雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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四人ィィィィ!

 

 

 

 

 

「…いやァ、相変わらず桃ちゃんの余興はオモロイですね」

 

 

 虚圏(ウェコムンド)の支配者、藍染惣右介の座す玉座の間。中央監視塔を凌駕する情報集積施設でもあるこの大空間に、三人の男がいた。

 玉座に腰掛ける魔王と、左右に侍る副官。一同の視線の先には、激戦を終えた二つの人影を映す精細なホログラム映像が浮かんでいる。

 "十刃"(エスパーダ)のグリムジョー・ジャガージャックと、彼を下した侵入者の黒崎一護だ。

 

 仲間の少女たちと勝鬨を上げる勝者を見つめ、冷笑の王が口を開く。

 

 

「面白いか。そうだね──実に良く出来た戯曲だ」

 

 

 それは先ほど死闘を繰り広げた両者を評するに相応しい形容文ではない。しかしこの場にいる主従の三人にとって、それ以上に適した比喩はなかった。

 

「ホワイト、元十番隊長さん、滅却師(クインシー)の女の子、ルキアちゃん、グランドフィッシャー、大虚(メノス・グランデ)、阿散井クン、朽木隊長、グリムジョー……ホンマ知らぬは仏やなァ」

 

「…私の知る限りではウルキオラとも因縁を作らせていた」

 

「ひゃあ、恐い恐い。一体どこまであの()の掌の上なんやろ」

 

 副官、市丸ギンと東仙要が画面の青年を俯瞰する。

 

 二ヶ月未満でただの人間から十刃(エスパーダ)を倒すほどに成り上がった人間の青年──黒崎一護。その成長と活躍の一切が藍染惣右介のための余興だった。

 

 青年の才能の源である寄生型虚から始まり、貴種の両親の出会い、生誕、死神の力への覚醒とそれらを完全とする尸魂界(ソウルソサエティ)での激闘。

 その後も破面(アランカル)軍を使い彼に己の力不足を自覚させ、新能力である虚化の試運転の機会を与え、そしてここ虚夜宮(ラスノーチェス)での戦いでそれを完成させる。

 

 これまでの戦いの全てが、黒幕に敷かれた一本のレールの上。演出された英雄譚だった。

 

 

「──おや?」

 

 畏怖と感嘆の想いにふけっていると、気付けば画面内の事態が大きく動いていた。

 グリムジョーとの戦いで疲弊した黒崎ら一党を、"第5十刃(クイント・エスパーダ)"ノイトラ・ジルガが奇襲したのだ。

 

「こらあかん。あの子、死ぬんとちゃいます?」

 

「……」

 

 新手の十刃に蹂躙される青年を見て、隣の上司の反応を窺う市丸と東仙。だが、全てを見据える魔王の目は、別の映像へ向けられていた。

 

「おかしなことを聞く、ギン。それは彼女が自ら生み出した道化を無価値と疑うに等しい杞憂だ」

 

「…確かにのんびり見てはりますね、あの娘」

 

 玉座で寛ぐ藍染に促され、市丸と東仙は隣の副画面へ視線を移す。

 

 そこに映っているのは、ドレス状の白死覇装を纏った一人の女の子。戦闘を観戦しながら幼げな美貌をキラキラ輝かせる彼女こそ、主たる藍染に仕える市丸ら三重臣の最後の一人。五十年に亘り精力的に暗躍を続け、黒崎一護の人生の徹頭徹尾を握り弄ぶ無邪気な悪女だ。

 

 そしてその悪女の余裕の通り、絶体絶命の青年は九死に一生を得る。

 

「まさか、今までのネリエルの進退は全てこのためだったのか…?」

 

「…嘘やろ?」

 

 東仙と市丸は目の前で起きた出来事に絶句するしかない。まさにここぞという完璧なタイミングで、それまで記憶に霊圧すら失っていた童女が本来の力を取り戻し、黒崎一護を守ったのだ。加えその敵が彼女、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクの因縁の相手というおまけ付き。

