雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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齟鶯(そー)様から頂いた支援絵です!
なんと絵師様にご依頼してくださった作品です!

K. 様作の死天使ヨン様
https://img.syosetu.org/img/user/271330/85949.jpg

表紙風差分
https://img.syosetu.org/img/user/271330/85950.JPG

原作の邪悪な燕尾ヨン様と対になる神々しい白ヨン様!
指が特にセクスィであ^いいっすねぇ~(恍惚
タイトルのGOD IS DEADからTHE OUTER GODSになってるのが原作ヨン様との目的の違いを想起させてニヨニヨします
そしてしれっと作者:呂保帯人で草

描いてくださったK. 様、メッセージをくださった齟鶯(そー)様、素敵な支援絵大変ありがとうございました!


お待たせしました。ヨン様篇クライマックスです。
ヨン様がなんであんなに悦森ちゃんの愉悦活動に協力してたか、最後の理由。

 


俺自身が月牙になる事だ…

 

 

 

 

 

 

 

 絶望だ。

 

 絶望が黒崎一護の前に降臨した。死力を振り絞った自滅覚悟の必殺技。全身の至る所が爆ぜる程の力を解き放って尚、巨悪──藍染惣右介は二つの足で悠然と立っていた。

 

 

『…ああ、素晴らしい。かつてこれほど天を間近に感じた事があったか…!』

 

 

 喜色に満ちた声が大気を震わせる。

 

 一護の絶望は敵の健在だけではなかった。あれこそが奴の言う、個の生存本能が齎した"進化"なのか。強大な一撃を受けた崩玉が主の危機に応え、あの魔王を更なる上位存在へと昇華させたのだ。

 

 戦慄する青年の前で新たな体を確認し終えた藍染が、ゆっくりと彼の方へ振り向いた。

 

『なるほど。どうやら君は、この姿に既視感があるようだな』

 

「…あ、ぁ…」

 

 その美貌に暗い悦びを滲ませ、巨悪が口角を吊り上げる。

 

 既視感。確かにその通りだった。

 大理石の彫像の如き全身。胸元から背中の翼へ繋がる破れた布のような霊圧の襞。前者は崩玉のおぞましい怪物に変化していた時。後者はあの過去の記憶の世界で再会した時。どちらの特徴も一護の知る、とある少女を彷彿とさせた。

 

 偶然か、あるいは不吉な因果による必然か。その異様な風貌を見て、勇者の脳裏にあの人が口にしていた一つの言葉が浮かぶ。

 

 ──あらゆる色を漂白する、浄罪の剣。

 

 それは彼女が一護へ授けた虚・ホワイトの暗喩だ。だが只の縁起のまじないであるはずのその言葉が、奇しくも真逆の呪いのように彼へ重くのしかかる。

 

 藍染の新たな姿は、まるでそんな青年の力を嘲笑うかのような、"純白"だった。

 

『どうした黒崎一護、何を呆けている』

 

「…ッ、呆けてねえ…っ!」

 

『空座町を護れる者は君しかいない。君の戦意だけが、あの地の人間達を護る最後の希望なのだ』

 

「当たり前だ! 俺があいつらを──護るんだよオオオオッ!!」

 

 その純白に抱く不吉な悪寒を振り払い、勇者は奮い立つ。裂けた骨肉から溢れる血を厭わずに。

 

 戦いが再開した。一薙ぎで山が輪切りに消し飛び、荒地を谷に変える神の裁きの如き破壊が、幾度となく繰り返される。

 

「まだだ! まだ俺は戦えるッ!!」

 

『……』

 

 空から地の底まで両断され、吹き荒む超越者達の霊圧が周囲の万物を消滅させる。それら朽ちた霊子が大気を穢し、二人の周囲はまるで瞬きと共に日夜が入れ替わる真空と灰塵の表裏地獄と化す。

 

 …俺しかいねえんだ。俺が勝たねえといけねえんだ。

 

「くそっ! くそォォッ!!」

 

 だが必死に剣を振り回す一護の顔は憔悴に歪んでいた。どれほど力を込めて斬り付けようと悉くがいなされる。剣圧の余波で傷を付けられた以前とは異なる、両者の力関係。青年の大地を裂く兜割りを半歩で逸らし、大気を抉る横の一文字を無造作に弾き、その度に藍染の白い瞳が失望に淀んでいく。

 

 そして勇者が膠着を打破せんと振りかぶった全力の【天鎖斬月】の前で、魔王は無言で剣を下げ、無防備にその身を晒した。

 

「喰らえええええええええッ」

 

── 月 牙 天 衝(げつがてんしょう) ──

 

 

