雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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おまたせ♡

桃ちゃんが全力でヒロインムーヴを頑張る回。

*実は話の本筋に"嘘"はない。

 


俺自身が漂白になる事だ…

 

 

 

 

 

 

 

「────雛森…さん……?」

 

 

 冷たい梅雨の雨が降り注ぐ。

 

 六年前の街並みが広がる無人の空座町に迷い込んだ黒崎一護。当時の思い出に急かされ「まさか」と辿り着いたあの因縁の河原に、一人の女の子が立っていた。

 

 尋ねたその名は、彼の知らない自身の過去に深く関わる謎多き人物──雛森桃。その女死神と瓜二つな容姿をした白い死覇装の娘が、困ったような笑みを零す。

 

「…ふふっ、忘れられちゃった。もうあなたにとってあたしは、"本好きのおねえちゃん"じゃなくて、"雛森桃"になってしまったの?」

 

「…ッ」

 

 少しだけ試すような白服娘の意地悪に一護は声に詰まる。

 

 忘れる訳がない。ここは彼女と最初に逢った、母が亡くなった六年前の梅雨の日。あの時と同じ光景、同じ状況なのだから。

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)で出会った死神の"雛森桃"ではない。幼い九歳の時、この場所で出会った不思議な年上の着物少女──"ご本が好きなおねえちゃん"との再会だった。

 

 突然の出来事に困惑する一護を余所に、少女はゆっくりと辺りを見渡しながらポツリと呟く。

 

「…不思議よね」

 

「え…?」

 

 見えない何かに触れるように、彼女が宙を優しく撫でた。

 

「ここは人の記憶が交わる、泡沫(うたかた)の世界。輪廻の輪から外れた悲運の魂たちが集まって生まれる、現世とも、尸魂界とも、虚圏とも、時間すら別たれた……永遠の過去」

 

「永遠の…過去…」

 

「訪れる人が持つ、朧気だけど強く心に残る思い出に引っ張られて、この世界はその都度景色を変えるみたい。この六年前の空座町は、あなたが来た丁度今、初めて生まれたの」

 

 記憶、輪廻、悲運の魂、思い出に引っ張られて…。どこかで聞いたような話だった。

 だがその微かな既視感は、少女の唐突な問いで霧散する。

 

 

「あの人と、戦う覚悟を決めたのね」

 

 

 嬉しそうにも悲しそうにも見える複雑な顔。"あの人"と言うのが誰かを察した一護は、握る剣を慎重に下段に構えた。

 

「…あんたは、味方…なのか…?」

 

 未だに彼女の事は殆どわかっていない。藍染の部下だった雛森桃との関係も、一護の中にいる仮面の少女との関係も。それでもその沈鬱な声色から、目の前の人物があの魔王に敬意を持っているのは感じられた。

 

「ええ、そうよ」

 

 だが彼女の答えは、その敬意とは反対の、肯定。

 それも天秤にかける程の葛藤ではなく、もっと…

 

「あなたになら、どんな事をされても……どれほど嫌われても、受け入れられる」

 

「え…?」

 

「それくらい……あたしは、あなたの味方」

 

 使命にも似た、深い覚悟だった。しかし言葉とは裏腹に少女の声はか細く弱々しい。

 

「ッ、それはどういう…」

 

 戸惑う一護は、されどそこでハッと思い至る。

 

 そして数度の逡巡を経て。

 謎多き恩人は深呼吸の後、黒崎一護に絡み付く最大の秘密を、遂に明かした。

 

「あたしは、あなたの最初の味方。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…」

 

 

 

 

 

    あ

    な

    た

    の

一   ご

本   両

の   親

吊   を

り   繋

橋   ぐ

に    

な    

る    

く    

ら    

い    

 

 

 

 

 

 沈黙がさあさあと降り注ぐ雨音に掻き消される。

 

 一護は彼女がくれた長い空白のお陰で、幾度もその言葉を反芻する事が出来た。

 

 

