雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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…こんばんは。
二ヶ月以上温めてきたオチを未完のままバラしてしまった時の悲しみを知った作者です…
予約投稿は慎重に行いましょう…

サブタイ?

…そうだよ


 


ガバィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(痛っっってえええええええけどシロちゃんの輝きしゃいこおおおおおお!!)

 

 

 激痛とニチャ味に絶叫しそうになるのを何とか堪え、あたしことリョナの女王雛森桃ちゃんは回道で患部を麻痺させ演技を維持する。

 

 

「シロ…ちゃ……」

 

 

 "台本"の台詞を言い終わり、打ち合わせ通りにどちゃっと地面へ崩れ落ちたあたしは、時を待つ。

 

 ま、まだだ…まだ笑うな…こらえるんだ…! し、しかし…

 

 そして待つ事僅か。一日どころか一瞬千秋の想いで倒れたフリをしていると。

 

 

『なっ…! 消えた!?』

 

 

 ッ、きた! きたきた鏡花水月発動きたぁあああああ!

 

 もう辛抱堪らんとあたしは微かに残る理性でヨン様をチラ見し、彼のアイコンタクトを受け取った瞬間。

 

 

 

「────ッきゃあああああああああああああああああああああああああぁぁぁほおああああああああああああ!!!」

 

 

 

 美少女が上げてはいけない、百五十年分の想いの籠った歓喜の大絶叫を上げた。肺に穴あいてる状態で。

 

「はあああああああんシロちゃあああああああんっさいっっっこおおおおおおおおお!!! もっと! もっとよシロちゃん! もっと見せて! もっとあなたの輝きをあたしに見せてシロちゃああああああんほおああああああああ!!!」

 

 この時のために用意した【シロちゃん専用エリクサー】を即座に取り出し、鏡花水月で消えたあたしをキョロキョロ探してるシロちゃんのお口にポイ。これで瀕死寸前の彼の霊圧は超回復! 違和感も完全催眠で気付けないという寸法だ。

 

 そう! ここは鏡花水月の能力下にないあたしだけが好き勝手できる本性暴露のテーマパークUSJ(愉ー悦ジェー)。シロちゃんは勿論、あの天才浦原さんや、あたしの桃玉を崩玉と勘違いして狙ってる一〇さえも気付けない、完全催眠の外の世界なのだ。

 あたしはきゃいきゃい桃ちゃんボイスの黄色い声で狂喜乱舞し、シロちゃんのパーフェクト曇り顔を遠目に観賞する。

 

 すると、一人はしゃぐあたしの耳に、愉しそうなバリトンイケボが聞こえた。

 

 

「────さて。一先ずは"おめでとう"と言っておこうか、桃」

 

 

 ハッと振り返ると、そこにはこの愉悦天国構築を全力サポートしてくれたあたしの天使が、くっそニチャり散らかした悪魔のような顔で佇んでいた。あたしより酷い顔してるかも…いや、流石にあたしの方が酷いか。失敬。

 

「あいぜんたいちょおおおお!!」

 

「おっと」

 

 感極まるあたしは覚えたての響転(ソニード)でヨン様の懐に突撃する。ありがとうございます藍染隊長、最高のアシストにもう何度顔面崩壊しそうになった事か! ガバも幾つもフォローして貰っちゃって、ホント頼りになりすぎる男! 素敵! 抱いて! 「お父さん」って呼んでもいいですか!?

 

「フフ、どちらも遠慮しておくよ。それより、その傷のまま浦原喜助の結界内であまりはしゃがない方がいい。今の君は不滅となった超越者だが、霊圧は霊術院卒業直後のレベルにまで封じられているようだ」

 

 桃ちゃん渾身歓喜ダイブを超体幹で難なく受け止めてくれるヨン様。だけどつれないエセ伊達男は一緒に抱き合いキャッキャしてくれず、ジロジロとあたしの弱体化した魂魄を観察し「流石の頭脳だ」と浦えもんを遠目に称賛するだけ。

 

 …なんか一人ラリってるのが凄い恥ずかしくなってきた。

 

「こ、こほんっ! と、とにかく大変ありがとうございました! 最後の仕上げも是非お願いしますっ!」

 

