雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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お待たせしました。
いつも応援大変ありがとうございます。
先週支援絵を頂いたのに掲載が遅れて申し訳ないです。
早速紹介!


far様のアナログチャン一
https://img.syosetu.org/img/user/15981/72981.jpg

桃ちゃんinな藍玉の真実に愕然とする勇者!
完全に「何…だと…」言ってる顔ですねクォレハ
でも一護くんにとっては日常なのですぐに立ち上がってまた戦ってくれるでしょう

それと何か上にヘンな桃がありますね、なんでしょう…(


白岩@様の銀魂ァァァァ!
https://img.syosetu.org/img/user/202142/73075.jpg

傑作! 傑作! ありがとうございます!
悦森世界ジャンプのネタがそこらかしこに鏤められてディモールトベネ!
そうだよね、ホワイトくんもデレてるからこの時点で銀さんの期待もイエスだよ!
白森さんも愛されててニチャるわコレw

銀魂名作でしたよね…このノリをもう懐かしいと思う時代になってしまったのか…ホロリ


それでは本編、エピローグと言う名の新章です。
3~4話くらいのオリ展開だから嫌いな人は回れ右だよ!(96話で今更

十刃再結成篇、始まります。

 


おまけ・十刃再結成篇
始まる…!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虚圏(ウェコムンド)虚夜宮(ラスノーチェス)

 

 偽りの太陽が照り付ける大天蓋下の死の砂漠に轟音が響き渡る。

 その振動に胸を騒めかせながら、激闘の末に倒した"第8十刃"(オクターバ・エスパーダ)ザエルアポロ・グランツの研究所跡地で、滅却師(クインシー)の青年──石田雨竜は毒に侵された女死神に鎮静剤を飲ませていた。

 

 

「───ハァ…ハァ…ッ、あ、ありがとう…ございます…っ」

 

 

 暫しの後、体の熱が引いた彼女──涅ネムが荒い息で彼に礼を言う。

 

「だ、大丈夫かい? その…」

 

「…ッ、は、はい…お騒がせ致しました…」

 

 敵の卑劣な能力で尊厳を辱められた十二番隊副隊長。言葉を濁し女死神を気遣う労も空しく、彼女の顔は火が出そうなほどの朱に逆戻り。先刻の痴態を恥じ頭を抱える相手へ、流石の紳士な雨竜も無言で全てを忘れてあげる事以上の配慮は思いつかなかった。

 …無論、一生忘れられる事はないだろうが。

 

「そ、それより立てるなら急ごう。あちらの連中が随分好き勝手暴れている」

 

 はだけた服を整えるネムから目を逸らし、青年はそのまま遠方の方角を睨む。

 吹き荒れる砂塵が霧のように視界を遮る砂漠の一角から、尋常ならざる規模の霊圧の衝突を感じる。足が竦むようなこの地鳴りの元凶、護廷十三隊の隊長二人と最後の"十刃(エスパーダ)"との決戦だ。

 

 

 "第0十刃(セロ・エスパーダ)"ヤミー・リヤルゴ。

 

 

 その名乗りは遠く離れた雨竜の耳にも届いていた。以前空座町で大暴れしたと聞く敵の名だ。

 凄まじい破壊の嵐を撒き散らし戦う巨大な怪物と隊長達。悔しいが、あんな大災害を前に自分が出来る事は何もない。

 

『──石田、みんなを頼む』

 

 空座町の救援に向かった黒崎一護が去り際に雨竜へ残した言葉だ。あいつに言われるまでもないが、託された以上優先すべきは戦いよりも仲間達の無事である。

 尸魂界(ソウルソサエティ)で解毒薬の恩があるネムの介抱のためこの場に残ったが、先行した阿散井恋次の後を追いたいのが青年の本音だった。

 

 …もっとも急ぎたい本音はもう一つ。雨竜は後ろへ振り向き、溜息を吐く。

 

 

「────ようやく見抜きを終えたようだな! ムッツリ同志よ!」

 

「でヤンス~~~!」

 

 

 そこで騒いでいたのは、二体の破面(アランカル)ペッシェ・ガティーシェとドンドチャッカ・ビルスタン。いつもの喧しい面子だった。

 ネムが正気に戻るまで散々連呼され聞き飽きた下ネタを無視し、雨竜は呆ける彼女へ提案を伝える。

 

