雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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遅れてめんご。
唐突に苦労人となった市丸との一戦。
思えば描写したの初めてかもしれない。

市丸の魅力って素の性格が悪いのにやっぱり憎めないズルい所だと思ふ。

 


月牙……だと……

 

 

 

 

 

『へぇ…少し見いひん内にえらい強うなったんやね、黒崎一護クン』

 

『ッ! 俺のこと知ってんのか?』

 

『さァ? 先日に六番隊長さんから初めて聞いたんかもしれへんし──君が生まれる、ずぅーっとまえから知ってたんかもしれへんなァ…?』

 

 

 …そうだ。

 

 黒崎一護は思い出す。ルキアを助けに尸魂界(ソウルソサエティ)へ殴り込んだその日、最初に遭遇した護廷十三隊の隊長。目の前の男、市丸ギンが口にした台詞の中に、不吉なものがあった。

 

 

「────生まれる…前から…?」

 

 

 あの時の裏切り者との一戦。一護は鍔迫り合いの途中で聞いたその一言に思わず硬化する。

 

「ありゃ、覚えてへんかったん? しもた」

 

「…市丸……てめえまさか…」

 

「すんません、これホンマはまだ言うたらあかんかったやつですわ。オフレコで頼んます、お二人さん♡」

 

『…ッ!』

 

 だが一護の心を嵐の如く揺さぶっておきながら、男が核心に迫る説明を述べる事は無かった。散々おちょくるだけおちょくって何一つ明かさない市丸の巫山戯た態度に、怒りがこみ上げる青年。

 そんな直情的な彼を宥め、背に庇う者が一人。父の黒崎一心だ。

 

「…一護、下がってろ。俺がやる」

 

「な、親父…!」

 

「それとこいつの話は絶対に聞くな。頭がイカれる」

 

 一護は言い返す事ができなかった。物心ついて一度として見たことのない、ヒゲ親父の鬼気迫る顔に気圧されて。

 

 だからこそ青年は悟る。この話は真に親父の一生、ひいては自分たち謎の霊感一族黒崎家に関わるドデカい秘密で、今のような緊迫した戦場で話していい内容でも、受け止められるほど軽い内容でもないのだと。

 

「…わかった。だが俺も戦う」

 

 切実な関心を振り払い、一護は戦意をかき集める。せめてコイツと剣を交わせば何かわかるかもしれない。そんな些細な未練を胸に潜め。

 

「……バカ野郎。足手まといになんじゃねえぞ!」

 

「そっくり返すぜヒゲ! てめえこそ足引っ張んなよ!」

 

「誰が!」

 

 互いに手を取り合い、敵と対峙する親子。そして注視した糸目の男は、変わらず愉しそうに嗤っていた。

 

「…いやァ、感動モンやね。少し前まであない泣き虫やったのに、人間の成長は早いもんやなァ」

 

 またしても青年の過去をこれ見よがしに突き付ける市丸。だが血が上る父を押し留め、一護は負けじと挑発を返す。

 

「…ハッ! そうかぁ? 変わったのはあんたもだろ?」

 

「ボク?」

 

 キョトンとする市丸へ一護は言葉を重ねる。

 

 死神の力に目覚めた自分は、強敵と剣を交わす度、少しだけ相手の考えがわかるようになった。それは思考や記憶などと大それたものではないが、仲間を護る、敵を殺す、戦いを愉しむ等、相手がどんな覚悟や意思で一護自身と戦っているのかが漠然と読み取れる程度のものではあった。大抵は戦いが終わった後の余韻で漸く気付ける朧げなソレは、相手が強ければ強い者ほど鮮明に感じ取れた。

 

「…俺が戦った相手で、意思が読めなかった相手は三人。その内の一人があんただ」

 

 他の二人は実力が離れすぎて剣を打ち合う事すら出来ずに負けたが、この市丸ギンとは一度だけそれが出来た。その時感じた"無"の不気味さはずっと一護の記憶にこびり付いている。俺と戦っているのにこれっぽっちも俺の事を見ていない敵の、気味の悪さは。

 だが。

 

「今は、ほんの少しだけわかるぜ。顔はヘラヘラしてても……あんた、今かなりキレてるだろ?」

 

 自嘲に「何にイラついてんのかまでは知らねえけどな」と加える一護。

 

 彼としては、ただ相手の内心を指摘しイラつかせようと考えたに過ぎない。しかし存外、一護の核心を突くが如き挑発は、かなりの当たりだったようだ。

 

 

「…ふぅん」

 

 ぽつりと耳に届く市丸の相槌。

 

