雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
前回同様あまり進まないけど、良いトコまで書くと本日更新に間に合わないので投稿しましゅ。
それと感想のwiki大作すぎて大草原。書いてくれてホントありがとう!
読んでると悦森鰤連載世界の2chとかふたばとかの反応的なの書きたくなるな…ヨン様戦終わったら書こうかな…
斬魄刀【斬月】の誇る最強の大技、【最後の月牙天衝】を求めて自らの精神世界へ飛び込んだ黒崎一護。
以前の不思議な青いビル群とは異なる謎の水没都市で目覚めた彼は、そこで三人の人物と出会った。
黒ずくめの青年。白ずくめの虚の自分。そして同じく白ずくめの仮面の少女。
その内の一人。虚の自分が不気味な双角の仮面をずらし、一護を嘲笑った。
「───随分冴えねえツラしてんじゃねえか、なァ? 王よ」
水の中に声が木霊する。自分と瓜二つで、本当に自分のものなのかと驚くほど邪悪な声。
「…うるせえよ。なんでてめえがここに戻って来てんだ…!」
「なんだ、もう忘れたのか? ったく相変わらず頭の鈍い野郎だぜ」
彼の疑問の通り、この虚は前回の試練で屈服させ、隣の仮面の少女の助言で少しだけ心を通わせたはず。それから僅か数日でまた下剋上かと苛立つ一護は、されど投げ掛けられた別の声に意識が引き寄せられた。
「一護」
若い男の声。三人の中央に立つ、全身が黒ずくめの黒髪の青年だ。
「あんたは…」
「私の質問に答えろ。お前はここへ何をしに来た」
再度そう問いながら、青年が右手を擡げる。それを振り下ろした瞬間、その手に漆黒の刀が現れた。
「…天鎖…斬月…!?」
「そうだ。私だ、一護」
驚く一護へ青年が頷く。まるであの"斬月のおっさん"のように振舞う彼に、一護は確かに不思議な既視感を覚えた。
続けて青年は言う。
この姿は卍解時の斬月の姿。外界で卍解をした状態でここへ来るのは初である一護は、今の彼と会うのも初めてだ。
『……』
それにしても、と一護は三人を観察し唾を呑む。
この斬月世界に住む彼らが揃って自分の前に現れるのは初めてだが、誰もが随分と殺気立っている。唯一最初に歓迎してくれた残る一人、仮面の少女も以前の虚化試練の時と比べどこか緊張しているように見えた。
───今度の斬月は暴れるぞ。
ふと父親の台詞が頭を過る。どうやら、今回はかつてないタフな試練になりそうだ。
息を整え、一護は己の覚悟を声に乗せる。
「…あんたに訊きてえ事がある」
「訊きたい事? 【最後の月牙天衝】の事か」
「!」
やはり、彼らは外の世界の話を聞いていた。それにこの非友好的な態度。一心の言う通り、斬月は余程この技を一護に教えたくないらしい。
「…そうかよ。けどこっちは…教えて貰わねえワケにはいかねえんだ!」
剣を握り戦意を漲らせる。外の世界では遊子や夏梨、竜貴達が今も藍染に殺されそうになっている。ヤツに対抗できる力を早急に会得しなければならない。
「それが何だ」
「…なに?」
だが、いつも彼の覚悟に耳を傾けてくれた斬月は、まるで他人事のように一護の想いを一掃した。
「お前の護りたいものがどうなろうが…知った事か!」
「なっ…!?」
突如、黒ずくめの青年が水を蹴る。凄まじい加速と共に繰り出された剣の一撃に、一護は咄嗟の回避で辛うじて致命傷を免れた。
「この世界から失せろ、一護! ここにお前の欲するものは無い!」
「ぐっ…くそっ! どういう事だよ斬月!? あんたは俺のために力を貸してくれてたんじゃねえのか!?」
初めてだ。初めて斬月に敵意を持って攻撃された。いつだって味方だと思っていた存在に裏切られ、混乱と悲憤に一護は叫ぶ。
「なんで…なんで…ッ!」
まさか、彼もなのか。一護の脳裏にあの"交配実験"の文字が浮かぶ。
世代継承なんて珍しい能力を持つ斬魄刀など如何にも訳アリだ。よもや斬月ですらヤツに、藍染に仕組まれた力なのか。だからヤツを倒せる力を教えたくないのか。そんな憶測にドロドロと心が、世界が濁っていく。
「────違うわ」
だが不意に、彼の思考の汚泥を清める声が投げ掛けられた。咄嗟に振り向いた一護は、そこで両手こぶしを握り締める三人目の人物、仮面の少女の姿を見る。
「彼は…あたしたちは、藍染惣右介の味方じゃない」
「!」
「
強い気持ちの籠った宣言。顔は見えない。それでもそんな切実な声で紡がれた言を戯言と断ずる事は一護には出来なかった。
「…ッ、それを信じろってのか…? だ、だったら何で──」
「"何故力を貸さない"と?」
「…!」
背後からそう述べたのは天鎖斬月の青年。仮面の少女の訴えに剣を下ろしていた彼が、憤りの怒顔で自由な左腕を大きく振るう。
「ならばこの世界を見ろ、一護! 希望に満ちた、天を衝かんばかりの摩天楼の群れだったお前の世界は! お前の身近にあった町の風景に成り下がった!」