「…彼等があのヤミーって奴を避けて通れる地下通路を知ってるらしい。それを使って茶渡君たちと…君の仲間の死神たちと合流しよう」

 

「マユリ様は…」

 

「あいつも皆と一緒だ。黒腔(ガルガンタ)の解析の後に卯ノ花隊長の要請で治療現場の防衛を任されてる」

 

 その時の不満そうな奴の顔を思い出し、密かに「いい気味だ」とほくそ笑む滅却師。

 対しネムは上司に置いて行かれたのが余程ショックだったのか、慌てて立ち上がり二つ返事で同行を了承した。

 

「…わかりました。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 瓦礫の山となったザエルアポロの研究所。涅マユリが漁った資料室跡から何とか潜り込んだその地下空間は、雨竜の想像とはかけ離れた、どこか既視感を覚える場違いな施設群だった。

 

「ここは…」

 

「生産区画だ。この辺りは他と比べ特に頑丈に作られているからな、ヤミーの攻撃も及ばぬだろう」

 

 脇目も振らずに直進するペッシェ達に急かされながらも、青年の関心は周囲のそれらへ吸い込まれる。

 

 霊子を結合させ霊体の布を吐き出す装置や、それを裁縫する巨大なミシンらしき機械がずらりと並ぶ部屋。どこから持ち込んだのか、木材や樹脂を加工し家具らしきものを作っている部屋。旋盤や中刳盤など各種工作機械が鎮座する部屋。ともすれば尸魂界(ソウルソサエティ)より高度に機械化された工房が立ち並ぶ様は、獣同然な虚あがりの破面(アランカル)達の拠点とは思えない異様な光景だ。

 

「…驚いたな。遠目で虚夜宮(ラスノーチェス)の建築を見た時も思ったけど、藍染は君達にかなり文明的な生活を提供してたんだね」

 

「畏れ多い。この城の王である藍染様が我等シモベにそんな施しをされる筈がないだろう」

 

「ここは雛森様の肝煎り施設でヤンス。昔の見廻りの仕事でネリエル様が感動してたでヤンスよ~!」

 

 楽しそうに当時を振り返るドンドチャッカが聞き覚えのある名を口にした。藍染に連れ去られた、色々と深い事情を抱える部下の副隊長だったはずだ。それなりに親しい間柄だったのか、元同僚である隣のネムも「雛森副隊長…」と複雑な想いを顔に浮かべている。

 

「ンフ~! こ、この先は…!」

 

「おい、どうしたいきなり」

 

「あ、コラ! 私の前を走るでない! つかそっちは止せドンドチャッカ!」

 

 しばらく進むと何かを思い出したのか、巨体の破面が突然興奮し眼前の扉へ爆走を始めた。それを追い掛け辿り着いた先の空間で、雨竜とネムは思わず足が止まる。

 虚圏(この地)にあってはならないものを、その目で見て。

 

 

「なんだ、ここは…」

 

 

 そこに広がっていたのは、一面の緑。

 大天蓋と同じ原理か、陽光が降り注ぐその下には綺麗に区分けされた草木が青々と生い茂り、色鮮やかな果実を枝から垂らしていた。遠くには黄金色に輝く水田や麦畑まで見える。

 

 それは現世の田畑や果樹園にも劣らない、死した砂の大地に芽吹く奇跡そのものだった。

 

「こんなもの、一体誰が…」

 

「ウオオオ! 久しぶりの食い物でヤンス~~!!」

 

「おいバカ、戻って来いドンドチャッカ!」

 

 壁をぶち破り進む相棒を必死に連れ戻そうとするペッシェ。その姿を追いながら、雨竜はネムと共にこの地下農園を注意深く調べていく。

 

「…およそ年間百人ほどの人足の食糧を賄える規模の田園です。尸魂界にない現世の品種も見られます」

 

「土は…現世のものより砂っぽいな。…まさか外の砂漠のものを使っているのか…?」

 

 その発想に戦慄を覚える青年。農業分野に明るい訳ではないが、それでもこの土壌を作り上げる手間と労力が生半可なものではない事くらいは想像が付く。力で従えればいい破面達に到底見合う投資とは思えない。

