雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
チャン一のメンタルカウンセリング回
わりと直ぐに復活するのは鰤界の常識
俺自身が刃禅になる事だ…
やあ、みんな。
久々の桃ちゃんだよ。
現世でのすやすやシロちゃんにヨン様無双、愛すべきメンタル低反発枕な鰤主人公チャン一。そして卯ノ花さんに治療されて【最後の月牙天衝】フラグをちゃんと立ててくれた一心パッパを確認したあたしは、一旦メインカメラをマイ
この世界はあたしの完全体
…さて。
これから打倒ヨン様のために我らが黒崎一護少年の強化を行うのだけど、こんな便利な空間があるなら話は早い。せっかく貴重な良い方向に働いた桃ちゃんガバだ。ここマイ叫谷で彼のホワイト封印調整などラスボス戦前の最後の仕上げをしてしまおう。
と言う訳で。
「───第一回桃ちゃん'sホームパーティ開催に向けて、このアホみたいに巨大な叫谷の模様替えを行いたいと思います! みんな拍手!」
『──パチパチパチ──キャーオネーサマー!──』
「……あの、主様? あの斬月の少年、心折れてますけど放ってて大丈夫なのですか…?」
『──彼は折れば折る程よくなるスルメみたいな子だから──むしろここで折れたお陰でトラウマ克服OSRチャンス!──お父さんも卯ノ花さんも"仮面のあたし"もいるからケアは万全よ──』
「そ、そう…なら結構だけど」
同居人の飛梅ちゃんと桃玉思念達が一緒にチャン一の事で盛り上がってくれる。何せここにゲストを招待するのは拘突くんを除けば初めての事。ホストとして恥ずかしくないホスピタリティ溢れる空間にしなくては。
「…まあ確かに女としてこんなつまらない所に殿方をお迎えする訳にはいかないわ。主様に賛同します」
『──飛梅って女子力高いよね──重そうだけど…──シッ、思っても言わないの──』
「何かおっしゃって?」
「はいはい、双方静粛に!」
全く、すぐ喧嘩するんだから。喧しい参加者達を注意する傍ら、あたしはシロニウム過多による闘病期間の一カ月で慣れ親しんだマイ叫谷をぐるりと見渡した。
アニ鰤映画で登場した
「改めて見てもホントふざけた空間ね…」
目の前に広がるのは、ベタ塗のような桃一色の空と、延々と続く平らで無機質な地面。まるで3DCGのモデリング画面のような圧倒的手抜き感。鰤本誌の真っ白オサレ背景の方が描き込み多いぞ、ガッデム世界。
こんな所で今のあたしのニチャ翅&襦袢姿のままで一護の前に現れたら、絵的に謎すぎて唐突感が否めない。
なのでここはもっとオサレで親しみのある姿と空間で歓迎しよう。至高神KBT〇Tも絶対そうする。
飛梅達が静かになったので早速会議の本題だ。
「ではまずはこの落ち着きの欠片も無い世界の模様替え案を募集します。誰かどうぞ」
『──はいはい!──ゲストの黒崎くんリスペクトにあの斬月世界のアレンジ再現はどうでしょうか!?──色だけ青からあたしたちの桃色に変えて──かなり意味深でオサレかと!──』
お、ガバ玉らしからぬ良案が出た。彼女達の言う通り"意味深なオサレさ"はとても大事だ。不思議な世界に入り込んだ主人公がそこで力を授かったり修行&成長したりするのは高OSR値が期待出来るからね。
飛梅ちゃんが一人だけ原作知識が無くて首を捻っているので、ざっと斬月世界の光景を説明する。えーと、のっぺりとした青紺色のポスターカラー風な摩天楼群が世界ごと水平になってて…
「…大体想像できましたが、落ち着きのなさで言えばこことあまり変わらないのでは?」
『──……──』
「……」
