雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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オリ鬼道オリ技等々あります

それと唐突なお知らせで恐縮ですが…
ちょっとリアルのスケジュールで急なガバが発生したので、大変申し訳ありませんが連続更新は今回で一旦お休みとさせてください…<(_ _)>

すぐに用事片付けて残りの三話のUSJ投稿を再開できると思うので、一日二日程度お待ち頂けたら幸いです!

それでは「雛森ィィィィ!」ジェットコースター直前の最後の上りをどうぞ!

 


変貌ィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────その話……本当なんだな…!?」

 

 

 戦いが始まってしまった。仮面の死神たちの猛攻に晒される少女へ駆け寄りたい想いを必死に押し殺し、僅かに残る理性で日番谷冬獅郎はこの状況を作った浦原喜助の制止に耳を傾ける。

 標的の雛森桃を戦闘に拘束した今、男が少年へ決戦前に提案した極秘作戦についての相談を持ち掛けてきたのだ。

 

「ええ、ですがそのためには日番谷サンの力が必要です」

 

「くそっ…」

 

 それはあいつの、雛森の冬獅郎への想いに懸けた作戦。ともすれば彼女の気持ちを踏み躙る方法だ。これ以上愛する幼馴染を傷つけたくない少年は歯噛みする。

 

 否、彼が迷う理由はそれだけではない。

 

「…無理だ。今のあいつはもう、俺のことなんて…」

 

 直情的な冬獅郎にも解る。決戦の大舞台で果たした再会。だが雛森桃は少年の存在に心揺れる姿は見せなかった。彼と目を合わせたのは一瞬だけで、張り付けたような邪悪な笑みで周囲を嘲笑うだけ。

 

 しかし浦原は冬獅郎の言葉に笑みを浮かべる。

 

「それを聞いて安心しました。やはり彼女を止められるのはアナタだけッス」

 

「何だと…?」

 

「自己防衛ッスよ、日番谷サンと目を合わせないのは。雛森サンは未だアナタという幼馴染に強い気持ちをお持ちだ。それこそ藍染の洗脳、彼への忠誠が揺らぐほどに」

 

 楽観論にも聞こえる彼の推理は甘い毒だ。今まで幾度と希望を打ち砕かれてきて尚、思わず縋りたくなるほどに甘い、罠。

 

「…時間がありません。決断をお願いします」

 

 浦原の焦りに冬獅郎はギョッと彼へ目を向ける。ヘラヘラした態度、含むような胡散臭い笑み。出会ってから一月の付き合いで知らずの内にそんな底知れない帽子男へ救いを求めていた少年は、彼のらしくない態度に強い不安を覚える。

 

「な、何だ…? まだ何か不安があるってのか?」

 

「今の雛森サンは、あの藍染が決戦に参加させるほど"兵器"として完成した存在ッス。この程度の封印で弱体化させられるのは一時的でしょう」

 

 苦い顔で「それにあの"読書家"も相当の曲者ですし…」と何かを言い淀む浦原。当然気が気でない冬獅郎だが、この天才の策も未だ万全とは言い難い状況だという事は理解出来た。

 

 そして迷う少年を、戦局の変化が更に急かす。

 

「…!」

 

「な、何だあれは…!?」

 

 そこで起きていたのは…

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「────くそっ…!」

 

 

 以前の遭遇から三日と半日。知恵を出し合い練った策が成り、見事あの化物を封殺完了した平子真子ら"仮面の軍勢(ヴァイザード)"だったが、実戦は彼らの想定に反した波乱となっていた。

 

「ちょこまか逃げてんじゃねえぞ、オラァッ!」

 

「! くっ…」

 

「ほらほらほら! 逃げてばっかじゃ藍染に失望されちゃうよ~?」

 

 優勢なのは間違いない。前回と比べ戦いになっているのは勿論、こちらの手数で敵を翻弄してさえいる。

 

「チッ、また例の残像や!」

 

「これで何度目だ…畜生ッ」

 

 だが、決定打が入らない。掠り傷を増やすだけで、致命の一撃は悉くギリギリのところで避けられる。

 

 そんな時、戦場の端で動きがあった。

 

 

「────どうした、桃。その程度の塵芥、さっさと下しなさい」

 

 

 苦戦する雛森桃の名を、ヤツが呼んだ。その不愉快そうな台詞に反し、随分と愉快そうな顔で。

 

 果たしてそれが女の中での決め手になったのか。それまで逃げに徹していた雛森が一瞬の逡巡の後、何かを惜しむように自らの胸に手を当てた。

 

……さようなら

 