 …自分の生まれが誰かに意図されたものだとは、斬月達の試練でとっくに受け止めていた。家族や仲間を虐げる極悪人の藍染ではなく、幾度も自分を助けてくれた恩人が、あるいは子供の淡い憧れと言ってもいいかも知れないあの年上の女の子が、罪悪感を覗かせ真摯に話してくれたこの人が、本当の原因でよかったとも安堵した。

 

 それでも。

 

 

「…あんた…だった、のか……?」

 

 

 いざこうして事実を突き付けられると、胸が搔き乱される。「何でだ」と責めたくなる。

 

「──はい」

 

 それに少女は逃げる事なく、真正面から真実を白状してくれた。

 

 

 

「あたしが、あなたの困難の──全ての始まりです」

 

 

 

 懺悔の言葉に潤む、彼女の大きな紅桃色の瞳。雛森桃の琥珀色とは違うその虹彩に、自らの唖然とする姿をぼんやりと見つけ、一護は喘ぐように至極当然の疑問を紡ぐ。

 

「なん…で……」

 

 放ってはくれなかったのか。そうしたら親父もお袋も出会わなかったのか。あんたの介入無しに俺は本当に生まれなかったのか。問い詰めたい思いは山ほど浮かんでくる。

 

 そんな無数の思いに、俯く少女は一つ一つ応えていった。

 

「…二十年前、藍染惣右介は崩玉を用いた一つの実験を計画しました。虚の力を有する死神の世代継承を狙ったその実験は、あなたの誕生で成功を収める事となる」

 

「あ…」

 

「藍染惣右介は実験の第一段階が成功した時点であなたの誕生を悟り、生まれるあなたの、人間の精神的感受性が最も高い十代半ばの成長期に合わせて、あの尸魂界離反作戦を決起しました。あなたの潜在能力を覚醒させるのに、それが一番効果的だったから」

 

 全てを側で見てきたであろう彼女の言葉が、あの魔王の底知れない深謀の全貌を浮かび上がらせる。その渦中の真っ只中に自分が生まれる前から巻き込まれていた事実に、形容し難い嫌悪感を覚える一護。

 

「…それに…あんたが関わってたって事かよ…ッ」

 

 思わず剣を構える。

 味方なら何故阻止してくれなかったと短絡的な感情で怒鳴り散らしたい。しかしそれが、自分がこの世に生まれない事を意味する以上、そして沈痛に唇を噛む少女の想いを知ってしまった以上、一護は押し黙る事しか出来なかった。

 

 その沈黙がしばし経った時。徐に白服娘が「本来」と小さな呟きを始めに、自身の思惑を語り始めた。

 

「本来、あたしはそこに関わる事はなかった」

 

「…え…?」

 

「あなたは藍染隊長の望む通りに生まれ、成長し、そして最後も…あの人の望む通りの結末を迎えるはずだった」

 

 彼女の顔は暗く、真剣そのもの。だが一護は故に混乱する。

 

「あたしがあの計画に関わる決意をしたのは──()()()()が生まれる事を知ってしまったから」

 

 そして彼の幼い思い出である謎の人物、"ご本が好きなおねえちゃん"は、その最たる神秘性を自ら曝け出した。

 

「あたしは…」

 

 

 

 ────あなたの半生を、あなたが生まれる前から知っていた。

 

 

 

 呆ける青年を余所に、彼女の話は続く。

 

「それは藍染隊長の言うように、あなたが意図的に生み出されたとか、手にする力だとかじゃない。もっと、もっと根本的な……"運命"と言う意味で、あたしはあなたがどのような人生を歩むかを知っていた」

 

「…ま、待ってくれ! 何だよそれ、どういう事だよ…!?」

 

 訳がわからない。最早一護の頭は沸騰寸前。

 

 それは最早、"未来視"といって然るべきものではないか。生まれ付いて霊感に優れ、最近は死神や虚などの存在を知った特殊な人間である彼にさえ、信じ難いと思える超能力。

 少女の発言は、それに類する能力を自分は持っていると暴露したも同然の話だった。

 

