雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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お待たせ、大好きなGJJJ戦です。
OPB的にも歴史的な【戦気鼓舞:織姫】のチート発動の瞬間でもあるので一度は原作かアニメで見てね!

ダラダラと原作シーンを描写してますが、作者の趣味だ。済まぬ

 


豹王ィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

 グリムジョーにとって先日の現世侵攻は屈辱以外の何物でもなかった。

 

 藍染惣右介の訓令に従い、雛森桃が立てた作戦に参加した彼は一月ぶりとなる黒崎一護との戦いに歓喜した。しかし前回の独断専行で仕留め損なった死神モドキは、片腕とは言えこの"第6十刃"を一太刀で膝を突かせるほどの桁外れな力を手に、彼を鎧袖一触した。

 

 だが二度目はない。

 

 腕を取り戻し、邪魔者もいない本宮の大天蓋下で、グリムジョーは全力の殺し合いに臨むべく遂に帰刃(レスレクシオン)の切り札を切る。

 

 

「──さあ、始めようぜ…ッ!」

 

 

 その造形は速度と殺戮性能を細身の四肢に閉じ込めた、鈍色に輝く豹の王。敵を狩る、ただ一点のみを追求した究極の獣性が黒崎一護へ襲い掛かる。

 

「どうした、そんなモンじゃねえだろッ!」

 

『ッ、速い…!』

 

 奇しくも自身の卍解に似た進化を遂げたグリムジョーを前に、一護は苦戦を強いられる。後ろの井上のためにもこの戦いは少しでも早く終わらせたい。虚の仮面を被った自分に怯える彼女の姿は、少年の胸に暗い影を落としていた。

 

「修行でもしたか、それともここまでの戦いで馴染んだか。いずれにせよ仮面の持ち時間が増えたみてえで何よりだぜ」

 

『……』

 

「前回みてえに五秒も持たねえで割れてちゃ…つまんねえからなァッ!」

 

 一護の卍解を左手の豹爪との迫り合いで封じ、もう片腕の五爪で彼の心臓を狙うグリムジョー。だが突き伸ばしたその右手は、死神の片手に握り潰された。

 

『…仮面が割れたらつまんねえか?』

 

「な…!」

 

『笑わせんなッッ!』

 

 跳ね上がる霊圧。瞳に残る最後の甘さが消え、殺戮衝動の獣と化した黒崎一護がそこにいた。

 

『こっちの台詞だぜ、グリムジョー。つまんねえから、その解放状態…解くんじゃねえぞッ!』

 

 押し勝ち、瞠目する十刃へ目掛け横に一閃。切り裂いた敵の胸元から噴き出す返り血を浴びながら、一護は自身の心が冷たく凍っていくのを感じていた。

 

 目の前の破面の荒ぶる霊圧を感じるたび、一護の中の戦闘衝動が増していく。本能で戦う獣に諭され、自身もまた獣へと変化していく。その快楽を自覚し認めてから、青年は己の力が急激に増しつつあることに気付いていた。

 

「喰らえ! 

 ──王虚豹鉤(ガラ・デ・ラ・パンテラ)

 

「…ッ!? 井上!!」

 

 怒涛の攻撃を交わす両者。だが偶然か必然か、グリムジョーが射出した切り札らしき肘の鏃が五発、射線上で呆ける仲間へ殺到する。

 彼女の【三天結盾】で防げる威力の技ではない。一護は無我夢中の瞬歩で井上を庇い、その背で絶死の礫を受け切った。

 

『……ッ!』

 

 仮面の眼孔を越えて、救いたい仲間と視線が交わる。青褪め立ち尽くす井上の怯えは何に対する恐怖だろうか。訊かずとも彼女の震える大きな目が、全ての答えだった。

 その瞳に映る一護は顔を伏せ、一瞥も残さず戦いへ舞い戻る。グリムジョーとの、剥き出しの本能をぶつけ合う獣同士の戦いへ。

 

「…助けんのは勝手だが、今のを喰らって大分息が上がったな。仮面の方も限界か?」

 

『ハッ、誰がだよ…! お前こそ相当ガタが来てるように見えるぜ』

 

「へっ、悪ィな…そいつァ見間違いだァッ!!」

 