 蒼黒の霊圧が山渓を消し飛ばし、斬り裂かれた世界の絶叫が激震となって尸魂界(ソウルソサエティ)全土に響き渡る。最早前後左右もわからない砂塵の大嵐が視界の全てを奪う中、一護は剣を振り下ろしたまま固まっていた。

 力の反動で体中から血が吹き出す。霊圧が四肢を蝕み力が入らない。そして最後の気力さえも…

 

「な…」

 

 刀身がぐわんぐわんと唸り震えている。その切先から伝わるあり得ないほど硬質なナニカに打ち付けた感触に、そんなバカなと青褪める勇者。

 

 

『──漸く、理解出来たようだな』

 

 

 だが耳に響く男の低い声が、一護を現実から逃がさない。

 

「嘘……だろ……」

 

 敵が放った霊圧で周囲の土煙が掻き消える。

 その奥、青年の目の前にあったのは──薄皮一つの傷もない、藍染惣右介の白亜の胸元だった。

 

『これが今の我等の、格の差だ』

 

 嘘だ、認められるか。一護の口から喘ぐような吐息が零れる。

 

『…いい顔だ、黒崎一護』

 

「あ、ぁ…」

 

『更木剣八、朽木白哉、ウルキオラ。強敵と対峙し、それまで培ってきた強者の自信を打ち砕かれた時。君は必ず戦いの中で一度絶望し……そして必ず、立ち上がった』

 

 

───自らの内に秘められた力を、新たに引き出して。

 

 

 その言葉に一護はハッとする。

 

『君の敵は皆一人残らず君を侮り、最後に敗北した。更木剣八に斬り伏せられようと、朽木白哉の霊圧で体が限界になろうと、ウルキオラに胸を穿たれようと。君は死に瀕した際、必ず彼らを超える力に目覚め、戦いを制してきた』

 

「…ッ」

 

『私はそんな君の歩みを見続けてきた。そして君が勝利を積み重ねる度に、その剣がいずれ私の喉元にすら届くのだろうと、予感を確信に近付けていった』

 

 藍染が一護に与えた才能は貴種の霊能者の血と、強大な最上級大虚(ヴァストローデ)の力。自然界では決してあり得ない存在であるためその力の底が見えず、だからこそ自身の探究の最高の素体となり得たのだ。

 

『そして同時に私は悟った。当初の崩玉の力だけでは君の潜在能力を、成長速度において凌駕する事は不可能であると』

 

 魔王は語る。

 雑多な死神の魂魄を喰わせ育んだ藍染の最初の崩玉は、"進化の多様性"こそ優れていたが、黒崎一護との戦いに必要となる"進化の幅"が不十分だった。それは後に雛森桃に与えた第二の崩玉との比較による分析であり、その原因と思われたのは、藍染の最初の崩玉の根幹を成す死神の魂魄が──雛森のそれとは異なり──いずれも彼自身の飽くなき向上心に置き去りにされるような愚物ばかりの有象無象である事だった。

 

『私の望む高みへ追従できる者は、私しかいない。そして()()()()()()()()()()()、"()()"()()()()()

 

「…!?」

 

 まさか。その言葉の含意に気付いた一護は絶句する。

 まさか。もし、もしそうなのだとしたら。

 

 こいつの持つ崩玉の正体は。

 

『…全く、常々思わされる。神なる者と、神ならざる者との真の隔たりは──"心"にこそ存在するのだと』

 

 そして茫然自失と立ち尽くす勇者へ、変わらぬ冷徹な薄ら笑みを浮かべる魔王が、その最悪の真実を告げた。

 

 

『───その通りだ、黒崎一護。この崩玉の核となった魂魄は…』

 

 

 

 

幾多の私と、

雛森桃の複霊(クローン)義魂だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ぐああァア"ア"ア"アアア"アッ!!」

 

 

 紫紺の光が瞬き、地平が燬される。

 桁外れな霊圧の炮熕に体を焼かれ、激痛に絶叫を上げる一護。

 

『……ふむ、やはりこの規模の力は扱いが難しい。匙加減一つで君程の強者すら灰になる』

 

 宙に佇み、地べたの青年を見下ろす神炎の主、藍染惣右介。それがこの場の両雄の"格"の差だった。

 

『見苦しいぞ、黒崎一護。君が未だ力の底を秘めている事など過去の戦いを振り返れば誰でも想像が付く。天女の寵愛を受けた者が無様に土を舐めるな』

 

「…がふっ…ぐ、ぅ…ッ」

 

『君に不可能であれば、あの娘に授けられた内なる虚に体を明け渡すといい。朽木白哉を、ウルキオラを倒したように、その穴だらけな肢体を超速再生で回復させたまえ。彼女に造られた存在ならば今の私と戦える術を持っているだろう』

