雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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2話連続の正しい「◯◯ィィィィ!」とは幸先いいな雛森ィィィィ!



技名ィィィィ!

 

 

 

 

 

「──はぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 病室のベッドに寝転びながら、思わず溜め息を溢す。

 

 虚圏から帰ってきたほぼ無傷なあたしは、なんか四番隊で入院()することになった。

 どうやら世間的には、院生たちの通報で事情を知った五番隊隊長格コンビが十二番隊の実験虚の協力であたしを救出したことになってるらしい。そんな雑な誤魔化し方が許されるのはヨン様の日頃の演技のお蔭です。

 

 

 しかし、ヨン様か…

 

 

「──あぁぁ怖かったよおぉぉ」

 

 あのときの恐怖が頭を離れず、あたしは体を抱き締めながら足をバタつかせる。色々と濃すぎたヨン様陣営の面接が大成功に終わった喜びなど微塵もない。

 

 …なにあの霊圧! あれが有名な「護廷隊隊長に倍する」とかいうやつか?

 うっそだろオイ、あれで言う「倍の霊圧」ってどう見てもヒツガヤLv.50からのヨンサマLv.100とか、そういう感じの倍だよ。あんなので斬られたらガチで一振りでヒナ/モリになる自信あるぞあたし。

 二撃も耐えて反撃までしたハリベルってやっぱ流石No.3十刃だわ。斬って貰えて羨ましい…

 

「って違う! いや違わないけど! 問題はそっちじゃないっ!」

 

 

 ──あたしヨン様にペラペラ喋り過ぎだろもおおお!

 

 

 頭を抱えてゴロゴロ布団を転がる。本当はあそこまで原作知識を話すつもりはなかった。だけどヨン様にジィィィと見られてビビっちゃって、つい楽になろうとゲロっちゃったんだ。明らかにこの段階で知っていいことでも披露していいことでもないのに…

 いや、自己弁護するなら明言()してない。だけどあのヨン様なんだから、彼があたしの情報のソースがおかしいことに気付ける可能性をもっと真剣に考えておくべきだった。そのせいで黒棺失敗の赤点を払拭するつもりが自重を忘れてラスボスのプライドに土を付けてしまった。

 

「ああああ違うんですううう!」

 

 あの崩玉融合前のオサレ全盛期ヨン様だぞ!? ブリーチ名言の八割はあの人のものなんだぞ!?

 原作漫画や小説の知識でイキって転生者SUGEEEやるならせめて相手選べよ! せめてシロちゃんとかソイポンあたりの低OSR値キャラにしとけよ。バカじゃないの!?

 

 

 当然だが、あたしが虚圏でヨン様に語った志波家での情報収集は殆どでっち上げだ。そりゃ鬼道書を盗み見たりと悪さはしたけど、あたしごときが暴けるような所に五大貴族の秘密なんか隠されてないし、空鶴さんの日記も存在すら見たことない。

 

 確かに志波家に居たという事実は霊王関連の原作知識を使う際の辻褄併せに利用出来そうだなーとは前から思っていた。何でそんなこと知ってると聞かれたら「志波家で知りました」と逃げ切れる。

 

 でもその"世界の秘密"をあたしが志波家で見つけること自体がヨン様の策略だったとは驚いた。そのために空鶴姉貴を負傷させて引退させ、兕丹坊経由であたしに接触させるとか流石すぎる。

 しかし原作でも腕はなかったけどまさかその原因があたしに飛んで来るとは、今度からどう姉貴に接すればいいって言うんですか…

 

 

 そんな外道藍染は、あたしが誤魔化しきれなかった原作知識に何やら興味深々なご様子。プライドの塊なヨン様がユーハバッハから与えられる滅却師の力に関心を示すとは思えないので、普通に「死神と虚の力のみで霊王凌駕出来るでしょ」と言っただけなのに。あのたった一言であたしが滅却師の力の正体を知ってると見抜かれたのは完全に予想外。ホントバグってるわあの人の知力。

 

 とはいえヨン様の行動パターンは意外と簡単だ。天上天下唯我独尊な彼なら何があろうと自分で立てた計画を破棄することはしないので、あたしが望む原作通りの離反計画はちゃんと発動されるはず。

 

 …問題なのはヨン様がどうもあたしの戦闘力以上に知力を評価しているっぽいことだ。

 ラスボスに頭脳面で称賛されたことはアホなあたしにとっては非常に不味い。上司の意図を察せず仕事を失敗とか一番失望されるパターンだ。

 

(いや、でもむしろそっちの方がいいのか…?)