 再開の挨拶に挑発を交わし、間髪を容れずにぶつかり合う死神と虚。太古の昔より定められた理に身を投じる一護の心は、思いも誇りも何もない暴力で戦う己を、哀しみと共に見つめていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「黒崎君…」

 

 暴虐的な霊圧を叩きつけ合う仮面の一護とグリムジョー。塔の上からそれを見守る井上織姫は、想い人の別人のような姿に強い恐怖を覚えていた。

 

 あの仮面の奥に覗く暗い目を見る度に、織姫は亡き兄のことを思い出す。最愛の家族が心を失い、恐ろしい怪物へとなり果てたあの悪夢を。失った幻想を追い求め、大切に思ってくれたはずの妹を、仲間のことを、まるで映してくれないあの淀んだ瞳を。

 

 震える体を掻き抱き、必死にトラウマを抑え込む織姫。変わり果てた彼の姿は、強敵から自分を助け出すためのもの。それなのに、あたしは…

 

 

「──がんばれぇーっ! 一護(いつご)ぉーっ!!」

 

 

 そんな織姫の耳に、突然隣から叫び声が聞こえた。目の前で戦う化物のような一護へ向けた、破面の少女ネルの精一杯の声援だった。

 

「何をしてるっすか! あんたも応援するっすよ!」

 

「…ぇ?」

 

「"え?"じゃないっす! 一護はあんたのために戦ってるっすよ! なのになんであんたが一護を怖がってるっすか!?」

 

 それは織姫の辛い葛藤を抉る言葉。沈痛に俯くことしか出来ない彼女へネルが言葉を重ねる。

 

 一護は死神の力を手にし、仮面まで被って大切な仲間を護ろうと命を懸けて戦っている。ただの人間の高校生の彼が。

 

「そんなの、苦しいに決まってるっす!!」

 

「…ッ!」

 

 仲間の、自分のために血塗れになりながら、心を蝕む悪霊の力を借りてまで戦う青年。それを…

 

 

「──あんたが応援しないでどうするっすかッ!」

 

 

 童女の悲鳴が、織姫の体を駆け巡った。

 そして少女はゆっくりと、遠くで死闘を繰り広げる一護の顔を恐怖の淀みのない目で見つめた。傷付き疲弊し、血反吐を吐いて強敵に喰らい付く、自分を助けに来てくれた青年の顔を。

 

 …そうだ。

 

 織姫は思い出す。最初はただ、みんなを守りたくてここへ来た。そのために仲間を裏切る覚悟も出来ていたつもりだった。だが彼らが助けに来たと聞かされた時、自分は心のどこかで喜んでしまった。強大な敵から彼らを守るためにウルキオラの手を取ったと言うのに。

 

 そして、仮面を被り、虚となった兄のような目をする一護を見て、恐くなった。あの時"愛"とは言葉ばかりの捕食行為で妹を喰らおうとした兄のように、一護も自分を助けるのは口実の一つで、本当はただ憎悪や衝動をぶつける相手を求めて戦っているのではないか。グリムジョーの言葉の通り、いつもの優しい黒崎君とは違う、ただ敵と争うことそのものが目的なのではないか、と。

 そんな、くだらないことをずっと考えていた。

 

(違う…)

 

 織姫は潰れそうな胸を押さえ、一歩、また一歩と一護の近くへ歩き出す。

 

 自分の本音は、そうじゃないのだ。助けて欲しいとか、彼のことが怖くなったとか、ホントはどうだっていいはずなのに…

 

「どうやら本当に限界らしいな」

 

『ハァ…ハァ…くそっ…!』

 

 塔の縁から、満身創痍でふらつく一護が眼下に見える。仮面は半ばも剥がれ落ち、感じる霊圧も弱々しい。それでも禍々しい力を纏い、戦い傷付く少女の想い人。

 

「…な…いで」

 

 違う。黒崎君が怖いんじゃない。自分が真に恐れていることは、そうじゃないのだ。

 

 あたしが本当に怖いのは…

 

 

 

 

 

 

「──死なないで!!」

 

 

 

 

 

 

 

 万感の思いを込めた、少女の原初の懇願が虚夜宮(ラスノーチェス)に木霊する。

 

