの中で、未だ無事に再現される可能性が残るウルキオラ戦初戦を観戦すべく歩を急いだ。

 最悪例の台詞だけでいいから再現してほしい。「何……だと……」の派生形の最上位、是が非でも録音せねば。

 

 今行くからもうちょっと待っててね、二人とも!

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 驚いた。

 

 それが黒崎一護と戦う破面、ウルキオラ・シファーの正直な感想だった。

 

 

「──何……だと……」

 

 

 驚愕する死神の顔が彼の暗緑の瞳に映る。

 最初の現世任務以来、ウルキオラは己の王と上司にこの人間の生殺与奪の権利を頂いていた。内なる虚に呑まれ現世勢力と相打つなら良し、力を制御し我ら破面軍の敵となるも良し。たとえ並ならぬ潜在能力を秘めようと、それは自分を脅かす程のものではないのだから。

 

 しかし黒崎一護が手にした新たな力は、僅かながらウルキオラの強固な鋼皮(イエロ)に傷を付けるだけの破壊力を有していた。ウルキオラは相手を侮りすぎていたことを認める。

 だが。

 

「今のが、全力か?」

 

「あ、ぁ…」

 

 絶望に青褪め放心する黒崎一護。その反応は問いの答えを雄弁に語っていた。

 

「…そうか、残念だ」

 

 それは王の、上司の、そしてヤツと戦うことに微かな高揚感を覚えていた自分自身の本音。

 

 相手を指差し先端から虚閃(セロ)を放つ。特別な気合も何もない平凡な攻撃も、脆弱な黒崎一護にとっては致命の一閃に値する。仲間を抱えて逃げるボロボロな死神の背中を一瞬で追い、ウルキオラは敵の体を天蓋内の建物の一つへ叩き飛ばした。

 

 

「…大した反応速度だ」

 

 建物上層の一室。室内に散らばる瓦礫に埋もれていた黒崎一護へ賞賛の言葉を送る十刃。虚閃の防御に一瞬だけ例の仮面を出したのは意図的か、あるいは本能の類か。

 されどその持続性は最初の一撃より大幅に落ちていた。三度目の使用は不可能だろう。

 

「──誰が、諦めるかよ…!」

 

 その時、近付くウルキオラの胸元に黒崎一護の剣が突き当てられた。

 

「てめえが十刃のトップだろ。だったら、てめえを倒せばこの戦い、勝ったも同然じゃねえか…ッ!」

 

 黒崎一護が精一杯の虚勢を張る。見るに堪えない無様な姿だ。

 

 そこでウルキオラはふと、先日聞いた軍団長の言葉を思い出す。そして今ならば、この男の、あの井上織姫の心とやらが見えるやもしれん、と試したくなった。

 

「そうか、そいつは残念だったな」

 

 突き立てられた漆黒の斬魄刀を掴み、自ら衣服の胸元を破く。そこから覗いた数字が語る絶望は、黒崎一護の顔によく表れていた。

 

 

「──4……だと」

 

 

 その通り。彼の破面軍内での通称は破面No.4(アランカル・クアトロ)ウルキオラ・シファー。上から四番目の強さを有する十刃だ。

 それは同時に、たとえ自分を倒せたとしても更に三体の破面が上に居ると言うこと。黒崎一護が千度立ち上がろうと、こいつらの前に勝利はない。

 

「どうやら、俺はお前を買いかぶっていたらしい」

 

 左腕で男の胸を貫くウルキオラ。

 

 上司、雛森軍団長が大虚(メノス)破面(アランカル)化の参考にしたと述べた、"死神の虚化"の実例。あの方が…否、あの藍染様までもが注目する研究対象。確かに目を見張る成長速度だった。

 

 だがその黒崎一護も、ウルキオラという圧倒的な存在の前では(クズ)も同然。興味を引く"心"のありかも、それが齎す力も見せることなく、二人の戦いは幕を下ろす。

 期待したその進化は、ウルキオラの目論見には届かなかった。

 

「…その体でまだ動けるのなら、すぐにここから立ち去れ。動けないなら、そこで死ね」

 

 

 

 ──お前の道はここまでだ、死神。

 

 

 

 落胆の感情を場に残し、ウルキオラは井上織姫の下へと踵を返す。

 黒崎一護の死を知ったあの女が激しく取り乱せば、その"心"を見ることが出来るだろうか。仲間の死に奮起し、更なる力に目覚めるだろうか。

 

 この戦いにおけるウルキオラの関心は、最早それ一つだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

悦森の教育で若干織姫への当たりがマイルドなウル坊
つられて織姫の好感度も上がってちょっといじらしい感じに

尚悦森、遂に原作再現ガバは見て見ぬふりすることを決意した模様…仕方ないね!(自業自得


次回はGJ戦とDJ
お楽しみに

 
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