「…何故あたしが、そんな事を知れる不思議な存在に生まれたのかなんてわからない。藍染隊長にさえわからなかった」

 

「あいつにさえ…」

 

「ただ…あたしがそういう因果の輪廻から外れた特別な存在だったから、あの人はあたしを手元に置いて…色んな、事を……っ」

 

 僅かに震える体を隠すように、彼女が自身の白い死覇装を握り締める。藍染が雛森桃に与えた崩玉の正体を聞いた一護は、改めて少女と、犠牲になった少女達の不幸を憂い、あの巨悪への怒りを新たにする。

 

 重い感情を溜息で吐き出し、白死覇装の娘は話を再開した。

 

「だから、あたしは藍染隊長の計画を逆手に取る事にした」

 

 少女は語る。

 藍染の『霊能継承計画』の根幹には、死神に相反する力を芽生えさせるための"強大な虚"の個体が必要だった。彼女はヤツの部下の地位を利用し、その改造虚に藍染の想定を超えた潜在能力を秘密裏に授ける。

 

「それが、個体名【ホワイト】」

 

 

 

 ────あらゆる色を漂白する、浄罪の剣。

 

 

 

 少女はそんな想いを込めて、その矛盾だらけの虚を藍染の実験に提供したのだという。

 

「…それで、あいつを"ホワイト"って…」

 

「ふふっ。藍染隊長が"藍に染める"から、あの人を倒す剣に相応しい暗喩は他に無いかなって」

 

 恥ずかしそうに身を縮こませる白装束の女の子は、一咳で緩んだ空気を散らす。

 

「藍染惣右介を倒し、世界の秩序を護る者。それが、あたしが知った黒崎一護の背負う運命…」

 

 

 

 ───あなたにしか出来ない事なの。

 

 

 

 一護の目を直視し、紅い瞳の雛森桃は覚悟の籠る声で、最後にそう話を締め括った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 しとしとと、河原の草葉が雨を弾く。

 

 空は暗く、地は濡れ、その様はさながら静かに泣き続ける幼子の心象風景のようにも見える。

 

 生まれる前から誰かに決められていた自分の人生。もしかしたらかつて挑んだ四大貴族の白哉も、こんな気持ちでルキアの処刑を黙認しながら戦ったのだろうか。グリムジョーやウルキオラも、救われない悪霊の運命を認めていたからこそ、あんなに自らを省みない戦い方をしていたのだろうか。

 それしか道がないのだと、理不尽を嘆く想いを殺し、剣を握ったのだろうか。

 

 彼らに比べたら、自分は幸福なのか、不幸なのか。

 最初から誰かの踏み台にされるために、何も知らない家畜のように両親を交配させて生まれた実験動物。虚の自分に至ってはその運命すら捻じ曲げられ、霊性技術で体中を一から改造されて作られた。

 そしてそんな超越者たちの掌の上で今、戦わせられている。

 

 それが、俺の運命だった。

 

 

 

「……ハッ」

 

 

 

 だがその時。

 二人の間に、一つの笑い声が響いた。

 

「なんだ、それ」

 

「一護…くん…?」

 

 困惑する白い死覇装の少女を見つめる彼の顔にあったのは……安堵。

 

「運命だの踏み台だの好き勝手言われて、ふざけんなって思ったけど。俺が背負ってるのって、そんな…」

 

 

 

 ──当たり前なモンだったのか。

 

 

 

 悲運の青年は。笑っていた。

 

 泣き叫ぶでも、塞ぎ込むでもなく。黒崎一護が浮かべたのは憑き物が落ちたような、呆れたような笑みだった。

 

「要は藍染とか世界がどうこうじゃなくて、自分の大切なものを護らなきゃなんねえんだろ? そのためにあいつを倒さなきゃなんねえし、世界も救わなきゃいけねえ。結局そんだけの話じゃねえか」

