雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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お ま た せ ♥(出ニチャァ

遅ればせながら前回から約三カ月ぶりにUSJ(ユーエツジェー)を再開いたします。章最後まで毎日投稿を頑張ります。
全6話を予定してますので、最後までお付き合いをオナシャス!センセンシャル!

ではまずは冒頭部です。

 


軍勢ィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪われている。

 

 あいつは、雛森桃は、世界という残酷な理不尽に。

 

 

『──ふざけんなァアアア!!』

 

 あの地獄の再会から三日。四番隊及び十二番隊の四肢再生治療を終え目覚めた少年──日番谷冬獅郎は、荒れに荒れた。

 

 彼の寝ている間に事は取り返しのつかないところまで進んでいた。期待していた虚圏(ウェコムンド)侵攻部隊は既に出陣した後。自分は無理やり空座町防衛部隊に回され身動きが取れない。

 そして何より、前の戦闘報告を受けた再建中の中央四十六室が決定を下してしまった。

 

 ──雛森桃を抹殺せよ。

 

 首謀者藍染惣右介は無論の事、あの市丸や東仙と同じ逆賊として尸魂界(ソウルソサエティ)最高意思決定機関より誅殺指令が出された事実は冬獅郎を悲憎の鬼へと変える。

 

『死ねクソ貴族共! くたばれ穴倉のカス野郎が! 何が"断固たる意思"だ! 皆殺しにされてまだ懲りねえのかくそったれえええッ!!』

 

『それ以上はダメです隊長! 後で絶対みんなで減刑してもらうよう直訴しますから…!』

 

 少年の暴言を聞いてしまわぬよう耳を塞ぎながらも、護廷隊士は皆が同じ思いを抱いていた。

 四十六室の強気な苛断は、藍染惣右介の乱にて一度崩壊した自らの権威を誇示する意図が大きい。碌な審判が開かれていないのは前の虐殺から未だ日が浅い故当然で、同時に面子の問題が関わってしまったこの決定を覆す難しさは誰の目にも明らかだった。

 

 そして話を更に悲劇化させたのが、浦原喜助が上げた一つの意見書。

 

 ──雛森桃の魄内に【崩玉】の反応あり。

 

 それはおぞましい人体実験の存在を臭わせる驚愕の内容。浦原自身が朽木ルキアに行った魄内封印ではなく、超物質との"魂魄融合"の可能性を示唆するものであり、対象となった魂魄には想像を絶する変化が起きると言う。

 無論、それが雛森桃自身が望んだ事かどうかなど、前回の彼女との再会時を思えば是非もない。

 

『殺してやる…殺してやるゥゥッ…

 藍染エ"エエエエ"ンン!!』

 

 四十六室の決定を如何するか。崩玉を如何するか。

 

 浦原喜助は「策がある」と秘密裏に冬獅郎に協力を要請してきたが……決戦を目前に、雛森桃を救う道筋は、依然として不透明なままだった。

 

 

 

 

「────てめえは…十刃(エスパーダ)だな? 雛森は無事なんだろうな…!?」

 

 

 心晴れぬまま開戦を迎えた十月十四日の正午。現世に展開した偽空座町にて冬獅郎が相対したのは、ティア・ハリベルと名乗った色黒の女破面。

 卍解の全力で挑んでなお劣勢に追い込まれるほどの強敵は、やはり少年の求める答えを知っていた。

 

「軍団長が健在でなければ十刃は解隊される」

 

「…そう、か……ならあいつは……よかった──」

 

「だがお前たちがあの方に逢うことはない。私を倒さん限りはな…!」

 

 幼馴染の無事に安堵した冬獅郎が気を抜いた一瞬の隙。敵の超然とした態度が一変し、ハリベルが強い感情と共に斬魄刀を解放した。

 

「…()て」

 

 

──皇鮫后(ティブロン)──

 

 

 水流の合わせ貝が女の全身を覆い隠す。そして霊圧の激増と共に水塊を斬り裂き現れた十刃は、口元の仮面の名残を捨て去り、流線形の大剣を片手に構えた姿で佇んでいた。

 

「諦めろ少年、雛森様の心は我等と共にある」

 

「ッ、ふざけんな…!」

 

