雛森「シロちゃんに『雛森ィィィィ!』と叫ばせたいだけの人生だった…」   作:ろぼと

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おまたせ♥
いつも評価コメント感想マイリス支援絵誤字脱字報告ありがとうございます

あまりキリの良いところまで書けなかったので、とりあえずヤミー戦の護廷サイド反撃シーンまで。
冗長ですまない…結末は次回までお待ちください。

 


始ま…らないッ

 

 

 

 

 

 

 

 大地が揺れる虚夜宮(ラスノーチェス)の天蓋下。砂が絶えず立ち込める砂漠の中央にて、護廷十三隊と破面軍との最後の戦いが繰り広げられていた。

 

 聳え立つ怪物、"第0十刃(セロ・エスパーダ)"ヤミー・リヤルゴに挑む二人の死神、六番隊隊長・朽木白哉と十一番隊隊長・更木剣八。その片割れ、義妹の恩人黒崎一護に代わり敵を引き受けた白哉は、常の澄ました顔の裏で臍を噛んでいた。

 

 

「───ウガァァァアアア!!」

 

 

 全身を殴り付けるような咆哮を上げ、怪物が動く。八対十五本の象の如き脚を操り繰り出す突進だ。

 

「くたばれゴミムシがあああッ!」

 

「…ッ!」

 

 凄まじい速度で迫る巨大な肉達磨を白哉は瞬歩で回避する。質量とはそれ自体が破壊力の塊。ただ図体がデカいだけの愚図と侮ったツケは、既に己の(ひしゃ)げた左腕で払っていた。

 

「つれねえじゃねえか、十刃! そんなお坊ちゃん放っといて俺と()り合おうぜ!」

 

 そこに飛び掛かるのは相方の更木剣八。

 

「! てめえは逃さねえ! 斬りやがった俺の脚のお返しだ、潰れて死にやがれ!!」

 

「ハハハハ! いいぜ、来いよ!」

 

 ヤミーの突撃に臆さず、戦いの鬼が真正面から己の剣を横に薙いだ。

 

 

『──!!』

 

 

 剣圧が怪物の体と拮抗する。

 だがそれも一瞬。

 

「バカが! そんな棒切れで誰と殺り合うってんだァ!?」

 

「ぐっ…おあッ!?」

 

 圧倒的なパワーで押し負け、剣八が里単位の距離を弾丸のように叩き飛ばされる。

 

「往け──千本桜景厳(せんぼんざくらかげよし)

 

 一方の白哉は敵の注意が逸れている間に、悠々と卍解の幾億の刃に攻撃を命じる。無論、奴の鋼皮(イエロ)に生半可な攻撃が通用しない事など把握済み。

 

「ならば直接操るまで…!」

 

「あァ? なん──ワブッ!?」

 

 自ら操作に意識を向ければ速度は倍。無数の花弁を魚群のように束ね、男は腕の一振りでそれらを敵の顔面に叩きつけた。

 

 戦果を待つ白哉。しかし十刃の頭部を呑み込んだ桜色の嵐の中で、突如真紅の光が瞬く。

 

「!」

 

 直後、巨大な霊圧の閃光が男の立つ一帯に襲い掛かった。

 

 

「──ぶあぁッ…ちくちくウッッゼェぞ死神ィ…!」

 

 

 間一髪で逃れた白哉は、敵の攻撃で散り散りになった桜吹雪を、そしてその奥を見て瞠目する。そこでは薄皮を裂かれ血だらけとなった、されど悉くが掠り傷で健在なヤミーがふてぶてしくこちらを見下ろしていた。

 

「莫迦な…」

 

 あり得ない。本気の【千本桜景厳】であの程度しか斬れないなど。そして破面(アランカル)虚閃(セロ)如きでこの朽木白哉の卍解が押し切られるなど。

 

「なァに勘違いしてんだ? 今のはただの虚閃じゃねえ」

 

「…何だと?」

 

「こいつァ俺達十刃の血を触媒にした特殊な虚閃だ。てめえが散々俺の顔を掠ってくれやがったからな、勝手に血が混ざって発動しちまったぜ…!」

 

 巨獣の台詞にまたも目を見開く白哉。しかし彼が身構える間は許されず、その驚愕は形になった。

 

「おら、そんなに喰らいてえなら喰らわせてやるよ」

 

「ッ!」

──【縛道の八十一・断空】  

 

「親切に唇を切ってくれた礼だ…受け取りやがれ!!」

 

──王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)──

 