 

 目を見開く少女へ、一護は勝気な顔で心を明かす。

 そうだ。世界のためだとか、運命がどうだとか、そう言うものはテレビの中のスーパーマンにでも任せておけばいい。

 

「悪ぃな、俺はあんたが望むような殊勝な人間じゃねえんだ。世界中の人を護れとか、世界の未来を護れとか、そんな指示には従えねえ」

 

 そして呆ける彼女に「期待を裏切っちまうけどよ」と前置いて。

 

「俺は……俺の大切なヤツらと、俺の目の前で苦しんでる──」

 

 

 

 

 

 

 

 

山ほどの人を護るだけだ

 

 

 

 

 

 

 

 いつだったか、そんな事を誰かにも言った気がする。

 

 最初もそうだった。俺はルキアから力を貰って、その力で大勢の人を護りたいと思った。

 

 なら自分の力が誰に貰ったものかなんて関係ない。

 今の力を手にするのに、制御するのに、自分は死ぬほど辛くて苦しい思いを何度も経験した。その対価に、それが与えられた力だろうと、自分の自由に使う権利はあるはずだ。

 

 俺は、俺の護りたいモンを護る。文句は言わせねえぞ。

 そんな言葉を瞳に込め、一護は目の前で呆ける不思議な恩人を見つめ返した。

 

『……』

 

 互いの視線が交わることしばらく。

 

 少女がおもむろに俯いた。前髪に隠れた表情を見る事は叶わない。

 

 

 

「…ふふっ」

 

 

 

 不意に、彼女が笑った。思わずといった控えめな笑い声が、少しずつ、最後には口を押え肩を震わせるほどになる。

 

「ふっ、ふふふっ…」

 

「な、何がおかしいんだよ…! そ、そりゃクセー台詞だってのは分かってるけどさ…っ」

 

「ふ…ッ、いいえ、ごめんなさい」

 

 少しだけ、どこか苦しそうに胸元の衿を握り、息を整えた後。少女が目元を指で拭い、そして顔を上げた。

 

 

 

「───やっぱり、あなたはあなただなぁ…って」

 

 

 

 そこにあったのは、満開の花。

 まるで咲き誇るかのような可憐な笑顔が爛々と輝き、一護は思わず目を瞠る。

 

「その通りだよ、一護くん。あなたは世界とか、運命とか、そういう大きいものはどっかにポイしちゃっていいのっ」

 

「!」

 

「あなたの大切な人達を護る。そのオマケでこの世が救われる。あなたにとって、この世界はその程度のものでいいの!」

 

 キラキラ煌めく瞳が、それが彼女の心からの主張だと表している。まるで「その言葉が聞きたかった」とでも言っているように。

 

 別に、と一護は面映くなり頭を掻く。別に世界がその程度のものだと調子に乗っている訳ではない。そこまでイキってはいないはずだ。

 そう自信なさそうに言うと、少女が揶揄うようにしなを作った。

 

「そう? でも世界を護った男の子に"お前を護るついでだ"なんて言われたら、女の子ならもう一生あなたの事しか見えなくなっちゃうよ?」

 

「なっ! バッ、そ、そういう意味じゃ…!」

 

「あらあら。こんなにステキな男の人になったのに、そういう照れ屋さんなのは変わらないのね。おねえちゃん懐かしいわ」

 

 背伸びしてまで一護の頭をよしよしと撫でてくる少女。

 

 …ダメだ、完全に子供扱いされている。外見ならもう彼女の方が自分より年下に見えるのに。

 母を亡くしてからはずっと長男らしく格好つけて生きてきたため、こういう扱いは新鮮で慣れておらず、恥ずかしいやら嬉しいやら。真っ赤になって俯く事しか出来ない一護だった。

 

「──…ッ」

 

 だが、ふと頭を撫でるのを止めた彼女が気になり横目で見ると、少女は何やら胸を押さえて俯いていた。眉を寄せ、唇は何かを堪えるようにきゅっと結ばれている。

 