 剣を打ち合う度に、今まで戦ったどの敵よりも重い一撃が冬獅郎の心身双方を軋ませる。幼馴染の不幸で積もりに積もった不安と焦燥は冬獅郎の心を深く蝕んでいた。

 

「チッ、よく解ったぜ……雛森に懐いてるてめえらの存在も、藍染があいつを捕らえるために用意した檻だってことがな!」

 

「…安い挑発だ。私はあの方のお望み通り、藍染様のご命令を第一に考えている。あの方の重荷になってなどいない…!」

 

 女破面の言葉に少年は息を呑んだ。こいつらは本当に雛森を上司として畏怖し、中にはこのハリベルのように敬愛を抱く者までいる。虚すら惹きつける幼馴染の人間的魅力を誇らしく思うと同時に、冬獅郎はそこに明確な焦りと苛立ちを覚えていた。

 

「そうか、藍染が一番か───だったら三日前に雛森がヤツの外道な実験で死にかけたって事も当然知ってんだろうな!?」

 

「…ッ!?」

 

 見開かれる翡翠の瞳。

 だが敵も然る者。一瞬で動揺を鎮めたハリベルが、感情をぶつけるように冬獅郎へ霊圧を叩きつけた。

 

──波蒼砲(オーラ・アズール)──

 

「ぐァッ…! く、そ…っ!」

 

「…進化には犠牲が必要だ。その実験とやらの話は聞いていないが、確かに雛森様は更なる力を手に入れられた。あの方に相応しい、畏るべき強大な力だ…!」

 

「て…めえッ!」

 

 女破面の言に激昂する少年。その力の代償にあいつがどんな目に遭ったと思ってやがる。

 あの震える華奢な両肩が、凍える肌が、そして…爆ぜたあいつの血の感触が。全てが覚めぬ悪夢の如く冬獅郎の脳に焼き付いているのだ。

 

 …あれが、"犠牲"だと?

 

「ふざけんな! 俺が冷静でいられるうちにさっさと雛森の居場所を吐け!! 俺はあいつを…

助けなきゃなんねえんだ!!」

 

 そして激情に支配された冬獅郎は、凍える曇天へその刃の切先を突き立てた。

 

「ッ、まさか…!」

 

「…喋る口だけは自由にしてやるぜ…破面ッ!」

 

 

──氷天百華葬(ひょうてんひゃっかそう)──

 

 

 降り注ぐ氷の蕾が敵の肌で花開く。一輪、また一輪。

 そして百輪の華が咲き終えた時、"第3十刃(トレス・エスパーダ)"ティア・ハリベルは、暗雲を貫く氷華の塔と化していた。

 

 

 それは今の日番谷冬獅郎が満足に使える、最強の大技。如何な強敵と言えど抜け出す事は容易ではない。

 冬獅郎は残心も、荒い息を整える間も惜しみ、敵の尋問に逸る。

 

「シャウロン・クーファン……ヤミー・リヤルゴ……ルピ・アンテノール……全員邪魔されて何一つ聞き出せていねえんだ。てめえこそは絶対に答えて貰うぜ…!」

 

 そう問い詰めるも、女破面は目を閉じ黙したまま。苛立つ冬獅郎は霊圧を一気に高め恫喝しようと口を開ける。

 

 だが。

 

 

「───時間か……申し訳ございません、雛森様」

 

「ッ、何だと? どういう───」

 

 女が冬獅郎の幼馴染へ謝罪の言葉を述べるのと同時。

 

 偽空座町の上空に、巨大な黒腔(ガルガンタ)が開いた。

 

 

 悪夢の始まりを告げる、魔界の雄叫びと共に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───二人とも見ろ、この瑞々しい紫黒の茄子(ナス)を』

 

 

 それは十年以上前の、藍染農園での一幕。初めて収穫が成功した感動的な思い出だ。

 

『丹精込めて育てた野菜を収穫する時の幸せは何事にも代えがたいな…』

 

『わかります東仙隊長っ! 土壌を育て、種を撒き、何年も何十年もかけて芽吹いた芽を見守り、実る果物(・・)を収穫する時の快感を想像するだけで、あたし、あたし……もうっ』

 

『そうだろう。わかってくれるか雛森』

 

『はいっ!』

 