 

 藍染惣右介の述べた"戯曲"の二文字。それはまさしく、黒崎一護を取り巻く世界そのものを表すに最も相応しい言葉であった。

 

 

「──要、ギン」

 

 

 戦慄する副官らを尻目に、魔王が鷹揚に右手を振る。その合図で新たなホログラムが三人の前に現れた。

 

「我らの虚夜宮(ラスノーチェス)、最後の役者の入場だ。彼らの演舞を皆で楽しもうじゃないか」

 

「…!」

 

 映像に映る、見知った六人の護廷隊隊長格。尸魂界有数の強者たる彼らの姿を虚圏に確認した藍染惣右介は、そして中央監視室を映す副画面の主へ、変わらぬ重厚なバリトンで呼びかけた。

 

「ああ、そうだ。君もこちらへ来るかい?」

 

 

 

 ────桃。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『…大丈夫。すぐ終わるから』

 

 

 原作名シーンを堪能中、呼ばれて飛び出て雛森ちゃん。

 ネリエルvsノイトラの途中で、あたしが当番の中央監視室が新たな侵入者の霊圧を感知した。ようやく虚圏へ突入した更木剣八ら尸魂界援軍の主力である。

 

 するとほぼ同時に玉座の間のヨン様から「一緒に観戦しよう」とのお誘いが来たので、桃ちゃんホイホイ参加する。一人自由にOPB観戦もいいけど、せっかくだしあの魑魅魍魎三人衆との時間を大事にしたいと思った矢先の渡りに船だった。みんなで原作イベント観賞しましょ!

 

 

「──よく来たね、桃」

 

 

 訪れた玉座の間では、例の扁桃形ホログラム映像を眺めるヨン様がオサレな玉座にふんぞり返っていた。横には覗き魔一〇と大天使DJ。あたしは不審者を無視し、チラリと東仙の顔を窺う。

 気になる彼の反応は、こちらの一瞥に少し顔を伏せるだけだった。

 

(…よかった、少なくとも憎まれてはいないみたい)

 

 先刻の説得で最低限の成果は上げられたと確信したあたしは、迷わずDJの隣に立つ。すると一番距離が離れた一〇が被害妄想にぶつくさ言い訳を始めた。

 

「そない拗ねんで、桃ちゃん。この一大事に女の子が一人無防備に動いとったら気になってしゃあないやん?」

 

「…雛森、この手の輩は反省とは無縁の人でなしだ。気を付けるといい」

 

「酷いわァ、東仙隊長。それやったらボクと一緒に桃ちゃんのお着換え見てはった藍染隊長も同罪やん」

 

「…藍染隊長?」

 

 そしてまさかのヨン様ギルティにあたしは強張る体で振り向く。顔の朱は必死に耐えた。

 だが返ってきた彼の謝罪は殊勝とは程遠い、ニッコリ暗黒微笑だった。

 

「すまないね、桃。不可抗力とはいえ日番谷隊長にも悪いことをしてしまった。後程謝罪を入れるとしよう」

 

「!」

 

 な、なんてことっ。そんなNTRムーヴをしたらシロちゃんの魅力が輝…じゃなくて、彼の顔が曇ってしまう!

 まさか"女子の着替えの覗き"という低俗極まりない低OSR値行動のマイナスをそんな方法で回避するとは、流石は憧れのオサレマスター。くっ、これは許さざるを得ない…!

 

「…年頃の乙女のクセしてセクハラの許容基準が酷すぎひん? この娘」

 

「雛森の外見詐欺は今に始まったことじゃないだろう」

 

「あァ、帰刃した東仙さんのあの反応は腹抱えましたわ」

 

 外野がなんか言ってるが桃ちゃん無視。つかいつまでこの話してんだこいつら、はい終わり、閉廷、解散!