「ど、どうしたんだあんた…? さっきも…!」

 

 先ほど笑っていた時も何故か苦しそうにしていた事を思い出し、一護は咄嗟に相手の身を案じる。

 

「…ごめんなさい。もう時間、みたい…」

 

「時間…?」

 

 額に汗を滲ませ、辛そうな笑みを作る少女。

 

「その前に…一番大事な事を…っ」

 

 そしてフラフラと近付き、一護の胸に手を触れた。

 

 

 

「────っあ」

 

 

 

 直後。ゾワリと何かが解き放たれるような感覚と共に……辺りが夜空に飲み込まれた。

 

 その夜闇の正体は、青白く輝く、漆黒の霊圧。

 

 町中に広がり、天の果てまで立ち上るソレは、これまで一護の中で眠っていた彼自身の霊力。あの乱暴で不安定な赤黒いものとは違う、完全で美しい霊力だった。

 

「…す、すげえ…」

 

 あまりの力に放心する一護。

 あの斬魄刀世界で斬月が言っていた「封」が今、解かれたのだ。

 

「これで…おねえちゃんのお守りは…ひとまずおしまい…」

 

「これが俺の、力…」

 

「ええ、今のあなたなら…必ず…っ」

 

 だが一護の感動の陰で、少女が何かの限界を迎えていた。解放された青年の霊圧が引き金となったのか、震える彼女の体が桃色の光を放ち始め…

 

 

「───あ…」

 

 

 突如、今まで感じられなかった少女の途方もない霊圧が、彼の体中を、世界を包み込む。

 

 そして気圧され驚愕する一護の前で、蕾が花開くかの如く…

 

 

 ──その華奢な背中から二対の翅が生え出た。

 

 

「あ、あはは…ごめんね、気味悪くて…」

 

「あんた…それ…」

 

 申し訳なさそうに翅を気にする、突然の異形と化した少女。一護はその霊圧共々圧倒され唖然とする事しか出来ない。

 

 その翅は、まるで宇宙の星雲を閉じ込めたように淡く、煌びやかに輝いていた。羽化直後の蝶の翅に似たそれは、無重力に舞う露状の霊力を纏っている。有機的で、されど虚とは一線を画す神秘性を感じる、不思議な四枚。

 

 羽化に合わせ、彼女自身にも変化が起きていた。白の死覇装が消え去り、ボロボロの襦袢が露わになる。髪も衣服も霊体の一部なのか、毛先や襟元などが霊圧化しており、それはさながら紅炎の毛皮のよう。

 

 どこか既視感を覚える姿と、死神でも虚でもない、不思議な霊圧。その正体は思い出せないが、彼女がこんな姿になった元凶だけは、一護には理解出来た。

 

「ッ、やっぱり…あんたは……」

 

「…うん」

 

 か細い少女の相槌に青年は臍を噛む。

 

 恐らく、彼女が最初にさりげなく否定したように、彼女は"雛森桃"ではないのだろう。

 元からあの人の中に眠っていた別の人格か、あるいは彼女自身の言う「因果の輪廻から外れた存在」の部分が、あの崩玉による怪物化を経て別たれたのだろう。

 

 彼女には失礼かもしれない。自分がそうなったら落ち込むかもしれない。だが、せめてもの気休めになればと思い、口にするのなら。

 彼女の姿は…

 

 

 ──まるで御伽噺の飛天や妖精のように、とても、美しかった。

 

 

「あ、あの…もう一護くん子供じゃないし、その…そんなに見られると…」

 

「あっ、わ、悪ぃ!」

 

 はだけた白い太ももを恥ずかしそうに裾で隠す少女から一護は慌てて目を逸らす。些かあられもない服装もそうだが、やはり彼女の異形となった経緯を察するにジロジロ見るのは失礼だった。

 

 気まずい静寂が過ぎ、お互い頬の熱を覚ました後。

 少女が彼の名を呼んだ。

 