 そしてもう一度、織姫と視線が、振り向き瞠目する一護と交差した。互いの瞳は変わらず片や恐ろしい虚の目で、片や恐れを孕んだ惨めな人間の目。

 

「…勝たなくていい…頑張らなくていいから」

 

 だけど、少女の恐れは、彼のその目ではない。交わる視線に、井上織姫はたった一つの、夢のような願いを乗せた。

 

 

「もう…これ以上──怪我しないで…」

 

 

 

 

 黒崎が仲間の懇願に戦場から目を離した。その隙を見逃さず、勝利を確信したグリムジョーは鞭の如き四肢で砂漠を駆け、右手の爪撃で死神の首を狙い澄ます。

 

 霊圧も落ち切っている。注意も散漫。一方こちらはまだまだ余力を残す状態。この一撃で全てが終わる。

 それが、誰の目にも明らかな絶対の未来だった。

 

 だが。

 

 

「…悪ィな、グリムジョー」

 

「なっ…!?」

 

 豹王の渾身の一撃は、まるで球技のように容易く掴まれる。

 

 

「どうも俺は──

 

 これ以上やられるワケにはいかないらしい」

 

 

 かくしてグリムジョーは、困ったような笑みを浮かべる満身創痍の黒崎一護の一振りで、ワケもわからぬままその足下に膝を突かされた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 ああ、何故今になって思い出す。あんな腰抜け共が口にした、くだらない敗北の言葉を。

 

 

 ──我らを喰え、グリムジョー。

 

 

 幾百の虚が混ざり溶け合い生まれる最下級大虚(ギリアン)。その中に、稀に溶け合って尚個を保つ者が現れる。その大虚は他の大虚を喰らい、中級大虚(アジューカス)へと進化する。

 

 中級大虚(アジューカス)となった者は更なる試練に立たされる。己の個を保つため、虚の原始的本能を誇示すべく永遠に同胞を喰らい続けなければならず、歩みを止めれば個を失い元の最下級大虚(ギリアン)へと不可逆に退化する。

 

 

『貴様が、我らの王となるのだ』

 

 

 最上位種へ上り詰めるために、我らを牽引する強大な力が必要だ。そう言いながら、ある日グリムジョーの前に五体の大虚が跪いた。

 

 それが、後に"第6従属官(セスタ・フラシオン)"となり、先月黒崎一護ら死神に討ち取られた群れの同胞たちだった。

 

 

 

「──ふざけんじゃ…ねえぞ」

 

 

 重い体に鞭を打ち、グリムジョーは敵の黒い刀を掴む。

 

『なっ…!』

 

「それで勝ったつもりか…この俺によォッ!!」

 

 くだらないことを思い出させた意趣返しを込めた一撃が、深く黒崎の脇腹を貫く。血を吐き驚愕するヤツは、されどその目に未だ希望の光を輝かせていた。

 

「…てめえはいつもそうだ。どんなに俺にやられても、どっかで勝つ気でいやがる。それが気に食わねえんだよォッ!!」

 

 グリムジョーの咆哮に怯むも一瞬。黒崎が彼の神速の連撃を捌きながら、挑発を返す余裕まで見せる。

 

『ッ、はっ! 人間如きに対等な顔されんのが気に食わねえってか!』

 

「人間も死神も破面も関係ねえ…! 俺を舐めた目で見やがる野郎は一人残らず叩き潰すッ!」

 

 腹立たしい男の顔面を蹴り飛ばし、大きく跳躍する十刃。力を求め、強さを求め、ただひたすら上へ昇ろうと天を睨み続ける。

 

「その手始めが、てめえだ! 黒崎一護ォォッ!!」

 

 それが豹王グリムジョーという獣の、飽くなき虚の渇望だった。

 

 

 

 

『──"諦める"だと?』

 

 

 長い旅の途中。

 幾年を背に引き連れたかも忘れたある日、不意に群れの大虚たちがそう口にした。常に精力的に狩りを続けていたはずの蠍大虚シャウロンに続き、牛大虚イールフォルトもその意見に追従する。

 

『悟ったのだ。俺たちは最上級大虚(ヴァストローデ)にはなれん』

 