 

「リンゴ~~~~!!」

 

「イヤアアアアアアアア!!」

 

『!?』

 

 その時、遠くで絶望的な悲鳴が聞こえた。見上げればペッシェ一人に任せるには荷が重かったらしく、自由なドンドチャッカが田畑を踏み荒らし樹をへし折り果物をバクバク頬張っていた。

 

「不味い! 逃げるぞ雨竜!」

 

「…え? はぁ!?」

 

「ここを荒らされると東仙統括官と雛森軍団長がとんでもなく怒る! ピカロなど十年も牢から出して貰えていないのだ!」

 

 相方を回収したペッシェが我先にと出口へ駆け出した。遅れて雨竜とネムも二体を追う。

 

 元九番隊隊長・東仙要。身を以て彼の斬魄刀の能力を知る青年も心なしか走る速度が上がる。霊圧と足跡でほぼ確実にバレるだろうが、犯人のドンドチャッカが助かるには空座町で例の上司二人含む藍染陣営が敗北する事を祈るしかない。

 

「一蓮托生ですね」

 

「動機がくだらないのに切実過ぎる…」

 

 ボソッと聞こえた隣のネムの呟きに肩を落とし、雨竜たち四人は無事地下施設の出口へと辿り着く。

 

 

 しかしそこで見た光景は、正しく地獄絵図と形容するに相応しい、血と霊圧の大嵐だった──

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

『──ガアアアアッッ!!』

 

 

 凄まじい咆哮が耳を劈く。

 

 地上の砂漠、大天蓋の下に出た四人を迎えたのは、天を突くほどの巨体の破面(アランカル)。その肩に刻まれた"0"の数字を見ずとも、馬鹿げた霊圧と存在感が敵の序列を雄弁に語っていた。

 

「こいつがヤミー・リヤルゴ…!」

 

「くっ、不味いぞ雨竜…! 急がねばここも崩落しかねん!」

 

「アワワワワワ…」

 

 伏せたまま辺りを見渡し仲間を探す一同。戦う三者の怪物達の気配が強すぎて目当ての霊圧が感じられない中、人造死神のネムが一人、創造主の存在を辿り声を上げた。

 

「ッ、マユリ様…!」

 

「あっ、おい!」

 

 危険も顧みず我先に駆けだした女死神に雨竜と破面達は慌てて続く。彼女が目指す先は戦場の端に建つ傾斜した円柱塔。何とか戦いに巻き込まれずその頂上へと登った四人は、そこで奇妙な出で立ちの死神──涅マユリと再会した。

 

「…遅いぞ、ネム。いつまでもアンアン五月蠅いから鎮静剤を恵んでやったのだ。飲んだらさっさと来い、このウスノロ」

 

 興味なさそうに振り返り棘を刺す上司へ「申し訳ございません…!」と恥じ入る涅ネム。あのザエルアポロとの戦いを目の前で見ていた雨竜は彼女を庇おうとするが、ふと男の無感情な態度に小さな違和感を覚える。

 

 だが優先順位は別。塔の屋上の隅々へ視線を飛ばし、滅却師の青年は見つけた人だかりへと急いだ。

 

「井上さん! 皆も!」

 

「ネリエル様!」

 

『!!』

 

 連れ去られた井上織姫を始め仲間の茶渡泰虎、朽木ルキアに阿散井恋次、そして援軍らしき死神二名が弾かれるようにこちらへ振り向く。

 

「石田君! よかった、怪我はない?」

 

「無事で何よりだ。こっちも何とか井上を奪還した」

 

「一護とは逢えたか? そちらへ向かったはずだが」

 

「すんません、涅副隊長。先行してしまって…」

 

 思い思いに喜び合う仲間達。ネルの身を案じていたペッシェら破面達も井上の側で安らかに眠っている少女の無事を喜んでいる。

 皆ボロボロで顔色も悪い。それでも数多くの激闘を潜り抜けた後の、感動的な再会だった。

 

 

「───成程、そんな事が…」

 