 

「それより尸魂界の援軍ですよ。暇な今の内にジャミング装置を起動したいので、もう始めてもいいですか?」

 

「へえ、そんなモン用意してたん?」

 

「…市丸、君はもう少し技術面でも我々に貢献しろ」

 

 そう、剣ちゃんたちの虚圏幽閉だ。特にマユリ様を放置すると勝手に虚の解空(デスコレール)能力が解析されてしまうので、出来れば早めに黒腔(ガルガンタ)内部に霊子ジャマー装置で妨害ノイズをばら撒きたい。

 

「ああ、構わないとも。君の好きにするといい」

 

「あ、はい、藍染隊長。ではポチッと……うん、成功ね」

 

「軽すぎィ」

 

 何を言う一〇。操作が無駄に専門的だと装置のOSR値が高くなりすぎてマユリ様が黒腔(ガルガンタ)を解析出来なくなるだろ。主人公が空座町決戦に間に合わないとか再走レベルのガバである。

 

 そうこうしていると早速援軍の剣ちゃんが一護の方角へすっ飛んで行った。そしてネリエル戦も佳境に突入。あたしはウチの数少ない女性陣の極めて珍しい無双シーンをお局様目線で観戦する。

 

『…【翠の射槍】(ランサドール・ヴェルデ)

 

『く──そがあああああッ!』

 

 …うん。

 いや、確かに無双ではあるんだけど、未解放の下位序列の相手を帰刃で甚振るのってあんまりオサレじゃないよね。登場&正体明かしシーンが「おおっ!」ってなっただけに、大人状態の持続時間を気にして先に刀剣解放してしまったのは致命的。

 OPBで結果を急ぐのは敗北フラグなのだ。

 

『…ふへ?』

 

『ネル!?』

 

 そして原作同様、突然ポンッという間抜けな音と共にえちえちネリエルが子供の姿に戻ってしまった。ネルちゃんを足蹴にしてイキるノイトラのお仕置き内容を考えながら、あたしは時間制限系能力の扱いづらさを改めて噛み締める。

 

『ぅあ"あ"ああああッ!!』

 

『ッ、くろ──』

 

『ペェ~~ット、黙れよ。てめえの仕事は、てめえを助けにきた男が汚ねえ肉片になる姿を見ることだぜ?』

 

 そして従属官(フラシオン)のイケメンテスラが先に刀剣解放&帰刃ダサい&負傷者甚振りのフルコンボでフラグを立てたところで……あの男が現れた。

 

 

 

『──何だァ? 死にかけてんじゃねえか、一護!』

 

 

 

 ピンチの時に救いの手が差し伸べられてこその主人公。

 更木剣八、殺戮者のエントリーだ!

 

「…ホンマ一々都合のええときに助けが来はるなァ、黒崎クンは。桃ちゃんも色々布石打っとるけど、それをあの子自身がちゃんと活かせとるのが不気味でしゃーないわ」

 

「あれは黒崎一護だからこそ活かせる布石ですから。他の人に同じようにお膳立てしてもあの人ほどの活躍や強運には繋がらないと思いますよ」

 

「桃ちゃんの寵愛やなんて、ボクもあやかりたいモンやなァ……後が怖いけど」

 

 一〇はそう言うけど、戦闘時に起きる一護くん有利な現象は決してただのご都合主義ではない。あれは複雑なオサレシステムの計算の上に成り立つれっきとした世界秩序の一つだ。特にこの世界ではヨン様のサボりとあたしの介入で余計に人為的な後押し感が強くなっている。

 

 百年も復讐の機を窺い続ける市丸ギン。果たして先ほどの言葉はただの冷やかしか、それとも本心か。鰤ファンとして原作名シーンの再現を狙うあたしはガバが怖くて相槌すら打てないが、命は拾ってあげる(物理)ので彼には存分に復讐チャレンジしてほしいです…

 

 

「…ノイトラが解放するようだな」

 

「更木隊長、楽しそうやなァ」

 