 笑顔で「勿論」と頷いてくれたヨン様の胸元からパッと離れて、深々と一礼。熱くなった顔を彼から隠しつつ、一人寂しく遠くのグリッターシロちゃんを堪能する。

 

 本心ではもう今すぐ死んでもいいくらいの満足感だけど、なんと、これから更にメインディッシュが来てしまうのだ。ここでお腹いっぱいになってはあまりに勿体ない。

 

 ほら。遠くのお空の何もない所で剣を振って、幻のヨン様へ罵倒を投げる全身キラッキラ状態の曇りシロちゃんをご覧なさい。見ているだけで頬が痛いほどの三日月笑顔になっていくでしょう? あれこそが彼の最大の魅力。あたしが欲した、結露した湿度の輝きなのよ…(恍惚

 

「さあ、そろそろ黒崎一護がやって来る時間だ。準備は出来たかい?」

 

「あ、ちょ、ちょちょっと待って。今ほっぺを戻し…もど…も、戻らない…!?」

 

 う、嘘でしょ待って待って! あんだけ自己暗示したヒロインムーヴすら崩れるほど!? ヤバい、これシロちゃんのメンタルより先にあたしの本性がバレるかも…!

 

 シロちゃんの原作を超えた至高の輝き、長年の悲願成就の達成感、勝利を目前にした優越感。このトリプルパンチは想像以上に強烈だった。

 

 …ヤベェどうしよう。ここからシロちゃんブスリ♂と、浦原さんがあたしから崩玉(桃玉)を奪還しようとする時の月光蝶変化で「雛森ィィィィ!」×2を回収するつもりだったんだけど、この精神状態で例の変化をやるとシロちゃんもあたしもそれぞれ悲劇と愉悦でオーバーキルされる可能性が出てきてしまった。

 

 それに、それ以前に桃玉自身にも少し問題が…

 

(なんかあたし以上に感動して放心してるのか、さっきから桃玉の反応がないんだよね…)

 

 彼女(達)も浦原さんの桃ちゃん特攻結界でかなり堪えたらしいが、さっきの「こんなのヤだよ…」台詞までは元気にニチャってたはず。あいつら生死がない思念体だしクマムシよりしぶといから心配はしてないけど…

 気絶してるなら変化は無しにするよ? いいのね?

 飛梅もそれで大丈夫?

 

『うふ、うふふ、うふふふふふ…』

 

 …ああ、こっちは氷輪丸フルボッコの余韻を噛み締めてるのね。今後の事とかどうでも良さそう。

 

 

 と言う事で、桃玉には悪いけど当人(?)の会議不参加により"桃玉変化"はなし! 当初の予定通りの「ごめんね、だいすきだよ」台詞で〆とします!

 終わり! 閉廷! 以上! 皆解散! どんどんぱふぱふー!

 

 

「ん…んむ……よしっ! ほっぺ大丈夫です、藍染隊長!」

 

 

 むにむに頬の固まった筋肉をほぐし終え、あたしはヨン様にGOサインを出す。

 

 そして待つ事しばらく、黒腔(ガルガンタ)が開く前兆を感知。かなり遅れたようだが、ようやく我等の主人公チャン一のエントリーまで秒読みだ!

 

「ではそこでじっとしていなさい」

 

「はいっ!」

 

 ヨン様のお言葉通り定位置に付く。これであとはシロちゃんを誘導し、あたしをヨン様の幻と被らせてくれたら、原作名シーンの再現だ。

 

 

 しかし…

 

 

(ああ、そうか。これで最後なのか…)

 

 愉悦も。

 悪役ロールも。

 原作イベント再現も。

 

 沢山の思い出が頭を過る。愉しかった事、恐かった事、嬉しかった事、恥ずかしかった事、大変だった事。そして、前回、今回の最高のシロちゃん輝き舞台の事…

 

 気付けばあたしは、隣の大恩人へ叫んでいた。

 

 

「────藍染隊長っ!」

 

 

 鷹揚に「何だい?」と首だけで振り向くラスボス。

 

 お礼に、とは言わない。これはあたしにライバルでいて欲しいヨン様への、あたしの義理だ。

 

「勝負です、藍染隊長っ!」

 

「…ほう?」

 

 今度は体全体をこちらへ向けてくるヨン様。

 

