雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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桃ちゃんがひたすらニチャ笑いを我慢する回(いつもの

それと字数と本筋優先でかなり原作イベカットしてます
変化してるところは回想で後に少し描写しますのでご容赦を…

 


決意ィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因縁の宿敵、藍染惣右介を打倒せんと牙を研ぎ続けた無法の虚化死神"仮面の軍勢(ヴァイザード)"。同胞達と共に平子真子(ひらこ しんじ)が乱入した護廷十三隊と破面軍の戦う戦場は、混沌としていた。

 そんな中、彼らはそれぞれの戦いに身を投じていく。

 

 十刃(エスパーダ)と戦う者、作戦のため待機する者、そして藍染惣右介との一騎打ちを挑む者。

 

『おのれェ小娘が! 雌蟻が! 忌々しい、忌々しい、忌々しい!!』

 

 強力な一撃必殺の卍解と鬼道結界の搦手で"死神"の鎌から逃れる戦い。

 

「が…ぁ……くそっ、不意打ちなんて汚ェマネしなきゃなんねえ雑魚じゃねえだろ、あんた…ッ!」

 

 戦士たちの戦いに割り込んだ無粋者の一撃で、一気に形勢が傾く"孤狼"との戦い。

 

 だが緒戦も終わりを迎えつつあったその時、平子と戦っていた超越者に動きがあった。

 

 

 

「───おや、いけないな」

 

 

 

 フッと男、藍染惣右介の姿が掻き消える。終始舐め腐った態度で一度たりとも攻撃を仕掛けて来なかったヤツの突然の行動。

 

『なっ…!?』

 

 敵の行方を必死に追った平子は、そこで部下の女破面を「用済みだ」と斬り捨てる藍染の姿を見た。仲間の女性陣二人が挑んだ最後の十刃だった。

 

「…さあ、桃。私が君に与えた力を見せてご覧」

 

 だが放心している間はどこにもない。続いて戦場に参加した一人の女を見上げ、平子は藍染の凶行の理由を知る。

 

 

「───はい、藍染様」

 

 

 その短い台詞で全てを察する一同。だが「不味い!」と仲間達へ危険を知らせた直後、隊長格に匹敵する一つの霊圧が泡沫のように掻き消える。

 

 仲間の血が空を舞う光景に、戦場全ての"仮面の軍勢"がその目を奪われた。

 

 

「が…うぁ……」

 

『ひよ里ッ!?』

 

 事態の急変を把握した六車拳西(むぐるま けんせい)愛川羅武(あいかわ らぶ)、そして相手の藍染に逃げられた平子ら手隙の三人が集結する。だが駆け付けるも空しく、最初に斬られた猿柿(さるがき)ひよ()も、彼女と組んでいた矢胴丸(やどうまる)リサも、救うことは叶わなかった。

 

「こんッ…ガキゃああああ!!」

 

「待たんかい拳西! ラブも抑えろ!」

 

『ッ、真子…』

 

 だが報復に猛る同胞達を制したのは他でもない代表格、平子真子。最初に斬られたひよ里と最も親しかった彼を冷静足らしめているのは、これが()()()の準備であるが故。そして目の前の敵とただ一人戦闘経験があるが故の慎重さだった。

 

「ついに動いたか……雛森桃…!」

 

 

 彼らが睥睨する先には、一人の女死神。

 

 平時であれば思わず頬が綻ぶほどの愛らしい美貌。手折れそうなほどに華奢で小柄な肢体。

 だがそんな琴花の似合う非力な見た目に騙される者は、この世に一人として存在しない。

 

「ッ、やっぱこいつが例の…!」

 

「何だこの馬鹿げた霊圧、ホントに死神か…? 真子お前、見栄張って報告誤魔化しやがったな!」

 

「喧しいわ、気ィ抜くんやないで……やられる時は一瞬や…!」

 

 男たちは皆、魂魄の上級種・死神の中でも最上位に位置する元護廷隊隊長だ。しかしそれほどの霊圧を以てしても、眼前の敵の凄まじい存在感に膝を突かずにいるのが精一杯。

 

 霊格が、あまりに違い過ぎる。

 彼ら"仮面の軍勢"が立ち向かったその敵は、魂魄の限界をとうに超越した霊圧の怪物だった。

 

 

「────ふふっ」

 