『……あれ、これボクがツッコミせなあかんの?』

 

 

 DJ一〇と語り合った熱い思いが蘇る。全ての人にとって、やはり手間暇かけて育てた果実を収穫するのは特別な気分になれる瞬間なのだ。

 

 

 

 そして今。

 あたしこと雛森桃は、百五十年をかけて育てた果実の二期果の収穫を目前にしていた。

 

 

『──シロちゃんだシロちゃんだシロちゃんだシロちゃんだシロちゃんだ──待っててねすぐにもっともっともっともっと曇らせてあげるから──ハアハアハアハアハアハアハア──』

 

『黙りなさい石屑っ、喧しくてあの氷蜥蜴の悔しそうな声が聞こえないじゃない…!』

 

 いつもケンカしてる飛梅&桃玉コンビも、この時ばかりは仲良くあたしの視界と感情を共有し悦に浸っている。全く、もう少しあたしみたいに気品ある振る舞いをしてほしい。主として恥ずかしいわ。

 

『ちょっと主様、お顔が崩れてますわよ。はしたない』

 

 …これは崩玉洗脳ヒロインムーヴです。あなたたち自由人と一緒にしないでちょうだい。

 

 そう! 今のあたしはヨン様の邪悪な企みで狂気に染まった女の子…という設定のムーヴ中。よって少しくらいは普段隠している不健全な愉悦嗜好を表に出しても許されるのだ!

 

 

「────ふふ、くふふっ」

 

 

 ぐへへ、普段なら絶対に我慢する嗤い声もこの通り。ああ、抑圧された本性を、趣味を、価値観を自由に曝け出せる素晴らしさ。精神的マイノリティーに自由を!

 

 …ふう、落ち着きなさい。BE COOL(死語)なのよ、雛森桃。

 

 大丈夫。さっき最高のウル織を虚夜宮(ラスノーチェス)で見て来ただけあって、今のあたしの心は素晴らしく満たされた状態にある。あの桃玉爆発事件でのシロちゃん再会もまだ三~四日前で、それなりのシロニウムは摂取済み。

 今日のこの『メインシロちゃんタイム』でも、流石に何もしていない現段階で感情が暴走するなんてことはないはずだ。

 

 さあ、まずは食前酒。あなたのお顔を見せて、シロちゃん?

 

 

 …チラッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ニ チ ャ ァ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……主様、今の内からそんなゲス笑いしてたら氷輪丸の少年が死んでしまいますよ』

 

「──ハッ!」

 

 飛梅の声で我に返ったあたしは慌ててシロちゃんから目を逸らす。

 

 な、なんてこと。たった一瞥しただけでこのあたしの強靭な理性を破壊するほどの輝きだとは。

 シロちゃん、恐ろしい子…!

 

 御機嫌な桃玉が生み出すとんでもない霊圧を抑えて、あたしは気持ちを落ち着かせる。だが一度目が合ってしまったあの子は、掠れる悲愴な声で、感情的限界ギリギリなあたしの心にクリティカルを与えて来るのだ。

 

 

 

 

 

「────ひな……もり……」

 

 

 

 

 …

 

 

 あああああもおおおおおおおシロちゃんすきすきだいすきあいしてるうううう!! 何その声! 何なのその泣きそうな顔! あたしを悦殺する気か貴様ァ!

 

(だ、ダメ…っ! 我慢、我慢しなきゃ…!) 

 

 耳までつり上がりそうな口角を死に物狂いで堪えるあたし。飛梅の言う通り、これからのムーヴは慎重に行わないとシロちゃんの精神力が持たずあの子が廃人化しかねないのだ。それは絶対にいけない。

 

 一〇によく勘違いされるのだが、あたしの目的は断じて小説のゲス灘のように人が絶望し嘆く姿を見て悦に浸ることではない。それは自分の劣等感を誤魔化すための自己愛撫。BLEACH転生を最高に愉しんでいるあたしにとって、そんなものは何の魅力もない類の愉悦である。

 

 あたしの愉悦の根底にあるのは、日番谷冬獅郎へのキャラ愛。たまに手段と目的がひっくり返る時もあるけど、全てはシロちゃんの一番の魅力である"曇り顔"を引き出し、彼の最高の輝きをこの目で愉しむため。あの子の心を壊すことの一体どこに愛があると言うのか。