 ヤツらは喰った虚が千を超えたあたりから力の増大を感じなくなったと告白する。糧とした数が三千に到達した今、これ以上は無意味だ、とも。

 最上位種になれるものとそれ以外とは、あるいは虚になる以前から分かたれているのかも知れん。それが群れの者たちの至った結論だった。

 

 くだらない。ついて来れないならその辺で野垂れ死ね。そう吐き捨て一人去ろうとしたグリムジョーは、直後シャウロンが言い放った言葉に足を止める。

 

 

『我らを喰って行け』

 

 

 厳格な低い男の声には覚悟があった。死にも等しい蠍の真意が気になり、豹王は背中で続きを促す。

 

『我らの果ては生まれた時から中級大虚(アジューカス)。お前はその先へ進む者だ、グリムジョー』

 

 西洋兜の如き仮面の奥に輝く鋭い眼光は、到底自身の王の糧たらんと身を差し出す献身者のそれではない。無論これまでの先導に対する恩義や感謝などでもない。そんなものは虚の感情ではないからだ。

 

 悟った。ヤツらは最初にそう言った。ならばこれは自らの死に意味を持たせようとする、中級大虚(アジューカス)にまで至るほどの強靭な"個"の矜持。あるいは群れとして育まれた獣らしい同胞意識による種の存続なのだろう。

 どちらにせよ、反吐が出るほどくだらない。

 

 どいつもこいつも腰抜けだらけだ。

 

 良いだろう。身を差し出すのなら、喰い尽くしてやる。そこに躊躇いも後悔もありはしない。

 

 

『俺が…王だ!!』

 

 

 仲間の血を顎から滴らせ、砂漠を歩むグリムジョーは空を見上げる。己の血肉となった腰抜け共へ、その"先"を見せ付けるかのように…

 

 

 

 

『──な、何だよ…ソレ』

 

 

 黒崎一護の震える声に牙を覗かせ、宙に飛び上がったグリムジョーはその十の爪に輝く巨大な霊圧の刃を振り下ろす。

 

「【豹王の爪(デスガロン)】…俺の最強の技だ。てめえはここで終わりなんだよ黒崎ィ!!」

 

『ぐっ…うううううッッ!!』

 

 五対の青白い光の切っ先が黒崎の斬魄刀と激突し、一瞬で後方へと吹き飛ばす。無様に転がる先にはその仲間たち。あの女を巻き込みヤツに無理を強いるのは最早グリムジョーのクセのようなものだった。

 

 だがその行為が、黒崎一護の最後の死力を引き出した。

 

「…てめえ言ったよな、俺が"手始め"だって」

 

「何だと?」

 

 右目を覆う眼孔を残し、仮面が剥がれ落ちた瀕死の死神。

 だが。

 

 

「俺も──そうだ!!」

 

 

 豹王の爪(デスガロン)の一爪に剣を突き刺し、斬り砕いたヤツの曝け出された左目は、人のソレになっていた。

 

「てめえの言う通りだ、俺はここに戦いに来た! てめえを倒すためにだ、グリムジョー!」

 

「チッ…クソがアアアアアッッ!!」

 

 霊子の足場で空を駆ける黒崎へ、豹王は再度五爪の霊刃を殺到させる。

 

「てめえを倒す! ウルキオラも倒す! ──藍染も倒すッッ!!」

 

「莫迦な…!」

 

 だがグリムジョーの自慢の大技を以てしても死神は止まらない。

 

「そしてルキアを…チャドを…石田を…恋次を…井上を連れ戻す!」

 

 ガラスのように豹王の爪(デスガロン)を砕き、一直線にこちらへ突撃してくる黒崎一護。

 

「てめえ一人に負けるワケにはいかねえんだよ!」

 

 

 

グリムジョオオオオッッ!!

 

 

 

 そして豹王は、自らの胸に届くその刃を、敗北を悟る憮然の目で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──もう一度、あなたが食べ残した(・・・・・)群れの同胞たちと共に"上"を目指せると言ったら…あなたはどうしますか?』

 

 

 

 

 

 …ああ、全く。

 

 てっぺんに一番近い勝者のクセに、あの時みたいにいつもそうやって俺たち敗者(ホロウ)の気持ちを見抜くあんたが、大嫌いなんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

グリムジョーって意外と義理堅いというか、猫に餌あげる不良的な優しさがあるよね。

 
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