 

 本能的な恐怖に足踏みする一同。その逡巡を見抜いてか、怪物が不気味な弧を描く唇を開いた。鈴が転がるような可愛らしい声が彼らの鼓膜を震わせる。

 

「…今日はえらいご機嫌やなァ、お嬢ちゃん。残した一ミリの命に会えて嬉しいんか?」

 

「ええ、皆さん共に完治されたようで何よりです。あの時は()()()()()()()で気が動転してたから、加減を間違えて殺しちゃったかもと不安だったの」

 

 ホッと胸を撫で下ろす仕草は挑発か否か。いずれにせよ安易に動くなと自らを律し、平子は時間稼ぎに専念する。

 

「…なんや、アレは元仲間を斬るんが忍びないから手ェ抜いたんとちゃうんかい」

 

「ああ、それ……まあ昔のあたしの事はどうだっていいんです。今日は"感情"とか"仲間"とか、そういう不要なモノを全部、藍染様のために処分する日ですから」

 

 どろりと美少女の顔が溶け落ちる。中から現れたのは、醜悪な悦楽の顔。

 そこに前回の蹂躙時に見せた痛ましい罪悪感や悲愴さはどこにもない。心境の変化などでは到底説明のつかぬ、変わり果てた化物がそこにいた。

 

 だが平子にとっては予想の範疇。ヤツの魄内に仕込まれた物体は、霊格はもちろん人間性すら容易く高次元のものへと引き上げる劇物だ。おまけにこの霊圧の怪物を生み出した元凶はあの藍染惣右介である。虚化技術の応用で小娘一人の心を自分好みに洗脳するなど赤子の手をひねるより容易だろう。

 

『……』

 

 悠然と佇む雛森桃の霊圧にあてられどれほどの時が経ったか。正気が飛びそうな緊張は、されど敵の何気ない一言で破られた。

 

 

「藍染様を退屈させているので、来ないのならこちらから参りますね」

 

『──ッ!?』

 

 

 またしても一瞬の内に女の姿が二つになる。しかし極限まで五感を研ぎ澄ませていた平子は、僅かな掠り傷で敵の攻撃を回避した。

 前回より一転。あの凶悪な【白伏】と【曲光】と【霊圧分身】の複合鬼道戦法を見切ったと希望を抱く仮面死神。

 

「ハッ、今度は逆やな…! その"処分するモノ"の中に戦力として捨てたらあかんやつも入ってんとちゃうか?」

 

「……?」

 

 だが化物は平子の挑発に耳を傾けず、訝しむような顔つきで自らの足裏を交互に見つめるだけ。こちらの事などまるで眼中にない舐めた態度に、彼は苛立つ前に寒気を覚えた。

 

 …いや、そもそも今のは本当にあの霊圧分身だったのか?

 

 覚えたその違和感は、されど女の何気ない独り言で霧散する。

 

「やっぱり最後のステップが難しいですね。ゾマリさんはあんなに上手だったんですが、ちょっと悔しい」

 

「お前、まさか…」

 

 そうだ、アレは分身とは違う。強いて言うなら…

 

「ああ、今のは響転(ソニード)の応用です。そろそろ死神をやめるので瞬歩(しゅんぽ)以外の歩法も学ぼうと練習中なんですよ。

 ────こんな風に』

 

「なっ!? しまっ」

 

 突然聞こえた女の声は前後から計三つ。振り向く間もなく味方二人の悲鳴が聞こえ、平子は即座に離脱を選択する。

 

 距離を取り戦場を俯瞰すれば、やはり先程の歩法で拳西とラブは斬り伏せられていた。一瞬で元隊長二人が倒される冗談の様な敵に最早笑う事さえできない。

 

「…残像か」

 

「ふふっ、今のは少し上手く出来ました。ご協力感謝します」

 

 ニッコリと微笑む女の顔に隠しきれない嗜虐が滲む。自分達(ヴァイザード)の虚化状態に似た精神変化なのだろうか。心が死神のままだった三日前とは異なり、今の彼女には驕れる虚のような傲慢さが垣間見えた。

 

 …切り崩すなら、そこだ。

 

 奥の手の発動を待ち続ける平子は、策が成った後の段取りを一つ一つ練っていく。偽空座町に散らばる仲間達へ視線で合図を送り、遠方で密かに能力を操る最後の同胞の霊圧を確認。