 …もしここで、あたしがヨン様へのお礼に、一護を…原作BLEACHを犠牲にすると言えば、きっと彼はあたしに失望するだろう。"対等"とは互いの正義の衝突によってのみ成立する、とかオサレな言い回しを口にして。

 

 だからこそ、彼の愉悦サポートへの感謝は、彼好みの別の形でお礼する。

 

 

 ───()()()()()()黒崎一護との決戦だ。

 

 

「ッ、既にご存じでしょうけど、あたしは黒崎一護を強くしてます! あなたの言う、あたしの"戯曲"の彼以上に!」

 

 出来るだけ胸を張り、尊大桃ちゃんドヤ顔で宣言する。彼へ送るこれ以上の言葉は不要だ。

 

 以前までのように、ただの原作再現のためだけではない。ヨン様を満足させるためという理由、いや解釈を加える。

 無限の向上心で常に高みを目指す男へ、彼の生きる世界の"主人公"を嗾ける。両親の出会いから才能、経験に至る全てをあたしが用意し育て上げた、必勝の運命を持つ"原作主人公"という理不尽。それを原作から更に強化した、桃ちゃん完全謹製の黒崎一護だ。

 

 ヨン様が黒崎一護の英雄譚『BLEACH』そのものを打ち砕き、真の高みへ登るのか。それとも主人公の定めに、そしてあたしのBLEACH愛の前に敗れるのか。

 

 どうですか藍染隊長。前回の雛森クローンがあなたのあたしへの挑戦状だったのなら、これがあたしの、あなたへの挑戦状です…!

 

『……』

 

 見つめ合う互いの間に風が吹き通る。

 その彼は、こちらの意図を察してか。ほんの僅かな眉の動きの後。

 

 

 

「───そうか。それは実に、実に愉しみだ」

 

 

 

 あの初対面の虚圏(ウェコムンド)面接の時を遥かに凌駕する凶悪な霊圧と共に、とても嬉しそうな邪悪顔で笑い返してくれた。見ればわかる、もう完全に霊王の事とか眼中にない。

 

 …全く、ひねくれ者め。普通の人なら恩を仇で返すような事なのに、この負けず嫌いな上昇志向厨にとっては"超えるべき壁"を用意される方がよほど嬉しいらしい。

 

 彼の桃玉、あたしの原作再現。やっぱりこの男と良好な関係を維持するには、こういう互いを試すような、恩の貸し手・借り手の双方に独自の思惑がちゃんと存在する曲者っぽさが必要なのかも知れない。

 

 だからあたしも、「一護くん勝ってね♡」と「原作以上の名勝負にしてね♡」の本音は外さない。

 

 あたしが()()()()()を持っているのだと浦原さんたちに誤認させるため、ヨン様があたしの悲劇のヒロインムーヴを助けてくれているのと同じように。

 

 

「では桃、君の百五十年の野望を遂げて来なさい」

 

「…ッッ、はいっ!!」

 

 

 彼の後押しを受けて、あたしは宙に立つ。

 

 眼前では、ヨン様の幻に何かを言われたのか、半狂乱に叫びながらこちらへ突撃してくるシロちゃん。おおう、なんという憎悪と憤怒。いつもこれをぶつけられてるヨン様って実はドМではなかろうか。

 でもでも、この憎しみが一気に絶望に変わるギャップと言うのも乙。いや、むしろ最高と言うべきかもしれない。それを想像するだけで、あたし…もう…!

 

 

 …ああ、愛しいあたしのシロちゃん。あたしはここよ。

 

 そう、そのまま真っすぐ。そのまま来て。

 

 

 来て。

 

 

 来てっ。

 

 

 来てっ!

 

 

 来てぇっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────死ねえええええええ藍染ええええええんん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …わが生涯、一片の悔いなし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年の無惨な慟哭が更地の町に虚しく響き渡る。

 彼がその両手に抱えるのは、家族同然に育った幼馴染の少女の、物言わぬ哀れな骸。

 

 彼女の呪われた運命。これまでの苦悩や苦痛、涙と絶望。そして凄惨な最期を目にした護廷の死神達は皆、誰もがその悲劇に打ちのめされ茫然自失と立ち尽くしていた。

 

 あんまりだ。

 

 最愛の幼馴染に看取られ笑って逝った少女も、彼女に目の前で先立たれた少年も。その胸の内を思う者は、改めて心を一つにする。

 

