月に吠える   作:光政

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16話 笑顔が似合う日

「「あっ」」

 

 登校してからジャージに着替え購買の自販機に飲み物を買いに行くと霞ヶ丘先輩と鉢合わせた。倫也を介してしか会話をしたことがないためどことなく気まずい。

 

「先輩って意外と早く登校してるんですね」

 

「いつもはギリギリよ、ただ今日は体育祭で着替えなきゃいけないじゃない。だから早く来たのよ」

 

「ああ、なるほど」

 

 先輩が言った通り今日は体育祭。全員参加の競技だけでなく組対抗リレーに選ばれたこともあり珍しくやる気に満ち溢れていた。

 

「先週に行われたテストはどうだったの?」

 

「自分と加藤はまあまあの出来で倫也と澤村はちょっと悪かったみたいです」

 

「そう、澤村さんはともかく倫理君も悪かったのは少し意外ね」

 

「倫也はテスト勉強の合間に観たアニメを最終話まで一気見したからとか言ってましたよ」

 

「彼らしいわね」

 

「先輩勉強見てあげたほうがいいんじゃないですか?」

 

「……どうしてそうなるのかしら?」

 

「頭いいし、それに……」

 

「それに?」

 

「倫也に接近できるチャンスじゃないですか」

 

「……気がついてるのね」

 

「まあ……見てれば。気がついてないのは本人くらいじゃないですか?」

 

「ふう、どうしたものかしらね」

 

「俺みたいなオタクにリアルの彼女が出来るわけがないってギャルゲーやりに行った時に言ってたんで、もっと直接好きって表現しないと伝わらないかもですね」

 

「それが出来たら苦労しないのだけれど。とりあえず……」

 

 伏し目がちに意を決したように先輩は口を開く。

 

「倫理君がどの競技に出るか教えてくれないかしら?」

 

 

 ──

 

 

「澤村さん大丈夫?」

 

「何でこういう日に限ってあの日なのかしら」

 

「先生に言って見学にしてもらったら?」

 

「うーん……でも出るのは2種目だけだし頑張ってみるわ」

 

「辛かったら言ってね」

 

「ありがとう加藤さん」

 

 何となく顔色が優れないような気がして声をかけたのが正解だった。

 

「倫也が出るのは100m走と借り物競争だけなのよね?」

 

「うん、共通競技だけって言ってたから間違いないと思う」

 

「お互い見逃さないようにしないとね」

 

「そうだね、安芸君って運動できるの?」

 

「人並みにはね、運動音痴ってことはないわよ」

 

「少し意外かも」

 

「須藤はもちろん出来る部類よね」

 

「組対抗リレーに選ばれて珍しく張り切ってたからね」

 

「大丈夫? あいつ新入生から声かけられたり手を振られるっていうのをよく見るわよ。今日でもっと注目集めるんじゃない?」

 

「もう……考えないようにしてたんだから」

 

 一緒に帰るときもよく新入生らしき女子達から名前を呼ばれてるのを見るので嫌というほどわかっている。私の主観を抜いても彼はカッコいい部類に入る、それも10人に聞いたら10人がそう答えるくらいに見た目がいい。

 

「あっそういえば倫也の家でギャルゲーをやったときにポニーテール好きに目覚めたらしいわよ」

 

「須藤君が?」

 

「エンディングで髪を下ろしているヒロインがポニーテールにしてたからって倫也が言ってたわよ」

 

「長さ……足りないなぁ」

 

 後ろの髪を軽く手でまとめてみたけど理想とする長さには程遠いと溜め息を漏らす。

 

「心配しなくても夏休みに入る頃くらいには出来るようになるわよ」

 

「うん、そうだね」

 

 澤村さんが言った通り長い目で見よう、アピールするチャンスはまだあるはずだ。

 

 

 ──

 

 

『続いては二年男子の100m走です』

 

 放送委員のアナウンスが流れ二年生の男子達が移動していく。須藤君と目があったので小さく手を振ると彼も振り返してくれて心が弾んだのがわかった。

 今日はまだ話せていないのに少し満足してしまう。

 

「「須藤せんぱーい!!」」

 

 おそらく新入生が彼に対してエールを送っているのを見て羨ましく思った。私もあれくらい公に声をかけたりアピール出来ればいいのに。

 走る順番は背の順なので高い部類である彼は必然的に最後のほうになる。早く出番にならないかなと思いながら見ていると後ろから急に話しかけられビクッとなってしまった。

 

「びっくりした、澤村さんか」

 

「倫也2位だったわよ、運動部もいたし大健闘ね」

 

「あっそうだったんだ」

 

「仮にも同じサークルなんだからちょっとは応援しなさいよ」

 

「遠くからじゃわからないよ、競技中は眼鏡もかけてないし」

 