「おもろい子やと思てたけど…

 

 

なんや気味の悪い子やなぁ」

 

 

 その言葉と同時、男の纏う空気が変わる。

 

『…!』

 

 変わらず剽軽なキツネ顔ながら、豹変とも言っていいほどその雰囲気が逆転していた。

 

「ようもまァ…生まれやら力やら抜いても、藍染隊長好みの子に成長してもうて…」

 

 またしても意味ありげな独り言を呟き、市丸が剣を握り直す。

 

 …来るか。

 

 

「せや。君、ボクの【神鎗】の伸びる長さ知っとる?」

 

 だが身構える一護に対し、彼が始めたのは突拍子もない斬魄刀自慢だった。どれくらい伸びるだの、昔の異名だの、この手の自己賛美に全く頓着しなさそうな男が述べる数々に、いやな予感が胸に積もる。

 そして卍解の規模の話を始めた時、その数字を聞いた一護は凍り付いた。

 

 

─── 1 3 (キロ) や ───

 

 

 一体何の冗談だ。自宅から徒歩で通う学校までの距離の、更に倍以上ある距離じゃないか。そんなもの、想像すら…

 

「ピンとけえへんやろ、数で聞いても」

 

 そう戸惑う一護の内心を読んだかのように、男が「せやから見せたる」と脇差の切先を地へ伏せる。

 

「いくで。今度は…

手加減、無しや」

 

 そして、まるでいつぞやの再現の様に。

 市丸があの構えを取った。

 

 

 

 

 

      (ばん)

 

  (かい)

 

 

 

 

 

 

───【神殺鎗(かみしにのやり)】───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間。

 

 町中の瓦礫が水平に裂けた。

 

 

「は……!?」

 

「ッ、不味い! 避けろ一護ッ!」

 

 呆ける一護は、咄嗟に反応した父親に突き飛ばされる。間一髪で危機を逃れた二人は即座に戦闘態勢へ。

 だが敵の追撃は遥かに速かった。凄まじい勢いの光が狙う先は、より霊圧の低い刀剣未開放状態の一心。

 

「ぐっ! ッこのクソガキィ!!」

 

「へぇ…散々ヒント出しましたけど、初見で見切られるやなんて思いまへんでしたわ。流石は元十番隊隊長」

 

 辛うじて刀身で身を守るも、その絶大な威力は止められない。

 

「せやけどコレ、卍解ですよ? ただの斬魄刀に止められてもうたら、ボクとっくに虚圏(ウェコムンド)の練習場で桃ちゃんに灰にされてますわ」

 

「ぐあァッ!?」

 

「親父!!」

 

 一護を庇った父は、彼の目の前で遠く弾き飛ばされる。舞い散る血潮に一心の身を案じる息子。

 そんな青年へ、敵の更なる追撃が襲い掛かる。

 

「んじゃ、次は君の番ね。黒崎一護クン」

 

 瞬く再三の閃光。恐ろしい真空波で爆ぜる瓦礫の山。一護を狙う神速の斬撃。

 

 だが。幾度と虚圏(ウェコムンド)で絶望を乗り越えた彼は、尸魂界の切り札とも称された奇跡の人間。

 

「…!」

 

 市丸の繰り出す超長大な刀身を、一護の握る【天鎖斬月】は受けきったのだ。

 

「……何驚いてんだよ。てめえの卍解が親父の未開放の斬魄刀を圧倒出来ても…

 ──卍解が卍解で止められねえワケねえだろ!」

 

 黒腔(ガルガンタ)で卯ノ花烈の回道を施された青年は万全の状態でこの戦いに臨んでいた。そう容易く敵に後れを取るはずがない。

 

 そして、こちらの優位は重なる。

 

「……おいおい。二人で盛り上がってねえで、俺も交ぜろよ!」

 

 吹き飛ばされたヒゲ親父が、先ほどとは別人の燃えるような霊圧を纏い戦場へ舞い戻ったのだ。

 そこで父、一心が遂に己の斬魄刀を解放する。

 

「…燃えろ!」

 

──剡月(えんげつ)──

 

 途端、周囲に霊炎の焱熱が吹き荒れる。倍ほどに肥大化した刀身、柄から垂れる長い緒。その斬魄刀を見た一護は驚愕に目を見開いた。

 

「…ヘッ、どうだ息子よ。"血"を感じるだろ?」

 

「親父…それ……」

 

「まっ、俺の方がイカすけどな! そうだろ、剡月?」

 

