雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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超久しぶりに連続更新。

 



正義ィィィィ!

 

 

 

 

 

 全く、体が二つ欲しい。午前中の怒涛の原作イベントを追い駆けてあっちこっち忙しないあたしは今、急いで織姫ちゃんの部屋まで急行していた。もちろん気配は消してある。

 

(…やっぱり間に合わなかったかぁ)

 

 残念ながら辿り着いたときには、既に彼女はグリムジョーに攫われた後。マイナーなイベントはちゃんと原作通りになるらしく、ボロボロの織姫ちゃんルームではロリとメノリがうじうじしていた。彼女たちがクズなままの漫画版か、ちょっぴり改心アニメ版のどちらかはまた後で確認しよう。

 

 織姫ちゃんイベが終わってしまったのなら仕方ない。後は一護の治療でしばらく暇になるはずだ。

 それにそろそろあたしの監視当番の時間なので、この間に一度中央監視室で落ち着きましょう。目ぼしい原作イベントが少ない中弛みの正午前にシフトを入れたあたしの計画性が素晴らしい(尚ガバ

 

(今やってる対決はザエルアポロ戦か。あの戦いって殆ど技術SUGEEか能力TUEEEだからあたしのOPBにはあまり参考に出来ないんだよね…)

 

 もちろん名対決なのだが、ぶっちゃけ前半の見所は石田眼鏡の破芒陣(シュプレンガー)くらいなのでそこだけ映像で見れればいいかな的な思いはある。

 この暇な時間はとても貴重。あたしの桃玉変化のデザインについて飛梅たちと相談しないといけないし、決戦時のオサレ無双パターン、それまでの流れ、ヨン様カットまでの演技と鏡花水月スタブの決まり事の確認、等々。やるべきことは山ほど残っている。

 

 飛梅の精神世界で出来ることは後回しに、現実世界での用事を片付ける手はずを考えながら、あたしは本宮監視塔へと急いだ。

 

 

「──随分自由に動いているな、雛森」

 

 

 監視室へ入ったあたしを迎えていたのはむっすりしたDJのお小言だった。いや、一応死傷者の回収と治療という後方のお仕事してますけど。

 

「それは朝からずっとあたしのこと監視装置で観察してる藍染隊長と市丸隊長に言ってください。何だか着替えのときまで覗かれてるような気配がして凄く恥ずかしかったです…」

 

「市丸には注意したが彼は今藍染様のお側にいる。あちらのことは私には如何ともし難い、すまないな」

 

 DJの紳士っぷりに思わずホロリしつつ、やはり覗いていたのかと羞恥に赤くなるあたしと飛梅。くそっ、あの蛇野郎あとで覚えてろよ…

 

 まあでも一〇はそろそろ百年の悲願成就に動こうとしてる最中なので、最大の邪魔者なあたしの行動が気になるのは仕方ないかもしれない。元はといえばあたしのガバのせいだし、人間換算十五歳くらいの女死神の着替えを覗いた罪はシロちゃんと乱菊さんには秘密にしておこう。

 

 

 …しかし、そうか。一〇もDJもヨン様も、この四人で一緒にわいわい出来るのも今日で最後か。特にDJとは最悪今生の別れとなるかもしれない。

 

 復活させたいんだけど、やっぱり嫌がるかな。無理やりしたらめちゃくちゃ恨まれそう。説得材料がないワケではないが…あれほどオサレな死に様にケチを付けるのは凄く気が引ける。

 

 あ、覗き見蛇野郎は問答無用で生き返らせます。乱菊ソウルが入ってないヨン様崩玉を無意味に追いかけて名シーン再現して死んで復活してサイクロプスから奪い返して二人で幸せになって、どうぞ(一息

 

 

「そういえば更木隊長をこちらへ誘い込むのに鏡花水月は使われたんですか?」

 

 監視室に何故かシフトの終わったDJが残ったままなので、これ幸いとまずは雑談で場を繋ぐ。二人きりだし今後のことを相談するチャンスだ。

 

「ああ、そのようだな。山本総隊長の指示ならば違和感はあるまい」

 

「朽木さんたちの救援と、黒崎一護への恩返し、あとは護廷隊としての攻撃精神のアピールでしたっけ」

 

「隊長格六名以上の部隊の派遣だ。それくらいの理由は必要だろう」

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)に残してある隠密虚の情報網からは、無事原作面子の虚圏(ウェコムンド)強襲部隊が組織されたと報告が入っている。彼らは今、穿界門に集まって侵攻の手筈を確認している途中だ。

 

 

『……』

 

 雑談も終わり互いに沈黙。どうやらあたしだけじゃなくDJも何か話したいことがあるみたい。もっとも内容が内容なのでうまく切り出せないのもお互い様のようだ。

 

「…雛森」

 