「あなたは須藤に夢中だもんね」

 

「それは否定できないけど……、それより体調は大丈夫?」

 

「あまりよくないわ、でも競技中以外は休めるし授業があるときよりはましかも」

 

「そっか。……あっ次の次で出番だ」

 

「見るのはいいけど逆に走っている姿見られるのって恥ずかしくない?」

 

「そうだよね、変な顔になってないかなとか色々と考えちゃう」

 

 ようやく須藤君の順番が回ってきて本人より私のほうが緊張しているのではないかというくらいドキドキしてきた。

 

「位置について、よーい……」

 

 合図係の先生の声とピストルの音がやけにハッキリと聞こえて時間が止まったように感じた。

 数秒後、周りよりも体一つ分前に出るとどんどん加速してついには大きく引き離してゴールをする。

 ──カッコいいなぁ。

 

「やっぱり須藤は一位だったわね」

 

「うん、カッコよかったね」

 

「はいはい、次は私達の番なんだから準備するわよ」

 

 そう言うと澤村さんは自分のクラスの場所に戻っていった。余韻に浸りつつゴールして一位の列に並んでる彼を見ていると目が合って、ずっと見てたのがバレたかなと少し焦っていると小さくVサインを送ってきたので小さく手を振ってそれに応えた。

 

 

 ──

 

 

「借り物競争で好きな人ってお題があるのは二次創作の世界だけだよな」

 

 2年女子の80m走が終わったあとに行われる借り物競争の準備中に倫也がそう呟いた。

 

「そんなお題あるわけないだろ」

 

「あるんだよ、アニメや漫画では鉄板だ」

 

「それで進展とかあるの?」

 

「あるのは見たことないな、お題は何だったの? 仲がいい友達だったよ! っていう会話までがセットだな」

 

「ふーん、確かに現実的に考えて学校行事でそんなのあるわけないしな」

 

 倫也と話していると加藤の出番が回ってきて白のバトンを持ちながらゴールしていたのでおそらくお題は白いものとかなのかなと推測する。

 

「借り物競争ってあんまり好きじゃないんだよなぁ」

 

「なんで?」

 

「脚の速さで順位が決まらないじゃん、運も必要だし」

 

「須藤くらい速かったらそう思うのかもな。でもその運を含めて楽しむのが借り物競争の醍醐味じゃないか?」

 

「そう言われたら返す言葉がないな」

 

 苦笑いをしながら倫也を見送る。会話にあったように運が良かったからか無事に一位になっている姿を見て思わず渇いた笑いが出てしまう。

 すぐに自分の出番がきて、スタートをしてお題のかかれた紙を手に取り開く。

 

『仲がいい友達』

 

 そのお題に俺が友達のいないボッチだったらどうするんだと少し笑う。そしてすぐに最初に顔が浮かんだ人のもとへ走る。

 

「加藤!」

 

 手を伸ばすと加藤が少し目を見開き驚いた表情をする。伸ばした手を掴んで彼女のスピードに合わせてゴール、2着だった。握った手の柔らかさに内心驚いていると当の本人は握っていない側の手を胸に当てて口を開いた。

 

「びっくりした~」

 

「ごめんな、突然」

 

「ううん、大丈夫だよ。お題は何だったの?」

 

「仲がいい友達だったよ」

 

「そうなんだ」

 

「最初に加藤の顔が浮かんだからな」

 

「安芸君より上ってこと?」

 

「当たり前だろ、年月が違うよ」

 

「そっか、ふふ」

 

 はにかむように笑うなんて珍しいなと思いながら2着の列に並ぶ。初めて借り物競争を悪くないなと感じた。

 

「あ、そういえば」

 

「どうした?」

 

「ポニーテールに目覚めたって本当?」

 

 全く、誰に聞いたんだか。

 

 ──

 

 

 最後の種目である組対抗リレーまでやることがないなと思いながら飲み物を口にすると空になったので捨てるのと一緒に自販機で買おうと思い購買に向かう。

 

「どうした? 浮かない顔して?」

 

「なんだ須藤か……」

 

「なんだとは失礼だな。一人でいるし珍しいなと思って声をかけたんだよ」

 

「ちょっと体調が優れなくてね、飲み物を買いに来たのよ」

 

「大丈夫か?」

 

「もう出場競技もないしゆっくり休むわ」

 

「そっか」

 

 自販機にお金をいれて水を買って口にする。渇いた体に沁みるのを感じる。

 

「澤村は何も飲まないのか?」

 

「……買いに来たんだけど財布を忘れちゃって。戻るのも手間だし少し休んでたの」

 

「立て替えようか?」

 

「……お言葉に甘えようかしら」

 

 てっきり断られるものだと思ってたから少し驚きつつ飲み物を買う。

 

「ありがと」

 

「気にすんな」

 