一護はハッと目を見開く。当初から不気味に思っていたこの地の異変。その原因である
「全てはお前が絶望し、歩みを止めたからだ」
絶句。
突き付けられた事実に放心する一護へ「そんな弱者に教える事など無い」と青年が吐き捨てる。
…俺が、歩みを止めたから。
そうだ、最初から心当たりはあった。しかしそこから目を逸らそうとする彼を、隣の沈痛な声が引き戻す。
「……運命を知ってしまったのね」
悔いるように仮面の少女が呟く。この場で最も異質な存在である彼女だけが、一護の不幸を憂いている。
「ビビっちまったのか? 他人に敷かれたレールの上を走る恐怖によォ」
そこに小馬鹿にするような挑発が投げ掛けられた。虚の自分だ。
「ッ、てめえ…」
「情けねえ! それでも俺達の王かよ、ヒャハハハッ!」
「なっ…ぐあァッ!」
嗤いながら斬り掛かって来たヤツに弾き飛ばされ、一護は水中の建物に激突する。慌てて体勢を立て直した所に、虚の更なる斬撃と言葉が襲い掛かった。
「一護! てめえの走り続けたレールを思い出せ!」
「…!」
「力だ! 敵だ! 戦いだ! 奇跡や偶然じゃあり得ねえほどの力を持ってこの世に生まれた! それを全力で振るえる最強の敵を用意された! 俺達の胸の奥底に眠る獣の本能、戦いへの渇望を満たすための最高の戦いこそが…俺達が背負った運命だ!!」
心底愉しそうにそれを誇る白い自分。しかし当然一護にとっては唾棄すべき陰謀。
「ッ、ふざけんな! そのくだらねえ運命ってやつのせいで俺の妹や仲間達が殺されそうになってんだぞ!」
「わからねえ奴だな、一護。あいつらが殺されそうになってる理由はただ一つ。てめえが…
その怒声に一護は思わず硬化する。
「レールを敷いたヤツの思惑がどうこうじゃねえ! てめえの力を引き出す! てめえの敵を喰らう! てめえの戦いに勝つ! そいつァ誰もが生き残るためにやってる自然の摂理だ! それの何が怖えんだ? 何に絶望してるってんだ!?」
「そ…ん…」
「教えてやろうか? 一護、てめえは誰かに敷いて貰ったレールを走るのに絶望してるんじゃねえ」
そして白い自分は剣を下ろし、指を突き付け、心底軽蔑するようにその一言を吐き捨てた。
「てめえは、ただ…
胸が抉られたような感覚だった。戦慄が体を走り、喘ぐような吐息が肺から零れ出る。
「そうだ、一護。お前は、藍染惣右介の底知れぬ智と力に怯えているのだ」
「斬…月…」
そんな彼を斬り裂く、黒ずくめ男の追撃の言葉。
「お前は既に、ここに来る前から、自らの運命を背負い乗り越える覚悟を決めていた。この世界に降り注いだ雨が止んだのがその証だ」
斬月が上層の水面を指差す。キラキラ輝く温かい陽光は空に雲無き印。
「…だが未だこの世界はかつての姿に戻らない…! お前が敵の強大さに足を竦ませ、立ち向かう事を恐れているからだ!」
「そ、れは…」
「何故だ! 何故自らの運命を乗り越える覚悟ができて、敵と立ち向かう覚悟ができない!? 更木剣八との、朽木白哉との、ウルキオラ・シファーとの絶望的な戦いにおいても最後まで諦めなかった強いお前はどこへ消えた!?」
斬月の剣幕に黙し項垂れる一護。その胸に今まで封じてきた感情が吹き零れ、大渦のように蜷を巻いていく。
…無茶言うなよ。あんなのどうしろってんだよ。思わず本音が零れそうになり、唇を噛んだ。
脳裏に、心に、体に刻み込まれたあの恐怖が彼を震わせる。近付くだけで魂が潰れかけるほどの霊圧。打ち込んだ剣から伝わる馬鹿げた規模の力。そして生まれる前から人の人生を弄ぶ手練手管。それは全てが全くの未知、本能で敗北を悟ってしまう、絶望的なまでの恐怖だった。
あんなのと、一体どうやって戦えば…
「思い出して、一護くん」
ふと、俯く彼の鼓膜を、切なげな声が震わせる。ぼんやりと上げた顔の頬に、ふわりと小さな手が触れた。精神の中なのに、そこに人の温もりを感じてしまうほど、優しい手付きだった。
「あんた…」
「思い出して。あなたが初めて、斬月の名を呼んでくれた時の事を…っ」
仮面の少女が祈る様に何かを諭そうとする。その頼みを幾度と反芻し、漸く一護は彼女の真意を理解した。
…そうだ。あれはルキアを助けに行くと決めた日の、浦原さんに死神の力を取り戻す無茶な試練をさせられた二日後の夜の事。
ルキアから譲り受けたものではない。自分だけの新たな力に目覚めた後、それを更に引き出す修行であの下駄帽子の【紅姫】に殺されそうになっていた時。逃げ惑う情けない自分へ斬月が送ってくれた、鼓舞の一声。
それは、確か…
「…"敵は一人、己も一人。何を恐れる事がある"…」
一護がその言葉を諳んじた直後、少女の纏う空気が喜色に変わった。
同時に、彼の胸で沸々と熱い何かがこみ上げる。
「そう、あなたが恐れる事は何もない…! あなたが自分を信じる限り、あなたは…」
────誰にだって勝てるっ!
