捻りなしの全力投球。
「なるほど、君はチートが欲しいと言うのかね。」
車に跳ね飛ばされて死んだと思ったら(以下略)と言うありふれたテンプレ状況。
目の前にいる神様(だと思う)は確認を取るかのように僕に告げて来た。
「はい!」
詫び転生で「何か特典を付けよう」と言われたわけで。
要望を出すだけならタダだし。
「ふむ。」
そう言うと黙り込んで考え込む神様。
こちらも何も言わない。
決定権は向こうにあって、自分はお願いする立場でしかない。
「まぁよかろう。拒否する理由もない。
チート溢れる存在、所謂チーターとして立派に生きて行くといい。」
「ありがとうございます!」
神様が出した結論に、頭を下げてお礼を言う僕。
「ただ、君が思っているのとは少し違うかもしれんが………。」
え、それはどういう。
そんな事を思いながらも僕の意識は消えて行ったのだ。
とある夜。
一台のジープが全速力で草原をひた走っていた。
必死の形相で運転手はハンドルを握り、アクセルをベタ踏みで走らせている状況である。
「おいっ、もっと飛ばせっ!!」
「バカ野郎っ!これで全速だ!!」
助手席の男の大声に、それ以上の声を張り上げる運転手。
「来るぞ、来るぞ来るぞ来るぞっ!!」
後部座席から後ろを見ていた男が、暗視装置越しに<それ>が追いすがるのを見て悲鳴のような声を上げる。
それはまごう事なきチーターであった。
だが、車に乗ってる誰もがあれをチーターなどと思ってなどいない。
あれはチーターの姿をした怪物だ。
チーターは無数の銃弾を受けても平然としない。
象撃ち用のライフルの直撃弾を受けても物のともしない生き物はチーターではない。
チーターは車両を体当たりでひっくり返しはしない。
軽乗用車のようなちゃちい車両ではない。大型車両をだ!
チーターが速いのは理解している。
しかし、1Km以上先から瞬きする間に距離を詰めるようなスピードは持っていない!
なら今、絶望的にも思える逃避行を繰り広げてるのかって?
遊ばれてるのだ!!
狡猾ではないが残忍な悪魔!
草原の怪物!
密猟者たる彼らとて話だけは聞いていた。
曰く、
・彼の(大変広大と言われている)縄張りに入った瞬間には目を付けられている。
・この国を植民地にするべく侵攻してきた某国の陸軍はこのチーター一匹によって壊滅した。
・某国がこの国の侵攻を断念したのはそのチーターが海を渡って某国首都に上陸、
軍の要職についていた面々を皆殺しにした為
・とある金持ちがPMCまで雇って捕獲に乗り出したが金持ち「以外は」全滅した。
(その後、彼は動物愛護に全力を尽くす事になる)
・この国のバカ王族が最新鋭の戦車を持ち出してチーターに挑んだが、
装甲を斬り裂かれ噛み砕かれ完全にスクラップにされた挙句、
乗っていた王族は丁重に自宅まで送り返された。
・ヘリコプターを用いて空中からぶっ殺してやろうとした密猟者がいたが、
ヘリコプターをぶち破る勢いで飛び込んできたチーターに撃墜された。
(なお、墜落したヘリは爆発炎上した物の、チーターは無傷だった模様)
信じられるわけがない。
質の悪いクソ映画でももうちょっとマシな話の盛り方するぞオイ。
そんなわけで「地上の楽園」とも言えるこの地で「仕事」を始めようとしたのだ。
初日で壊滅である。
生きてるのは自分達だけ。
こんな事なら止めておけばよかったと後悔しても後の祭りである。
何せ、チーターの体当たりが彼らの車に炸裂し、派手に横転して転がったのだから。
横転した車を獣のような-いや、チーターなんだけど-目で見つめる彼。
まごう事なきチーターである。
サイズも標準的なら、見た目も全くのチーター。
どこに出しても恥ずかしくないチーターである。
「チートだけどさぁ!チートだけどさぁ!!」
チート溢れるチーターとなった彼の叫び声は、獣の叫び声であるが故に、
誰にも理解される事なく夜空に響き渡る。
文字通りの弱肉強食の世界を、悠久の時を経て生き続けてこれたのは神様転生チートのお陰だし
平穏無事なスローライフを送って来れたのも神様転生チートのお陰、
スローライフを邪魔する奴をてってー的にボッコボコにできるのも神様チートのお陰なので、
不満は言いたくない。
罰が当たる。
だけど。
毎度毎度こういう事が起こる度に、自分が自分として生きて行くために
こうするしかないと分かってるとは言え。
こう言わざるを得ないし、精神衛生的に叫びたくもなるのだ。
「誰がチーターにしろって言ったんだよぉ!!」
たぶん、どっかで誰かが既にやってる。
反省はしない。