 そう言い残し市丸へ斬りかかるヒゲ親父。そんな頼もしい後ろ姿を見つめる一護の胸に、嬉しいやら恥ずかしいやら、形容し難い熱い思いが沸き上がる。

 その想いを剣に乗せ、息子は父親の後を追い掛けた。

 

「…調子乗ってんじゃねーよ、ヒゲ! そういう事はせめて卍解してから言え!」

 

「うるせえ! 超久しぶりの解放で剡月(こいつ)が拗ねてさせてくれねえんだよ!」

 

「ハッ、そうかよ! だったらそこで俺の斬月(ざんげつ)の必殺技を指咥えて見てろ! いくぜ…!」

 

 市丸を親父に任せ、一護は上空へ飛び上がる。

 放つのは勿論、自慢の【月牙…

 

 

「────【月牙天衝】か?」

 

 

 だが、そこで一心がニヤリと笑う。

 

「な、てめえやっぱ知ってんのかよ!?」

 

「知ってるさ。なんたってソイツは……()()()なんだからよ!」

 

 父の言葉に驚く一護。予想外の話故の当然の混乱だ。

 

「何だって…!?」

 

「言っただろ? 【剡月】と【斬月】は、俺達親子の血が通った斬魄刀だって…なァッ!!」

 

「…!」

 

 斬り合う最後の一撃、一心が鬼デコピンで市丸を地面へ叩き付ける。その反動を利用し飛び上がった彼は、宙の一護の隣に立った。

 一瞬のアイコンタクトの後、親子はニヤリと笑い合う。この場に、状況に、互いの斬魄刀において、言葉など不要。

 

「おし一護! 俺に合わせろ!」

 

「ッ、バカ言え! てめえが俺に合わせんだよ!」

 

 そして互いに月を冠す刀を空へ振りかぶり、全身全霊の霊力を込めた牙を撃ち放った。

 

 

 

── (げつ) () (てん) (しょう) ──

 

 

 

 

 炎と闇の融合が生む、凄まじい大爆発。吹き荒む熱風と霊圧が辺りを破壊し、もうもうと砂塵が立ち上る。

 父と子、初の親子の共闘故か。かつてないほど強い力が籠った月牙だった。

 

 

「…いくぞ」

 

「仕切ってんじゃねえよ、親父」

 

 一瞥の後、二人は新たな戦場へと踵を返す。随分と手間を取ったが、本命の敵は未だ遠くで津波の様な霊圧を撒き散らし健在なのだ。

 

 巨悪の魔王・藍染惣右介と戦っているのは、浦原喜助に四楓院夜一、平子真子、京楽春水、砕蜂、狛村左陣、卯ノ花烈。錚々たる面子だが、あの雛森桃の大立ち回りを見た後では不安ばかりが募る。あんな強者を従え、しかも斬り捨てるほどの男を相手に、救い出した彼女と冬獅郎を守りながら戦うのは難しいだろう。

 早急に助けに行かねばなるまい。

 

 

 

 

 

「────かんにんしてやァ。この衣装、ボクのお気に入りやったのに…」

 

 

 

 

 だがそこで、聞こえるはずのない男の声が聞こえた。

 

『なっ!?』

 

 場所は背後で立ち上る土煙の中。渾身の一撃、親子の力を叩き付けたはずの敵──市丸ギンが頭部の血を拭いながら飄々とした軽い足取りで現れたのだ。

 

「…なんです? 息子さんと二人してそない驚いて。まさか二十年前のボクと同じやと思てはるんですか、十番隊長さん?」

 

「市丸…!」

 

 ボロボロの衣服を叩きながら「高密度の炎に霊圧やなんて見慣れたもんや」とヘラヘラ笑う糸目の男。目立った傷はほとんど無い。正しく軽傷程度の負傷で未だ戦意を漲らせる魔王の副官がそこにいた。

 

「しかし…どうしたもんやろねェ。ボクの神殺鎗の()()は止められてもうたし…」

 

 そして脇差型の斬魄刀を手で玩んでいた市丸が、その切先をこちらへ向け──

 

 

「…ほな、正道の()()でお相手しましょか」

 

 

 

 

──神殺鎗(かみしにのやり)"舞踏連刃(ぶとうれんじん)"──

 

 

 

 

 直後。

 

 黒崎親子の視界は無数の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

メゾン・ド・チャンイチの共用テレビ室にて:

白一護(月牙ってホワイト時代に一度見たヒゲ親父の技名をパクっただけ…)

おっさん(血の繋がり…うむ、上手く誤魔化せたようだな…)

白桃(このノリで【最後の月牙天衝】が生まれるのね…)

次回︰崩玉……だと……

 

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