 

「一護くん」

 

 

 切なそうな声に振り向く青年へ、彼女が言葉を続ける。

 

「…こんなになっちゃったから、多分、もう逢うのは難しくなっちゃうけど…」

 

 その体はふわりと浮き上がり、辺りには少しずつ光の粒子が立ち込める。

 

 そして、彼だけの思い出の女の子は、優しく幼い少年の頬に手を触れた。

 

 

「ちゃんと…見守ってるから…」

 

 

 別れの言葉だ。永遠になるかもしれない、人生の恩人とのお別れ。

 

「辛い時も、苦しい時も…あなたはきっと乗り越えられる。どうかあなたの望むように生きて…っ」

 

「な…! 待っ──」

 

 惜しむように思わず伸ばした手は、届かない。

 

 変化は突然。

 まるで景色が(ひず)むように、河原が、川が、川岸が、街並みが、視界に映る全てが、宙に浮く少女の体の中へと吸い込まれていく。辺りに満ちていた彼女の霊圧が収束していく。

 

 一つの形而上の、理を超えた存在へと、結実して。

 

 

「…生きて、あなた。

       それがきっと…」

 

 

 

 

 

 

──この世にとっての…  

 

正解だから。

 

 

 

 

 

 

 最後にそんな言葉を残し、"ご本が好きなおねえちゃん"は、泡沫の世界と共に…

 

 

 一護の生きる世界から消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩しい光に目が眩む。

 

 はたと我に返り辺りを見渡す一護の目に、代わり映えの無い景色が映る。

 

 見慣れた河原。見慣れた川岸。見慣れた街並み。

 佇む彼の頭上には、変わらぬ十一月の澄み渡った秋晴れ空。

 

 少女と別れた過去と、同じ場所。現代の空座町の川辺に、一護は放心したまま佇んでいた。

 

「ここは────」

 

 だが、そこで。一護の魂魄が悲鳴を上げた。

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 ズドンと体に巨大な圧がかかる。軋む四肢、震える足、歪む世界。途轍もない力が彼を圧し潰さんと襲い掛かった。

 

「この…霊圧は…ッ!」

 

 忘れるものか。体が覚えている。染み付いている。あの体中の力を削ぎ落されるような、恐ろしい感覚を。

 

 …ヤツだ。魔王だ。

 

 

 ────藍染惣右介の霊圧だ。

 

 

「………る」

 

 ブルリと震える。なんだ。どうした。恐怖か。怖気付いたか。

 

「……える」

 

 確かに恐い。相変わらず凄い存在感だ。以前よりヤツの力が増しているかもしれない。

 

 だが。

 

 だが…!

 

 だが!!

 

 

「見えるッッ!!」

 

 

 見える。道筋が。ヤツと戦えている自分の姿が。

 ヤツとの戦いの、勝機が見える。

 

 今までどれほど鍛えても、どんな心持でも見えなかったものが。

 

 

 ───勝利が、見えるんだ。

 

 

 思わず口角が吊り上がる。興奮に流れる汗を拭い、右手の天鎖斬月を、胸の頼もしい霊圧を握り締め…

 

「……待ってろよ、遊子、夏梨、お前等ッ!」

 

 

 

 

今、往く!!

 

 

 

 

 

 英雄・黒崎一護は、思い出の河原を、弱かった自分を振り払うように。

 

 

 

斯くて栄光の戦場へと駆け上る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

桃「キス以外思い付くヒロインムーヴを全部ぶっ込み、完成した超OSR状態チャン一がこちらになります」

玉「これには流石のオサレ強化ヨン様だとてひとたまりもあるまい…」(ゲンドウポーズ

梅「…主様の素足を殿方に見られた…」(シクシク


一「うおおお藍染えええん!」(フンスフンス

ヨ「WELCOME…」(バサァ

真実を含んだ嘘のお手本。これにはヨン様もニッコリ満足民。

次回:多分一〇


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