 

 満身創痍の一護へ魔王が豪語する。その術を前に、私は更なる進化を遂げて見せよう、と。

 

 だが青年は荒い息を上げるだけ。藍染は苛立ち、腕の一振りで破滅の流彗群を彼の周囲に降り注がせた。

 

『…聞こえなかったのか? 私は"立て"と言ったんだ』

 

「がッ…!」

 

 一護は墜星の爆風に吹き飛ばされゴミのように空を舞う。朦朧とした意識で砂漠化した大地に崩れ落ちながら、されど青年は一つの記憶を脳髄に思い浮かべていた。

 

 

 ────お前は宝だ、一護。

 

 

 それは、悲しい、悲しい、別れの言葉だった。

 

『君はここに来る前、あの娘の手助けで既に一度壁を破っている。それも羽虫から超越者へと至る、途轍もなく高く、厚い壁だ』

 

「……ぅ、ぁ…」

 

 藍染の追撃を受け、為すすべなく砂漠を転がる必勝の勇者。それを見る巨悪の白い瞳には、未だ期待の熱が燃えていた。

 

『ならば新たな壁が立ち塞がろうと、君ならば越える事が出来るはずだ。違うか、黒崎一護?』

 

 一歩、一歩。死が近付いて来る。その恐ろしい霊圧に体を焼かれながら、一護は魔王の目を見つめていた。

 

 …ああ、まただ。また奴があの目をしている。

 

 この感覚はよく覚えている。かつて彼が市丸ギンと対峙した時に感じたものだ。

 

 俺を見ているのに、見ていない。まるでこちらを通して別の誰かを見ているかのような、不気味で不快な感覚。

 奴は一体誰を、何を見ているのだろうか。俺の力か、俺の才能か、それとも…

 

『何をしている、人間の勇者よ。よもやこれが君の進化の果てだと言うのではあるまい』

 

「…ッ」

 

『それともあの娘は、本当に私の崩玉の正体に気付いていなかったと言うのか? 戦う君をその程度の手助けで十分だと私に挑ませたのか?』

 

 失望の色に彩られた無地の虹彩に見下ろされながら、一護は静かに手元の剣を握り続けていた。

 

 魂の相棒、斬月。

 

 今頃あいつらはどうしているだろうか。情けない王に怒っているのだろうか、落胆しているのだろうか、必死に励まそうと叫んでくれているのだろうか。

 

 一秒でも、一瞬でも長く、彼等と一緒に居たかった。共に存分に戦い、勝利を掴みたかった。

 

 ああ、だけど。

 

 

『どうやら君の腸を余さず引き摺り出すには、純然たる死の恐怖が必要なようだ』

 

 目の前に聳える純白の死天使が、手と一つになった剣を擡げる。奇しくも一護と同じように体と一体化した斬魄刀だ。

 

 平伏す自分と命を握る藍染、二度目の光景。されど二度目の慈悲はないだろう。

 だが絶死の間合いの中にありながら、青年の意識は浮世に無かった。

 

「…斬月……」

 

 そして、あの全身全霊の月牙天衝を遥かに超える魔王の一閃が、一護に迫る。

 

 

 

 彼が死の瀬戸際で思いを馳せたのは、夢幻の心象景色。

 

 あの無数の蒼い摩天楼が天を貫く、斬魄刀の世界だった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣撃の金属音が、止んだ。

 

 どれほどの時間が過ぎただろう。永遠にも思えた精神世界での三ヶ月の激闘は、極限の精神で掴んだ直感に身を委ねた事で、その終わりを迎えた。

 

 

『…よく気付いたな、一護』

 

 

 白いコートの右腕に鎖を這わせ、左半の頭部を覆う片角の仮面の青年【天鎖斬月】が口を開く。

 

「痛みが…無え…」

 

『当然だ。私達はお前自身の力。お前が受け入れてくれたなら、私達がお前を傷付ける事などありはしない』

 

 何かを押し殺すような声で、彼が言う。

 

 異様な光景だった。一護の胸には青年の白い剣が突き刺さり、しかしその傷口から一滴の血も零れない。

 代わりに摩天楼の屋上に、ポタリと落ちたのは──

 

「斬…月…?」

 

 気付いた一護は困惑し問いかける。切先から胸に伝わるのは、果てしない悲愴な想い。

 

 

『……一護』

 

 

 顔を上げ、白い斬月が主の名を呼ぶ。そこにあった小さな一筋の光に、震える声に、一護は息を呑んだ。

 