 

『────藍染ッッ!!』

 

 

 救えなかった落胆。仲間の悲愴。同情。憐憫。それら全ての悲しみが、疑い無き諸悪の根源の存在に導かれ、正当な怒りへと豹変した。

 

「何たる悪魔の所業! 外道の為す事か! 貴様はそれでも人か!? 藍染惣右介ッ!!」

 

「可哀想に、彼はまだ子供だってのに…!」

 

「…言葉など不要。今すぐここでその屍を晒せ!!」

 

 義憤に、仲間の仇討に立ち上がらずして何が護廷か。激戦に次ぐ激戦にふらつく体に鞭を打ち、死神達が一斉に嗤う巨悪へと剣を振るう。

 

 だが、そんな彼らの影に隠れ、異なる動きを取る者がいた。

 

 

「彼女を(わたくし)の下へ。最善を尽くします」

 

 

 一人は黒腔(ガルガンタ)より舞い戻った四番隊隊長・卯ノ花烈。回道の権威たる彼女は、泣き叫ぶ同僚の少年の横で己の為すべき事を為そうとする。

 

 そして同じく、自らの使命を果たさんとする者がもう一人。

 

 

「落ち着いて聞いてください、日番谷サン…! 彼女は死んでない。いえ、死ぬはずがないんス」

 

 

 倒れた少女が司る劇物の生みの親、浦原喜助だ。

 

「崩玉です。部分的であろうと崩玉と融合を果たした魂魄は、魂魄自体が崩玉となる。死神を超越した高次元存在へと生まれ変わった雛森サンを、斬魄刀で殺すことは不可能なんスよ」

 

「ッ、ではまだ彼女は助かると…意識を取り戻せると言う事ですね?」

 

 訝しむ卯ノ花へ男が返したのは、一筋の希望。そしてその希望が、壊れた一人の少年の心に、確かな再生の火を灯す。

 

 

「────だず…が…る…?」

 

 

 目は涙で腫れ、顔は洟に塗れ、血の気を失い、瞳の焦点は崩れたまま。それでも少年──日番谷冬獅郎は、男が口にしたその言葉に力なくも死に物狂いで縋る。

 

「だずがるのか…? ひなもりは……ひなもりはたすかるのか…!?」

 

 奈落の暗闇に垂らされた蜘蛛の糸。放してなるものかとみっともなく浦原にしがみ付く彼を責める者などいない。

 だが。

 

「命だけなら、と言うのが正しいでしょう。ですが根本的な解決とはなりません」

 

「いのち、だけ…? どういう…どういうことだ!? 雛森は助からないのか!?」

 

 半狂乱に陥る彼へ、問題は別にあると浦原は事実を突き付ける。

 

 

「彼女の魂魄から崩玉を分離しない限り、雛森サンが元の生活に戻る事は永遠にないでしょう」

 

 

 その言葉で大きく揺れる、少年の瞳の微かな光。だが絶望に落ちて行く彼へ、鬼才は「ですが」と向き直る。一つだけ、全ての願いを叶える方法があるのだ、と。

 それは…

 

 

 ────崩玉の摘出だ。

 

 

「おそらく、雛森サンが極度に弱体化している今が最後のチャンスでしょう。この機会を逃すと崩玉が学習を終え、更なる融合の深化を遂げてしまう」

 

「…ッ!」

 

「もちろん摘出自体が危険な賭けッス。あまりに不確定要素が多すぎる。科学者としておすすめは出来ません」

 

 布帽子の奥で目を細め「それでもやりますか」と浦原が少年に問う。そこへ、ジッと聞きに徹していた卯ノ花が不愉快そうに割り込んだ。

 

「私が許可を、いいえ、命じます。やりなさい、浦原喜助」

 

「卯ノ花サン…?」

 

「全く、貴方と言う人は。心痛める日番谷隊長にこれ以上何を背負わせようと言うのですか。人命を繋ぐのは私共四番隊の役目。責は全て私が負います」

 

 彼女は正しくこの男の内心を読んでいた。

 崩玉を創造し、それを悪しき者の手に奪われた大失態。同時に護廷十三隊も四十六室も信用できない。ならばこそ浦原は、護廷隊隊長の冬獅郎から言質を取り尸魂界(ソウルソサエティ)の口出しを最小限に止め、この崩玉問題を自身の手の内で収めようとしているのだ。