 その後も青空の天蓋下での戦いは続き、剣ちゃんが解放ノイトラとの斬り合いに満足しつつも出血多量で萎え始める。

 そして、あの伝説の台詞が出た。

 

 

『知ってるか? 剣ってのは…

 

片手で振るより両手で振った方が強ェんだとよ』

 

 

 いやーこれぞBLEACH! ゆで理論をあたかもリアリティがある風に錯覚してしまう現象。オサレユーモアだ。

 

「…何言うてんねや? 斬魄刀に片手だの両手だの、そないな刀剣の常識なんてあらへんよ」

 

「言ってやるな、市丸。あの獣にとって斬魄刀とはただの太刀なのだ」

 

 もっとも原住民の一〇DJには不評らしい。特にDJは他者から受け継いだという巨大なハンデを乗り越えて斬魄刀をものにした人だし、自身の魂の現身すら解放できない剣八には正義云々抜きで腹立ちがあるのだろう。

 

 やれやれ……では鈍い彼らにオサレユーモアの何たるかを啓蒙してください、更木隊長!

 

 

『…知らねえだろ、どのくらい強さが違うのか──』

 

 

 そして振り下ろされた一太刀で、更木剣八は全力の帰刃"第5十刃"ノイトラ・ジルガを瞬殺した。

 

「バカな…」

 

 むふふ、DJの絶句が自分のことのように心地よい。いつもいぢめられてるあたしが知識的優位でドヤァ出来るのだ。細やかな優越感が刺激されて真にベネ。

 

 やっぱり気心知れつつも、原作キャラらしいメタ知識のない彼らとイベント観戦するのは楽しいな。

 

 

(ああ、でも…)

 

 

 虚夜宮(ラスノーチェス)で暮らし始めてから毎日一緒にいたヨン様一○DJあたし。

 そして、恐らくこれが落ち着いて四人揃う最後の瞬間だと思うと、胸が切ない…

 

 最初は如何にヨン様に失望されて捨てられようかとか不毛なことに躍起になってたけど、途中で開き直って直接「斬って!」とお願いしてからは、完全にヨン様一味があたしの居場所になっていた。

 

 あのラスボス藍染陣営で色々暗躍するという、鰤ファン垂涎の立場。雛森ムーヴで主人公サイドの護廷十三隊に所属しながら、陰で敵対しているというドキドキ。ヨン様や一〇の雛森虐めで遊ばれるのも、DJとの虚研究や農園&料理も、何だかんだで楽しかった。

 

 それこそシロちゃんの周囲を除く、祖国尸魂界(ソウルソサエティ)での生活よりも。

 

 

(…まあ最初から終わりの見えてる関係だったけどね)

 

 DJは小説での台詞からどっちみち最後は自殺するつもりだったらしいし、一〇は乱菊さんの魂魄を奪い返して復讐。あたしに至っては逆に殺して貰うために一味に入ったり、原作再現でヨン様敗北のために動いたり、ホント好き勝手やってる。

 

 …うん、コレでよくあんなに和気藹々できたなウチの組織。原作では殺伐としてたのに美少女(ガワ)が一人加わるだけで凄い変化だ。褒めてほしい。

 

 

 

 

 

 

「──さて、時間だ」

 

 

 

 

 ノイトラが敗北し、浦原喜助の開けた黒腔(ガルガンタ)も封鎖した。戦術の基本たる敵戦力分散が十全に成された今、遂に藍染惣右介が玉座を立つ。

 

「桃、織姫をここへ」

 

「…お任せを」

 

 思わずニヤリとしてしまいそうな唇を何とか堪え、あたしは深々と一礼する。

 

 もう直ぐ、もう直ぐだ。運命の十一月一日の午後。原作BLEACHで最も有名で人気の大戦闘…

 

 

 

 

 空座町上空決戦(からくらちょうじょうくうけっせん)が、始まる──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






もうちょっとだけ虚圏篇。
その後はいよいよ…

お楽しみに!


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