 四番隊の援軍、虎徹勇音と山田花太郎を交えた情報交換を終え、一同はひとまず尸魂界(ソウルソサエティ)からの指示をこの場で待つ事で合意した。

 訊けば先ほど「"十刃"の軍勢を撃破した」との吉報を最後に、突如あちらとの連絡が途切れたそうだ。断片的に送られてくる情報では藍染惣右介率いる離反者達との戦闘で劣勢に追い込まれているようで、一時は上位組織"零番隊"の出動案件だとまで騒がれていたらしい。死神達の暗い顔は現世での決戦の行方が混迷しているからだろう。

 

 そして雨竜達に出来るのも彼等と同じく、空座町で戦う仲間を…黒崎一護を信じる事だけだった。

 

「…大丈夫。あいつは『ここは任せる』って言ったんだ。絶対に勝つ」

 

「う、うん…」

 

「ム…」

 

 それでもボンヤリと心此処に在らずな顔で俯く仲間達。聡い雨竜は直ぐに気付く。

 此度の戦いを経て何らかの苦悩が、あるいは蟠りが出来てしまったのか。愚直に仲間の勝利を願うだけの精神的余裕が、親友の茶渡にも、恋する井上にもないようだった。

 

 事実雨竜の推察は正しく、茶渡泰虎は、強烈な無力感に苛まれていた。

 

 先々月の空座町公園でヤミーに、翌週夜のディ・ロイを名乗る破面に全く歯が立たず、それを一護に護られてから青年は不甲斐なさをバネに確かな強さを掴み直した。"十刃落ち"(プリバロン・エスパーダ)ガンテンバイン・モスケーダ相手の勝利はその力が成し遂げた偉業である。

 だが直後の"第5十刃(クイント・エスパーダ)"、そしてヤミーとの再戦で羽虫の様に叩き潰された屈辱は、かつて一護の背中を任された男の二度目の挫折となっていた。

 

 そして井上織姫もまた、沈鬱な想いに沈んでいた。

 

 理由は"第4十刃(クアトロ・エスパーダ)"ウルキオラ・シファー。この四日間織姫の身の回りの世話をしてくれ、浅くない親しみを覚えていた破面の死を憂うのは勿論。その悲劇を起こしたのが他でもない彼女の想い人の黒崎一護が変じた虚であり、しかもあの優しい青年の変貌の原因は少女自身の弱さにあった。

 やっと仲良くなれると思った矢先の不幸。好きな男の子が自分を助けるために手にしてくれた力に対する恐怖。そして己の責任を棚に上げ、彼に怯えている自分への自己嫌悪。

 "心"を求めたあの破面の悲しい最期の言葉が胸を締め付け、織姫はぐちゃぐちゃになった感情に辛うじて蓋をしながら、それでも一護の無事を祈ろうとしていた。

 

 亡き師志波海燕の成れの果てを知り、塞ぎ込む朽木ルキア。"十刃"ザエルアポロ、そして目の前のヤミー相手に何も出来なかった己の非力さを呪う阿散井恋次。皆誰しもが、此度の戦争で胸に大きな傷を負っているのだ。

 

「…少し席を外すよ。涅マユリに訊きたい事もあるしね」

 

 こういうときはじっとしているより体を動かした方がいい。塞ぎ込む仲間達へそう言い残し、雨竜は状況打破の知恵を求め憎き死神へと近付いた。

 

 そんな男、十二番隊隊長・涅マユリは副官のネムを侍らせ、何やら顔を顰め考え込んでいた。青年は「お前もかよ」と言いたい思いを呑み込み、軽い挑発を吐いてやる。

 

「…何だ、らしくない顔だな。問題でも起きたか?」

 

「……」

 

 それに小さく頷いたのは隣の女死神。只ならぬ様子に雨竜は眉間の皺を深める。

 先ほどの再会時、こいつに覚えた違和感の正体に気付いたためだ。

 

「なに、只の科学者としての勘だヨ。あの十刃の研究所から拝借した資料が少し腑に落ちなくてネ」

 

「…ダミーでも掴まされたのか? 黒腔(ガルガンタ)の解析に役立てたのなら本物だろう」

 

「やれやれ…少しは知恵が回るかと思ったが、所詮は黒崎一護とつるむ猿か」

 