 涙だ。

 斬月が、俺の"力"が泣いているのだ。

 

「な…んで…」

 

『一護…お前は私の宝だ。私はお前から多くの事を学び…多くのものを貰った』

 

 青年の独白は続く。

 

()()()()()()()()は届かなかったが…お前のお陰で、私達は【斬月】と言う名でお前に逢えた』

 

「……」

 

『嬉しかった。幸せだった。これでようやくお前に声が届く。あの時の感動は、その対価に見合うほどの幸福だった…』

 

 対価。彼はそう言った。

 王の疑問に斬月が答える。

 

『私は、お前に争いを知らずに生きて欲しかった』

 

「…!」

 

 一護は目を見開く。

 

『剣の痛みを、戦場の恐怖を知らない世界で生きて欲しかった。平和な時代に生まれた無垢な人間として、爭い無き世を生きて欲しかった』

 

「斬月…」

 

 それは死神の力の化身たる斬魄刀ならざる言葉だった。

 

『だがお前は、大きな運命を背負って生まれた。お前にしか果たせない、悲運の定めを』

 

 斬月は『全ての非は私にある』と、何かを強く悔やんでいた。その意味は一護にはわからなかったが、彼があの仮面の少女のように何かしらの言えない秘密を抱えている事だけは、漠然と理解出来た。

 

『…最後の月牙天衝』

 

「ッ!」

 

 ハッと一護は身構える。この長い長い試練に挑み、投げ出す事なく乗り越えられたのは、偏にその技を会得するため。

 しかし漸く手に出来ると喜ぶべき状況にありながら、斬月の剣に貫かれた胸には、寂しさばかりが沸き上がる。

 

『その技は、お前が受け入れた胸の天鎖斬月から伝わるだろう』

 

「…あ」

 

 突き刺さった斬魄刀から手を放し、白い青年が離れていく。

 

 一護は試練の始まりに彼へ訊いた。何故俺の護りたいものが、彼の護りたいものではないのだ、と。

 去り際に王を一瞥した斬月は、最後にその問いに答えてくれた。

 

 

 

『私が護りたかったものは───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン、と強い魄脈が大気を震わせる。

 

 その予兆に振り下ろした刀を寸前で止めた藍染は、直後に起きた勇者の異変に驚愕した。

 

 

「……見せてやるよ」

 

 

 

 

──最後の月牙天衝だ。

 

 

 

 

 途轍もない規模の霊力が天へと立ち上る。まるで夜空の天の川が噴き出したかのような、輝く闇の奔流。

 咄嗟に距離を取った魔王は、そこで、一人の英雄を見た。

 

『…貴様、それはまさか…!』

 

 

 風に舞う漆黒の長髪。

 左肩を残す全身に幾重にも巻き付く青灰色の霊布。

 目元の隙間から覗く、彼の霊力と同じ蒼黒の瞳。

 その右手と融合していた斬魄刀は消え、代わってそこにあるのは、揺らめき纏わり付く漆黒の霊圧。

 

 あらゆる"黒"を身に纏ったその英雄の名は──黒崎一護。

 

 死神とも虚とも異なる、明らかに別の力をその手に握り、復活を遂げた勇者は絶大な霊圧を放ちながらそこに佇んでいた。

 

 

『ッ、これは…』

 

 辺りの地形が気化していく。存在自体が世界を滅ぼすその様は、まさしく神の霊格。

 斯様な領域へ至った人間の青年、新たな力を引き出し立ち上がった"獲物"と相対した藍染は、咄嗟に息を呑み…

 

 

『──ッハハハハハ!!』

 

 

 そして、狂った様に歓喜した。

 

『ハハハハハ! 素晴らしい! 見事だ、天賦の人形よ! それが貴様の内に眠る"第三の力"か! あるいはそれこそが神託の祝福、この私を敗る天女の編纂か!』

 

「……」

 

『いや、そんな事はどうでもいい…! 貴様が今、この私に更なる進化の可能性を示した。その事実のみが重要なのだ!』

 

 やはり、彼は最高の指標だ。最高の探究素体だ。この土壇場で本当に私を超越する力を引き出し、勝利を掴まんとしている。阿散井恋次との、更木剣八との、朽木白哉との、グリムジョーとの、そしてウルキオラとの戦いの時のように。彼は、この藍染惣右介すら倒そうとしている。

 その事実が、男の飽くなき高みへの渇望を刺激して止まない。

 

『そうだ、見たまえ崩玉よ…! 新たな道筋だ! 新たな領域だ! 目指すべき世界は開けているぞ!』

 