 

「……まだか、喜助…ッ」

 

 楽しそうに佇む怪物の注意を引き付ける事、もうしばらく。

 そして──雛森桃が一瞬妙な笑みを浮かべた後──遂に平子の望んだ効果が現れた。

 

 焦がれたその変化は、突然だった。

 

 

「……な、なっ!? これは…!」

 

 

 女が大仰に驚き自らの体の異常を訴えると同時、周囲を圧していた巨大な霊圧が一気に弱まった。ようやく敵の力を封じる切り札が作動したのだ。

 

 立案実行は、やはりこの男をおいて他にない。

 

 

 

「────ふぅ、何とかバレずに済んだみたいッスね」

 

 

 

 そう、稀代の天才・浦原喜助(うらはら きすけ)

 三界最高峰の発明家が敷いた布石が今、驕れる超越者を絡め捕る。

 

「…あたしに何をしたんですか?」

 

「や、どうも雛森サン。お久しぶりッス」

 

 飄々と現れた胡散臭い布帽子の男。それを見つめる怪物から余裕の色は、消えていた。

 

「…雛森サン、アナタの霊圧は膨大だ。ですが本来死神の霊圧とは、生まれ持っての才能か、斬拳走鬼を磨き魂魄を鍛えることで身に付けるものッス。アナタはただ一人その何れとも、平子サンたちの虚化とも異なる方法で今の力を手に入れた」

 

「……」

 

「"臓器鍛錬"。自らの鬼道で霊力を操り直接鎖結と魄睡に負荷をかけること百五十年。雛森サンの霊力器系はその魂魄に不釣り合いなほど肥大化している。とても健全な状態とは言い難い」

 

 兆候は既にあった。以前の戦闘時に彼女が起こした自爆事故だ。

 あれは崩玉の影響だけではなく、本来は起こり得ない霊圧と魂魄のバランス崩壊が引き金となったものである。彼女の卓越した霊力操作力が緩んだ一瞬に、その制御を離れた膨大な霊圧に魂魄自体が耐えられなくなったがために起きた、長年の無茶の弊害だったのだ。

 

 そこに隙があると浦原は語る。

 

「もっとも、あの藍染が解りきった弱点をそのままにしておく訳がない。現にアナタの霊圧に前回のような不安定さは見えなかったっスからね」

 

 睨み付けてくる女の苛立しげな視線を軽く流し、浦原が帽子の奥の目を鋭くする。

 

「ですので…逆を突きました」

 

「逆…?」

 

 問いに反し、聡い彼女の顔は少しずつ驚愕に色付いていく。

 

「全ての霊魂は多種多様な能力を持つと同時に、その能力を制御し自滅を防ぐ防衛本能が備わっています。そしてその手段はほとんどの場合──"能力の抑制”ッス」

 

 特に一度暴走で死にかけた彼女のような経験者は、自身の霊圧上昇には無意識に過剰反応してしまい、余分に力を抑えようとする。

 前回の過ちを、自滅を防ぐための本能的な教訓だ。

 

「ッ、まさか…!」

 

「『私に何をした』…そう問いましたね、雛森サン。アタシがしたことは簡単な事ッス」

 

 そしてその教訓が、彼女の枷となる。

 

 

 

「───アナタの霊圧感知に、自分の霊圧が暴走状態にあると錯覚させたんスよ」

 

 

 

 男の言葉に雛森が大慌てで周囲、特に背後を見渡す。ふるふる震える彼女の後頭部からでも、その顔が焦燥に歪んでいるのは容易に察せた。

 

「そ、そんな…一体どうやって! 妙な術の気配はどこにも…!」

 

「驚くほどの事ッスか? これまで三回も対峙したんだ。雛森サンの霊圧だけに効果を限定した感覚攪乱結界を造るのなんて訳ない」

 

 そして今の雛森は前回の自爆の教訓で、本能的に自身の膨大な霊圧を必死に抑え込んでいる最中。実際の霊圧はその抑制効果で"過多"どころか"平時以下"のレベルにあることを、搔き乱された彼女の霊力制御本能は気付けない。たとえ理性が真実に気付いて霊圧を上げようとしても、本能的恐怖がそれを拒んでしまうのだ。

 