 

 だからこその我慢。人は愛ゆえに胸を痛め、苦悩するのだ…

 

 

「……二人とも、お仕事ですよ」

 

 イイこと言った気分のあたしは、感情がこれ以上昂る前に"台本"を進めることにした。

 早速と言わんばかりにワンダーワイスが突撃して浮竹さんを瞬殺。山爺戦を見越したOSR値稼ぎイベント回収だ。

 フーラーくんも山爺の【城郭炎上】を死虚息吹(レグウェルド)で鎮火し数少ない原作活躍シーンを無事再現。

 

 戦場では初手ワンダーワイスの雄叫び(ヴァヒード)で解放されたハリベルが暴れるシロちゃんを牽制し、バラガン爺も砕蜂のミサイルにあたしの梅焔を幻視し怒り爆発。スタークがなんかかなり容赦なく京楽さんに虚閃をぶち当ててたけど…まあ流石に次期総隊長を倒すのは無理だろう。うむ、ガバは大丈夫そうだ。

 

 そして、呑気に観戦していたヨン様DJ一〇の三人が自由となった時。まるで今までずっとスタンバってたかのように…

 

 

 

 

「────久し振りやなァ、藍染」

 

 

 

 

 読者(あたし)の期待を裏切ることなく、作中有数のオサレ集合絵そのまんまのオサレポーズで、平子さんたち仮面の軍勢(ヴァイザード)が登場した。

 すごくかっこいい(小並感

 

 

 

 …さて。「雛森ィィィィ!」が目前だけど、興奮して忘れてはならない点が一つ。それは対ユーハバッハ戦(と言うか世界の崩壊阻止)のために、一護をヨン様に勝利させないといけないことだ。

 

 その準備にこれからあたしは悲劇のヒロインムーヴに加え、可能な限りOSR値を沢山稼ぐ必要がある。前回みたいな単純な霊圧の無双で終わらせてはならない。さもなくばOPB的にヨン様に原作通りの【敗北フラグ】が立ってくれないのだ。

 

 OPBボス戦専用計算式【決戦システム】を知る諸君に説明は不要だろう。主人公・ヒロイン・敵ボスがそれらしくある値──【MPT(主人公)OSR値】【FPT(ヒロイン)OSR値】【VLN(悪役)OSR値】の三値の合計が特定の値を超えた時に主人公勢がボスキャラに勝利できる、アレのことだ(早口説明

 

 一護が白哉戦を卍解だけで勝ちきれなかったのは、彼自身がルキアの護りを恋次に任せたせいで彼女の【FPT(ヒロイン)OSR値】が下がり、最終的に一護が【闇の力:虚】のオサレボーナスで【PTG(主人公)OSR値】を多めに稼がないと三値の合計で【決戦OSR値】を満たせなかったから…というのは有名な一例である。

 

 

 つまりこの世界の強化ヨン様に一護を勝たせるには、原作同様グリムジョー&ウルキオラ戦で【FPT(ヒロイン)OSR値】を使い果たした織姫ちゃんに代わってあたしがそれを稼ぎ、そしてリョナられることでヨン様の【VLN(悪役)OSR値】を爆上げさせる必要がある。本誌の原作雛森ちゃん&乱菊さんと同じ役割だ。

 

 よってあたしは霊圧無双俺TUEEEより、面倒な孤軍奮闘ロールによるOPB無双俺SETUNEEをして【FPT(ヒロイン)OSR値】を沢山稼がなくてはならない。ヨン様強化ガバに桃玉ガバのせいなので、桃ちゃんの自業自得です…

 ま、まあどのみち悲劇のヒロインムーヴは最高の「雛森ィィィィ!」に必要だし、ちょっと湿度&悲壮感高めに演出すると思えば気は楽だ。

 

 ちなみに肝心のあたしの【FPT(ヒロイン)OSR値】は殆どシロちゃんに向けられているが、原作雛森ちゃんもヨン様:シロちゃんで6:4、乱菊さんも一〇:シロちゃんで9:1くらいと一護とは無関係だったので問題はない(ホントぉ?