「ッ、は、はい」

 

 先に口を開いたのはDJだった。あたしはつい緊張に背筋が伸びる。

 

 

「お前は…藍染様の剣を受けた後、何をするつもりだ?」

 

 

 二人で向き合う形となるあたしとDJ。ピリッと空気が張り詰めるが、意外と問い質すような怒気や敵意はない。五十年の付き合いで培った彼からの信頼は本物だった。

 

 しかしなるほど、そっちを先に聞くのか。ヨン様が忠臣DJに少しだけあたしの計画を話したのかな。"斬って"と頼んだのもかなり前のことだし。

 

 さて、あたしは無難に「零番隊との戦いに備えた破面軍の再編成」と答えて東仙の問いをはぐらかすことも出来る。だけど、やっぱりここは彼の復活に繋げられる…本当の答えの一つを述べるべきだろう。

 

 おそらくこれが最後の機会。覚悟を決めたあたしは口を開き、答え合わせと説得を最優先に、東仙要と相対した。

 

 

 

「はい。あたしは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 グリムジョー・ジャガージャックは滾っていた。目障りなウルキオラを閉次元へ追いやり、あの妙にフットワークの軽い女上司も何故か首を突っ込んで来ない。先月から幾度と戦いながら常に邪魔が入り決着はつかず仕舞いだった。

 だが雌伏の時も今日で終わる。

 

 

「──いいぜ、これを待ってたんだ! てめえを全力でぶっ潰せるこの時をよォ!」

 

 

 例の女に互いの傷を癒させた今、全力全開の両者の優劣を決することが出来る。その事実に昂る感情を抑えることなく、グリムジョーは相手の死神と斬魄刀を打ち付け合う。

 

「ハハハ! やるじゃねえか、以前とは別人だぜ! てめえも俺を潰したくて堪らねえんだろ、黒崎一護ッ!」

 

「…ッ、俺はてめえを潰しにここに来たんじゃねえ!」

 

 しかし力は増せど意識は変わらず。仲間を護るだの殺す気は無いだの温いことばかりを口にする死神へ、十刃は口角を吊り上げ問い掛けた。

 

「なら聞くが、てめえはなんであの女を目の前にしたときに連れて逃げなかった?」

 

「…ッ!」

 

「てめえは気付いてんだ。"仲間を助けるため"なんて下らねえモンじゃねえ、もっともっと根源的な理由にな」

 

 

 ──てめえはここへ戦いに来たんだ。

 

 

 息を呑む黒崎。その通り、ヤツには見えているのだ。死神と虚という相反する両者が遭遇したときに起きる、本能的な闘争の道筋を。

 

「最後まで立ってたヤツが生きて戻れる! それ以外の理由がいるかッ!」

 

「…!!」

 

 交差する虚閃(セロ)と月牙。だがグリムジョーの攻撃は容易く突破し、死神を追い詰める。

 

 少しずつ、少しずつ黒崎の顔から甘さが抜けていく。悪くない。十刃は己の渇望が満たされて行く感触を楽しんでいた。

 

「見せてやるよ、こいつが十刃のみに許された最強の虚閃だ…!」

 

 斬魄刀の刀身に指を這わせ、滴る血潮を触媒とした奥義。その青い閃光の射線上には黒崎と、仲間の女子供二人。

 

「ッ、待てグリムジョー!」

 

 

「──【王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)】ッ!!」

 

 

 鈍い爆音と共に巨大な霊圧の塊が三人を狙う。避ければ仲間が死に、受け切るには卍解を超える力が要る。

 

 

『──ッ』

 

 

 全力の黒崎一護との戦いを望むグリムジョーは、かくして男の最強の形態を引き出すことに成功した。

 

「ハハハハハッ! いいぜェ…待ってたんだ、この時をよォ!」

 

『てめえ、井上を…!』

 

「その仮面を剥がすんじゃねえぞ。俺たちの戦いの…ケリがつくまでなァッ!!」

 

 斬魄刀に左手の爪を翳し、引き絞る。刀剣解放にこれ以上ない状況だ。

 

 

「…軋れ!」

 

 

──豹 王(パンテラ)──

 

 

 

 体中に満ち溢れる膨大な力。銀の豹鎧に身を包んだ"第6十刃"グリムジョー・ジャガージャックは、己の全てで以て獲物を食い殺せる最高の戦場に、巨大な咆哮を轟かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
神森さん、DJと一〇の好感度の差が激しい。


支援絵頂きました!

far様の現場猫森さん
https://img.syosetu.org/img/user/15981/69790.png

現場猫…ガバガバすぎて開き直らないとやってられない雛森さん。
元ネタもそんな感じなのだろうとか思うと草ァ!

far様、素敵な支援絵大変ありがとうございました。


次回はグリムジョー戦後半です、お楽しみに!

 

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