 その時。平子には何故か、その顔がとても悲しんでいるように見え…

 

 

『な──!?』

 

 

 直後、女の胸元から淡い桃色の光が浮かび上がり、続いてそれを掻き消す黒くおぞましい霊力が立ち上った。

 

「な、何あれ…?」

 

「いや、それより彼女の雰囲気が…」

 

 ローズの指摘にハッと気付く一同。

 彼らの見つめる先で、謎の黒光が収まった雛森がガクリと項垂れる。

 

 そして顔を上げた彼女は、まるで人形のように虚ろな瞳をしていた。

 

『……ッ』

 

 ゾッとする空気が辺りを取り巻く。ただの錯覚に過ぎないそれは、しかし生気の感じられない少女の言葉と同じく、寒気を覚えるほど冷たかった。

 

 

「──【縛道の八十一"重唱"

断空閘塞(だんくうこうさい)】」

 

『ッ、なに!?』

 

 あり得ない事が起きた。全ての霊力を司る魂魄の霊圧感知が狂わされている状態で、雛森桃が霊術の奥義"鬼道"を行使したのだ。

 

「そんなバカな! 八十番台なんて今の状態のヤツに到底使える鬼道じゃねえぞ…!」

 

「…いえ、それだけじゃありまセン。あれは多重詠唱を一つの鬼道に纏めた全くの別物デス…! あんな若い死神がなんという術を…」

 

「なに感心してんねんハゲハッチ! あいつ敵やで!」

 

「い、いやでも見てくだサイ、あの美しい言霊構成を…! 近いものでは大前田サンの"疑似重唱"でしょうカ…いやはやこの年でも勉強になり──」

 

「せやから感心すんな言うてるやろ!!」

 

 突然敵の霊感攪乱の優位を失い混乱する"仮面の軍勢(ヴァイザード)"。だが、四方を縛道の巨壁に守られた雛森は、その隙に次の一手を準備していた。

 

「──君臨者よ。血肉の仮面・万象・羽搏(はばた)き・ヒトの名を冠す者よ…」

 

 霊子の要塞の中心で、女が破道を詠唱する。その鬼道構築の動きに淀みは無く、恐ろしい密度の霊力が術に練られていく。

 

「…蒼火の壁に双蓮(そうれん)を刻む…

   …炮濫洪洪(ほうらんごうごう)燃ゆる揺光…

 …叢木燻れ、灰鼎(はいてい)煽げ、大望(わす)れず、双眸濁さず…」

 

「ッ、悠長にベラベラと! 何重詠唱する気やねん!」

 

「不味いデス、炎熱上級破道の三重詠唱! 特に最後のはとても不味い…!」

 

「ローズ! 今の内に卍解で水出さんかい!」

 

「無茶言わないでよ、鬼道にまやかしが効く訳ないって…!」

 

『──なら力づくで黙らせるッ!!』

 

 使わせてなるものかと虚閃(セロ)の総攻撃を仕掛ける"仮面の軍勢"全八名。されど奮戦敵わず。少女の改良鬼道【断空閘塞】は彼らの猛攻から見事主を守り抜いた。

 

「…赤赤琰閃(しゃくしゃくえんせん)穿つ剣先…

    …貴きに昇る閻灼煌旭(えんじゃくこうこく)…」

 

──大火の(ふち)を遠天にて待つ──

【破道の七十三・双蓮蒼火墜(そうれんそうかつい)

 

──天座(てんざ)の矛にて贄を別て──

【破道の八十・金剛爆(こんごうばく)

 

──列ね委ねて()の翡翼を見よ──

【破道の八十九・翠鳳旭來炎(すいおうきょくらいえん)

 

 繰り出される青、赤、緑の劫炎。霊圧の大半を封じられて尚、雛森桃は"天才"と呼ばれた鬼道衆・一之組第三班班長。彼女の巨大な鬼道はその名の所以を誇示するかの如く、仮面の死神たちへ襲い掛かった。

 

「ヤバいよ何とかしてハッチ! あの子より鬼道衆の席次上だったでしょ!」

 

「それを言うなら(ましろ)さんも同じ元副隊長でショ~! ンンッ、やってみマス!」

 

 だがここまで浦原にお膳立てされて相手に後れを取るなど許されない。鬼道戦なら鬼道戦と、樽のような巨漢の元鬼道衆副鬼道長・有昭田鉢玄が顔を引き締め術を練り上げる。

 

「…まずはそちらを貰い受けマス。

──【操鬼併転(そうきへいてん)】」

 

 霊力を帯びた男の太指が雛森の蒼い炎塊を指すと同時。少女の破道がぐるりと反転し、並走する赤い火炎球に衝突した。蒼と赫の炎が爆ぜる。

 だが火球は依然勢力を維持したまま。

 

「…ですが威力は弱めマシタ。霊力量も今ので把握済み。

──"反鬼(はんき)"【破道の八十・金剛爆(こんごうばく)】」

 

 続いて鉢玄が放ったのは同位の鬼道。相殺効果を付与した術は僅かな均衡の後、雛森の火炎球を消滅させる。

 そして最後にして、最大の大技。

 

「…うぅ、いつぞやの鉄裁サンの逆デス……ええい、ままよ!