 先程の偶然発動した一撃とは天地ほども違う、絶大な威力の虚閃が敵の口より放たれる。

 咄嗟に展開した多重詠唱の防壁鬼道も秒と持たず、白哉は虚夜宮(ラスノーチェス)を両断する戦略規模の攻撃に呑み込まれた。

 

「ハッハハハハ! だがまだだ! 俺達十刃の切り札はこれだけじゃねえぞ!」

 

──王虚の閃弾(バラ・デル・レイ)──

 

 光閃が終わり荒れ狂う砂嵐の中へ向け、ヤミーが自身の破城槌のような拳を振るう。それと全くの同時、正面の煙が掻き消え更なる爆発が起きた。

 

「どうだァ!? スタークの野郎とも打ち合える、虚弾(バラ)に血を混ぜた十刃最速の攻撃だ! 虚閃と同等の霊圧に五十倍の速度! 俺の【憤獣(イーラ)】が放つこいつの連射は塵も残さねえ! オラ! オラ! オラオラオラァ!」

 

 その巨腕をどうやって伸縮させているのか、目にも留まらぬ正拳の連打から繰り出される神速の弾幕。戦艦の主砲弾の何倍もの質量が機関銃の如く砂塵の中の白哉に殺到し、射線上の全ては圧倒的な暴力に蹂躙された。

 

 

 永遠にも思えた破壊の暴風。無尽蔵なスタミナも流石に尽き、ゼーゼーと息を荒らげる怪物は大天蓋の地表部を半壊させた末、ようやく双拳を砂漠へ下した。

 

「ふぅ……あーぁ、やっちまった。後でぜってェ雛森さんに大目玉喰らっちまう…」

 

 散々暴れて怒りが収まったのか、辺りを見渡し指先でボリボリと頭を掻く"第0十刃"。

 その眼中に敵の死神達は最早なく、代わりにあるのは荒れ果てた虚夜宮(ラスノーチェス)の姿。これは下の十刃達の敗北責任以上に、王城破損の罰も受けさせられるのでは…とヤミーは冷や汗を垂らす。

 

 

 

「───その心配はないヨ、十刃」

 

 

 

 だがそんな、ある種呑気な不安に体を震わせる怪獣へ、嗄れた男声が投げ掛けられた。

 

「…なんだァ? また新手かよ、ホントうじゃうじゃゴキブリみてえな連中だぜ」

 

 振り向いた先には一人の死神。先程潰したあのトゲトゲ頭の奴以上に目立つ、青と金の妙な化粧をした男だ。

 

 そしてその死神が、同じく妙な事を口にした。

 

「なに、さっき現世の戦いが終わったと通達があってネ。敗残兵如きにこれ以上時間をかけていられなくなったんだヨ」

 

「……何だと?」

 

 ヤミーは男を踏み潰そうと構えた脚を思わず下ろす。そこで彼は、聞き捨てならない台詞を耳にした。

 

「私は忙しいんだ、一度しか言わないからよく聞き給え…」

 

 

 

───藍染惣右介が、討ち取られた

 

 

 

 一瞬、怪獣の思考が止まった。あまりに己の常識の外を指す言葉であったが故に。

 

「……は?」

 

「全く、図体通り鈍い獣だネ。もう君達を率いる男は居ないから、潔く降伏しろと言っているんだヨ」

 

 重ねて届く奴の言葉もヤミーの脳を混乱させるばかり。

 

 だが理解が追い付き一笑しようと怪物が口を開けた瞬間。死神の隣に、ぞろぞろと大勢の人影が現れた。

 

 

 

「───ほう、ここが虚圏(ウェコムンド)か…」

 

 

 

 小柄な女、犬顔、白髪の男、黒髭の男。全員が白い羽織を纏った死神、護廷十三隊の隊長達だ。

 

「…虚とはこのような地で暮らしておるのか。哀れなものだ」

 

「おお…狛村の卍解よりデカい奴が居るな。No.1のスターク以上の霊圧って事は、彼が藍染の切り札だったのか?」

 

「肩の数字を見る限りそうらしいねェ。それよりさっさと倒して回収された残りの破面達を探そう」

 

 続々と戦場に乱入してくる敵の援軍に、流石のヤミーも異常を悟る。王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)で殺したあの二匹を含め、単純計算で七匹もの敵の最高戦力が、我ら破面軍の拠点たるここ虚夜宮(ラスノーチェス)に集結していた。

 

 

「……此れで納得がいったじゃろう、十刃よ」

 

 

 そして最後の八匹目。悠然とした歩みで最前線に立ったのは、長い顎鬚の翁。

 

「藍染惣右介は打倒され…お主らの軍団長、雛森桃も我ら護廷十三隊が奪還した」

 

「! な、何だと!?」

 

「現在、護廷の隊長位にある者は十名。そして現世に控える二人を除いた全八名がこの地におる。ならば、涅隊長の言葉の是非を問う間は要るまいて」

 

 鋭い目を煌かせ巌の顔で見上げる老将。明らかに別格の、あの藍染惣右介にすら匹敵する存在感を放つ奴の言葉は、それだけで雄弁に真実を語っていた。

 

 嘘だ、そんなバカな。あのアホみたいに強かった雛森さんが。そんな彼女すら従える藍染さんが、あの神に等しい魔王が、負けただと?