 

 

 …ヨシ! そうと決まれば早速本番開始だ。桃玉融合状態で苦戦を演じるのは大変だが、多分その心配は杞憂だろう。

 

 他力本願で恐縮ですが、因縁は十分溜めたはずなのでそろそろあの公式チートさんも本気を出してください。何でも(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────遊びは終わりだ、少年!」

 

 

 ふざけるな。

 ふざけるな。

 ふざけるな。

 

 日番谷冬獅郎は敵の増援の特殊能力で解放されたティア・ハリベルと刃を打ち合いながら、何度も怨嗟の念を辺りに撒き散らす。

 

「ちくしょう! どけ!! 退けよてめえッ!!」

 

「舐めるな死神…! 敵を将軍(ヘネラーリャ)の下へ通す兵士がどこに居る!」

 

「うるせえ退け!! あいつが…! 雛森が…ッ!」

 

 激情に駆られるまま想い人のところへ翔け寄ろうとするも、女十刃が悉く立ちはだかる。心乱れた冬獅郎に破面(アランカル)共の最高戦力を振り切る力は出せず、虚しい剣の金属音が木霊するだけ。

 

「くそっ…雛森……」

 

 なんだあれは。雛森に一体何があった。

 

 少年はあんな顔の彼女を知らない。

 あんな、邪悪で、どす黒く、おぞましい嗤みを浮かべた、あの可愛い可愛い幼馴染の顔など…

 

「───雛森様…ッ」

 

 だが上司の異常に困惑しているのは敵のハリベルも同様らしく、冬獅郎と戦いながらも彼女の顔には隠しきれない動揺の色が滲んでいた。

 

「くっ……見ろ、ティア・ハリベル! てめえはあんなになった雛森を見てもまだ犠牲がどうとかほざくのか!? 藍染の悪意にあそこまで蝕まれたあいつを見てもまだあんな外道に忠誠を誓えんのか!!?」

 

「…ッ!」

 

 ただ憤慨のまま咆えた支離滅裂な怒声は、奇しくもハリベルの戦意を大きく挫く言葉となる。ぐらりと十刃の体勢が崩れた好機を逃さず、冬獅郎は一気に加速し彼女の懐をすり抜ける。

 

 しかし、相手は有象無象では断じてない。

 

「! 逃がすか!」

 

──断瀑(カスケーダ)──

 

「なっ!? てめえ…ッ」

 

「言ったはずだ、貴様の安い挑発になど乗らんとな…!」

 

 成すべきことを第一に、即座に立ち直った女破面。しぶとく敵の冬獅郎を戦場に拘束しつつ、常に致命の一撃を入れる隙を窺っている。

 

 強い。少年は敵の力量に、己のあまりの弱さに歯軋りする。

 

 先ほどの氷の華の必殺技を二度も喰らってくれる相手ではない。既に場には水気が満ち、状況は対等。このジリ貧ではいつまで経ってもあいつの下へ行けない。あいつを苦しみから解放できない。そんなこと、冬獅郎は死んでも許せない。

 だと言うのに…

 

「そろそろ堕ちろ、氷の竜よ…!」

 

──三穿斬波(トライデント)──

 

「ぐあァッ!!」

 

 強い。倒せない。気が狂うほどの焦燥に益々冷静さを失う冬獅郎。

 

 何でもいい。何かないか。この状況を打開する手段は。

 誰かいないのか。自分を、雛森を共に助けてくれる仲間は。

 

 

 

 

「───なに苦戦してんねん、このハゲ」

 

 

 

 

 …そんな少年の切実な思いを天が受け止めてくれたのかは定かではない。

 

 だが突然冬獅郎の前に現れた二人の少女は、事実彼の、そしてあいつを取り巻く不幸に満ちた世界の中でたった二つ、煌々と輝いて見えた。

 

「な、何モンだ…お前ら…」

 

「勘違いせんといてや少年、仲間ちゃうで。アンタ等の敵の……敵や」

 

「わかったらさっさと真子(あのハゲ)ボコボコにした太眉女んトコ行かんかい! 浦原のハゲから色々作戦聞かされてんねやろ? 邪魔や邪魔!」

 

 片やセーラー服に眼鏡、片やジャージのそばかす。現世風の出で立ちながら共に斬魄刀を腰に差した隊長格レベルの霊圧の女たちに、冬獅郎は面識も噂も覚えが無い。

 だがハッと辺りを見渡せば、二人と同等以上の力を感じる者たちが六名。護廷十三隊に加勢し破面軍との戦闘に乱入していた。

 

 …こいつらがあの胡散臭い男の言う「策」とやらか?