 そしてそれは利己的な理由だけではなく、今の中央四十六室の惨状を考えた上の最善策でもあった。

 

「……失礼。過ぎた真似を致しました」

 

「いいえ。あの事件から百年、藍染惣右介の陰謀を見抜けなかった我々護廷の不甲斐なさを思えば当然の心。だからこそ四十六室の詰責の矢面に立つのは、当時を知らない日番谷隊長であってはならないのです。鉄火場において真っ先に人心を捨てる者に、人は救えませんよ?」

 

「…いやァ、耳が痛いッスね」

 

 肩を竦めながら「それも科学者の性なのでしょうが」と苦笑する卯ノ花。そして万感の思いに狼狽する冬獅郎へ微笑んだ。

 

「雛森さんの魂魄は、私が必ず助けます」

 

 護廷最高の癒師の言葉を疑う事など出来はしない。涙ながらに頷く彼の決意を合図とし、遂に天才・浦原喜助が動き出す。

 

「…では直ちに取り掛かります。ご両人、お覚悟を…!」

 

「手段はどのように?」

 

「先ずは雛森サンの魂魄強度の維持です。彼女の霊圧を抑制させている結界を解除します!」

 

 その時、ふと嫌な予感が彼の背中を走る。だがソレこそが"あるいは"と唾を呑み、浦原喜助は日番谷冬獅郎、卯ノ花烈の覚悟を見て、己の持つ最大の鬼手を言葉にした。

 

「解除後、即座に…」

 

 

 ────()()()()()()のみを分離させます。

 

 

 

 …それが果たして正解であったのか。他に手はなかったのか。

 

 後の祭りで振り返る事は出来れど、それは彼の持つ限りの情報から導けた最良の選択であったと、誰もが認める事だろう。

 

 皆に愛される五番隊副隊長の、"雛森桃"。

 狂気を秘めた謎の虚研究家の、"読書家"。

 藍染の洗脳と崩玉融合状態の、"決戦兵器"。

 

 それぞれを内なる力の人格と捉えるのは、死神、(ホロウ)(プラス)、人間の、魂魄研究の常識だ。斬魄刀と共に戦う死神ならば、仮面の軍勢(ヴァイザード)を、黒崎一護を知る者ならば、それ以外の考えなど浮かばない。そしてそれはこの世の理において、絶対的に正しい。

 

 たとえ雛森桃の三つの人格が鏡花水月の幻であったとしても。

 たとえ雛森桃の三つの人格が全て彼女の演技であったとしても。

 浦原喜助の取った手段は、"雛森桃を一つの魂魄に戻す"と言う意味では、議論の余地なく正解である。

 

 

「────っあ

 

 

 ただ一つ、誤算があったとすれば。

 

 それは…

 

 

 

 

 

『──ァァァァァアアアアアアアアアア"ア"ア"■ア"ア"■ア"■■■■』

 

 

 

 

 

 雛森桃の魂魄は、世にもおぞましい実験により。

 

 