 

 自惚れでなければ、今のあたしはかなりヨン様に気に入られてる。

 理想としてはハリベルみたいな捨てられ方からのシロちゃん「雛森ィィィィ!」だったが、このままだと好感度が高過ぎて処分フラグが立たないかもしれない。

 ダメな子アピールで多少失望してくれないと完全に再走案件である。

 

 目下の霊術院在学中に完遂すべきヨン様任務は信奉者を増やすことと、卍解を会得すること。この内の信奉者の任務の方を特に意識せず半ば無視することでひとまずヨン様の反応を見たいと思う。

 

(もし失望され過ぎても原作知識で十分挽回出来るはず…)

 

 そう、言うなれば封神◯義の太公望やワン◯ースのルフィロールだ。

 いつもぽわぽわアホっぽいけどたまにズバッと本質を突き、普段とのギャップでOSR値を稼ぐ戦法だ。まだまだ原作知識のストックはあるのでそれを利用して乗り切れるだろう。

 

(…まあでも卍解修得は流石にやらないとあたしも困るし、それくらいの期待には応えないとね!)

 

 

 と言うワケで…

 

 

 

 

 

 

 

『──卍解やりましょうっ!』

 

 

 はい、ただいまあたしは飛梅ちゃんの平安時代風な公家屋敷にまたお邪魔しています。

 

「あ、はい。さっきぶり」

 

『はいっ。さっきぶりですね!』

 

 相変わらずキラキラした目であたしを見つめる天女さま。刃禅していないのにホントに精神世界に行けるとは、どうやら始解してから更に仲が深まっているようだ。

 …この子チョロすぎない? ヨン様に騙された原作雛森ちゃんを罵倒してた気高い君は一体どこへ…

 

『それにしてもやはり主様は素晴らしいお方ですっ。先程のあの藍染惣右介なる死神、余程の手練れと見ましたがそれを苦もなく絆す貴方様の話術、まことに感服致しました!』

 

「……あれ見てたんだ」

 

 また勘違いによる高評価化が加速してるよぉ。

 

 だがなるほど、いつもではないけど外の世界の出来事も覗くことが出来るのか。何かのときに便利そうだし協力してもらおう。

 

『ですが、その…一つ問題が』

 

「え、何?」

 

『貴方様が例の藍染某にご助力なさって護廷隊と斬り結ばれるのは大変結構ですが、五年で卍解をお望みなのでしたら、その…早急に決めなければならないことがございます』

 

「…えっ、何、何?」

 

 思い詰めた表情をするものだからあたしはキョドってしまう。どうやら斬魄刀なだけあってあまり世界の秩序やら権力争いやらに興味はないようだが、そんな彼女が何を大事と判断しているのか極めて不安だ。

 

『──技名ですっ!』

 

「…はい?」

 

 思わず聞き返すと飛梅ちゃんは頭を押さえながら語り始める。

 

『だからっ、私達の力を示すに相応しい技の名です! これから貴方様が立ち向かうのは護廷の猛者共。彼奴等を下すためにも私達の力に型を、型に名を、名に言霊を与えねば十全の威力を担えません』

 

「ああ、なるほど」

 

 ようはチャン一の【月牙天衝】みたいなものですね。ふむ、やはり雛森ちゃんとしては花の名前とか入ってるかわいい系だろうか? あたしは期待を寄せる。

 

「それで、あなたから教えて貰うには何か試練とか必要なの?」

 

『……せん』

 

「?」

 

 なんか俯いてぷるぷる震える飛梅ちゃん。どうした。

 

『…ありません』

 

「えっ、試練とか無しで教えてくれるの?」

 

『…ッだからっ! ないんですっ、技名がっ!』

 

「えっ?」

 

 あたしは真顔で疑問の声をあげる。

 

『あ、貴方様があまりに早く私の仮の名を知ってしまったせいでまだ技が出来てないんですっ! だ、大体私の自我が芽生えるのもまだまだ先のはずでしたし、本来斬魄刀はもっとゆっくり主の霊力を浴びて育まれるものなのに、貴方様が毎日毎日あんなにたくさん私の中に注ぎ込むから、私…っ』

 

 両腕で体を抱きながら震える飛梅ちゃん。おい、なんか乱暴された女性みたいな仕草するのやめろ。毎日の刃禅の話ならあれは教科書通りに霊力を馴染ませようとしただけです。

 

「えっと、じゃあ技名が無いから切羽詰まってるの?」

 

『…ッ、はい。卍解に至るにも幾つか力の形を表す名があれば大きく具象化に近付くのですが…』

 

 しかしそんなことを言われても一体どうすればいいのだろう。斬魄刀の技というのは何かスピリチュアルな要素から編み出されるものだと思っていたので、あたしがそれにどう協力出来るのかわからない。

 

「それで、あたしはどうすればいいの? 霊力ならもう回復してるから欲しければ食べさせて上げるけど」

 

