雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」 作:ろぼと
れ、連続更新…
誤字脱字は許して♡
あ、それとコメ欄で少し誤解があるようなのですが、チャン一の中の白森さんは原作雛森さんの性格の義魂&ごく僅かしか原作情報を与えられていないので、普通の感性でチャン一を大切にしてます。
…どっかの美少女愉悦部と違ってなァ!(ニチャァ
宙を蹴ったのは互いに同時。
この世界は彼らのもの。その足を妨げる障害は何もない。
『────力が増したな…! 何が変わった?』
相手の問いに王は、黒崎一護は「さあな」と惚ける。護りたいもののためになら、彼はどんな困難にも立ち向かえる。それを教えてくれたのは他でもない目の前の"
覚悟を胸に一つ。強者と弱者の剣は幾度と交わる。
蜻蛉から袈裟斬り、下段から逆風。弾く遠心で右を薙ぎ、相手の唐竹と打ち付け合う。斬り払いから繰り出される刺突を捌き、流れるように胴に一文字。
斬り、斬られ、突き、突かれ。振るう刀剣に心を乗せ、飛び散る血肉を心で補う。そんな鎬が削れるような二人の戦いは続いていく。
一日、一週、一月。寝ずの食わずの果てしない時が経つ。そしてある時、ふと一護は微かな違和感に戸惑いを覚えた。
何だ、この剣。この斬月の剣は。
最初は気のせいだと思った。相手は自分より遥かに強い。一時でも気を抜けば即座に死ぬような緊張の中なのだ。想いを読み取るような余裕はないはずだった。
しかし打ち付け合う度、その感覚は少しずつ鮮明になっていく。髪は伸び、衣類は千切れ、永久に等しい朧げな時間の中で一時も休まず、耐えず剣を交わし続ける王と騎馬。
…なんで。
それ程の超人的な世界に身を置いて、力を磨き、一護は漸く彼らの心に触れられた。
…何であんたがそんな剣をしてるんだ。
そこにあったのは、悲愴。
こんな気の遠くなるような間も戦い続けているのに、彼の剣には一欠片の憎しみも映らない。あるのは底のない、深い、深い愛情。
そして胸が潰れそうな程の、寂しさだった。
────お前の護りたいものが、私の護りたいものではないんだ。
不意に彼の言葉が頭を過る。敵意に満ちたその言葉も、今になれば異なる意味に聞こえてくる。
知りたい。知らなくてはならない。自分と彼らの護りたいものの、一体何が違うのか。
自分は王で、彼らは騎馬。王の力だ。ならば彼らを知るには彼らに触れなくてはならない。
そして幾度目かもわからない鍔迫り合いの中、彼は遂に、その光明が見えた気がした。
「…そうか」
一護は思い出す。初めて斬月を手にした時。初めて虚の自分と戦った時。初めてヤツを倒した時。
自分はいつだって、斬月を、虚を、己自身の力として受け入れてきた。
もしそうなら、最後の月牙天衝とは、きっと…
『…そろそろ終わりにするぞ、一護ォッ!!』
白い斬月が摩天楼を蹴る。最初は目にも留まらぬ飛翔だった彼の動きも、今や確と追えている。
強くなった。お前と、俺の力と満足に戦えるくらい、黒崎一護はこの地で強くなった。
ならばもう、争う事は無いだろう?