()()()()()()()()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

『──うふふふふふひひひひひ──』  

 『──ハァハァハァハァハァハァ──』

『──シロちゃああああん──』

『──もっともっ……あ、あれ?──』

『──あ、霊圧動かせるようになった?──』

『──動かせるね!──』

  『──そんなことよりシロちゃんが!──』

『──ああっ、浦原さんが!──』

『──シロちゃんのメンタル回復させてる!──』

『──シロちゃんの曇り顔がぁ!──』

『──でもあたし達を甘く見ないでよね!──』

『──我々にはまだアレがあるのだ!──』

『──シロちゃんの輝きは消えぬ!──』

『──何度でも蘇るのだ!──』

『──では予定通りに?──』

『──月光蝶いっちゃう?──』

『──月光蝶であぁぁぁるッ!──』

『──月★光★CHOォォウッ!──』

『──それ全部違うネタ…──』

『──白竜ママ…パパ?──』

『──公爵でハゲだからパパよね?──』

『──あ、あなたなんてことを…!──』

『──蟲に墜ちてまでハゲの呪縛を…──』

『──悲劇の父を持つ月の蝶に変☆身!──』

『──お姉さまー!──』

『──おねーさまー──』

『──変化指示をお願いしまーす!──』

『──……──』   

    『──……──』

『──……あ、きたきた──』

『──なんて?──』

『──"非常事態に付きOK"だって──』

『──えっ? どう言うこと?──』

『──浦原パルプンテがなかったらダメだったの!?──』

『──そんなぁ……って、ん?──』

『──浦原さんがまた何かやろうとしてる──』

『──今度は何?──』

  『──崩玉(笑)を取り出したいとか?──』

『──"雛森桃の魂魄を分離する"?──』

『──そう…(無関心)──』

『──もう融合終わってて無☆理!──』

『──NDD?──NDD?──』

『──ほーん……ん?──』

『──え、それ不味くないかな?──』

『──えっ、なんで?──』

『──いやほら、あたしたちって…──』

『──お姉さまのクローン(笑)だね──』

『──同じ"雛森桃の魂魄"よね──』

『──うん──』  『──そうね──』

『──……──』

『──……──』   『──……──』

『──……──』

『──……──』  『──……──』

 

 

『──ああああああああァァァアアアアアアア"ア"ア"ア"ア"ア"■アアア"ア"■ア"ア"ア"■■──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ッ、危ない!!」

 

 

 桃色の霊力が、死したはずの少女の体から絶叫と共に噴出する。その規模は最早それまでの霊的現象がそよ風にも思える、例えるなら竜巻の如く渦巻く大津波。

 

 突然の天災に「何が起きた!?」と戦場に身を置く者全員が仰天する。だが彼らの驚愕は、これより始まる終末の怪物の誕生の序章にすぎなかった。

 

 

『ア"アア"ア"ァァァア■ア"ア■■アア"■■■■────』

 

 

 響き渡る絶叫の質が変わる。一つ、また一つと、同じ声の悲鳴が重なる様に増え、気付けば呻る霊圧の暴風すら掻き消す、百を、千を、万を超すおぞましいソプラノの大合唱となっていた。

 

 そして、その悲愴な讃美歌が最高潮に達した時。

 

 

 

「な、何だあれは…!?」

 

 

 

 "ソレ"は、少女の背中から現れた。

 

 衣類より剥き出しのそこから、悲鳴に紛れた異音が零れる。

 ボコボコ、グチャグチャ、ズルズル。あらゆる生理的嫌悪を掻き立てる硬質で水質な音を撒き散らしながら、真っ白い塊が伸び出たのだ。

 

 大きな卵にも似た物体。二重の殻の半分が割れ落ちたような、中心線に沿う突起と穴、左右対称な二つの窪みを持ったナニカ。まるで人の頭部を思わせるその石膏らしき塊は、正しく、冬獅郎の良く知る──

 

 

 雛森桃の頭部を象っていた。

 

 

「…ぁ、ッは…?」

 

 それが象る正体を認識した冬獅郎が、おぞましさから思わず少女の体を投げ捨てなかったのは、偏に彼女への底なき愛だろう。

 だが、故に哀れな恋する少年は誰よりも間近で、この世で最も大切な想い人の変容を見てしまう。

 

 

『……!!?』

 

 

 少女の背の中から現れたのは、頭部だけではなかった。

 

 頭があるなら首が、肩が、腕が、胸が。まるで薄い膜を指の一本一本にまで至る全身に張り付けたような白亜の姿の、起伏に乏しいながらも手折れそうに華奢で淑洒な、雛森桃の女性的な肢体が這い出る。

 

 

───次から、次へと───

 

 

「……な、な…!」

 

「何…だよ……あれ…!?」

 

 顔を歪める者、放心に目を見開く者、絶句し顎を垂らす者。あまりの光景に誰もが立ち尽くす間も、渦中の少女は急速に異形へと変じていく。

 

 最初の純白な彼女の分身にへばり付くように。二人、三人、十人、二十人と、数珠繋ぎに連なり次々と増え、空へと伸びてゆく、少女の成れの果て。

 冬獅郎の抱える遺体を頂点に、天高く聳えていく巨大な組体操の如き姿は、少女の整った容姿や輝く桃色の霊力も合わさり……美しいとさえ形容できるだろう。

 

 だが、どれほどの美辞麗句を述べようと、その本質はただ一つ。

 

 

「───ば、化物…」

 

 