女子力高い飛梅さまの正論に押し黙る桃玉。ついでにあたしも。
『──だ、だったら絶望状態の斬月世界ならいいでしょ──水中の空座町ね──見慣れた日常の場所がアットホーム感無いなんて言わせないわよ──』
「あのね、水に沈んだ故郷をアットホームと感じる人なんていると思う? それに一面青色の世界が桃色になれば目によろしくないでしょう。成仏未遂で常識だけ何処かへ飛んでったのかしら?」
『──……──ふええ、お姉さまぁ──飛梅が虐めるよぉ──』
お、おう。あたしも良案とか考えちゃった手前何とも反応し辛い。
沈黙は金なので桃玉を見棄てて黙っていると、斬月世界反対派の飛梅ちゃんが代案に面白い事を言い出した。
「別に水没させなくてもよいのでは? 彼が空座町を目指しているなら、こちらの叫谷でそれを再現してはいかがでしょう」
『──はぁーん?──それは
「黙って聞きなさい。宴と言うものは風流が肝心。そして風流な心配りには
突然なにを侘び寂な事言い出すんだと感心しつつも訝しむあたし達へ、彼女が人差し指を立てて説明する。
「もちろん護廷隊と同じようにただ空座町を再現するだけでは意味も芸もありません。なのでこちらは昔からあの子を知る者にしか知り得ない、彼が懐かしいと思う光景を再現するのはいかがかと」
『……あ!』
そこで同時にピンと来たあたしと桃玉思念達。なるほど、それは確かにミステリアスでとても面白いかもしれない。
そんなこちらの好感触に悪戯っぽく笑みを浮かべ、飛梅ちゃんが一つの名案を口にした。
「具体的には、そうですね──」
それは
まさにこれ以上ないくらい……最高のステージだった。
***
あれからどれほどの時が過ぎただろう。
つい半年前まで中学生だった子供には、否、全ての理性ある者にとっては重すぎる、衝撃的な真実。溶け固まったアスファルトの上に膝を突く黒崎一護は、目の前に開いたままの穿界門を唖然と見つめ続けていた。
もう藍染は
そこにいる竜貴や啓吾達友人を。
そして…
「ゆず……かりん……ッ」
一護の視界が涙で滲む。
母を亡くし、大切な人を護れなかった弱い自分が嫌いだった。ルキアと出会い、初めて家族を虚から護る事が叶った。そんな恩人の女死神を、連れ去られたクラスメイトの女子を、共に戦った仲間達を、護り抜いた。
嬉しかった。誇らしかった。
これでやっと、あの時母さんに護られるだけだった無力な自分と決別できた。そう思った。
だと言うのに。
「あ…ぁ……」
体が動かない。剣を握れない。
立ち上がる事も。走る事も。敵と戦う事もできない。
兄として、最後に残った家族を、妹達を護る事もできない。
「いや…だ……」
一護は悲嘆に喘ぐ。立ち上がらないと、剣を握らないと、敵と戦わないといけないのに。あの途轍もない霊圧を思い出すだけで足が竦む。あの巨悪が明かした真実が、彼の心を闇に沈める。
あんな化物と戦うのか。あの雛森桃の怪物すら凌駕する、まるで蟻の己にとっての象に等しい強者と。これまでの全ての出来事を掌の上で起こし転がした、あの悪魔的権謀術数の権化と。
「むり…だよ……」
全部、全部仕組まれた、敵の掌の上で起こされた出来事だった。
黒崎一護という人間の、生まれも。
そして、両親の出会いまでも。
「お、れは……」
誰だ。俺は一体、"何者"なんだ。
青年は自問する。
全てが偽りで、全てがヤツの台本の通りで、与えられた役割を演じるための、役者。あいつが言っていた通りの、空虚な道化。
何もない。人生十六年、大した重みもない子供でも、その築き上げてきたもの全部が幻。
それが、俺…
「────黒崎一護さん」