それは一点の迷いも曇りも無い、力強い明言。あの藍染惣右介を臨み斯くも勝気な台詞を叫ぶ少女に、斬月も、虚も、誰もが当然だとそれぞれの顔で語っている。
本気なのだ。彼らは本当に自分達が、俺達があいつに勝てると確信しているのだ。
…ああ、全く。
一護はクスリと自嘲の笑みを零す。これでは一人弱気になっている自分が馬鹿みたいじゃないか。
『──!!』
その時、世界が揺れた。
巨大な地鳴りが水中を掻き混ぜ、町を崩す。続くように跡地より新たな建物が垂直の地面から聳えていく。次から次へと、天を貫かんばかりの高層建築が。
ここは黒崎一護の精神世界。己の心境の変化が大地に雨を降らし、海に沈め、塔を建てるのだ。
「…待たせたな」
足下の天変地異を見向きもせず、一護の口が謝罪を綴る。
恐れはない。不安はない。道は見え、足は震えず、確と未来を踏み締めている。
「出来たぜ、覚悟。護りてえモンを護る…何度倒れても立ち上がる…"歩む覚悟"ってヤツがよ!」
そう勇む彼の瞳は、煌めくばかりの希望の星々で満ちていた。
「……そうか」
一護が見据える斬月が、ポツリと、彼の覚悟に言葉で頷いた。青年の両隣には獰猛な笑みを深める虚の自分と、胸元で両手を握りひかえめにはしゃぐ仮面の少女。ひとまず彼ら三人に自分を認めさせるには至ったようだ。
だが。
「…それで、あんた等から【最後の月牙天衝】の事を聞くにはどうすりゃいいんだ? 三人とも倒すのか?」
そう。ここまで来て一護はやっとスタート地点に立っただけ。幾度と戦った白い自分も、斬月も、死力をかけて戦わないといけない相手。
そして仮面の少女も、想像通りの人物であれば眩暈がする程の強敵だ。
「違う」
「…何?」
「"三人"、ではない」
しかし、黒ずくめの青年の唇が紡いだのは否定の二文字。どういう事かと問い掛ける一護を余所に、左右の二人が悠然と斬月の側へ近付く。
そして一斉に、その目を"王"へ向けた。
その瞬間、三人の体が光となって散り始めた。斬月と虚は粒子に、仮面の少女は細い鎖状の姿に、それぞれが変化し一塊に集まっていく。
「な、何だよ……それ……!?」
驚愕する一護の前に現れたのは、片腕から胸元に幾重も鎖が巻き付いた、白いコート姿に片面片角を生やす、白い天鎖斬月の青年だった。
唖然と呆ける一護へ顔を上げ、男がゆっくりと口を開く。
『────本来、私達は二人で一つ』
低く、荒々しく、可愛らしくも聞こえる白い青年の声。
『そして私達の巨大な力が、未熟なお前を滅ぼさぬよう、最後の一人が封をする』
「…俺を…滅ぼ、す……?」
『それが、お前が今まで振るって来た力の、真の姿だ』
語られた真実は、いつぞやの試練で虚の自分が言っていた事と同じ。だが比喩ではなく本当に合体するなど想像も付かず、一護は驚愕に喉を鳴らす。
そしてただ一人異質な少女の存在理由が今、漸く明かされた。同時にその正体に対する推測が真相へと大きく近付く。
残された憂いの殆どを晴らし、一護は改めて己の力の化身達との戦いに士気を高めた。
『お前は先程言ったな。己が護りたいものを護ると。何度でも立ち上がると』
それがこの場における互いの最後の問いになるのだろう。漠然とそう悟った一護は、斬月達に短く肯定する。
彼の想いを受け取った白い青年は、一言『分かった』と、何かを振り払うような相槌を返す。
まるで二度と戻らない何かを振り払うように。
『ならば今、お前の覚悟の軽重を…
「…ッ、上等だ! 俺がみんなを…
小さな町が、海が埋め立てられた青の世界。劈く摩天楼の間を、二人の、四人の咆哮が木霊する。
…斯くして両者の天鎖斬月の共鳴を合図に、黒崎一護の最後の試練は始まった。
前々回に章タイトル回収したので前話から新章始めました。