「…舐められたものですね。霊圧を封じたおつもりですが、霊圧そのものを失った訳じゃありません。あなたたち元隊長二人くらいどうとでもなります…っ」

 

 初めて、雛森が斬魄刀を正眼に構える。勝気な台詞に反し、全ての斬術の基礎たるその技術に縋らねばならないほど、女の瞳からかつての覇気は消え去っていた。

 

「せやなァ、アンタアホみたいに強いし……俺と浦原二人だけじゃ足りへんなぁ」

 

 そこへ、今度は隣の平子真子が嫌らしく嗤う。そして「せやから…」と一言前置いた、その瞬間。

 

 

「──はん! ハゲ真子も仕留めきれへんお前なんかにウチがやられるワケないやろ、太眉毛!」

 

「──…見世物としては上出来やな」

 

「──チッ、こういう茶番は苦手なんだよ」

 

「──そうかァ? ノリノリでやられたフリしてただろお前」

 

 

 突如、倒れたはずの猿柿ひよ里、矢胴丸リサ、六車拳西、愛川羅武の四人が無傷の姿で、雛森の周囲を囲むように現れた。

 斬られ落下したはずの彼らが居た地には、まるでデコイのように横たわる奇妙な金色の人形。それを見た雛森が一瞬口角を疼かせた後、驚愕に喘いだ。

 

「何……ですって……!?」

 

「なんや、おかしいと思わへんかったんか? 単純な力押しで前にアンタにボロ負けした俺達が、なーんも準備せずに戦う訳ないやろ」

 

 彼女がもう少し聡ければ、仲間意識の強い彼らが同胞を斬られた時の些か薄情な反応に違和感を覚えただろう。身構え辺りを見渡す女を嘲笑い、平子が「敵さんが説明をご所望や、ローズ!」と遠くの街角へ声を上げる。

 

 彼の声に応え、一同の頭上に新たな三つの人影が現れる。

 "仮面の軍勢"の同胞、久南白(くな ましろ)有昭田鉢玄(うしょうだ はちげん)、そして奇妙な金色の人形と巨大な両手を左右に浮かせるその男こそ、ローズ…鳳橋楼十郎(おおとりばし ろうじゅうろう)だ。

 

「……初めまして、お嬢さん。ボクの"演目"はお気に召していただけたかな?」

 

 

──卍解(ばんかい)金沙羅舞踏団(きんしゃらぶとうだん)──

 

 

 長い金髪の男がタクトを振るう。すると左右の人形たちがゆらりと縄状に崩れ、不思議な旋律と共に雛森の周囲を取り巻き始めた。

 

「これは…幻覚…? 聴覚に作用する催眠…!」

 

「ほう、流石は藍染の愛弟子。この手の能力には明るいのかな?」

 

 ニヤリと笑うローズは誇らしげに「その通り」と自らの卍解の能力を披露する。

 

「ボクの操るものは"音楽"。人の心を奪い、魅了し、そして死へと誘う()()()()さ」

 

「…ッ」

 

「十刃が京楽さんに横取りされちゃったからね。暇な時間に浦原さんの協力であらかじめ周囲に幻を展開しておいたんだ。ああ、気付かなかったのも当然だよ。君の霊圧感知は全てこちらの意のままなんだから」

 

 雛森の周囲を雷電が、濁流が、火炎が、砂礫が旋回する。恐るべき天変地異の只中において、彼女以外の全員が平然と佇み、各々の霊圧を爆発的に高めていく。

 

 そして一斉に、その内なる虚の力を解放した。

 

「…かんにんな、お嬢ちゃん。俺達ァ藍染に"大事な用事"があんねん」

 

 

 

 ───前座のアンタに、これ以上付き合ってられへんのや。

 

 

 

 さあ諸君、反撃だ。

 俺達"仮面の軍勢(ヴァイザード)"を安易に敵に回したツケを、存分に支払わせてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

桃「何……ですって…!?」(キリッ!

梅「それ何かの流行りですか?」(困惑

玉「戦いのマナーです」(ニッコリ


浦原無双や金沙羅舞踏団や「疑問に思わなかったのか?」など名シーン名セリフ乱舞でちょくちょくムーヴが崩れてる鰤ファン桃ちゃん。

そして次回は無駄に引っ張ったアレです。
お楽しみに!

 

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