そう無言の問いを瞳に乗せ、一護は…
『──────!!』
斬月の剣を、その胸に受け入れた。
***
***
戦いが終わった。斬月と虚も、またそれぞれの好む場所へと戻っていった。多分、眺めの良いお気に入りの所があるのだろう。
悔いはしない。哀しみもしない。何度と空を曇らせ雨を降らせた不出来な王だ。別れの時くらい、彼が好んだ蒼い空を見せてやりたい。
「────往くのね、一護くん」
暫しの休息で霊圧を整え、一護は背後の声に小さく頷いた。
「…ああ」
そこにいるのは残った最後の一人。白い仮面の少女。
少し気恥ずかしかったが、二人きりなら言わねばならないだろうと王は肩越しに謝罪する。
「疑って悪かった」
「え…?」
か細い声で問い返す彼女へ、一護はバツが悪くなり頭を掻く。
「何度もあんたに助けて貰ってたのに、藍染の手下だなんて疑っちまって」
「──な…ひ、酷い…! 今までずっと頑張って、いつもやんちゃしたがるホワイトを宥めて来たのに…」
「…え、えっ? あ…す、すみません…」
項垂れイジケる少女の姿が珍しく、思わず平身低頭に謝る一護。外見…と言っても髪型と体つきくらいしかわからないが、どうやら声の通り多少の幼気はあるらしい。少し意外な一面を見れたと一護は和む。
その後、どちらともなく唇を噤んだしばしの沈黙。
恐らく、彼女と会うのもこれで最後。訊きたい事はまだまだ尽きない。
しかし…
「遊子たちが待ってる。俺を戻してくれ」
「…いいの?」
「ああ、あいつらを護るためにここまで頑張ったんだ。やるべき事をやんねえと」
外でどれだけの時間が経ったかなんて考えない。妹たちの、友人たちの、仲間たちの無事がどうかも。
信じるんだ。みんなきっと生きていると。
「…わかったわ」
その言葉と時を同じくして、視界が、聴覚が、五感がゆっくりとぼやけていく。多分、ここに来るのもこれで最後だろう。
色々な後ろ髪引かれる思いで頭を振り、一護は「じゃあな」と仮面の少女に別れを言う。
覚悟は既に出来ていた。
「一護くん」
だが、ふと。最後に少女が口を開いた。
振り返り見た彼女は、摩天楼の世界と共に光の中へ消えて行く。
それは、もう目覚めも目前の事だった。
「お外に出たら、一言文句言っといて」
「…文句?」
去り際の唐突の注文に訝しむ一護。
そして遠のく意識の最後に、彼女の拗ねるような苦笑が聞こえた気がした。
────
***
ぽたり。
冷たい何かが頬に垂れる感触に驚き、一護は目を覚ます。
慌てて辺りを見れば、直前の光の海から一転した闇の世界。足下には人や獣の骨が散らばり、薄気味悪い粘体が左右の長い壁面を這うように固まっている。
戻って来たのだ。
現世と
「…こっちでも伸びるのかよ」
視界を覆う鬱陶しいオレンジの前髪を掻き分け、一護は立ち上がる。思わずふらついた体は斬月達との激戦の影響だけではなかった。
「身長まで伸びてねえか、これ…?」
軋む骨を前屈運動で軽く慣らす。斬月世界では気付く余裕のなかった体の変化を一先ず確認し、落ち着かせる。
彼らとの果てしない戦いで幾つもの壁を超えた。その力を正しく使えるほどの霊圧を得た。
大丈夫だ。動ける。戦える。俺は今までで一番強い。別次元に強くなった。
だが…
「これでも、勝てるのか…?」
不意な震えは武者震いか。それとも真逆の、忌むべき心の弱さか。
長い時が経っても色濃く断界に残り続けるヤツの霊圧。それを感じていると、あの恐怖がじわじわと蘇って来る。
「あんだけ修行しても…追い付けないのかよ…っ」
力を付けたからこそより鮮明にわかる、わかってしまう──宿敵・藍染惣右介の強大さ。
本当にこれでよかったのか。ここで俺が強くなる事自体があの男の計画だったら。俺がこの技を、文字通り全身全霊の力の一撃を手にする事も、それを跳ね除け踏み台とするために仕込まれたものだったら。
この断界を開いたのも堰き止めたのもあいつ。【最後の月牙天衝】を持つ親父とお袋を出会わせたのもあいつ。全てが未だヤツの手の上である事は十分あり得る話だった。
力だけならウルキオラと同じだ。死ぬ時まで恐怖に抗える。戦える。
だけどあの巨悪の恐ろしさはそれだけじゃない。これまでの敵とは全く違う類の強さ──知略を併せ持つ魔王。ただの高校生の一護には想像も付かない手段、あの手この手で彼の勝利の芽を摘み取って来るのだろう。
その巨大な未知が、理不尽が、何よりも怖ろしい。
「……馬鹿か俺は…ッ」
浮かび上がる不安を振り払わんと、一護は走る。
もう他に手は無いのだ。全てを犠牲にする究極の奥義。ヤツがそれを自らの糧とするつもりなら、それを上回る力と想いを乗せればいい。
行ける。俺なら行ける。俺達なら行ける!