 やはりだ、いつもの奴と比べ皮肉も嫌味も冴えない。ネムに対する激しい叱咤も忘れるほど何かに気が散っている涅マユリに、滅却師の青年は悪い予感を覚える。

 

 ポツリと、涅が呟いたのはその時だった。

 

 

 

「……仕留め損なったか」

 

 

 

 その小さな言葉に雨竜が「まさか」と瞠目するのを無視し、男が副官の名を呼ぶ。

 

「…ネム」

 

「はい」

 

「霊圧と界間感知に一隅の隙も作るな。どんな微細なノイズも見逃すなヨ」

 

 そして涅は徐に立ち上がり、虚空を睨む。

 

 それはまるで、これより起きる困難に己の無防備を隠そうと抗う、精一杯の虚勢にも見えた。

 

「この戦い…」

 

 

 

 

 

 ──もう一波乱、在り得るヨ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツ…コツ…コツ…

 

 

 無数の低い呻き声が響く白い廊下に、一つの足音が木霊する。微かに不規則なそれは、足音の主が他の呻き声と同じ負傷者であるからか。その人影が立ち止まった一室の上部には『CUARTO TRATAMIENTO(治療室)』の表記が掛けられていた。

 

 

「───おや、ご無事でしたか」

 

 

 室内に入った人影を迎えたのは一人の青年。ワザとらしく目を見開く彼へ、人影は飄々とした微笑を返す。

 然も在りなん。この男のような神経質な科学者なら、確実に先刻の一連の戦闘を監視していたはずなのだから。

 

「なんや、気付いとったんなら先にロカを呼び寄せてくれても良かったのに」

 

「これは失敬。アレは既に僕の指揮下に無いものでして」

 

「嫌やなァ、怪我人にそない意地悪せんといて」

 

 ヘラヘラと笑いながら壁の奇妙な装置を引き抜き胸部へ翳す人影の男。回道の淡い緑の光が輝き、傷が癒えていく。

 

「…それより君、これからどないするん? 藍染隊長、捕まってもうたん知っとるやろ?」

 

「ええ、お労しい事です。偉大なお方だったのですが…」

 

「そやなァ、凄いお人やったわ」

 

「全く」

 

 台詞の字面に反した含み笑いが二つ、医務室に溶け消える。しばらく仮面舞踏会を愉しんだ二人は、本音の一部を開示し合った。

 

「ですが今更虚夜宮(ラスノーチェス)に戻っても死神共の刀の錆になるだけです。やはり、我々にはあの方のように導いてくださる新たな指導者が必要だ」

 

「おや、奇遇やね。ボクも命辛々護廷十三隊の追手からこのアジトまで逃げてきたし、ほとぼり冷めるまでその新たな指導者さんに匿って貰お思てん」

 

「それはそれは」

 

 どちらともなく歩き出す男達。向かう先は医務室の奥に開かれた大扉。

 

 観音開きを潜り、無数の監視画面が蠢く巨大な広間に出た二人は互いに立ち止まる。そしてその中央へ目を向けた。

 

「そう言う事でしたら、僕に一人心当たりがあります。我等破面軍を率いるべき、可憐で強大な将軍閣下にね」

 

「気が合うやん、君。実はボクも一人知っとるんやで。美人で可愛らしい…化物をね」

 

 男達が共に口角を吊り上げる。

 

 

 その時。

 まるで示し合わせたかのように、広間の中央の空間が円状に歪んだ。二つの世界を繋げる穿界門(せんかいもん)解空(デスコレール)と同じ、されど根本的に異なる不気味な現象。

 

 そしてその異界の門から、浮遊する小さな異形の人影が現れ…

 

 

「───お待ちしておりましたとも、閣下。虚圏(ウェコムンド)の新たな君主…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── 雛 森(ひなもり) (もも) 様 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畏怖、歓喜、嘲笑。無数の感情が蠢く不気味な笑みを浮かべた男達──市丸ギンとザエルアポロ・グランツが、その宙の妖精へ恭しく頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「……はい?」

 

 

 そんな間抜けな少女の困惑声を合図に、尸魂界を恐怖のどん底に突き落とした破面(アランカル)達の逆襲が今…

 

   始まる───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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