 裸体寸前の可憐な少女が幾重にも絡み合い、溶け合い、織り成すその美しさは、まさに背徳性の退廃美そのもの。この世のものとは思えない醜く冒涜的なその存在は誰が見ても、文字通りの異形の化物だった。

 

 そして。

 

 少女が、少女たちが、化物が。

 

 その無数の双眸と口を、一斉に開いた。

 

 

 

 

 

 

『────ァァ■ア"■■ァ■ア■■■■ァアァ■■■■■■ァア"■■■■ァァア■■■ア"ァ■■■■ア"ア"ァ■■■■■アァア"■■』

 

 

 

 

 

 悲鳴の大合唱が霊子の爆風となって周囲を吹き荒れる。

 

 悲痛に苦しんでいるようにも歓喜に狂っているようにも聞こえるそれは、まさしく世界の終わりを告げる、黙示録の怪物の咆哮。人という矮小な存在ではどうする事もできない、天変地異の産声だった。

 

「おい浦原! なんやあれ!? あれもあんたが言っとった崩玉の影響なんか!?」

 

「……わかりません。あんな…あんなもの……ボ、アタシの知るどの研究資料にも載ってない…! 崩玉の力かどうかすらわからない想定外極まる事態です…!」

 

「"わかりません"やないやろおんどれ!? あんたのせいでああなったんやないんか!?」

 

「あれは、一体…!」

 

 真っ先に問い質そうとやってきた平子の怒鳴り声を耳に、浦原は隣の卯ノ花と共に放心するばかり。だがそれも当然。彼の常識ではこんなことは起きるはずもない事だった。

 現れた分身が一人なら、二人ならまだ納得がいく。それらが雛森桃に強引に埋め込まれた内なる力であると判断出来るからだ。

 しかし、これは…

 

 

「───藍染!! 彼女に一体何をした!?」

 

 

 浦原は遠くの巨悪へ振り向き、かつてない激情で咆える。あれは断じて崩玉だけの影響ではない。少なくとも浦原が生み出した崩玉に、あんな現象を引き起こせる霊性因子は欠片も存在しなかった。

 

「ッ、答えろ! 藍ぜ───」

 

 だが、そこで。宙に佇む仇敵の男の顔を見た浦原は、息を呑んだ。

 

 

 

 一方。浦原の視線の先の、大罪人共の陣幕。

 重臣の一人であった雛森桃のあまりの変貌は、原因である彼ら巨悪の陣営にも大きな動揺を起こしていた。

 

「何や、あれ……無数の裸の桃ちゃんの集合体…? ボクあの()に崩玉が入っとった事さえ初耳なんやけど…あれ完全に何やあかん事起きてんのとちゃいます?」

 

 魔王に仕える糸目の副官、市丸ギンが思わず腰の脇差へ手を添える。

 

 最古参の盲目の重臣が討たれ、今や三人となった彼らのみが知る事だが、この場で起きた出来事は全て五十年以上…ともすれば百五十年もの入念な準備の上に成り立つ"戯曲"である。

 その気の遠くなるような執念と醜悪な偏愛の果実を、怖いもの見たさに頬を引き攣らせながら観賞していた市丸だったが、流石の剽軽者もこの展開には息を呑んでいた。

 

「待て、ギン。様子を見よう…!」

 

 だが、誰もが否定的な感情を見せる中。この男だけは、違った。

 

 

「───桃…やはり君はどこまでも私の予想を上回ってくれる…!」

 

 

 普段の冷嘲の薄ら笑いではない。極上の宝石を見つけたかのような、歓喜の緊張を孕んだ笑顔を浮かべる者。

 

 巨悪の王、藍染惣右介だ。

 

「いや、あの…藍染隊長? あの霊圧は流石にあかんわ、足元の空座町のレプリカが耐えきれずに霊子に戻っとるやないですか。あれほっとくと桃ちゃんホンマもんの化物に──」

 

「何をしているギン、すぐに周囲の有象無象を排除しろ。今の桃の変化を妨害しうる者全てだ」

 

「あ、はい」

 

 全く聞く耳持たず、目の前の超常現象の"観察"を始める上司。まるで子供のようにキラキラとその冷たい琥珀色の瞳を輝かせて。

 

「…あァ、こらあかん。あないなるとどうにもならんわ、藍染隊長」

 