 願うのは指標。この身をより高次の存在へ到達させる事。

 同じ無限の向上心を持つ自らの複霊を崩玉の意思とし、天女の複霊を進化の道標とし、藍染は目の前の壁を打ち砕くべく全身全霊の力をこの一太刀に込める。

 

『さあ、女神の勇者よ! その力を投じて見せろ! 死神も虚も超越したこの私に貴様の才儁をぶつけて見せろ! 全ては、この私を天へと誘う糧となるのだ!』

 

 魔王の笑い声が荒地の果てまで木霊する。

 聞く者皆を震え上がらせる邪悪な喜色を、されど一護は一人、それを静かに怒りの炎へくべていた。

 

 

「…まだそんな事言ってんのかよ、藍染」

 

 

 その口が紡いだのは憤懣の籠った呆れ声。水を差された藍染が不快げに眉を顰める。

 

「てめえはいつもそうだ。俺が作られた実験動物だの、誰かを大切に想う感情がそう仕向けられた偽物だの、てめえは一度として俺を人として見やしねえ」

 

 一護の脳裏に浮かぶのは現世の偽の空座町での戦いだ。こいつの台詞、眼差し、態度、そして攻撃。それらから伝わる藍染の想いは、必ず一つだった。

 

 俺と戦いながら、別の誰かと戦ってる。俺を見つめながら、別の誰かを見つめている。それが、藍染惣右介と言う男だった。

 

「断界で修行する前だったらまだわかる。弱え俺があんたに対等と認めて貰えるなんて無茶な話だ」

 

『……』

 

「だけどあんたは俺が強くなった後も、その姿になる前…俺の攻撃で劣勢になった時も、俺を対等どころか…"敵"としてすら見なかった。あんたみてえに強い奴がみんな持ってるプライドとかじゃねえ。本気で俺を物か何かとしてしか見てなかった」

 

 一護は死神の力に目覚めてから多くの戦いを潜り抜け、そして知った。戦いとは想いのぶつけ合いなのだと。強者には強者の、弱者には弱者の想いがあり、それらが剣を通う事で相手に伝わっていく。人間である青年には死神の文化も作法も礼儀もわからないが、その"想いのぶつけ合い"だけは、何かしら胸を打つものがあった。

 あるいはそれこそが戦いの流儀なのだと思えるほどに。

 

『…そうか』

 

 そして、藍染にはそれがなかった。

 

 

『君にそう見えたと言う事は、私は真に"神"の心を手に入れたと言う事か』

 

 

 ああ、今もそうだ。そうであって欲しかったと言わんばかりの凶悪な笑顔で自分の異常な精神性を賛美する奴は、心底救いがない。

 

 …だから嫌だったんだ。この技をこいつに使わないといけない事が。その反動以上に、無数の想いが籠ったこの技を、こんな、戦っててなんの感動もない、ただ嫌な気分になるだけの敵を、人生最後の相手にしなければならない事が。

 

 

 

「…【最後の月牙天衝】ってのは、

 

───俺自身が月牙になる事だ」

 

 

 

 一護は無を掴む。その空の拳の隙間に、一筋の黒い霊圧が集まっていく。まるで一振りの剣のように。

 

「俺自身を月牙に…つまり俺が持つ斬月も、虚も、俺の全ての能力を消費して、一つの月牙にする。そしてこの技を使った時、俺は持ってる力の全てを失う」

 

『…!』

 

「"最後"ってのは、そういう意味だ」

 

 自分自身を投げ打ち放つ最強にして、最哀の一撃。悔いばかりが残る青年は、それでも気丈に敵を睨み付ける。心の持ち様一つで己の力がどうなるか、彼は身を以て理解していた。

 

『…なるほど。それはさぞかし、喰らい甲斐がある力だ』

 

 藍染が顔の笑みを深め、「君の献身に感謝する」と礼を述べた。

 

「…チッ、やっぱてめえとはわかり合えねえな」

 

『そんなに悲観する必要はない。君と言う優秀な道化が見せた名演は、我々の中に永遠に記憶されるだろう』

 

 挑発か本心か。どちらであろうと聞くに堪えない戯言だった。

 

 

 向かい合う両雄。最後の一合い。

 

 無数の想いを無手に込める青年。無限の進化を追い求める魔王。

 高まる霊圧が最高潮に達し、景色が、空間が水面を通すかのように歪んでいく。

 

 

「最後に一つ、言っとくぜ」

 

『訊こう』

 

「俺はてめえの人形でも女神の勇者でもねえ───」

 

 

 そして二人の超越者は、遂に雌雄を決する審判の時を迎える。

 

 

 

「俺は───

 

黒崎一護だッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
── () (げつ) ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 斯くて、刃は振り下ろされた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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