 

 唯一「浦原」と彼の知る名を残し、冬獅郎はハリベルへと突撃していった仮面の死神たちの背を見つめる。

 平時であれば決して取らない隊長格にあるまじき選択。だが今の少年にとって彼女たちは、一瞬の逡巡すら馬鹿らしい、しがみ付いてでも掴むべき蜘蛛の糸だった。

 

「…ッ、恩に着る!」

 

 謎の援軍に感謝し冬獅郎は空を駆ける。向かう先は、最愛の幼馴染の下ただ一つ。

 

 

「───逃がさんと…言っているッ!!」

 

 

 しかし少年の耳にその低い女声が届いた直後。水浸しの戦場一帯から巨大な水壁が聳え立った。

 

──巨壁断瀑(グラン・カスケーダ)──

 

「私は"第3十刃"! 雛森様の第三の切り札だ! 我等(ホロウ)を斬ることしか出来ないお前たち死神なんかに…あの方のお手を煩わせてたまるものかッッ!!」

 

「ッ、しまっ…」

 

 迂闊だった。相手の切り札の存在は把握していたはずだった。僅かな油断を突かれ、冬獅郎は援軍の少女らと共に渦巻く大津波に囲まれる。

 

 だが。濁流がハリベルの激情に応え冬獅郎たちを呑み込まんと襲い掛かった、その瞬間。

 

『!!?』

 

 一同の体に、よく知る、あの忌々しい霊圧がのしかかった。

 

 

 

「あい…ぜん……様…?」

 

 

 

 足が震える。息が乱れる。戦慄するほどの凄まじい存在感。

 そして、冬獅郎にとっての、殺しても殺したりない底無き憎悪の対象。

 

 女破面に名を呼ばれたその男は、まるで道端の石ころを蹴飛ばすかのように。

 

 

「──用済みだ」

 

 

 優秀で忠実な部下を一閃の下に斬り捨てた。

 

「ぐ…ぁ……」

 

「謝罪させてもらおう、日番谷隊長。私の手の者がとんだ愚作を晒してしまった」

 

 血の花を咲かせ落下していく上位十刃を背に、巨悪の冷たい瞳が冬獅郎を見下ろしている。あまりに突然の出来事に固まる復讐者たちを前に、男はその薄い笑みを深めた。

 

「お詫びと言っては何だが、我々は君のために長年に亘る一大作品を用意していてね」

 

「…一大作品……だと…?」

 

「その通りだ、日番谷君」

 

 背筋が冷える。この感覚に少年は覚えがあった。

 この世の全ての悪意を煮詰めた猛毒の大釜に沈んでいくかのような、あの恐ろしい感覚だ。

 

 …やめろ。やめてくれ。

 

 企みの全貌など知る必要もない。男の目に滲むどす黒い喜悦を見るだけで、ヤツの言う"大作"の本質が知れる。

 

「どうした。君はその顔で……彼女(・・)との感動の再会を果たすつもりか?」

 

 だが冬獅郎の無意識の懇願も空しく。巨悪は少年の背後へ視線を送り、一人の少女を召喚した。

 

 

 男と寸分違わぬおぞましい薄ら嗤いの仮面に、その可愛らしい顔を穢された、大事な大事な幼馴染を…

 

 

「さあ、日番谷冬獅郎。私の桃に」

 

 

 

 

 

 

 

 ───君の輝く(かなしむ)姿を見せてくれ。

 

 

 

 

 

 

 かくして舞台は整った。整ってしまった。

 

 大切な想い人の別人のような姿に息が詰まる少年を見つめる男──藍染惣右介は、その目にこの世の物とは思えない邪悪な光を輝かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





桃「ヨン様の"私の桃"呼び…」(ニチャァ

ヨ「ちょっとした援護だよ」(ニッコリ


次回は浦原えもん&仮面軍勢オサレシーンです。
悦森ちゃんも頑張ってヒロイン値を稼ぎます。

明日の更新を乞うご期待!

 
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