 

「ふッ…ふざけんな、ハリベルはどうした! あの騎士かぶれが死神一匹殺せずに死ぬ筈がねえ!! バラガンのジジイも…スタークだって現世に行ってただろ! あいつらまでやられやがったのか!!」

 

「…左様。三者共に、十刃の名に恥じぬ見事な戦いぶりであった」

 

 馬鹿げた話に目の前が真っ赤になる。積もりに積もったその源たる感情が爆発的に膨れ上がり、怪物の中で、遂に何かがプツリと切れた。

 

 

「あ、ぁぁあのクカス共がアアアアアアッッ!!」

 

 

 それは怒り。

 度し難い程の怒り。

 

「な、何だあれは…!」

 

「デカい…」

 

 その姿を目にし、後退る死神共。

 

 顔面に角が生え、肉体は膨れ上がり、その八対の脚々は二つへ戻り、全身が猿鬼の黒毛に覆われる。

 帰刃(レスレクシオン)憤獣(イーラ)】に臨界点を超えた主の怒りが宿り、ヤミー・リヤルゴを天突く憤怒の化物へと変貌させたのだ。

 

 

「───てめえらゴミ虫共、全員…生きて帰れると思うなよ」

 

 

 怨嗟の唸りが化物の口から零れ出る。

 

「…止まれぬか、十刃」

 

「あァ? 誰にもの言ってんだ死神! てめえらが必死こいて倒したスタークもバラガンも、この俺様に取っちゃカスみてえなモンなんだよ!」

 

 怪物の霊圧が恐ろしいほどに膨張する。最早話し合いでどうにかなる段階ではない。それは護廷の誰もが覚悟せざるを得なかった。

 

「そうだ…俺が、俺が"十刃"だ! 他の雑魚共が居なくたって俺が居れば問題ねえ…! さっきぶっ殺した死神二匹みてえに、こいつらを潰せば…」

 

 そして"第0十刃"が巨大な足を擡げ、その大重量を力の限りで踏み下ろした。

 

 

「終わりだアアアアアアッッ!!」

 

 

 広大な虚圏(ウェコムンド)全域を揺らす程の大地震。周囲の建物が倒壊し、天蓋が崩れ、常夜の月光が偽りの太陽と共に虚夜宮(ラスノーチェス)の砂漠を照らす。

 強固に作られた地下十層の底までぶち抜く踏撃だ。殆ど死んだだろうと化物は喜悦に歯を覗かせた。

 

 …だが爆風で視界全てが砂に包まれる中、不意にヤミーの目が見覚えのある桜色を捉える。

 

 

 

「──てめえ如きが、一体」

 

「──誰を、殺しただと?」

 

 

 

 聞き覚えのある声。そしてそれが誰のものか思い出した直後、怪物が踏み下ろした脚に激痛が走った。

 

「なっ──ぐあああアアッッ!?」

 

 足裏が真っ二つに裂け、夥しい血が砂漠を赤に染める。思わず膝を突き屈むヤミー。その目の前に、二人の死神が立っていた。

 

「まァ、そっちのお坊ちゃんは確かに死に損なっただけみてえだがな」

 

「ほざけ。立つのも一苦労なのは貴様の方だ」

 

 全身が焼け爛れ、体のあちこちから血を流す半裸の男達。朽木白哉と更木剣八が黄泉の縁から舞い戻り、またもや怪物を前に立ち上がったのだ。

 

 そして瞠目するヤミーに更なる試練が訪れる。

 

 

「…万象一切灰燼と為せ

 

──流刃若火(りゅうじんじゃっか)──

 

 

 凄まじい熱量に体が震え、怪物は咄嗟に顔を上げ後退る。

 

 そして、そこでは途轍もない劫炎を斬魄刀に纏う、翁の死神が佇んでいた。

 

「孤軍と為りて尚も奮い立つ、敵ながら誠天晴。その忠道に免じ…」

 

 

 

 

 ────虫の息は、残してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

次回、十刃再結成篇完結ゥ!

 

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