不意に声が聞こえた。朧げな記憶の母に似た、澄んだ優しい女の声だ。
思わず導かれるように振り向いた先に、
「最低限の治療は終えました。お父上がお話があるそうです」
「は…なし…」
辛うじて返せた生返事を肯定と見たのか、卯ノ花が起き上がろうとする一心の背を支える。
「一…護……無事、か…?」
「…親父…ッ」
息も絶え絶えな父の身を咄嗟に案じ、側へ駆け寄る息子。あれほどの虚脱感が嘘のように動いた体は、目の前の家族を想う強さの表れか。
こんな自分が何を今更と自己嫌悪に項垂れる一護。そんな彼を、一心はジッと見ていた。
「このバカ息子が……情けねえツラしてんじゃねえよ…!」
「…うるせえよ」
そう吐き捨て、青年は袴を握り締める。
「……"息子"じゃねえ」
気付けばそんな弱音が、一筋の涙と共にポツリと零れていた。
「…あァ?」
「俺は…あんたの"息子"なんて立派なモンじゃねえよ……」
そうだ。俺はあのクソ野郎の戯れで生まれた実験動物。家族の、黒崎家の不幸の元凶。
ただ藍染の探究のために、あいつの踏み台になるためだけに生まれた男。優しかった母さんも、ウザいけど嫌いじゃないこのヒゲ親父も、こんな畜生みたいな子を生むためにあの外道の手で出会わされた。
遊子も夏梨も、俺が生まれたせいで今藍染に殺されそうになっている。妹達を護らなきゃなんねえはずの、兄のせいで…
「…聞こえねえなァ? お前がこの俺の、"何"じゃねえって?」
「ッ、聞こえてんだろ! 俺はあんたの息子なんて──」
「フン"ンッ!!」
「痛ダァッ!?」
突如頭に走る鈍い痛み。遅れてヒゲに頭突きを喰らわされたのだと気付き仰天する。
だが当の一心は自分以上に痛々しく悶えるばかり。
「な…な…?」
「痛っ!? き、傷が…」
「え、なっ! だ、大丈夫か親父──」
「なーんて、うっそぴょぉぉぉん! ボハハハハー!」
「てめえふざけんなよ!!?」
思わず条件反射でツッコミを入れる一護。そう憤慨する彼へ、むっすりとした一心の呆れ声が投げ掛けられた。
「…ふん、ちったあ正気に戻ったか? 冬獅郎のお返しってヤツだ」
「あ…」
そこで、一護は不思議と自分の心が軽くなっている事に気付いた。そう言えばあの時雛森さんを助けるために、あいつに同じことをして尻を叩いたっけ。妙な廻り合わせもあるものだと、青年は僅かに生まれた心の余裕で自嘲する。
だが。
「…戦えるか、一護?」
たとえ軽くなろうと、事実は変わらない。自分はどこまでもあの魔王の玩具で、そのせいで家族も、かつて護りたいと意気込んだ山ほどの人々も危険に晒す疫病神。このまま藍染に失望されたまま朽ちて死ぬ運命がお似合いの、無価値な人形だ。
「戦えねえんだな、一護?」
「…ッ」
念押す一心の問いに首を垂れるばかりの青年。そこへ父の冷たい声がかかる。
「遊子と夏梨はどうするんだ。お前を兄と慕うあの二人を、お前は見棄てんのか?」
「!? ふざけんな!! ンなこと出来っかよッ!!」
咄嗟に逆上する一護。考え無しの半ば反射的な言動だったが、息子の想いを聞いた一心は巌の相貌を即座に崩した。
「なら何の問題もねえだろ?」
「……あぇ?」
「俺の惚れた女が腹痛めて生んだ男が、俺の娘達を兄として護ろうとしてる。そんな男が俺の息子じゃねえなら何なんだ?」
青年は息を呑む。嬉しさと申し訳なさが渦巻く感情がこみ上げ、胸が締め付けられる。
そして、男の温かいその言葉を渡された"実験動物"は、やっと一人の人間としての誇りを取り戻した。
「それによ、一護」
────母さんが身を挺して護り抜いたお前が、俺達夫婦の息子じゃない訳ねえだろ?