──【縛道の八十一・断空(だんくう)】」

 

 男が創造したのは、壁の如き霊圧の巨盾。そこに少女の放った翡翠の鳳が激突。凄まじい爆風が周囲を燃やし尽くす。

 

「ハッチいけそう!? なんか凄いビキビキいってるけど!?」

 

「か、かなり不味いカモ……後述詠唱に切り替えマス…!」

 

 理論上は彼女の巨炎鳥の突撃をギリギリ防げるはずの霊力壁。しかし追加の詠唱で硬度を跳ね上げても相手の破道が消滅しない。恐ろしく精密に言霊が紡がれた、感嘆すべき術だ。

 それでも元No.2の名は伊達に非ず。長い拮抗の末ようやく翡翠の鳳の形状が崩れ、鉢玄の【断空】を吹き飛ばす大爆発を巻き起こした。

 

 辺りを呑み込む翠炎から瞬歩で逃れる仮面の死神達。振出かと身構える彼らは、されど町の焼け跡に佇む少女を見て息を呑んだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「──感じますか、日番谷サン。雛森サンの霊圧が明らかに復活しつつある…!」

 

 浦原の険しい声色が、怒涛の展開に放心状態だった冬獅郎を現実へ引き戻す。意識を幼馴染の少女の霊圧へ向けると、確かに男が指摘する通りだった。

 あれほどの鬼道を見舞っておきながら息一つ乱さず、雛森桃は能面のような顔で更なる鬼道を繰り出し続ける。

 

 藍染が、そして雛森自身が口にした"兵器"の二文字がチラつく冬獅郎。

 

「ッ、勿体ぶってねえで言え…! 何だ、あいつに一体何があった…!?」

 

「……おそらく崩玉の影響でしょう。このままだと皆さんと戦っている間に、あの時の様に雛森サンの魂魄が持たなくなる可能性があります」

 

 言い淀む男へ「てめえが作った劇物だろ」と当たり散らしたい思いを呑み込み、少年は涙を堪えて雛森を見つめる。視線の先の無表情の彼女はどんどん"人"という存在から外れようとしていた。

 

 時間がない。だが現状であいつを救える手段を持つ者は一人だけだ。

 

 そして逡巡の末、少年は決断する。

 …否、最初から選択肢など無かった。

 

 

「────わかった」

 

 

 冬獅郎は浦原の手に浮かぶ鬼道の言霊体を引っ手繰り、自身の霊圧と馴染ませる。これで自分があいつに触れれば術が発動するらしい。それは小さな、だがとても大事な希望の温もりで満ちていた。

 

「…感謝します、日番谷サン」

 

 一言、そう残し。斬魄刀の【紅姫】を解放した浦原喜助が戦いに突入した。冬獅郎は彼らと戦う少女を見つめながら、幾度と深呼吸を重ねる。

 

…り…

 

 脳髄が震える。腹が煮える。

 前回とは違う。奈落のような絶望の中に、一筋の光が差し込んでいるのだ。

 

…ひなもり…

 

 奮い立て。

 救うんだ、俺が。

 

「…雛森…!」

 

 今度こそ、あいつを…

 

 助けるんだよ!

 

 

 

「────雛森ッッ!!」

 

 

 

 町中に轟く決意の喚呼。

 隊長にまで上り詰めた少年の一途な想いが、血みどろの死戦を氷結させる。

 

 そして長い沈黙の後。遂に少女がその淀んだ双眸を開き、少年を…見た。

 

 

 

「俺が…お前を……

 

 止めてやる!!」

 

 

 

 

 愛する想い人を救うため。かくして日番谷冬獅郎は彼女へ、剣を向ける覚悟を決めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「────止める…?」

 

 

 偽空座町の上空に緊張が走る。

 

 日番谷冬獅郎と雛森桃。護廷隊隊長格の皆が知る、悲劇に引き裂かれた二人が戦場で初めて言葉を交わす瞬間を、誰もが固唾を呑んで見守った。

 