『知恵をお貸しください』

 

「えっ?」

 

 予想外なところに要請が来た。あたしの知恵とは如何なことか。そんなもの大してありませんけど。

 

『そんなことはないわっ。貴方様と藍染某との舌戦は恥ずかしながら私には到底理解の及ばないものでしたが、あれが主様の卓越した頭脳の為せる業であることだけはわかっておりますっ』

 

「えっ、あの──」

 

『さあ主様! どうぞこの私に相応しい技名を名付けてくださいませ!』

 

「えええええ!?」

 

 何故か唐突に斬魄刀から自作の技名を考えろと命じられた死神見習い。おいマジでやめろ。前世では何とか中二病を脱却できたあたしがオサレの国BLEACH世界に生まれ変わったんだぞ。色々と再燃しつつある中そんなことを頼まれたらもう引き返せなくなるから!

 

「な、なんで斬魄刀のあなたが考えるのはダメなの?」

 

『…先程主様を大虚の群れへ送り出したとき、その、後で少し自分の発言を振り返りまして…』

 

「自分が恥ずかしいだけじゃん!」

 

 この子、やはりあたしの同類だった。

 

 その後何度も頼まれ、いずれの理由の悉くがあたしに降りかかってくる罰ゲームと化した「斬魄刀必殺技命名計画」が始動した。

 

 

『──で、ではこちらの技の名をお願いします』

 

 飛梅ちゃんが燃える飛梅ちゃん(刀)を構え「やぁぁっ!」と可愛い掛け声で振るう。すると大きな火の玉が放たれ、美しかった日本庭園が応仁の乱の後みたいになった。

 

『私の始解の全ての基本となる技です。炎に因んだ名を頂ければ燃焼力が、炸裂に因んだ名なら爆発力が高まるでしょう』

 

「そんな調整が出来るの?」

 

『同じ技に異なる名を与えることで引き出す力の質を変えることは降霊術の基本です』

 

「へー」

 

 オサレな理由に素直に感心する。ほーん。

 

「破裂ならやっぱり爆弾や兵器とかが強そうだけど、安直すぎてオサレじゃないし…」

 

『よくわかりませんが、飛梅の名と繋がりの薄いものは逆に威力が落ちることもあるのでお控えくださいませ』

 

「注文多いなぁ」

 

 何やら色々デリケートな問題らしい。しかしそう言うことなら、そうだな…

 

「──燃える梅で【梅焔(ばいえん)】とかどうかな。焼き尽くしたあとの煤煙(ばいえん)と読みを被らせることで技の結果を強引に確定させる! みたいな」

 

『そ、それは言霊として素晴らしい効果が期待できます! …で、では私からは火の玉の形状から【火点(ひとも)し】や【燐火(りんか)】はどう、かしら…』

 

「わあっ! 【火点(ひとも)し】はなんか響きがかっこ可愛くて好き! それとどうせならオサレに漢字を変読みにして【飛燐(ひともし)】にしない? 意味同じだし飛が入ってるとなんか凄く弾け飛びそうな感じがするから。あと飛梅の飛でもあるし」

 

『ッ飛っ! "飛"いいわっ、凄く欲しい! やったぁ、飛と梅の両方入ってるわ!』

 

「わーい、どんどんぱふぱふ」

 

 という感じに原作にもあった基本技の火の玉爆弾みたいなやつは、かっこ可愛い【梅焔(ばいえん)飛燐(ひともし)】ちゃんに決まりました。

 

 その後も深夜テンションの男子的なノリで、あの虚圏でのヨン様面接で使った他二つの大技を【梅焔(ばいえん)翳火(かざしび)】と【煌熬琳原(こうごうりんげん)東詠(あずまうた)】に決めたものの、結局我に返ったあと自分で考えた技名を叫ぶ恥ずかしさからあまり始解をすることはなくなった。

 

 卍解は遠い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





オリ技辞典:

梅焔(ばいえん)翳火(かざしび)

梅『刀身に梅焔を纏い放射状に火の粉の弾幕を炸裂させる中近距離技です』

桃「【梅焔】はそのままに、平安貴族女性の扇の別名"大翳(おおかざし)"で【翳火(かざしび)】」

梅『上品ですわ』



煌熬琳原(こうごうりんげん)東詠(あずまうた)

梅『上空から地面の敵へ放てるだけの梅焔を乱射して面制圧する技です。全技中最強火力です』

桃「焼け野原の"原"と、煌々と熬える"煌"と"熬"、あとは紅白梅図屏風の琳派の"琳"を取って【煌熬琳原(こうごうりんげん)】で。ついでに春風から【東詠】」

梅『つ よ そ う』

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