***
暗く薄気味悪い道を直走る。
飛び込んだ入り口の障子の門は、最早米粒大の光すら見えない。足下に散らばる誰かの遺骨も、奇妙な小物も、三度目の訪れともなれば慣れたものだ。
「…ホントにあの
闇の中を一人進む黒崎一護は、両脇の固まった蠢く粘体を一瞥する。
ここは
しかし、此度はいつもと様子が違う。
堰き止められた
「この辺りでいいか…」
しばらく進んだ一護は骨だらけの足下へ腰を下ろし、徐に胡坐をかいた。
確かこうした後、斬魄刀を膝に乗せて瞑想する…と言うのが作法だったはず。そう青年は、つい先ほどの父黒崎一心の言葉を想起する。
『───その姿勢を、
藍染に斬られた死に体で尚も戦おうとする親父を癒師の卯ノ花烈に凄んで黙らせて貰った一護は、代わりの助言としてある事を教わった。
『じんぜん?』
『ああ、全ての死神の斬術の基本だ。俺達はコイツで斬魄刀の世界へ行き、奴等と対話し交流を深める』
『斬魄刀の世界…』
それは卍解にまで至った死神である一護も当然体験したもの。【斬月】から力を授かり、虚の自分と戦った時の、あの水平に聳える青い高層ビルの大都市だ。
『…こいつは浦原の奴から聞いた、眉唾物の話だ』
身に覚えのある事に緊張する青年へ、そう前置いた一心が本題を切り出す。
『あいつの分析によるとお前の斬魄刀はかなり特殊らしくてな。普通の斬魄刀ではまずあり得ねえ「能力の世代継承」が起きている』
『…親父の【月牙天衝】とかか?』
その推理に父が頷く。浦原喜助が確信を持ったのもそれが一つの要因だったと言っていたらしい。
『それで、ここからが賭けだ』
『…ッ』
彼の険しい顔に一護は姿勢を正す。
『俺の【剡月】にはな、卍解の更に先の力とも言える特別な技が存在する。反動は途轍もなくデケえが、使えばどんな奴でも叩き斬れる無敵の技だ』
『な…!?』
『俺はお前がこいつを継承していると、お前の【斬月】に賭ける。お前の馬鹿デケえ霊圧と体質を合わせれば、反動を最小限に抑え、必ず藍染にも届く剣を手に出来る。お前の手で、あの神様気取りのクソ野郎をぶっ倒すんだ…!』
一心の強い瞳が息子を見つめている。そこに込められた想いに一護は気付く。
親父は、俺の手で、俺のくだらない運命を打ち砕けと言っている。高い踏み台を作ったつもりの藍染を逆に台から叩き堕とせと、そう発破をかけてくれているのだ。
『そいつの名はな…』
そして一拍の後、父がその切り札を一護に伝えた。
「──【最後の月牙天衝】、か…」
ポツリと、一人の断界で呟く一護。
強大な一撃にも、どこか悲壮な一振りにも聞こえる、決死の奥義。その力に想いを馳せ、青年は膝元の斬魄刀へ意識を向ける。
…本当は不安だ。不安ばかりが胸に積もる。
自分は何者なのか。本当にこれでいいのか。あの巨悪を倒せるのか。
わからない。だけど、これが今の自分が縋れる唯一の道なのだ。
「…ッ、頼むぜ、斬月…!」
ならば迷わず進むしかない。今の俺にはそれしか出来ないのだから。
斬魄刀との対話を求め、目を閉じ、一護は覚悟を胸に斬月との刃禅へ臨む。
一心は言った。この断界は藍染の手により拘流が堰き止められ、やっかいな拘突も滅ぼされた無限世界。外界から隔絶された、永遠の時間を有する空間。力を付けるに最適の修行場であると。
斯くて数瞬。
「────」
水中に飛び込んだかのような不思議な感覚を経て、閉じた瞼の裏に淡い青の光が射す。
斬月の世界に着いたのだ。
「…なっ!?」
だが彼が目を開けた先にあったのは、あの青い摩天楼群ではなかった。
「な、町…いや、空座町だと!?」
眼下に広がるのは、水没した故郷の街並み。あまりの驚天動地に混乱する一護は、必死にこの世界の主の姿を探す。
その時、見上げた水面の真下。
そこで彼は、複数の小さな人影を見つけた。
一人目は若い黒ずくめの青年。どこか斬月の面影を残しながら、身に覚えのない声と顔で一護を睥睨している。
二人目は白い虚の自分。井上から聞いた、あの双角を仮面の左右に生やす卍解姿のあいつが、呆れるような、憐れむような顔で一護を見つめている。
そして、最後の一人…
一護の抱える最後の謎。藍染の魔の手に絡め捕られた自分と同じ、されどより複雑な秘密を抱える、悲劇の人。
虚の仮面を被る、白い死覇装の少女が、切なげな声で彼の名を呼んでいた。
メゾンでの一幕
おっさん「くっ、此度の雨は凄いぞ…!」
白一護「ちくしょう! 姐さん洗濯物いれたか!?」
白桃「部屋まで水浸しなのに意味ないわよぉ…」