「あなたが、あたしを…?」

 

 少女の声は、平坦だった。戦闘前のおぞましい化物の顔とは違う、無機質な大きい琥珀色の瞳が少年を見つめる。

 

「──日番谷隊長」

 

「…ッ、雛森…!」

 

 かつて愛おしげに呼んでいた愛称も忘れ、人形のような少女が言葉を重ねる。少しずつ、二人を繋ぐ糸を絶望の黒に染めるように。

 

「それが出来たとすれば、あたしは藍染様にとって一切の価値が無くなってしまいます」

 

 ブワッ…と彼女の体から桃色の霊力が立ち上る。浦原喜助の奇策で封じられているはずの力が。

 

「霊圧を封じればあたしに勝てる? 数で袋叩きにすれば倒せる? 前座のあたしに構っていられる暇はない? …結構な事です」

 

 

 ───死神は一人で戦う種族ではないという常識が抜け落ちていることを除けば、ですが。

 

 

 その瞬間。一同の目に映る雛森桃の霊力の塊が、人の形を象り…命を得た。

 

 

 

「…ご紹介します。あたしの相棒──【飛梅】です」

 

 

 

 現れたのは、一人の幼い美姫。

 長い垂髪に目刺しの前髪を目元に垂らす、可愛らしくもどこか暗い印象を纏う公卿風の娘が、ゾッとするほど美しい笑みを湛えていた。

 

「斬魄刀との付き合いは死神人それぞれですが、あたしと飛梅は最初から互いの()を知る一心同体も同然の魂の半身でした。あたしとの繋がりが非常に強い彼女は、あたしの能力、技術のほぼ全てを代行することが出来ます」

 

『な…!』

 

「そんな…! 斬魄刀が斬術以外の力の行使に持ち主と協力するなんて…」

 

 護廷、仮面の軍勢、皆一様に自らの斬魄刀へ目を向ける。雛森桃の言っていることは彼らの常識ではあり得ない事だった。特に虚化能力を持つ平子達は彼らの気難しさと気高さに長年悩まされてきたが故に。

 

「…なるほど。魂魄に対し過剰に成長した霊力器系が、魂魄の一部である斬魄刀との対等な力関係に上下の差を生み出した訳ですか…」

 

 浦原の推察が雛森桃の"特異性"の真実を暴く。全ては彼女の生まれ持った霊力操作の異常すぎる才能が齎したもの。封じたはずの霊圧が復活しつつあるのも、斬魄刀が中継して霊圧を持ち主に還元しているからだろう。

 そして最初から半ば屈服した状態で誕生した斬魄刀ならば、少女の余裕の正体は、やはり…

 

 

「さて、皆さんの勘違いをもう一つ正させて貰います」

 

 

 変わらぬ無表情で斬魄刀の刀身に手を翳した雛森桃を、美姫が包み込むように抱き締める。その瞬間、少女の霊圧がまたもや、だがそれまでとは桁違いに跳ね上がった。

 

「崩玉の霊力を封じ、袋叩きにすればあたしに勝てるとお思いのようですが……本当に、今まで一度も疑問に思わなかったんですか?」

 

「く…ッ」

 

(ホロウ)から進化した破面(アランカル)が、それも隊長格複数で挑んでようやく相手取れる十刃(エスパーダ)が何故、天敵の死神であるあたしを上司として認めているのか…を」

 

 肌身に突き刺さるような威圧感に思わずたじろぐ一同。霊圧を、崩玉の齎す強化の大部分を封じて尚、感じる力は圧倒的な強者のそれ。単純な強弱なら戦闘直前のほうが上だったにも拘わらず、無機質な目を染める明確な戦意が彼女を遥かに恐ろしく見せていた。

 

「あたしは"破面軍軍団長"。その役目は破面たちの統率です。そしてあの獰猛な破面たちが、十刃たちが、一人残らずあたしのような小娘に従ってた理由は、ただ一つ…」

 

 

 

 ───彼ら破面の全軍九十六騎より、あたし一人の方が強いからよ。

 

 

 

 その答えを聞いた者たちが、一斉に息を呑んだ。

 

「見せてあげましょう、飛梅。崩玉の霊力を封じただけで勝った気になってる不思議な人たちに、あたしたちの力を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── 卍 解 (ばんかい)──

 

 

 

 

 

 

 

 

── 羽 衣 紅 梅 鈴 鈴 (はごろもこうばいりんりん)──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


飛梅「……」(恍惚な笑み



 
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