 自分の飲み物を再度口にする。もう少しでリレーが始まるので水分補給はここで打ち止めにして競技に備えて軽く準備運動でもしてこようかな。

 

「じゃあ澤村、俺は戻るから」

 

「……」

 

「澤村? おい大丈夫か!」

 

 

 *

 

 

「……」

 

 知らない天井だ。有名な台詞だけどまさか自分が言う立場になるとは思わなかった。

 

「あっ英梨々大丈夫か!」

 

「倫也……」

 

「倒れた英梨々を須藤が保健室まで運んでくれたらしい。体育祭は終わって今は放課後だよ」

 

「そっか、あいつに飲み物を買ってもらってそのまま倒れたんだ」

 

「体調は大丈夫か?」

 

「うん、倒れる前よりも調子はいいかも」

 

「先生が言ってたけどおじさんとおばさんには連絡がいってて車で迎えに来るって」

 

「そうなんだ。……ところで他のみんなは?」

 

「須藤はバイトがあるからって帰って加藤と詩羽先輩は視聴覚室でサークル活動してるよ」

 

「倫也は活動してなくて大丈夫なの? ……それとも私のことが心配だったとか?」

 

「英梨々のことが心配なのは当たり前だろ。他の三人が目覚めたときに俺がいたほうが安心するからって、どういうことなんだろ?」

 

 倫也が心配してくれたということと三人が気を遣ってくれたことが嬉しく赤面してしまいそうになったので手元の布団で顔を少し隠す。

 

「あとこれ飲み物。水よりはスポーツドリンクのほうがいいかなと思って」

 

「ありがと」

 

「なんか大人しくて英梨々らしくないな、早く元気になってくれよ?」

 

「ちょっとどういう意味よ」

 

 私がそう言うと二人して顔を合わせて笑う、久しぶりにゆっくりと話が出来ている気がした。

 

「あっそうだ、加藤さんを呼んできてもらっていい?」

 

「加藤を? いいけど……どうして?」

 

「女の子同士の会話があるのよ」

 

 

 

 

 

「澤村さん大丈夫?」

 

「ええ、大分良くなったわ」

 

「よかった~」

 

「ごめんね、好きな人が別の女子を助けるなんて嫌な気持ちにさせちゃった」

 

「ううん、澤村さんが無事でよかったよ。それにここで助けなきゃ須藤くんらしくないというか……全然気にすることじゃないよ」

 

「ありがと……」

 

 須藤に運ばれたと聞いて感謝の気持ちの次に加藤さんに申し訳ないという思いでいっぱいになったのでその言葉を聞いて安心する。

 

「もう少しでお迎え来るって言ってたから荷物取ってくるね?」

 

「あっそれならベッドの横にあるから大丈夫よ、ありがと」

 

「そっかぁ」

 

「……あ、あのさ!」

 

「どうしたの?」

 

「同級生とかをさん付けで呼ぶのって私の偽装お嬢様キャラなのよね」

 

「あ、そうなんだ。でも確かに安芸君や須藤君、霞ヶ丘先輩も呼び捨てだもんね」

 

「そうなのよ、私はただの絵描きで……ただのオタクなわけで……」

 

「あんなに上手な絵を描く人をただのオタクというのはちょっと……」

 

「ちょっと! 茶々いれないでよ」

 

「えぇ……」

 

「それでお互い好きな人にアタックするために助け合う同盟も組んでいるわけで」

 

「その件はすごい助かってるよ」

 

「それで、何を言いたいのかというと……」

 

「うん」

 

「名字で呼び合うなんてよそよそしいと思わない? お互いの好きな人も知ってるのに」

 

「澤村さん……」

 

「だからさ、恵って呼んじゃダメかな?」

 

「……」

 

 どうしよう、この言い方でよかっただろうか? オタクらしさが出てしまって気持ちの半分も伝わってないかも。

 

「え、ダメ?」

 

「……英梨々でいいんだよね?」

 

 名前を言われて思わずにやけてしまう。本当の意味での友達から名前を呼ばれるというのはここまで嬉しいものだったとは。

 

「……ありがと、恵」

 

「英梨々みたいな人をツンデレっていうんだよね?」

 

「須藤もあんたも倫也に変な影響受けすぎよ、知識も変に片寄ってるし」

 

「それでまた英梨々に相談があるんだけど……」

 

「なになに? 恵の言うことなら何でも聞くわよ?」

 

「本当? ……実はバレンタインの日が須藤君の誕生日だったんだけどチョコを渡して満足しちゃってプレゼントを渡しそびれちゃったんだよね、どうやって渡せばいいのかな?」

 

「……」

 

「英梨々?」

 

「その願いは私の力を越えているわ……」

 




2話ほどボツにしたので若干期間が空いてしまいます。
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