 あの可憐で醜悪な同僚が絡む時の、上司の悪癖に溜息一つ。肩を竦める市丸は男の指示に従い、荒れる戦場へと飛び込んだ。

 

「…射殺せ」

──神鎗(しんそう)──

 

 その胸に、如何にしてこの大混乱を自らの利とするか、ただそれのみを考えながら…

 

 

 

「…邪魔だな、山本元柳斎重國」

 

 戦慄する護廷と仮面の死神達に部下が更なる混乱を撒き散らしている最中。藍染惣右介は遠方で密かに大技を仕掛けんと暗躍する一人の老死神に眉を顰める。今の雛森桃が命を落とす事はあり得ないが、余計な刺激となるには十分な火力をあの男は持っていた。

 

「ワンダーワイス」

 

 この時のために雛森たちに用意させた切り札、対【流刃若火】改造破面を側に召喚する藍染。

 

「彼をしばらく無力化させろ。出来るだけ空座町の外周で戦え」

 

「あぁお…ああぁうッ!」

 

 王の指示を受け、破面ワンダーワイス・マルジェラは神速の響転で護廷が誇る最古にして最強の死神へ襲い掛かった。

 

「……フフ」

 

 一人となった巨悪の陣幕。誰にも邪魔されない最高の環境で、男はその煌めく双眸に天女の昇華を映し続ける。

 

 女神の偏愛の人形、日番谷冬獅郎。そして浦原喜助という鬼才の影響により目覚めた、正真正銘の超越者。

 あれが彼女の超越的精神のあるべき真の姿なのだろうか。それとも稀有な因果で生まれた崩玉の暴走なのだろうか。

 

「事前に"勝負"の名目で黒崎一護という餌を差し出したのは、奇しくも私を惑わす最高の一手となったな、桃。本当にやってくれる…!」

 

 いずれにせよ、最高の観察対象である事に変わりは無い。自らの手のみでは決して起こすことの出来なかった現象を前に、ただひたすら少女を礼賛する巨悪。

 

 そして、眼下の大艱難を見下ろしながら。

 

 藍染惣右介は歓喜の絶頂にその身を震わせた。

 

 

「さあ、桃。私の天女。どうか最後まで見せてくれ」

 

 

 

君が紡いだ百五十年の神曲。

 

その終末を飾る…

 

 

 

女 神 の 降 臨 を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

長くなったのでもう一話書きます!

支援絵頂をきました。
本当にありがとうございます!


ぬめこ様の桃玉ワイプ芸。
https://img.syosetu.org/img/user/146878/71547.png
元絵
https://img.syosetu.org/img/user/146878/71546.png

突然の死! こんなん笑うしかないやん、ありがとう元気出たわ!
桃玉たちもせこせこテロップ用意して楽しみにしていた事でしょう。
全身絵まで描いていただいてありがとうございます。曇りシロちゃんへの愛を感じますねぇ!?
これを見てる彼はとてもいい顔をしてるのよ…



白岩@様の藤田和日朗風貌無し司令桃ちゃん
https://syosetu.org/?mode=img_view&uid=202142&imgid=71553

草草草ァ! とてもいい笑顔がモノトーンに映える素敵な一枚!
内部は白面のお方レベルでも親和性がありそうなゲス顔イイゾーコレ
ニチャってるフォントと横長の瞳がとてもベネ。
雛森、読書家、崩玉兵器。全員、同じ人間!君を曇らせる元凶の女だよ~ん!


そして力作大作ゥ!

再誕者雛森ちゃん①
https://img.syosetu.org/img/user/202142/73640.jpg
再誕者雛森ちゃん②
https://img.syosetu.org/img/user/202142/73639.jpg

ギョロアエ&エンヴィー&賢者の石で表現される圧倒的二ページ!
ぐちゃぐちゃグロい両作の味を生かした再誕者!
これでシロちゃんが「ひなっひなっもりっ」言ってたら18禁になってましたねセーフ(なお
しかし再誕者とかいう鬼書き込み必須シーンをここまで書いてくださるとは…
心より感謝します…!



ぬめこ様、白岩@様、素敵な支援絵大変ありがとうございました!





次回:

白「これが俺の…最後の雛森ィィィィ!だ」







注・最終話ではありません。

 
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