そんな根拠のない言葉で自らを奮い立たせ、出口へ逸る一護。急がないと、早くヤツと戦わないと、余計な事ばかり考えてしまいそうだった。
そして一護は、断界の果てに差し込む光の中へ飛び込んだ。
「────着いた…のか?」
駆け抜けた先にあったのは、曇天。
照らす陽光を遮るその下には、現代風の街並みが広がっていた。当然尸魂界にこんな風景は存在しない。
「ここ…もしかして空座町か? 不味い…!」
よもや【転界結柱】で避難転移させられた故郷に直接降り立ったのかと焦る一護。だが咄嗟に遊子ら妹たちの無事を確認しようと霊圧を探った彼は、そこで硬直した。
「…
そう。ない。ないのだ。霊圧が。
遊子と夏梨のだけじゃない。竜貴も、啓吾も、水色も、戦った市丸ギンも。
あれだけ化物じみた魔王の、藍染惣右介の霊圧すら感じられない。
「どういう…事だよ…っ」
一護は慌てて薄暗い町中を走り回る。だが誰もいない。空座町は町の人達ごと転移させたと聞いていたが、これでは話が合わない。
「…なんだ…何か違和感が…」
人を探して辺りを見渡す一護は、ふと得体の知れない感覚に足を止める。何かがおかしい。無人であるだけでない何かが。
そして自らの記憶に意識を向けた時、彼はハッと気付いた。
「…このケーキ屋…お袋が好きだったヤツ…」
町の一角。昔よく母と買いに行った個人経営の店。
だがそれは、今ここにあって良いものではなかった。
「なんでこれが…俺が中学上がった時に潰れてたはず…」
違和感の正体がわかった一護は再度町中を駆ける。空の雲が流れ、視界が夜のように暗くなっていく。一つ一つが記憶と合致していき、推測はある事実に行き当たる。
その時、彼の頬に水滴が滴った。
「……雨…?」
見上げた天から一つ、また一つと降って来る冷たい雫。佇む間も雨足は強まり、本降りが始まる。
ただの自然現象だと言うのに、胸の騒めきは増す一方。
そうだ、この光景は。
「…まさか…」
あり得ない想像に身を委ね、一護は再三、走る。何かに急かされるように、ソコへ赴かねばと。
超越者の領域に足を踏み入れた彼にとって、ソコは大した距離ではなかった。子供の散歩で向かえる距離。学校の帰りに母と連れ立って歩ける距離。だからこその悲劇であり、同時に一生消えない傷を幼い少年の心に残した場所。
「……ッ」
一護が着いた場所は、河原だった。
六年前、彼の母が虚に喰われた、己の人生の転換点。既に過ぎ去ったはずの時が、そっくりそのまま巻き戻った空座町に、黒崎一護は迷い込んでいた。
「…こんな事…一体誰が──」
だがその瞬間、青年の胸中で何かが蠢いた。咄嗟に胸元を抑え、一護は直後に思い出す。この感覚を、この場所で起きた、もう一つの人生の転換点を。
ゆっくりと、一護は首を横へ向ける。
長雨で水嵩の増した川。
立ち込める淡い川霧。
しとしとと降る凍える雨。
目に映る景色が首の向きと共に変わっていく。
対岸の街並みを過ぎ、登校時に毎日跨ぐ橋を伝い…
そして、真後ろへ振り向いた一護は──そこで見た。
「あ…んた……」
白い着物を着た、小柄な人影。
忘れもしない。あの雨の日に出会った、不思議な年上の女の子。
どこか切なそうな顔でこちらを見つめる、反転した死覇装の少女が、六年ぶりの再会を喜んでいた。
「……ハンサムになったね、一護くん」
────おねえちゃん、見違えちゃった。
どっかの美少女愉悦部による全力の